え?蟲師の世界じゃないの?   作:ガオーさん

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およそ遠しとされしもの.

下等で奇怪. 見慣れた動植物とはまるで違うと思しきもの達.

それら異形の一群を、人は古くから畏れを含み. いつしか総じて「蟲」と呼んだ。



転生したらシシガミの森だった件…え、違う?


 今日から日記を書くことにする。

 

 一体どうしてこうなったのか、気が付いたら森の中で倒れていた。

 地面は緑のコケが生い茂り、木々は「大木」という言葉では言い表せないほどの太く高い大樹が何本も何本も生えている。

 少し進んでいくと川が流れており、その川の水がとんでもなく澄んでいる。

 人の手が加えられていない、神秘の森。

 その神秘的な風景を見た俺は、こう思った。

 

 

「えっ。ここシシガミの森?」

 

 

 ここで俺のことについて紹介しよう。

 

 俺は、どうやら異世界転生とやらをしてしまったらしい。

 前世は確か大学生だったはずだ。前世の死因は分からぬ。けれど、いつの間にか身体が縮んでしまっていた。現在の体格は推定で7,8歳。

 ひょっとして見た目は子供頭脳は大人な名探偵がいて1週間に一回は殺人事件が起きる世界に転生してしまったかと思ったが、コナンの世界にこんな森はない。

 それに、この森の風景はなんとなく覚えている。

 前世で大好きだったジブリのアニメの世界。

 よりにもよって人がバッタバッタ死ぬ「もののけ姫」の世界に。

 

 …………ノォォォォォォォオオオ!!

 

 その時の俺は、思わず頭を抱えて叫んだね。よりにもよってもののけ姫かよ。人よりでかい猪の群れとかちょっと触っただけで命を吸い取っちゃう神様がいる森に入っちゃったのかよ!こんな物騒な森は早い所燃やすべき。

 

 でもすげえ綺麗な森だしなぁ……。

 ていうかすごい空気が美味い。

 マイナスイオンがすごいありそう。

 

 こんなに美しい森を燃やすのはさすがに…ね?

 

 それは最終手段にしておいて、とりあえず現状をなんとかせねば。

 戦争に巻き込まれるなんて冗談じゃない。俺はのんびり平和に暮らすんだ!

 とりあえず、水を呑もう。喉乾いたし、腹も減った。御飯探して、今日の寝床を確保して、それから考え…………。

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 なんで俺の髪の毛、こんなに白いの?

 

 しかも右目、なくね? なんか黒いどんよりした何かに覆われているような……なんというか、目ん玉の中にとにかく『闇』としか言いようがない黒い影を詰め込んだような。

 

 それに、なんで俺の左目、こんな綺麗な翠色で――

 

 

 

 

 バチリ

 

 

 

 

 

 脳裏に浮かぶのは、闇。

 

 

 上も下も右も左も、全てが闇。常闇だ。

 

 

 闇の地面を泳ぐ、大きな魚のような何か―――

 

 山椒魚(さんしょううお)(なまず)? いや、それとも違う。

 

 銀色に光るそれは、地上にはない妖の光―――

 

 この世ならざる者の光。

 

 確か、この《蟲》の名は―――

 

 

 

 

 

 

 

「銀蟲……」

 

 

 

 

 

 え? この宙に浮かんでいる、半透明なのは蟲?

 

 

 えぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

「俺、蟲師の世界に転生しちゃったの?」

 

 

 

 

 

 ジブリかと思いきや蟲師の世界だった件について。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を閉じると、瞼の裏が見える。

 目はまだ閉じられていない。

 瞼を通って、陽の光がちかちかと見えた。

 

 私はそっと、「二つ目の瞼」を閉じた。

 

 そうすると、上の方から本当の闇が降りてくる。

 

 どんな光も遮る瞼。

 

 鬼舞辻の呪いに冒されたこの身体は、いずれ私から視力を奪い、地面に立つ力さえも奪うだろう。

 

 けれど、いずれ何もかもが見えなくなっても、この光景だけはずっと目に焼き付けたい。

 

 闇の中に浮かぶ、光る河。

 

 それはまるで蛍のような淡く、優しく、神秘的な光を持った河。

 

 幼い頃から、私はこの河をよく眺めていた。

 

 生まれつき身体が弱く、刀もまともに振ることができない私に許された、唯一の遊び場。

 私以外、誰もここには来られない。静かで、何時間でもこの河を見ていられる――

 

 ああ、もっと近くで観たい――

 

「おい、アンタ」

 

「――――!」

 

 

 河の向こう岸に、誰かがいる。

 

 少年だ。髪の毛は白く、片目がない。西洋の服を着た、どこか虚ろげな雰囲気を持った少年だ。

 

 歳は私と同じぐらいだろうか。どうして、私以外にここに来られるはずはないのに――。

 

「その河にそれ以上近付いちゃいけない。目を喰われるぞ」

「――ご忠告、ありがとう。君はこの河について何か知っているのかな?」

 

 そう尋ねると、少年は呆れながら答えた。

 

「この河は命そのものだ。地底奥底に流れる、全ての命の源。森も、動物も、蟲も、そしてあんたも、ここから生まれるんだ」

 

 命そのもの。

 

 そう言われて、私はああ、なるほどと納得した。

 

「そうなのか。どうりでこんなに美しいんだね……」

 

 私はほっと息を吐いた。

 

「ところで、君の名前は?」

 

 

「俺か? 俺はギン」

 

「そうか、ギンというのかい。私は産屋敷。産屋敷耀哉と言う。君の話を、もっと聞かせてもらってもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからもうすぐ1年が経つ。

 この森で暮らし始めてから、もう大分経ったなぁ、時間の流れはえぇー。

 

 この1年間で俺のDIYやアウトドア技術は格段に飛躍したと言っても過言ではない。今では全人類の男の子の夢である自作のツリーハウスで暮らしているほどだ。

 

 いやまあ最初はめちゃくちゃ大変だったけどね!倒れた樹を運んだりだとか植物でロープを作ったりだとか!

 最初は野宿は当たり前、毒キノコを食べてしまって一日中腹を下したりだとか、慣れない木登りで落っこちてしまったりだとか。

 試行錯誤しながらの生活だったので、いつ死んでもおかしくはなかった。けれど、そんな時に助けてくれたのが、この森のヌシだ。

 

 どうやらこの森は光脈筋に当たる場所のようだった。そりゃこんな馬鹿でかい森、光脈筋じゃなきゃなんだって言うのか。

 

 しかもこの森の光脈筋はおそらく通常の物より馬鹿でかい。

 瞼の裏を閉じて見てみた所、自分の足元に流れていたのはアマゾン川なんじゃないかって思えるぐらい太くでかい河だったのだ。

 

 

 光脈筋。命が生まれた瞬間から、あるいはそれより前から地中深くに流れる命の水脈。

 目に見ることはできないが、蟲に近い存在や蟲を見ることができる者、あるいは瞼の裏に行ける者のみが、この河を見ることができる。

 その光脈が流れている土地を、光脈筋と呼び、その土地は緑が溢れ、人々の生活が豊かになる。

 樹や植物は通常の土地よりよく育ち、動物達はあれよあれよと増え続ける。そういう強い影響力を持つのが光脈だ。

 

 そしてその光脈筋を管理するのが、ヌシである。

 

 光脈筋は生気が溢れ続ける為、それを調節、管理するのがヌシの仕事。主、とは言っても人間が管理しているのではなく、管理しているのは身体に草を生やした動物だ。いや比喩ではなく。本当に身体に植物を生やしている。

 

 この森のヌシはシシガミの森と同じく鹿でした。

 僕は捕えました、角を。

 そうだよね。シシガミの森なんだからヌシも鹿じゃないとね。

 シカでした。

 

 いやでっけええええええええええ!

 ツノでっけええええええええええ!

 

 まじでかいんだって。ひょっとしたらシシガミ様よりデカイよこのヌシのツノ。そしてツノは全体を覆うように草が生えてるんだって。もうめっちゃ怖い。

 唯一の救いは顔がアルカイックスマイルな人間面ではなく普通のシカなところでしょうか。

 最初は「食べられるかなぁ?」と思ったけど、よくよく考えたら動物の捌き方なんて知らないし、食べようとしたら逆に命を吸い取られそうなのでやめてます。

 

 それを理解してくれたのか、最初は俺のことを警戒していたらしいこのシカも最近は自分になついてくれている。よくほっぺたをぺろぺろしてくれます。

 

 なので、このヌシ様には「シシガミ様」と呼ぶことにしています、かしこ。

 

 しかもこのシシガミ様、俺の言葉を理解しているらしく、いろいろなことを教えてくれたのだ。

 

 食べられる植物、木の実。雨風をしのげる寝床のこととか、火の起こし方とかいろいろなことをだ。

 なんで動物の言葉が分かるかって?

 

 それは、ある蟲のおかげである。

 

 

――ムグラ、と呼ばれる蟲がいる。

 

 

 その蟲の見た目はただの黒い紐だが、山や森の地面全体に根を張る、人間の身体で言う神経のような存在だ。その蟲と感覚を同調させれば、ムグラが根を張ったその土地一帯のすべての様子を知ることができる。原作の蟲師のギンコさんは、この蟲に意識を潜らせるムグラノリという技術を使っていたが、これはその応用のような物だ。

 

 いや、応用というか、一種の事故というか……

 なんとこの蟲、俺が寝ている間に口の中に入ってしまったのである。

 

 いやぁ、あの時はまいったね。夢見心地で眠っていたら、途端に森中の情報が頭の中に流れ込んできたんだもの。植物や蟲、大樹や動物達や昆虫達の視界や感覚が一気に頭の中に入ってきて……いやぁ頭が爆発するかと思ったし目が覚めた瞬間その情報量に耐え切れずすぐに気絶しちゃったしね。

 

 そして目が覚めた時には森の中に住む動物や植物達の心が分かるようになっていた。

 

 ヌシであるシシガミ様の言葉が分かるのも、そのムグラのおかげ、というわけだ。とは言っても、まだまだ情報処理に頭が追いついておらず、シシガミ様の言葉を全て理解することはできていない。

 先も言ったが、この森はおそらく通常の光脈筋より馬鹿でかい。

 その大きさに比例して、森の樹は樹齢千年は超えてるんじゃないかってぐらいでかいし、蟲も数えきれないぐらい多い、動植物たちも尋常じゃない数が繁殖している。

 それに合わせて、この森にいるムグラの数も尋常じゃないぐらいいるのだ。

 

 そのムグラたちの情報を、1人の人間の頭にぶち込めば……まあ、オーバーヒートするよね。

 

 けれどこの森で暮らしながら、この森の植物や木の実を食べているうちに徐々に分かることも増えてきている。多分、動植物たちにも僅かながらムグラが宿っており、それらを食べることでどんどん体内にムグラを蓄積しているのだろう。現に、ここの物を食べれば食べるほど、たくさんのことが理解できるようになっている。

 もっとここにいればそのうちもののけ姫のサン並に動物語がぺらぺらになれるかもしれない。おいでよ、シシガミの森。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ところで、シシガミ様に教わったこの「呼吸法」、滅茶苦茶辛いんですけど。走り込みとか、木登りとか、これ毎日やらないとだめなの?死んじゃうよ?

 

 ―――鬼がいるから?

 

 HAHAHA、シシガミ様もご冗談がお上手で。ここにいるのは蟲でしょ?いくら筋肉を鍛えても蟲にはあまり意味が――え?本当に鬼がいる?

 

 

 ……まあその鬼も多分蟲でしょ(適当

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この森に流れ着いてから3年目。

 

 

 「全集中の呼吸・常中」をしながら瞼の裏を覗いていたら、河の対岸に綺麗な羽織を着た男の人が立っていた。

 

 名前を産屋敷耀哉というらしい。

 自分の名前も聞かれたが、咄嗟に「ギン」と答えてしまった。

 

 ギンコ、にするべきだっただろうか。でも蟲師のギンコ先輩に俺がなぁー名乗るのはなぁーってことで、ギンと名乗ることにする。

 

 産屋敷の歳は俺と同じぐらい。なんでもお偉い貴族の当主らしい。

 

 若いのに大変だねぇー偉いねぇー。でもなんでこんな常闇の河の所に来てるの?って聞いたら、

 

「ある事情でね。身体が動かないんだ」

 

 と答えた。どうやら病持ちらしい。

 自分達の一族は身体が生まれつき弱く、まともに身体を動かすこともできない。ちょっと運動しただけで息切れし、一族の者全員が短命なのだと言う。

 

 一族が皆短命……

 

 俺はそれ以上何も聞くことはできず、気まずい空気に耐え切れなくなった俺は話を切り上げようと瞼を開こうとしたら、「ギン、せっかくだからまた話し相手になってくれるかい」と産屋敷は俺にそう頼んできた。

 

 

 ――まあ、いいか。せっかくここに転生してきてから初めて会えた人間だし。

 

 

「ああ。友達になろうか、耀哉」

 

 そう言うと、耀哉は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「嬉しいよ、ギン。友が出来たのは生まれて初めてだ」

 

 

 

 

 前略、シシガミ様。生まれて初めて友達ができました。

 

 

 

 

 




蟲師用語図鑑


"光脈筋"



 地下深くに流れる、生命の源である"光酒"の川のことを光脈と呼ぶ。
 普通の人間に視認することはできないが、血管のように大地の下を巡りまわっている。この川の真上にある土地を光脈筋と呼び、その土地は生気に溢れ、多くの蟲が集まる。また、光脈筋の山や森は豊かになり、動植物が多く繁殖する。



"瞼の裏"

 原典『原作蟲師第一巻』瞼の光(まぶたのひかり)より

 瞼の裏に、もう一つの瞼があり、それを閉じれば本物の闇と、光酒が流れる光脈を視認することができる。瞼の裏は現世とは隔絶した空間で、瞼の裏を閉じ、そこに入ることができる人間は限られる。
 大昔、人間は光を手に入れた頃から二つ目の瞼を閉じる方法を忘れてしまったと言う。しかし、瞼の裏で光脈を見続けると目を潰される。
 かつてはその光に魅入られ、多くの者が瞼の裏に行き、目を潰してしまったと言う。

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