え?蟲師の世界じゃないの?   作:ガオーさん

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日輪の石

 

 

 杏寿郎、ギン。

 

 よく考えるのです。私が今から聞くことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し巻き戻り――

 

 

「あったぞ!列車だぁ!」

「むっ!むっ!」

 

 線路の上を猪突猛進で突き進んでいた伊之助と禰豆子は、ギンが斬り離し、停車していた車両を発見する。

 まだ鬼はこちらに来ていないようで、鬼の気配はしない。

 

「よっしゃぁ!俺様が一番乗りだ!」

 

 伊之助は扉を突き破り中の様子を確認する。乗客たちはまだ眠っているようだ。こんな時に暢気に眠りやがってと少しイラついたが、すぐにそれを収め、車内を一通り確認する。

 

 あのヤロー……俺様が眠っている間に、乗客全員をこっちに移していたのか。

 

 伊之助の脳裏に浮かぶのは、伊之助が「白髪ヤロー」と呼ぶ鹿神ギンだ。

 

 

「なるほど、懐かしい」

 

 伊之助がギンと初めて邂逅したのは、蝶屋敷に入院していた時のこと。那田蜘蛛山で負傷し、冨岡義勇にすんでの所で命を救われた。だが、山で鍛え、弱肉強食の世界で生き延びた伊之助にとって、その戦いは己の自信を簡単に打ち砕く物だった。

 

 圧倒的な強さで己を瀕死に追い込んだ鬼。

 そしてその鬼を簡単に殺した、冨岡義勇。

 

「修行をし直せ、戯け者」

 

 自分は強いはずだった。その為に刀を手に取った。我流で剣を鍛え、身体を鍛え、何匹もの鬼を殺した。

 けれど、届かない強者がいる。遥か高みにいる強者が、今まで最強だと信じていた己が見上げるしかない存在がいた。

 

 自分より強い奴がいるはずがない。自分が最強。自分が一番強い。

 

 そう信じていた己の真理は、粉々に打ち壊された。

 

「……随分とへこんでいるようだな」

 

 そいつからは、懐かしい気配がした。

 山のような、森のような、獣のような。そんな気配。昔生まれ育った山の中を思い出す。

 

「……誰?」

 

 動く意欲は一切湧かなかった。勝てない奴は生きている意味がない。そう思っていた。だから、蝶屋敷の面々にあれよあれよと着慣れぬ入院服を着せられ、注射をされ、手当てをされた。

 喉の痛みはすぐに引いた。けれど、傷は癒えても自身の誇りは傷ついたままだった。

 

「俺は、鹿神ギンと言う。その被り物、どこで手に入れた?」

「…………」

「その被り物を見ていると、森に居た頃を思い出す。さぞ立派な猪だったんだろう」

「…………?」

 

 伊之助が被っている猪の被り物は、彼を育てた母猪の毛皮だった。自分は猪の子。山のヌシの子。

 猪の毛皮を被るようになったのは、自分も猪でありたかったからだ。自分も強くありたかったからだ。

 

 固い毛皮、樹も削る強靭な牙、そして全てを押し退ける突進力。

 

 何年も被り続けている猪の毛皮が壊れないのは、伊之助を育てた母猪が光脈筋を管理するヌシだったからだ。光脈筋で生まれ育った猪のヌシの毛皮は頑丈で、破れない、腐敗もしない特殊な毛皮だったのだ。

 

 そんな自分の被り物を、いや、自分を育ててくれた猪を褒めてくれたからか、伊之助の心にまたほわほわした気持ちが溢れだした。

 

 炭治郎に頼られた時、褒められた時、認められた時に生まれる暖かい気持ちだった。

 

「俺を……育てた猪だ……」

 

 そんな気持ちからか、伊之助はぽつぽつと語り出した。ギンはそれを茶化そうともせず、真剣に話を聞いていた。

 

「奇遇だな。俺も獣に育てられたんだ。と言っても、猪じゃなくて鹿だがな」

「鹿……」

「俺は森で、その鹿のヌシに育てられたんだ。しのぶにも話してないんだぜ?これ。大抵信じてくれないからな。だが、同じ自然の中で生きてきた者同士、親近感が湧くよ、どーも。他人だとは思えない」

 

 白髪ヤローはそう言って笑った。

 今まで俺のように、森や山で生まれ育った奴と出会ったことはなかった。 

 だからこいつから、こんなに懐かしい感じがするのだろうか。

 

「鬼に負けて悔しいんだろう。自分の弱さに打ち負かされるのはきついよな。だがお前はまだ若い。生きていれば勝ちなんだ。今は牙を研げ。力を磨け」

 

 

 そうすりゃ、お前は何にだってなれる。

 

 

「……くっそがぁ!」

 

 気に喰わない。気に喰わない。その言葉を思い出すたびに、胸の奥が燃えるように熱くなる。痛いぐらいに心臓が跳ねる。

 やってやるという気持ちにさせられてしまう。

 俺様が強いのは当たり前だろうが。だがもっと強くなってやる。いつかヌシのように!山の王に!白髪ヤローのように!

 

 蝶屋敷で、ギンに何度も戦いを挑んだ。だが、その度に跳ね返され、力の差を見せつけられた。だが、それでも追い付きたい。自分の方が強いのだと証明したい。

 

 ――突如現れた上弦の壱。それが異次元の強さを持っていることは、すぐに分かった。

 今の自分では間合いに入ればすぐに殺されることはすぐに理解した。

 助太刀に入った所で足手まといにしかならない。

 

「ああチクショウ!」

 

 だが、その悔しさを伊之助は歯を食い縛って耐える。

 

 ――生きていれば勝ちなんだ。牙を研げ。力を磨け。

 

 少し前までの伊之助なら、上弦の壱へ無謀に突進しただろう。だが、その足を止めさせたのはギンの言葉だった。

 

 ――生き残れば勝ちなんだろう!なら、あんな奴に負けるんじゃねえ!

 

 耐え忍ぶ。

 

 自分の弱さを噛み締めながら、力を付ける。それが伊之助がギンから学んだ事だった。

 伊之助は車両の屋根の上へ飛び跳ね、辺りを見渡す。

 

「伊之助ー!」

 

 すると、遠くから声が聞こえた。

 

「おっせーぞ権八朗!善蜜!俺様がここに一番に辿り着いた!崇め奉れ!」

「大丈夫か!?怪我をしてないか!?」

「……してねーよっ!なめんな!」

 

 一瞬ほわほわさせられたが、それを振り払うように伊之助は怒鳴り散らす。線路の向こう側から、ボロボロの善逸と炭治郎が遅れてやってきたのだ。

 

「鬼は!?」

「まだ来てねぇ!そっちはどうしたんだ!鬼はどこから来やがんだ!?」

「追ってきた鬼はあらかた斬った。だが、すぐに第二陣が来る」

 

 荒い息を吐きながら善逸が答える。おそらく相当呼吸を連発したのだろう。体力の消耗が激しいということは伊之助にもすぐに分かった。このまま消耗戦に持ち込まれればどうなるか分からない。

 

「乗っている乗客はどうする、炭治郎」

「まだ眠っているんだろう?起こすのはまずい。この場から逃げようと離れられれば、俺達四人じゃ鬼達から守りきれない」

「じゃあどうすんだよ!」

 

 車両は五両。その中に眠る、二百人近くの乗客。全方位を鬼に取り囲まれれば、四人だけで車両で眠っている乗客を守り切るのは難しい。もし車内に鬼が入り、乗客が目を覚ませば恐怖で混乱を招いてしまう。そうなれば、益々乗客を守ることができなくなる。

 

「なら、今のうちに藤の花の香を焚こう。煉獄さんから使うよう渡された。時間稼ぎにしかならないかもだけど、車内に入れないようにするんだ」

 

 懐から善逸は、鬼が嫌う藤の花のお香を取り出した。先ほど炎柱の杏寿郎に、客達を守るために使うよう渡されたのだ。

 

 善逸の姿がその場から掻き消える。藤の花の香を焚きに車内に向かったのだ。

 

「俺はギンさんの薬箱を届ける!禰豆子、伊之助、見張りを頼む!」

「ふがっ」

「任せろ!」

 

 炭治郎も急いで車内に駆け込む。鬼がいつ攻撃を仕掛けてくるか分からない。追いかけてきていた鬼は善逸の居合いと炭治郎の呼吸で数を減らしたが、途中から琵琶の音が鳴り止み、それ以上鬼が出現しなくなった。波が引いたように静かになり、鬼の猛攻が止んだのだ。

 このまま出て来なければいいが……そんなことは有りえない。恐らく嵐が来る前の静けさだ。

 総攻撃を仕掛けてくる。

 その為に一度鬼達を退かせたのだ。

 

 今度こそ、青い彼岸花を奪う為に。

 

「あった!」

 

 鼻が利く炭治郎は、すぐにギンの薬箱を見つけることできた。薬品や薬草の匂いがする独特な匂いだったので、背負い箱をすぐに見つけることができた。よく見ると、普段自分が禰豆子を運ぶために担いでいる背負い箱とよく似ている。

 

「これだな……!よし!」

 

 禰豆子の箱をいつも背負っていたので、重い物を背負うのは慣れている。これを早くギンさんの所へ―――!

 

 ――ベベン!

 

「!」

 

 琵琶の音。不安を掻き立てるようなあの音だ。

 

 すぐ近くで鳴った。そしてすぐに――周りから、何匹もの鬼の匂いがした。

 

「来た!」

 

 急いで刀を抜き、車両から飛び出すと――

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

 森の茂みから、何匹もの鬼達が叫びながら飛び出しこちらに向かってくるのが見えた。さっき自分達を追いかけてきた鬼達と比にならないくらいの数の鬼が押し寄せてきたのだ。

 際限なく湧いてくる鬼達はひどい悪臭で、何十匹の鬼がここにいるか分からないほどだ。

 

「くっ、数が多い!」

 

――ベン!ベン!

 

「おぉぉぉおおおお!!どんどん増えてきやがる!」

「むー!」

 

 禰豆子と伊之助が、車両に近付く鬼達を倒していく。しかし、鬼を殺しても殺してもどんどん湧いてくる。

 

 どうする!?どんどん鬼が増えてく!いくらなんでもこの数を相手に守り切るのは……!

 俺がギンさんの所に薬を届けに行ったら、車両を守るのが三人になってしまう……!ここから離れられない……!

 

「やべえ!そっちに鬼が行きやがる!!」

「……!」

 

 どうするべきか悩んでいたからか、炭治郎は一瞬反応が遅れてしまう。

 

 まずい!鬼が窓に……!乗客が喰われ―――!

 

 

"雷の呼吸"

 

 

 その時、目の前に落雷が落ちたかのような轟音が響いた。

 

 

"漆ノ型 火雷神(ほのいかずちのかみ)"

 

 

 その音が鳴り響いた瞬間、辺りにいた鬼達の頸が、一瞬で落ちる。

 地面に立っていた炭治郎は、それが善逸が繰り出した技だとは分からなかった。

 

 唯一状況を把握できたのは、偶々屋根の上で全体を見ていた伊之助だけである。

 

「すげぇ」

 

 普段泣き喚いてばかりの善逸からは想像もできない、絶技。

 列車から善逸が飛び出したかと思えば、一瞬で姿が消え、瞬く間に五両もある車両の周りにいた鬼達の頸を全てすれ違いざまに斬ったのである。

 一秒にも満たない、文字通り一瞬の間に、二十匹の鬼の頸がほぼ同時に落ちた。

 

 斬られた鬼達には、自分がどうやって殺されたかも分からないだろう。雷をその身に体現したような少年の姿も、視界の端に捉えることすらできなかったのだから。

 

「善逸!?」

「炭治郎!早く行け!」

 

 ――雷の呼吸は、六つの型しかなかった。

 七つ目の型は、善逸が壱ノ型を更に強力に昇華させた技。

「いつか兄弟子と共に肩を並べて戦いたい」と、かつて壱ノ型しか使えなかった自分は、壱ノ型以外全て使うことができる兄弟子と対等になるために七つ目の型を編み出した。

 

 だがあまりの強力さ故に、今の善逸では負担が酷く、連発できない。

 

 ――足の骨にヒビが入った。漆ノ型はできてあと一回だけか。

 

「ここは俺達が引き受ける!炭治郎はギンさんの所に!」

「……!分かった!死ぬなよ善逸!伊之助!」

「当たり前だ権次郎!さっさと行けボケェ!」

 

 ――ベベン!

 

 闇に再び響く琵琶の音。すぐにまた、鬼達がここに押し寄せてくる。信じろ、善逸達を。あんな鬼達に負けるわけがない!

 囲まれる前に早くギンさんの所へ!

 

 

「必ず戻ってくる!だから死ぬな!善逸!伊之助!禰豆子!」

 

 

 炭治郎は薬箱を背負い、線路の上を駆け出した。目指すは、上弦の壱と戦っているギンと杏寿郎の許へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行きと帰り、六里もの距離の往復は容易くなかった。一刻も早くギンさん達の所に行かなきゃいけないのに、息が苦しい。足が棒みたいに、鈍りを着けたみたいに重い。

 

 ……堪えろ!

 

 ギンさん達のいる方から、ずっと爆音が鳴り響いている。赤い炎が、真っ黒の煙が見える。あの鬼と、ずっと戦ってるんだ。

 

 ここで走らずにして、いつ走るんだ!あとで走れなくてもいい!でも今だけは!走り続けろ、竈門炭治郎!

 禰豆子を戻すんだ!人間に戻すんだ!

 その為に鍛えた、その為に戦ってきた!今ここで、止まっている暇なんて、ないんだ!

 

「来たぞ!鬼狩りだ!」

「ここで止めろ!」

 

 鬼達が何匹も、線路の上で俺を待ち伏せしていた。

 俺が来たことに気付くと、一斉に飛び掛かってくる。

 

「退けぇぇぇぇ!」

 

 ギンさんと煉獄さんは、今も戦ってる!善逸も伊之助も禰豆子も、戦ってる!立ち止まって、いられないんだよ!

 

 

"全集中・水の呼吸 肆ノ型 打ち潮"

 

 

すれ違いざまに、二体の鬼の頸を同時に斬る。たった一秒でも、止まるわけにはいかなかった。そして。

 

 

 ――煙と、あの鬼の匂い。近づいてきてる。

 

 

 もうすぐだ、もうすぐでギンさんの所に着く!

 ギンさんの薬箱をすぐに手渡せるように、両手に持ちかえる。

 あと少し、あと少しだ!

 

 

 

 ――――見えた!

 

 

 

 一体、どんな戦いが起こったのだろう。半刻もここから離れていないのに、ひどい有様だった。

 列車は横転し、車両や機関車は両断され、炎と黒煙が空へあがっている。

 土がヒビ割れ、木々が倒れている。

 

 そして、血塗れのギンさんとボロボロの煉獄さんが、刀を構えた黒死牟に向き合っていた。

 

 二人ともひどい怪我だ、でも!

 

 

 

「―――ギンさん!」

 

 

 

 薬箱、持ってきました!これで、あの鬼を―――

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 鼻が曲がるような強烈な匂いが漂う。

 泣きたくなるほどの、嫉妬と、怒りと、憎しみの匂い。

 あの鬼――なんで、俺の方に、刀を――?

 

 

 

 

「マズイ、炭治郎逃げ―――!」

 

 

 ギンさんと煉獄さんが、俺の方へ向かってくる。

 慌てた顔で、俺を庇おうと――

 

 

 

 

"月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月(とこよこげつ)無間(むけん)"

 

 

 

 

 

 意識が、暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――兄ちゃん!兄ちゃん!

 

 

 

 茂の声がする。

 なんだよ、茂。兄ちゃん今、すごく眠いのに……

 

 

 

 ――起きて!兄ちゃん!

 

 

 

 

「―――ッ!」

 

 ここは、山?俺はさっきまで、薬箱を届けようと走って――気絶してしまったのか!?

 黒死牟の攻撃を避けきれず、それから――ギンさんと煉獄さんは!?

 

「ギンさん、煉獄さ――!」

 

 息を、呑んだ。

 顔を上げると、そこにはギンさんが立っていた。……血塗れの姿で。

 

「ギンさん!傷が……!」

「おう……無事か、炭治郎」

 

 ギンさんはそう言って、顔だけこちらを向いた。

 立っているのが不思議なくらいの、出血量だった。

 全身を切り刻まれ、出血していない部分が分からないほどだった。痛々しく、思わず目を背けたくなってしまうほどに。特にひどいのは、右肩から左の鳩尾に掛けて袈裟切りにされた大きな傷。明らかに致命傷だった。

 

「煉獄さん、ギンさんが……!」

 

 縋るような気持ちで煉獄の方に視線を向けた炭治郎だが、またしても息を呑む。

 

 煉獄杏寿郎の、左腕が、なかった。

 ギンさんより切り傷の数は少ないものの、左腕の切断面からは夥しい量の血液が流れ出てしまっている。 

 更に目をやられてしまったのだろう、右目に浅く切り傷が刻まれ、目が潰されてしまっている。こちらも明らかに致命傷だ。一刻も早く治療をしなければいけないだろう。

 

「……童を仕留めそこなったか……」

「!」

「……心頭滅却……怒りに振り回されるとは……私も……未だ未熟なり……」

 

 土煙の中から現れたのは、傷一つついていない上弦の壱の鬼、黒死牟だった。

 あんなに強いギンさんや煉獄さんと戦っていたのに、傷一つついていないなんて……!

 

「その二人に……感謝しておけ……小僧……鹿神と煉獄は……自らの身を犠牲に……お前を守ったのだ……」

 

 憐れむように、蔑むように、見下すように、黒死牟は炭治郎を指差し、哂った。

 

「先の一撃は……確実にお前の命を絶っていた……鹿神と煉獄なら避けられただろうが……お前のせいで……死に体だ……お前さえいなければ……あるいは私の頸を断てたかもしれぬのに」

 

 俺の、せい。俺が、弱いから。ギンさん達が、死にかけている。

 

「うぁ……あ"ぁあ……!」

 

 ――なんで。

 

「久々に楽しませてもらったが……無粋な邪魔が入った……だが……青い彼岸花を……わざわざ持ってきてくれたことには……感謝しよう……小僧……」

 

 ――俺の、せいで。

 

「しかしお前など……我が刀を振るう価値もなし……いくら日の呼吸の使い手と言えど……縁壱の足元にも及ばぬ……」

 

 ――俺が、こんなにも……弱いから……!

 

 死にたいと、死んでしまいたいと、心の底から湧き出る絶望。無力。俺は、一体、どうして……!

 

 

「……呆気ない幕引きだが……これも全てお前の弱さ故だ……憎むなら……己の弱さを憎め……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この少年は弱くない。侮辱するな」

 

「ああ、俺の弟弟子を、馬鹿にすんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を、見ていた。

 懐かしい、夢を見た。

 

 

「杏寿郎」

「はい、母上!」

 

「なぜ、自分が人よりも強く生まれたのか分かりますか?」

 

「…………わかりません!」

 

「では、ギンは何故人より強く生まれたのか分かりますか?」

 

「……森を守るためです」

 

 縁側で、俺と杏寿郎は瑠火さんの横に正座をさせられていた。俺はシシガミ様と結んだ約束を思い出し、そう答えた。

 シシガミの森に呼ばれ、そして鬼狩りとなるために身体を鍛えさせられたのは、理の意志。だが、最後に森を守るために戦うと決めたのは、間違いなく俺の意志だった。

 

「ギンは、森を守るために鬼狩りになると?」

 

「はい。俺はそう、約束したんです」

「誰と約束したんだ、ギン!」

「父親……いや、獣?鹿?説明するのは難しいんだが」

 

 改めて考えると、シシガミ様を父と呼ぶべきか、師と呼ぶべきか、それとも別の呼び方があるか分からない。うんうん唸っていると、瑠火さんが小さく微笑んだ。

 

「ふふ……杏寿郎、ギン、こっちにいらっしゃい」

 

 瑠火さんは近くに来た俺と杏寿郎の頭を撫でながら静かに、そして厳かに言った。

 

「……あなた達二人が強く生まれたのは、弱き人を助けるためです」

「弱き……人?」

「ええ。生まれついて人より多くの才に恵まれた者は、その力を世の為、人の為に使わねばなりません。天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されないのです。例えばギン。私を病から救ってくれましたね」

「……あれは、ここで世話になっているし……恩返しみたいな物です。それに俺は、蟲が見えるから……」

「あなたがその"蟲"を見ることができるのは、きっと仏様があなたに授けた力です。それを誇りに思いなさい」

「誇り……ですか?」

「そうです。杏寿郎が人より剣の才があるのも、ギンが"蟲"を見ることができるのも、弱き人を助ける為です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることのないように」

 

「……はい!」

「……分かった」

 

「杏寿郎、ギン。あなた達二人を息子に持てたことは、私の誇りです。あなた達二人の母になれて、私は幸せ者です。二人で助け合って生きなさい。そうすれば、もっと多くの人を救うことができる。独りにならず、励むのですよ」

 

 血は繋がっていなくとも、兄弟であり、そして、家族なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この少年は弱くない。侮辱するな」

「ああ、俺の弟弟子を、馬鹿にすんなよ」

 

 ギンと杏寿郎が、低く言った。まさか喋るとは思っていなかった黒死牟と炭治郎が、目を見開く。

 

「ほう……その傷で……まだ喋る余力があるのか……」

 

 体中が痛む。こんな傷、負うなんて初めてだった。力を抜けば傷口から内臓が零れ落ちる。さすがに死にかけるか、目の前が霞む……。血を失い過ぎた……。

 ギンは冷静に、自分の身体の状態を認識していた。多すぎる切り傷。なんとか呼吸で止血しているが、いつ意識が消えても不思議ではない。

 

「ギンさん!煉獄さん!喋らないで!傷が……!」

 

 炭治郎、気にするな……と言っても、お前は気にするだろうな。お前は優しい奴だから。

 今にも泣き出しそうな弟弟子に、ギンは笑みをかける。

 

「大丈夫だ炭治郎。これぐらい楽勝だ。なあ、杏寿郎」

「ああ。後輩の盾となるのは、柱ならば当然だ!」

 

 ――嘘だ。

 見れば誰にでも分かる。二人の言葉が強がりだと。呼吸で無理やり止血しているとはいえ、二人とも瀕死で、少し触れただけで崩れ落ちてしまいそうなほどに弱っていることを。

 

「……見上げた精神力だ……」

 

 感心したように笑う黒死牟。今まで殺してきた柱は、最初は勇んで自分の頸を斬ろうともがいたが、最後は誰もが自分ではかなわぬ敵だと心を折り、膝を屈した。

 黒死牟の眼には、二人は既に瀕死であることが分かった。例え鍛えられた鬼狩りの柱であろうとも、本来なら立っていることすらできないはずだ。

 

「杏寿郎」

「なんだ、ギン」

「俺……今、昔の夢を見たよ」

「それは……奇遇だな。俺も、母上の夢を見た」

「そいつは……ふっ。杏寿郎、時間を稼げるか?」

「どれぐらいだ」

「一瞬でいい」

「……承知した、ギン!」

 

 何故、この二人はそれでも立つ。私の前に立ちはだかる。何故、そのように笑っていられる?

 素晴らしい。

 久方ぶりに産毛が逆立つのを感じる。ここまでの強者に出会うのは、幾年ぶりか。

 技術、精神力、そして身体力。そのどれもが、今まで会ったどの柱よりも――。

 

「……鹿神ギン……そして、煉獄杏寿郎だったな……これ以上戦えば……お前達は死ぬ……だが……青い彼岸花を差し出すと言うのなら……見逃して――」

 

「「断る」」

 

 黒死牟の最後の誘いに、ギンと杏寿郎は一蹴する。

 

「俺は俺の責務を全うする!例えこの身が滅びようとも、黒死牟、お前の頸を斬ろう!」

 

 煉獄杏寿郎はそう叫びながら、片手で日輪刀を構えた。左腕を失ってもなお、途切れぬ闘気。

 炭治郎は、そんな杏寿郎の背中に炎を見た。

 決して消えない炎。強い意志の匂い。

 "柱"は、決して折れない。鬼殺隊の柱は、決して鬼に屈しない。

 

「まだ戦う気か……勝負はついた……その出血……じきに死ぬ……私はお前が死んだ後……その小僧から青い彼岸花を奪えばよいだけのこと」

 

 もう十分戦いは楽しめた。久方ぶりに血沸き肉躍る闘争を、味わえた。もうこれ以上必要はない。

 

「……む?」

 

 そう思っていた時だった。

 

「シィィィィィ……」

 

 なんだ、この呼吸音は。燃える炎のような……。

 

「行くぞ!」

 

 

"全集中 炎の呼吸"

 

 

「!」

 

 

"壱ノ型 不知火"

 

 

 強烈な踏込。踏み込んだ地面に亀裂が入るほどの一歩。

 杏寿郎は瞬きの間に黒死牟との距離を詰め、刀を振り下ろした。

 

 一拍置いて黒死牟の頸から噴き出す、鮮血。

 見ると、黒死牟の頸に浅く、傷が入っていた。

 

「く……!」

 

 黒死牟の全身を襲う、焦燥。浅かったとはいえ、頸に一太刀を入れられたのは、これが二度目だった。

 蘇るのは四百年前の記憶。

 老骨となった弟と相対し、私の頸を落としかけ――

 

「おのれ!!」

 

 忌々しい記憶を。人の身でありながら、それほどの怪我を追いながらこの私の頸に、一太刀を入れたのは褒めてやる。

 だが何故!どうやって私の()を掻い潜り抜けこの身に傷をつけた!?

 "光酒"で痣を出せたとしても、この男に"透き通る世界"は見えぬはずだ。

 

 憤怒。

 

 自分の頸に一太刀を入れられる。それは、最強を目指す黒死牟にとってあってはならぬこと。

 瀕死の身でありながら、よくも。人間の分際でよくも。

 

 そう睨みつけた時、異変に気付く。

 

 ――この男……額の痣が……先ほどより大きく……濃く……!?

 

 

"炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり"

 

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 

 渦巻く炎の剣戟。杏寿郎の動きは、これまでとは比べ物にならないほど速くなっていた。

 反応速度も、瞬発力も、腕力も、全て。

 とても片腕を斬り落とされた瀕死の男の動きではない。常軌を逸した動き。

 

"月の呼吸 参ノ型 厭忌月(えんきづき)(つが)り"

 

 黒死牟もトドメを刺そうと杏寿郎に向けて呼吸法の技を振るう。しかし、杏寿郎はその全てを紙一重で回避する。

 先刻まで避けるので精一杯だったはずなのに。

 

 ……いや。

 

 この男、死を覚悟して動いている。一矢報いようと、最後に抵抗しているのだ。

 灯滅せんとして光を増す。

 直にこの男の命の灯は尽きる。こいつの命の灯は、まさしく風前の灯だ。いつ消えるかも分からぬ。消えゆく炎が最後に燃え盛らんと足掻いているだけに過ぎない。

 

 ならば、私がわざわざトドメを刺す必要などない。

 こやつの命が尽きるまで待てば――

 

「……否」

 

 黒死牟は再び刀を構える。

 

 今、私はこの男を恐れたのか?否、否、否!そのようなことはあってはならぬ。

 

 この男を殺してやらねば気が済まぬ。私が負けることなど、あってはならぬ。少しでも怖気づいたなど、あってはならぬ。

 そうだ、勝ち続けることを選んだのだ、私は。

 このような、醜い姿になってまで。

 

 

"炎の呼吸 奥義"

 

 

「行くぞ!黒死牟!」

 

 

"月の呼吸 漆ノ型"

 

 

「……来い」

 

 

 

 

"玖ノ型 煉獄"

 

 

"厄鏡(やっきょう)月映(つきば)え"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――炭治郎。悪いな」

「ギンさん……傷が……!これ以上動いたら開いてしまう!」

 

 炭治郎は、必死に止める。

 今、煉獄さんが黒死牟と戦っている。目に留まらぬ速さで。左腕を斬り落とされているのに、出血に厭わず、戦い続けている。

 あんな動きをしていたら、すぐに死んでしまう。医学に詳しくない炭治郎でもそれは分かる。

 そして、ギンもそこに向かおうとしている。

 

「大丈夫だ、炭治郎。あいつは必ず、俺達で倒す」

「無理ですよ!その傷でどうやって……!」

 

 炭治郎には分かった。分かってしまった。二人が死にに行くと言うことを。相打ちを覚悟して、あの鬼を殺そうとしているのだ。

 だが、想像したくなかった。炭治郎にはどうすればあの鬼を殺せるか分からなかった。あんな化け物を、どうやって!

 煉獄さんが死に、そして兄弟子のギンさんまで死んでしまったら……!

 

「どうやってあの鬼を倒すんですか!()()()()()()()()()()じゃないですか!鬼を人に戻す薬なんて!ないじゃないですか!それなのに、どうやって!」

 

 薬箱には、青い彼岸花なんてなかった。鬼を人に戻す薬なんてなかった。最初からあの鬼を殺す手段なんてなかったのだ。それなのにどうやってあの鬼を殺すと言うのだ。

 無駄死にだ。あの鬼に向かって行っても、殺されてしまう。

 

 もう嫌だ。自分の目の前で人が死ぬ所を見るなんて。

 

 

 

「大丈夫だ、炭治郎。俺を信じてくれ」

 

 

 

「ギンさん……?」

「大丈夫だ。必ず勝ってみせる」

 

 

 この命に代えてでも、必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――パキン

 

 

 乾いた金属の音が響く。その音の発生源は、杏寿郎の刀だった。

 黒死牟との死闘。杏寿郎の攻撃に耐えきれず、刀が先に悲鳴を上げた。

 

 一歩届かず。

 

 黒死牟の刃は、杏寿郎の腹を切り裂いた。 

 

「ごぶっ……」

 

 大量の出血が切り裂かれた腹から、そして口から噴き出した。

 ようやくこの男は死ぬ。先に私の刃が届いた。明らかに命と意識を絶つ一撃。これでもう――

 

 ギリッ

 

「!」

 

 耳障りな、刀の柄を握り締める音が聞こえた。まさか――!

 

「オオオオオオオオ!」

「かっ……!」

 

 杏寿郎はまだ死んでいなかった。渾身の力で杏寿郎は黒死牟の頸に刀を振り下ろす。

 

 ――この男、まだ刀を振るのか!

 

 先の一撃は明らかに命を絶つ一撃だった!この男の命を絶ったはずだ!なのにまだ、刀を振るう力があるのか!折れた刀で、私の頸を……!

 

「俺は死なない!!お前の頸を斬るまでは!!!」

 

 杏寿郎の折れた刀の先が、黒死牟の頸にめり込む。これも光酒とやらの力なのか?まさか、このままでは……!

 

 

「さすがだ、兄弟子」

 

 

 瞬間、横から鹿神ギンが現れる。

 

「蟲師……!」

 

 黒死牟に肉薄したギンは、間髪入れずに技を繰り出す。

 

 

"森の呼吸 弐ノ型 剣戟森森"

 

 

 連続で放たれる突き。普段であれば簡単に躱すことができるはずの技。だが、杏寿郎に気を取られていたせいか、既に間合いに入っているギンの技を避けることはできなかった。

 突き刺さる刀。

 今夜の戦いで、初めてまともに喰らうギンの十連撃。黒死牟の胴体にはこぶし大の孔がいくつも穿たれる。

 

 

 ――大丈夫だ、この程度の傷は一瞬で回復する!

 

 

 ギンは選択を誤った。突きではなく、袈裟切りか横薙ぎで頸を斬り落とすべきだったのだ。

 なのに、突きを選んだ。これでは鬼は死なぬ。鬼を殺したいのならば、頸を落とさねばならぬ。

 

 黒死牟は勝ちを確信した。まずは己の頸に刀を喰い込ませるこの男の頭蓋を叩き割らねばならぬ。その後に蟲師を殺す。

 

 そうすれば全て終わりだ。

 

 そう勝ちを確信したのが、黒死牟の誤りだった。

 

 ギンが突き技を放ったのは、黒死牟の身体に孔をあけるため。

 孔を穿ち、そこに、自らの拳を叩き込むためだった。

 

 

 ギンは左手に握り込んだそれを、黒死牟の身体の孔に叩き込む。

 

 

「!?」

 

 

 ギンは握り込んだ何かを黒死牟の孔に叩き込み、それを黒死牟の体内に置いてくる。拳を引き抜くと、黒死牟のその傷は蓋をするようにすぐに塞がるように再生する。黒死牟の体内に吸収された事を確認したギンはまるで確信したかのように破顔した。

 

 

「獲った!」

 

 

 なんだ。何を入れられた。

 

 蟲師め、一体何を―――ッ!?

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 何だ……これは……!

 鹿神に拳を突き刺された場所が……燃えるように熱く……!

 身体が強張る……!内臓を灼かれるような激痛が……!

 

 

「蟲師貴様……!何を……!」

 

 忌々しい。今すぐに殺してやる。身体から刃を生やして、トドメを……!

 

「……!」

 

 技が……出ぬ!

 なんだこれは……血鬼術が……出ない……!

 何をされたのだ私は!あまりの痛みに身体を動かすことすらできぬ!

 まるで()()()()()()()()()()()()()()は……!

 

 

「お前さんに叩き込んだのは、鬼を人に戻す薬だよ」

 

 飄々と答えるギン。

 嘘は言っていない。黒死牟の眼は相手の心を見通す。

 

「そんな物できるはずは……!」

 

 信じられなかった。いくら青い彼岸花を手に入れたからと言って、そんな薬を開発することなど……!

 

 

「まあ、正確にはちょっと違うがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さんに叩き込んだのは、日蝕(ひは)みと呼ばれる()()()だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"日蝕み"と呼ばれる蟲がいる。

 普段は地の底に身を潜める蟲だが、日蝕の時だけ現れる非常に珍しい蟲。

"日蝕み"は普段は地底の奥底に隠れている。陽の光を浴びると消滅してしまうからだ。しかし、日蝕の時のみに"核"と"根"に分かれ、"核"は上空へと昇る。すると核を中心に大量の蟲達を集め、太陽の陽を遮ってしまう。さながら、太陽を喰らう日蝕のように。

 故に、"日"を"(むしば)む"と書いて、日蝕みと呼ばれている。

 この蟲を祓うには"根"の部分を本物の太陽の光に晒す必要がある。そうすれば日蝕みは消滅するのだが、肝心の根は地中に隠れる為、探すのに非常に難儀する。

 "核"の部分が蟲を集め影を作り出すのは、"根"を守りながら日の光を浴びる為だ。本来は自分を消滅させる光だが、生きるために陽の光を浴びなければいけないのだ。

 この日蝕みを放っておくと、影に覆われた大地には良くない蟲達が集まり、その土地は動植物が生まれない、蟲だけしかいない不毛の土地へと廃れていく。日蝕みの作り出す妖光は、蟲を集めるからだ。

 

 ――その日蝕みを祓う時、日蝕みは"核"の欠片を落とすことがあった。

 

 それ自体は生命を活性化させるとても強い力を持つモノ。

 そして何よりも、その"核"は()()()()()()()()()()()()()だ。鬼を殺す日輪刀の原石である、一年中陽の光を浴びていると言われている陽光山の鉱石のように。

 

 

 

 青い彼岸花を探す過程で、ギンは日蝕みを探し出し、それを祓った。

 

 その時に偶然、日蝕みの"核"を手に入れたのだ。

 

 見た目はただの銀色の小さな鉱石だが、日の光をたっぷり浴びた、蟲の核。

 

 ギンはこれを、鬼を人に戻す……もしくは、鬼を殺す猛毒になりうるのではないかと、推測を立てた。

 

 

 

 

 そして――その推測は当たっていた。

 

 

 

「本当は禰豆子を人に戻す為に使いたかったんだが、仕方あるまい」

 

 

 ギンは刀を構える。

 黒死牟は逃げようともがいているようだが、身体に埋め込まれた日蝕みの核のせいか、痛みでまったく動けないようだった。

 

 

「往生しろ、黒死牟」

 

 

 

 

 

 

 

―――負けるのか、私は。

 

 

 

 

 この二人の人間に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"全集中・森の呼吸 漆ノ型"

 

 

 

 

 

 

 ―――浮き立つような気持ちになりませぬか、兄上

 

 

 

 ―――いつか、これから生まれてくる子供達が

 

 

 

 ―――私達を超えて更なる高みへと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――登りつめていくんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"大太法師(だいだらぼっち)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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