え?蟲師の世界じゃないの?   作:ガオーさん

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いつの間にか蟲師は滅んでいた件

 

 

 

 

 シシガミの森から卒業し、現世で耀哉と出会い、"炎柱"煉獄槇寿郎さんの家に引き取られて一ヶ月。

 俺は耀哉に呼び出され、久しぶりに産屋敷邸に訪れていた。

 

 人の気配がほとんどしない屋敷の広間で、俺と耀哉は正座をして向かい合っていた。

 

「青い彼岸花?」

 

「ああ、そうだよ。鬼舞辻無惨と私は、同じ血筋だ。とは言っても、千年以上前のことだから、もう血は近くはないけれど……。我々産屋敷一家は鬼舞辻無惨を追い続け、その過程で鬼舞辻の目的を突き止めた。その一つが、青い彼岸花だ」

 

 耀哉は何故か俺を信頼してくれていた。それも、鬼殺隊の一部の人しか知らない、鬼舞辻の目的や、鬼の体質、産屋敷耀哉の秘密など。おそらく機密情報という物を、俺に何一つ隠さず話してくれた。

 俺が森にいた頃、『二つ目の瞼の裏』で蟲の話をしていたのが理由だった。

 

「鬼舞辻は、千年もかけて青い彼岸花を探している。だが、千年もかけて一向に見つからない。何故か分かるかい」

 

 俺はすぐに察した。

 

「その青い彼岸花を、人間は見ることができないから」

「うん。おそらくその青い彼岸花は、ギンが言う所の蟲なんだと思う」

 

 鬼の始祖、鬼舞辻無惨は生まれた時から鬼だったわけではない。後天的に鬼に変質したのだと、耀哉は言った。

 

「千年前の祖先の言葉によると、鬼舞辻は当時病気がちだった。その時に、青い彼岸花を原料にした薬を処方されたと。鬼舞辻が鬼になったのは、それからだ」

「……蟲師だ。目に見えない蟲を薬にする。きっとその薬を作った奴は、蟲師だったんだ」

 

 耀哉を含めた産屋敷の一族も、青い彼岸花を探していたと言う。だが、鬼舞辻同様、探せど探せど見つからない。

 そして耀哉は、俺と出会い、蟲について話を聞いた時に確信を得たらしい。

 

 青い彼岸花は枯れてどこにも生えなくなったわけではなく、ただ単に()()()()()()だっただけなんだと。

 

 その後、独自の伝手を使って耀哉は蟲を生業としている者、「蟲師」を探そうとしたが、一向に見つからなかったそうだ。

 

「現世の蟲師は……もう、滅んだのか?」

「分からない。産屋敷の情報網では、時代の節目や各地域に、蟲師がいたという記録は確かにあった。けれど蟲を生業としている者を見つけることができなかった。恐らく、君が最後の蟲師だと思う」

 

 蟲の知識は、遥か昔から多くの人達が試してきた対処法だ。森や山と言った自然と、人間が生きていくための術だ。それが失われていた。

 思わず愕然としてしまった。

 ここは、蟲師の世界じゃない?歴史が変わっている?

 確かに、原作でも蟲師は世間に認知された職業ではなかった。けれど、滅んでいるだなんて考えたこともなかった。

 

「ギンに頼みたいことは二つ。一つは、青い彼岸花の捜索。これは、蟲をしっかり視認できる君にしか頼めない。二つ目は、蟲の研究だ。失われた蟲の知識を、再興すること」

「蟲の研究……」

 

「瞼の裏で話したことは覚えているかな。『鬼を人に戻す蟲もいるかもしれない』という話を」

 

 俺は頷いた。

 

「鬼は哀しい生物だ。鬼舞辻の身勝手で鬼に変えられ、人を喰らわなければ生きていけないようにしてしまう。この鬼殺隊が何百年も続けてこられた一番の理由は、鬼によって家族や友人を殺された人達の強い怒りと憎しみだ。彼らは鬼を許すまいと、身体を鍛え、刀を手に取り、鬼を退治する。強い負の感情を火種にしてね。――そして、それは私達、産屋敷一族の当主も」

 

 その時、ふっと、耀哉の笑みが消えた。

 哂ってもいない。悲しんでもいない。そんな表情なのに、何故か俺には、怒りに染まった般若の顔を幻視した。

 思わず息を呑んでしまうほど、重苦しい殺気だった。仏のような微笑みを浮かべる耀哉からは、想像もできない黒い感情だった。

 

「私の一族から鬼舞辻無惨という鬼を出してしまったせいで、私達の一族は皆呪われた。三十年も生きられない短命の一族だ……。代々神職の一族から妻をもらって死に難くなったけれど……私の父も、祖父も、曾祖父も、歳を取れば身体のあちこちが腐り始め、視力を失い、痛みに悶えながら息絶える。そういう、宿命だった」

「……」

 

 短命の一族。話は聞いていたが、そこまでひどい物だとは想像もできなかった。

 

「私は、鬼舞辻無惨を倒したい。けれど、私の代で倒せる可能性はとてつもなく低い。けれど、鬼舞辻を倒さなければ多くの人々や隊士達が命を落としてしまう。人を救う術はいくつあっても足りない」

 

 耀哉はそう言うと、手を床に着け、頭を下げた。

 

「鹿神ギン。()のたった一人の友。よければ、この願いを聞いて欲しい。"鬼殺隊当主"産屋敷耀哉ではなく、たった一人の友からの願いとして、力を貸してほしい。多くの人々を守る為に。鬼舞辻無惨を倒す為に」

 

「…………」 

 

 シシガミ様が、常闇から脱けだした俺を鬼殺の剣士として育てたのは"理"の頼みだと言っていた。

 蟲師ではなく、剣士。

 どうして俺が選ばれたのだろう。シシガミの森から現世に出て来てから、時々そう思うことがあった。

 本当に"理"の命のまま鬼殺の剣士になるべきなのか悩んだこともあった。

 

 けれど同い年の耀哉は、俺と比べたらなんて重たい物を背負って生きていたのだろう。

 

 十歳で父を亡くし、鬼殺隊の当主となり、責任と立場を与えられた。

 

 ……正直、俺は鬼が憎いわけじゃない。

 

 シシガミの森の住民達に報いるために鬼殺隊に入ると決めたが、鬼を滅ぼしたいと言う動機がなかった。

 

 でも、耀哉の姿を見て、腹に決めた。

 

 シシガミの森から出るためにムグラに引きずり込まれ、瞼の裏から出た時、一番最初に会ったのが産屋敷だった。

 

 

 これも"理"が定めたことなのだろうか。

 

「顔を上げてくれ、耀哉」

 

 ああ、でも。例え定めだったとしても、俺はそれに呑まれてもいいと考えてしまっている。

 

「ごめんな耀哉。お前の苦しみに、ようやく少し触れたような気がしたよ。友だって言って、まだお前のことを何にも理解してやれなかった。俺は瞼の裏で会えたお前を親友だと思っていた。けれど、まだ全然なれていなかった。きっとお前が背負う覚悟や苦しみを、俺は全て理解することはできない」

 

 感覚を分かち合うことは難しい。自分が見える蟲の世界を、耀哉に全て伝えることができないのと同じように、耀哉の気持ちは耀哉にしか分からない。

 

「けど、俺はお前の友でありたい。瞼の裏で会えたお前は、本当に特別だったんだ。愚痴でもなんでもいい。もっと話をしよう。瞼の裏はあんなに暗い場所だったんだ。今度は陽が当たる暖かい場所で語ろう。お互いのこと。これからのこと。いろんなことを。だから、聞くよ。お前の頼み」

 

 

 

「鹿神ギンは、最後の蟲師として、産屋敷耀哉の友として、お前を全力で支えるよ」

 

 

 

 

 その時の耀哉の泣き顔を、俺は多分、忘れることはないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月■日

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………死にたい。

 んああああああああああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!

 馬鹿じゃねーのばかじゃねーのバカじゃねーの!?

 なーにが「鹿神ギンは、最後の蟲師として、産屋敷耀哉の友として、お前を全力で支えるよ」(キリッ)だよバーカ!お前今精神年齢いくつだよ!前世思い出せねーけどもう二十歳越えてるだろ!?

 いやあわかってるよ蟲師が滅んでいたとか鬼舞辻の呪いとかいろんな情報で頭がパンクしかけて思わずその場のノリで言葉を出しちゃったこと!

 恥ずかしいっ、頭悪いわー、この子頭悪いわー、中学生にしか許されないようなこと言っちゃってるわー。ジャンプっぽいノリ出しちゃってるわー。ジャンプの主人公にしか許されないような台詞吐いちゃって本当に痛いわー。

 あーもうクソダサオジサン過ぎてあれだしていうか耀哉泣かせちゃったし鬼殺隊当主を泣かせてこれ実は首切り案件なんじゃねーかってアタシってばほんとばか。

 

 

 

 …………ふぅ。

 

 

 

 すいません、取り乱しました。これも蟲の仕業ですな(思考放棄)

 

 

 とりあえず、耀哉が住む産屋敷邸は引っ越すことを勧めた。

 

 いや、別に産屋敷の家が事故物件だったとかそういう話じゃなく、単純に耀哉の体調の為だ。

 少し調べてみた所、耀哉の身体は普通の人と比べて"妖質"が圧倒的に少ないということが分かった。

 

 妖質とは、人間なら誰もが持つ力。霊力、気力と言い換えてもいいかもしれない。

 生きる為のエネルギー源であり、蟲を見る為の素質でもある。妖質が多い人間は、蟲を見る才覚を持つらしい。

 

 耀哉はそれが少ない。妖質は大人から抜いても多少なら問題はないが、子供の内は必要な要素だと言われている。

 いや、少ないと言うより現在進行形で減り続けている――とでもいうべきなのかもしれない。

 

「とりあえず、妖質を増やす方法は調べておく。対処法が分かれば鬼舞辻の呪いを断ち切ることができるかもしれない。とりあえずは、光脈筋に移り住むべきだ」

「どうしてだい?ここにも光脈筋はあるはずだが……」

「ここの光脈筋は少し細い。今なら大丈夫かもしれんが、やがてここの光脈筋は枯れる。それまでに、別の拠点を作っておくんだ。後で光脈筋の場所を伝えておく」

「ありがとう、ギン。すまないね、何から何まで」

 

 

 そんなわけで、産屋敷は近々別の山へと拠点を移すことになった。

 光脈筋の位置は外に漏れないよう、耀哉だけに手紙で伝えることとなったのだ。

 

 

「ギン。ありがとう。君が友で本当によかった。次の最終選別で、必ず生き残って欲しい。幸い、あと二年近くの時間がある。それまで力を付けて欲しい」

「………………」

「ギン?どうしたんだい」

「いや、なんでもない。俺に任せろっ」

「そうかい。また一緒にお茶を飲もう。また会えるのを楽しみにしているよ」

 

 

 ほわほわと笑う耀哉に、俺は言えなかった。

 

 ここで素直にゲロっちまって、言い訳を並べればよかったと後で後悔する。

 

 

 ……とは言っても、言えるわけがない。

 

 

 

 

 ――――森の呼吸を、使えなくなってしまっているだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽月■日

 

 

 

 

 "森の呼吸 壱ノ型 森羅万象"

 

 "炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天"

 

 

 俺の袈裟切りに合わせるように、俺の兄弟子である杏寿郎は下から木刀を振り上げる。

 

 

 

 ―――ガコン!

 

 

 木刀と木刀がぶつかり合う音が響いたかと思うと、俺の後ろの方からコトン、と木刀が落ちる音がした。

 杏寿郎によって自分の木刀が弾かれたのだと分かった。

 

 

「それまで」

 

 

 師範である槇寿郎さんの言葉で、俺達は構えを解き――

 

 

「かひゅー……かひゅー……!」

 

 

 俺は酸欠になって地面に大の字で倒れた。

 息が苦しい。肺の酸素が足りてない。やばい。死ぬ。

 

 

「弱い!弱いぞギン!本当に全集中の呼吸を会得したのか?」

「したよ杏寿郎……」

「俺は兄弟子だぞ!きっちり敬語をつけるべきだ!」

 

 

 ぱっちりとした鋭い眼光が特徴の煉獄杏寿郎。父であり、そして鬼殺隊の実力者"炎柱"煉獄槇寿郎の息子。

 代々鬼狩りをする一族の血を引く男。

 

 その兄弟子は、呆れたように俺を叱咤した。

 

 

【悲報】森の呼吸がクソザコナメクジだった件について。

 誰か教えて!えろい人!

 

 

……いや、理由には心当たりがある。

それは俺がトレーニングを続けてきたシシガミの森のせいである。

 

 

 

「空気が薄いんだよここ」

「薄くはない!山の麓だぞ、山頂でもないのに空気が薄いわけなかろう!」

 

 

 シシガミの森から出て約二か月。おそらく、まだ自分の身体が現世の環境に馴染めていない。

煉獄家の屋敷は普通に山の麓にある。けれど、極太の光脈筋があり100mはある大樹の森とでは、酸素の密度が違いすぎるのだ。あとは、蟲が大量にいたのも影響に含まれていると思う。蟲が大量に湧き出ている空間は、自然の法則を捻じ曲げることもあるし。

 ちなみに、現世でちょっと全集中の呼吸・常中をしようとしただけで肺が爆発しそうになる。頭の中の血管がぐるんぐるん回って、内臓が穴と言う穴から全部飛び出るような気さえする。

 え?全集中の呼吸ってこんなにきつかったの?って初めて分かったね。

 あの森ではらくらく出来た呼吸が、ここではまったく出来ないのは致命的すぎる。

 全集中の呼吸ならまだまともだが、これを連発しようとすると一気に身体の体力を持って行かれる。

 それに最近、頬に浮かんでいたあの痣も消えてしまった。これもきっと蟲のしわ(以下省略

 

 

「ふぅむ……とりあえず、まともに使える壱ノ型以外は忘れろ。それ以外の型は全くもって使えん」

 

 

 師範である槇寿郎さんは、困り顔でそう言った。

 がーんだな……心を挫かれた。

 寝ずに毎晩考えた森の呼吸は禁止となった。悲しい。牙突とか色々な必殺技をワクワクしながら考えたのに。またやり直しかぁ。

 

「身体能力だけなら杏寿郎より上なのは、鍛練した環境がいいからだろう。だが、呼吸はまだ未熟なのだ。技の最中に呼吸が止まってしまうのがいい証拠だ。通常ならば、全集中の呼吸ができるなら空気が薄くても効率よく身体に酸素を行き渡らせることができるはずだが――よほど深い森で鍛練したのだな」

 

 ええ。魔境です。魔界の森です。

 人があそこに入ってはいけない。入ったら最後、馬鹿でかい鹿に死ぬまで鍛えられるから。

 

 

「くぅ……どうすればいいんでしょうか」

「とりあえずはな、走れ」

「えっ」

 

 なんかこれ、前にも見たパターンな気がする。

 

「とりあえず、あの山まで走れ。一刻*1で帰ってこなければ飯抜きだ」

「ふぁっ」

「ちなみに、今日の晩飯は牛肉だ」

「行ってきます!」

 

 

 肉肉肉ぅ!溜火さんの焼肉は絶品なんだちくしょぉぉぉぉぉぉ絶対飯抜きになんかさせるかぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

「父上、弟弟子が他愛ないです」

「そう言うな。森でずっと木の実か植物しか食べていなかったらしいから、反動で肉が恋しいのだ」

 

 

 

 ちなみに、2時間では山を往復することはできず、本当に飯抜きにされました。

 

 自分はひょっとしたら肉を食べれない呪いにかけられているのかもしれない。

 でも見かねた杏寿郎と瑠火さんが一切れずつくれました。優しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □月☆日

 

 

 

 煉獄家に預けられてから、約1年。

 この間何をしていたかと言えば、ほとんどが走り込みだった。

 ……いや本当に走り込みばっかだった。

 どれだけ走ったかって?聞かないでくれ。思い出すと俺が死ぬ。

 

 シシガミの森ブートキャンプもなかなかにきつかったが、煉獄ブートキャンプもきつかったよ……(白目

 

 もちろん、例にもれず何度かブートキャンプを脱走しようとした。

 

「やだやだブートキャンプは嫌だぁぁぁせっかくシシガミの森ブートキャンプを卒業したのになんで現世に来てまでトレーニングしなきゃいけないのぉぉぉぉ外で遊びたいぃぃぃ街にいかせてくれぇぇぇぇぇ!!」

 

 こんな感じで駄々をこねたりした。

 

 だが、煉獄家の大黒柱は厳しい。それも超絶に。

 拳骨されていつも通りトレーニングさせられました。たまーに任務で槇寿郎さんが出かけている時にサボろうとしても、槇寿郎さんは鎹烏とか言う鴉を見張りに付けて監視してくるのだ。サボってるとその鴉から報告されて、拳骨される。

 

「父上の鍛練に耐えられず、継子は何人も辞めたがギンのように何度拳骨されても懲りずにサボろうとする弟子は初めてだ!」というのが杏寿郎談。

 

 サボってるんじゃないですぅー。休んでるだけですぅー。ちょっと町まで行ってお団子食べようとしてただけですぅー。あ、やめて。この間サボったのをチクらないで杏寿郎様。せっかく鴉に見つからない抜け道を見つけたんだからさぁ。え?報告する?くっそこの頭でっかち!あれ?瑠火さん?なにか御用で……え?今からお説教する?くっそ本当に厳しいよこの一家ァ!

 

 とまあ、本当に厳しい煉獄家だが、おかげで現世の空気の薄さにも大分慣れることができた。煉獄家ブートキャンプもしっかり効果があったようで、今もまだ完全という訳ではないが、大分森の呼吸を扱えるようにはなったのだ。

 一時期光脈筋が鬼によって乱されたせいで、瑠火さんが危篤になりかけたが幸運にもなんとか助けることができた。

 その次の日から「お前を柱にするためだ!」とか言ってトレーニングが倍以上にきつくなったが。死ぬ。

 

 

 そしてこの日、俺は久しぶりに師範に木刀を持つことを許された。

 

 師範は俺が刀をしっかり構えたのを見ると、「俺に全力で打ってみろ」と言ってきた。

 

 その言葉を聞いた時、多分、すごく悪い笑顔をしたと思う。俺は「ようやく仕返しができる」と思っていたからだ。

 ようやくだ。ようやく師範の顔面に木刀を叩きこむことができる。

 今まで拳骨をされた回数317回。気絶させられた回数184回。これまでの恨み、晴らさずにおくべきか。

 

 

 

 

 "森の呼吸 弐ノ型 剣戟森森(けんげきしんしん)"

 

 

 

 柔軟性に優れた森の呼吸と、足を止めて一撃に力を乗せる炎の呼吸を合わせた新しい型。

 一気に懐に潜り込み、足を止めた状態で思いっきり相手の身体に突きを叩きこむ。

 

 ちなみにだが、ただの突きではない。

 

 十連の止まらぬ突きだ。

 

 

 炎の呼吸は、俺の身体には適性を示さなかった。だが、炎の呼吸の利点は足を止めての接近戦。ガチガチのインファイトに向いた技術。

 

 俺はこの技術を取り込んだ。全ては師範に仕返しをするために。

 

 知っているんだぞ。俺が山を往復できずに飯抜きの罰を与えた時のことを。

 

 俺の分の牛肉を、夜の酒のつまみにしたということを―――――!

 

 

 食い物の恨みを思い知れぇぇぇぇぇぇええええええ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒せなかった。

 

 

 うそやん。渾身の弐の型を全部捌いたの?

 まったく手ごたえがなかった。全部木刀で受け流された。

 

 俺は驚きで目を見開き、縁側で稽古を見ていた瑠火さんと杏寿郎も、驚いたように目を見開いていた。

 

 

「―――見事」

 

 

 え?何が、と訊き返そうとした瞬間。

 槇寿郎さんの木刀が、粉々に割れた。

 

 え。何。なんで割れてんの木刀。ていうか木刀って割れる物だったの?

 

 

「ギン。お前は炎の呼吸に向いていない。本来なら水の呼吸か、風の呼吸の適性があるのだろう。だが、私の教えを吸収し、見事に自分の技に昇華させた。お前はやっぱりすごい子だ」

「師匠……」

「だが、これ以上ここで教わることはない。お前は炎柱にはなれない。私の跡目は兄弟子である杏寿郎になるだろう。だからこれからお前には、ある山に向かってもらう」

 

 

 

 ある山?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狭霧山という山に住む、鱗滝という育手を訪ねろ。元水柱の育手だ。きっと、お前の使えなくなった森の呼吸を鍛えてくれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆月×日

 

 

 

 

 拝啓、煉獄槇寿郎様。

 

 いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。

 

 

 ところで。

 

 

 

 

 

「お前が鹿神ギンか」

 

 

 

 

 天狗のこの人は一体なんなんでしょうか。

 

 ここで一体何ブートキャンプをさせられるのでしょうか。今から辛いです。

 

 

 

 

 

*1
2時間

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