クォンタムデビルサーガとFGOのネタバレが含まれています。
1、
エンブリオンについて話を聞かせてもらおう。と、ゴルドルフ所長が食堂で突然に私にそう言っていた。
「ああ、サーフたちのことなのですか。」
話によると、ゴルドルフ所長は彼らを再召喚しようとしていたが、失敗したそうだ。
だから、彼らについて詳しい情報をほしい。
「あのエンブリオンというサーヴァントはいったい何なのだ。データはほとんど改竄されているから、クラスもスキルも全部わからない。分かることは彼らがとてつもない力を持つ三人組だけだ。再召喚すれば、きっとロストベルトで大きな戦力になるのだ。」
「ゴルドルフ所長、再召喚は諦めてください。たぶんそれは根源に至ることより難しいですよ。」
「なにっ。」
2、
最初にサーフたちと出会ったのは特異点Fから帰還してからの初召喚だった。
「〈エンブリオン〉のリーダー、サーフだ。」
銀髪の青年が私に語りかけた。
「〈エンブリオン〉のヒートだ。」
赤毛の男は乱暴な言い方で言った。
「わたし、〈エンブリオン〉のセラ。」
黒髪の少女は嬉しいそうに名乗った。
いきなり現代風の三人が召喚されたことで、職員たちがかなり驚いた。
今となっては、それほど珍しくない状況だが、あのときは霊基を共有するサーヴァントと未来の英霊は特殊なものだった。ステータスやクラスについて、ダヴィンチでも分析できないと言っていた。
とにかく、謎が多いサーヴァントだった。
幸い、彼らは人理焼却という案件について、カルデアと同盟を結ぶことに同意した。
後から職員たちに聞いた話によると、エンブリオンの人たちが未来の英霊であるから、初めは彼らの力をあまり期待していなかった。
しかし、あの三人がカルデアを一回りした後、そんなことを思っていた人が無くなった。
彼らに重要施設を案内しようと思って、三人を中央管制室を連れて行った。
あの時はフランス特異点の解析のため、職員たちが忙しそうに働いていた。
それを見て、サラは言った。
「手伝ってもいい?サーフ。」
サーフはダヴィンチの許可を得て、サラの提案を受け入れた。
彼女が手を振ると、中央管制室の中に大きな騒ぎが起きた。
「フ、フランス特異点の解析は完了しました!」
「特異点にいるすべてのサーヴァントの現在位置を確認しました!」
「聖杯の現在位置、特定しました!」
ダヴィンチとマシュは唖然とサラを見つめた。
「これは一体……」
マシュの問題を、サーフは答えた。
「彼女は量子を操作する能力を持っているから、それぐらいの解析は簡単だ。」
その話を聞いたすべての職員は信じられない顔をして、サラを見た。
「ゲイルがいたら、もっと的確な報告をまとめ上げられるわ。わたしはこれぐらいしかできないの。」
「いや、これで充分でしょう……」
先ほど、フランス特異点の解析をしていた職員の一人は思わずそう言った。
「あと、シミュレーターに特異点Fのエネミーデータを追加したわ。」
「ああ、ありがとう。あれは、もともとは解析が終了した後の仕事でね。」
それを言って、ダヴィンチは三人をシミュレーターを紹介した。
「ここの敵が強いのか。」
ヒートが顔をしかめて、ダヴィンチに聞いた。
サラがそれを答えた。
「アーサー王のサーヴァントのデータを入れたから、かなり強いと思うわ。」
「なら、俺とヒートが行こう。」
「カルデアの電力が足りないから、アートマは使わないで。」
「わかった。」
そういうと、二人がシミュレーターに入って、特異点Fの最後の敵、黒きアーサー王と対峙した。
彼らの戦い方は衝撃的なものだった。
特異点Fで苦戦させられた黒きアーサー王、今でも私たちが勝ったのは幸運の賜物と思っている。
そのアーサー王を、その二人が巧みに追い詰めた。
見る限り、二人と黒き騎士王の身体能力には大差はない。
けど、相手の武器は最高の聖剣エクスカリバー。
その一方、サーフとヒートの武器は数種類の銃器しかない。
それでも、二人は騎士王の猛攻をかいくぐり、自分たちにとって有利な状況を築き上げ、凄まじい連携で相手の動きを封じていった。
「卑王鉄槌。極光が反転す……ッ」
窮地を悟ったアーサー王はすぐに宝具を解放しようとしたが、できなかった。
彼女はサーフの手から放たれた冷気に凍結され、ヒートの手から射出した火炎に焼き尽くされた。
あの二人はこの一瞬のために、自分たちの力を隠し続けていた。
「本物なら、たぶんこんなやすやすと倒されてはいないだろう。」
ヒートはつまらなそうな顔をしていた。
「確かに。宝具解放の時の隙が多すぎる。設定の問題だろう。その前の安定している戦い方と全然違う。」
サーフはさっそく、先の戦いを分析している。
この戦闘を見て、私も他の職員も最初に召喚したサーヴァントがサーフたちであることに幸運を感じていた。
3、
あれから、〈エンブリオン〉の三人は特異点の攻略に大いに貢献した。
サーフとヒートの連携と優れた判断力に何度も助けられた。
サラは膨大な知識と量子操作能力で、みんなのサポートをしていた。
もっとも大事なのは、あの三人と一緒なら、レイシフトの存在証明はかなり楽になることを判明していた。
私の近くにいたサラがカルデアを観測し続けたことで、私の存在を保証したそうだ。
しかし、あのときの彼らは自分たちの過去について、あまり話したくないようだった。
もちろん、カルデアの人々たちと交流を続けていたし、サーヴァントにもよい関係を築き上げた。
ヒートはシミュレーターで他のサーヴァントとよく戦っていた。
サラはマシュと気が合うようで、一緒に読書や散歩などをしていた。
そして、サーフは時々、私を訓練してくれた。
戦いの訓練ではなくて、指揮と判断力の訓練だった。
冷たい外見と反して、彼は意外と面倒見がいい人だ。
そして、弱い者を放っておけない人だと思う。
■
アメリカ特異点で、私は彼らの本当の力を知った。
きっかけは、レイシフト前のブリーフィングで、ダヴィンチとロマニは聖杯の魔力で、サーヴァントたちの戦力を強化するのを決めたことだった
前の特異点でソロモンの脅威を直面したから、その判断は正しい。
しかし、どうやって使うのは問題だった。
数種類の提案を出したが、最後はカルデアの電力を供給し、サーヴァントの宝具を解放する提案を受け入れた。
これにより、多くのサーヴァントたちは封じられた宝具が使えるようになった。
「これでサーフとヒートの宝具が使えるわ。」
サラが中央管制室でカルデアの電力供給を見て、そう言った。
「サーフとヒートの宝具か。そういえば、見たことはないな。」
「カルデア内部で使わないほうがいい宝具だから、シミュレーターでも使わなかった。」
「これで、ようやく全力を出せる。」
ヒートは獰猛な表情をして、サーフとサラと共にレイシフトの準備を始めた。
数時間後、私たちはアメリカ特異点へ出発した。
転移後、目にしたのは、両軍の大規模な戦いだった。
一方はケルト兵、もう一方は機械化兵士と平民の混成部隊だった。
「ケルト兵は敵だ!」
私はとっさに判断した。
機械化兵士は今の時代でも異分子だが、平民を味方している。
ケルト兵は時代も文明も違い。それに、あの兵士たちは明らかに皆殺しの指示を受けて、容赦は一切なかった。
次の瞬間、ヒートは手のひらから直径約数十メートルの火炎弾を敵陣の中心を放った。
「これぐらいで充分だろう。」
ヒートはこともなげに言ったが、私とマシュはケルト軍勢の惨状を見て、言葉も出なかった。
ケルト兵の9割以上は塵一つ残さずに焼き尽くされた。
残存した兵士もほとんど大やけどを負って、見るに耐えない状況になった。
あの一撃はたぶん千人以上の兵士を葬っただろう。
しばらくしたら、肉を焼いた匂いが風を乗って流れってきた。
「気分が悪かったら、少し休め。」
サーフが私の顔色を見て、心配してくれたが、この特異点に来てまだ十数分しか経っていないから、ここで倒れてはいけない。
「ありがとう。でも大丈夫。あれはヒートの宝具なのか。」
「いや。今のヒートにとって、あれは普段が使った火炎弾と大差はないだろう。宝具ではない。」
バカな。あの時の私はそう思った。
先の火炎弾の破壊力や範囲などはAランクの対軍宝具にも引けを取らない。
それは宝具ではないだと。
しかし、よく考えてみたら、これぐらいの威力なら、聖杯を使いまでもなく、普段の電力でも充分に賄えるはず。
シミュレーターで禁止された理由もなかった。
サーフとヒートの宝具はいったい何なのだ、と私は疑問を持っていた。
その謎は数時間後に解けた。
その後、私たちはサーヴァント反応を追って、混成部隊の後方にある医療キャンプに辿りついた。
マシュがバーサーカー・ナイチンゲールを説得し、医療キャンプを離れた途端、新しいサーヴァントが出現した。
「お待ちなさいなフローレンス。どこへ行くつもりなの?軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものって知っていて?
今すぐ治療に戻りなさい。さもたいと――手荒い懲罰が待っているかも、よ?」
「……貴女こそ自分の職場に戻りなさい。私の仕事は何一つ変わりません。」
二人の言い争いが激化して、マシュが慌てて二人の仲介をした。
それにより、新たな情報が判明した。
目の前の新しいサーヴァントの真名はエレナ・ブラヴァツキー。
アメリカは東西に分かれて、内戦を続いている。
エレナとナイチンゲールが所属しているのはアメリカ西部合衆国。
合衆国の“王様”という人はアメリカ大陸をあらゆる次元から分離し、人理焼却から逃れようとする。
「あなたたちの“王様”が考えを変えない限り、同盟を結ぶのは無理だと思います。」
私は自分の考えをそのままエレナに言った。
その計画はただ逃げているだけだ。
たとえ成功だとしても、アメリカの人々が全員時空の迷い子になることは、幸せだと思わない。
それを聞いたエレナは残念そうな表情をして、機械化兵士を命じて、私たちを捕まえにきた。
エレナの様子から見れば、彼女は立場の問題で私たちと敵対しているだけ、まだ話し合いの余地がある。
だから、この場の脱出を最優先にすると決めた。
被害が大きくなると収拾がつかなくなる。
幸い、こちらの戦力は相手より上で、包囲を破るのは難しくない。
だが、エレナもそれを承知していた。
「じゃ、カルナ!ちゃっちゃとやっちゃってー!」
それを聞いた瞬間、思考は加速した。
あの時はもうマハーバーラタを読破したから、カルナの伝承をよく覚えていた。
『わ!?いきなりサーヴァント反応だ!君たちの真上!』
ロマニの警告と共に、サラも観測結果を報告した。
「確かに、マハーバーラタの英雄、カルナ。トップクラスのサーヴァントだわ」
「まずい、今すぐ離脱だ!」
「いや、もう遅い。」
ヒートの言うとおり、カルナはすぐ近くに来ている。凄まじい速さだ。
「俺がやる。おまえたちは全力で余波を防げ。」
「マシュ、宝具は全力に展開して。ヒートの攻撃に巻き込まれたら、私たちは全滅するわ。」
「分かりました。先輩、後ろに下がってください。」
ヒートは前に進み、空中から接近しているカルナと目が合った。
次の瞬間、カルナは戦闘態勢に入った。
「オーム、蓮華の中なる宝珠よ、フーム。〈シヴァ〉!」
ヒートが詠んだのは、私でも聞いたことがある真言の一つだ。
たしか、観音菩薩の真言だった。
そして、彼の姿は変わった。
広い肩の上に乗った丸い双頭と、肩から体側に流れるような黄金の装甲を持つ、真紅の巨神。
『な、なんなのだこれ、ヒートの霊基パタンは神霊に変化した!それも主神級の神霊だ!カルデアの電力は半分持って行かれた!』
ヒートは全身から放たれた破壊の炎を自分の六本の腕で圧縮し、狙いをついた。
カルナは太陽の焔を纏い、全力でそれを迎撃しようと力を溜めている。
「宝具、展開します……!」
マシュの宝具が開戦の狼煙となった。
「梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!」
カルナは上空から自分の槍を投擲し、それは巨大な劫火となり、ヒートを向いて墜落する。
それを応じて、ヒートは万物を焼き尽くす焔の矢を放った。
両者は上空で激突した。
あの時の私は、激しい衝撃を受けて気を失った。
気がつくと、馬車の中にいた。
「大丈夫ですか、先輩!」
「ああ。……ッ!今の状況は!みんなはどうだった!」
マシュは事情のいきさつを語ってくれた。
あの一撃で、勝つのはヒートだった。
焔の矢はカルナの左腕を鎧ごと焼き尽くした。
しかし、意識を失った自分を配慮して、ドクター、マシュとサーフが休戦を提案した。
「なるほど。今はどこへ向かっている?」
「“王様”にいる城です。アメリカ西部合衆国のリーダーと一度話し合う必要があると私たちが思ったので。」
「同感だ。さっきはナイチンゲールのため、戦わなければならないが、その“王様”について、私たちが得られた情報は少ない。もしかすると、説得できるかもしれない。そういえば、サーフたちはどこにいる?エレナとカルナはもう帰ったのか?」
「サーフさん、ヒートさんとサラさんはもう一両の馬車に乗っています。カルナさんとエレナさんは御者をしています。客人に馬車を走らせるわけにはいかないと言って、自ら進んで馬車の御者になりました。」
「そうか。」
数時間後、私たちは客人として、“王様”にいる城に招待された。
“王様”――トーマス・エジソンとの対話の結果によって、この特異点での戦略が大きく変わった。
話し合いというよりナイチンゲールに容赦なく論破されたエジソンがカルデアと全面的に協力し、情報を提供した。
敵勢力と第三勢力のレジスタンスについて、かなり詳しい情報を得た。
しばらくしたら、私は頭を抱えて、敵サーヴァントのプロファイルを見つめた。
「アルジュナがケルト兵に味方している。これはどういうことだ。」
マハーバーラタの中で記されたアルジュナはケルト側に加担するとは思えない。
クルクシェートラ戦争でルールを破ったのは確かだが、人類滅亡を望む人ではないと思う。
しかし、伝承と違うこともあるから、相手をよく知っている人に聞くほうがいい。
「カルナ。アルジュナは敵勢力の客将になった原因について、何か心当たりがあるのか。」
「オレとの再戦を、あの男は求めている。」
「なるほど。しかし、困った。クー・フーリンとアルジュナをメイヴから引き離さなければ、厳しい戦いになる。」
今の状況は暗殺は有効だ。メイヴを暗殺したら、戦況は一気に有利になる。
聖杯の持ち主がメイヴなら、その時点で聖杯を回収して、特異点を修復することも不可能ではない。
問題はあの二人がメイヴの守りに入った場合、暗殺はほぼ不可能だ。
「陽動と暗殺のチームを組む必要がある。」
たぶんあそこにいる全員が同じ考えに至っただろう。
陽動の軍勢で、アルジュナとクー・フーリンを誘き出し、そして暗殺チームがメイヴを倒す。
「最大の問題は人手不足だ。」
「私はレジスタンスに状況を説明し、協力を求めよう。」
数十分後、シバとサラの観測で、レジスタンスの根拠地を発見した。
私はそこに行き、西部合衆国とカルデアと同盟を結び、ともに特異点を解決しようとすることを話すと、レジスタンスの人たちは協力を承諾してくれた。
そして、予想外というべき人物がレジスタンスに保護されると知って、大きな騒ぎを引き起こした。
ラーマーヤナのラーマ王子が重傷を負い、戦闘不能になった。
それを聞いて、ナイチンゲール、サラ、そして数多くのカルデアのサーヴァントたちが全力を持って、彼を治療しようとしたが、できなかった。
「俺の心臓の一部を彼に移殖しよう。」
サーフがそれを言った。
サラにも確認して、サーフの心臓がラーマに移殖できると判明した。
「待て、それをしたら、サーフの体はどうなる?」
「アートマ〈ヴィシュヌ〉は使えなくなるが、ラーマの方が重要だ。それに、永久に使えないわけではない、時間を経てば回復すると思う。」
「どうして、そこまでするのか?」
「彼はたとえ重傷を負っても、自分の妻であるシータを助けようを思っている。それを聞いて、昔のことを少し思い浮かべた。かつて、俺たち〈エンブリオン〉がサラを助けた時も、多くの人たちに助けられた。だから、ラーマが大事な人を取り戻すことに手伝いたい。」
手術は六時間で終わった。
サーフは疲れたようで、寝室に帰った。
ラーマは全快した。
「余はこれからサーフとの約束を果たす。シータを助けてから、汝らに協力する。この大恩を報いるため、余は全速でシータを迎って、最後の戦いに参加する。幸い、離別の呪いはサーフとサラの力に抑えられた。」
「分かった、私たちも手伝おう。」
「その必要はない。余は魔王ラーヴァナと戦った時の力を取り戻した。汝らは最後の戦いに向かって、準備するがいい。来い、ヴィマーナよ!」
空を飛ぶ船を乗って離れていくラーマを見送って、私たちは作戦会議を始めた。
暗殺チームと陽動チームの編成はかなり簡単に決めた。
けど、陽動の戦術は決められない。
決戦を挑むだけで充分な気がするが、もっと派手なことをして、相手が陽動を悟っても無視できない状況を作りたい。
それに、フィン、ディルムッド、フェルグス、べオウルフなどの英雄も敵勢力に所属している。
「カルナを使えばいい、」
ヒートは突然にそういうことを言い出した。
「アルジュナが再戦を望むなら、カルナを無視できないはずだ。」
「オレは異存はない。」
なぜか、ヒートとカルナが先日の戦いの後、仲が良くなった。
二人は事前に打ち合わせをしただろう。
「しかし、他のサーヴァントはどうなるの。」
エレナは当然の疑問を口にした。
「普通の戦いじゃない。一対一の決闘だ。それも相手の軍に大きく宣伝し、出方を伺う」
「相手はアルジュナを止められない。彼はオレと戦うため、正義すら捨てた男だ。クシャトリヤのルールに基づいた決闘を喜んで受け入れるだろう。かといって、アルジュナは大きな戦力だ。一人で決闘に向かうことは許されないはず。」
「なるほど、事前に敵サーヴァントの配置をある程度絞られるし、陽動と暗殺の重要な手がかりになる。もし、アルジュナの隣にいるサーヴァントが少ないなら、決闘した後、陽動チームはそのまま相手の軍勢を食い破り、暗殺チームと合流し、敵本拠地を落とす。逆に、敵勢力の主戦力がアルジュナの傍に居たら、暗殺の成功率が上がる。悪くない作戦だと思う。」
「決闘の契約書はもう用意している。」
カルナが差し出した書類にかなり単純なルールを書いている。
決闘の立会人はヒート。彼はシヴァのアヴァターラだからなのか?
アルジュナはシヴァを信仰しているので、この人選に異論はないだろう。
「この計画でいこう。明日、敵陣に行き、挑戦状を送ろう。」
最高の計画とは呼べないが、それなりの成功率があるはず。
この時、カルデアから急報が入った。
『ラ、ラーマが敵サーヴァント数名と交戦している!』
「今すぐ映像を転送してくれ!令呪のサポートが必要かもしれない!」
『余の邪魔をするな!』
ラーマの戦闘を目にした全員は私と同じ感想を抱いただろう。
「うわ、やり過ぎるだろう。」
あれは戦いと言うより蹂躙だった。
ヴィマーナの砲撃、空を覆い尽くすほどの武器の雨、巨大なチャクラムなどで、ラーマは敵兵士を殲滅していった。
「あれはインドラのヴァジュラ、スダルシャンチャクラ、そしてブラフマーストラとナーラーヤナストラ。これほどの武具を使いこなせるラーマ様は確かにパラシュラーマ師が言っていた通り最高の戦士だ。」
「先輩、ラーマさんが使っている宝具は真名解放ができるようです。対軍・対国宝具が四つ以上も使えるなんて。」
カルナの解説を混じって、全員はラーマの強さに再認識した。
スダルシャンチャクラはヴィシュヌの武器で、クリシュナが愛用していた。その大きさは自在に変えられ、かつて人為的に日食を引き起こしたそうだ。
ナーラーヤナストラはマハーバーラタに使われたことがある。アシュヴァターマンは父ドローナが姦計に殺されたことを知って、アルジュナ兄弟たちを殺そうとする時に使った武具だ。一度しか使えないが、マハーバーラタで記された武器の中でも最高位だ。
『先の攻撃に巻き込まれたフィン、ディルムッド、フェルグスは消滅した。』
映像を切った私は発言した。
「ラーマの強さは想像以上だ。作戦を修正する必要がある。私はこれからアルジュナを会いに行く。暗殺チームは今すぐ出発してくれ。明日は最終決戦だ。メイヴが新しいサーヴァントを呼び出す前に一気にこの特異点を修復しよう!」
作戦会議の後、私は回復したサーフと〈シヴァ〉に変化したヒートと共に、アルジュナがいる陣地に向かう。
ついさっき、アルジュナが前線に移動したという情報が入った。
たぶん、ヒートの攻撃を調査しに来ただろう。
「これは、アルジュナ将軍へ、カルナ将軍からの挑戦状です。」
「なにっ!」
それを聞いて、アルジュナが顔色を変え、差し出した書類を食い入るように読み始めた。
「決闘の日時は明日の正午で、戦いのルールや立会人などについて問題はありますか。」
「ない。シヴァ神のアヴァターラが公正な裁判をすることを信じています。」
アルジュナから契約を受け取ったサーフが高らかに言った。
「この契約はミトラの祝福を受け、天則の保持者であるヴァルナに守られるとここに宣言する。」
■
私たちが自陣に帰った時、もう夜になった。
しかし、明日のことを考えると眠れなかった。
外を歩いていると、ヒートが空を見上げるのを見た。
「まだ起きているのか。」
「ああ、眠れない。ヒートは何をしている?」
「星を見ている。生前はあまり見ていないからだな。」
「見ていないって、どういうこと。」
「俺が生前、本物の夜空を見たのは数回しかない。ジャンクヤードに出てから、殆どドーム都市の中で過ごしていた。始めて見たのは〈ザ・シティ〉、かつてワシントンと呼ばれた都市を滅ぼした後だ。」
「はあ!?」
突然に生前の破壊行為について語り始めたヒートに驚きながら、私はジャンクヤードという単語を頭の中に入れておいた。
そして、作戦会議からずっと気になっていることを彼に聞いた。
「どうして、カルナとアルジュナの決闘を手助けをするのか。」
決闘は確かに注目されやすいし、陽動に持ってこいが、リスクも高い。
カルナがアルジュナに倒される可能性がある。
「この戦闘を望むのはアルジュナだけではない。カルナもだ。彼らはサーヴァントになっても、お互いを執着している。一度、決着を付くほうがいいと思うぞ。カルナを気に入ったし、先に会ったアルジュナにも嫌いではないから手伝おうと思った。」
「なるほど。」
「サーフと同じ、昔のことを思い出した。かつて、俺とサーフと本気に殺し合った。あの戦いにお互いにとって納得にいった結末だった。サーフが悲しんでいたが、俺の選択とあの戦いを認めた。俺は死んだが、仲間たちの未来を祝福しながら死んだ。敗者は勝者を祝福し、勝者は敗者を通じ合った。あの二人にも一度あのような遺恨はない戦いをして欲しいと思う。」
「人理焼却が解決した後のことを考えて、私もこの方がいいと思うよ。」
人理焼却が世界の終わりではないと信じているから、私たちは戦い続ける。
サーヴァントになっても、英霊は成長する。
人も英霊も未来を向かって進んでいく。
だから、私はヒートの思いに賛同した。
■
そして、決戦のときが来た。
両軍が対峙し、カルナとアルジュナが前に進んだ。
カルナは太陽の炎を纏って、アルジュナを見つめた。
アルジュナは弓を持って、油断なくカルナの動きを観察していた。
ヒートは決闘者たちに語り始めた。
「俺はこの戦いの裁判、ヒートだ。戦う前に、一つだけ言いたいことがある。この戦いはかつてのやり直しではない。これは数多くの選択によって築き上げたもの。おまえたちがここまでの歩みがもたらす奇跡だ。
──────だから今度は、悔いはないように、限界を超えて戦え!」
戦いは始まった。
カルナとヒートは自分がやるべきことをしている
私も自分をやるべき事をした。
『暗殺チーム、メイヴを発見した。』
「ここにいる敵サーヴァントはアルジュナ、クー・フーリンとべオウルフ。敵の主戦力はここに集まっている。サラとシバの観測結果によると、メイヴの周りにサーヴァントはない。陽動は成功したが、気をつけて。」
『分かった。』
暗殺チームと連絡と取っている間、カルナとアルジュナの戦いは一進一退の様相を呈している。
あの二人の戦いは高度すぎて、私には理解できない。
だが、戦場の空気が行き詰まっているのを感じた。
この停滞状態を打ち破るため、カルナとアルジュナは同時に切り札を切った。
「神々の王の慈悲を知れ、絶滅とは是、この一刺し──―」
「神性領域拡大、空間固定!」
カルナの鎧が分解し、インドラの槍が本当の姿を見せた。
その瞬間、二つの影はカルナに向かって突進した。
「
一人は狂王クー・フーリン、カルナを倒すため、彼はこの一瞬の隙を見逃さなかった。
「オーム、蓮華の中なる宝珠よ、フーム。〈ヴァルナ〉!」
もう一人はサーフ。彼は契約の守護者として、この決闘を守ろうとする。
カルナに向かって放たれた必殺の槍は射線上にいるサーフに命中した。
サーフは両腕の刃でその槍を心臓から逸らしたが、右胸が貫通された。
クー・フーリンがそのままサーフを追撃しようとしたが、ヒートが放たれた火炎弾に邪魔された。
「……サーフ!」
「クー・フーリン……貴様……!!」
カルナとアルジュナは攻撃を中断し、クー・フーリンを見据えた。
「うるせえ、一騎討ちがオレが認めたか。テメエの趣味を走るのは趨勢が決まってからだろうが。」
「それについて……俺も同意する……戦場ではあなたが正しい……」
「ほう、まだ動けるか。」
「だが……あの二人にとって……これは決闘だ。この契約を守るのは俺の仕事……」
「ふん、くだらない。」
クー・フーリンの動きと連動して、ケルト軍が動き出した。
戦場はすぐに乱戦状態になった。
「おまえら、さっさと戦え!ケルト軍が俺たちは抑える!」
両手の鉤爪を火を纏い、クー・フーリンに襲いながら、ヒートはカルナとアルジュナに言い放った。
「アルジュナ。」
「カルナ。」
「「ここですべてを終わらせる!」」
「全員退避!あの二人に近づくな!!」
私の指揮を聞いたヒートは重傷を負ったサーフを背負って、全速で効果範囲から離脱した。
クー・フーリンとべオウルフも離れていった。
「スーリヤよ、ご照覧あれ。もはや戦場に
「神性領域拡大、空間固定!カルナ、貴様に勝利しよう!『
宝具の衝撃は大地を揺るがし、空の雲を吹き去った。
戦いの結果は――
「引き分け、ですか。」
『
『
両方も致命傷を受けた。
「「……まだだ!」」
カルナとアルジュナは同時に動き始めた。
まるで、引き分けという結果を認めないように。
「ブラフマーも照覧あれ、これがオレの最後の戦いだ!『
「
宝具が相殺し、二人が崩し始めた霊基はその衝撃を耐えられず、光の粒子となって空に消えてゆく。
神々が授かった武具は最後の一撃を放った後、音も立てずに砕け散った。
それでも、カルナもアルジュナも止まらずに前に進み、自分のライバルに何度も拳を振り落とした。
「……一つ聞きたいことがある……なぜ貴様はあの時……私に微笑んだ……」
カルナの答えは、私には聞こえないが、アルジュナに確かに伝えた。
「クッフフフ……アッハハハハハハハ!なるほど、そうなのか!ああ、シヴァよ!ヴァルナよ!我が宿業を昇華した戦いを祝福した神々に最大な感謝を!」
晴れやかな笑い声を残って、アルジュナは消滅した。
「どっちの勝ちだと思う。カルナ。」
ヒートは消滅しかけたカルナに問いかけた。
「アルジュナだ。あの男は生前の自分を越え……」
「勝つのはカルナ、おまえ。先に消滅したのはアルジュナだ。誇るがいい、おまえも生前の自分を越えた。」
少し驚いた表情をしたカルナは私、サーフとヒートに一礼して、消え去った。
「茶番だな。」
クー・フーリンが一連のやり取りを見てそう言った。
「あんたから見れば、そんなんだろう。私から見れば、あなたがやっていることも茶番だと思うぞ。それに、あんたもそう思っているだろう。」
私はクー・フーリンに言い返した。
クー・フーリンは王ではない。戦士だ。
カルデアでクー・フーリンと交流を続けている私から見れば、この特異点で王になったクー・フーリンも確かにクー・フーリンだ。
心の中で茶番だと思っても、自分が生前に会った醜い王を演じ続けていた英雄だ。
次の瞬間、狂王は何か異常を感じたようだ。
『こちら暗殺チーム、メイヴを倒した!聖杯はいない!しかし、彼女が死ぬ前に何かを召喚したようで、気をつけてくれ!』
「メイヴが死んだか。」
「ああ、聖杯はあなたの手の中にあるだろう。しかし、負けると分かっても、戦い続けるだろう、クー・フーリンが。」
「よく知っているな、小僧!」
クー・フーリンの後ろから、アレは出現した。魔神柱のようなもの
カルデアの観測でアレは二十八体の魔神柱の集合体だと分かった。
「『
クー・フーリンがヒートに向かって突進した。
それと同時にべオウルフがサーフを抑えた。サラがサーフの周りに情報障壁を展開し、彼の負担を減らそうとしている。
「マシュ!宝具を展開して、時間を稼ぐのだ。令呪でサポートする!」
「その必要はない。」
黄金の砲撃は『
だけど、その傷は見る見ると回復した。
ヴィマーナは悠然と戦場の上空に飛行している。
「シータ。ヴィマーナは任せたぞ。僕は全力でその魔物を討つ。」
「はい、ラーマ。今、私はとても幸せなのよ。あなたと共に戦場に出るなんて。」
「僕もだよ、シータ。……『
ラーマはゆっくりと弓を引いた。
その矢があらゆる魔性を打ち払う聖なる力を持っている。
「羅刹王すら屈した不滅の刃、その身で受けてみよ!『
閃光の後、『
ラーマはヴィマーナから降りると、ヒートと対峙しているクー・フーリンに走り出した。
それを気づいたヒートは後ろに下がって、サーフの援護に向かった。
「獲物は譲る、しくじるなよ。」
「感謝する、シヴァの化身よ。」
クー・フーリンとラーマが交差し、勝敗は決めた。
「……やはり、貴様は凄まじい戦士だ、クー・フーリン」
腹がゲイ・ボルグに貫通されたラーマはクー・フーリンにそう語りかけた。
「………………」
狂王の全身が数多くの武具に突き刺され、息絶えた。
これはこの特異点の結末。
4、
第五特異点から帰還した直後に、マシュは倒れた。
「マシュのことを話してもらえるか?ドクター。」
「わかった。」
ドクターがマシュの生い立ちを私に告げた。
デザイナーベビーのこと、デミ・サーヴァントのこと、そしてマシュの寿命のことを、すべて。
「寿命のことを、マシュが知っている?」
「……知らない筈だ。少なくとも誰も、彼女にこの事は話していない。」
「いいえ、マシュはもう知っている。」
振り返ると、サラ、サーフとヒートが後ろに立っている。
「どうして、そんなことを。」
「デザイナーベビーのことを気づいたわたしに、マシュが活動限界のことを打ち明けたの。彼女は自分の体のことをよく知っているわ。」
「マシュとサラは似ているから、俺たちもデザイナーベビーのことを薄々と気づいた。マシュもサラがデザイナーチャイルドのことを気づいたはず。」
「大体、マシュは隠れることに不得手だ。」
「サラもデザイナーベビーなのか!」
ドクターはかなり驚いた。
「サラはかなり特別な調整を受けたが、俺たちの時代ではデザイナーベビーというものはそれほど珍しいものではなかった。」
「いい機会だ。マシュも呼んで、少し昔話をしよう。」
そして、彼らは語り始めた。
一生懸命に生きた人々たちの物語を。
■
サーフとヒートはジャンクヤードと呼ばれたところに生まれた。
ジャンクヤードは七つのエリアに分かれて、不可侵エリアのサハスララを除き、六つのエリアを制するトライブは楽園ニルヴァーナへ向かう資格を得る。
楽園に行くため、あそこにいるすべての人々は終わりのない戦いを続けていた。
〈エンブリオン〉は少数精鋭で構成されている最も新しいトライブという。
そして、サラがジャンクヤードに出現した。
この身分不明の少女は〈エンブリオン〉と〈アサシンメンツ〉の戦場の中心にある謎の物体から現れ、〈エンブリオン〉に保護された。
それと同時に、ジャンクヤードの人々はアートマという力を得た。
異形に変身し、敵を喰らって力を貯める新しい能力だ。
生きるために人を喰らわなければならない呪いだ。
それはジャンクヤードの新しい戦い方だ。
リーダー、サーフのアートマは水の神〈ヴァルナ〉。
攻撃手、ヒートのアートマは火の神〈アグニ〉。
狙撃手、アルジラのアートマは大地の母神〈プリティヴィー〉。
参謀、ゲイルのアートマは風の神〈ヴァーユ〉。
歩兵、シエロのアートマは天空の父神〈ディヤウス〉。
この五人は〈エンブリオン〉の中核となった。
さらに、ジャンクヤードを管理するカルマ教会は「黒髪の少女を連れジャンクヤードの覇者となったトライブにのみ、ニルヴァーナはその門を開く。」という新しい掟を公布した。
戦いがますます激化したジャンクヤードの中で、サーフは〈メリーベル〉と〈ハウンズ〉二つのトライブと結盟し、状況の打開を求めた。
激しい戦いの最後、記憶を回復したサラは一人カルマ教会に行き、戦いを終わらせようとする。
サーフは仲間と共に彼女を追った。
その途中に、大事な仲間を二人失った。
〈メリーベル〉のリーダーのジナーナは友人に謝罪して、暁の女神〈ウシャス〉は狂った部下と共に光の中で跡形もなく消えた。
〈ハウンズ〉を所属し、サーフとヒートの育ての親であるルーパは自分の息子たちに願いを託して、冥府の番人〈ケルベロス〉は変わり果てた仲間を連れて冥府に行った。
教会の塔を登りきった時、残されたメンバーは〈エンブリオン〉のサーフ、ヒート、ゲイル、アルジラとシェロ五人だけだ。
サラを巡っての戦争の果てに、ジャンクヤードの終焉が訪れた。
崩壊に巻き込まれて、全員が外に放り出された。
そこで、サーフが目にしたのは、死をもたらす黒き太陽。
彼らが到達したのは、死と狂気の充満する
■
外で謎の勢力に襲撃されたサーフはアルジラとシエロと合流した。
サーフが二人と一緒にレジスタンス〈ローカパーラ〉に行き、情報を求めた。
そこの人々たちは痩せ衰えて、武器もサーフが見たものより数段劣る。
〈ローカパーラ〉の構成員たちは、サーフたちをパーフェクト・アスラと呼び、恐怖していた。
サーフに対し、彼らはこの世界の状況を憎悪を込めた声で話した。
キュヴィエ症候群、それは太陽光線による病気で、黒き太陽の光に当たったとたんに発症し、全身の細胞が水晶かガラスのように結晶化して死亡する。
テクノシャーマンの実験によって、太陽は五年前から黒くなって、
全人類の三分の一が一瞬で死に追い込んだ。
今、太陽光線が防げるドーム都市は世界を支配している〈カルマ協会〉に選ばれた人間でしか入らない。
そして、〈ローカパーラ〉は人民を選別し虐げる〈カルマ協会〉と彼らが擁するテクノシャーマンの支配に反抗する地下組織だ。
サラの全名はテクノシャーマン・セラフィータ。
世界を破滅に追い込む魔女として、〈ローカパーラ〉の人々たちに恨まれた存在だった。
ここの人間にとって、サーフたちはテクノシャーマンと協会と同じ、世界を壊した存在だ。
その後、〈ローカパーラ〉のリーダー、ロアルドはサーフに対し、この世界の状況についてもっと詳しく話した。
アートマは協会が開発したもので、特殊なチップを人体に差し込んだことによって変身能力を得て、陽光のもとで活動できる。
サーフたちは〈ジャンクヤード〉という戦闘用シミュレーターで独自進化したAI。
今、彼らの躯体はパーフェクト・アスラと呼ばれ、世界最強の戦闘用兵器という。
協会の情報を得たサーフたちはすぐにサラを助けに行くと決めたが、ロアルドがそれを止めようとした。
パーフェクト・アスラを兵器だと思っているロアルドに対し、サーフたちは〈ローカパーラ〉と〈協会〉の命令を従う気がないと言い放した。
しかし、サーフはシエロを〈ローカパーラ〉に残した。
サラを救出した後、彼女を保護する場所が必要だからと、サーフはシエロにそう言った。
それから、サーフとアルジラは〈ニューヨーク〉へ向かった。
〈ニューヨーク〉は贅沢を極めた都市。
あそこの人間は地下にいる人類の苦しみを何にも思わない。〈カルマ協会〉がすべてを解決すると盲信し、幸福な生活を過ごしている。
〈カルマ協会〉の指導者、マダム・キュヴィエはサーフとアルジラに〈ザ・シティ〉の繁栄を見せ、懐柔するつもりだったが、逆効果だった。
サーフとアルジラはこのまやかしの楽園を拒否し、ゲイルと合流した。
そして、サーフたちは予想外の敵と対面した。
ヒートは協会と手を組み、サーフたちを殺しにきた。
新しい力〈シヴァ〉を得たヒートに、サーフたちは敗北した。
幸い、危険を察知したシエロは高速で飛んできて、全員を脱出させた。
負傷したサーフを回復するため、〈エンブリオン〉はレジスタンスの根拠地に帰った。
だが、その時、彼らの体が餓えを感じた。
ロアルドは彼らに言った。これはアートマが普及されない理由だ。
アートマ使いはヒトタンパク、つまり人肉を摂取しなければならない。
クローンではなく、本物の人間を食わなければならない。
レジスタンスが生き延びた理由は食われるため。
ロアルドは大量の死体を彼らに投げた。それはサーフが目覚めた時殺した敵だった。
サーフと仲間たちは生きるため、サラを取り返すため、目の前の死体を食った。
その数時間後、〈カルマ協会〉が〈ローカパーラ〉に襲撃してきた。
ロアルドはサーフたちを防衛を命じたが、拒否された。
サーフたちは自分たちを武器としか見えないロアルドの言葉に反発し、一度根拠地から離れようとしたが、非戦闘員の救援に向かった。
〈エンブリオン〉は、無力な人間を見捨てられないから。
襲撃部隊の中の上位アートマ〈アルター〉との戦いは激しかった。
最後の最後に、ロアルドが指揮した〈ローカパーラ〉が一撃を〈アルター〉に加えなかったら、勝てなかった。
その戦闘の後、レジスタンスの人々の空気は変化していた。警戒や恐れの感情はあったが、好奇心と半信半疑の視線もあった。
その変化を見たサーフは一度〈ローカパーラ〉の人間を見殺しにしようとしたことについて、罪悪感を感じた。
それから、ロアルドと話し合った結果、〈エンブリオン〉は〈ローカパーラ〉と同盟関係を結んだ。
逃げるという選択肢があるにもかかわらず、ロアルドたちは自分たちの危険を顧みずに、サーフたちを助けた。
それは、戦って生き残る意思の表しだと、彼らは言った。
かつて、ジャンクヤードで戦い抜いた〈エンブリオン〉と同じだと、彼らは認めた。
協会に飼われる市民より、レジスタンスの人はずっと強いと、地上最強の兵器たちは言った
ロアルドはそれを聞き、笑い出した。
あなたたちは兵器で悪魔だが、人間だ。と彼は自分の間違いを認めた。
そして、サラを助けるため、〈エンブリオン〉と〈ローカパーラ〉の合同作戦が始まった。
サーフは途中で囚われた人間を救い、彼らから聞いた情報によってサラの居場所を最初に辿りついた。
だが、まだ覚醒していないサラを守るため、彼は〈アルター〉との戦闘で治らない傷を負った。
後から来たヒートは瀕死したサーフを自分の手で楽にしてやりたいが、一瞬躊躇って、アルジラの攻撃に邪魔された。
そこから離れた時、ヒートは自分がサーフを殺したという嘘をついた。
目覚めたサラの目の前に、サーフは消滅した。
■
サーフが死んだ後、サラと他のメンバーは〈ローカパーラ〉の根拠地に帰った。
最も動揺したのはゲイルだった。彼はリーダーが死んだのが自分のせいだと言い張り、仇討ちを望んだ。
それから、ロアルドの問いかけに、サラは自分が知った世界の真実を話した。
すべての始まりは、高次元宇宙からやってきた〈神〉と呼ばれた情報生命体。
ある時空の変動が〈神〉を仲間から引き離し、本来の居場所から遥か下の低位次元に押し流してきた。
低位次元から脱出するため、〈神〉は情報が必要だ。
そして、彼はこの惑星で生命を作り出した。
この星にいるすべての生命は〈神〉にとって、自分が高次元に帰るための拡張ユニットに過ぎない。
しかし、神にとって不本意なことが起きた。
人類の感情だ。
〈神〉は感情を理解できず、その情報を処理できない。
意識、自我、感情という毒が混ざった情報は、〈神〉を狂わせた。
キュヴィエ症候群は神の生存本能がもたらした病気だ。
〈神〉は人類を演算ユニットにするため、地表のあらゆる生命を水晶化した。
もともと、〈神〉は自分の本能を抑えて、他の解決法を探していたが、五年前の事件によって〈神〉は完全に狂った。
やがて、狂った〈神〉は感情という情報の重石によって、落ちてくるだろう。
これは三次元世界だけでなく、〈神〉が住んでいた高次元も巻き込むカタストロフ、物質も情報も何もかも飲み込む、宇宙的にメルトダウンとなる。
神にとって、人類はコンピューターのメモリモジュールと同じだ。
ロアルドはそれをしばらく受け入れなくて、泣いていた。
しかし、その時急報が入った。
〈シヴァ〉は〈ザ・シティ〉を焼き尽くした。ヒートの次の目標は〈ニューヨーク〉だ。
残った〈エンブリオン〉全員は〈ニューヨーク〉でヒートを迎え撃ちと決めた。
しかし、出立する前に、地下にいる住民たちは暴動を始めた。
〈ザ・シティ〉が消滅したことに、人々は衝撃を受けた
テクノシャーマンがそれをやった、と誰かが言った。
魔女を引き渡せと、みんなが怒鳴った。
ロアルドは安全なルートを用意して、サラをニューヨークに行かせるつもりだったが、サラはそれを拒否した。
彼女は住民たちの前に出て、今の状況を説明するつもりだ。
無論、ロアルドと仲間たちに反対されたが、彼女は動じなかった。
彼らと会って話さなければならない義務があると、サラは言った。
折れたロアルドが護衛を手配した。
最初は、人々は暴れてサラの話を聞こうともしなかったが、一人の男、一人の少年と赤ん坊と抱えた女性は前に出て、住民を鎮めた。
彼らはサーフたち〈エンブリオン〉に救われた人だ。
男はグレイグ、少年はフレット、女性はアネットという。
そして、赤ん坊は恩人であるシエロの名前をもらった。
サラは嬉しかった。サーフはみんなの中にいることを感じたから。
〈ニューヨーク〉に、暴動は起きた。
〈ザ・シティ〉を消滅した存在がいま〈ニューヨーク〉へ向かってきたということはみんなに知られたから。
人々は醜い争いを始めた。
それを止めたのはサラと〈ローカパーラ〉だった。
彼らは都市の機能を手に入れ、テクノシャーマンの信仰を利用して、人々を落ち着かせた。
〈ローカパーラ〉の構成員にとって、〈ニューヨーク〉に住んだ人たちは自分の敵だ。
しかし、彼らは自分の敵意を抑えられた。
かつて、自分たちを救ったサーフと、身を挺して全人類を救えようとするサラが無力な人間を殺すのを望まないと信じているから。
そして、ヒートは来た。
サラとの対話を拒絶したヒートはゲイル、シエロとアルジラと激戦した。
〈神〉と接続したサラに力を抑えられても、〈シヴァ〉の力は圧倒的なものだった。
最初に重傷を負ったのは冷静を失ったゲイルだった。
それから、ヒートはシエロとアルジラの攻撃を平然と受けながら、〈神〉と接続するための設備を奪った。
ヒートは〈神〉のパワーを使って、地上を焼き払おうとした。
絶望に陥った三人の前に、不思議なことが起こった。
サーフが帰ってきた。
彼はヒートの腹を切り裂いて、現世に戻った。
そして、〈餓え〉を感じたサーフは食糧を求めて、ヒートを狙った。
ヒートは笑って〈シヴァ〉の力を捨て、〈アグニ〉で餓えたサーフに応戦した。
サーフが正気に戻ったのは、ヒートの心臓を刺し抜いた後のことだった。
もう助からないと悟ったヒートは自分の思いを仲間に告ぎ、サーフに自分の力を託した。
■
みんなは重い表情をして、〈ローカパーラ〉の根拠地に戻った。
サーフは自分が消滅した後のことを全員に説明した
塵を化したサーフの意識は世界中に拡散し、時空に遍在する純粋な一個の『観察者』となった。
その観察者がいる場所は、『虚無の岸辺』と呼ばれた。
その場所の記憶が段々と薄くなるが、いくつか知り得ることはある。
〈神〉による、宇宙のメルトダウンを防ぐ方法もその一つだ。
この事件の原因は、〈神〉が感情という情報を処理できないから。
なら、その情報を処理する方法を与えればいい。
その解決案を実行するため、サラと〈神〉と交信する施設〈EGG〉を探し出さねばならない。
〈EGG〉は〈カルマ協会〉の最高機密だ。
かつてそこで働いていたロアルドでも位置を知らされていない
しかし、現在の協会はマダム・キュヴィエの死によって崩壊した。
機密情報でも、少し時間をかかれば解析できるはず。
みんなが希望の光を見えてきた途端、それが襲来した。
原初のアートマ〈ルシファー〉。
サラの親、先代テクノシャーマン・エンジェルが変化したもの。
彼/彼女はサラのところを目指してきた。
〈エンブリオン〉はそれに応戦した。
ヒートの力を継承したサーフは、新たなアートマ〈ヴィシュヌ〉を手に入れた。
ゲイルは〈ルシファー〉の防御を砕いてから、サーフの双剣はかつてエンジェルと呼ばれた者を両断した。
体が砕いて散った彼/彼女が残されたものは、一枚の小さなチップだけ。
サーフたちが地下に戻ると、ベットに眠っているサラの姿を見て、唖然とした。
医療器具に繋がっている彼女はやせ衰えている。
地下の民衆は〈ルシファー〉が生み出した無数の異形に襲われた時、彼女は人々をまとめ、導きながら、サーフたちの戦いをサポートしていた。
そして、敵の集中攻撃を受け、内臓がボロボロになって、キュヴィエ症候群が発症した。
サラの余命が長くて二週間だ、と医者がサーフたちに告げた。
〈エンブリオン〉と〈ローカパーラ〉との話し合いの結果、ここにいる全人類を地上のニューヨークに移動することを決めた。
〈神〉に新しい概念を入力した時、物質世界に大きな影響を及ぼすと予測されていた。
地震、津波、暴風など、あらゆる災害は人類に襲うだろう。
崩落する危険がある地下コロニーより、地上の避難所のほうがマシだと、全員はそう判断した
総数、八九二七名。
それは、地上の人類のすべてだった。
しばらくしたら、〈EGG〉の正確位置が判明した。
そこに行くのは、サーフとサラ二人だけ。
ゲイル、シエロ、アルジラは、人類を守るために大きな決断をした。
サラの予測によると、人類がこの災害を凌ぎきれる確率は数パーセントしかない。
それを聞いたサーフは、一つの計画をサラに伝えた。
そして、仲間たちに頼んだ。
ゲイルとサラはかつてサーフを分解させた〈アルター〉の力を解析し、数本のアンプルを作り出した。
そのアンプルはパーフェクト・アスラの体を分解し、地球規模の量子ネットワークを作り上げる効果がある。
作戦が成功した時、〈神〉の影響から人類を守れるのはこの量子ネットワークだけだ。
しかし、量子ネットワークとなった三人は、人格が完全に失くした可能性もある。
だが、ゲイル、シエロ、アルジラはその計画を快く受け入れた。
ロアルドはこの計画を聞いた時、激しく反対した。
彼は〈エンブリオン〉が消えて欲しくなかった。
これはすべて人間の引き起こした問題で、あんたたちが命をかけてまで関わり合ってくる問題ではない、とロアルドは言った。
だけど、サーフたちはもう決意した。
その決定がもう変えられないと知ったロアルドは、サーフたちと別れをついた。
「あんたたちと知り合ってよかった。ただの兵器じゃないことを、思い知らせてくれてよかった。」
■
最後の時が来た。
サーフは〈ヴィシュヌ〉に変化し、サラを背負って〈EGG〉に向かった。
サラの命は途中で燃え尽きた。
彼女はサーフを自分を食って、〈神〉と接続しようと願って死んだ。
〈ヴィシュヌ〉は世界を維持する神。
世界を支えて守り繋げる者。
ヒートとサラの思いを受け止めたサーフは〈EGG〉に入った。
そして、世界は救われた。
5、
「もっと詳しい内容は、ダヴィンチちゃんのところにあります。三人の録音データは保存されたはずだ。」
私はゴルドルフ所長に言った
少し間を置いて、所長は口を開いた。
「いや、ちょっとおかしい。確かに壮大な物語だったけど、再召喚できないことについての説明はないぞ。」
「えっと。」
言い訳を探している間、後ろから話しかけた人がいる。
「ボクから説明しよう。」
「ロマンか。」
「ドクター、それは。」
私は慌ててドクターを止めようとする。
「大丈夫。ゴルドルフ所長は信頼できる人だよ。」
それから、ドクター・ロマンは自分の正体について、所長に話した。
「え、おまえら、こんな大事なことを私に隠しているのか?」
「すみません。ドクター・ロマンはもうソロモンとしての力と知識を失って、ただの人間になりました。だから、彼に普通の生活を送らせたいと思って。それに、ドクターが帰った理由を話したら、大騒ぎになります。」
「帰った理由?あの三人に関係があるのか?」
「ええ、ボクはあの時のことをほとんど忘れ去ったが、彼らの姿を今でも覚えている。」
ソロモンが最後の千里眼で知った真実を、人類になったドクターは語り始めた。
。
■
ボクが消えた後、ネガ・サモンの影響から逃れたサーフたちは〈ヴィシュヌ〉となって、立香を狙った
立香はサーフたちが切り開いた活路を走り抜き、マシュの盾で魔神王ゲーティアの体を貫いた。
ボクは『虚無の岸辺』でそれを見た。
見たが、反応しなかった。
あの時のボクは個という概念を喪失し、安寧の中で眠っていた。
そして、あの三人はボクにそれを見せた。
命を理解した魔神王ゲーティア、いや、人王ゲーティアと立香との最終決戦は熾烈きわまるもの。
しかし、ボクが衝撃を受けたのは人王が最後で使った指輪だった。
「主よ、生命の歓びを。」
それは、生命を理解し、答えを得た証だ。
ボクの心は、かつてないほど動揺した。
振り返ると、あの三人はボクの後ろに佇んでいる。
「あ、あなたたちは一体どうやって。」
あの時のボクは混乱した。
安らぎの中から目覚めたから、眼前にいる三人の異常さを認識した。
「その目で俺たちを見ろ。そうしたら、理解できるはず。」
ボクは言われた通り、千里眼でサーフの目を見つめた。
彼らの存在のほんの一部を読み取った途端、千里眼は負荷に耐えずに消滅した。
それと共に、何か重石のようなものが消えてなくなった気がした。
ボクは自分がカルデアに帰れると確信した。
「お前がソロモンをたらしめるすべての力はその千里眼と共に消滅した。したがって、今のお前は第一宝具に縛られない。後は選択するだけ。ここで永遠の安らぎを得るか、それとも仲間たちのところに帰るか。」
「仲間たちのところに帰ります。」
ボクは即答した。
そして、別れを告げた。
「ブラフマン、マイトレーア、弥勒、ミトラ……そして他に数多の名を持つ救世主。かつてボクがメサイアと称えた光よ。ボクはこれから自分の意思で人の世に帰り、苦難の道を歩き出します。いつか、あなたの足もとに到達するまで、しばしのお別れを。」
あの三人は一つの光になって、周りを照らした。
気が付くと、ボクがシステム・フェイトの召喚陣の中心に立っていた。
■
「そして、ボクはみんなと再会し、この一連の出来事を話した。千里眼で得た情報で、彼らの真名をアバタール・チューナーとし、未知の霊基パターンを
「あの時、カルデアのデータベースから、サーフたちの霊基グラフが消えたことで一大事になりましたよ。」
「ま、待て。おまえら、なんでこんなことを私に話したのだ。カルデアに救世主が居たことを聖堂教会と時計塔に知られたら、全員封印指定になるわ!」
「私は誤魔化そうと思ったが、所長の勘がすごく良かったので、誤魔化せなかったです。そもそも、職員たちも再召喚が失敗した原因を所長に話しなかったですよ。」
「ああ、今なら分かる。救世主は降臨する者であって、召喚される者ではない。しかし、なぜ異聞帯の事件について、助けてくれないのか?」
「ボクの推測に過ぎないが、たぶん異聞帯との戦いは生存闘争だからだろう。どちらも生きるために戦ったから、介入すべきではないと考えたかもしれない。あるいは、ボクたちの中でアバタール・チューナーが居て、私たちを導いていることも考えられる。チューナーは時と空間を超越する存在だから。」
「たとえ救世主の救いがなくても、私たちができるのは、世界を取り戻すために全力を尽くすだけですよ。滅ぼしてきた異聞帯のことを考えても、頑張らなくちゃ。」
私はそう言って、席を立った。
■
あらゆる因果から解放された自由の岸辺で、光は少し前に自分が居た世界を見つめた。
七つの世界がその世界に付着し、それを飲み込もうとしたが、今は三つの世界はその世界から切り離された。
切除された世界が奏でる音楽は周りの世界と共鳴し、新たな音を発した。
偉大なるツァーリの死骸が塵となって、数百年をわたって蓄積された魔力は放出されて、気候を変わった。
他人に思いやる心を取り戻したヤガたちはやがて手を取り合い、前に進むだろう。
愛に狂った炎の巨人が倒れ、愛に満ちた雪の女神は最後の力を振り絞って、世界に春をもたらした。
巨人が消え、壁の外に出られる少年と少女は、この新たな世界を探索し、やがて神を頼らない文明を築き上げるだろう。
人の可能性を閉ざした皇帝はカルデアとの戦いで、この世界が欠けた物に気づいた。
王と共に歩く人々は、やがて生きるための苦しみを自覚しながら、未来への道を切り開くだろう。
三人だった光は自由の岸辺から離れ、ニルヴァーナへ飛翔した。
すべての命がやがて自分たちのところに来ることを信じながら。