藤丸立夏は父親で、藤丸マシュが母親。 作:ジャーマンポテトin納豆
思いつきで書いた。
後悔はしてない。
ある日のこと。
特異点の修復も終えて、縁を結んだ皆をカルデアに呼ぶ為に召喚室に赴いた。
聖晶石と呼符を沢山抱えて、うおーっ!と召喚する。
この時が一番ワクワクするんだ。
特異点で縁を結んだ皆や、全然知らない人達も来てくれるからどんな人が来てくれるのか楽しみで楽しみで、沢山話したくて仕方がない。
皆、一癖どころか捻じ曲がり過ぎてるぐらいの癖ばかりだけど、それがまた良いんだな、これが。
気難しい筆頭みたいなギルガメッシュ、エウリュアレとステンノみたいに我儘女神様達にもなんだかんだと良くして貰ってるし。
「先輩、今日も沢山の方々が応えてくれましたね!」
「うん。また、二人で話を聞きに行こうか」
「はいっ」
マシュと話していると、ふとポケットの中に呼符が一枚入っているのに気が付く。
「あれ、一枚残ってた。全部使ったと思ったんだけどな」
「落としそうになった時に入っちゃったんでしょうか?」
「んー、どうだろ」
「どうされますか?」
「そりゃぁ、勿論!」
サークルに呼符をセットして。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
最初は唱えるのも苦労したそれを、すらすらと口にする。
サークルが強い光、それも今日一番なんじゃないかってぐらいのを放ち、収束すると、そこには長身のフードを被った人が立っていた。
顔の殆どを隠していて口元しか見えないけれど、それでもとても整った顔立ちの人だって事だけは分かった。
「ーーーーー驚いたなぁ、まさか俺が召喚されるだなんて。しかも……」
どうやら、自分がサーヴァントとして召喚されるだなんて思ってもいなかったらしい。
フードの奥にある目が、俺とマシュを見据える。
力強くて、だけど優しい眼差しだった、と思う。
見えないから分からないけど、なんとなくそう感じる。
物腰は柔らかく、所作も丁寧で雰囲気だけで優しい人だと分かるし、凄く育ちの良さが滲み出ている。
敵意なんてものは微塵も感じない、初対面でこんなに好意的なのは初めてだ。
「そうか、そっかーーーー……うん、まぁ、姉さん達の事もあるし、こんな事もあるのかな」
「あの……」
何やら一人考えて、納得している。
マシュと共に訳の分からない俺が声を掛けると、優しげに笑みを浮かべて。
「自己紹介がまだだったね。初めまして、名前は……、明かさない方が良いか。うん、残念だけど名前は明かせない。あぁ、だけど心配はしないで、嫌いだから名前を明かさないんじゃない、事情があってなんだ。俺は二人のことは大好きだからね。お互いの為と言うやつさ」
名前を明かさない方が良い、なんて初めてだ。
今はまだ明かせないって言うのはあったけど、どんな事情があるんだろうか。
でも、そう言うのならその方が良いのだろう。
めっちゃ気にはなるけど、いつかは教えてくれると良いな。
それに初対面なのに、俺達に対する好感度が限凸してない?
「クラスはセイバー。名前を明かせないから、セイバーって呼んで。まぁ、他のクラスの適正もあるから、時が来れば他のクラスとしても戦ってみせるよ。その時は、また呼び方を考えよう。宜しく、マスター」
優しげにマスター、と呼ぶ声はとても懐かしむようなものだった。
俺、この人と会ったことなんて無いと思うんだけどなぁ。
でも最初からこんなに好意的な人は初めてだ。
悪い人でもなさそうだし、良かった。
とそれで終われば良かったんだけどなぁ、そう言う訳には行かないのがカルデアってところで。
『藤丸君!今そっちですごい魔力反応あったんだけど!?大丈夫!!??』
ドクターが慌てた様子で通信を繋いでくる。
心配性だなぁ。
「大丈夫だよ、サーヴァントが一人来てくれたんだ」
『サーヴァント……!?いやいやいやいや、この反応は、サーヴァントなんてもんじゃない!』
「え?」
『これは、この反応は間違い無く神霊クラス、それもとびっきりに強力なやつだ!!』
ドクター達が凄い騒いでる。
神霊って言っても、他にも何人かいるしそんな騒ぐ事かなぁ?
『あっ、ちょっと待って!!なんかサーヴァントの皆が一斉に藤丸君達の方に向かい始めたぞ!?なんで!?』
そんなドクターの悲鳴みたいな騒ぎ声を聞いたすぐ、召喚室の自動ドアが蹴破られた。
勢いよく雪崩れ込んでくると、一瞬セイバーを見て止まり、そして次の瞬間にセイバーに飛び付いた。
揉みくちゃにされながら抱き締められて、だけどとても嬉しそうにしてる。
一部の皆は驚いて立ち尽くしてるけど、やっぱりセイバーに対して敵意は感じない。
どちらかと言うと、久しぶりの思わぬ再会に驚いている、みたいな……?
「何故此処に……」
「有り得ません、あの子が喚ばれることなんて有る筈が無い!」
声を荒げて詰め寄りながら、抱き締めてる。
感情バグってない?大丈夫?
「俺が死ぬ未来もあるから、としか答えられないかな。俺だって不老不死じゃない。と言うかそれ以外に分からないし」
抱き締め返しながら、セイバーは説明してるけどやっぱり分からない。
『ちょっとちょっと!!僕達にも分かるように誰か話してよ!』
「……すまねぇ、多分、これに関しちゃマスターだろうがなんだろうが話せる事は無ェ。つーより、話せねェ」
クーが珍しく真面目そうな、真剣な顔で答える。
話せないってどう言う事なんだろう?
『話せない?』
「そうだ。話したら、間違い無くこの子の存在そのものに関わる」
『それって……』
「マスターとマシュは特に知ってはならない。二人が知れば、特異点になるだけならマシ。最悪、この子の存在が消えかねない」
「それは……」
「そんな訳だから、俺については教えられないけど、宜しく」
そう言ってふわっと笑う。
物凄く育ちが良いんだろう、ってことだけはやっぱり分かる。
周りの人達に沢山愛されて育てられたんだろうなぁ。
じゃなきゃ、こんな風に育つ訳がないもん。
『水を差すようで悪いんだけど、セイバー。君は本当に信頼、信用して良いのかい?幾ら藤丸君でも、万が一は有り得る』
ドクターが聞くと、確実に、皆の圧が増した。
なんだろ、どこかの時代のって事なら全員と顔見知りな筈も無いのに、時代も国もバラバラな全員と知り合いって、本当にどんな人なんだ?
「その心配は、当然だと思う。だけど安心して欲しい。何があっても俺は二人を裏切らないよ。って言ってもしょうがないしこれから見極めていってくれると有難いかな?」
特に怒ったり、気に障ったりって感じも無く。
寧ろ警戒して然るべきだと笑っている。
『まぁでも、大丈夫じゃない?だって彼、秩序・善性そのものみたいだし』
『属性だけじゃ、本質は計れないでしょ』
ダヴィンチちゃんの言葉にドクターは渋い顔をする。
確かにイシュタルは間違いなく悪側だと思う。
「確かに、詐欺してる人いっぱいいるもんね」
「あらマスター、それはどう言うことかしら?」
「むギュッ」
イシュタルを見ながら言ったら頬を掴まれた。
そんなやり取りを見て、セイバーは懐かしそうに、楽しそうに笑ってる。
「姉さんはやっぱり姉さんかぁ」
「久しぶりに再会した姉に、そんな事を言う悪い口はこれかしら?あら、固くなったと思ったけれど、柔らかいのね」
「ムぁ〜」
イシュタルはセイバーの顔を両手で挟んでムニムニと揉みくちゃにする。
二人とも凄く仲が良さそうで、やる側もやられる側も嬉しそうに笑ってる。
ドクターは人柄を凄く心配してるけど、でも、セイバーに関しては俺の直感は絶対に大丈夫だって告げてる。
自慢じゃないけど、俺の勘って結構当たるんだよね。
それに、あんな風に笑う人に悪い人は絶対に居ないから。
「それじゃぁ、皆の歓迎会やろう!」
エミヤやブーディカ、タマモキャット達は食堂に向かう。
どんなメニューにしようか、あの子の好きなもの作ってあげよう、藤太も新鮮な食材を沢山出して皆で腹一杯になろうって笑ってる。
セイバーの存在で、一気に笑顔が溢れた、そんな感じ。
人理修復って言う過酷な旅の途中だとは、全く思えないぐらいに笑顔と幸せが溢れて来ている。
セイバーが来てくれたから、なんだろうなぁ。
俺も自然と笑っちゃうし。
キッチン組を見送りながら、俺達はシミュレーションルームに。
「よっしゃ、そんじゃ久々にどんだけ腕を上げたか見てやるか」
「良いね!セイバーの実力も見てみたいし、準備が出来るまでお腹を空かせる為にも身体動かそう!」
腕に自信のある皆でワイワイと騒ぎながらマシュも一緒にシミュレーションルームに向かう。
お腹が空いた時のご飯は最高に美味しいからね!
それがまた皆が作ってくれたご飯だから、より格別だ。
『どんな武器を使うんだい?』
「一応、セイバーだから刀を使うかな。クラスが違うなら、槍とか弓とか。キャスターなら魔術を使うよ』
『キャスターって君、どれぐらいのクラス適性があるんだい?』
「取り敢えず、七騎士は全部かな?一番適正高いのは、多分セイバーとランサー、あとはキャスターだと思う。姉さん達からのお墨付き貰ってるし。次点でアーチャー?次がアサシンとライダーかな。一番適正が無いのはバーサーカーで、間違いないと思うけど」
『まぁ、確かに君の魔力量は尋常じゃないけどさ。それにしても、武器が刀って事は日本の英霊、いや、神霊なのかい?』
「父方が日本人だから、日本って事になるけど生まれと育ちは全然違うよ。そもそも血筋の話を話をするなら母方がかなり特殊だからね。まぁ一応ハーフって事にしてるけど、俺自身も生まれと育ちだけならかなり特殊だし」
『その刀も、名刀ってやつなのかい?』
「んー、作ってくれたのが村正爺ちゃんだから、名刀って事になるのかな?銘は優しいに、春って書いて優春。雰囲気は全然違うけどね」
そう言って笑いながら、華美過ぎない装飾が施された鞘から一振りを抜いて、見せてくれる。
凄く綺麗な刀身だけど、それから放たれる覇気は尋常じゃない。
圧倒されるような、一瞬身を引いてしまうような、そんな感じ。
慣れていない人が触ったら無造作に周りを傷付けてしまう、そんな雰囲気を纏ってる。
だけどセイバーが持つと、不思議とそんな事は無い。
寧ろとても合っていると言うか、なんだろう、上手く表せないけどセイバーなら、みたいな。
って事は、セイバーは剣の腕はかなりのものって事だ。
ドクターに色々質問をされながらぐっぐっ、と準備運動や柔軟体操をしてる。
物凄く身体は柔らかいらしい、あんなの俺がやったら絶対痛めるなぁ。
身体も必要な場所に必要な筋肉がしっかり付いてる。
俺も皆に鍛えて貰ってるけど、全然及ばないや。
「そろそろやるか?」
「うん、やろう」
槍を構えたクーと、抜刀って言うのかな、そんな感じで鞘に収めたまま腰だめに刀を構えたセイバーが向かい合う。
一呼吸置いてから二人が駆け出す。
その速度は、全く俺には見えるものじゃなかった。
セイバーが幾ら優秀だって言ってもクーはカルデアでもトップクラスの実力の持ち主だから、一撃で勝負が決まるものだと思っていた。
だけどそんな事は無かった。
「おいおい、中々やるじゃねぇか」
「そりゃ強くもなるよ、皆に鍛えられたんだから。俺だって守られてばかりの小さいままじゃない。それにここは俺にとって正しくホームグラウンドだからね、補正も入ってる」
二人とも、楽しそうに打ち合ってる。
打ち合う度に火花が散る。
「中々強くなったじゃないか」
普段は余り表情を崩さない師匠が優しく嬉しそうに笑みを浮かべている。
それこそクー相手にも見せないぐらいの。
「師匠もセイバーの事を知ってるの?」
「少なくとも英霊の座にいる連中や、そうでない神々でも知らぬ奴など一人も居ないだろうな」
「スカサハさんだけじゃなくて、ですか」
「あぁ、あれは私の、私達にとって最も大切な存在さ。それこそ、その為なら人類を滅ぼしてでも守るぐらいにはな」
『とんでもない爆弾存在じゃないか!?』
「あん?」
『ナンデモナイデス』
またドクターは余計なことを言うから師匠に睨まれてる。
だけど、師匠が言うぐらいなんだからよっぽどなんだろうなぁ。
あんな優しげな師匠初めて見たし。
それからシミュレーションルームに集まった皆と、歓迎会の準備が出来た事を知らせに来るまでずっと続いた。
セイバーの戦い方は多彩で、単純な剣術も強くてそれだけでも十分だったけど、セイバーの本領は全く発揮されていなかった。
刀を振るいながら魔術を当たり前のように、それこそ師匠達みたいに使ってた。
身体強化系から、単純な攻撃系、防御系まで。
本人は、合戦剣術って言ってた。
刀を使うだけじゃなくて、殴る蹴る投げるといったものから魔術まで、あらゆる攻撃方法を混ぜた戦い方らしい。
どんな流派よりも絶対的に実戦の為だけに磨き上げているんだとか。
「セイバーって、凄いんだね」
「ありがとう。だけど本当に凄いのは、それを俺に教えてくれた姉さんや兄さん達だよ。多分、皆がいなかったら俺は無いから」
「……セイバーは、皆の事が本当に大好きなんだね」
「そりゃぁ、勿論!」
物凄く、満面の笑みで頷く。
沢山掻いた汗は皆で大浴場で流して。
セイバーは待ち構えていた女性陣に女風呂に連れ去られたけど。
顔は諦めの表情だった。南無。
お風呂から上がって、皆で食堂に行ったらカルデアキッチンが誇る料理上手な皆がいつも以上に腕に寄りを掛けた、何時にも増してそれはもう美味しそうなご飯が沢山並んでいた。
椅子に座って、皆で手を合わせていただきます、と言ったら勢い良く食べ始める。
セイバーも、とても幸せそうに食べていた。
ーーーーーーーーー
「ねぇ、セイバー」
「うん?」
「セイバーの戦う術を教えて欲しいって言ったら、教えてくれる?」
召喚した日から暫く経って分かったこと。
セイバーは滅茶苦茶強い。
だけど誰よりも優しいこと。
相変わらず殆ど分からないままだったけど、それだけははっきりと分かった。
セイバーの強さと優しさは、本来なら余りにも乖離した関係性であるのに、しっかりと併せ持っているのがセイバーだ。
ある日、唐突にそう言った俺にセイバーはきょとん、とした後に笑って言った。
「残念だけど、それは出来ないお願いかなぁ」
「えー?どうしてさ」
何時も通り、人好きのする優しい笑みに少しだけ困惑とかを混ぜながらセイバーは言った。
「マスターは、はっきり言って強くないからね。下手に戦い方を知っちゃうと、マスターの性格上立ち向かっちゃうだろう?」
「まぁ、多分」
「マスターなら、絶対に自分に戦える力があるなら戦うよ、断言出来る。だからこそ教えられないのさ」
「マスターが死んじゃったら、それこそ何もかも意味が無くなる。だから、逃げる為に必要な力さえあれば良い。コンマ1秒ぐらいの時間稼ぎさえ出来れば、俺達で守れるから」
「なんか納得出来ないなぁ」
「皆が戦ってるのに、自分は安全なところで指示を出す、って事に色々思うのは立派だ。そんな事を考えもしない人も多いからね。だけどマスターの場合はそれで良いのさ」
「良いかい、マスター。この世界で一番難しい戦いっていうのは、逃げる事だ」
「逃げる事?」
「そう。逃げるには、立ち向かって戦うよりもずっとずっとずっとずっと、沢山の勇気が居るんだ。だから、一番難しい」
「でも、格好悪くない?」
武器を持って戦う方が、なんとなく格好が良いと思う。
皆の戦う様子を見ていたら余計にそう思うし。
「いいや、そんな事は無いよ。マスター、君は誰よりも勇敢さ。なんせただ一人、本来なら背負わされるべきじゃないものを背負って、乗り越えて、そしてまた前を向いて進んでいるんだから」
「だから、大きく胸を張って誇って欲しい」
「それに、俺の学んだものは剣術にしろ、槍術にしろ、弓術にしろ、全ては合戦剣術。要は人を確実に殺せる、殺す為のものだ。姉さん達が居なくなっても生きられるようにね」
確かにセイバーの戦い方は、人に限らず殺すと言うことに余りにも向き過ぎているぐらいだ。
セイバーの性格を考えるなら、本来は組み合わさっていて良いものじゃない感じがするぐらい。
何か、戦えなければならない事情でもあったのかな、じゃないとセイバーが戦う姿なんて本来なら想像し難いぐらいには、その性格と合っていない気がするんだ。
「確かにマスターは姉さんや兄さん達に戦い方を仕込まれてる。だけど本来マスターにはその適性が無い。絶対にね。だから皆は自分達が助けられるように、マスターが逃げられる事を前提に教えているのさ」
「マスターは、殺しなんて似合わないよ。だから、俺が教えられる事は何も無いのさ」
「それに、そんな状況になんてならないだろう?いや、俺達がそうさせやしない。俺が駄目でも、皆がいるからね」
セイバーはそう言ってまた、優しい笑みを浮かべて微笑んだ。
「そんなに言われちゃったら、仕方が無いかぁ」
「マスターはドンと胸を張って後ろで構えていれば良いのさ」
セイバーはそう言った。
ーーーーーーーーーー
「初めまして、ドクター・ロマン」
「セイバー」
何時も通り仕事の為に管制室でカタカタとキーボードを叩いていると、随分と珍しいお客さんが訪ねてきた。
確か、彼がカルデアに来た時の挨拶とそのあとに一度少しだけ話したぐらいだ。
「ちょっとだけ、お話をしても良いかい?」
「構わないけど、君が僕のところに一人で来るなんて初めてじゃないかい」
「そもそも、話すこと自体が何回目って感じだからね、仕方がないよ」
「それでそんな君が僕に何の用事だい?何時もなら他の皆に揉みくちゃにされているだろう?」
「どうにかして抜けてきたのさ」
「手段は聞かないでおくよ」
「懸命な判断だね」
なんとも人好きのする人柄で、あれだけの神性や強さを備えているとは到底思えない。
「それで、僕と話したいことってなんだい?」
「お礼を言いたくてね」
「お礼?僕は君に何かしたっけ?」
まったく記憶にないことだ。
サーヴァントの皆から文句を言われたり軟弱だとか言われることは多々あるけど、感謝されるって言うのは初めてかもしれない。
「いや、俺のことじゃないんだ。あの二人の事さ」
「二人……、藤丸君とマシュかい」
二人、と言われて心当たりがあるのは藤丸君とマシュしかいない。
「うん。あの二人がああして、過酷な旅路の中でも笑っていられるのは誰でも無いドクター・ロマン、貴方のお陰だ」
「君が何を見て、何を聞いて、何を感じたのかは分からないけど、僕は何もしていない。寧ろ……」
二人に対しては、負い目がある。
どうしようも無い事であるかもしれないけど、どうしようも無いほどに負い目がある。
「ドクターがどう思っていようとも、ドクターの存在があったお陰で二人が救われているのは事実だと思うよ。じゃないとあれだけの笑顔がある訳がないからね」
ココアの入ったカップを両手で包み持ちながらセイバーは言った。
それ以上何を言えば良いのか分からなくて黙ってしまった。
「じゃぁ、言いたいことは言い終わったし、失礼するよ。ココアご馳走様、美味しかったよ」
セイバーはカップを置いて、行ってしまった。
その日はなんだか仕事に手が付かなかった。
ーーーーーーーーー
人理修復を終えて、世界は元通りになった。
どうやらサーヴァントの皆はこのままカルデアに残るらしい。
座に退去する気は更々無いようで、寧ろこのままたっぷり俗世を満喫する気満々だ。
ただ一人を除いて。
「本当に還ってしまわれるのですか?」
「うん」
「寂しいなぁ、皆みたいにここに残るのって駄目なの?」
「そうしたい気持ちは山々なんだけどね、お互いの事を考えたらそれは出来ないかな」
そう言いながら別れを惜しんでくれているのが分かる。
最初から最後まで、ずっとフードを被ったままで結局僕達はセイバーの素顔を見ることは叶わなかった。
信頼してないとかじゃなくて、兎に角見せられないだけらしい。
戦闘中も魔術を掛けていたのか終ぞマントとフードが捲れるなんて事は無かった。
そのくせ視界は遮られている筈なのに他の皆と変わらない、それ以上の動きをしているのはなんでだろうね。
「まぁ、でもそんなに気にすることでもないよ」
「気にするよ。何度も助けて貰ったんだから」
「俺が英霊として召喚されたのは、多分随分とイレギュラーな事なんだ。それこそ、神霊の姉さん達が召喚される以上のね」
「セイバーさんは、スカサハさんと同じような存在と言う事でしょうか」
「そうだね、そう捉えてくれていいよ」
最後のお別れの前に、色々と話し込んで。
「さぁて!それじゃぁ、そろそろお別れの時間だ」
ぐー、っと身体を伸ばしながらセイバーは言う。
外を見ると珍しく今日は晴れていた。
ちょっとだけ外に出ようか、と三人で歩く。
何時もならセイバー目当てに皆が突っ込んで来ている筈だけど今日は誰も来ない。
どうやら俺達の為に抑えていてくれているらしい。
「最初から最後まで、顔も名前も教えられず終いだったけど、楽しかったよ」
皆は残るのに、ただ一人、セイバーだけが退去する。
今更ながらとても寂しいな。
「ほらマスター、マシュもそんな顔しないで。大丈夫だよ、何時になるかは分からないけれど必ずまた会えるから」
「本当?」
「あぁ、本当さ。世の中、思い掛けない出会いと言うのは沢山あるものだからね」
フードを被ったままだけど、俺とマシュをぎゅっと抱き締めて彼は言う。
「じゃぁ、今度こそ本当にお別れだ」
セイバーの身体から黄金色の粒子が舞い始める。
「またね!セイバー!!」
「うん、また会おう!」
元気良く答えたセイバーが振り向いた時、一瞬だけ顔が見えたような気がした。
ツイッター始めました。
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