今年最後の滑り込み投稿………
今回から新章、木ノ葉崩し編となります。
あと、あとがきが長めです。
56話
ここだけの話。
サスケ君にマイカゼの動きをトレースさせるのは、リー先輩のそれよりもずっとずっと容易でした。
「もともとサスケ君はマイカゼと似たタイプでしたからね」
「私に似てる………サスケが?」
「はい、とても。2人ともいわゆる天才型という奴です」
系統で言えば、努力型の強者であるリー先輩より余程近い存在だと言えるでしょう。
「私は別に天才じゃないが………」
「ちょっと何言ってるか分かりませんね」
相も変わらず自覚のない子です。
私はそんなマイカゼを横目に、切られた肩の傷口を押さえ地面を転がり絶叫する我愛羅君を制御可能になった写輪眼で観察解析。
「うわぁああ!! 血がぁ………俺の血がぁ!!」
「クソっ、浅いか………切れ味も刃渡りもまるで足りねぇ!」
全自動防御の弊害でしょうか、やはり我愛羅君はダメージを受けることそのものの経験が浅い、いえ下手したら皆無なようです。
大丈夫ですよ我愛羅君、サスケ君の言う通り出血こそ派手ですがことのほか傷は浅いです。
あの砂の駆動鎧を纏い、高速で突進する我愛羅君に対して、サスケ君は逃げずに真正面から迎撃する選択をしました。
今だから言えますが、千鳥でカウンターはかなり困難な行為です。
いかに高火力でも突き技でしかない通常の千鳥では、たとえ我愛羅君の鎧を貫けても突進の勢いまでは殺しきれず、相当にうまくすり抜けないとそのまま激突してしまっていたはずです。
だからサスケ君はとっさに千鳥を突きから斬撃に変えて、限定的ながらマイカゼの剣舞を再現した。
我愛羅君の突進を完璧にいなし、かわしながらの迎撃を可能にする木ノ葉最速の抜刀術を。
ただ、先のセリフからしてそれをやった本人は結果に全く満足していないみたいですが。
つくづく計り知れませんね、自分に厳しいストイックな天才というのは。
形態変化の応用で千鳥を刃状に魔改造し更にはそれ用いてマイカゼの剣舞を即興再現。
土壇場でこれだけ出来れば充分でしょうに。
「前々から薄々そうなんじゃないかとは思っていましたが、今回ではっきりと確信しました。サスケ君には間違いなく剣術使いの適性があります」
「………いや、より正確に言うならば剣術使いの適性
「………………」
ぼそっと入ったカカシ先生の訂正のセリフに、私は否とは返せません。
天才ってのは本当に非常識で計算不能で………そういうところも含めてそっくりです。
「それでマイカゼとリーとカカシセンコーのいいとこ取りハイブリッド野郎の完成ってわけか………つくづくとんでもねー奴らだなうちはってのは」
シカマル君? なんでこっち見てるんですか? ひょっとしてその「とんでもねー奴ら」に私まで含まれてます?
「私は一般人ですよ?」
かつて私がマイカゼに言った「私よりもうちはらしい」という言葉は、写輪眼を開眼した今でも撤回できそうにありません。
「………いやそれ、マイカゼがどうこうじゃなくて単にコトがうちはっぽくないだけなんじゃ………?」
「うちは一族はみんな天才だという、風評そのものに物申したいっ………!」
だいたい、写輪眼に匹敵する洞察眼を素で持ち合わせ、1度でも見たことのある動きなら大体模倣でき、2度見れば盤石になるマイカゼが異様なんです。
私は写輪眼ありでもそんなこと無理です。
普通なら絶対に無理なんですよ、普通は!
「天才が多すぎて一般人が少数派になるなんておかしいのです、狂ってますよこの世代………」
「コトが一般の範疇に含まれるかどうかはともかく、狂ってるってのには心底同意するぜ………」
「なんか、私の理解の範疇超えてるけど、凄い………」
「似たもの同士、サスケ君とマイカゼが………いやでも相性は別で………」
そんな私の説明を聞いたみんなの反応は様々です。
カカシ先生は満足そうに頷き、シカマル君は呆れと感心が入り混じったような遠い目でサスケ君と私を交互に見つめ、サクラさんは純粋に驚き、いのさんはどこか複雑そう。
チョウジ君は我関せずでお菓子をモリモリ。
「………………」
そしてナルト君は悔しそうです。
試合中盤、サスケ君が我愛羅君に押され気味だった時に「試合を止めてくれ、このままじゃサスケが殺されるってばよ!」ってシカマル君と一緒に血相を変えて乗り込んできたんですよね。
最初は心配、今度は嫉妬、ライバルですね。
実際、凄い事だと思いますよ。
今のあのサスケ君を相手に悔しがれるなんて早々にできることではありません。
ちなみにマイカゼは納得できるとできないの間で揺れ動いて首を捻っていましたが、突然何かに閃いたようにはっと顔をあげて
「待てよ。サスケが私に似ているということは………あの返し技「千鳥応用奥義・
「………前々から思ってましたが、マイカゼのそのネーミングセンスはなんなのですか………」
断言しますけど、あの千鳥刀のカウンター居合切り絶対そんな名前じゃないですよ。
というか、さっき披露されたばかりの新技を模倣できるかどうか真面目に検討しないでください。
あっさり真似られたらさすがにサスケ君も可哀想………おや、目の前に鳥の羽がヒラヒラ
その時、私は突然睡魔に襲われて―――スヤァ。
―――これは、幻術か!?
―――そうか、カブトはもう動いているのか。ではそろそろ………こちらも作戦開始と行くか
―――これは、結界!? しまった、火影様!
―――まさか、本当に砂がこうも堂々と木ノ葉を裏切るとはな………
―――我愛羅は役に立たなかったか………まあいい、チンケな試合ごっこはここで終わりです。
ここからは歴史が動く。
―――戦争による解決など愚策、話し合いでの解決を模索すべきだ風影殿、今ならまだ間に合う!
―――………歳をとると平和ボケするのかな、さるとび先生?
―――………っ!? お前は
ゴチーン、と誰かにぶたれたような衝撃が走り、私は目を覚ましました。
「ふにゃあ〜?」
「………ねぇ、やっぱり置いてった方が良くない? どう考えても足手纏いでしょこれ」
「しょうがねーだろ。めんどくせーが今木ノ葉で我愛羅の能力に1番詳しいのはたぶんこいつだ。その我愛羅と戦闘になる可能性が高い以上、連れていかないわけにはいかねーんだよ」
「いったい何がどうなったってばよ? ………なんで皆寝て………試合は………?」
なんか好き勝手に言い合っているサクラさんとシカマル君、そして頭に「?」を浮かべて置いてけぼり気味のナルト君。
いったいどういう組み合わせでしょう。
これとかこいつとか散々な言われようなのに、頭がふわふわして一向に考えが纏まりません。
まるで熟睡していたところを無理やり叩き起こされたかの様な、そんなうとうとふにゃふにゃしている私の頭を横から伸びてきたヤマト先生の両手がガッチリ固定しました。
「ふぎゃ!?」
「起きろ。幻術は解けているはずだ」
私のほっぺたをムニムニ引っ張りながら、ヤマト先生は完全に表情を消したその真顔を私にぐっと近づけます。
「ったく、いつまで寝ぼけているんだ。いいかよく聞け。僕たちは敵に幻術を仕掛けられた。今会場中の観客達が軒並み眠らされている」
「んにゅ………てき………げんじゅつ、ねむらされ………」
「おそらくは
「ほえ〜………ねはんしょうじゃのじゅつ、ねはんしょうじゃ………ねはん、しょうじゃ………涅槃精舎の術ぅ!?」
ヤマト先生の説明を受けて、寝ぼけていた思考が一気に覚醒。
辺りを見渡せば、確かに座席に座り込んだ姿勢で眠り込んでいる大勢の観客達。
そして入り乱れて交戦する木ノ葉、砂、音の忍び。
「こ、こんなことって」
「急にどうしたってばよ………何かおかしいの?」
「何かおかしいの、ですって? 何もかもですよ! 涅槃精舎の術でこんなこと出来るはずが………」
「君たち、無駄話はそこまでだ」
「任務を言い渡す。サスケの後を追い合流して止めろ! そして別命あるまで安全なところで待機!」
「っ!? サスケがどうかしたのかよ!?」
カカシ先生の、襲ってきた音の忍びを返り討ちにしながらのいつになく固い口調での要求、いえ上忍としての命令に血相を変えるナルト君。
そういえば試合をしていたはずのサスケ君と我愛羅君の姿がどこにも………
「って、ヤマト先生もカカシ先生も血だらけじゃないですか大変! ………いえよく見たら全部返り血で怪我はしてないですね、なら安心………じゃないですよ!?」
もはや中忍試験どころではありません、完全に非常事態じゃないですか!
「………わっかりやすく混乱してんなぁ」
眠っている間に一体何が………
「詳しいことはパックンに聞け」
「ぱっくん?」
「ああ、追跡には感知タイプが必要だろう?」
そう言ってヤマト先生の示した先にはカカシ先生が口寄せしたらしい、やたら貫禄のある顔つきの小型犬。
「感知タイプって、このワンちゃんが?」
「パックン君ですか。確か波の国以来ですね………コホン、ワンワン? ワンワンワン」
「無用の気遣いだ。人語くらい喋れる。お主の拙い犬語よりはるかに流暢にな」
「ワン!?」
「喋った!?」
「拙者を可愛いワンちゃんと侮ったか? 舐めるなよ小娘共」
「可愛いは、言ってない………!」
顔を引き攣らせるサクラさんにフンっ、とやたら人間臭く鼻を鳴らすパックン君………いえパックンさん。
「と、とにかく行くわよ! サスケ君が危ない!」
そう叫ぶとサクラさんは未だ事態を飲み込めていないナルト君を掴んで、崩れた壁から会場を飛び出し、私とシカマル君とパックンさんも慌ててその後を追うのでした。
「行ったか………」
「本当に彼らだけで大丈夫なんですかね?」
「パックンをつけてあるから、ひとまずは大丈夫だ………深追いさえしなけりゃな」
絶え間なく襲いかかってくる音忍を片手間に捌きながら言葉を交わすカカシとヤマト。
おそらく投薬や改造などで無理やり力を植え付けられたのだろう、個の実力はともかく連携がお粗末すぎた。
散発的に突っ込んでくる音忍への対処はほとんど作業だった。
「それも心配ですが、コトがまたペラペラ機密を喋らないか不安ですよ」
「ヤマト、過保護なのは結構だけどそろそろこっちの心配もした方がいいよ」
そう言ってカカシが示したのは試験会場の中心で大立ち回りを繰り広げている砂の忍び。
「そうでしたね。あいつが例の」
「ああ、あのハヤテを病院送りにした奴だ」
確かバキとか言ったか。
仲間の木ノ葉の忍びが放った苦無の軌道がバキに当たる直前で不自然に曲がり逸れる。
バキが腕を振るうたびに、周囲の木ノ葉の忍びが見えない何かに切り裂かれていく。
「情報通りですね、あれが砂の血継限界、磁遁」
「不可視の風の刃も厄介だな。油断するなよヤマト」
―――報告! 木ノ葉の東口付近に大蛇が出現! それに続き砂の忍びが里に侵入! その数およそ100名程!
―――きたか!
―――口寄せ! 穢土転生!
―――久しぶりよのう、サルよ
―――ほぉ、お前が………歳をとったな猿飛
―――よもやこのような形で御兄弟お2人に再会しようとは残念です………初代様、二代目様
―――バカな!? 火影様の、正真正銘本気の火龍炎弾だぞ!? それをあんな少量の水で鎮火できるはずが………
―――分子単位の超精密コントロール! 理論上は確かに可能ではあるが………信じられん!
―――水のないところでこの
―――屋根の上が一瞬で森に………!
―――ヤマトやうちはコトのそれとは規模が全く比べ物にならない!
―――これが乱世を治め木ノ葉の礎を築いた伝説の木遁忍術か
「要約すると、中忍試験の最中にいきなり砂と音の忍びが襲ってきて乱戦状態に。その乱戦に紛れて逃げた我愛羅君をサスケ君が単独で追跡中と。そして私たちの任務は追跡中のサスケ君をさらに追跡し合流、サスケ君を止めて別命あるまで安全なところに避難及び待機………あってますか?」
「うむ、相違ない」
突如カカシ先生から言い渡されたAランク任務。
参加メンバーは私ことうちはコト、うずまきナルト君、春野サクラさん、奈良シカマル君、忍犬パックンさんの4名プラス1匹です。
「なるへそ、そういうことになってたのか! サスケの奴焦りやがって!」
「で、なんで俺まで駆り出されんだよ?」
「しょうがないでしょ! カカシ先生の命令なんだもん」
「おそらく隊のまとめ役として抜擢されたんでしょうね」
たぶん、あの場にいた下忍メンバーでリーダーが務まりそうだったのはシカマル君だけだったんですよ。
マイカゼは怪我が治り切っておらず、チョウジ君は率いるより支えるタイプですし。
いのさんはサスケ君が絡むと暴走しがちですしね。
「くそめんどくせーな!?」
そういう感想がでるってことは、己の重要性をちゃんと理解してますね。
確かにこの急増デコボコ小隊をまとめるのは「くそめんどくせー」でしょうよ。
さすがシカマル君、思考と判断が早い。
迅速さと隠密性を保てるギリギリの人数に限られた選択肢の中の、半ば消去法とはいえカカシ先生の人選は間違ってなさそうです。
「とにかく現状とやるべきことは把握しました。なんか、いろいろとツッコミどころと言うか疑問点がいくつかありますが」
「疑問点? ………そーいや目覚めた時言ってたな。涅槃精舎の術があり得ねーとかどーとか」
「そうそれ、それなんですよ!」
涅槃精舎の術。
別名を煩悩幻術、あるいは魅了の術。
人の五感に訴えかけて脳内チャクラをコントロールする幻術の中でも、とびきりの変わり種。
「本来、美男美女が異性相手に色仕掛けと同時に仕掛けるとか、きれいな絵画や美味しいお酒にトラップとして仕込むとか、そういう使い方をする幻術のはずなんですよ」
「そういえば教本にも書いてあったわね。用途や使い手が極めて限られる対個人用幻術だって………あれ? じゃあどうやってあんな………」
話の途中で気付き、目を見開くサクラさん。
そうなんです、原理的に会場の観客を軒並み眠らせるなんて大規模なことができる様な幻術じゃないんですよ。
「個人用の幻術で複数の人を同時に嵌めるには、術者を増やすか術をかける対象に共通の媒介が必要になるのです。いったい何をトリガーにすれば………でも、古今東西あらゆる地域から集まった観客達全員の共通点なんて………」
趣味も嗜好もバラバラな大勢の人たちを同時に魅了して眠らせるなんてできるのでしょうか?
いえ、実際にできてしまっている以上、何か方法があったのでしょうが………
「寝ている観客全員の共通点なんてそれこそ試合を観戦してたことくらいしか………っ!?」
「え? ………まさかサスケ君と我愛羅の対戦そのものをトラップにしたの?」
「はぁ? よーするに試合に熱狂興奮した観客が軒並みってことか?」
「いやいやそんな………でも確かにその方法なら涅槃精舎の術でも大人数を同時に眠らせることが原理的には可能………可能ですけども」
サスケ君は木ノ葉のみならず他国にまで勇名轟くうちは一族の末裔です。
試合の注目度は極めて高く、観客のほとんどはこれを観たいがためにわざわざ木ノ葉に集まったと言っても過言ではないほどです。
魅了幻術の媒介として十分に機能するでしょう。
ただしそれは、サスケ君と我愛羅君の試合が大いに盛り上がることが大前提です。
「バカか!? 不確定要素が多過ぎだろ!? 試合が地味で盛り上がらなかったら………いやそれ以前にサスケが遅刻で失格になってたらどーするつもりだったんだ?」
シカマル君の言う通りなのです。
展開の読めない試合を作戦に組み込むのはかなり無理が………
「そんなことは微塵も考えなかった? 絶対に盛り上がると確信していた? ………ハッ!? もしや下手人は、サスケ君の大ファン!?」
「いやその結論は早計ぃ! 我愛羅の方かもしれないでしょ!」
「どっちにせよガバすぎんだろおい………」
「………む! お主ら無駄話はそこまでだ!」
敵の術の考察討論で盛り上がる私たち(+話に付いていけずに沈黙するナルト君)を制したのは、パックンさんのシブい声でした。
「もっとスピードを上げろ! 後方から2小隊、8人、いやさらにもう1人、計9人か。ワシらを追いかけてきている奴らがいるぞ!」
「………っ! 砂、いや音忍の追っ手か。冗談じゃねーぞ! おそらく中忍以上の奴ばっかだ。追いつかれたら全滅だぜ」
「どうにか隠れてやり過ごせませんか? そのための人数制限でしょう………」
「いや無理だ。追跡ルートの選定に迷いがなさすぎる。どうやら向こうにも感知タイプがいるな。待ち伏せを警戒しながらも確実に迫ってきとる」
「最悪だ………」
「こうなりゃこっちが待ち伏せてやっちまうか!?」
「アホかナルト! それが不可能だから最悪だっつってんだよ!」
待ち伏せは、相手の位置を捕捉できて、かつ相手からはこちらの位置を捕捉されていない状態ではじめて実現する戦術です。
「俺たちはもう捕捉されてんだよ! 逃げきれねえ! 囮も陽動も効かねぇ! 戦略レベルで完全に詰みだクソが!!」
「そんな………」
「一応こっちにも感知タイプがいて一方的に奇襲されねーってとこがせめてもの救いか? ………つまり突破口があるとすれば戦術レベル、小細工抜きのガチンコ勝負で勝つくらいだが」
シカマル君は絶望の表情で周囲のイかれたメンバーを確認します。
「………バカに、勉強だけが取り柄のガリ勉に、イロモノ、あからさまに非戦闘タイプの小型犬、んで逃げ腰
いや待ってください。
その人物評はさすがに物申しますよ!?
「落ち着いてくださいシカマル君! 貴方がパニくると小隊が空中分解しちゃいます!」
「そうは言ってもよ。戦術ってのは相手の力と味方の力、その両方の戦力状況を正確に把握し最善策を練ることで………………いや、そうか。今はそれ以前の状態か」
その通りです。
何せその前提にすら達してないのですから。
先の人物評で確信しましたが、シカマル君は味方の戦力能力を正しく把握できていません。
結成したばかりの突貫小隊、無理もありません。
ナルト君はただのバカじゃないし、私だってただのイロモノじゃないのですよ。
「ふっふっふ、実は私、感知妨害忍術が使えるのですよ!」
「………は?」
「いやだから使えるんですよ。感知妨害忍術。こんなこともあろうかと!」
「………いつからだ? 感知妨害なんて即興で習得できるような術じゃねーだろ?」
「アカデミー時代からですかね」
「バカか!? バカだろ! んな時期に感知妨害覚えても、そもそも感知忍術の使い手がいねーじゃねーか!」
「おお、カナタと同じ突っ込み。いやはや全くその通りでして」
もはや懐かしいです。苦労して開発したはいいものの、当時は完全に宝の持ち腐れでしかなくて、披露する機会もなく埃をかぶっていたそれが、まさかこんな形で日の目を見ることになるなんて。
「ぐっ!?」
「どうした?」
「感知が、チャクラが乱される。どうやらターゲットの中に妨害忍術の使い手がいるらしい。おそらく油女一族の術だ………」
「木ノ葉の蟲使い、油女一族の蟲邪民具の術か………厄介な」
「………いや待て違う? 蟲じゃないぞ。なんだこれは!?」
「何? ………!? これは!?」
「タンポポの………綿毛ぇ!?」
「これぞ木遁・
術の分類としては、木遁の花を咲かせる
両手の先に1つずつ、頭の両サイドに2つ、合計4つのタンポポの綿毛を生やしクルクル回って周囲に綿毛を振り撒きます。
「なんかコトちゃん………チアガールみたいだってばよ」
「頭と両手にポンポンつけてクルクル踊る巫女クノイチ………思った以上にイロモノ臭がキツいな」
「いや敵から逃げるための術で逆に目立ってどーすんだよ………本当に効いてんのか?」
「むっちゃ効いとるぞ。やたら甘ったるい花の香りの所為で分かりづらいが、追跡者の動きが完全に止まっておる。どうやら完全にこちらを見失ったようじゃ」
「うそでしょ………こんなので」
「む、こんなのとはなんですかこんなのとは。この術は
「いやパクリに由緒もクソもねーだろ」
「パ、パクっ!? パクリじゃないです! そう、これはオマージュ、リスペクトなんです!」
「なお悪いわ、いやまあ、確かにこの場では助かったんだけどよ」
タンポポの綿毛にまかれて音忍の追跡者9人組小隊は大混乱だった。
「ちくしょう! あっちにもこっちにもフヨフヨ漂ってやがる! 風遁で吹き払えねえ! なんなんだこの綿毛は!?」
「事前のデータにはなかったぞ。まさか木ノ葉にこんな術があったとは」
「こうなりゃ、火遁で焼き払って………」
「そりゃ悪手だろ。追跡任務中に派手な術を使えばターゲットに居場所を教えることになる。当然、ターゲット以外にもな」
「ターゲット以外? ………ぐあっ!?」
「そう、例えば追跡者をさらに追跡していた、俺みたいな存在だ。木ノ葉じゃ教本にも載ってる基本だぞ」
「っ!?」
「やっと追いついたよ」
気付けば音忍たちの後ろに見覚えのない、咥えタバコをした髭面の大柄な男が立っていた。
木ノ葉の上忍、シカマルの上司である猿飛アスマは、メリケンサックに刃が付いたような特殊な形状の苦無から伸びる風の刃で音もなく音忍9人を切り捨てた。
瞬殺だった。
「ふぅ〜」
一仕事終えた木ノ葉の上忍、奈良シカマルの上司である猿飛アスマは返り血もそのままにタバコを一服。
「………参ったな。こりゃ俺も追えないぞ」
未だ周囲にフヨフヨと漂うタンポポの綿毛が、索敵を阻害し、足跡を覆い隠し、匂いで嗅覚すら誤魔化していた。
追跡妨害忍術としては元ネタらしい蟲のそれよりも厄介だった。
「これも木遁の応用か? 大したもんだな、うちはコト。逃走、逃亡のスペシャリストは伊達じゃないか」
吸い終えて捨てたタバコの吸い殻が血溜まりに落ちて、ジュッと音を立てる。
木遁。木材を除くあらゆる植物を生み出し操るという極めて汎用性の高い忍術にコト自身の頭脳と発想力が合わさり、下忍にあるまじき多彩な手札を実現していた。
「後はそれらの手札を適切に運用する軍師がつけば………リーダーの腕の見せ所だぞシカマル」
二代目火影、扉間の水遁に関する記述はどうしてもねじ込みたかった………かなり無理やりだったので話の流れとしてはやや不自然かもしれず。
このあたりの忍術の考察というか個人的見解などを少しばかり………いえ少しではないですね。
前回の『千鳥』に関する考察も含めて、忍術について語るにはまずチャクラについての考察というか見解を話さなければなりません。
少し長くなります。ネタではなく。
忍術は大きく分けて陰遁と陽遁の2種類があるとされていますが、原作では名称だけで具体的な説明はされていません。
精々が幻術は陰遁に分類されるらしい程度。
よってここからが考察というか捏造。
忍術が陰遁と陽遁の2種類あるのは、術の大本であるチャクラが『精神エネルギー』と『身体エネルギー』の2種類を練って混ぜ合わせて作られるからであると考えました。
この時、身体エネルギーを多く練り込んだチャクラを陽遁チャクラ、それを用いた術を陽遁と言い、逆に精神エネルギーの割合が多い場合は陰遁チャクラ、陰遁になる………と仮定します。
仙術を発動するのに仙術チャクラが必要なのと同様に、おそらくほぼ全ての忍術はそれぞれ発動するためのチャクラの最適な身体エネルギーと精神エネルギーの配合バランスがある程度決まっているのでしょう。
そして忍者にも先天的に精神エネルギーが多いタイプ、身体エネルギーが多いタイプがいるはずです。
もしその忍者が豊富なチャクラを有していても、そのチャクラが身体エネルギーの割合が多い陽遁チャクラタイプだった場合、陰遁チャクラを用いた陰遁は適性がなくうまく扱えないということになります。
例えば原作主人公ナルトや千手一族は身体エネルギー過多の典型的な陽遁タイプ。
逆にうちは一族は精神エネルギーが図抜けた陰遁タイプであると考えられます。
原作ではチャクラが多い一族と一括りで語られる両者ですが、性質としては真逆なのではという見解でした。
そして男性は全体的に陽遁、女性は陰遁タイプが多い傾向にある考えればつじつまが合います。
女性より身体能力に優れる傾向にある男性の方が身体エネルギーが多い場合が多いのは理屈として納得できるはず。
アカデミーで習う基本忍術(変化、分身の術など)も、そのほとんどが陰遁だったのだと推測します。
身体エネルギーの基となるのは体力です。
身体がまだ出来上がっていない子供に教える術として考えたら、身体エネルギーを多く消耗する陽遁は不適格です。
そして精神エネルギーとは心の力、集中力とも言い換えられるわけで。
もともと陽遁タイプの上、集中力が足りないと散々言われていたナルトが陰遁(分身など)をうまく習得できず落ちこぼれるのもさもありなん。
もちろん忍術を極めれば発動したい術に合わせて陰陽の配合バランスを自在にコントロールするなんて芸当もできそうですが、そこまでできるのはごく一部、木ノ葉の術全てを極めたプロフェッサー、3代目火影ヒルゼンやコピー忍者カカシクラスでしょう。
大抵は己のチャクラ配合バランスに合致した術を使える程度なのかもです。
では、以上を踏まえてどの術が陽遁で陰遁なのかを考えます。
以下原作で登場した術をざっくり分類。
陽遁
力、威力に優れた術。
性質変化。
影分身。
天照(黒炎発生)。
千鳥。
陰遁
技、コントロールに優れた術。
形態変化。
幻術全般。
医療忍術。
加具土命(黒炎操作)。
分身、変化などのアカデミー基本忍術。
螺旋丸(形態変化の極地)
性質変化と形態変化の違いを水遁で例えるなら
チャクラを水に変化させるのが陽遁の水遁(水喇叭、大瀑布の術など)
チャクラで水を操作するのが陰遁の水遁です(水分身、千殺水晶など)
水辺なら水遁の陰遁は非常にローコストな術であると言えるでしょう。
逆に水のない場所だと非常に手間がかかる模様。
陽遁で水を出してから、それを隠遁で操作、これらの工程を段階に分けて、あるいはほぼ同時に行わなければなりません。
穢土転生扉間様がやった「少量の水の水陣壁でヒルゼンの火龍炎弾を完全消火する」というのがどれだけ優れた陰の水遁なのかが伺えます。
並の忍者なら水場か、もしくは大量の水を性質変化で用意しなければならないところでした。
実際、マダラの豪火滅失(火龍炎弾と同等クラスの火遁と思われ)に対抗する際は霧隠れの忍びが横にずらっと並んで一斉に大量の水を発生させ水陣壁を重ね合わせてようやく鎮火させていました。
火影クラスの火遁に対抗するには本来これくらいの水量が必要なのでしょう。
要するに扉間の水遁は普通に凄くて本来ならネタにされるような描写じゃなった………はずなのですが。
大規模水遁の使い手であるキサメが直後に登場したのがね………おかげで水遁は水量が多けりゃ強いという印象になってしまった。
あくまで個人的見解ですが。
そして前回の千鳥ですが………おそらくは陽の雷遁。
威力に優れた性質変化を極めた術です。
ちなみに螺旋丸は形態変化の極地、つまり陰遁です。
意外なことに、ナルトとサスケはそれぞれ自分のチャクラ性質とは真逆の術を習得していたことになります。
ナルトは物凄く頑張って集中力、精神エネルギーを振り絞ったんでしょうね。
おそらくサスケはうちは一族の中でも精神エネルギーのみならず身体エネルギーにも恵まれた万能の天才だったのでしょう………人柱力とチャクラ量で張り合えたわけです。
ここまでの考察が正しいと仮定すると。
螺旋手裏剣がどれだけ術のルールから外れた無茶な術なのかが伺えます。
コントロールの効かない陽遁チャクラで形態変化を極めろ、あるいは威力に乏しい隠遁チャクラで性質変化しろって言っているわけですから。
彫刻刀でトンネルを掘れ、ショベルカーで彫刻を掘れ、まさに右見てるときに左も見ろって言ってるようなもんです。
原作の描写からして性質変化と形態変化を同時にやるのは相当に難しいみたいです。
以上。
長々と失礼しました。
それでは来年もよろしくお願いします。