鬼は嘲笑う、鬼が嘲笑う   作:ねこのふすま

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鬼に衣

 夢を見る。夢を見る。深い闇の中に堕ちて行き、右も左も。前も後ろも判らない重力も無い世界を只、漂うだけ。産声をあげた時の事、闇の中から這い産まれた事。

 出生なぞ、後世の者達が勝手に作り上げる。だから出生は全て噓ではあるが、真実でもある。

 黒い靄が語りかけてくる。

 

『女、お前は何ものぞ。何をして鬼である』

 

 その問いかけに馬鹿らしいと嗤い、返答を返さず漂う。あれが何なのかもわからない、わかりたくもない。それどころかそんな靄は無かったとも言い切ろう。

 黒い靄は無散すると同時に、意識も夢の世界から醒めていく。

 


 

 目を開くとそこには何もなかった。付け加えるとしたら、そこには何かがあったが雑草の様に毟られて捨てられた後であった。血の生臭い臭い。肉の腐った鼻につく臭い。蠅が飛び回り、蛆が集る。

 等しい暴力が村人達に与えられた、それを可哀そうと憐れむことはしない。

 弱いからだ、強くないから死ぬ。至極簡単な理、世は弱肉強食。

 

(今日は月がまんまるできれい。あとで月見酒もええなぁ)

 

 惨状など気にも留めず、踵を返して帰ろうとしたが──首を狙う斬撃の衝撃波が音もなく襲い掛かる。それを首の薄皮に到達する寸前、身体を強引に動かして躱す。常人では筋肉が千切れるほどの運動。そもそも反射神経が追いつかないだろう。

 

「無粋やなぁ」

 

 斬撃の相手は既に気配を消していた。十二鬼月(あいつら)に違いは無い。追って首を捻り千切るのは簡単だが。それで月見酒を逃すのは捨て置けないので、小言をもらすだけで帰路につくことにした。

 

(次は、ゆるさんけど)

 


 

 普段見せる事が無いよう邪悪な笑顔。……いや、何時も邪悪だし何考えているか見当もつかない。訂正します何時も邪悪です。

 っと、話がそれてしまいましたね。あのお方、いつもふらふらと気が向くままに出て行ってはふらふらと帰ってきたりしていまして。金品財宝、高そうな着物、酷い時は気に入った人間を攫ってきたりとやりたい放題なんですよ。

 そんなあのお方が、本当にまれに表情を変える時があるんですよ。まるで別人のように、その時のあのお方もまた怖いんですけど、怖さの質が違うんです。

 嬲りつくすのが何時もならば、喰らいつくすというべきでしょうか。そんな時のあのお方には絶対に近づきません。鬼殺の柱から逃げていた時の様にそれはもう脱兎。げふんげふん。

 つい先日も、それで人を道端の石を無意識で蹴とばす様に簡単に殺してきたのでしょう。全身を真っ赤にして鉄の臭い全開で帰宅なされました。そのまま酒を呑み始めるんですからそれはもう大変ですよ。

 全身を洗い、服を着替えさせて、ちょっかいを潜り抜けて。

 今は慣れてきましたけど、果物の酒のような甘ったるい香りが何時もするんですから目の毒です。普通の男性ならば見られただけで昇天します。酔いながら攫ってきた者に視線を強引に合わせ続けて実験していたので事実です。可哀そうでした爆笑していましたけれど。名も無き男性……なーむ。

 血だらけの着れなくなった着物を焼き捨てながら、どうしたらここまで返り血に濡れるんですかと小言を言ってみたんですけど。回答は決まって“覚えていない”なんです。

 内心、ボケたんですかと言いたかったんですがぐっと心の中にとどめておきましたよ。ええ。

 

「むかごぉ、くちにでとるで?」

「えっ!?」

 

 このあと、口にするものおぞましいような罰をうけました。








  :)
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