~蝶屋敷~
「あ、鱗滝さん!こちらです!」
蝶屋敷の門前で、炭治郎が鱗滝に「お久しぶりです!」と右手を挙げて振る。
そして、鱗滝はそれに応えるように右手を挙げた。
「式の前に、楓さんたちに挨拶しますか?」
「そうだな。式に差し支えなければな」
鱗滝が蝶屋敷に門を潜ると、屋敷の周囲ではきよたちが忙しなく動き、蝶屋敷の主人であるしのぶ、居候の義勇や善逸、伊之助が式の準備を進めていた。
ちなみに伊之助なのだが、アオイに「今日だけは着て下さい!式が終わるまででいいですから!」と言われ、正装を無理矢理着せられ、伊之助は「こんなもん着るのかよ!拷問じゃねぇか!」と言う一幕があったのだが。
「楓たちは大丈夫か?緊張していないか?」
「全くしてませんでした。楓さんたちは、こういう舞台に慣れてるでしょうか?」
「そんなことはないと思うが、楓たちには支えてくれる人たちが居るからじゃないか」
炭治郎は「そうかも知れませんね」と言って頷く。
鱗滝の言う通り、楓、真菰、カナエが集まれば、大抵のことは平静に卒なくこなしそうだ。
炭治郎もカナヲと一緒ならば、大抵のことはこなせるような気もする。
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「楓さん!鱗滝さんがお見えになりました!」
炭治郎が襖を開けると、そこには袴を身に纏い、式の準備を待つ楓が椅子に座っていた。
「遠路遥々ありがとうございます、義父さん」
炭治郎は、楓の「義父」呼びを聞いて目を丸くする。
でもそうか。義娘の真菰は楓の嫁なので、鱗滝が義父なのは納得だ。そして間接的に見れば、カナエも鱗滝の義娘だ。
「よい。義息子と義娘たちの晴れ舞台、儂が参列するのは当たり前だ。しかし、楓たちは既に子を成しているから、不思議な感覚でもあるがな」
鱗滝はそう言ってから、楓の対面に鎮座している椅子に座る。
「そうですね。真菰とカナエが身籠り出産したのは、大分前ですからね」
そう言ってから苦笑する楓。
てか、式が終わったら真菰とカナエが楓に何か報告があるらしいのだが、何のことだろうか?
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~一方女性側~
「わあ、綺麗ですね。カナエさんと真菰さんの白無垢姿」
「うん、とっても綺麗。姉さんたちをお嫁にもらった兄さんは、幸せ者だね」
着付けを手伝っていた、禰豆子とカナヲが呟く。
でも確かに、真菰とカナエの白無垢姿は白く儚い一輪の花のようだ。
「ふふ、ありがとう。禰豆子とカナヲもすぐに袖を通すことになるわよ」
「そうそう。既成事実を作ってしまえばすぐだよ」
まあ確かに。真菰の言う通り、付き合うまでが停滞していても既成事実を作ってしまえば、結婚まではそう遠くないだろう。……まあ、式を挙げずに結婚。という例外もあるが。
「……真菰ちゃん。二人には刺激が強過ぎる言葉、かな」
その証拠に、顔を赤く染める禰豆子とカナヲ。
初恋、と言った初々しい表情である。
ともあれ、程なくして蝶屋敷内の広間で式が始まった。
楓の袴姿の隣に立つのは息子である海斗。カナエの隣には義妹であるカナヲ。真菰の隣には娘の夏帆だ。
そして、祭壇の前でカナヲたちは楓たちの隣を離れ、呼んだ神主の祝詞を述べ、三三九度を経て、結婚式を挙げる。
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式が終了し、蝶屋敷の居間では宴の準備が始まる。とまあ、式が終わった直後伊之助は「やっと脱げるぜ!やっほ――!」と騒ぎ、アオイが「皆さんが居る場所で脱がないで下さいっ!」という一幕があった。まあ伊之助は、日常でほぼ常に上半身裸なので、屋敷の皆が特段驚くことはなかったが。
きよたち、夏帆や海斗が忙しなく宴の準備に取り掛かってる中、楓、真菰、カナエはとある一室に身を置いていた。
「着物の方が落ち着くわ」
袴から軽装の着物に着替えた楓は、はあ。と息を吐く。
式の間、袖を通していた袴は全体的に重かったので肩が凝る。
「私も白無垢は重かったかも、とっても素敵な正装なんだけどね」
「そうね。でも、念願の白無垢に袖を通すことができて満足かしら」
花、蝶の柄の着物に着替え、化粧を落とした真菰とカナエがそう呟く。
ともあれ、楓が口を開く。
「ところで、何か重要な話があったんだよな?」
「うん。楓、私たち――――妊娠したんだ」
「しのぶが言うには――――約二週間、らしいわよ」
「…………………………マジか」
楓は、かなりの間を置いてから口を開くのだった。
楓が逆算をした所、久しぶりに抱いたあの日に種子を残したのだろう。
「マジだよ~。私たち七人家族になるんだよ、お父さん」
「ふふ。まだ増えそうな気もするけど、気のせいかしら?」
「……あー、どうだろうな?先のことが決まり次第じゃないか?」
でも楓たちの予想では、まだ増えそうな気もするが。
このことを鱗滝に報告した所「本当かッ!」と泣いて喜んでくれ、蝶屋敷の皆も「おめでとうございます!」と祝いの言葉を頂いた。
――まだ鬼は全て消し去っていないが、小さな幸せは確かにここにある。
鬼滅の刃~花と桜~。無事完結です。
ここまで読んで下さった読者様、本当にありがとうございました!
追記。
結婚式は、蝶屋敷主催で行われました。