ガチレズ拗らせ破戒ガールズ   作:難民180301

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ガチレズ拗らせ破戒ガールズ

「ゆっ、ユースさん!? 何をされるのですか!?」

 

 私が首に手を回して正面から抱きつくと、アンジェは面白いように慌てふためく。露出の少ない僧衣から覗く白磁のような肌が真っ赤に染まり、手をわたわたとさせている。

 

 それに構わず豊満な体を抱きしめ続けていると、

 

「きゅう……」

 

 アンジェは目を回して卒倒した。

 

「ヒューヒュー!」

「昼間っから大胆だなユー姉!」

「うるさいぞガキ共。これは高尚な実験だ」

 

 アンジェの経営する孤児院で暮らす子供たちがうるさく囃し立ててくる。口笛を吹いたり両手で顔を覆いつつ隙間から覗き見ていたり。いつ来てもこの孤児院はにぎやかだ。しかしあいさつもなく出会い頭に抱きついただけで卒倒されるのは予想外だった。

 

 アンジェとは魔王討伐の任を負い数年間共に旅をした仲だ。もちろんちょこっとレズの気があるのには気づいていたけど、ここまでウブだったとは。そういえば私が魔法使いのローブをたくしあげて川遊びしていた時、やたら足の方に視線を感じたな。今思えばあれもヒントだったか。まだ十三の私に欲情する、レズの足フェチシスター。友人の闇を垣間見た気がした。

 

「なあ、続きはー?」

「きゃっきゃうふふは?」

「誰がするか。用は済んだからもう帰る」

「何しに来たんだよ変態魔法使い!」

 

 魔法使いじゃない、大賢者だ。

 

 そう言い捨てて、私は次の実験対象を探しに向かった。

 

 

 

---

 

 

 

 魔法使いは知識を求める。その範囲は魔法に限らず政治、経済、哲学、数学など幅広い。魔王討伐の任を果たし、一気に時間が出来た私が探求を初めたのは『愛』についてだった。

 

 理由は単純、私が愛されたいからだ。誰かに愛されている実感が欲しかった。しかし何をされれば愛を実感できるのか見当もつかず、まずは愛とは何かという定義から考えることにした。

 

 愛にはいろいろな種類がある。友愛、敬愛、親愛、恋愛。勇者パーティに売り込みをかけてそれなりに濃い数年を送ってきた私にはほとんどの愛を経験した覚えがあるけれど、愛されている実感はなかった。なぜならどの愛も打算に裏打ちされている、と感じたからだ。

 

 友愛は友達としての利用価値、敬愛は敬意に値する社会的評価、親愛は親しみを覚えやすい容姿、恋愛はつがいを欲する生物の本能。すべて損得勘定の一種だった。

 

 だとすれば、私が欲している愛の定義も決められる。無償の愛だ。

 

 たとえ私が何の価値もないゴミになろうと、私がそこにいるという理由だけで喜んでくれる。私のためなら命だって投げ捨ててくれる。そんな熱い情動を実感したいんだ。

 

 で、愛をくれそうな仲間のところに朝一押しかけてみたのだけど、

 

破戒シスター(アンジェ)は性愛、と」

 

 アンジェはダメだった、と研究ノートにメモしておく。倒れる前の荒い息からは性愛しか感じられなかった。

 

 というかさっきのはかなり危ない橋だったかもしれない。アンジェは鉛製の巨大ロザリオで数多のモンスターをミンチにしてきたパワーシスターだ。もしその気になって迫られたら逃げ切れなかった。

 

「あれ、ユース? 何してるの?」

「おお、いいところに」

 

 考えながら街の大通りを歩いていると、雑踏の中に見知った顔を見つける。

 

 活発なショートカットにぱっちりした目つき。細く締まった手足は健康的な小麦色に焼けている。そして背中には国宝『勇者の剣』。

 

 当代の勇者様であるエヴァ・ヒロイネスだ。

 

 外見こそ私より少し上の少女だけど、魔王を倒した大英雄様だけあって往来の視線が多数向けられている。こんなところで何してるのか、と聞きたいのは私の方だった。

 

 とはいえそれよりも大事なことがある。愛を確認しないと。

 

「ちょ、ちょっと、ユース!?」

 

 同じように抱きついてエヴァの魔力を乱してやる。その波形を見るに――うーん、エヴァも違う。これは友愛だ。

 

 一緒にいると落ち着く、困っときに優しくしてくれる、時々奇行に走るのが危なっかしいけどだからこそ放っておけない。こんなところか。好感は嬉しいが、結局は私がエヴァにもたらす利益が根本にある。

 

 私が価値のないゴミになっても愛してくれる情動は、感じられなかった。

 

「わ、私はいつでもおっけーだけど、やっぱりほら、雰囲気って大事じゃない? こんなに人のいるところでっていうのは、人としていけないことだと、ね? ううん、もちろんユースがそういうの好きだって言うならいくらでも付き合う覚悟だけど、初めてはロマンチックに――」

「えっ、こわい」

 

 エヴァの魔力がアメーバのように蠕動しだした。

 

 爆発的な性愛を感じ、反射的に身を引く。

 

 エヴァは光のない目でトリップしていた。

 

「実は私、ユースとそういうことになるの考えたことがあってね、今一生懸命魔法を勉強してるところなの。なんの魔法、ってそんなの女の子同士で作れるようにする魔法に決まって――」

 

 お熱いねえ、とヤジが飛んでくる。私は悪寒でむしろ寒いよ。

 

 くねくね腰を振りながら性愛を振りまく女勇者を捨て置き、そっとその場を後にした。

 

 

 

---

 

 

 

 次のターゲットを発見。

 

 二メートル近い筋骨隆々の体に、分厚い金属鎧。山のような威圧感を放ちながら貴族街を練り歩く彼こそ、王国騎士団長、ガタイ・イーネその人である。部下の一般騎士は弱いけどこの人だけはエヴァ並みに強く、魔王討伐にも手を貸してもらった。

 

 正直エヴァまでレズだったのはショックで、同性の知り合いを尋ねるには時間をあけたい気分だった。さっそく正面から近づいていくと、ガタイさんのいかつい視線とかち合う。

 

「おや、ユース女史」

「なぜ頭を抑える」

 

 ユースさんの腰元に突進していったものの、太い腕で頭を抑えられた。リーチ差のせいで一歩も前に進めない。

 

「貴女がまたおかしな実験をしていると民から通報を受けましてな。いたずらに人の心を乱すものではない」

「ガタイさんは私のハグで心が乱れると?」

「答えにくい質問ですな、はっはっは!」

 

 笑い飛ばしてはぐらかすと、ガタイさんは一転弱りきった声を漏らす。

 

「して、何を企んでおられる? 以前のような破天荒はご遠慮願いたいが」

「人をじゃじゃ馬のように言うな」

 

 破天荒って。もしかして流れ星に願い事をかけるために町中でメテオ魔法使ったことか、それともやたら外皮の硬い邪竜を倒すため、ガタイさんの両手剣を尻の穴にぶち込んだことを根に持っているのか。相変わらず見た目よりネチっこい人だ。

 

 まあこの距離なら抱きついて魔力を波立てずとも、目を凝らせば見える。ガタイさんが私に向けるものは――敬愛。

 

 魔法を極めた身として、大規模な範囲魔法で魔王軍を拠点ごと灰にしたり、天変地異を起こしたり、ガタイさんの前で色々とやってきた。そのことを買ってくれてるようだ。要は強い魔法をたくさん使えてすごいですね、と強く思っている。

 

 やはり私の欲しいものではない。

 

「どうされました?」

 

 突進をやめてため息をつくと、ガタイさんが戸惑っている。

 

「……なんでも。私はまだ行くところがある。失礼」

 

 追及を受ける前にその場を立ち去る。

 

 困惑しきりのガタイさんからじっと見られているのを気にせず、私は愛探しの旅を再開した。

 

 

 

---

 

 

 

 夕暮れ時の路地裏。汚い壁に寄りかかって空を見上げると、オレンジの空にカラスが飛んでいた。

 

 ガタイさんと別れてからも知り合いや友人巡りを続けたけれど、私の求める愛はなかった。私の大賢者としての価値や見た目、性格に利益を感じている人しかおらず、存在そのものを肯定する愛は皆無。

 

 しかし私は諦めない。欲しいものがないなら作ってしまえばいいんだ。

 

 私は愛を実感したくて、その愛は損得勘定によらないナンセンスな愛である必要がある。たとえば私の命のかかった状況で、自分の命を捧げてまで私を助けたとすればそれこそナンセンスの愛だ。死ねば損得も何もない。打算から解放された愛は自己犠牲によって成立する。

 

 そうなるとまずは敵が必要だ。私を殺せて、なおかつエヴァとアンジェ、ガタイさんなんかの人間卒業組を相手にできるだけの敵が。そんな敵は魔王討伐の旅でみんな倒してしまったし、生き残りが居たとしても付き合ってはくれないだろう。

 

 でも大丈夫。これも創っちゃえばいい。

 

 私は手近な石を拾い、地面に召喚魔法の魔法陣を書いていく。

 

「『アイテムボックス』」

 

 詠唱で異次元の収納スペースを呼び出し、その中から触媒となるブツを選んで、魔法陣の真ん中へ設置する。異様に凶々しい魔力のにじみ出る、四本指の右腕。

 

 魔王の死体の一部である。

 

「悪魔召喚!」

 

 面倒だったので呪文は省略し、手早く魔法陣に魔力を流して敵モンスターを召喚する。

 

 するとぽん、と気の抜けた音。

 

 果たして魔王の死体という最高の触媒に釣られて召喚されたモンスターは、

 

「ワレヲ呼ンダノハキサマカ、賢シキ者ヨ……」

「あっ、アナルドラゴン! 久しいな」

「食イ殺スゾ」

 

 かつて尻の穴から剣を挿入し討伐した邪竜、通称アナルドラゴンだった。

 

 

 

---

 

 

 

 すっかり日の落ちた深夜。

 

 私とアナドラは再会した直後、隠蔽魔法を使いつつ王都から離れた草原まで移動した。

 

 アナドラは四本足と猛々しい黒い翼を折りたたみ、猫の香箱座りのようにして私と顔を突き合わせている。

 

「いいかアナドラ、演技の時間だ」

「オイナンダソノ呼ビ方ハ」

「対価を支払って召喚した以上、支配権は私にある。いい演技を期待している」

「コノクソ女ガ」

 

 アナドラは顔をそらしてぶふぅ、と暴風のようなため息をつく。それだけで草原の一部がえぐれてしまった。

 

「スデニ尋常ナ勝負デヤブレタ身ダ、見苦シク暴レハセン。シテ、演技トハ?」

 

 案外潔いヤツだ。前に会った時は問答無用で私の方から殺しにかかったけど、話してみれば分かり合えたかもしれないな。

 ともあれ、過去は過去。今は三文芝居の打ち合わせが大事だ。

 

「いいか、君はアナルソード・ショックで死んだかに思われたが、冥府で魔王の力を借り、どうにか蘇った。今はアナルの仇をとるため、アナル大作戦の実行犯である私を襲いにきた」

「乙女ガハシタナイ言葉ヲ連呼スルンジャナイ」

「うるさいな」

 

 んもう、話の腰を折るんじゃないよ。

 

「君の魔力で復活を察知した私が一人でここに来て、鉢合わせしている。ここまではいいな?」

「ヨイゾ。何ガシタイノカ全ク分カランガ」

「私たちは戦いを始めるが、復活した君の力が強すぎてボロ負け。死にかける」

「ンン?」

「そこへ私の仲間が駆けつけて君と対面。『我ガアナルノ仇! コヤツダケハ死ヨリモ辛イ苦痛ヲ味ワワセネバ気ガスマヌ! コヤツヲ差シ出スノナラバ見逃シテヤロウ。シカシ歯向カエバ、復活シタ魔王軍ガ王都ヲ襲ウデアロウ』。そんな風に脅しをかけてくれ。後は流れでいこう」

「チョ、チョット待テ。何ガシタイノカ訳分カランゾ」

「とりあえず言うとおりにやればいいんだ! ほら始めるぞ!」

 

 アナドラの鼻先をペシペシ叩き、善は急げとばかり芝居を始めるのだった。

 

 

 

---

 

 

 

 汝恋せよ乙女なら

 命短しさあ急げ

 

 何度も暗唱した聖書の言葉通り、私アンジェは恋に落ちました。一目惚れでした。

 

 最初の出会いは王都のはずれ。孤児院の祭壇に吊るされた伝説の武器、破魔の大ロザリオに選ばれた私は、同じように勇者の剣に選ばれたエヴァさんと一緒に、魔王討伐の旅に出ようとしていました。

 

『魔法使いを一人どうかな?』

 

 勝ち気な言葉に振り向いた瞬間、初恋の衝撃で私は絶句しました。

 

 ユース・ユーティリタス、十歳。華奢な体をいかにも魔法使いらしい黒のローブで覆い、その体には不釣り合いなほど大きい杖。少し釣り目気味になった目元にはエメラルドグリーンの瞳が輝いていて、堂々とした自信がにじみでていました。

 

 ユースさんは独学で修めた魔法を実際に使いたくて勇者パーティに売り込みにきたらしく、軽い理由にエヴァさんは眉をひそめていました。私はこの子と一緒に旅できるならどうでもよかったけど。

 

 さいわい、実際に魔法を見せられると即採用となりました。杖をひと振りしただけで雨が振ったり雷が落ちたり、流れ星まで落ちてきたり。魔法ってすごいです。

 

 私たちが期待したとおり、ユースさんの魔法でたくさんの魔王軍を倒すことができました。浮遊魔法で鳥のように剣を飛ばし、邪竜のお尻の穴に突き刺した時は思わず歓声を上げて抱きついてしまいました。ユースさんは強くてかわいいのです。

 

 ローブをたくしあげて水浴びしていた時なんて、興奮のあまり心臓が爆発しそうでした。

 

 普段隠れている部位が露わになるとどうしてああも眩しいのでしょう。分厚いローブとブーツに覆われているほっそりとしたおみ足が、清水に濡れて輝く。その光景を見て以来、お召し物の下にある肌をあますところなく舐め回したいと、そう確信したのです。

 

 この思いは留まるところを知らず、ユースさんが宿屋の相部屋でブーツを脱いだ時などは、指の間からくるぶしのふくらみに至るまで丹念におしゃぶり申し上げたい衝動に駆られました。一日中歩いた彼女のおみ足の味、舐められる彼女の表情。想像するだけで私の下腹部は受胎したがごとき熱を帯び、なおさら彼女への思いが強まる日々でした。

 

 ああ神よ。恋する相手をペロペロしたいこの衝動、これを愛というのですね。

 

『うえっ、ちょ、こっち来ないで。邪教じゃないのそれ?』

 

 この思いを相談したエヴァさんとはそれ以来距離が遠くなってしまいました。邪教なんて失礼です。

 

 さて、かわいい、強い、舐め回したい。三拍子そろったユースさんですが、まだあります。

 

 なんと就寝中必ずといっていいほど泣くのです。しかも泣きながら近くのものに抱きつきます。

 

 理由は分かりません。後から旅に合流したガタイさんはユースさんの出生がうんぬんと言っていた気はしますが、どうでもいいです。抱き合える可能性がある、それだけ分かればいいんです。

 

 隣で寝れば確実に抱き合うことができるわけですが、エヴァさんが勇者の剣を振り回して妨害してくるので結局旅が終わるまで抱けませんでした。

 

 けれどそれで良かったのかもしれません。

 

 今朝のことです。私は急に訪ねてきたユースさんに抱きしめられ、卒倒してしまいました。意識のある状態で向こうから抱きついてきたシチュエーション、実物ならではのぬくもりと柔らかさ。私の意識を飛ばすのに十分な威力でした。

 

「ユースさんっ、ユースさんっ、ああっ! 神よっ!!」

「姉ちゃんうるさーい!」

 

 乙女なら 喘ぎ高ぶれ 一人でも

 

 あのときの感触を思い出しながら、私は神の教えに従い一人で何度も自分を慰めているのですが、結局ユースさんは何をしたかったんでしょう?

 

「神よぉおおっ! ……あら?」

 

 妄想のユースさんと共に天界へ至っていると、何やら捨て置けない気配を感じます。

 

 王都の外でせめぎ合う強大な二つの魔力。一つはユースさんですが、もう一つは――

 

「邪竜!」

「だから姉ちゃんうるさいって……どうしたんだ?」

 

 弟が怒り心頭で自室に入ってきましたけれど、かまってる暇はありません。

 

「あらあら、またロザリオを振る機会があるなんてね」

「ロザリオ? ま、まさかあれをそっち系のおもちゃにする気か!?」

「頭おかしいんですかあなた」

「姉ちゃんに言われたくねえよ!」

 

 悪ガキの弟分をあしらいながら、祭壇の上にかけられた巨大ロザリオを装備します。きっとエヴァさんも今頃同じように準備しているでしょう。

 

 今すぐに行きます。待っていてください、ユースさん。

 

 

 

---

 

 

 

 外れにある草原の方向では膨大な魔力が渦巻き、それは魔法に疎い一般人でも感じられるほどだった。ざわめく夜の王都を私、勇者ことエヴァは駆けている。

 

「それならそうと言ってよね……!」

 

 口からつい漏れるのはある魔法使いへの恨み言。どうやら一人で抱え込む癖のあるあの大賢者は、今回も抱え込んでいたらしい。

 

 王都の外で荒れ狂う魔力のうち一つはユースで、もう一つは確実にあのときの邪竜だ。どうかして復活し、ユースが先んじて勘付いた。それを相談するかどうか迷った末に、出会い頭に抱きつくという奇行に走ったのだろう。

 

 たしかにユース一人でもあの邪竜を再び倒すことはできる。だけど相談もしてくれないのは水臭いじゃんか。

 

 だからこうして走っているのは、文句を言いに行くためだ。討伐を手伝うつもりはあるけどあくまでもついで。要らない遠慮をしたのを説教してやる。

 

 面倒くさいのは、今同じ場所に向かっているだろうアンジェだ。アンジェは悪いヤツじゃないけど、ユースが絡むと性職者の一面を見せる。正直気持ち悪いから来ないでほしいんだけどな。

 

 そういった考えが楽観のしすぎだと分かったのは、すぐだった。

 

「ウソ……?」

 

 王都の外の草原は見る影もなく荒れ果て。

 

 その中心でユースが倒れ伏し、邪竜が雄叫びをあげていた。

 

 

 

---

 

 

 

「我ガアナルノ仇! コヤツダケハ死ヨリモ辛イ苦痛ヲ味ワワセネバ気ガスマヌ! コヤツヲ差シ出スノナラバ見逃シテヤロウ。シカシ歯向カエバ、復活シタ魔王軍ガ王都ヲ襲ウデアロウ」

 

 よしよし、ちゃんとエヴァ、アンジェ、それとガタイさんも来てくれてる。アナドラの演技も注文どおり。

 

 後は無関係の他人と自分の命を賭けてまで私を助けてくれるのか、死んだふりして見てるだけ。

 

「……」

 

 見てるだけなんだけど。なんだか妙に静かだ。アナドラの息遣い以外何も聞こえない。

 

「「ひえっ!?」」

 

 こっそり薄目で見てみると、思わず声が出てしまう。さいわいアナドラの悲鳴と重なってかき消されたけれど、やばい。

 

 エヴァとアンジェの目が人殺しのそれになってる。

 

 ガタイさんも私が倒れているの見て驚いてたけど、二人からにじみ出る絶対殺すオーラ見て固まっちゃってるよ。

 

「きれいな……おみ足……ペロペロ……」

「二人で……子作り……」

「待テッ! 復活シタノハ我ダケデハナイ! 妙ナ動キヲスレバ新生魔王軍ガ王都ヲ襲ウ――」

 

 知ったこっちゃねえ。声には出さずとも、二人がそう吐き捨てたように感じた。

 

 地響きとともに岩が砕ける轟音。鉛の巨大ロザリオを振りかぶったアンジェが、アナドラの脳天をぶっ叩いたのだ。

 

 すさまじく外皮の硬いアナドラもこれには面食らったらしく「ブヘッ」と悲鳴を上げている。

 

「ユースさんの神聖なお体に傷をつけて……どう落とし前つけてくれるんですか?」

「違ウ! モウ言ッテシマウガコレハスベテ――」

「頭が高いっ! ロザリオにキスして懺悔なさいっ!」

 

 何度も何度も重量級のロザリオを頭に振り下ろすアンジェ。いくら外皮が固くてもあれだけ叩かれると辛いだろう。翼がピクピクと動いているが、めまいが起きているのか飛んで逃げることも出来ない。

 

 聖女の執拗な強制懺悔ロザリオでアナドラの動きが止まっている。この間、今代の勇者であるエヴァは何をしているのか。

 

「勇者の剣の力――その尻で受けるがいい!」

 

 勇者の剣を構えていた。刀身は聖なる破魔の力で焼きゴテのように赤熱しており、弓を引き絞るように剣を構えている。アナドラの尻付近で。

 

 めまいで動けないアナドラは再びの惨劇に気づく気配はない。

 

 ガタイさんが合掌し、念仏を唱えているのが見える。

 

 私もこっそりそれに倣った。

 

 

 

---

 

 

 

「ユースさん!」

「ユース、しっかりして!」

 

 アナドラの昇天した後、私はぐったりと意識のないフリをして二人に助け起こされていた。

 

 ここで演技だとバレれば悲惨な二度目の最期を迎えたアナドラに申し訳が立たない。うーん、といかにも今目覚めたように振る舞ってみる。

 

「……エヴァ、アンジェも。どうしてここに?」

「どうしてじゃないよバカっ! なんで一人で抱え込むの!」

「私たちに気を使ってくれたのは分かります。ですがユースさんが傷ついては元も子もないのですよ?」

「ごめん……」

 

 エヴァは涙目で声を荒げて、アンジェは無表情で静かに諭すように、一人で戦っていたことを責めてくる。魔力で心を読まなくても、私を心配してくれる気持ちがひしひしと伝わってきた。

 

 それだけでなく、彼女たちは王都の人々と自分たちの命を危険に晒してでもアナドラと戦ってくれた。損得勘定で言えば迷いなく切り捨てるべき私みたいな子供のために。

 

 だから今のエヴァとアンジェの心には、打算に基づかない純粋な愛があるに違いない。そう考えて心を覗くと――

 

「ひっ!?」

「ユース?」

「どうしたのですか?」

 

 そこにあったのは恐ろしいレベルの狂愛と性愛だった。エヴァは邪法を使ってまで私との子をなすことに執着していて、アンジェは私の足を中心に舐め回そうとたくらんでいる。私の求めた、純粋な愛はどこにもない。

 

「また怖い夢でも見たの? 大丈夫よ。私は絶対ユースの味方だから」

「私たち、の間違いでしょう。ユースさん、私たちは決してあなたを離しません。神の名のもとに誓いましょう」

「邪教の神に誓われてもね……」

「黙っていなさい貧乳」

「は?」

「……ふふっ、あははっ」

 

 思わず自嘲の笑いが漏れる。

 

 私の求めた純粋な愛は、存在しないと気づいてしまった。だって一番私を大切にしてくれるエヴァとアンジェでさえ欲まみれの性愛を持ってるんだ。二人でこれなら、無色透明の愛をくれる人なんているわけない。

 

 けれどそれでいいんだ。

 

「アンジェ、頼みがある」

「頼み?」

「今日は一日中歩き回って疲れた。久しぶりに戦いもしたし、もう足がクタクタだ」

「……っ!」

「ブーツを脱がせてくれないか?」

「神の導きのままに」

 

 神聖な供物みたいに私のブーツの紐を解き始めるアンジェ。

 

 エヴァはアンジェに親の仇を見るような目を向けると、一転心配げな表情をこちらに向ける。

「ね、ねえユース、いいの? そんなこと言ったらこの破戒シスター行くとこまで行っちゃうよ?」

「いいんだよ。それよりエヴァ、どっちが母親になる?」

「ふぇっ!?」

「ふつつか者だが、よろしく」

「えーっ!?」

 

 顔を真っ赤にしたエヴァは、叫びと共に放心してしまった。アンジェは私のブーツを脱がせるのに夢中になっている。

 

「……私は一体何を見せられているのでしょう」

 

 野太い声が聞こえた。ほとんど存在を忘れていたけれどガタイさんもこの場にいたんだ。視線だけそちらに向けると珍獣でも見るような目を私たちに向けていた。

 

 

 

---

 

 

 

 仮に無色透明の愛があったとしよう。ここでの愛とは当人の外見、性格、功績などを一切無視して、存在だけを肯定してくれる情念のことだ。

 

 しかしそれは本当に愛と呼べるだろうか。その人が持って生まれたものや積み上げてきたもの、誇れるものを見もせずに、ただ肯定する。平等で公平だけど、その思いを向ける相手は誰だっていい。罪人でも英雄でも愛される。そんなの無関心と変わらない。

 

 繁殖欲求に狂ったエヴァの狂愛と、肉欲まみれのアンジェの性愛。本当に私が必要としていたのは、私だけに向けられるこういった愛だったんだろう。

 

 それが分かったから私は二人を受け入れた。たくさん迷惑をかけた分、二人の愛に精一杯答えようと思ったんだ。

 

「あらあらエヴァさん、いたんですね。道理で街がドラゴンのお尻臭いと思いました」

「出たわね邪教シスター。それとあの剣はとっくに国へ返した。これは普通の剣よ。色ボケで目までおかしくなったのかな?」

「えーと、二人とも。そうカッカせずに……」

「「お黙り」」

「はい……」

 

 あの日から数日たったある日。

 

 王様への報告やハッタリだった新生魔王軍の調査協力やらを終わらせると、二人は当然のように私の屋敷までついてきた。そして私たちは一夜を共にしたわけだけど、二人は私を挟んで毎晩牽制合戦をしてて、期待してたようなことは未だない。

 

 私の方はもういつでも準備万端だから、三人一緒に初めちゃおう。何度もそう言い出そうとするけど聞いてくれる様子じゃない。

 

 今も往来のど真ん中で私を挟み、視線で火花を散らしている。

 

「おっ、今日もやってるな」

「変態勇者と邪教シスター、小さな大賢者」

「こんなのに国が救われるなんざ世も末だぜ、ハッハッハ!」

 

 野次馬の堂々とした陰口に言い返す余地はなかった。

 

 魔王討伐と復活した邪竜の討伐で私たちの評価はうなぎのぼりになっている。当然、人となりも広く知られた。エヴァが外法に手を出してることもアンジェが邪教シスターであることもだ。

 

「むきーっ! 今度はあなたのお尻に刺してやるっ!」

「上等です。我が神への供物にしてあげましょう」

「いいぞやれやれー!」

 

 いつもどおり先にキレたエヴァが剣を抜き、アンジェはロザリオを肩に担ぐ。野次馬が囃し立て、私はそそくさと乱闘の中心から抜け出す。ここから二人がくたびれるかガタイさん率いる騎士団が仲裁に入ってくるかするまでがいつものパターンだ。野次馬の中にはどのパターンで決着がつくか賭けが始まっている。

 

 でも私は結末に興味がない。

 

「ユースは私のもの!」

「いいえ、ユースさんのおみ足は私のものです!」

 

 そうやって二人が争えば争うほど、愛を実感できるから。

 

 私は愛されたかった。

 

 そして今、愛されている。



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