BIO HAZARD -Queen Leech-   作:ちゅーに菌

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キリがいいため前後編になりますので短めですが、バイオ3本編も短いですからね、仕方ないですね(支離滅裂な発言)



LITTLE ESCAPE

 

 

 

 

 ジル・バレンタインにとって、アークレイ山地猟奇殺人事件あるいは洋館事件と呼ばれるモノの記憶は悪夢以外の何物でもなかった。

 

 人だったものが人を喰らい、有り得ない怪物達が闊歩し、彼女を殺すためだけに襲い掛かって来るこの世の終わりを煮詰めたかのようなそれが、悍ましく醜悪で現実離れしていた事は間違いない。

 

 PTSDとまでは行かないまでも自身がゾンビになるような夢や、あの洋館で何らかの行き違いによって死ぬもしもの可能性を見るような悪夢を度々彼女は経験し、この2ヶ月間苛まれていた。

 

 洋館事件から命からがら生還してから待っていたのは、警察署長のブライアン・アイアンズを始めとしたラクーンシティの上層部とアンブレラによる徹底的な揉み消しと監視であり、それに異議を唱えるような場さえなく、仮に何らかを訴えれば精神病院の閉鎖病棟にでも送り込まれていたであろう。あるいは文字通りに消されていたかだ。

 

 ラクーンシティという街はそれほどまでにアンブレラに染まり、また腐り切っており、概ね展開はレベッカが対峙していたという"ジャクリーン・マーカス"が言っていた通りになったと言ってもいい。

 

 アンブレラ幹部養成所にて彼女とエンリコ隊長が会った時に彼女は、"証拠はラクーンシティ郊外に隠した方が後々のためだぞ?"などと言っていたらしく、ラクーンシティに戻る前に一応そうして置いた事が功を奏した事も皮肉と言う他ないだろう。洋館事件で受けた仕打ちの4割程は彼女によって間接的に受けたものだと言うのに。

 

「ダメね……」

 

 ジルはマンションの一室である自宅の洗面台の前で深い溜め息と共にそう零す。

 

 彼女はアイアンズ署長によって停職処分を受けていたが、ラクーンシティ郊外で猟奇事件が起きた時点で既に行動しており、ラクーンシティスタジアムでの暴動騒ぎで洋館事件の再来を確信すると共にそれから丸2日間は個人で救助活動に当たっており、流石に限界が来たので一旦寝るために帰って来ていたのだ。

 

 つまり彼女は少なくとも"2日半以上"警察署に近付いておらず、今どうなって居るのかは分からない状態である。

 

 とは言え、避難所になっている警察署は元々極めて強固であり、洋館事件を共に生き抜いたS.T.A.R.S.や同僚のラクーン市警の面々もいるため、内部から崩壊でもしない限りは持ち堪えているだろうと考えていた。

 

(署の様子も気になるわね……)

 

 とは言え、警察署がどうなっているのかも気になるところ。信頼はしているとは言え、真性のクズであるアイアンズ署長などは何を仕出かしているかわかったものではない。翌々考えれば今更停職どころの騒ぎではないだろう。

 

 そのため、ジルは身支度を整えるとハンドガンと幾ばくかの弾丸を手にし、自宅の外へと出るとマンションの廊下を歩く。

 

 その間にも銃声や爆音、悲鳴や怒号、そしてサイレンの音が街の何処かで上がり、自身らを含めた生存者が抵抗しているであろうその音に表情を険しくする。

 

 そして、彼女がマンションの外に出て人工的な明かりに照らされる夜の街並みを目に入れたその直後だった。

 

 

 

「スタァァァズ……!」

 

 

 

 底冷えするような低い音とも声とも取れるものが響き、反射的にジルがそちらの方に目を向ける。

 

 彼女の十数m先の場所に居たそれは、洋館事件の時に対峙したタイラント(T-002)を更に醜悪にし、全身をトレンチコートに近い黒い拘束衣で覆った大男のような怪物であった。

 

 それの身長240cm近く、洋館のタイラントとは20cmほど低く見えるが、人工的な衣服を身に纏い、肌が裂けて何かの触手が内側から露出したような外見はそれだけでおぞましい何かであろう。

 

「スタァァズ……」

 

 また、それは明らかに何かの意志を持って言語を話しており、何故かジルが所属するS.T.A.R.S.の事を言っているのは明白で、そのまま歩いて彼女との距離を詰めてくる。

 

 そして、その手にはマトモな人間が扱えないサイズの"ガトリングガン"が握られており、当然ながらジルはそれから逃げ出し、暗い路地裏に入ると道なりに駆けて行く。

 

「なんなのあれ……!」

 

 明らかにただのタイラントではなく、アンブレラの新型であることは明白だろう。その上、それが自身を含めたS.T.A.R.S.を狙っている可能性が高い事も分かった。

 

 一刻も早くこの事をS.T.A.R.S.の面々に伝えるべく彼女は路地を直走る。

 

「……ァ……アァ……」

 

「………………!」

 

 途中でレベッカが言っていた人型ヒルが道なりにいたゾンビを捕食している姿が目に入り、その異質さと生理的嫌悪感に顔をしかめた。

 

 救助活動を始めてからというもの日没を過ぎると珍しくなくなってしまった光景である。

 

 人型ヒルたちの本体――女王ヒルであるジャクリーン・マーカスは、夜間のみラクーンシティのメインストリートのほぼ全域にそれらを放っており、ゾンビやイレギュラーミュータントを駆逐する事で間接的に生存者の助けとなっていた。

 

 その上、人型ヒルは生存者へ攻撃を一切加えず、それどころか生存者の近くにいる感染生物を優先して狙っている節まであるために認めたくはないが、彼女個人の救助活動よりも余程に生存者のためになっている事は明白である。

 

 しかし、ジャクリーンはレベッカに対してラクーンシティでバイオテロを仕掛ける事を示唆しており、宣言した期限より凄まじく早く行われているとも考えられ、マッチポンプをしているだけとも言えてしまうのだ。

 

 そこまで彼女が考えたところで、裏路地の開けた場所に到達し――数体のゾンビ犬が群れている姿を確認し、その一体と目があった。

 

「あ……」

 

 彼女の脳裏にはS.T.A.R.S.のアルファチームで武器の整備を担当していたジョセフ・フロストが、ゾンビ犬に喰い殺されるのをただ眺める事しか出来なかった景色が浮かぶ。

 

 それは僅かながら致命的な隙となり、相手側に先の行動を許した。

 

「――――――!」

 

 一体のゾンビ犬が吠えると他の個体もジルに気付き、即座に標的を定めたそれらは彼女へと向かって駆け出す。

 

 彼女はハンドガンを構えて発砲するが、最初に飛び掛かって来た個体を撃ち落しただけで無情にもそれ以外の個体には致命傷になる程ではない。

 

「――――!」

 

「っ……!?」

 

 そうしている間に他の個体が再び飛び掛かり、彼女が反射的に腕で顔を覆い――その直後、ジルへと飛び掛かって来ていたゾンビ犬とその群れに何かが飛来し、諸共を巻き込んだ爆発を起こす。

 

「うぐぅ……!?」

 

 明らかに不自然な爆発による爆風にジルは吹き飛ばされ、広場の無機質で汚れた壁に打ち付けられた。

 

 痛みに悶えながら身体を起こしつつ爆発が起きた場所を見ると、そこには僅かに原型を留めるか、燃えた肉片と化したゾンビ犬があり、黒煙が立ち昇るばかりである。

 

 

 

「いったい何が――」

 

「スタァァァズ……!」

 

 

 

 ジルが困惑していると、あのおぞましい声が再び彼女の耳に入り、弾けるように立ち昇る黒煙の先を見据えると、黒煙の中からあの異質なタイラントが歩いて来ていた。どうやら彼女が逃げて行こうとした先に既に居たらしい。

 

 その長く重厚な腕には、それと同等かそれ以上に巨大な"ロケットランチャー"が今度は装備されており、あの爆発はこのタイラントによって引き起こされた事が分かるだろう。

 

(私を狙って……!?)

 

 それがゾンビ犬ではなく、ジルを狙った攻撃であり、タイラントが発したと考えると、洋館事件の全てを知るS.T.A.R.S.の面々を混乱に乗じて抹殺しに来た事は明白である。

 

 しかし、洋館事件で倒したタイラントは明らかに目の前のそれよりも旧式であり、更に装備のあるS.T.A.R.S.が6人掛かりでどうにか撃破出来たため、一人な上にハンドガンしかない彼女ではあまりに絶望的だろう。

 

「スタァァズ……」

 

(あ……)

 

 そう考えているうちにタイラントはロケットランチャーをジルへと向ける。

 

 爆風で吹き飛ばされた時に広場の隅に追いやられており、彼女には逃げ場がなく、そのような状態でそれを放たれればどうなるかなど火を見るよりも明らかであった。

 

 そして、引き金に指が掛かり――。

 

 

 

「スタァァァズ……!」

 

「――――――!?」

 

 

 

 あの声が響くと共に、真横からのガトリングによる掃射が目の前のタイラントを襲い、瞬く間にそれを怯ませると、ジルが逃げて来た方の路地からも同じタイラントが現れる。

 

 そのタイラントはロケットランチャーを持つタイラントにガトリングを浴びせ続けながら歩き続け、彼女とそれの間にまで移動して止まった。

 

 そして、それによってガトリングガンを持つタイラントの方の背を初めて目にし、そこには黒衣でも分かりやすいようにか、白い塗料で大きな文字が不格好に書かれており、それを理解した彼女は目を見開く。

 

「R.P.D. ですって……!?」

 

 R.P.D.――Raccoon Police Departmentの略であり、すなわちラクーン市警の事である。

 

 要するに何故か、目の前の新型タイラントはラクーン市警を文字通り背負っており、そのためかジルを守るかのようにタイラントと戦っているらしい。

 

「ガアァァアァ……!!」

 

 しかし、ガトリングの掃射を受け続けながらもタイラントは体勢を戻して再びロケットランチャーを構え――今度はその頭部を幾度もライフルで撃ち抜かれ、頭を押さえながら今度こそ膝を突いた。

 

「相変わらず冴えてるなマーフィー!」

 

「ハッ、冗談だろカルロス? あんなの目を瞑ってても当てれるぜ!」

 

 するとジルとR.P.D.のタイラントが来た路地からU.B.C.S.という文字と、アンブレラ社のロゴマークが入ったベストを着た兵士や傭兵という出で立ちの男性二人が現れる。

 

 片方はアサルトライフルを持ってやや伸びた髪と無精髭が特徴的な男で、片方はキャップを被ってスナイパーライフルを担いだ男であった。

 

「今だミートヘッド!」

 

 無精髭の男がR.P.D.タイラント――ミートヘッドと呼んでいるらしいそれに声を掛けると、それはガトリングガンを一旦捨てる。

 

 そして、膝を付いた新型タイラント目掛けて助走を付けながら腕を振りかぶった。

 

「スラッァァグ……!」

 

「ァアァァ――!?」

 

 それまでとは違う言葉を吐きながらミートヘッドの剛拳が新型タイラントの顔面を捉え、生物同士から出たとは思えない程の轟音と空気の振動を伝える。

 

 更に怯んだ隙にミートヘッドは新型タイラントを抱え上げると、近くのコンクリートの壁に向かって放り投げ、叩き込まれたそれは壁を破砕しながら大の字に倒れた。

 

「ジル!? よかった……!」

 

 遅れてもう一人男性が現れ、彼はジルに駆け寄ると彼女の安否の確認の後、安堵の息を漏らす。

 

 それはS.T.A.R.S.隊員で、洋館事件ではヘリのパイロットをしていたブラッド・ヴィッカーズであった。

 

「ブラッド……!?」

 

「ジル! よかった……皆ずっと探してたんだ! 大丈夫か!?」

 

 "こっちのセリフよ"と声を大にして言いたいジルであったが、怒涛の展開に加えて、アンブレラ社のU.B.C.S.やR.P.D.を背負うタイラントが味方しているというあまりにも奇々怪々な状況に目眩すら覚える。

 

 そんな最中、無精髭の男――カルロス・オリヴェイラは無線機を片手にしながら二人に駆け寄ると、ハンドサインでこの場からの移動を促した。

 

「感動の再会のところ悪いが、話は後だ。博士によるとネメシスは中途半端に致命傷を与えると却って危険らしい。今は逃げるぞ!」

 

 見ればコンクリートの壁をぶち抜いて伸びている新型タイラントだが、少しずつ身体の各部位が再び動き始めており、立ち上がるのも時間の問題だろう。

 

 カルロスの指摘は的を得ていたが、それはそれこれはこれである。

 

 

「なにが……なにが起きてるのよ……?」

 

「エスケェェェプ……!」

 

 

 ジルは促されるままその場から全員で撤退するが、そんな彼女の隣で何やら言っている新型タイラントを横目で眺め、一旦考えることを放棄しつつそんな言葉を吐くばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 







だいたい、ジャクリーンがわるい



〜 B.O.W. 〜

ミートヘッド
 ジャクリーンが襲撃したタイラント研究所にいたバグを起こして自我を持つ4体のネメシスの内の1体であり、リーダー格。脱出した後、草原を眺めていた個体。割りとおしゃべり。ラクーンシティ郊外の拠点に居たが、体内のラムダの菌糸を通してラクーンシティの状況を知り、この個体だけ義理立てに走って来た。ちなみに名前は警官たちが勝手に付けて呼んでいるものである。


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