それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第9話

 ツヴァイウィングの2人や弦十郎(おやっさん)、そして二課の働きかけによって、俺と響の家出の理由である迫害は無くなった。

 となれば次は俺たちの家族との問題だ。そこで動いてくれたのはやはり弦十郎(おやっさん)だ。

 弦十郎(おやっさん)は家出していた俺たちを政府が保護してくれていたと、俺たちを連れて保護者へと説明に向かってくれたのだ。

 そこで俺は両親と再会した。両親は俺や響の無事な姿を泣きながら心底喜んでくれた。本当に、俺はこの2人の子供に生まれたことを心底運がいいと思う。

 響も(おばさん)祖母(おばあちゃん)と再会、2人はあの時は気が動転していて響を気にかけられなかったと泣きながら謝罪し、家出した響をずっと心配してくれていた。それは響にも伝わり、晴れて立花家は和解を果たした……失踪した親父さんを除いて、だが。

 感動の家族の再会ではあるのだが、未だに逆恨みをする輩が出ており保護は継続すべきであるとの弦十郎(おやっさん)の言葉に、少し戸惑いながらも家族は静かに頷く。

 俺たちの一件で、俺たちの通っていた中学は転出者続出、教員も多くが罰を受ける形で消え去り、もう学校としての機能そのものがマヒしかかっている状態。さらにお互いの家に嫌がらせをしてきていた近所の人は逮捕者も多く出ている。

 これだけの大事の中心にいた俺と響にとってここは住みにくい場所だということは家族も理解しており、割とすんなりと弦十郎(おやっさん)の保護の継続を受け入れた。

 

 こうして俺と響の一人暮らしは始まった。 一人暮らしとしては十分すぎる広さのマンションの一室が、二課の用意してくれた俺の新しい家である。

 ちなみに響の部屋は隣で、ベランダ越しに会話も出来る。何だか実家暮らしより互いの家が近くなってしまった。

 挙句の果てにしょっちゅうお互いの部屋に入り浸り、食事は基本的に一緒に作ってるものだからほとんど一緒に暮らしているも同然の状態である。

 

 そんな暮らしを続けていた俺たちに、学校への復学の話が持ち上がってきた。もう問題もなくなったのだし、中学生らしく学校に行くべきだという弦十郎(おやっさん)のもっともな意見に押され、響には『私立リディアン音楽院中等科』に、そして俺にはその姉妹校である『私立ファリネッリ男子音楽院中等科』へ編入ということになったのだ。

 二課のある『私立リディアン音楽院高等科』でも分かるように、この2校は二課の息のかかった学校であり、護衛や協力など今後のために都合がいいからの選択だろう。とは言え、今まで音楽にあまり触れる機会のなかった俺や響が音楽院などに編入して大丈夫なのか、という不安はある。

 

「私、リディアン音楽院なんかでやってけるかな?」

 

「あら、響ちゃんの声はすごく綺麗で、間違いなくやっていけるわよ。

 この私が太鼓判を押すわ」

 

 不安の声を漏らす響を了子が心配ないと請け負うと、そのまま俺に視線を移す。

 

「信人くんの歌も……まぁ、味があると思うし、ウケるところにはウケると思うわ」

 

「それ、どういう意味だよ?」

 

 俺は思わずジト目で睨み返した。

 

 

 ……実は以前、実験として俺に歌を歌ってみてほしいと言われ、困った俺は『Long long ago, 20th century』を歌ってみたのだが……。

 

 

『なんだろう。上手いとかじゃないのにまた聞きたくなるような……』

 

『噛めば噛むほど味が出るような、何とも面妖な歌声だな……』

 

『ノブくんの歌って上手いとか下手とかじゃなくて、『のぶと』って感じ』

 

 

 トップアーティストであるツヴァイウィングの2人と響に散々、意味不明な評価を受けたのだ。

 特に響、歌の評価が上手い下手じゃなくて、『のぶと』っていう名前のところが訳が分からん。

 とにかく、音楽には全く自信がないというのに音楽院へと編入することが決まってしまったわけだ。

 それにしても……。

 

「『私立ファリネッリ男子音楽院』か……。 学校名が随分とまぁ……」

 

「あら、沢山の女性がそのあまりに美しい歌声に失神したと言われている有名な男性歌手の名前よ」

 

「で、入校条件は『アレ』をちょん切ることか? だったら絶対にごめんなんだが」

 

「……よく知ってるわね」

 

「親が映画好きでね、子供のころファリネッリの生涯を描いた映画で見て覚えてるよ」

 

「……あの映画を幼少期に見せてる親御さんは少し問題がある気がするわ」

 

「幼少期に見ると『去勢』って言葉の意味が分からなくて親に聞いて、親がかなり困る代物だ」

 

「そんな困る映画を子供に見せるなって話なんだけど」

 

「そりゃごもっとも」

 

 そう言って肩を竦める。

 『ファリネッリ』とは1700年代のイタリアに実在した有名な男性歌手だ。そのあまりに美しい歌声に多くの女性が魅了され失神したという逸話をいくつも持つ凄まじい歌手なのだが……彼は『カストラート』という、現在では存在しない、特殊な歌手だったのだ。

 『カストラート』とは、去勢することで男性ホルモンを抑制して人為的に『声変わり』をなくした男性歌手のことだ。そうすることでボーイソプラノの声質と音域を、成人男性の肺活量で歌い上げることが出来、甘く官能的な声を出せたという。

 

「多分分かってると思うけどこの2校はそのまま、フォニックゲインの研究を行っているのよ。

 特にファリネッリ男子音楽院は『男性の歌声でのフォニックゲイン活用や生体データ収集』や『男性が使える対ノイズ兵装の研究』などの『男性』をテーマにして研究を行っているの。

 シンフォギア装者が女の子だけだし、『男が戦う力を!』っていう声が結構根強くてね。

 まぁ、私から言わせてもらえばそんな『男(イコール)戦う』って考え方がもう前時代的でナンセンスだと思うけどね」

 

 なるほど、ファリネッリは去勢という犠牲によって美声を手に入れた。同じように生徒をモルモット替わりにデータをとってフォニックゲインの技術のさらなる発展を手に入れようとする、ということだ。なかなかに皮肉のきいた校名である。

 

 そんな学校での新たな生活も始まり、新しい友人も出来て俺も響も次第にそれに慣れていく。

 

「んっ! この気配……ノイズだな!

 少し遠いな」

 

「行くの?」

 

「ああ」

 

 一緒に部屋で夕食をしていたところでノイズ発生の気配を感じ取り、俺は素早く二課に連絡を入れるとベランダへと移動する。

 

「ノブくん、いってらっしゃい!」

 

「ああ、行ってくる!!」

 

 響に見送られ、俺はベランダから空中へと身を投げ出した。

 

「変……身ッ!!」

 

 俺は空中で仮面ライダーSHADOWに変身すると、月明かりを背に地面に着地する。

 

「バトルホッパー!!」

 

 俺の呼び声に答え空間から飛び出したバトルホッパーが、六代目バトルホッパー(マウンテンバイク)に取り付くとバイクへと変形を果たす。

 それに跨りアクセルを吹かして、俺はこの感覚の告げるノイズの方へと走り始めた。

 

 響と学校に行って、学校で授業を受けて学友とたわいない話で盛り上がり、二課で訓練やミーティングをやって、響と一緒に食事をして眠る。それに時々、ノイズとの戦いが混じるという生活サイクルで俺たちの生活は安定していた。

 以前と変わらないような日常……だが、どうしてもこの日常に欠けてしまったピースが一つだけある。

 それは俺たちにとってあまりにも大きなピースだ。それを理解している俺たちは、筆を取ることにした……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 木枯らしが吹く夕方、たった1人で歩く少女の姿があった。

 

「……」

 

 学校帰りの少女―――小日向未来は無言で家路を急ぐ。

 あれから……ここに未来が突如として転校してからしばらくがたった。

 未来は突然の転校によって、あまり新しい学校に馴染めないでいた。今でもその心を占めるのは2人の幼馴染の存在だ。

 

「響……信人……」

 

 意識せず、その名が口から漏れ出る。

 

 幼馴染3人で誓った、『3人で支え合ってこの苦境を乗り越えよう』という誓いを、未来は転校によって果たすことが出来なかった。そしてその直後、響の家が焼かれたこと、そして響と信人が家出をしたことも未来は知っていたのだ。

 それを知った時の、やはり転校なんてどんな手を使ってでもすべきじゃなかったという後悔、そして2人の身を案じる心は筆舌に尽くしがたい。それほどに未来の心は乱れていたが、それでも心のどこかで確信があった。

 響が心配で心配で仕方ない。だが信人が一緒にいるのなら絶対に無事だと、未来は心から幼馴染を信用し、確信していた。しかし、その無事だという確証が欲しい……そんな晴れない霧がかかったような心で今、未来は日々を生きていた。

 

「……」

 

 あれほど過熱していた『生存者バッシング』はもう完全に下火、今ではもう過去のこととして世間の誰も彼もがなかったことにして流そうとしている。まるで流行り物の流行が過ぎたかのようだ。

 こんなことのために響たちはあんなにも傷つけられ、自分は大切な幼馴染たちと離れ離れになってしまったのかと思うと悔しくて仕方がない。だが、その感情を向ける先などどこにもなく、まるでポッカリと穴が開いたような空虚な思いが募る。

 そんな思いで家に帰り、いつもの習慣から家のポストを覗いた時だ。

 ドクン、と心臓が跳ね上がる。それは未来宛ての封筒だった。差出人の名前は書かれていない。だが、その字には確かに見覚えがある。

 

「ッッ!?」

 

 未来はその封筒を持って自分の部屋に駆けあがるとペーパーナイフで封を切る。そして、取りだすのももどかしいと封筒を逆さにして中身を机にぶちまけた。

 何枚かの手紙、そして最後にハラリと一枚の写真が机に広がる。そして写真を一目見た瞬間、未来の瞳から涙が溢れ出た。

 

「響……よかった……よかったよぉ……!

 信人、約束……守ってくれたんだね」

 

 それは響と信人の写った写真だった。どこかのアパートか何かだろうか、その一室で2人で寄り添うように写っている。

 写真の響はあのころの、迫害が始まる前のころのような大輪の向日葵のような笑顔だ。それは信人があの時の約束……『響を守る』という約束を確かに果たしてくれた証拠だ。それが分かると、自然と未来の目から涙が溢れ、止まらない。

 

 しばらく喜びの感情のまま泣いていた未来は涙を拭うと、手紙を読み始める。

 そこには2人で家出していたところを政府の機関に保護されたこと、生存者バッシング騒動は下火になったものの騒動の中心人物であったため今度は逆恨みなどの危険があって地元には戻れないこと、今は政府の保護と援助で響が『私立リディアン音楽院中等科』に、そして信人はその姉妹校である『私立ファリネッリ男子音楽院中等科』に通っているという近況が書かれていた。

 大切な幼馴染たちが無事だと確証ができ、元気にやっていると分かって未来はホッと胸をなで下ろす。

 胸にあったつかえがとれたようだ。同時に、今までの空虚な心が満たされたという実感があった。自分にとって幼馴染たちがどれほど大切だったのかを、未来は噛みしめる。

 

「『私立リディアン音楽院』……あそこは確か高等科の編入試験があったはず!

 今度こそ、今度こそあの時の誓いを……3人で支え合ってどんな苦境も乗り越えるために、私はリディアンに行く!」

 

 高校入試でなんとしても『私立リディアン音楽院高等科』に受かり、再び響たちと一緒の時を過ごす。未来は再び幼馴染たちと過ごすために決意を固めた。

 今度こそあの誓いを果たす。どんな苦境があっても3人だ、離れることなく3人の力で乗り越えるのだ。

 

 

 ドクンッ……

 

 

 そんな未来の想いに呼応するように、『太陽』のように温かい何かが未来の中で脈動する。

 しかし、未来はそれには気付かない。

 今はまだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 暗い部屋で、カタカタと端末を打つ音が響く。

 

「仮面ライダーSHADOW……か。

 シンフォギア装者を超える謎の超能力の持ち主、といったところか……」

 

 SHADOWの様々なデータを見ながら呟く。それはシンフォギアを超える凄まじい数値を叩き出していた。

 

「あの力を見た時には私の大事な計画に支障を来すかと肝を冷やしたが……」

 

 そう言って、ニィっと口を釣り上げる。

 例えば、人は野生の熊を怖がる。だが、動物園の熊が怖いという人はそれほど多くはいないだろう。それは動物園の熊は、分厚いガラスや檻という『安全装置』によって管理出来ているからである。

 どんな猛犬であっても鎖で繋がれていれば、鎖の扱い方次第でいくらでも管理することは可能だ。

 そしてこの猛犬……仮面ライダーSHADOWは愚かにも自分から『鎖』をつけてやってきた。

 

「立花響……このただの一般人さえ押さえれば、SHADOWはいくらでも制御できる。計画の変更は必要ない。

 計画が動き出すその時まで、じっくりとその力を研究させてもらうとしよう」

 

 そんな声が暗闇に消えていく。

 もし仮面ライダーSHADOWの真実に気付いていたら、こんな悠長なことはしなかっただろう。

 だが、何も気付かないまま、時は流れていくのだった。

 




今回のあらすじ

SHADOW「おやっさんのおかげで1人暮らし&復学することになったぞ。まぁ俺の歌の評価はおかしいが……」

ビッキー「上手い× 下手× のぶと○。 というか何で『Long long ago, 20th century』を選んだし。ノブくんがカシャカシャ歩いてくるイメージが浮かんで仕方ないんだけど」

SHADOW「いや、他のBLACKとかRX関係の歌だとほとんど『仮面ライダー』って単語入るし、仮面ライダーが自称してる俺一人しかいないこの世界でそれやったら俺、自分の応援ソング作って歌う痛い子だよ」

ビッキー「作者が大好きなRXの挿入歌『すべては君を愛するために』は?あれも『仮面ライダー』って単語入らないよ?」

SHADOW「アレはそのうち、外伝劇場版って感じで題材にした異世界をやるらしいから保留。ぶっちゃけ、マジモンのラブソングを意識してる相手の前でいきなり歌えるかい」

ビッキー「ぽっ♡」

フィーネさん「しっかしオリジナルの男子音楽院の名前が随分とアレよね……」

SHADOW「これは『フィーネ』がイタリア語だし、『イタリア』『逸話持ちの男性歌手』って条件で作者が思い浮かんだのがこれだから、らしい」

フィーネさん「その条件で真っ先にあの映画が頭に浮かぶあたり、この作者相当バカだわ」

393「響も信人も生存確認! 私もリディアンに行く!!」

????「アップをはじめました」

???「お前の出番しばらく無ぇから座って、どうぞ」

????「(´・ω・`)ショボーン」

フィーネさん「ふっふっふ……立花響などしょせんただの一般人。こいつ人質にでもとればSHADOW対策はもうバッチリ!勝ったな、風呂入ってくる!!
       ……これ冷静に考えたら私にハードモード過ぎない?ちょっと本編開始前の現状を書き出してみるけど……」

①シャドームーンが正義に目覚めて敵
②奏生存、翼の精神安定
③シャドームーンと響が本編1年前から二課に合流
④シャドームーンと響が本編1年前からOTONA塾で修行

フィーネさん「……なんか①の段階で無理ゲー以外の何物でもないんだけど……。
       他のも二課の戦力アップになるのばっかじゃない。これで本編開始となると私、フルボッコにされるんじゃ……。
       でもウチのキネクリなら、キネクリなら何とかしてくれる!」

キネクリさん「ファッ!?」

キネクリさんはこの先生きのこれるのか?

次回はしないフォギア風の幕間の物語の予定。
次回もよろしくお願いします。

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