それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第18話

 どことも知れない湖畔の屋敷、この屋敷の主であるフィーネはどこかと電話で会話していた。

 そこに吹き飛ばすような勢いでドアが開け放たれる。そこにいたのはクリスだった。

 

「あたしが用済みってなんだよ!? もう要らないってことかよ!?

 あんたもあたしを物のように扱うのかよ!!」

 

 「違う」と言ってほしい、「何かの間違い」だと言ってほしい。そんな想いを込めたクリスの叫び。

 しかしフィーネはそんなクリスを鬱陶しそうに一瞥すると、電話を切って椅子から立ち上がる。

 

「……どうして誰も私の思い通りに動いてくれないのかしら」

 

 言うと同時に、フィーネの手にした杖から緑の光が発射される。それが床に着弾すると、それがノイズとなりクリスの前に現れた。

 それはどうしようもなく決定的なフィーネからの意思……クリスは自分が捨てられたのだと悟った。

 

「あなたのやり方じゃ、争いを無くすことなんてできやしないわ。

 せいぜい1つ潰して新たな火種を2つ3つばら撒くことぐらいかしら?」

 

「あんたが言ったんじゃないか! 痛みもギアも、あんたがあたしにくれたものだけが……!!」

 

「私が与えたシンフォギアを纏いながらも毛ほども役に立たないなんて……そろそろ幕を引きましょう」

 

 クリスの言葉を遮るように、フィーネへと青い光が集まって行く。そしてそれが徐々に形になっていった。

 

「!? 『ネフシュタンの鎧』!!」

 

 フィーネの纏ったものは、クリスの身につけていた完全聖遺物の『ネフシュタンの鎧』だ。

 しかしクリスが白銀だったのに対し、フィーネのそれは黄金に輝いている。

 

「『カ・ディンギル』は完成しているも同然……もうあなたは必要ないわ」

 

「『カ・ディンギル』……?」

 

 クリスが謎の言葉に疑問を浮かべる中、フィーネが杖を向けた。

 

「あなたは知り過ぎてしまったわね……」

 

「ッ!?」

 

 自分目掛けて飛んできたノイズをかわし、クリスは屋敷のバルコニーへと転がり出る。

 そして振り向いたクリスが見たのは、まるで邪魔な虫けらでも潰すかのような嗜虐的な笑みを浮かべるフィーネだ。

 

「ちくしょぉ! ちくしょぉぉぉ!!」

 

 今まで信じてきたフィーネに裏切られたクリスの、涙をはらんだ叫びが湖畔に木霊する……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの戦い……響とクリスの激突、そして事件の黒幕と思われる大ショッカーのフィーネとの遭遇のあと、二課は判明した情報を俺たちに教えてくれた。そして、その中の情報には『雪音クリス』のものもあった。

 世界的ヴァイオリニストの父、雪音雅律と声楽家の母ソネット・M・ユキネの間に生まれた音楽界のサラブレッドでありシンフォギア装者候補として注目されていたクリス。しかしNGO活動で訪れた南米の『バルベルデ共和国』で内戦に巻き込まれ両親を失ってゲリラに捕まり捕虜になり、悲惨な幼少期を過ごしたようだ。そんな彼女は2年前に発見され日本に帰国するものの、その帰国直後に行方不明となっているらしい。恐らくその時にあの大ショッカーのフィーネがその身柄を確保したのだろう。

 あの戦いの時クリスがフィーネに言っていた『戦争の火種を無くす』という思いは、そんな過去から生まれた純粋な想いだというのがわかる。そして恐らくそれを誘導し捻じ曲げて利用し、フィーネが自らの手駒としたのだ。

 

(彼女の純粋な想いを利用する……なるほど、大ショッカーのやりそうなことだ)

 

 俺はそう、大ショッカーのやり口の汚さに眉をしかめる。

 一緒に話を聞いていた響は悲しそうに目を伏せ、しばらくするとしっかりとした表情で顔を上げたのが印象的だった。恐らく、クリスのことを救おうと響は心に決めただろうことが声にしなくてもわかる。そして俺も響には賛成だ、その時には力になることを俺は心の中で誓う。

 しかし……まさかその誓いをこんなすぐに果たすことになるとは俺も思ってはいなかった。

 

 

 今日は朝から雨、俺は学校への道を響と一緒に歩いていた。

 ちなみに、あの戦いの後、俺はすぐに病院を退院した。医者や弦十郎司令(おやっさん)はまだ入院していろと言っていたが、黒幕であろう大ショッカーのフィーネが出てきた以上ゆっくり入院などしていられない。最後には脅しにも近いことを言って無理矢理に退院することにした。

 心から俺を心配してくれていたのは分かっているし、申し訳ないとは思う。しかし黒幕が顔を見せてきた以上、何か大きな作戦が発動間近だと推測できる状況だ。こればかりは譲るわけにはいかなかった。

 

「くっ……」

 

「大丈夫、ノブくん」

 

「大丈夫だ。心配ないよ」

 

 不意に襲ってくる痛みに顔をしかめると響が俺を心配そうに覗き込んでくる。そんな響に即座に心配させないように答えながら、俺は自分の状態を分析する。

 

(キングストーンの修復は進んではいるがまだまだ……今は万全の時の3割いくかどうかってところか……。

 おまけに戦闘能力だけじゃなく、ノイズに対する感知能力も下がってるな……)

 

 大ショッカーを相手にするには心細いどころの騒ぎではないが、無いものねだりはできない。今は少しでも回復が進むことを祈りながら、学校へと急ぐ。

 だが、そんな俺のところに電話がかかってきた。相手は未来、こんな朝から珍しいこともあるものだと思いながら俺はその電話に出る。

 

「もしもし」

 

『信人、響もそっちにいる?』

 

「ああ、響なら俺の隣にいるよ」

 

『そう……なら、ちょっと助けが欲しいの。 2人とも今すぐ来て!』

 

 今から学校という時間に来いという未来、普通ではない様子に俺はすぐに今日の学校はサボって未来のところに向かうことを決める。

 

「わかった、すぐ行く!」

 

『あっ、でも誰にも知らせずに目立たないようにね。 場所は……』

 

「わかった!」

 

 またまたおかしなことを言う未来に、これは何かあると確信しながら俺は電話を切った。

 

「未来が今すぐ来てくれってさ」

 

「ノブくん、未来が『学校サボって来てくれ』なんて言うなんてただ事じゃないよ!」

 

「分かってる。 急ぐぞ、響!」

 

「うん!」

 

 俺と響は未来に指定された場所へと急いだ。

 

「あっ、2人とも!」

 

 そこで未来が手を振って俺たちを招く。

 

「どうしたんだ、未来。 何があった?」

 

 未来の様子に変わりが無いことに、俺も響もホッと胸をなで下ろすと未来に詳しい話を聞こうと詰め寄る。

 

「そこ……」

 

「これは!?」

 

 未来の指さす先……裏路地には1人の少女が壁にもたれかかるようにして目を閉じていた。

 

「クリスちゃん!?」

 

 それは響の言うようにあの雪音クリスだ。

 

「今朝登校しようとしたら見つけたの。でもこの子、確かあの鎧の子だって分かったから。

 私1人じゃどうしようもないし、何か事情があるだろうし響が気にかけてたから、2人に相談しようと思って……」

 

 言われて俺と響はクリスに駆け寄ると、その様子を観察する。だがそれと同時に、俺の視界の隅に黒い塊が入ってくる。ノイズの残骸、砕けた炭素の塊だ。

 恐らく、あの大ショッカーのフィーネに用済みとされたクリスはここまでノイズたちと戦いながら逃げてきて、ここで体力の限界に達して倒れたのだろう。

 クリスの服は薄汚れてくたびれていた。今は未来の傘で雨を防いでいるがそれまでの間にかなり雨に打たれたのだろう、服はびしょびしょだ。その濡れた服がクリスの体温と体力を容赦なく奪う。

 額を触るとかなり熱い。熱が出ているようだ。

 

「……急いでここを離れよう」

 

 そう言って俺はクリスを背負う。

 

「でも、どこに行こう?」

 

「響や信人の家はどう?」

 

「いや、俺や響の家は二課の借りてる家だからな。 確実に二課にバレる。

 クリスを二課に引き渡すつもりならそれもいいかもしれないが……」

 

 何となくだが『二課への引き渡し』はやめた方がいいと『直感』が囁いている気がする。

 そんな俺に響も賛成だったらしく頷いた。

 

「まずはちゃんと話を聞いてみたい。 きっと色んな事情があるだろうから」

 

「そうなると差し当たって休める場所を探さないと……」

 

「それなら私にいい考えがあるよ」

 

 そんな未来に誘導され、俺たちは急いでその場を離れるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 クリスはいつも嫌な夢を見る。その内容はまちまち、両親が死ぬ夢だったりあのバルベルデでの奴隷時代のことだったり様々だ。いい夢なんて見た覚えはない。

 そしてその夢に新しいバリエーションが加わった。フィーネに捨てられる夢だ。

 自分を拾い教養を与えてくれた。自分の想いを理解し、そしてそれを実現できるような強い力を与えてくれた。心から信じていたフィーネ。

 だがフィーネにとって自分は、何かの企みのための駒でしかなかった。

 捨てられたくなくて手を伸ばして、結局今までの大人たちと同じく絶望の闇に突き落とされる……そんな夢からクリスは目を覚ます。

 

「はっ!?」

 

 目を覚ましたクリスはすぐに周りを見渡す。和室に敷かれた布団にクリスは寝ていた。着ていたはずの服はなく、変わりに体操着が着せられている。

 そしてそんなクリスの傍らには……。

 

「クリスちゃん、よかったぁ!」

 

「目が覚めたのね。 服はびしょ濡れだったから着替えさせてもらったわ」

 

「お前ら……!?」

 

 それはクリスにとって予想外の人物、『融合症例』の立花響と、その親友で最初の響の誘拐を失敗させる原因になった『一般人』の未来だ。

 それに気がついた瞬間、クリスは飛び起きようとするが響に捕まれてしまいそれができない。

 

「ダメだよ、まだ寝てないと!」

 

「くっ!?」

 

 単純な力ではクリスは響に敵わない。おまけにギアのペンダントもなく、現状ではどうしようもないクリスは力を抜いてされるがまま布団に戻る。

 するとそこに洗濯籠を持った女性が現れる。

 

「2人ともどう? お友達の具合は?」

 

「ちょうど今、目が覚めたところだよ」

 

「ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」

 

「気にしなくていいんだよ。 あ、お洋服洗濯しておいたから」

 

 その洗濯籠に入っていたのはクリスの着ていた服だった。

 その時、香ばしい食欲をそそる匂いがクリスの鼻孔をくすぐる。

 

「いい匂い」

 

「これって……」

 

「ああ、昼も近いだろ。 あの子が昼食を作ってるんだよ」

 

 そしてしばらくして現れたのは……。

 

「ようやく起きたか。大事ないみたいでよかった」

 

「月影信人……」

 

 割烹着姿でお盆を抱えた仮面ライダーSHADOWこと月影信人だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 こちらを鋭い目で睨み付けるクリスに、俺は肩を竦める。

 

「おいおい、そう睨むなよ」

 

 そう言って手にしていたお盆をちゃぶ台へと置く。

 

「いい匂いね」

 

「ノブくん、このお好み焼き……」

 

「ああ、おばちゃんから材料貰って俺が作ったんだ。もう昼だからな。

 お前の分もある。言いたいことも聞きたいこともあるだろうがまずは食事だ。

 その分だとまともに食事もしてなくて、かなり体力が落ちてるだろ?」

 

「……」

 

 そう言って誘うが、クリスは警戒心を隠そうともせず睨み付けるばかりだ。

 俺はそんなクリスに肩を竦める。

 

「おばあちゃんが言っていた。『病は飯から。食べるという字は人が良くなると書く』ってな。

 食わなきゃ体力が戻らないぞ」

 

「えっ、ノブくんのおばあちゃんそんなこと言ってたの?」

 

「いや、言わないぞ」

 

「じゃあ今の言葉はなんなのよ……」

 

 俺たち幼馴染3人のやり取りを聞いていたクリスが大きく息をつく。

 

「お前ら見てたら、毒でも入れられてるんじゃないかって警戒してるあたしがバカみたいだ。

 わかった食べる。このままじゃお前らの幼馴染漫才をいつまでも見せられそうだからな」

 

 そう言ってもぞもぞと布団から出てきて、俺たちと同じくちゃぶ台についたクリスだが、お好み焼きを見た途端に半眼になって俺を睨んだ。

 

「これ、ツッコミ待ちか?

 なんだよこのマヨネーズで『わがまおう』って……」

 

「これが『ウォズお好み焼き』の正しい食べ方だ。

 祝え、新たなお好み焼きの焼き上がりを」

 

「なんだよそれ……全っ然意味分かんねぇぞ」

 

「大丈夫だよクリスちゃん、私たちにも分からないから」

 

 そんなことを言いながらも俺たちは食事を始める。

 食事を始めてから分かったことだが、クリスの食事の食べ方は汚い。戦闘訓練はかなりしている風だが、どうもその辺りの訓練はなかったようだ。

 

「クリス、口にソースついてるよ」

 

「あ、ありがと……」

 

 未来がそう言ってクリスの口元を拭くと、クリスは照れながら礼を言った。なんとも微笑ましい光景だ。

 もしこうしてクリスと対面しているのが敵対していた俺と響だけだったら、多分クリスの反応はもっと攻撃的だっただろう。未来がいてくれてよかったと心底思う。

 そんなこんなで食事も終わったところで、クリスは口を開いた。

 

「ここはどこだ?」

 

「俺たち行き付けのお好み焼き屋『ふらわー』の2階だ。

 おばちゃんに頼み込んでお前の体調が戻るまで布団を貸してもらったんだよ」

 

 あの時未来が提案したのが、俺たちの行き付けのお好み焼き屋『ふらわー』だった。

 俺や響はもう1年以上の行き付けだし、おばちゃんはいい人だ。友達が倒れて休ませてやって欲しいと響や未来が頼んだら快く布団を貸してもらえたのである。

 ちなみにクリスの体調はそれなりに回復しているはずだ。何故なら俺がキングストーンの修復を一端後回しにして、キングストーンエネルギーを放射して体調を回復させたからである。

 

「で、この後はお前ら二課にご招待ってわけか」

 

「そのつもりなら最初っからここには来ずに、お前を抱えて二課の本部に駆けこんでるよ」

 

「じゃあ、どういうつもりなんだよ?」

 

「この前の続き……私はクリスちゃんと話がしたいんだ」

 

 そんな響に何か言い返そうとしたクリスだが、それを呑み込むようにすると口を開く。

 

「……わかった。 今日助けられて飯を喰わせてもらった借りを返すってことで少しだけ立花響(バカ1号)の話を聞いてやる」

 

 そう言われて響が喜色を浮かべる。

 

「クリスちゃん、私たちが争う理由なんてもうないんだよ。

 だから一緒に……」

 

「……確かに、もうあたしとお前らが争う理由なんてないのかもな。

 だからって、争わない理由もあるものか。

 ついこの間までやり合ってたんだぞ、そう簡単に人が分かり合えるものかよ。

 お前ら……どうせあたしの過去は知ってるんだろ?」

 

「「……」」

 

 言われて、クリスの大まかな経歴を聞かされていた俺と響は顔を見合わせた。

 

「地球の裏側……バルベルデ共和国でパパとママを殺されたあたしはずっと一人で生きてきた。

 大人はどいつもこいつもクズぞろいだ。

 痛いと言っても聞いてくれなかった、やめてと言っても聞いてくれなかった。

 あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった!

 たった1人理解してくれると思ったフィーネも、あたしを道具のように扱って要らなくなったら捨てた!

 誰も……誰もまともに相手してくれなかった!

 そんな人が、あたしが誰かと分かり合えるものかよ!!」

 

 途中から涙を浮かべて、クリスが感情を吐露する。

 クリスは一体どれだけの人の闇を見て、それに傷つけられ翻弄されてきたのだろう?

 それは響がいて未来がいて両親がいて、満たされていた俺には到底想像もできない。 

 だが、そんなクリスの心の闇を垣間見ても響は止まらなかった。

 

「できるよ、誰とだって仲良くなれる」

 

 すると響と、そして微笑みを浮かべた未来が動いた。

 

「私の名前は立花響」

 

「私の名前は小日向未来」

 

 そう言って響はクリスの右手を、未来はクリスの左手をとった。

 

「私はクリスちゃんの友達になりたい!」

 

「私も、クリスがいいのならクリスの友達になりたい」

 

 そう言われたクリスは最初は何が起こったのか分からないという顔をしていたが、すぐにその手を振りほどこうとする。

 だが、響と未来はその手を離さない。

 

「やめろよ……あたしは、お前たちにひどいことをしたんだぞ! 敵だったんだぞ!

 あの流星のときだって……!」

 

「過去はそうかもしれないし変えられないけど……でも今と未来(みらい)は変えられるよ」

 

「だから変えようよ、分かり合えないって思ってる今を」

 

 響と未来に言われ、クリスは何も言えずにうつむく。

 その時だった。

 

 

ウーーーーーーー!

 

 

「この警報は!?」

 

「ノイズ!?」

 

 ノイズ警報が周辺に響き渡る。

 

(ちぃ! 探知能力も衰えているのは分かってたが、まさかここまでとは……)

 

 警報が出る段階までノイズを感知できなかったということは、予想以上に俺の能力が下がっているということだ。その事実に俺は歯噛みする。

 そんな中、クリスはいの一番に外へと飛び出していった。慌てて俺たちもそれを追う。

 目の前に広がっていたのは、我先にとシェルターへ急ぐ人々。誰もがノイズという恐怖に顔を青ざめさせ、中には泣き出す子供もいる。

 その光景を見て、クリスはギリッと歯を軋ませた。

 

「おい、あたしのイチイバルをよこせ!」

 

「でもクリスちゃんは病み上がりで……」

 

「そんなことを言っている場合かよ!

 目の前の光景……これは全部あたしのせいだ! あたしを消すためにフィーネが放った追手のノイズのせいだ!

 あたしがしたかったことはこんなことじゃない! こんなことじゃないのにぃ!!」

 

 響の心配する言葉に、涙を流しながら崩れ落ちるクリス。

 自分が無関係な誰かを巻き込んでしまったと激しい後悔をしているのだろう。

 だがクリスはそれでも涙を拭って立ち上がる。

 

「……懺悔も後悔も後回しだ。

 『今と未来(みらい)は変えられる』んだろ? なら……今は戦ってノイズどもをぶっ潰す!

 だから早くあたしのイチイバルをよこしやがれ!!」

 

「……わかった。 なら私たちもクリスちゃんと一緒に戦う!」

 

 そう言って、響はポケットからイチイバルのペンダントを取り出し、それを渡しながら言った。

 

「お前ら……」

 

「だってクリスちゃんは友達なんだもの。友達が泣いてるのに、見て見ぬふりなんてできない。

 一緒に……戦う!」

 

「まぁそう言うことだ。 ノイズが相手ならこっちも見て見ぬふりはできないからな」

 

 そう言う俺たちにクリスはうつむきながら顔を背けた。

 

「そういうことなら……惚気て遅れんじゃねぇぞ、バカップルども!!」

 

 

「Killter Ichaival tron……」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 そして響とクリスがギアを纏い、俺もSHADOWへと変身を果たす。

 

「未来はおばちゃんと一緒にシェルターへ!」

 

「うん、いってらっしゃい!

 帰りを待ってるからね響、クリス、信人!」

 

 未来の声に押されるように俺たち3人は同時に跳躍した。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺はまずは機動力のある飛行タイプのノイズを薙ぎ払おうとシャドービームを放つ。稲妻状に放出されたキングストーンエネルギーが枝分かれし、ノイズたちを砕いた。

 だがそれは俺の当初想定していた数の半分にも満たない。

 

「ちぃ! ここにもパワーダウンの影響が!」

 

 舌打ちして第二射を放とうとするが、それよりも先にクリスのガトリング砲が空中のノイズたちを次々に薙ぎ払う。

 

「空中の奴はこっちに任せろ!

 お前(バカ2号)立花響(バカ1号)は地上の敵を!!」

 

「その呼び方には色々言いたいことがあるがそれは後だ!

 いくぞ、響!」

 

「オッケー、ノブくん!!」

 

 俺と響は地上のノイズへと躍りかかる。

 

「シャドーパンチ!」

 

 シャドーパンチの直撃したノイズが周囲のノイズを巻き込んで吹き飛ぶ。だが、いかんせん万全の状態ほどの殲滅力はない。

 

「とりゃぁぁぁ!!」

 

 その間を縫うように響が空中からキックを繰り出し、残ったノイズを蹴散らす。

 万全には程遠いコンディション、どんどん集まってくるノイズ……だが不安は何もない。背中を任せられる仲間がいるというのは本当に良いことだと思う。

 ノイズ殲滅は苦も無く進み、最後はクリスのガトリング砲と小型ミサイルの一斉射撃が完全にノイズを消しつくした。

 

「……終わったな」

 

 ノイズの殲滅を確認すると、クリスは大きく跳躍した。

 

「クリスちゃん!?」

 

「……あたしはお前らや未来はまだしも、他の連中はまだ信用してない。

 だから今は二課の連中に捕まる気はないからな、ここで退散させてもらう」

 

 電柱の上に降り立ったクリスが、俺たちを見ながら言った。

 

「あたしは……フィーネを倒す!

 それがあたしがやらかしたことへの償いの第一歩だ。

 だから、もしそれが終わった時には……」

 

 何か言おうとして首を振り、クリスはそのまま背を向けていくつものビルの屋上を跳躍して去って行った。

 だが、クリスが言い淀んだ言葉を俺も響も理解していた。

 

「クリスちゃんを一人にはさせない。その戦いの時には……」

 

「ああ、俺たちもフィーネとの戦いに協力する!」

 

 償いのために1人でフィーネと戦おうと考えているだろうクリスを決して一人では行かせないと響は言い、俺も同意する。

 戦いを通じて分かり合えたクリスの去って行った方を、俺と響はいつまでも見つめていた……。

 




今回のあらすじ

フィーネさん「とりあえずキネクリは処すことにしたわ」

キネクリ「あのさぁ、そういう現場責任者に責任押し付けてしっかりと失敗原因を組織全体のこととして捉えられない『悪の秘密結社症候群』は普通にダメだと思うぞ、組織運営的に」

ビッキー「おかしい、クリスちゃんがINT高いこと言ってる……」

キネクリ「お前あとでボコるわ」

393「捨てキネクリ拾いました」

SHADOW「わかった、まずは俺のマイティアイで異常がないか検査を……ぎゃぁぁぁぁ!!」

ビッキー「……彼女の隣で堂々と何してるの? 潰すよ、色々と」

SHADOW「……それは目潰しの前に言ってほしかった。ちなみにこのまま二課に連れてくと死亡フラグだとキングストーンさんが教えてくれてるので『ふらわー』に行くぞ」

フィーネさん「キングストーンさんを便利な攻略本にするのはやめなさいよ。まぁ連れて来たら私が殺してるけど」

月の石「大丈夫。ファミ通の攻略本だよ」

SHADOW「……いつか致命的なことになりそうだ。とりあえず基本は餌付けだろう。ほら、おばあちゃんも言っていたわけだし」

393「なんでせっかく『ふらわー』来ておいて、おばちゃんじゃなくて信人がお好み焼き焼くのよ……?」

SHADOW「祝え、新たな仲間の誕生を!」

キネクリ「そんな飯にあたしさまが釣られ……クマァァァ!」

ビッキー・393「「キネクリまじチョロイン!」」

SHADOW「まぁ、基本的に原作でもキネクリは人の優しさに飢えた、他者への依存傾向の高いキャラだからな。響と未来の2人がかりで攻めれば、そりゃ一発で絆レベルMAXになるわ。
    二次創作じゃないが、普通にヤンデレとかありえそうで困る」

キネクリ「よし、あたしは改心したってことで死亡フラグとはおさらばだ!」

フィーネさん「いいわね……私は立場上、最後までやらんといかんし……」

キネクリ「というわけでフィーネとの決着をつける。あたしさまはクールに去るぜ」

SHADOW「まぁ、そこは俺たちも介入する気満々だがな」


捨てクリスの保護イベントでした。
次回もよろしくお願いします。

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