今日はツヴァイウィングのライブ当日だ。
「あっ、ノブくん!」
「よっ、響」
待ち合わせの場所で俺を見つけて走ってくる響。
響は女の子らしい可愛らしい恰好だ。ちなみに俺は白の光太郎ルック。白の指抜き皮手袋は外せません。
俺は走ってくる響に手を振って答える。笑顔で走ってくる響を見ていると、なんだか人懐っこい大型犬のようなイメージを思い浮かべてしまい、クスリと笑ってしまった。
「あれ、未来は?」
「ああ、俺も探してるけど見当たらなくてな」
そう言って周囲を見渡すがそれらしい姿は見えない。しっかり者の未来らしくないと俺は首を傾げる。
「じゃあ私電話してみるね」
そう言って響はすぐに携帯をかけ始めた。
「未来、いまどこ? 私とノブくんもう会場だよ」
響が電話をしている間、俺はボーっと周りを見渡してみる。
「えっ、どーして!?」
「ん?」
突如、隣で電話していた響が素っ頓狂な声を出す。
何事かと見ている俺の前で響は電話を終えると、ため息をついた。
「未来、叔母さんが怪我したらしくて家族で今から行くことになっちゃったって。
だからライブには来れないって」
「一番楽しみにしてたのに、残念だな」
「私って呪われてるかも……」
「おいおい、俺が一緒じゃ不満なのか?」
そんな風に少しふざけて意地悪く聞いてみると、響はブンブン首を振る。
「そ、そんなことないよ!
ノブくんと二人っきりなんて、なんかデート見たいで嬉しいかな、って……えへへ~」
「そ、そうか……」
少し顔を赤くしながら言う響を見ていたら、こっちも顔が赤くなるのを感じる。
幼馴染として一緒の時間がそれこそ物心ついたころ辺りまで長い俺と響、当然気の置けない友人であるのだが、最近こういう響のふとした言葉や動作に思わずドキリとする瞬間がある。
『意識している』、という自覚はある。だが、この感情を言葉という形にするのはまだまだ難しい。
……ちなみに未来は同じ幼馴染だし大切な友達ではあるんだが、そういう浮ついた感情がどうしても沸いてこない。響とは違う方向で負けないくらい美少女の未来なのだが……時折、響を見ている眼が何やら重い想いに溢れていて怖い。それでもってそんな時に俺を見る眼はもっと怖い。なんか『宿敵』でも見ているような眼なのだ。
もしかして未来は響のことを……いや、考えるのはよそう。
……なんだか未来の視線を思い出したら寒気がしてきた。
ブルブルと頭を振ってそれを振り払うと響に話しかける。
「それにしても……すごい人数だな」
「だね」
周囲は人、人、人、どこを見ても人だらけだ。これがすべてツヴァイウィングのライブの客だというのだからすごいものである。
「何だか俺たち、場違い感が凄いな」
「あはは……」
ツヴァイウィングのチケットは大人気で完売御礼だというから、ここにいるのはみんな熱心なファンなのだろう。そんな中にツヴァイウィングのことをあまり知らない俺と響はある意味異分子だ。
ライブは初めてということもあり、少しその熱気に引き気味な俺たちである。
こうだと少し楽しめるか不安なのだが……。
そんな心配をよそに遂にツヴァイウィングのライブが始まる。
結果だが……俺たちの心配はまったくの杞憂だった。
ステージに立つツヴァイウィングの2人、その歌声は俺も響もすぐに魅了していたのだ。
「すごいね! これがライブなんだね!」
「ああ、これは確かに凄いな!」
気がつけばノリノリで歌声に夢中になっている俺たち。
何かで『歌は人類の生み出した文化の極み』という言葉を見たことがあるが、なるほどこれがその歌の力かと納得してしまう。それほどまでに凄いものだった。
だが、だからこそ何故ノイズと戦っているのか疑問である。
(アイドル稼業一本でやっていけるだろうに、何だってノイズ退治を?
戦いの中でも歌ってたし、あのプロテクターはノイズを倒すのに『歌唱力』でも必要なのか?)
まぁ、今そんなことを考えるのは無粋だろう。
俺も響もサイリウムを振りながらライブを楽しむ。そんな時、それは起こった。
「!!?」
(この感覚は!?)
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
俺がその感覚に反応するのとほぼ同時に、ライブ会場に爆発音と悲鳴が響き渡る。
「ノイズだぁぁ!?」
「早くシェルターに!!」
逃げ惑う人々、それに追い縋り容赦なく炭素の塊に変えていくノイズ。ライブ会場は一瞬にして地獄絵図に変わった。
「響、シェルターに!!」
そう言って響の手を引こうとするが、必死に逃げる人の波に呑まれてしまう。
「響っ!」
「ノブくん!」
繋いだ手が離れ、別々に人の波に流される俺と響。
「くそっ!!」
これではもう簡単には合流できないだろう。響を追うのを諦め、俺は避難のための時間を稼ぐべきだ。
俺は苛立ちに舌打ちしながら、ノイズの方へと向き直った。
バッと慣れ親しんだ、身体を丸めるようにする動きをとる。握り締めた拳で、皮手袋がギリギリと音を立てる。そして……。
「変……身ッッ!!」
キングストーンの放つ緑色の光、その中でキングストーンの強大なエネルギーが全身に駆け巡ると俺は仮面ライダーSHADOWへと変身を果たした。同時に一気に跳躍する。
「きゃぁぁぁ!!?」
転んだ少女に圧し掛かろうとジャンプしたノイズを空中で粉砕しながら着地した。
「仮面ライダー!?」
「立てるか?」
俺の登場に驚きと、命が助かったことへの安堵の表情を浮かべるがすぐに顔が絶望に染まる。
「こ、腰が抜けて立てない!?」
「くっ!?」
彼女一人を守って戦うわけにもいかず、かといって動けない彼女をここに置いていけばすぐにでもノイズに殺されるだろう。
視界の中では、同じような人が何人も見える。
(やってみるか……)
俺はキングストーンエネルギーを操作して、解き放った。
「シャドービーム!!」
両手から発射した稲妻のような緑の光線が幾条も放たれる。だがそれはノイズには向かわず、この少女を含めた動けなくなった人々に向かった。そして人々が光線に抱えられるように空中に浮く。
「とぁ!!」
そしてその人々をそのまま、出口付近まで移動させた。
シャドービームの派生形の一つ、本来は敵を拘束するための念動光線だがそれを使って動けない人々を強引に動かして投げたのだ。少し着地は荒いが、この場で死ぬよりはマシだろう。
「早く逃げろ!!」
「は、はい。ありがとう仮面ライダー」
一喝すると、その少女も他の人々もノロノロと立ち上がると避難していく。
もう目の前に残っているのはノイズだけだ。
「はぁ!!」
ノイズの集団に飛び掛かると、チョップを叩き込んで近くのノイズを一刀両断する。そして大きくまわし蹴り、レッグトリガーによって威力を増大させた一撃がノイズたちを薙ぎ倒す。
すると、俺は視線の先に見知った顔を見つけた。先ほどまでライブの主役だったツヴァイウィングの片割れ、風鳴翼だ。今は先ほどまで纏っていた煌びやかなステージ衣装ではなく、あのプロテクター姿で倒れたノイズに剣を突き刺しトドメを刺している。
「SHADOWか!」
あちらも俺に気付いたらしい。だが随分切羽詰まった状況だからだろう、驚きの声の中にはいつもの俺への警戒は見られない。
「手を貸す!」
「いいや、こっちはいい! それより奏を!
頼む、奏を早くっ!!」
すぐに手を貸そうとするが、それを拒否して必死の顔で叫ぶ翼。
何事かと視線を探ると……いた。もう一人のツヴァイウィング、天羽奏だ。
だが、その動きにはいつものようなキレがない。迫るノイズに悪戦苦闘している。何かしらの不調か?
だが、奏の後ろの人影に俺は言葉を失った。
(!? 響ッ!!)
それは紛れもなく響だ。奏は足を引きずりながらも逃げようとする響の盾となり、守っていたのだ。
ノイズの攻撃によってボロボロと砕けていく奏のプロテクター。
そして……俺は見てしまった。
岩か何かだろうか、高速で飛んできた銃弾のようなソレが響の胸を貫いた。
何が起こったのか分からないような顔で倒れる響。そして、広がっていく赤い液体。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
その光景を見た俺の中の何かが弾ける。
自分でも分からない叫びを上げながら、俺は響の元へと跳躍していた。
~~~~~~~~~~~~~~~
天羽奏はすでに満身創痍だった。
すでにガングニールの出力は最低にまで落ちており、その身に纏う鎧も見る影もないほどボロボロだ。だが、それでも奏は一歩も退かずに戦い続ける。それは自身の後ろにいる少女を守るためだ。
しかし、どんな想いがあろうと戦場での現実は過酷だ。逃げようとしていた少女の胸を、何かの破片が貫く。
奏は残された力で周りのノイズの薙ぎ払うと、血だまりの中に倒れる少女に駆け寄った。
「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるなッ!!」
奏の叫びに、少女は閉ざそうとしていた目を再び開けた。
まだ少女の命があることに安堵し、そして決意した。
(ここで……『絶唱』を使う!)
シンフォギアに備えられた最大最強の攻撃手段―――それが『絶唱』である。
増幅したエネルギーを一気に放出することで得られる攻撃力はまさに最強の一撃。しかし、それは代償なしには放てない。高めたエネルギーはバックファイアとして装者にも襲い掛かる諸刃の剣なのである。
すでにボロボロの状態の今の奏が使えば、その力は奏の命を奪い尽すだろう。
恐怖は、当然奏にもある。
だが、だがそれでもこの歌が守るべき未来に繋がるのなら!!
吹っ切れた顔で奏は自身の槍を拾い、今まさに『絶唱』を歌おうとしたその時だった。
ズサッ!!
白銀の輝きが、奏の目の前に降ってくる。それは……。
「アンタか……仮面ライダーSHADOW……。
今日は、アタシらの方が早かったね」
「……」
おどけたような奏の言葉に、SHADOWは無言だった。
そしておもむろに『奏の方に向かって』腰のベルトから光が放たれる。
「シャドーフラッシュ!!」
「なっ!?」
今までの共闘の経験で、それがノイズたちをまとめて吹き飛ばすような攻撃であることを知っていた奏は、何故このタイミングであのSHADOWが攻撃をしてくるのか分からないが咄嗟に背後の少女を庇う。
その時、不思議なことが起こった。
いつもノイズを吹き飛ばしている閃光を受けたのに痛みはまったくなかった。それどころか奏の傷ついた身体が癒され、活力を取り戻していく。
「ありがとう。 その技、攻撃のためのものじゃなかったんだね」
「シャドーフラッシュは俺の持つエネルギーを放射する技。その効果は俺が望む通り、相手を破壊することも傷を癒すことも可能だ」
奏が傷が癒えたことに驚きとともにSHADOWに礼を言うが、それに応えるとSHADOWは奏の隣を素通りし、傷ついた少女の前でしゃがみ込む。
血だまりに倒れた少女、だがその傷から新たな血が溢れることはない。それを確認し、SHADOWが胸をなで下ろしたのが分かる。
その様子に奏は理解した。SHADOWがさっきの光で本当に癒したかったのはこの少女で、自分の傷を癒してもらったのはほんのおまけに過ぎなかったのだ。
「知り合い、なのかい?」
「……黙っていてもらえると助かる」
そう言ってゆっくりとSHADOWは少女に背を向けて、ノイズたちの方へと向き直った。
「ノイズは俺が相手をする。
お前はここで彼女を守っていてくれ。出来れば医者も早急に呼んでくれればありがたい」
「お、おい。 いくらアンタでもあの数のノイズを1人じゃ……」
傷も癒してもらったし自分も戦えると奏は声をかけるが、その言葉は最後まで言うことが出来なかった。
まるでオーラのように怒りがSHADOWから立ち上っているのが、奏には分かった。怖くて触れることなどできやしない。
ノイズの行いは、完全にSHADOWの
「バイタル、フルチャージ!!」
SHADOWは構えをとると、腰のベルトから緑色のエネルギーが全身へと駆け巡る。全身を緑色に光らせたまま、SHADOWは宣言する。
「貴様ら……ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!」
ノイズの命運はここに決定した。
~~~~~~~~~~~~~~~
胸が痛い。意識が呑まれそう。そんな朦朧とした意識の中で、響はそれを見ていた。
大量のノイズ。
炭素の塊に変えられていく人々の断末魔。
槍と剣で戦う『ツヴァイウィング』の2人。
「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるなッ!!」
その叫びに、響の意識はまだ反応する。だが、それも時間の問題だ。忍び寄る死の闇は、今にも響を呑み込もうと迫っている。いつまでも抗えない。
そんな時だ。
(あれ、この光……)
気がつけば、響は光を浴びていた。
だがそれは『太陽』の温かい光ではない。もっと違う……。
(ああ、お月様の光だ)
響は直感的にそう悟る。
太陽の強い、ともすれば煩わしくなる光ではない、優しい眠りに誘う柔らかい『月』の光……それに自分は包まれている。
いつの間にか、響に忍び寄る死の闇はその月の光に切り裂かれていた。
朦朧とする意識の中で響は目を開ける。
その目に映ったのは、ノイズたちに立ち向かう白銀の背中。それを瞼に焼き付けると響はそのまま気を失う。
「私、生きてる……」
次に響が目を覚ましたのは、すべてが終わった後、病院でのことだった……。
今回のあらすじ
SHADOW「ああ、響が大怪我を!貴様ら完全に俺の逆鱗(さかさうろこ)に触れたな!
不思議なこと+ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!」
奏+防人「なんてわかりやすい今日の10割。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」
フィーネさん「『急募 こいつに勝てる方法』っと」
ゴルゴム+クライシス帝国の皆さん「そんなものはない(無慈悲」
フィーネさん「(´・ω・`)ショボーン」
シンフォギア二次では鉄板な奏生存ルートでした。
次回もよろしくお願いします。