俺と響が保護された翌日から、俺たちの二課での生活が始まった。
朝食を終えると、俺と響は会議室のようなところに通された。司令や奏や翼、そしてスタッフだろう人間が何人もいる中で話し合いが始まる。
「まずはいくつか約束して欲しいことがあるが、構わないだろうか?
一つ目はここでのことは誰にも口外しないこと。国の重要機密に関わることだからだ。
二つ目はこの後信人くんにメディカルチェックを受けてもらうこと。
とりあえず以上の二点を約束してもらいたい」
秘密を守れというのは当然のことだし、俺の力のことを知りたいのは当たり前だろう。このことは最初から覚悟の上なので俺は頷く。
「そのメディカルチェックっていうのが『人体解剖』の別名じゃないっていうなら構わない」
「そんなことはない! ……はずだ」
……ホントに大丈夫だろうな?
すると、メガネに白衣という女性が不満そうな声を上げる。
「失礼な、この私がそんなことすると思うの!
解剖は一番最後のお楽しみ、まずは隅々までくまなくデータをとってからに決まってるじゃない!!」
「……ヲイ、司令」
「いや、大丈夫。 了子くんなりのただの冗談……のはずだ」
今の間は何だ? 急に不安になってきたぞ。
俺は胡散臭げに白衣の女性―――櫻井了子を見る。彼女は二課の技術主任らしく、あの『シンフォギアシステム』の開発者であるらしい。
「それよりもさっそく、あなたの話を聞かせて頂戴」
技術者として、未知の存在である『仮面ライダーSHADOW』に興味津々なのだろう。パンパンと手を叩きこの話はおしまいと強引に切ると、さっそく俺のことを聞いてきた。
「……期待して貰ってるところ悪いけど、あまり大した話はできないと思うぞ」
そう言って、俺は説明を始めた。といっても前世やらの話はできないのであくまで『物心つく頃から使える不思議な力』『自分の中に大きな力があることが分かる』『戦い方は何となく分かる』という程度の話になった。
ゴルゴムの話はできない。
未だ二課を完全に信用しきったわけではないし、俺の知っているゴルゴムは様々なメンバーが参加していて、大学教授に優秀な研究者、芸能人に政治家とどこにでもその息のかかった人間がいた。例えば目の前の彼女、優秀な科学者である了子さんがゴルゴムメンバーでないという保証はどこにもないからだ。
同じようにSHADOWの力に関しても今まで見せたことのあるものくらいしか教えないようにしている。
そんなわけで与える情報をかなり選択したわけだが、それでも彼女は興味深そうに俺の話を聞いていた。
「何らかの聖遺物の効果? それが使用者に制御方法や戦闘技術をインストールしている?
とても興味深い話ね……他には何かないかしら?」
「ああ、俺の相棒の……」
「呼ばれてるよ、バトルホッパー」
響の声に電子音のようなもので答え、もぞもぞとバトルホッパーが出てくる。響の服の中から。
……そろそろこの相棒は一度〆るか分解したほうがいいのかもしれない。
「それは?」
「バトルホッパー。 俺のいつも乗ってるバイクだ」
「……はぁ?」
そうしてバトルホッパーのこと、『能力に目覚めた時に現れた』『自我がある』『呼べばどこへでも現れる』『どんな乗り物でも合体することでバイクに変える』といったことの説明をする。
「使用者を支援するための、自立起動型の聖遺物……かしらね?
能力の覚醒と同時に使用者の元に駆け付けるようにプログラムされている?
空間跳躍能力を持っているみたいだし、それでノイズの位相差障壁を無効化できるのかしら?
そして『どんな乗り物でも合体することでバイクに変える』……物理法則に真っ向からケンカを売るような能力ね」
「いやアンタの造った『シンフォギアシステム』だって大概、物理法則さんにケンカ売ってると思うぞ。
……もちろんだけど
「……ちぃっ」
舌打ちが聞こえた気がするが、聞かなかったことにしよう。その方が精神安静上、楽だ。
その日はそのまま、俺はメディカルチェックを受けることになった。その結果だが……『不明』である。
検査の結果、俺の身体は普通の人と何ら変わりはないそうだ。身体の中に聖遺物でもあるんじゃないかと思っていたらしいが、レントゲンや各種スキャンでも、俺の体内には何も異物は発見されなかったらしい。
「何度調べても、身体の中に異物は存在しなかったわ。
中に聖遺物でもあった方が分かりやすいのに……つまりあなたの力は『不明』、今のところ現在の科学では解明できない『超能力』の類としか表せないわ」
俺としては体内にある『キングストーン』の存在を明確に感じ取れるから、そこに『キングストーン』があることは間違いないはずなんだが……どうやら『キングストーン』が自らの存在を隠しているようだ。自動ステルスとか、チートな機能である。
ちなみに変身後の俺は、そもそも分析しようとしても分析機材が謎のノイズだらけでまともに調査できないようだ。恐らく『キングストーン』によるジャミングか何かだろう。
バトルホッパーの方は、破損もなく自立行動していることから『完全聖遺物』に属するものではないか、という結論に至った。
そしてバトルホッパーの存在から、俺のような力の持ち主が過去にもいて、それらをサポートする目的で造られたのではないかという推測が出る。
「人を超えた人……いわゆる『超人』の伝説は世界各地に存在しているわ。
それはもしかしたら、あなたのような力を持った人たちだったのかもしれないわね」
そう、俺を検査した了子さんは締めくくる。
何だか俺の正体不明度やうさん臭さが爆発しすぎている気がするが……前世の記憶を持ってるというだけで最初から怪しさ大爆発なのだ、俺自身もう細かいことは気にしないことにした。最悪、対ノイズのための戦力にさえなれば二課としても文句はないのだろう。
それからしばらく、行く場所のない俺も響も二課での生活を送っている。
俺の方はさまざまな検査やシンフォギアを纏った奏や翼との訓練戦闘、そしてたまにノイズとの実戦といった生活サイクルだ。
響の方も、機密の関係やらでまだ二課から出られないため、色々なところで雑用手伝いなどをしている。
あとは……。
「俺と戦ってくれ!!」
弦十郎司令に最初そう言われた時には何事かと思った。なんでも司令は武術をやっているらしく、俺と戦ってみたかったらしい。
俺は正直何も考えず、軽くOKを出して変身して戦い始めたのだが……戦った時の記憶は正直思い出したくない。仮面ライダー的にいうと『おやっさん』とか『滝』とか、生身の人間なのに場合によっては怪人を圧倒できるバグキャラのような人だった。
この人は本当に普通の人なんだろうか?
俺の力はあのライダー界の悪のカリスマ『シャドームーン』なんだぞ。何でそれを相手に正面から殴り合えるんだよ。
というか『超人』ってこういう人を言うんじゃないのか? この人用のシンフォギアかなにかが開発できたら最強な気がするんだが……。
とにかく司令の強さをいやと言うほど思い知らされた俺は司令に弟子入りすることにした。多分、俺はこれからの人生で戦いから抜けることはできないだろう。今後のことを考えると、変身前の生身もしっかり鍛えなければどこかで絶対にダメになると思ったからだ。
ただ、予想外だったのは響だ。
「私も弟子にしてください!」
俺と司令の戦いを間近で見ていた響まで、司令に弟子入りしたいと言いだしたのだ。
理由を聞くと、あのライブ会場で自分がノロノロしていたせいで奏を苦戦させてしまったから、せめて邪魔にならないように逃げるだけの力が欲しいというのだ。
そんな俺と響の弟子入りを司令は快諾、そんなわけで俺は響と2人で、毎日のように司令の漫画のような特訓を続けている。そのせいで一日が終わるころには2人揃ってヘトヘトのボロボロなのだが、その疲れが翌日まで続いたことはない。
何故なら……。
「ノブくん、アレやって~」
そう言ってヘトヘトになって俺の部屋にやってきたパジャマ姿の響は、ベッドにごろんと仰向けで転がる。まるで大型犬がじゃれてお腹を見せているみたいだ。
「はいはい」
俺は若干呆れながら、キングストーンのエネルギーを放射する。シャドーフラッシュによる体力回復だ。これを毎日、俺は響に頼まれるままかけている。
「あ~、生き返る~♪」
「俺は温泉か何かか?」
この回復があるおかげで、俺も響も前日の特訓の疲れも身体の痛みも残すことなく翌日の特訓に臨めるのだ。おかげで教わっている武術の実力は俺も響もメキメキと上がっていると司令も驚いている。
ちなみにこの回復だが、奏にも時折かけている。
なんでも奏は戦うために『LiNKER』と呼ばれる薬品を投与しているらしいが、その副作用でかなり身体に無理がきているらしかった。だが以前ライブ会場でシャドーフラッシュを浴びてかなり調子が良くなったらしく、奏に今後も戦えるようにと頼まれたのである。
薬物まで使って無理矢理戦うのはどうなんだとも思うが、奏には奏の戦う理由がある。聞けばノイズに殺された家族の復讐らしい。
そんな話を聞いてしまえばそれに俺が口出しするわけにもいかないし何より今は仲間だ、助けることに異存はない。
そんな二課での日々がおよそ1ヶ月ほど続いたある日のことだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「響……始まるみたいだぞ」
「……うん」
ここは俺に宛がわれた部屋だ。俺に寄り添うようにして膝を抱えながら座る響と一緒に、テレビを見ている。
今日は俺と響にとって重要なことがテレビで行われるのだ。
そして、俺たちの前で始まったのはツヴァイウィングの2人の活動再開の会見だった。そこで『生存者バッシング』について語ったのである。
自分たちのライブで不幸にもノイズが現れ沢山の人が犠牲になったこと。そしてそれに生き残った人たちが謂われない誹謗中傷や暴力の対象となっていること。それによって家庭崩壊や家族離散、そしてそれを苦にした自殺が凄まじい数あるということ、そして『正義』の名の元に正当化された暴行殺人などの事実を語る。
そして悪いのはノイズであり、生き残った人を攻撃するなんて間違っていると『生存者バッシング』を批判した。
「生きていていけない人間なんていやしない。
だから、生きるのを諦めるな!」
そんな奏のライブ生存者への言葉で、その会見は締めくくられた。
この会見によって、世論の流れが変わった。その裏には二課お得意の情報操作もあったらしく、もはや『逆流』とも言っていい急激な変化だ。
あれだけ過熱していた『生存者バッシング』は一気になりを潜め、逆に『正義』を称して行われた過激な生存者バッシングがクローズアップされるようになり、数多くの者が法によって裁かれることになる。
結果、器物損壊に集団暴行、放火に殺人と、『正義』の名の元で行われた非道がそこらじゅうから出るわ出るわで、ワイドショーのネタには事欠かない状態だ。
無論、俺や響の家に石を投げて壊した奴らは器物損壊、響の家を燃やした奴らは放火という罪で警察に捕まった。
とはいえ、失われたものは戻らない。
調べてみれば生存者バッシングの中で自殺したもの、家庭が崩壊したものなどは凄まじい数に上っているし、リンチで殺されたものもいる。
多くの場所……例えば学校では『生存者バッシング』に加担したり傍観した教師が一気に消え、『生存者バッシング』に加担した生徒も同じ学校には通えなくなったりで大混乱が起こっている。
それらはどうやっても、元には戻らない。
だがそんな高い授業料を支払うことになりながら、社会は『生存者バッシング』という狂気から元に戻っていっていた。
「これで終わったな……」
「うん……」
すでに完全に『生存者バッシング』は下火、あれだけ誰も彼もが熱に浮かされたように生存者バッシングに参加していたのが嘘のようだ。
こんなにもすんなりと解決するものに俺も響も、そして家族も振り回され続けたのかと思うと複雑な心境だ。
「契約完了。 これで俺はアンタらのものだ。
好きに使ってくれ」
「そういう言い方をするな、信人くん。
君を仲間にする交換条件として提示されはしていたが、まだ中学生の少年少女があんな状態になっているのをいい大人が黙って見過ごしていいわけない。
これは大人として当然のことをしただけだ。
それに、まだしっかりとは終わっていないさ。
最後まで君たちのことを面倒見なければな」
こうして、まともな『善人』である大人が傍にいてくれる……ああ、本当に俺は運がいい。
「それじゃ改めてよろしく……『おやっさん』」
俺は最大の信頼と感謝を込めて、司令のことを『おやっさん』と呼ぶことにした。
この出来事で、俺と響は本当にこの二課の一員になったのだった……。
今回のあらすじ
SHADOW「二課はゴルゴムの心配もあるし、教えることは最小限にするよ。特に了子さんのような優秀な科学者はゴルゴムのメンバーの可能性が……」
フィーネさん「だからゴルゴムって何よ、ゴルゴムって!! おまけに調べても全然分かんないし!!」
SHADOW「キングストーンさん空気読み過ぎ」
OTONA「俺と戦ってくれ!!」
SHADOW「何なの、このバグキャラ……とはいえ今後も戦いからは抜けられなそうだし、OTONA塾に弟子入りします」
ビッキー「あ、私も私も!」
奏&防人「ライブ生存者のみんな、生きるのを諦めるな!」
OTONA「こっちも情報操作全開だぞ」
SHADOW「なんか一気に状況が変わったぞ。トップアイドルの影響スゲェ! 国家権力の印象操作ヤベェ!」
ビッキー「というかこの魔女狩り状態をなんでこれをやってもっと早く収めてくれなかったのか? この世界の日本、法治国家として駄目過ぎなんじゃ……」
OTONA「安心しろ、この世界の世界各国はすべてこんなもんだから」
SHADOW&ビッキー「「ダメダメじゃねぇか!」」
次回もよろしくお願いします。