東方逃亡精   作:鼠日十二

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メリークリスマス!
(24日の夜に出したかったという気持ち)


ハートフェルト

 わからないものはわからない。向き合うのは少し怖い。

 逸らした視線の先に、責任を転嫁する力。『7割まで反射する程度の能力』。これがあったから、私は目を背けることを許されてきた。いいや、正確に言うならば、7割閉じた瞼で遠くから世界を見ていた。まるで、画面越しに幻想郷をみていたあの時と同じように。

 

 けれども神子さんは、「逃げずに」「真正面から受け止めろ」と言った。

 原作に関わるべきではない、遠くから眺めるのが最善だと信じていたのに、彼女は現実に生きろと言ったのだ。神子さんの言葉が持つ独特な説得力に背中を押されるようにして、私は口を開いた。どこまでが卑屈で、どこからが傲慢なのか、まだよくわかってないけれど。

 

「……大丈夫です、屠自古さん。ちょっとびっくりはしましたが……私の我儘を聞いて、叶えようとしてくれたんですよね」

 

 屠自古さんの頭に腕を回し、そっと抱きしめた。今までなら絶対にやらなかっただろうな、と頭の片隅でそんなことを思う。

 

「だから、いいんです。()()()()

「……」

 

 『オオゲツヒメの臍』の上には、小麦粉や砂糖が小山を成している。これだけあれば、布都さんの分まで十分に作れるはずだ。

 

「もし、それでもって言うなら……お菓子作り、一緒に手伝ってくれませんか?」

「……むぐ「わひゃ!」」

 

 突然屠自古さんが喋るものだから胸元がこそばゆくて、ついぱっと手を放してしまった。私の腕から解放された屠自古さんはどこか呆けた様子でこちらを見て、それから視線を斜め下にずらし、少しバツが悪そうに「……すまん。手伝わせてくれ」と言った。

 

「うん、よしよし」

 

 腕を組んでうんうんと頷いた神子さんは、

 

「屠自古、私はちょっと席を外そう。ヴィーを頼むよ、その子は客人だが、それ以前に()()でもあるのだからね」

 

 と言うが速いかさっさといなくなってしまって、後には私と屠自古さんが残された。

 

 

 

 

 

 

「ううむ、やっぱり改めて灸を据えるべきだろうか」

 

 夢殿大祀廟の階段を下りながら、神子はそう独り言ちた。行動力があり、明るく、無垢なあの聖童女。素直な性格と策謀家の等式を結びつける『未発達の情緒』。いくら寝起きとはいえそろそろ目も覚めてきたころ、改めて考えてみると……屠自古には悪いことをした。

 

「代わりと言うのは不誠実だが……今しばらくは任せたよ、ヴィー」

 

 

 

 

 

 

 

 大祀廟の本来の空間目的は墓なのだけれど、復活する前提で作られているからか、少なからず生活のためのスペースが存在している。屠自古さんに手を引かれて、私たちはパタパタふわふわと厨にやってきた。

 

「それで、その……粉? どうするんだ?」

「混ぜて練って焼くだけですよう。あ、でも、屠自古さんってお食事は……」

「できるよ」

「あ、そうなんですね? よかったあ」

 

 手伝わせておいて本人が食べられないとかあり得ないからね。出来立てをつまむ権利はいつも作った人にだけあるのだ。材料を並べた私は、袖を捲って気合いを入れた。……といっても、『オオゲツヒメの臍』が出したのは小麦粉と砂糖とバターだけ。本当はベーキングパウダーとかがあると良いんだけども、あれって実のところ工業製品だからかオオゲツヒメの臍は対応してくれなかった。まあ紅魔館でもなんであるのかよくわからなかったからな……。改めて思うと、レミリア様って普通に権力者だよね。っと、思考が逸れた。

 

 今回は材料が限られているから、まずプレーンなパンケーキもどきを作ろう。フライパンとかないし、薄い陶器で代用してみよう。

 

「しまった。水ありましたっけ」

「ああ、それなら──」

 

 屠自古さんと一緒に、今度こそ安全な法具を使ってみたり。

 

「これどうやって火を起こすんですか?」

「ん、ここの取っ手を……いや、こっちだったか……?」

 

 面倒くさくなった屠自古さんが指先から雷を放って、かまどにボンっと火がともったり。

 

「うぎぎ……!」

「なあ、それは私にやらせてくれないか。見てて危なっかしい」

「うへ、面目ないです」

 

 生地を混ぜるのを代わってもらったりした。いやはや、妖精と言うのはやはり非力である。

 

 え? いままではどうやってたのかって?

 紅魔館にいたときは妖精メイドの手を借りてましたよ。いや、正確には足だけど。私たち妖精って少女通り越して幼女に近い体型だからか、全然力が入らないんですよね。だから混ぜるだけならともかく、ケーキの生地なんかを捏ねるときはですね。妖精メイドの足を丁寧に洗って、布をかぶせた生地の上でぴょんぴょん踊らせてたわけです。私が適当な東方ボーカル歌ったりして。

 

 これレミリア様には内緒ですよ? ワインもブドウを踏みつぶして作るものがあるって聞くし、大丈夫かな~とは思ってるんですけど。

 

 

 捏ねた生地は棒に巻きつけていきます。あらかじめバターを陶器に塗っておけば、焼いたときにくっつかなそうな気がするので、ぬりぬり。

 

「何なんだ、それは?」

「バターですよ。牛乳を振り回したりするとできる油です」

 

 字面から見ると一番ハイカラな感のあるバターだけど、生成方法を鑑みるとこのなかで最も簡単に作れると言っても過言ではない。

 

「一回、試しに作ってみましょうか」

 

 混ぜ終わった生地を過熱しておいた容器に流し込むと、ジイジイと生地が鳴き出す。過熱は充分にできるっぽいね。

 

「よし、焼いている間にソースを作っちゃいますよ」

「そーす?」

「味付け用の液体のことですよ」

 

 こちらは至ってシンプルなカラメルソースである。砂糖と水を一緒に熱して、お湯で濃さを調整するだけ。おあつらえ向きにもう一口炉があったからそっちを使わせてもらう。

 

「屠自古さんの頃も、甘いものはあったと思いますけど。白い砂糖はなかなか珍しいでしょう?」

 

 指先に軽く掬って一口。脳髄にジンジン来る甘さだ。

 

「あまー。屠自古さんも味見してみます?」

「いいのか?」

「こういうのはちょっと行儀悪いくらいがいいんですよ」

 

 匙に少量の砂糖を掬って、屠自古さんに差し出す。彼女の視線が、砂糖と私の顔の間で揺れた。

 それから意を決したように、私の腕を掴み、ぱっくりと匙を口に含んで……

 

「──!?!?」

 

 そのまま、固まってしまった。

 

「屠自古さん。屠自古さーん?」

「────」

 

 私の腕をがっつり握りしめたまま、屠自古さんはフリーズしてしまったのだった。

 

 

 

「あっパンケーキ! 焦げちゃう! 屠自古さん起きて! 屠自古さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 






キリが悪いけどこの小説ずっとこんな感じだから、慣れてね。



ところで主人公にうっすら何かが芽生えてきてますね……。これは一般的に言う、人と関わる勇気というものでは……?

とはいえ、これまでの道中で『立ち向かう』とか『受け止める』選択肢を選びつづけていた場合は監禁ルートまっしぐらだったので、逃げも一つの正解ではあったのかな……? 結局こういうのの正誤は後から評価するしかないので、ここまでたどり着けている時点で主人公ちゃんは不正解を選ばずに済んだのでしょう。


え、もし不正解を選んでいたらどうなっていたか……?
そりゃあ……ほら……ね?

>補遺:事例216530を参照してください。

メリークリスマス!
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