タイトル通りの話です。有馬さんと縁壱の二人がかりなら舐めプでも無惨様狩れそうだなって思う。
東京喰種:reのネタバレを含みます。

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有馬さんに縁壱と邂逅してほしい話

幸せが壊れる時は、いつも血の匂いがする。

 

 

「───────、」

 

「ガキがまだ一匹残ってやがったか」

 

有馬貴将にとってもそうだった。

 

□□□□□

 

 彼が望んだ終わりから遡ること余百年。再びの生を受けたのは戦国の世、ある商家。有馬の屋号を賜るその家で、なんの変哲もない、ただの人間として命を得た。

物静かだが利発で、ときおり浮世離れした面を見せるものの、優しい心根を持つ彼を親兄弟はよく愛したし、彼もまた当たり前に家族を愛した。

 

 朝日が眩しかったり、村の子どもたちと駆け回ったり、父親に字を習ったり。そういった日常から得た言いようのない充足感に胸を満たされ、彼は健やかに育っていった。

 しかし同時にまた、覚えのない喪失感もあった。独りになると、大事な何かを置いてきたような漠然とした寂しさが唐突に去来する。その時には彼は決まって馬の世話をした。

 誤魔化すようにして始めたことなのに、ひどく手に馴染む。それは天職であるからと勝手に納得していた。(商売道具であるのだが)命を自らの手で慈しむことは、確かに彼の心を暖めた。

 

 

「こんな時間に馬の世話か、貴彦」

 

「…父さん」

 

「お前はかなり夜目がきくが、厩の中は真っ暗じゃないか」

 

「どうしても世話がしたくなったんだ」

 

「…お前は頭がいい。体もいっとう丈夫だ。そのうち学をつけさせようと思っている。馬に蹴られて大怪我などしたら…」

 

「ごめんなさい。あとちょっとだけ」

 

「……はぁ。今夜は冷える。早く切り上げるんだぞ」

 

「うん、父さん。」

 

 

 昼夜となく馬の世話をする彼の奇行(?)はもはや家族にとってはお馴染みのものだ。何度となく見咎められてきたが、素直にやめたことは一度もない。それなのにこうして様子を見にくるのは、やはり彼が家族に愛されているということの証左だった。

 

 

 

 

 

 

 

『■うば■りの■■が……──』

 

『…や■と』

 

『……な■■のこ■た気がす■…』

 

 

「───ッ」

 

 

 

 覚えのない貌、覚えのない景色、覚えのない感慨。

 字を習い物を知るにつれ脳裏をよぎる像に、彼は強く苛まれる。

 ここ最近はとくに酷く、彼が今のように馬と戯れている時でさえ、憩いを嘲笑うかのようにあらわれるようになった。

 主人のただならぬ様子を察してか、気遣わしげにぶるると馬が啼く。

 

 

「……驚かせたか」

 

「よしよし…大丈夫だ」

 

「そう…大丈夫…大丈夫、だ」

 

 

 自らに言い聞かせるように馬を宥める。

 胸のざわめきを落ち着かせるように世話に没頭する。

 そうして、その夜も彼は遅くまで厩にこもった。

 

 

 

 それが、彼の命を助けた。

 

 彼の命だけを。

 

 

 

□□□□□

 

 

 

(綺麗な月だ)

 

 

 獣臭いまま母屋に戻るわけにもいかず、所在なく村をぶらつく。

 

 すっかり夜も更けて、家々もまばらな村はいっそ不気味なほどに静まりかえっていた。

 

 

(『月が綺麗ですね』…って、どこで読んだんだったか)

 

 

 遠くの木々がざわめき、冷たい風が強く吹く。

 

 身震いする前に、風が知らせたおぞましい兆しが鼻腔を突き刺す。

 

 

「っ血の、匂い?」

 

 

 何故、嗅いだことのない匂いをそうだと思ったのか。疑問を抱くより疾く、手近な家に駆ける。

 

 

「もし、誰か……っ!?」

 

 

 そこには、適当にぶちまけたような血溜まりと、食い散らされた肉だけがあった。

 

 

「っっ、ぅ、ぁ」

 

 

 覚えもなく識っていただけの感覚が、現実として形を得る。

 

 

「っっ、う゛ぉ゛ぉぇ゛えっ!!」

 

 

 ただ、それを即座に飲み込むには、精神が未熟すぎた。

 

 

 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら村中をひたすら駆ける。助けを求めるように家々に突っ込む。

 その度、でたらめに繰り広げられる地獄を観て精神が壊乱する。

 その度、自分を苛んできた見知らぬ記憶を得て精神が再生する。

 

「誰か……」

(ここは駄目だ)

 

「誰かっ、いませんかっ」

(ここも)

 

「……誰か…」

(ここも、ここも、多分あっちも)

 

 

 今や臭いはそこら中に満ちている。

 獣臭に鼻が塞がっていた愚鈍さ、月ばかり見上げて惨劇に気付かなかった呑気さに忸怩たる思いを抱きながらも、それが表にでることはもうほとんどない。

 

 

(「真面目にやれ」なんて言っておいてこれか)

 

 

 現実逃避的な述懐をする間も足を止めることはない。

 

 駆けて、駆けて、漸く家族のいる家に戻る。

 見ても無駄だと五感が告げる。

 

 しかし、どうしても必要なことなのだ。

 

 彼が、生き残る(死神に立ち戻る)ためには。

 

 

(父さん)

 

 

 刀のそばで息絶えている。

 

 

(母さん)

 

 

 幼い兄妹を庇うようにして、折り重なって死んでいる。

 

 

「───」

 

 

 茫然と、その地獄を眺めた。

 逍遥と、家族だったものにすがりついた。

 

 

『────!!』

 

 

 厩から激しく嘶く啼き声と、何かを砕く音が響く。

 涙する暇もなく、刀を取って踵を返す。

 

 

「ごめんなさい。弔いは必ずするから」

 

 

 

□□□□□

 

 

 

「───────、」

 

「ガキがまだ一匹残ってやがったか」

 

 

 厩の壁に巨大な穴があき、一部が崩落している。

 そこから、慣れ親しんだ馬たちの臭いと、むせ返るような濃密な血の臭いが漏れ出していた。

 ばりばりと穴を広げて、異形が姿を現す。

 獣のような瞳に、額には鬼を思わせる二本角、全身には返り血。

 

 間違いようもなく、惨劇の下手人だった。

 

 

「小せえガキがくっせえ厩に逃げやがってよお。俺は獣臭いのが大嫌いだってのに!」

 

 

 鬼が、にやにやと顔を歪めながら持っていた腕を齧る。

 

 

「まあ、それもご馳走が出てきてくれたんで帳消しだぜ。お前、獣臭えがうまそうな臭いだなあ!」

 

 

「……」

 

 

「稀血って言ってなあ、俺たちに喰われるために──」

 

 

 そこから先は続かなかった。

 

 瞬きの間に落とされた鬼の首が地面に転がる。

 

 

「…!?」

 

 

 目の前の非力なご馳走が、己の首を斬り落とした。

 信じがたい現実に思考を止めたのも束の間、即座に首を拾い上げ再生する鬼。

 

 

「てめえ…何し」

 

 

 しかし、二の句を告げる間もなく、背後に現れた彼によって脳髄を穿たれ、眼窩から刃が突き出る。

 

 

「ッッッ、おらァッ!!」

 

 

 凄まじい速度で繰り出される裏拳。苦し紛れの反撃でも、鬼の膂力で繰り出されれば人の身など簡単に粉砕してしまうだろう。

 当たれば、の話であるが。

 

 

「……」

 

(二秒…も要らないか。殺すだけなら)

 

 

 体を地面すれすれに倒しながら逆袈裟に胴体を斬断。

 異常な再生速度を織り込んで、四肢もついでに斬り落とす。

 

 

「ガッ…!!」

 

 

 鬼の面相が苦渋に染まり、ものの数秒で胴体から順に欠損部位が繋がる。

 

 

「てめえ…何なんだ、顔色一つ変えねえで、けったくそ悪い…!!」

 

(随分と頑丈な喰種だな)

 

「……」

 

「大人しく喰われろやぁ!!」

 

 

 再生力に任せて突進を繰り返す鬼だが、彼にとってはまるで相手にならない。

 防ぐまでもなく体捌きのみで猛攻を躱し、ついでとばかりに脳や首や臓器など、人体の重要な部分を破壊していく。

 どうやっても捉えられないどころか容易く封殺され続けることに恐れと苛立ちを募らせ、余計に隙が増え、更に斬られる頻度が増す。

 業を煮やした鬼は飛びすさり、距離を取った。

 

 

「しこたま喰って強くなったんだ!!もう容赦しねえぞクソガキ!!」

 

 

 そう叫ぶや、鬼の全身がメキメキと音を立てて倍近い大きさに膨れ上がり、背中から鋭い爪を生やした虫のような触腕が生える。

 

 

「後悔しやがれ!!」

 

 

 殺意を漲らせた異形が、目にも止まらぬ速度で突撃する。

 

 迎え撃つ死神は、それでもなお無表情を崩すことはなかった。

 

 

□□□□□

 

 

 

 終わりは突然に訪れた。

 

 

「が──!?」

 

「……、」

 

 

 音もなく現れた剣士が割り込み、一撃で鬼の首を斬り落とすや否や、それまで数え切れないほど再生した鬼の体がボロボロと崩壊したのだ。

 その速度は死神をして反応が遅れるほど。人の身にはあり得ないと言っていいその存在に、彼は臨戦態勢のまま向かい合う。

 

 

(喰種か?しかし、赫眼はない…)

 

「……」

 

 

 殺気を受けてなお、剣士は泰然と赫い刀を納めた。

 額には炎のような痣。

 日輪の意匠を持つ耳飾り。

 

 

「怪我は、ないか」

 

 

 現れたのは、始まりの呼吸の剣士だった。


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