──10月30日。
今日も変わらずぷにぷにした姫の肩を揺らし、
「桜、そろそろ時間ですよ」
「ふにゅうー……もうそんな時間ー……? ──よっと!
おはよ、アイシャ♪」
「おはようございます。まぁ早すぎますけどね」
「まーねー。
でもイベントは待ってくれないから、ちゃっちゃと済ませてくる」
朝方にパッと起きた桜は、寝ぼけたメレオロンを叩き起こし、ゴンとキルアも引き連れチャンタへ。さくっとイベントを終わらせ、遂に一坪の密林をゲットした。
念の為に『複製』で3枚にした後、まだ寝ていたシームの枕元に写真アルバムが届いているのを発見。
経年劣化こそしていたものの思ったより状態は良く、中の写真も無事だった。ばっちりメレオロンの人間時代の顔も確認、今とのギャップに驚く。そりゃ戻りたいって言うよな……
昔の家族写真を眺めて、泣きだす姉弟を慰めた後、私と桜とメレオロンでお風呂に入る。ちなみにゴンとキルアとシームも男風呂へ入っていった。
「にしてもさー。写真アルバムが無事な状態で良かったよねー」
『?』
湯船でそう言う桜に、同じく湯船に浸かった私とメレオロンが首を傾げると、
「もし写真が傷んでたら、リサイクルームを使わなきゃいけなかったし」
「別に使えばいいじゃない。
予めそう言ってたし、なんか問題あるの?」
メレオロンが疑問を呈し、私は「ん?」と気が付く。
「……もしかして、リサイクルームって修繕に時間がかかるんじゃないですか?」
「そうみたい。アレって説明見たら、24時間って書いてあるから。
失し物宅配便は注文した翌日の朝に届いたから問題なかったけど、クリア寸前の状況で24時間とか、ヘタしたら2回修繕が必要で48時間も待たされたりしたら……」
「場合によっては、かなりマズかったかもしれませんね……
この状況で時間を費やすと、他のプレイヤーが何をしてくるか分かりませんから」
「あっぶなぁー……
まぁでも忙しかったし、アタシも写真が必要なこと、直前まで忘れてたけど……」
「私もです……」
「ウラヌスもすっかり忘れてたみたい。
ともあれ無事で良かったねって話。
クリア報酬に整形マシーンはちゃんと選ぶから、後は外に出てから研究が終われば準備万端かな」
「急かすつもりはないけど、研究の方は調子どう?」
「整形マシーンの研究はまだ1割くらいかな。全身やらなきゃいけないし、メレオロンとシーム2人用に調整もしなきゃだし、失敗や自壊するのも防がないといけないから、もうしばらくかかりそうかも」
「他にやらなきゃいけないことがあるなら、こっちは優先しなくていいから。
アタシはアタシで、この身体にも慣れてきたし」
「……でも戻りたいんですよね?」
「そりゃね。でも昔の自分の写真が見れて、ちょっと落ち着いた。
いずれ戻れるんだったら、別に急がなくてもいいかなって」
メレオロンとシームはゲームをクリアした後、しばらくウラヌスの隠れ家で過ごす予定らしいから、確かに慌てる必要はないかもな。
朝方から動いているのでまだ朝食前なんだけど、ある仕込みを済ませる為に『再来』を大量に抱えて、あちこちの都市を飛び回る桜。
そこそこの時間をかけて桜は仕込みを終え、連絡を受けた仲間達が城下町リーメイロの南部山岳地帯前に広がる岩場へと次々集まった。
私達のチームにゴンとキルアを加えて6人。リィーナ達が9人。ジェイトサリさん達が5人。モタリケさんとベルさんで2人。ユリさんもいる。
センリツさんは1人で来た。月末はネオンさん達が忙しいのと、クリア寸前までいると危険かもしれないので、センリツさん以外は先に現実へ帰ったらしい。まぁネオンさんはクリアするところを見たかったそうだが、ダルツォルネさんが何とか説得したそうだ。
揃いも揃った22人。戦力を集中させたのは、大人数の襲撃を想定して人数で威嚇する為。実力にバラつきはあるが、これだけ実力者が揃えばまともな神経をしていれば襲おうなどとは思わないだろう。『徴収』対策も準備できている。
朝早くなら動けるプレイヤーも少ないだろうと予想し、全員早めに朝食を摂って準備は整っていた。
「それじゃお姉ちゃん」
「ええ」
事前に調整して49種類を指定ポケットに収めた桜が、ユリさんから受け取ったカードを順に収めていき、『99:メイドパンダ』を最後にカチッと収める。
『プレイヤーの方々にお知らせです』
その場にいた全員のバインダーから、聞き覚えのあるアナウンスが流れる──
『──開いたままでお待ち下さい』
アナウンスが終わり、パンッと拳で掌を打ち鳴らす桜。
「オッケ。前と同じ、指定ポケットカードに関するクイズだね。
違うイベントだったら、どうしようかと思ってたけど」
「もし違っていたとしても、予め準備しようがないものね」
センリツの言葉に桜は頷き、
「いちおう協力も可能だけど、どうする?」
「その方が点数は稼げるだろうが、仲間でやりとりすれば他のプレイヤーに盗み聞きなりなんなりされる恐れもある。オレは推奨しねーな」
「そだね。じゃあ1人1人で解こう。ゲンスルー、勝負しない?」
「……別に勝っても得はしないが、相手してやるよ」
「どっちもトップを取れなかったら、分かんないからドローね。
あ、ビスケもやりなよ?」
「えー……こういうの嫌いなんだけど」
「知識を身に付けるいい機会なんだから、ちゃんとしなよ。
また自分1人でここに来るかもしれないんだし」
「もー、耳の痛いことばっかり言う子だわさ……」
ふむ、私も真面目にやるか。ツェズゲラさんもいないし、きっと桜が勝っちゃうだろうけど。
警戒していた他プレイヤーが飛んでくることもなく、静かにクイズが始まった。問題は解きつつも、周囲への警戒は怠らない。
『No.008「不思議ヶ池」を入手するために倒す必要があるモンスターは?』
A.バブルスライム
B.ガムスライム
C.ソイルウーズ
D.ブラックプリン
E.グリーンスライム
『No.014「縁切り鋏」が賞品となっている月例大会の開催月は?』
A.3月
B.5月
C.7月
D.9月
E.11月
『No.025「リスキーダイス」を入手するのに必要な勝利数は?』
A.アグレッシブランクで4勝
B.アグレッシブランクで5勝
C.アグレッシブランクで6勝
D.アグレッシブランクで7勝
E.アグレッシブランクで8勝
『No.031「死者への往復葉書」を入手するために最後に届ける先で生える桜の種類は?』
A.大山桜
B.二度桜
C.幸福
D.高嶺桜
E.咲耶姫
『No.049「発香少女」の隠れている場所は?』
A.魔女の森
B.茸の森
C.イーポッカ農場
D.宿場町キタキタ
E.マッド博士の植物園
『No.052「真珠蝗」が入手できる蝗退治中に出現する確率は?』
A.蝗500匹に1匹
B.蝗1000匹に1匹
C.蝗2000匹に1匹
D.蝗3000匹に1匹
E.蝗5000匹に1匹
『No.060「失し物宅配便」の入手に最後で失敗した時に代わりに取れるアイテムは?』
A.谺すルチル
B.道化のオブシダン
C.暴食ジルコン
D.宿り木ペリドット
E.凶ツのスピネル
『No.076「さまようルビー」の入手に必要がないスペルは?』
A.左遷
B.初心
C.漂流
D.衝突
E.再来
『No.084「聖騎士の首飾り」が賞品となっている月例大会の参加申し込み人数は?』
A.1人
B.2人
C.3人
D.1~2人
E.2~3人
『No.098「シルバードッグ」の入手に必要なアイテムは?』
A.ウグイスキャンディー
B.マッド博士のフェロモン剤
C.魔女の媚薬
D.トラエモン
E.千年アゲハ
──無事にクイズが終了、それぞれが一息吐く気配。桜が回答を選択する速度が異常に早く、今も上機嫌に首を揺らしているので、これは自信ありそうだ。私は、まぁ、うん。
『最高点は……100点満点中100点!!』
ぅわお。ゲンスルーさんが首を項垂れ、桜が青空に向かって両手の親指を振り上げる。
『プレイヤー名……ウラヌス選手です!!』
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!」
桜が似つかわしくない咆哮をあげ、誰かが拍手し始める。一斉に湧き上がる拍手喝采。
「にゃっはぁーっ♪ 100種こんぷっぷーっ!」
よく分かんない踊りを披露し、みんなを笑わせる桜。まだ最後のカードを受け取ってもいないのに、ムチャクチャ調子に乗ってるな。……まぁ無理もないか。
どこかから、鳥の鳴き声と羽ばたき音。
「桜、お届け物みたいですよ」
見上げると、いずこから飛んできたフクロウが掴んでいた封筒を桜に向かって落としていく。
桜がピッと二本指で受け取り、ボンッとカード化する。
『110:支配者からの招待状』……クイズに勝った場合も、100種揃えた時と同じか。前はツェズゲラさんにクイズで負けて、その辺がどうなるのか分からずじまいだったからな。
「桜、それをゲインして招待状の中にある地図とバッジを持っていってください。
おそらく地図の指定する先は、あの城でしょう」
その場にいる全員が、やや遠くに見えるリーメイロの城へと目を向ける。
「……1人しか行けないみたいだけど、私でいいの?」
「お前以外の誰が相応しいってんだよ」
桜の問いに、ゲンスルーさんがぶっきらぼうに答え、他の全員が笑みで応える。
「えっと……前はゴンだっけ?」
「うん。
前と同じなら、リストさんとドゥーンさんが待ってると思うよ」
「多分GMだね。
じゃあ……アイシャも一緒に入れるんじゃないかな?
試してみない?」
「私もですか?」
「そ。島から出る前にGMと話さなきゃいけないはずだし」
「そうですね……
時間をあまりかけないようにするなら、いま済ませるのが一番ですね」
「ん。で、一緒に入れなかったらアイシャもだけど、話が終わるまで城外の警備を事前に言ってた通りにお願いするね」
「うん!」
「いいけど、あんまり長話するなよ?」
「アイシャも入るのであれば、それを守るのは弟子の役目だな」
「話が終わったら、アイシャはオレが運ぶぜ」
ゴン、キルア、クラピカ、レオリオさんが前に出る。
「あー、でも移動する用事があったらだよ?
エンディングもリーメイロみたいだし、話が終わった後すぐアイシャが動く用事はないかも」
「……まぁそういう事態に備えてってことだな。了解」
「勇み足なんだよ、レオリオは」
「なにぃ!?」
キルアの茶々入れに、レオリオさんが言い返す。私と桜が笑い出すのに釣られて、場が笑いに包まれる。
「それじゃ各自、打ち合わせ通りに待機しててね。
お姉ちゃんも、まだちょっかい掛けてくるのが居るかもしれないから気を付けて」
「もちろん。あなたもね」
「うん。
……って言ってたら来たよ……」
明らかに桜へ向かって飛んでくる複数の飛行音。一斉に桜から距離を取る私達。
飛んできたプレイヤーのうち1人が、遠巻きに包囲する私達の姿に「ぐ……」と呻く。
そう──クイズイベントの直後に襲撃者が来る可能性が高いことは、充分予想していた。99種揃えたプレイヤーはすぐ分からずとも、クイズに勝利すれば名前がアナウンスされてしまうからだ。その上『念視』を使われたら、ランキングを確認するまでもなくカードの所持状況はすぐバレる。
見覚えのある顔触れだ。向こうも何人かの顔を凝視し、
「またアンタ達か……!
リィーナさんにゲンスルー……ジェイトサリまで」
「ニッケス組だな。
私のことまで警戒してもらえるとは光栄だ」
「アンタが、他の誰かと手を組むとは思わなかったよ……
それともたまたま居合わせただけか?」
「いや。我々と彼らは仲間だ」
気負いなく言ってのけるジェイトサリさんに、遠くで嬉しそうに微笑む桜。
「流石にこりゃ、多勢に無勢が過ぎる。
もうやめとこうぜ、ニッケス」
襲撃者達と一緒に来たプーハットさんが、肩をすくめながら忠告する。彼らは10人にも満たない。ここに来たのが全員ではないかもしれないが、仲間集めは上手くいかなかったのだろう。人数だけでもこちらの半分以下だ。
助けを求めるように、ニッケスさんとやらがアベンガネさんの方を見る。
「オレもプーハットと同じ意見だ。
見た限り、スペル攻撃に対する警戒態勢も取られている。
まして実力行使など自殺行為だ」
「し、しかし……!」
「クリア報酬の額面も、前よりまだ全然少ないんだろ?
命あっての物種だ。無駄死にはゴメンだぜ」
この人達、カードコンプした桜よりもリィーナの方を恐れてるな。よほど以前の恐怖が根強く植え付けられているようだ。それなら──
私はリィーナへ目配せし、リィーナもそれで理解する。
「……あなた達とは以前からの因縁もありますので、交渉いたしましょうか」
「交渉……だと?」
「今回私達がクリアするまで大人しくしていただけるなら、今この場にいるあなた達1人ずつに1億ジェニーの謝礼金を約束しましょう。
いかがですか?」
『1億っ……!?』
なかなかいいところを突くな、リィーナ。その額なら、向こうも値上げ交渉がしづらいだろう。ここで長引かせないのは大事だ。
「ま、待ってくれ、少し仲間と話し合わせてくれ!」
「構いませんが、早くお願いします。
他のプレイヤーも襲撃してきたら、場が混乱して
「今、最大の懸賞額はいくらだっ!?」
「確か50億ちょっとだ!」
「どう少なく見積もっても、オレ達の作戦でクリアするのに30人は必要……!
仮にここで奪えたとしても……!」
「よくて1人6億あるかどうかだ。
命懸けの勝負に出た見返りとしては、正直物足りない」
「こいつらから奪えたとしても、今度はオレ達が他のプレイヤーに狙われるだろうしな。
さて、何人生き残れるかねぇ?」
「ぐ……ぐぅ……」
概ね決着したようで、ニッケスさんの肩をその仲間の1人がポンと叩き、首を横に振る。
「……分かった、リィーナさん。
ここにいる9人、それぞれ1人1億ジェニーでオレ達は手を引く」
「では名刺をお渡ししますので、少しお待ちを。
……桜さん達はもう城へ向かってください」
「ん。……ごめんね」
「お気になさらず」
桜は力なく道を開けたニッケスさん達をすり抜け、予定通り6人で城へと向かう。
リーメイロの入口を抜け、城下町をしばらく歩いた後、
「結局アイシャとリィーナに頼っちゃった……」
溜め息を吐いて項垂れる桜に、私は頭を撫でてあげ、
「リィーナも言っていましたが、気にしないでください。
私達も彼らとは以前から因縁がありますし、あまりスマートな手段とは言えませんが、無闇に恨みを買わないようにするのも今後のことを考えれば有意義ですから」
「うん……」
「その代わり、気を抜かずに必ずクリアしましょう。
まだ終わっていませんよ」
「うん、そだね」
──城に入る直前、私のバインダーにイータさんから連絡が来た。もう現実に帰るので、スタッフとして話がしたいと伝えると、快く桜と一緒に入る許可が貰えた。
両開きの扉が音を立てて開き──
「ようこそ、グリードアイランド城へ」
ゴンの言っていた通り、リストさんとドゥーンさんが城内で待っていた。2人からNo.000『支配者の祝福』とクリアバインダーを受け取る。
そして、ホンットに汚い部屋で、GMとスタッフ間の会議が始まったのだが……
桜が怒涛の勢いで口を挟みまくり、後からレイザーさんやイータさんも加わって今後のGI運営に関する助言・指摘・忠告・仕様変更など、とにかく無茶苦茶討論した。これ、私がいる意味ないんじゃないかな……。私も指摘するつもりだったのに、桜が1つ残らず言っちゃってるよ。
能力による移動無効化対策、内外の侵入脱出対策、幻影旅団などの犯罪者使役の問題点、攻略ヒントの適正化、トレードショップの情報料適正化、攻略停滞プレイヤーの脱出支援、『徴収』以外の攻撃呪文の有用性向上、有効性の低い指定ポケットアイテムの性能改善、買い占め対策に呪文のカード化限度枚数の引き上げ、過剰にダブつくお金カードを専用の別ポケットを追加して収納する案、攻略慣れして繰り返しクリアをされにくいように指定ポケットアイテムを追加して難しくなった代わりに報酬を3つから5つに増やす案、などなど……
「もうそこまで言うなら、自分でゲーム作ればいいのに」
と、遂にイータさんから言われてしまった桜が仏頂面になって、申し訳ないけど笑いが止まらなかった。レイザーさんまで、散らかった床を叩いて笑っていた。
そこそこ長話を終え、ツヤツヤした満足顔の桜と、多分疲れきった顔の私が、城外へと出た。
エンディングパレードは夜にならないと始まらないらしく、任意だが出来れば参加してほしいと言われ、それまで脱出は待つことに。参加するつもりではいたんだけど、思ったより待たされるな。
「まぁスタッフとして参加した手前、アイシャは断りにくいよね」
「そうですね……
私は二度目のエンディングですが、前回は気分的にあまり楽しめませんでした」
「ま、そのぶん今回は楽しんでね♪」
──昼食を終えた頃、桜はウラヌスへと戻った。彼は物凄く不満げに、
「……なんかさ。
気が付いたら勝手に俺の冒険の書でゲームクリアされて、エンディング流れてる感じ。
俺、泣いていい?」
「鳴くのは好きにすればいいですけど、エンディングには参加できるじゃないですか。
その代わり、桜は主役として参加できないわけですし。
今夜はあなたが主役ですよ?」
「あいつ、後はよろしくぅー♪
……みたいな軽いノリで、後の面倒ごと俺に全部ぶん投げていきやがったんだけど。
俺、怒っていい?」
「誰をですか。桜をですか?」
「うん。
別にアイシャ悪くないし、他に誰も悪くない。
あいつ呼び出して、加減しろバカ! って」
「あなたの意思で桜に任せたのに、ゲームクリアまでした桜を叱るのは筋違いですよ。
猫として呼んであげるのは歓迎しますが、そんなふうに怒ったら許しませんよ?」
「ふぎゃー……」
不満そうに鳴いたってダメです。
──これに関しては
岩場に立ち、いつもと変わらない滑らかな指使いで宙に神字を描き、
「
──【通信塔/バベル】──」
ウラヌスの顔の前に、黒い球体が生まれる。──各都市に予め仕掛けておいた、神字によるスピーカーポイントから、これを通して拡張した声が伝わるらしい。
「あっ、あー……! マイクテステス」
少し離れたリーメイロの方から、大声量のウラヌスの言葉が聴こえる。おそらく上手くいってるのだろう。
「昼下がりのひとときに失礼する。こちらはウラヌス。こちらはウラヌス。
気づいてる人も多いだろうが、今回は俺が指定ポケットカードをコンプしたのでクリアさせてもらう。
クリアするタイミングは今日の24時直前を予定している。
前からいる人なら知ってると思うが、クリアプレイヤーが出ると、全ての指定ポケットカードとアイテムが消滅する。前回がそうだったから、おそらく今回もそうだろう。
外に出て戻ってくるつもりがないならいいが、まだ留まる、挑戦する気があるなら今のうちに換金しておくことを勧める。損をしたくないなら俺がクリアする前に換金してくれ。
もう一度繰り返す──」
折り悪く聞きそびれる人がいるかもしれないので、同じ内容をリピートするウラヌス。
「次に……
クリアするとしばらくの間、ゲームに誰も入れなくなる。期間は不明だが、前回は半年ほどだった。
中に留まるならいいが、一度外に出ると当面入れなくなる。ゲームから出るなら、そのことは念頭に置いてくれ。
次に……
ゲームから脱出することを希望するプレイヤーについて、入ってきたゲーム機の安全が確保できているなら問題ないが、ゲーム機が盗まれたり廃棄されていたりで危険な場所に移動している可能性がある。その可能性があるなら、『離脱』を使って脱出するのは推奨しない。特にバッテラと契約して入ってきたプレイヤーは注意してくれ。もう彼の手元にゲーム機は残っていない。
これから大量のプレイヤーが島外へ脱出すると思われる。本気で島を出る気があるなら他のプレイヤーと交渉するなりして、港からの脱出を推奨する。甘ったれずに出たけりゃ努力しろ。
もう一度繰り返す──」
再度島外脱出に関するアナウンスをした後、
「最後に……
カードを奪うつもりで俺に喧嘩売ってくるプレイヤーがいるかもしれないが、クイズで満点を取ったことからも分かるように、俺達は自力でほとんどのカードを集め切った。
こっちは終始警戒を解くつもりはないし、最低でもランクSモンスターを単騎で狩れる実力がないなら、悪いこと言わないからやめとけ。
俺に『交信』してこようが『同行』で飛んでこようが、交渉するつもりも一切ないから、無駄なことはするな。
もう一度繰り返す──」
ウラヌスは警告を繰り返した後、
「──……以上だ。聞いていないプレイヤーがいたら、周知してくれると助かる。
エンディングパレードが、城下町リーメイロで今日の夜から始まる。
邪魔しないでくれるなら参加は自由だ。通信を終わる」
黒球を
「お疲れ様です」
「こっちの気持ちを少しでも汲み取ってくれるといいんだけどねぇ……
あんなこと言って、挑発と受け取られないことを祈るよ。
犠牲者が出ないといいんだけどなぁ」
自信がなさそうに首を捻るウラヌス。まぁ発案は桜だしな。本当に大丈夫か? とは、私も思う。
桜の読みとしては、今まで出られなかったプレイヤーが一気に脱出すれば、命からがら抜け出した人達がグリードアイランドの危険性を語るようになり、バッテラさんが情報を封鎖していないのでその噂が広まるだろうと。
GMとの会議でも提案していたが、初心者向けの情報がゲーム内外ともにあまりに少なすぎると指摘し、せめて初心者が知るべき序盤の注意点をまとめ、ハンターサイトに安く情報を載せることを考えているらしい。
確かに、命懸けのゲームだと知っていて入ったはずとはいえ、あまりに事前入手できる情報が少なすぎるもんな……。危機回避する為の判断材料が少ない。
それが結果的に大勢の犠牲者を生んでいると言われれば否定できない。そこはGM達も認めていた。意外にレイザーさんも、その点は強く同意していた。
ゲームの正確な情報が流布すれば、脱出者の増加に伴って増えるだろう無謀な挑戦者や無鉄砲な犠牲者を少しでも減らせるのではないか、というのが桜の考えだった。
いちおうウラヌスも思案していたらしく、その草案を叩き台にして桜が実行案を固めたそうだ。
……ホントすごいよ、この子は。筋金入りのお人好しだと改めて思う。
ウラヌスの警告が功を奏したのか、他プレイヤーが干渉してくるようなトラブルもなく、エンディングパレードが始まった。
みんなの勧めで、私とウラヌスがパレードカーに乗り、にゃんこ桜も出してもらって、私が抱っこしながらパレードの大賑わいを楽しむ。NPCの群衆に紛れて良からぬ気配を見せるプレイヤーがいないか、仲間がいちおう見張ってくれている。
「にゃーん♪」
「すごいですよね、桜。
あなたも一生懸命がんばってくれたおかげですよ」
「にゃんにゃん♪」
「……」
「あなたが一番の功労者ですよ、ウラヌス。
存分に楽しんでくださいね」
「……正直、桜に頼りすぎたなって思ってる」
「だとしても、この景色はあなたの努力が実った成果ですよ。
ほら、笑って笑って」
「ぶひゃ!
ちょっ、くすぐんないでってば!
はヒヒッ、それ反則っ!」
「にゃーうん」
「あ、あそこにシームがいますよ。手を振ってあげてください」
「にゃっにゃっ」
「え? 俺じゃなくて桜?」
そして大宴会が始まる。
「はぁー……
てっきり専用の会場があるのかと思ってたけど、城の中でやるんだねー」
「今日は開放されてて、朝まで寝泊まり自由らしいです。
リストさんがさっき説明に来ました」
「あー、なんか話してたね。
……気づいたら、ゴンとキルアとビスケさんがすごい勢いでバカ食いしてるし。ゴンとキルアなんて、昼間に景気づけでお菓子の家を出した時、倒壊させる勢いで食べてたのに。
ちゃっかりモタリケまでガツガツ食ってやがる……」
「まぁいいじゃないですか。あなたも食べたらどうです?」
「食べてるよ。……桜がチラチラ見てくっから遠慮気味なだけで。
アイシャこそ食べてきたら?」
「でも、桜もなでなでしたいですし」
「にゃーう♪」
そんなやりとりをしていたら、こっちにシームが来た。
「ボク、もうお腹いっぱいだからアイシャも食べてきたら?
桜は預かるから」
「あー、まー、そうですね。
それじゃ代わりにこのにゃんこ2匹、可愛がってあげてください」
「うん」
「にゃん♪」
「ちょっとちょっと……」
ウラヌスと桜とシームから離れてゴン達が食事しているところへ行くと、遠目に何やらウラヌス達が話しているのが映る。なに話してるんだろ。……まぁ私もしっかり食べるか。
カラオケではウラヌスとビスケが競って美声を披露したり、ベルさんも加わって一緒に歌ったりと大盛り上がりで、城の中をあちこち盛大に散らかしたまま、大宴会も終わり。
城の一室に、私とウラヌス、メレオロンとシーム、おまけに桜も集まり、最後の相談をする。
『──もう少ししたら
「ん。姉貴、最後までがんばってくれてありがとな」
『お礼なんていいわよ。もー、さっきから散々言われてて聞き飽きちゃった』
「ハハ、じゃあ後ひと踏ん張り、
『はぁい』
ユリさんとの交信が切れ、ウラヌスがバインダーをめくる。
「さて。俺とアイシャは予定通り23時50分に港へ行くとして、メレオロンとシームは荷物背負って、挫折の弓の『離脱』で先に脱出な」
「うん」
「長かったわねー……」
長かったか。私的には長かったというより、濃かったかな。……本当に。
「そうは言っても、クリアにひと月半なんてRTAもんだぞ。
今も働いてくれてる姉貴さまさまだよ」
「それもこれもアンタの攻略情報ありきでしょ。
……ありがとね」
「ウラヌス、ありがと」
「本当にありがとうございます」
「よしてよ、まだクリアしただけなんだから。
……こっからだよ」
「にゃん」
静まり返る室内。城の窓から見える夜空には延々と花火が上がっていたが、聞き慣れてしまって、誰も気に留めていない。
「……これでお別れってわけじゃなし、湿っぽいのはやめよ。
クリア報酬は例の3枚で変更なし」
「本当にアレでいいの?」
「変に狙うつもりはないし、できるだけ堅実な選択だよ。
『33:ホルモンクッキー』。
『65:魔女の若返り薬』。
『72:マッド博士の整形マシーン』。
……若返り薬は、まだ変更の余地があるけど」
「でも代わりの候補が、ビスケの欲しがる『ブループラネット』や、枚数が不足するかもしれないという理由で『死者への往復葉書』ではちょっと……
ゴンの言っていた計画も、2枚選ばないと実行できませんし」
「ホルモンクッキーと、マッド博士の整形マシーンは必須だからねー……
ビスケとゴンは今回最後しか参加してないから遠慮するだろうし、死者への往復葉書も量産するか不要にできるかもしれないからね。現物はあるわけだから」
「どうしても葉書が足りなくなったら検討しますが、少なくとも今は不要ですね。
時間稼ぎにしかなりませんし、根本的な対策はいずれにしても必要です」
「にゃう?」
抱えた桜が小首を傾げる。……もしかしたらウラヌスじゃなくて、桜の助力が必要かもしれないんだよな。父さんの件に関しては。んー……
ユリさんから連絡が入り、脱出を望むプレイヤーで殺到していた港が空いたようなので、メレオロンとシームが『離脱』で脱出するのを見届けた後、レオリオさんに来てもらって港まで私を運んでもらう。
「マジで疲れちまったぜ……
何度飛んだか分かりゃしねぇ」
「本当にお疲れ様です。
……ゴンも気にしていましたからね」
「まぁな。
確かに何年も出たくても出れねぇってのは可哀想だ。オレも失念してたよ」
ウラヌスだけでなく、ゴンも脱出を望むプレイヤーを放置しているのが気になっていたらしく、ユリさんやレオリオさんにも協力してもらって、脱出を促すことにした。
多分帰れないプレイヤーが大勢いるのはマサドラかアントキバなので、積極的に街中で呼びかけをして、『現実で1000万ジェニーを支払う』約束が出来るプレイヤーだけ、挫折の弓による『離脱』か港かを選んで脱出させてあげることにした。まぁ金額の条件を付けたのはそうしないとキリがないからだ。クリア後は挫折の弓も消えてしまうからね。
流石に金額が金額だけに躊躇する人も多かったようだが、時間制限を付けていたので、締め切り間際に駆け込みで希望者が殺到したようだ。
挫折の弓なら『複製』でいくらでも水増しできるが、通行チケットは1日に入手できるのが1人1枚までなので、ユリさんのダブルを使い、所長に挑戦するのは脱出したい本人、所長を倒すのはユリさんの分身という裏技で、何とか数を確保していた。どうしても移動スペルが不足するので、足りない分はレオリオさんに頑張ってもらった。
ちなみに振込口座を伝えて、請求する名目で個人情報も預かってはいるが、仮に払われなくても支払いを催促するつもりはなかったりする。あくまで何が何でも脱出したいのか、覚悟を試しただけだ。
そうこうしてるうちに、ユリさんとレオリオさんが『離脱』で現実に帰る。
次は私の番だ。
「ではウラヌス。お先に」
「うん。すぐに行くから」
──シソの木で話していた通り、専用バインダーを受け取って、レオリオさんのように私は念獣に抱えられて、希望したアムリタ港へと帰ってきた。
何もない、ひらけたスペース。見覚えのある転落防止の柵の手前、暗い街並みと港湾を背景に、潮風に吹かれるモタリケさんとベルさんがいた。
島の外の空気を久しぶりに堪能しながら、そこでしばらく佇む。
やがて、ウラヌスの姿が現れた。
こちらに目を向け、小首を傾げながら微笑みかけてきて、
「────……ただいま」
「────……お帰りなさい」
────それからというもの、めでたしめでたしというわけにもいかず、本当に色んなことでバタバタと忙しかった。色々ほっぽりだしてゲームに飛び込んだわけだし、ゲームでもたくさんの事案を抱えこんだのだから当然ではあるけど。
ただ、特筆すべきは────本当にこれだけは只事ではなかった。
久しぶりに私を訪ねてきたウラヌス──いや、桜。
相変わらずの可愛らしい姿だったが、目から大粒の涙をポロポロこぼして、
「……アイシャあ……
わたし…………うらぬすに……もどれなくなっちゃったぁ…………」
え……?
「────ええええええぇぇぇーーッッ!?」
どうしてこうなった?
────────To be continued....?
と、いうわけで。
「どうしてこうなった? アイシャIF」本編、これにて終幕となります。
ながかった……ほんっとうに、ながかった…………!
ここまで読み切った方なら、マジでどんだけ長々書いてんねん、と思うぐらいの文章量だったでしょうが、私も読み返すだけでホンット苦労しました……(当たり前)
ご覧になられた通り、色んなことが未解決のままでの終幕と相成りますが、当然ながらまだまだ書き足りていないことは承知しています。
ただ『グリードアイランドを描き切る』という当初の目標は達成されている為、ここで本編は予定通り終了となります。元々そのつもりで書いていました。
本当に最初の最初、このお話は1人の少年がグリードアイランドを攻略する、といったイメージでした。その部分は実際そのイメージに沿って描いています。
書きたいと思った理由はただ1つ、原作のグリードアイランドは自分が望んでいたよりずっと短く、どれだけ読み直しても物足りず、もっとたくさん読みたかったからです。
しかしながら、なかなか自分で書こうという気が起こらず、グリードアイランドを描く参考になる話はないものかと、気がつけば100作ぐらいの「HUNTER×HUNTER」二次創作を色んなサイトで読み漁りました。
そして辿り着いたのが、とんぱさん作「どうしてこうなった?」でした。
三次創作(二次創作?)として書かせてもらっている私が面白い面白くないを語る資格はないと思うのでそこは触れないとして、私が読んでみて一番強く感じたのは「アイシャの物語をもっと読みたい」でした。それほどまでにアイシャという人物が好きになりました。
散々悩み、出した結論はこれでした。
「元々書こうとしてたヤツと、混ぜて書けばいいじゃない」
なんでその結論に至ったのか、私も言語化できないのですが、まぁそうして書き始めたのが「どうしてこうなった? アイシャIF」でした。結果的にダブル主人公(?)形式になったのは、そういう理由からです。
アイシャを好きになったと言いましたが、人物造形が非常に複雑でして、無印作中でも時期による振れ幅が大きかったのもあり、これというイメージまで落とし込むのにかなり苦労しました。
ウラヌスは……書きやすいと言えば書きやすいんですが、私自身も捉えどころがなく、心揺さぶられる不思議ちゃんという印象が強いです……いまだに。なんなの、この子?
ともあれ、書きたいという欲求は非常に強かった為、ほとんど勢い任せに筆を執ったというのが実情です。後のことも深く考えずに。
……最初はね、ものっそハイペースで書けてたんですよ。湯水のようにイメージが頭の中に湧いてきて、とんでもない文章量を1日で書き上げていました。それも毎日毎日。お、これなら楽勝じゃんと。
それが、じょじょーにペースが落ちていき……。気が付けば地獄のような産みの苦痛を味わうハメになりました。長編って書くの大変ですね(アホ)。
三次創作だからとか、ゲームチックな話だからとか、色々書きにくかった言い訳もあるんですが、本当にここまで書くペースが落ちるとは思わず…………マジで修行と言うほかありません。
2019年5月下旬頃、とんぱさんへ三次創作の許可を貰う為にメッセージを送ったのですが、その時点で130万文字弱でした。(許可を貰いに行くのが遅すぎるだろというのはさておき)それだけ書くのに大体1年半かかってます。
で、今の文字数が200万文字超とはいえ、もう2025年……なんでやねんと。
いちおう去年の10月末には最終章の原稿は上がっていましたが。ひたすら直しに直しを重ねて、結局ここまでかかりました……もう推敲やだ(本音)。
改めて振り返ると良く描けましたよ、こんなの……。特に最後の桜編。比喩抜きで地獄でした。キメラアント編も苦労しましたが、意外に書いていて楽しかったです。
スノーフレイ編は書いても書いても終わりが見えず……その後のドリアス編も書いても書いてもでしたが意外に楽しかったり(既視感)。
まぁぐちぐち言ってても仕方ないので、今後についてのお話を。
ええもう、全っ然、書き足りません。というか書かなきゃダメです。
ラストのエピローグ2話自体、駆け足気味になって申し訳ないなーと思いつつ……
あそこでああ終わる以上に、綺麗な終わり方が見えませんでした。実際書いてみるまで、どう終わらせるか相当に悩み抜きました……
ウラヌスの過去話とか、ゲームクリア後に現実へ戻った後のあれやこれやも。そもそもウラヌスどうなったとかも……書かなきゃいけないことはてんこ盛りです。
ただ、どの話をどれくらい書くか、その辺りが現在未定です(2025年時点)。
決めないことには書けないですし、無目的にだらだらと書こうものなら、それこそアホみたいな長さになりかねません(一敗)。まずはそこからですね……
ホームページも何とか用意して形だけは整えましたがまだまだコンテンツ不足ですし、他の創作も置いたままになってるので、そっちも進めていかないと……それと並行して、今後の「どうしてこうなった? アイシャIF」をどうするか決めていきたいと思います。
最終章とは銘打ちましたが、いちおう(連載中)のままにしておきます。いつ次の投稿をするかも未定ですが、決まったら事前に告知するつもりです。
……では、読後感をあまり妨げたくありませんので、そろそろこの辺りでシメとさせていただきます。
ここまで長らくのお付き合い、大変感謝いたします。またそのうち、何かの形でお会いできれば幸いです。
────某日、「Just be conscious」を聴きながら。
サークルらぶそんぐ たいらんと
……ほんっと、人生ってままなりませんね。どうしてこうなった……(実感)