うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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エピローグ

天衣が初めてのタイトル戦で俺を相手に引き分けてから7年後。俺は神戸にあるお墓に来て、手を合わせていた。

 

(あれから7年か。もうそんなに経つんだな)

『結局あれ以降、天衣が神憑り的な強さを見せつけた対局はありませんでしたね』

(マジであの時は、将棋の神様が憑りついていたんじゃない?)

『だとしたら勝っておきたかったですね。マスターが八冠になって以降、タイトル戦で唯一となる引き分けだったわけですし』

 

俺が八冠になってから、将棋界は停滞を始めたように世間からは見られている。実際にはソフトのレベルの向上に伴って、どんどん一般棋士のレベルも上がっているけど、タイトルホルダーが一人しかいないから仕方ない。最終年の電脳戦はアルファゼロが出て来ず、5人での団体戦だったけど俺以外の4人がソフトに敗北。1勝4敗と人類敗北の日として刻まれた。アルファゼロが出て来ていたら0勝5敗だったな。

 

(その後に行われたアルファゼロとの囲碁、チェス、将棋の3番勝負×3競技では7敗2引き分けだったし、まあもうAIには勝てないわ)

『むしろよく2023年までは勝ててましたよ。ですがAIが人間を完全に超えても、将棋の人気は衰えませんでした』

(あの将棋を眺めるだけのアプリが7周年とか頭おかしいことになっているからな)

『育成系のゲームとして、楽しめる人がいるみたいですからね』

 

アイといつも通りの会話をしていると、天衣がやって来る。お盆の時期に研究室に行かないといけないって、大学生は大変だな。

 

「仕方ないじゃない。単位は何とか融通が利いているけど、卒研だけはしっかりやれって五月蠅いんだから」

「理系の大学は大変そうだな」

「文系も大変だと思うわよ?」

「いや、どーだろ?案外楽かもしれんぞ」

 

2人そろって、改めて天衣のご両親のお墓参り。……天衣のお爺さんである弘天さんも結構な年なんだけど、あれはまだまだ死ななさそうだ。曾孫を見るまでは死なないとか言ってるし、100歳までは生きるんじゃない?最近の医療技術は凄いし、平均寿命も延びたしな。

 

2人揃うと、もう完全に天衣がお姉さんで俺が弟という図になってしまうけど、2人とも一応有名人なのでそういう扱いを受けることは少ない。まあ将棋で長年八冠を独占している師匠と、女流七冠の弟子の師弟は知らない人はいないぐらいだ。

 

……たまに天衣は六冠になったりするけど。

 

「何だかんだで、女流四天王は全員A級棋士になったからなあ」

「その女流四天王、いつも思うんだけど馬莉愛は入っているの?」

「入る。今はB級1組だけど、1年だけA級だっただろ」

「それだと四天王が5人いることになるじゃない」

「むしろ四天王は5人いないとネタにならないじゃん」

 

空さん、天衣、祭神、あいの4人は今現在A級棋士だ。お蔭でA級だけ女性比率がやけに高い状態になっている。馬莉愛が5人目の女性プロ棋士になって以降も、何人か女性のプロ棋士は誕生したし、今まで女性のプロ棋士が少なかったのは単に競技人口が少なかった問題もあったんだろうな。

 

それが天衣や空さんの影響で、将棋を始める女子が増えた。女流棋士のレベルも年々向上し、晶さんなんかここ最近は負けまくっている。一応初段昇段後に60勝はしたから二段になったけど、間違いなく史上最弱の二段だ。

 

「ところで師匠は、死の淵から生き返ったら将棋が強くなると思う?」

「人による。空さんなんかは出産時に死にかけたらしいけど、それが理由で強くなったわけじゃなさそうだし」

「……師匠と同期の人は?」

「今年プロになった彼?

あれは死にかけたから強くなったんじゃなくて、諦めなかった結果だろ。年齢制限ギリギリまで戦い続けるのは、鏡洲さんもそうだったけど本当に辛いしな」

 

空さんと九頭竜の子は、現在3歳。前に会ったけど、九頭竜の遺伝子働かなさすぎだろ、と思うぐらいには空さんそっくりの子どもだった。空さんは身体が弱く、出産が非常に危険になるから子供は無理とまで言われていたが、空さんが無理を押してまで子供を作り、医者の腕が良かったこともあり死の淵から蘇ったらしい。

 

詳しいことはよく分からんが、空さんが熱望して耐えたからこそ子供が出来たということだな。そんな空さん以外とも子供を作った九頭竜は色々と凄い。結局九頭竜は、結婚はしない模様。式は1人ずつ挙げたようだけど、俺すらお呼ばれしていないので本当に小規模な結婚式だな。お互いの家族以外呼ばない結婚式は、今時珍しいことじゃないけど。

 

「大学は無事にストレートで卒業出来そうか?出来ないなら挙式が一年遅れるんだが」

「4年に上がるのは大丈夫よ。卒業自体は、教授が何とかしてくれると思うわ」

「……珍しい構図だよな。教授で大学を選んだら、その教授が天衣のファンだったって」

「どちらかというと、師匠のファンよ。女流棋士を目指していたらしいし、将棋界のことも詳しいわよ」

 

天衣の両親のお墓参りを済ませた後は、大学のことを聞く。大学卒業後に挙式をする予定だけど、留年したら1年延期になるから予定を組むのが難しい。

 

「今年の名人戦は楽しかったな」

「掲示板では婚前旅行なんて言われてたけど。……発表するの、早すぎたかしら?」

「あの時は今のタイミングがベストって言ってたし、実際波風が立ってないなら正解じゃない?」

 

2人とも名前が世間に通り過ぎているので、結婚しても夫婦別姓で行くことにした。たぶん子供は、夜叉神の方を使うんじゃないかな。まあうちの家は大したことのない家系だし、夜叉神家は色々な産業に関わる大きな家だから、そこら辺はしょうがないし、仕方のないことだ。

 

「というか婚前旅行は、あと何回行くことになるんだろうな」

「来週からの帝位戦と、来月からの玉座戦は確定よ?」

「帝位戦で4回と、玉座戦で3回か」

「……絶対にその数、増やすからね」

「出来れば増やしてくれ。帝位戦とか1局で4日間天衣と一緒だからな」

 

名人戦で天衣と指し、次の帝位戦や玉座戦でも天衣と盤面を挟んで向かい合うことになる。天衣がタイトル戦で、また俺相手に引き分けたり、勝ったりする日はいつになるだろうか。天衣が俺の想定外の進化を遂げて7年。強くなっているが、死ぬまでに天衣が俺を超えるタイミングがあるか、それすらも怪しい。

 

(その理由は、間違いなくうちの脳内コンピューターが強くなることを止めないからだな)

『なんか文句あります?』

(いや、ない。何だかんだ言って、俺も負けず嫌いだからな)

 

タイトルは通算100期を超え、歴代トップの記録を塗り替えた。まだまだ将棋界には居座り続けるつもりだけど、アイはいつまで俺を勝たせ続けたいのかね。




これにて「うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる」は完結です。たくさんのお気に入り登録や評価、感想をありがとうございました。モチベーションが高い状態で維持出来たのは読者の皆様のおかげです。

後半、かなり駆け足状態になったことは自覚しています。申し訳ございません、作者の癖です。このあと番外編として掲示板回などを投稿するかもしれませんが、前に完結後のあとがきで同じようなことを書いて結局書いていないので、今後この作品が更新されるかは不明です。

改めて読者の皆様、ここまでの読了お疲れさまでした。最後に評価を付けて下さると非常に嬉しいです。また次回作や他の場で会えることを楽しみにしています。これまでありがとうございました。

↓次回作
https://kakuyomu.jp/works/822139841789437953
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