頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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設定

あだ名:シャドー

概要:主人公(シャドー)はキョンの幼馴染み兼同級生の男子高校生。ハルヒとのスポーツ勝負で勝敗は着かなかったが、ハルヒに気に入られ、彼女の勧誘を受けてSOS団に入団する。

一人称:俺

容姿:髪は黒の短髪。顔はキョンと同じ普通な感じ。

身長:キョンより十cmほど低い。

性格:自由気ままなマイペース

家族構成:父、母(普通の一家でよく一緒に出掛けたり、時には喧嘩もするが、後で互いに仲直りしたりと普通の生活を送る関係)

能力:キョンと同様に普通の人間で学業の成績は普通(悪い訳ではない)だけど、運動神経と身体能力はSOS団団長・涼宮ハルヒと互角とかなり優れている。



主人公のお名前は、リクエストされた方のものを使わせていただいております。



各ヒロイン分岐します(現在、長門・朝比奈みくる・鶴屋さんルートのみ)




その他
涼宮ハルヒシリーズ ※各ヒロインルートに分岐(長門有希・朝比奈みくる・鶴屋さん・喜緑江美里・キョンの妹・佐々木)


 無意識な行動に強い責任を、が直訳。意訳では、ちゃんと認知しろ、というものらしい何処かの言葉が書かれたポスターが目に付く。その意訳の方の所為で何にも心当たりがないのに、いやに喉を干上がらせる。確かに暑苦しい格好しているから、もう喉がカラカラだ。とてもとても喉が渇きすぎてなんでもいいから水分をくれないと、ここにあるコップを全部撃ち抜くなどと暴れてしまうかもしれない。

 

 そんな俺の様子に気が付いたようで、ちょっと整えられすぎているカイゼル髭のマスターが飲み物をくれた。即座に手を伸ばし中身が何なのか確認もせず、口に突っ込んだ。給食にいつもついてくるアレの味がする。それなのに喉通りがしつこくない。そのおかげで咽ずに一気で飲み干せた。

 コップを勢いよく置く。それと同時に、頑張って作った扉が大きい音を立てて乱暴に開かれた。見飽きるほど見慣れたそいつは慣れない演技で予想以上の音が出て驚いたらしい。だから、台詞がちょっと遅れた。

 

 

「おい、シャドー!! 決闘だ!!!」

 

 

 色々と前がトンだし棒読みだしな俺のヤレヤレ系幼馴染。監督のハルヒに後で何か言われそうだ。付け髭谷口はこの決闘中に流れ弾で落ちてきた箱に頭をぶつけて退場。俺はそれを見てから必殺技を出して、同じような衣装を着ている幼馴染を倒す、という流れ。必殺技は任された。ハルヒ並みの運動神経と身体能力を持っているとはいえ、どんな動きを期待されているのか。格ゲーのような動きは無理なんだけど。

 

 とりあえず、流れに乗らなければならない。リテイクもある程度は許されるだろうが、結構物を壊していく感じの映像を撮っていくので上手くやらないと大分面倒くさいことになるだろう。色々と映画でしか見たことのない物がある。基本見てくれ重視であって使用には向いていない。というか、コレクターぐらいしかいらないんだと思う。俺も男なのでロマン的なものを沁みわたるほど感じ入るよく分かんないものたちがある。例えば、今腰から抜き取ったロマンの塊なだけで消耗が激しく、実用性や汎用性が地の底レベルだろうこの銃とか。もちろん、銃刀法違反な品ではない。ハルヒのミラクルパワーが作用しなければ、安全性溢れるロマンなだけのおもちゃでしかないんだから。

 

 そんなロマン全開な御もちゃを、格好よさげに同じように服に着られた序盤と中盤、挙句に終盤まで何度も登場する敵役、幼馴染の目線と重なるように構える。

 

 

「お元気だね、キョン。またまた鉛玉の味を覚えに来たのかな?」

 

「今度こそお前が鉛玉の味を覚えるときだぜ!!」

 

 

 何度も鉛玉の味覚えてるんだよな、この敵役。この序盤から終盤まで、出てきたら必ず。そっくりさんじゃなく、全部本人みたいだし。鉛玉の数だけ強くなるんだけど、なんで永久退場しないんだろう。

 

 

「さぁ!! 三っつ数えたらバンっだからな……」

 

 

 その台詞は終盤の……。色々幼馴染が頑張ってるところを見ていると、いつも飛ばされた風船のような俺は更にフワフワ気が抜けていく。無気力ぶっているくせに、頑張り屋だからなぁ。妹を持つお兄ちゃんは、みんなこんななのかね。

 

 

「いくぞっ!! ……ふーッ。三、二」

 

 

 あ、まずい。早く撃った感じにしなきゃ。カウントダウンがテンパりすぎて早口だ。脚本通りに割り込みで撃たなきゃいけないんだ。

 

 

「い」

 

 

 幼馴染は棒立ちのままなのに、俺は無駄にあちこち跳ねまわりながら動く。そして、パンっ、という軽い音ではなく、弾も火薬もないのに雷鳴を少し鈍くした音を炸裂したロマン銃。非常にうるせぇ。

 撃たれたからというより、音に驚いて全力で倒れた幼馴染。効果音担当として居た国木田は必要なかったみたいだ。

 

 

「あぁ、悪いな。俺は一から三までの数字が嫌いなんだ」

 

 

 どうしてなのか。俺も分からない。脚本はノリ重視だから。というか、ノリだけだから。考察する必要もない。悪いな○び太、これノリを楽しむやつなんだ。雰囲気とかテーマとか、そんなもの気にすることないんだ。

 

 

「四百ドルから頂くぜ」

 

 

 退場するも、終盤で何故か復活するマスター役の谷口が懸賞金から差っ引いた。この映画、退場するも復活しまくる。似た感じのそっくりさんではなく、本人としてだ。どういうことなんだ。俺も分からないんだよ。

 

 

「シャドー、依頼を頼みに来た」

 

「分かった。報酬は? 四四四ドル以上でないと受けないよ」

 

 

 訳ありな旅人的な感じの長門と朝比奈先輩がやってきた。これは中盤の所だった気がするが、もうごちゃまぜにするんだろうか。

 

 

「お、お金は好きなだけあげます! だから、どうか依頼を達成してください!!」

 

 

 身長的に妹役の朝比奈先輩が、旅人コートを脱ぎ去って叫ぶ。お嬢様風な衣装だ。人のこと言えないけれども、声がふにゃふにゃでなんともいえない。

 

 

「好きなだけ、か。オ〇ナミンCを百年分買えるほど?」

 

「陽子の寿命分ぐらい買えます!!」

 

 

 どれくらいの年月なんだろう。そもそも陽子ってなんだったっけ? とにかく百年以上分買えるぐらいということなんだろう。

 

 

「前金」

 

 

 そう言って、長門がでかいビンを何処からか差し出してくる。台詞の流れからしてオ○ナミンCが入っているんだ。この一升瓶ぐらいのやつの中に。

 別の商品だけども○イン・コスギのように蓋を開けて飲む。あのCMも実際は先に開封済みのをいい感じに撮影した後、編集してできたものらしい。ハンドパワーないと無理だから、しょうがない。

 

 

「……ふぅ。いいよ、受けよう。期限は?」

 

 

 実際にオ〇ナミンCではなく、同じような色をつけた液体を四、五割ビンに残して、いい感じに顔を乱暴に拭って笑う。一升瓶に並々と液体が入っているわけではなく、外に塗料を塗っていっぱい入ってますよ感を出しているだけで、本当は全然ない。

 

 

「SLが銀河を走るまで」

 

「OK、気が長いのはいいことだ。パンを寝かせてあげる時間もないのは大変だからね」

 

 

 俺は、朝シリアル派なんだけどね。SOS団のは俺を含めると、パンが四で、ご飯が一、シリアルも同じくだった。なんでよ、アレンジすれば蒸しパンとかできるのに。

 

 

「それじゃ、依頼というのを聞かせてもらおうか」

 

 

 なんとか様になるような動きをしながら尋ねる。予定通りに、もう効果はないだろうボロボロの腕章を一つになるように見せつけて、長門と朝比奈先輩が同時に口を開ける。

 

 

「これの持ち主だった男を撃ち堕として下さい」

 

 

 朝比奈先輩は色々限界で目がウルウル、長門はいつも通り静かにした眼差し。どちらも同じくらい頑張っていることが分かる。朝比奈先輩は顔にも出ているし、長門はなにがなんでも無であろうとしているから。俺だけフワフワしている。

 

 腕章を散らばらないように受け取って、悪そうなにやけ顔をなんとか作りこのシーンの最後の台詞を吐き出す。

 

 

「いいとも……もちろんっ、いいとも!!」

 

 

 台詞が終わった後に、これまた悪そうな笑い声をあげる。カット、という言葉を早く。頑張って笑ってるんだから、はやく。頑張って笑うのって大変なんだから、早くしてくれよ。

 

 三分ほど笑い声を出させられた。途中からもう笑い声でなく、変なよく分からないものになっても止めてくれなかったんだ。おろおろしっぱなしになった朝比奈先輩を筆頭に、ハルヒの機嫌が下ってしまったのかと恐々していたみたいだけど、ただ単にあれがいい感じになるからと考えてただけのみたいだ。

 

 幼馴染のお財布に俺もお世話になるのは当たり前だろう。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「シャドー、マジで助かった。だけど、今度千円だけ貸してくれ」

 

 

 撮影が終わって幼馴染の財布が哀しくなった後、いつものように幼馴染の家でぐだぐだしていると、また感謝の言葉とともに土下座された。

 

 

「いいけど。○太郎のクリアしたら+で千五百円ぐらい貸してあげるよ」

 

 

 追加として、コンビニで新しいスナック菓子を買ってもらっている。ポテチにチョコをコーティングしたやつだ。ネタで買ったが、正直後悔している。求めてない味で、一口でもう止めたくなったんだ。幼馴染も同じだ。どうにかこの買ったやつ、今すぐ夜空ノムコウに行ってくれないだろうか。でも、食べ物を粗末にするなと教えられているので、悲しみの気持ちまみれの二人で食べているんだ。求めていない味が、まだたくさんあって悲しみが幾重にもなっていく。内容量が八〇gって全然減らないんだ、知らんかった。

 

 

「さんきゅー、持つべきものは幼馴染だな。で、どのやつだ? w〇i? プレ〇テ?」

 

「んー、とぉ……」

 

 

 手を拭いて、ゲームの箱を漁る。壊れてしまうほど乱暴には探さない。それは幼馴染も分かっている。小さい頃、幼馴染の家に置いていったアレをゲーム機とともに探す。ファミコンのはもっと下だったけかな。

 

 

「あったあった。これ、やって」

 

 

 黄ばんだファミコンに緑色のカセットを。ちょっと起動しないので、再起動させまくったり、抜き差ししてはカセットに息を吹きかけたりを四回ほどやって画面に昔見慣れたものが。俺の方のお父さんに泣きついて頑張ってもらったけど、お父さんは雫が落ちてくるステージからクリアできなかったんだ。お母さんにもおやつ我慢するからってやってもらったけど、同じ。あの頃の幼馴染も巻き込んだけど二、三ステージはクリアしたような気がする。

 

 

「ぇえぇ、まじか……?」

 

「助けてくれよ、幼馴染の──くん。どうしてもこのエンディング見ないと、夜しか寝れなくなるんだ」

 

「正常だろうが、それは」

 

 

 とりあえず一ステージを試しに俺がやってみる。コントローラーのチェックだ。○太郎の動きが相変わらず分からん。人魂集めに夢中で回避をミスって終わった。だいぶ前の記憶を思い返してみても、こんな感じの動きのゲームだったと思う。あの頃よりは色々索敵能力が上がったとも思う。人魂も敵だと思って逃げ続けてたなぁ。その所為か知らないけど次のステージ行ったことない。

 

 

「──、コントローラーまだ生きてるよ。じゃ、よろしく」

 

「うわー……、まじかぁ」

 

 

 小銭の存在すら怪しい薄い財布のために我が幼馴染は、コントローラーを手にしてくれた。

 

 最初の二分ぐらいミスりまくっていたけど、何度もミスるが意外と進んでいっていく。扉でハズレを選んだときボスを倒すこともあれば、リセットしたりもしてなんとか。微妙に滑るんだよなぁ、○太郎。リモコン下駄の裏にローションでも塗っちゃったんだろうか。

 

 

「滑るなぁ」

 

「めっちゃ滑る。ぬるぬるじゃなくてツルツルしないでくれよ」

 

「これコンティニューありだっけ?」

 

「ファミコンソフトだったろ、たしか。絶対ない。そんなシステムいれるリソースなんてないに決まってる」

 

 

 奇をてらわなかった炭酸飲料を飲む。このばりばり人工甘味料感がたまらない。おいしいものは悪い子になるように作られているんだろう。

 

 

「んぁ?」

 

「あー、どした」

 

 

 何度目かのリセットの後、携帯のバイブが尻ポケットから伝わってくる。メール用に設定した方の振動パターンだ。今は幼馴染の健闘を見守りたいから、無視することにした。

 

 

「メールだと思う。いいよ、続けて」

 

「はぁっ!? ほんっと、おまっ、え、さぁ! ホントしっかり立てよ! 地に足付けろっ、あぁぁあ!!」

 

 

 ○ックマンの雲ステージによく似た感じの画面で、また○太郎が墜落しまくっていく。リモコン下駄からリモコンローラースケートに履き替えたんだろうか。エア○アとか読んだのかな。幼馴染は滑り落ちていく○太郎とともに、頑張っている。

 

 ところで、実は俺の尻が携帯のバイブでかゆい。めっちゃメールが来てるみたいだ。オカズ探しには携帯使ってないんだけど。

 

 

「ちょっとメール来てるっぽいから、確認するわ」

 

「あぁ、俺も一旦休む」

 

 

 同じような炭酸飲料をガブガブ飲んでいる幼馴染の健闘を称えるために、チョコポテチを幼馴染側に寄せておく。糖分補給出来ていいだろう。

 

 

「誰?」

 

 

 ポチポチとボタンを押して受信一覧を見ると、案の定迷惑メールのみたいだ。親による設定で、変な業者から登録していないやつらのは全部シャットアウトされるはずなのに、同じ名前の人から大量に来ている。“太陽系医療団TOMAS”。……何処で、なにこれ? ある程度読み取れたのはこんな謎名称。ところどころ文字が読み取れない。文字がちゃんと入力されているはずなのに、俺にはひらがなでも漢字でもなく、かといってキリル文字とか英字とかでもないし、ヒエログリフ的なものとも認識ができない。視力検査で一番大きいのすら見えないの人の視界ってこんななんだろうか。

 

 

「あ~?」

 

 

 変な声を出して開封もせず画面を見てみるが、どんどん文字が読み取れなくなっていく。そして、未読の数が二〇以上あったものがどんどん数字とともに減っていく。携帯会社の人がお仕事してくれているんだろうか。

 

 

「どうしたんだよ、シャドー?」

 

「わからん。多分迷惑メール」

 

「お前、設定されたままじゃなかったっけ?」

 

「そうなんだけどね。携帯会社さんがポカしたんじゃない」

 

 

 幼馴染と話している間にも未読数が減っていく。一個も開封はしていない。なんだったんだ。尻ポケットにしまいなおす。

 

 炭酸飲料をもう少し飲んでおく。キャップをきつく締めすぎたようで、開けるのにしばし苦労した。

 

 

「シャドーくん、いるー?」

 

 

 ノックなんて知らない幼馴染の妹ちゃんが、大きい音を出しながらやってきた。そして、いつものように突撃してくる。

 

 

「あぁ、ちょっとまって」

「いた~~~!!!」

 

 

 キャップが開いたとの同時の上半身に衝撃。辛いことだけど、幼馴染より十㎝ほど低い俺の体躯は同じように色々コンパクト。耐衝撃力も大きさに釣り合うだけだ。

 

 

「こら、バカっ!!」

 

 

 慌てて兄の方の幼馴染が動く。飲料がかからないよう抑えてくれた。俺は妹方の幼馴染のタックルを上手く分散しようと、手を後ろについた。

 

 そして、バキッ、と何か壊れた嫌な音が。俺の尻の方からだと思われる。携帯の入っている方の。

 

 兄側が妹をまたも慌てて持ち上げる。俺はほぼ冷静な心境で身を起こし、尻ポケットから文明の利器を抜き取った。折りたたまれたそれを見回すと傷的なものはない。折りたたみできるところだろうか、それともアンテナだろうかと確認してもヒビもない。なら、画面か、よくてキータッチ部分か。冷静さはもはやランナーズハイと同じものだった。すべてが他人事のみたいだったんだ。

 

 静かに開ける。空けた同時にポキリとはしない。起動したままの画面、いつものように少し薄汚れ。酷使しているキー、微妙に謎のカスがちらほら。軽く見て、新規メールとして適当にポチポチ。軽くや少し強めのタッチにも綺麗に答える文字キー。スクロールも安心。

 

 

「だいじょぶー?」

 

「うん、大丈夫みたい」

 

 

 どうせ駄目だったら、新しいのを強請れる、という冷静に成りきった俺は妹ちゃんの言葉に穏やかに返せた。

 

 

「ごめんな、シャドー。まじでごめん」

 

「いいよいいよ」

 

「ダメそうだったら言ってくれ。親に前借してでもなんとかする」

 

「お札の代わりにレシートまみれのお前に、そんなことはしないよ」

 

 

 兄の様子に妹ちゃんの方も申し訳なささに小さくなってしまった。

 

 

「それより〇太郎の残機増やしとこう」

 

「あ、あぁ」

 

「二五〇ぐらい」

 

「……怒ってるな?」

 

「いや?」

 

 

 しょげってしまった幼馴染の兄妹に、慰めのお菓子を渡す。少し厚めに切られたじゃがいもに、甘みを持たせたチョコをコーティングさせたものを。食べてくれた。全部食べさせた。

 

 妹ちゃんの方を構いながらだったが、緑のファミコンカセットゲームでの豆知識を発見した。二五〇以上残機を増やすと、バグる。気が向いたら〇ザップに載せておこうと思う。

 

 壊れていないと信じたい携帯の画面を無視したかったんだ。

 

 “処理”という二文字だけ読み取れた画面。あとを読み取る前に滲んで読めなくなり、自動的に消された。

 

 ハルヒに関わっていなければ、なんとかしようと動いたんだろうが。もうこのような現象を起こされた場合、流れに乗りつつその場その場で何とかしないといけないことは身に染みている。

 

 やはり、謎おやつを衝動買いするしかない。

 

 

 

 ◆

 

 

 一六ステージあるらしいが、指や気力がつきかけた幼馴染のギブアップによりボーナスは幻想に消えたんだ。

 明日もなんだかんだ用事があるので、徹夜はダメだろう。一六〇代からステップアップするためにも徹夜はダメだ。骨の成長に貢献するため、寝る前にストレッチをしておく。利くと信じて毎日行っているんだ、我が幼馴染に身長を抜かされてからずっと。

 

 いい感じに解れてきたところでメールが来たみたいだ。もうすでにどうとでもなるさという意識があるので、臆さずメールを宛名も見ずに開封する。いつものように兄の携帯を借りて送ってきているのか、というのとは違った。流石に遠慮したんだろう。

 

 最近再会した佐々木だった。

 

 回りくどい話し方と同様なメール文。要約すれば、今日俺たち商店街らへんで見かけたけど何してたの、というもの。

 簡素な文だけ送ると全力長文で返されるので、なるべく文字数が多くなるよう、そしてある程度情報を受け取りやすいような文を考える。勝手に色々考え込みたがる佐々木なので、メール一つでも大変だ。

 

 商店街で潰れること確定のミニシアターの人たちの話を、喫茶店で盗み聞いた探索終了後だったハルヒと俺達SOS団。彼女らが盛り上がった末に、最後の一花咲かせようということで自主映画を作成することに。映画はノリ重視の、西部っぽいなにか。なんか色々運んでたりしてたのは小道具とか応援してくれる人たちの。とりあえず、映画の進捗はいい感じ。派手さが全面的に出るやつだから、編集してくれる人のお力で威力が凄そう。

 

 というのを、佐々木とのそれなりな付き合いで培った能力を駆使して打ち込む。長文を打ち込むのはやっぱり慣れない。妹ちゃんや他のSOS団や鶴屋先輩、友人たちとは五行以上のフルパワーな文など送らないんだから。極稀にハルヒ警告兼予報などで喜緑先輩とやり取りもするが、五行未満がほとんど。予測変換なども用いているが、○太郎と戦った幼馴染のように親指が痛くなってきている。

 

 何とか出来上がった内容を送る。待機時間だ。佐々木は、単語一つ、例えば”ごはん”という言葉を送っただけでも、色々勝手に考え込んで長文メールを送ってくる。体を小さくされた時のためか推理や考察、哲学の道に進みたいのか謎概念、不思議理論を色々混ぜての疲れるものを。ある日、返信を待たず眠りについて後で穏便に済むようなメールを送ったが、佐々木は怒っていることを簡素なメールで何度も送ってくる。“バカ”とか”キライ”とか”リンゴ”とか。リンゴはおいしいから、悪口ではないか。こんな単語を十分以上送り続けてくる。そのあと、いつものように長文メールが来るんだ。

 それで、面と向かって会った時、頭を押される。縮むように。伸びることがないように。固定させようとしてくる。同じぐらいの身長だから力が込めやすいみたいだ。

 

 そんなことされたくない気持ちがいっぱいっぱいで、なんとか待機。内蔵されている時計の表示はゴールデンタイムの最中。明日起きたら二〇㎝ぐらい伸びないかな。宿題なんかはいつも適当にやっているので、問題ない。教科書を忘れてしまったなら、幼馴染のところにでも借りればいいし。体操服は、プライドを生贄にして同じように借りる。とても余裕がある体操服だ。半袖のはずなのに半袖ではなくなるくらい余裕で、短パンなんかも同じ。幼馴染より体を動かしているのに何故だろう。

 

 お母さんが自分のために買って三ページぐらい読んだ後、二度と触らなくなったヨガの本を眺める。上級者向けは宇宙の真理に辿り着けそうなポーズだ。聖者カウンディニャって何者なんだろう。このポーズしながら哲学していたんだろうか。できるかどうかならできるんだろうな、と自分なりのイメージを作っていると受信したみたいだ。

 

 みっしり八行以上のメールを要約すると、パニック系映画って至高の娯楽だよね、だった。

 

 原点にして頂点のことではなく、B級ら辺の作品的な娯楽感。創造力というものは無限可能性を引き出してしまうということを、この世に知らしめてくれる作品達だ。いつか、雨粒がすべてラッコになって大混乱するような素敵な作品作りそう。水問題とかほっといて、インパクト全ブリの素敵なB級が。人間って一体なんなんだ? 

 

 B級以降の映画のように不整脈を発生させるようなトキメキが起こせるか分からないけれども、元本職がいるから編集パワーを信じてくれ。来てくれれば全力で巻き込むけど、いつでも遊びに来てよ。

 

 を、また小難しく胡乱な文にして送る。

 

 そうして、子供の頃買ってもらった生き物図鑑を手に取り、類人猿辺りを探す。そこで知ったことは、ゴリラはやっぱり森の賢者でチンパンジーはやはり畜生ということ。ゴリラさん繊細過ぎてすぐ鬱になるんだね。ドラミングも挑発じゃないんだ。平和宣言してくれるなんて素敵だ、そのパワーで太い木なんかも殴り倒せるのに。

 

 そんなことを考えていると、今度は早かった。佐々木のことだから流し読みなんてことをせず、しなくていい律儀さで無駄に推察してはそれを押し進んでくるはずなのに。

 

 明日行く、という一文のみ。ハルヒと仲良くしたいんだものな、たしか。そりゃ色々知りたがり考えたがりの佐々木には行動あるのみなんだろう。待ち合わせして行こう、というモノと。明日が待ち遠しいから寝る、おやすみ、というのを打ち込んで送る。

 

 携帯を充電させつつ、ベッドへ。今日は半ドンだったから色々気が抜けたけれども、明日は休日。フル稼働だ、全員が。もういいや、という気持ちになってしまい目を瞑った。

 

 なにかがグニャグニャしていくような感覚を朧げに感じつつも、無視して眠りにつく。

 

 明日がいい日になりますように、といつものように願って意識を手放した。

 

 

 ◆

 

 

 

 アラームいらずの起床。朝四時ごろだ。寝巻用のTシャツと短パンから、ジャージに着替える。顔を洗ってうがいの後、水で薄めたスポーツドリンクを飲んだ。そして、軽く体を整えてランニング。タイマーウォッチの三〇分が経つまで走る。経った後はまたセットしなおし、少しペースを上げて家まで戻る。昔からやっていることだ。

 頭まで響いていく足からの振動は楽しくなる。耳に入る俺の音、鳥の鳴き声、そして普段は気にもしない日常の音も楽しくさせる。においも毎日違うんだ。木や植木鉢に咲いている花の香は季節で色々と楽しくさせる一つ。目に映るのもそうだ。金曜日の次の日あたりは、サングラスなんかして誤魔化したいものもあるけれど、日常というものは不変ではないということを教えてくれる。

 

 楽しいのはどこまであるんだろう、といつもワクワクしながら雨だろうと走っているんだ。

 

 途方もない楽しみを無意識に探していたからだろうか。飲んだくれをまた発見してしまうのは。

 

 困った人がいるならなるべく助けなさい、と色んな人に教え込まれているので、近寄ってうつ伏せから横向きにする。全身コートで覆われた飲んだくれさんが、息をしていることを確認する。胸が動いているのでしているはず。顔は認識できない。こういうのはハルヒが求めているのであって、俺ではないのに。フードの中にあるはずの顔は目や鼻、口が確認できずただ真っ黒だった。あぁ、あんころもち食べたいなぁ。

 

 

「もしもし、大丈夫ですか? 起きれますか?」

 

 

 放置という選択肢は、ハルヒのパワーを思い知らされる身として無し。もう、なんでもいいという心地なんだ。

 叩くたび感触が違う肩と思われる部分に、その心地が脳を支配していく。鉄みたいに硬くなったり、スライムみたいなぶにょぶにょ感とか感じる肩ってなんなんだろう。

 

 起きたのか、少し痛いぐらいの強さで俺の腕を掴んだ。

 

 

「+++++++++++」(医療を行使します)

 

「日本語でお願いします」

 

「++、+……。お疲れ様です」

 

「お疲れさまです」

 

 

 謎言語から日本語に変えてくれたその人。真っ黒な顔のある部分に顔文字が浮かぶ。どんな可愛らしいものが浮かぼうとも、可愛いとはもう思えなくなりそうだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 不思議な感触は他の部位もそうだ。起き上がろうとしているので、背中と思われる部分を支える。

 

 

「はい。わたしは大丈夫です。失礼します」

 

 

 そう言って、その人は立ち去るみたいだ。立ち上がれば大丈夫なようで、しっかりした足取り。でも、影が見えなくなるまでは見守ろうと思う。倒れそうになったら大変だから。逃げるという選択肢はない。

 

 四、五メートルほど離れた距離で立ち止まったその人は、俺の方へ振り返った。

 

 

「アナタが宿主ではないのですね」

 

 

 その言葉に反応する前に、消えた。瞬きする前に消えていたんだ。

 

 全力疾走する。ランナーズハイ狙いだ。頭を麻痺させないと、心が麻痺るだろうから。

 

 

 午前五時になる前に息を切らせ汗だくで疲れ切った。頭は色々楽しくなっている。冷たすぎないシャワーで汗を流したあと、冷水で更に頭から楽しくさせる。集合時間が七時だったはずだから、その時間帯ではいい感じの楽しい具合になっているだろう。

 

 部屋に戻って携帯のランプが光っていることに気づいた。穏やかすぎる心でメールを確認する。

 

 佐々木と、鶴屋先輩。それに喜緑先輩だ。

 

 佐々木は俺との待ち合わせ場所と時間の確認。鶴屋先輩は今日暇だから見学に行くとのこと。

 

 喜緑先輩は、頑張りましょう、という一文。

 

 それぞれに返信を返す。俺の知り合いならこの時間帯から俺が活動中なのを知っているので、迷惑になんて思うことなどお互いにない。それに、この三人と妹ちゃんは即返信してほしいタイプだからした方がいい。ハルヒは意外に待てるし、長門も朝比奈先輩もその日に返せば大丈夫。幼馴染は直接話せばいいんだ。妹ちゃんはメールもしたいみたいだけれど。古泉達のような男友達はあんまりメールなんかしない。古泉は呼び出しだし。

 

 三人に送り終わった後は、頭が冷めないようにタクティカルブリージングとやらをする。軍事オタクの親戚に教えてもらった呼吸法だ。四秒間隔で呼吸と静止を繰り返す。

 もう戦闘モードでいないとダメなはずだ。喜緑先輩の一文が、緊張を強いる。いつもならもっと詳細を書いてくるというのに、アレだけだった。つまり、色々と余裕がない。

 

 鳥の鳴き声が聞こえず、代わりにメールの受信をつげるバイブ音が。

 

 佐々木ではない。あいつは準備に大変だろうから返事などしてこないだろう。鶴屋先輩でもない。俺のメールには返信が欲しいなんてことを書いてないので送らないはず。喜緑先輩なわけない。対応に追われてメールなんてしてられないんだから。

 

 相手は、妹ちゃんだ。幼馴染の携帯をこんな朝から盗み取ったんだ。一か月に四回あるかないかレベルのレアイベント。内容はおはようの挨拶と、昨日はごめんなさいと、今日遊びに行くね、という穏やかな気持ちにさせてしまうもの。返事は挨拶と、気にしていないこと、お兄ちゃんが寝坊しないよう起こしてね、あとちゃんと返しておくんだよ、と。こっそりしていても、履歴でバレている。怒られているんだけど、妹ちゃんに甘い幼馴染は、結局貸す。幼馴染のお母さんに叱られそうになっても、かばうあたりやっぱりシスコンだ。

 

 送った後、本日の戦闘着という芋すぎない且つ圧力を与えない程度の服に着替える。小型でフツメンだけど、服ぐらい気を遣う。それに、たまにゲームみたいになんか付与されていたりすることもある。防御力三↑とか。長門たち宇宙人の仕業でも、朝比奈さん含む未来人の方の措置でもないし、古泉のような超能力者らの前払いなんかでもない。アレですよ、星座からのパワーなんだよ。このような些細なこと気にする必要はないから。他にも色々持っていくものを用意する。謎加護もあるだろうからだ。

 ファッションはあまり拘らない。というか拘れない。だって、体に合わせるのが難しいから。いくら小型だろうとそれなりに筋肉がついているので、見た目的に合いそうなものは入らない。かといって丈が余ることもあるので大変だ。チェックは基本朝比奈先輩だ。未来と現代では感性などまるで違うだろうというのに、いい具合にして下さるので大変助かっている。

 

 イチゴ牛乳でシリアルがふにゃふにゃするまで待ってから、全部胃に入れる。時間は六時と四分の一ほど。歯を磨いたあと、行ってきますの声と同時に外へ出た。

 

 遅刻しない程度の早さで歩いて、待ち合わせ場所の北高へ

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 俺が北高の校門前でボーっとする間もなく、予定より早めに佐々木はやってきた。ここまで来るのに弄っていた携帯をしまう。無駄だったんだろう。

 

 

「おーす、佐々木」

 

「やぁ、シャドー」

 

 

 佐々木団の一員もいるかもと思ったのにいなかった。校舎の方にすでにいるなんてことしているんだろうか。

 

 

「安心してくれ、僕一人さ」

 

「そうなの」

 

 

 坂で疲れたからだろう。少し呼吸が荒い。ここまで来る途中の自販機で買った飲み物を渡した。

 

 

「ふふ、流石だねシャドー。でも、この選択は少しアレだね。君の味覚は相変わらず鋭敏すぎるみたいだ。年を取るごとに鈍感になっていくというのに、このような甘味の元という飲み物をわざわざ選んでくるのは、君自身の味覚の好みからなんだろう。あぁ、誤解しないでくれ。けっして君のことを貶しているわけではないんだ。栄養補給として買ってきたものは無駄にならなそうだと思っただけだよ」

 

「佐々木の味覚に合うと良いね。ほら、甘いっていいものだろう、特に女の子にとってはさ。マヨラーみたいに、生クリームを甘い物に何でもかんでもかけまくるんだから」

 

「いっぱいかけたものをたくさん食べるために女子というものは切磋琢磨しているさ。そうとも、甘味というものは素敵なもの。だけれどね、シャドー。甘味は地獄も見せるものさ。……これ以上は言わなくてもいいだろう、君なら察してくれるだろうからね」

 

「さ、イッキイッキ」

 

「……あぁ」

 

 

 選んだわけじゃなく当たったのが佐々木に渡したやつなだけ。一八〇mlぐらいなのにカロリーが倍以上なのよく分かんないね。

 

 

「……ふぅ。ところで、コレしかなかったのかい? 君のことだから、他の人用に買っていたりするんだろう」

 

「佐々木にあげようと思ってたから、他はないかな」

 

「……なるほどね。気まぐれ、ということにしておこうか」

 

 

 先に買ったやつは俺がその場で飲んだからない。

 

 

「僕と君の集合場所はここみたいだけど、他の人は違うのかい?」

 

「ここ集合でやるからおんなじ。佐々木が心構えしとけるように早めにしといた」

 

「僕はそんなに緊張しいではないんだけど」

 

「佐々木は考えといて喋るタイプだから、色々策でも練ってればいいんじゃないかなーって」

 

「君がよく食べていたあの駄菓子のようにかい?」

 

「よく覚えてんね。塾ぐらいでしか接点なかったんに」

 

「そりゃ覚えるさ。いつもいつも授業が始まる前に四個も平らげていたんだから」

 

 

 クラス違ったような、と思いつつ適当に話す。俺と話している間も、色々俺やハルヒたちへの策を練っているだろう佐々木。俺はそんな大変で面倒なことはできないので、その場その場で話すしかない。同じように神の力を持つハルヒは、もっと気を抜いてうまい具合にパワーを持つ言葉を選ぶ。でも、佐々木はまったく気を抜かず程よい加減に抑えての言葉選び。なんだかんだ対処はどっちも面倒くさいんだよね。

 

 

「おっすー、皆」

 

 

 七時近くには見慣れた姿が目に入る。ハルヒ以外のSOS団+鶴屋先輩+妹ちゃんと、なんと喜緑先輩まで一緒に。

 

 

「涼宮さんは先にですか?」

 

 

 固めの古泉の声に、たぶんと答えるしかない。連絡はあの六時以降誰にもつけられなかったんだ。確認しようにも、校門から先に入れない。

 

 

「シャドーくん、キョンくん起こせたよー!」

 

「はっはー、妹ちゃんの声なら気持ちよく起きられるね」

 

 

 詳しく話し合いたいけれど、妹ちゃんと鶴屋先輩の前では難しいはず。長門と喜緑先輩の二人は何かしら意思疎通なんなりしているはずだろうが、こちらが察せるほどに明るい良い物はない。朝比奈先輩は坂で草臥れているせいもあるけれど、いい手を使えるようではないことは声をまだ出さないからわかる。

 

 

「今日のゲストは、更になーんと佐々木。みんな仲良くしてあげてねー」

 

 

 それとともに適当に女子達の中に放り込む。朝比奈先輩の気分を落ち着けるために、ちょっとした刺激が必要だろう。佐々木もそわそわして色々気にしていたんだから同じように。

 

 そして。

 

 

「シャドー」

 

 

 妹ちゃんから離れた幼馴染の切羽詰まった様子をなんとかしとかないと。古泉が何とかフォローしておいたおかげで、ここまで落ち着けたんだろうから。

 

 

「あいつと連絡できたか?」

 

「無理だった。登録してあるアドレス全部に送ろうとしてもエラー。通話も出来ない感じ。ネットは動くけど文字化けしてくんだよね」

 

「僕の方も同じですね。色々連携が取れなくなっているようです。テレビも全て砂嵐ですしね」

 

「バスも時間帯に来てねぇ。車もだ。北高に近づいたら鳥の鳴き声もしないんだよ」

 

「長門たちは?」

 

「色々妨害されてるらしい。なのに、ここまでなにがなんでも来させるようなことすんだ」

 

 

 苛立ちと心配を混ぜ込んだ幼馴染を気にしながら男たちで話を詰めておく。世界がグニャグニャしていくのを肌で感じる。そんなふうに混乱を感じさせるのに、すぐに違和感を打ち消して大人しくさせてくる。女の子たちを軽く見ておくが、表向きは和やかな様子。うまい具合に誤魔化しているんだろう。

 

 長門が動かないことから、まだ校内には入れないんだろう。とりあえず、俺たち自身が落ち着いておく必要がある。

 

 話して理解を深めよう。

 

 

 ◆

 

 

 早速、色々と情報を整理していく。

 

 まず、徐々に空間が閉じていっていること。閉鎖空間という形ではなく、余剰次元を切り取ってという形。

 二つめ、空間が閉じるにしたがって、物質構成やらが変化していること。俺たちが何かしら誰かと通信できないのも、これにより通信についてのも再構成やら何やらされている。

 三つめ、何かの影響は受けているが、間違いなくハルヒの力なこと。能力の質やら癖やらをよく知っている長門や朝比奈先輩、古泉らが断定している。

 

 大まかにまとめると、この三つが重要なことだろう。ハルヒが無意識でやったというには毒がありすぎる。映画や漫画の影響でというのもありえない。夢見がちだけど現実をよく見ているのが、ハルヒだ。一般人枠の俺と幼馴染が、ハルヒは迷惑をかける子だけれど、悪い気持ちで迷惑なんてかけたことはないと宣誓しよう。尚更性質が悪いこともあるが、普通にいい子だから、涼宮ハルヒという少女は。

 

 ため息とともに頭をガシガシとかく幼馴染。遠慮なくその様子を出せるのは長門達が何やらカモフラでもしてくれているんだろう。

 

 

「くっそ、あいつ、なにやってんだよ……」

 

「考えられる悪い方向は何があると思う、古泉?」

 

「僕の方の敵対組織から数えれば両手でも数えきれませんね」

 

「ハルヒにセキュリティあるんでしょ?」

 

「涼宮さんだけでもありますし、他の方でのもありますね」

 

「それならなんだ。やっぱりこれはあいつがしでかしたってのか?」

 

 

 爆発寸前の幼馴染の前に手を差し出しておく。遠慮なく俺の腕をつかむが気にしない。この程度の握力じゃ骨を握り潰すなんてできっこないんだから。

 

 

「ハルヒがやったというならそうなんだろうね」

 

「っつ!?」

 

 

 俺の方に前進して両腕を掴まれる。幼馴染のどうしようもないエネルギー。痛む顔なんて見せてやらない。団長様から頂いた特攻隊長という役職は、仲間をいたぶるものなんかじゃないから。十秒間ぐらい、そのまま。落ち着こうとする幼馴染を阻止する。

 

 

「お前はハルヒをよく見てる。どれほどのものか一番身に染みてる。受け入れよう、これはハルヒがやったんだ」

 

 

 いくらでも圧迫される。痛いという言葉を出せるだろう威力。たまに通わされている格闘ジムで鍛えてしまった俺の精神が、それを沈黙させる。

 

 

「ハルヒがやった」

 

 

 幼馴染が俺から視線を外す。そして、圧迫が圧殺になるのかもしれない具合。ほどほどに落ち着ける段階になったはずだ。古泉に目を向ける。頃合いを見計らう古泉は空気読みの達人だから、大丈夫。

 

 

「ですが、涼宮さん自身の故意なものということは、決してないでしょう」

 

 

 力は変わらないが、構わない。古泉に任せる。

 

 

「何かしら接触するものがいるのは確かです」

 

 

 幼馴染の肩を軽く抱く。様になるのが古泉だ。

 

 

「涼宮さんがあなたに何をお望みかお分かりですか?」

 

「……あいつが何望んでんのか分からん」

 

 

 落ち着いてきた幼馴染の声。力も少しずつ抜ける。

 

 

「あいつの日常にいるのが当たり前すぎてわかんねぇ」

 

「自分に当て代えてくれよ、幼馴染くん」

 

 

 気まずげに俺と視線を合わす。

 

 

「──は、ハルヒとの日常を、どうしたい?」

 

「……また過ごしてやってもいい」

 

 

 男のツンデレなんて誰も得しないっていうのに。お野菜人王子のようによく分かんない層の餌食になるぞ。

 

 

「というわけ、ね。向こうもいい感じみたいだ、行こう」

 

「シャドー、わりぃ。古泉も」

 

「気にしていませんよ」

 

 

 なんだかんだ体育会系のノリも持っている古泉とともに幼馴染の背中をたたいておく。焦ることのない自分に違和感を覚える暇もないよ、まったく。

 

 

「行けるか?」

 

 

 幼馴染の言葉とともに校門から先へ侵入を試みる。すんなり進む。変な抵抗感もなく、いつも通りに校門をくぐれた。武力的な問題で長門と喜緑先輩が最前と最後を務めてくれる。

 

 ハッキングで何かしらの反応があったところへはある程度の人数が別れる感じ。すぐに脱出できるように、妹ちゃんと鶴屋先輩、護衛役として喜緑先輩、なんかのための佐々木は校庭で待機。ハルヒ除くSOS団はそこへ。

 

 

「シャドーくん!」

 

「はい、どうしましたか、鶴屋先輩」

 

 

 いつものように元気な様子。校舎に入る直前での声掛けだった。

 

 

「ハルにゃんのためだけだとダメな感じニョロ」

 

「はい」

 

「何かしら斬り捨てる覚悟をした方がいいニョロかもねー」

 

 

 妹ちゃんが鶴屋先輩を呼んでいるみたいだ。軽く手を振りそちらに向かおうとする鶴屋先輩を見送ろう。

 

 

「でもでも」

 

 

 顔だけ俺の方へ向いて、素敵なウインクを。

 

 

「シャドーくんは選び取る覚悟の方が必要ッさ!!」

 

 

 そう言って、去っていく。その先、喜緑さんの優しい微笑を視界に収めて、俺も校舎に入っていく。

 

 気合十分な俺たちは選び取ることしか頭にない。

 

 迷わず進んでいって、必ずつかみ取ってやるんだから。

 

 

 

 

 c

 

 

「保健室、か」

 

 

 幼馴染が件の扉の前で唸る。SOS団がお世話になったことはないはずの場所。見た目はいつも通りなんだと思う。保健委員でもないので、よく覚えてないんだ。

 

 長門が扉に手をかける。そして俺たち全員に目配せした五秒後に、開けた。

 

 

「おはようございます、みなさん」

 

 

 朝の顔文字がいた。よく分からない装置に入ったハルヒの隣に。

 

 長門の強襲。喜緑先輩に色々解除してもらっているから、頼もしさが十乗ぐらいされている。が、顔文字は空間に指一本触れただけで、攻撃を無力化してきた。何かのスイッチがすでに設置されていたんだろう。長門が色々試みているというのに、なにも出来ないし何もしてこない。冷静さがなくなった幼馴染を古泉とともに抑え込みながら、ハルヒの方を見る。幼馴染と朝比奈先輩の声にもハルヒは反応しない。SFに出てくるコールドスリープなんてやつでもされているのか。

 

 

「どうか冷静に話を聞いて頂けませんか」

 

 

 顔文字が淡々と煽り文句を言う。本気でお話がしたいなら、ハルヒを無事に解放してからにしてほしいものだ。

 

 

「彼女の容態について、お話させて頂けませんか」

 

「てめぇ、ハルヒになにしやがったっ!!」

 

「彼女にはあるものが寄生しているのです」

 

 

 幼馴染に怒鳴られようとも気になんかせず、また空間に触れた顔文字。そして、よくわからん画像が視界に入ってくる。一人称視点のゲーム画面のように。

 

 

「彼女のデータです。ワタシの部署の仕事ではないので、彼女の力についてはどうでもよいのです。地球人の女性として血液など検査しましたが基本的に健康基準値内ですね。心臓や肺の音も綺麗でしたし、水晶体や硝子体なども大丈夫です。胃や腸も荒れていたりしませんね。特に基礎疾患もなく、健康そのものでしょう」

 

 

 画像と文字と数字をよく確認させられる。色々プライバシーを踏み荒らすようなことをしていやがる。

 

 

「ですが、好中球といった白血球の値が高いのが分かりますね。ここが高いと炎症が起きている状態なのが分かります。続いて、脳波をみて頂きます。覚醒状態ではないのでα派は減少しています。丘派が項の五〇%を占めているので深睡眠期といって良いでしょう。ですが、高β派も確認できます。脳がよく動いているようですね」

 

 

 よく分からないグニャグニャしまっくている線を見せられた。

 

 

「寝ているし起きてもいる状態です。複雑なことでも考えているのかもしれませんね。もっと解析してみるべきなのですが壊れてしまうと面倒ですので、控えておきます。何かしらの現象行使は、この様子から彼女の力が発動しているのでしょう。寄生体の攻撃を受けながら」

 

 

 次の画像。何と表現すべきか分からない物体を次々見せられる。ぶつぶつだらけの直方体だったり、らせん状のなにかだったり、糸状のなにかだたり、とにかく色々見せられた。

 

 

「これらは今のところ摘出できた寄生体です。彼女を確保と同時に壊さないようにしながら処置しましたが、全ては摘出できていません。過寄生のようですね。このまま一匹になるまで放置した方が処理は楽になるでしょう」

 

 

 ですが、と顔文字の言葉とともに視界が普通に戻る。ここにいる誰もが顔文字の方を処理したくてたまらなくなっていた。さっきので吐き気が止まらないけれど、無理したいほどに。

 

 

「彼女の力がよく分からないので、そちらの処理で大変になりそうです。こちらの薬剤などで処置し続けるのも面倒ですし、経費で落とせそうもありませんがね。ワタシには敵意もなければ殺意もありません。ただ仕事をこなすだけですから」

 

 

 ずっと空間を忙しなくタッチしている顔文字は言葉を続けた。

 

 

「ですので、ご協力をお願いします。彼女を助けてあげてください」

 

 

 淡々とのたまった顔文字に殴りかかる。鍛えてきた体は顔文字を壊すことに向いているんだ。

 

 だというのに、殴れもしない。俺たちの怒りもぶつけることも出来ず、その怒りが身に帰ってきて冷静になりきることも出来やしなかった。

 

 

 今はどうしようもないのなら、ハルヒを助けるために顔文字を利用してやるだけだ。

 

 ◆

 

 ハルヒの力により、色々と世界の構成が乱れているらしい。見慣れた校舎のはずなのに、少しの違和感をずっと感じさせてくる。壁も天井も廊下も、全部見慣れたもののはずなのに見慣れないものという認識の変化が起きている。

 

 

「てめぇがハルヒにしやがったのか?」

 

 

 幼馴染が刺し違えてでも何とかしてやろうとしている。その様子を気にもせず、淡々と顔文字は何かをやっているんだ。

 

 

「いえ、彼女が勝手に寄生されたようです。原因から解明しようと思ったのですが、寄生体と親和しているようであまり触ることができないのです。ワタシも仕事以上のことはしたくないので、早急な対処としてこうして確保しているのです」

 

「わたしなら完治させられる」

 

「アナタも地球人ではないようですね。やめておいた方がいいでしょう。この寄生体の出す毒にワレワレの治癒能力を使うのは、彼女の容態の悪化につながります。現に、このような世界になってしまいましたしね」

 

 

 顔文字は実行して、ハルヒは拒否反応でも起こしてこんなことになったんだ。頭が怒りで破裂しそうだ。それを無理やり押さえつけなければならない。長門の言葉に、無駄なことをするなという顔文字に歯向かっている場合ではないんだ。

 

 

「薬があるみたいだけど、アナフィラシキー反応なんか起きたりしないだろうね」

 

 

 それが原因で心停止なんてよくあることだ。軽症状でも後を引くし、悪化もする。

 

 

「彼女の細胞から精製したものがあるので、それで実験しつつ行っています。調薬も並列作業ですね。道具で全摘出は望ましくありません。体を傷つけているという反応で、彼女の力と寄生体が合わさって面倒です。これですしね」

 

 

 相変わらず空間をタッチし続けている顔文字。怒りで脳が焼けそうになるも鎮火させねばならない。

 

 

「涼宮さんに傷をつけたんですか……?」

 

「暴れられるのは面倒なので麻酔は使っていますよ。手術痕など残りませんから、ご安心ください」

 

 

 あまりのことに怒りで震えた口調の朝比奈先輩も気にもしない顔文字。どれほど人の癪に障れば気が済むのか。

 

 

「あなたの目的を聞いていません。涼宮さんをわざわざ治療する意味はなんです? 今現在、この世界を制御しているのはあなたのようですが、それほどの力があるならさっさと逃げ出せばいいものを」

 

「ワタシはこの星に医療調査をしに来ただけです。そうなのですが、あいにくとワタシもここから脱出ができないのですよ。それに、仕事内容に患者を発見したのなら完治させろ、というものがあるのでこなさなければならないのです」

 

 

 古泉の煽るような言葉にも、少しの反応もなく淡々と返す。

 

 俺たちがまだまだいくら言っても変わらない。俺たちは顔文字に手出しできないし、ハルヒを救う道がよく分からないということだ。

 

 

「さて、そろそろおしゃべりはやめておきましょう。アナタたちは彼女に大事にされているのですから、アナタたちもそうするべきですよね。では、彼女を救うために頑張ってください」

 

 

 その顔文字の言葉とともに何処かに押し込められた。

 

 吐き気が襲う。実際、吐いてしまったんだろう。喉を胃酸が焼くのがよくわかった。止まらない吐き気、壊れてしまったような三半規管。体が如実に拒否反応を起こしている。どうにかしないと、という意識が朦朧とする。自分の喉に手を突っ込んで、意識を起こす。吐き出すものももうないのに、とっさにやったのがこれだった。吐き出せと本能が動いているのか。

 

 吐き出すものは、何もないのに。

 

 

「がんばって、シャドー特攻隊長」

 

 

 聞きなれた声に返事も出来ずに意識を落とした。

 

 

She feels affection for you.

 

REHASH──────-START.

 

 

 

dc

 

 アナタのためにルールを用意しております。

 

 一つ、必要なものだけ差し出すこと。二つ、誰の意見も聞かないこと。三つ、好意など目の前で捨て去ること。

 

 以上のルールを守ることを、アナタに望みます。

 

 

 :クソルールを忘却する

 :沈黙

 

 

 

 ……では、アナタに報償金としてコチラを進呈させます。

 

 好意を抱かれるごとに所持金を二倍。好意が失われるごとに所持金を六倍。好意を持てなくなったなら九倍。

 

 以上のものを受け取るために、契約証明としてサインをお願いします。

 

 :内容を書き換える

 :破く

 

 

  なるほど。それならば、前金としてコレらをアナタに贈りましょう。

 

 一.好きにしていいアナタ専用の理想的な女性体。二.好きにできるアナタ専用の蠱惑的な女性体。三.好き放題遊んでいい母性的な女性体。

 

 以上の品は壊れないように厳重な梱包しておきます。さぁ、どうぞお持ち帰りください。

 

 :贈り物から避難する

 :押し返す

 

 

 ふぅむ……。だとすれば、このサービスを受けてみてはどうでしょう。

 

 能力値を最大・容姿を最良・全体運を最上。

 

 以上のサービスを無料で、しかも追加料金もなく永続的に受けられます。いかがでしょうか。

 

 :サービスにチェンジと言う

 :拒否

 

 

 そうなると……、コチラのグッズなどは受け取られるのでしょうか。

 

 絶対命令権、絶対服従券、絶対処理帳。

 

 以上のグッズの期限などというものはありません。お眼鏡にかないませんか。

 

 :釣られそうになったが手を引っ込める

 :睨む

 

 

 さあ、最後となりました。これを受け取りなさい。

 

 カメとウサギが喧嘩しているものをプリントされた、赤い箱と黒い箱と青い箱。

 

 :箱に聞き耳を立てる

 

どれぐらいのヒロイン数がいい

  • 一人
  • 二人ぐらい
  • ハーレム
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