0人目のアイ   作:迫真将棋部志望者

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18連勤うち車中泊含む2徹3回は流石にきついゾ~これ。僕はヨツンヴァインになって国に忠誠を誓った犬なので耐えるけど。でもついに明日自宅待機してねって言われて嬉しいので初投稿です。







知らない天井

 

 

知らない天井……ではないな。

よく見た真っ白な、病院の天井だ。

 

『すみません、マスター……』

 

…………。

 

なんだっけ、なんか記憶がぼんやりしてる。ずいぶん時間がたってしまったような……。

 

『マスターは2日前、指し初め式で……』

 

ああ。アイの声で意識がはっきりしてきた。

 

(いいってことよ! んなこともあらぁな!)

 

そうだそうだ、思い出した。

新年の指し初め式。関西所属の棋士が大集合したそこで、俺は倒れたのだった。

 

石を投げれば当たるくらいそこら中にプロ棋士がいて、よりどりみどりなもんだから珍しくアイのテンションが上がって、最終的に五面指しくらいになって……そこで倒れたわけだ。

 

『自己制御できないなど……不甲斐なく。合わせる顔もありません』

 

お前顔ないしなHAHAHA。

とか言ったら流石に可哀想なのでやめておこう。

 

(いーっていーって。俺も楽しかったし、まあたまには馬鹿やるのもいいもんだろ)

 

実際には将棋を指すことそのものではなく、楽しそうなアイを見るのが楽しかったわけだが。

 

(しかしまあ、心配はかけちゃったかな)

 

病室のベッドの脇に置いてあるもろもろを見るに、新年早々いろんな人に迷惑をかけてしまったかもな。

 

……っと、おや。

布団のなかになんか温かい生き物がいるぞ。

 

『その小さな野獣(スローロリス)は二時間と五分前に見舞いに来たあとそのままマスターのベッドに潜り込んで惰眠を貪っています』

 

(森のおやつ呼びはやめて差し上げろ)

 

『プロ棋士との対局に比べたら実質おやつですよ』

 

(GNKちゃん可哀想)

 

まあいいか。

 

(まだちょっと眠いんでもう一眠りするわ。喉乾かない?)

 

『サッー!(迫真)』

 

(アリガトナス!)

 

うしうし、アイもそれなりに持ち直したかな。

んじゃ寝まーす。

 

おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の主観的には大したことのなかった久々の昏倒だったが、世間的にはちょっとしたニュースになってしまった。

 

というのも、指し初め式にはたくさん人がいたし、取材も来てたもんで、人の口に戸は立てられないというか。

でもって俺が小学校入学前の年齢ってことで将棋連盟が無理をさせすぎなんじゃないか、みたいな風潮がね。

 

流石にこれで連盟が非難されるのは許容できなかったので、正式に俺の今までの経過について発表した。生まれたときから原因不明の難病でたびたび昏倒していること、普段は極めて健康なこと、ここ一年間以上は発生していなかったこと、などなどをデータ付きで。

あとは改めて別の医者の診察を受けて明石先生の診断が間違っていないことのセカンドオピニオンを受けたり。

 

まあこの時代はそこまで児童労働に厳しくもないし、すぐにメディアも沈静化した。

 

なんせこの時代、まだブラック企業なんて言葉は浸透していない。むしろ企業戦士とかモーレツ社員とかプラスイメージもあったくらいな。

 

実際子役業だけで考えても演劇子役に比べりゃよっぽど楽な仕事だしな。

普段から勉強してる棋士なら大変だろうけど、俺の場合はそこらへん全部アイ任せなのでズルズルのズルである。

 

 

 

しかしながら、まあ当面の間大盤解説や指導対局とかの露出は控えるようにと連盟からお達しが出てしまった。

 

また暇になっちまったなあ、と思ったが、そこでうれしいお誘いがあった。

研究会のお誘いである。

これは、アイの実力が認められた的なあれでおじゃるな?

 

いろんな人からお誘いがあるのだが、その中でも一番最初にお呼びをかけてくれたのが、この人。

 

「蔵王ニキオッスオッス!」

 

「おう、よう来たなミカ坊」

 

蔵王達雄九段である。すでに七十近い年齢にも関わらずいまだ現役棋士の凄い爺さんだ。初回の訪問時に敬語とか取っ払うように言われ、今ではかなりフランクな付き合いをしてる。めっちゃいい人だよはっきりわかんだね。

 

「お? 今日はいつものちっこい彼女はいないんか?」

 

「その()()って違う意味含んでるでしょ。だからただの妹弟子だって何度言えば」

 

こういうオヤジっぽいところがなきゃもっといいんだがなぁ。若々しいと言えば聞こえはいいが……。

 

『彼女とか、いらっしゃらないんですか?』

 

(え、そんなん関係ないでしょ(正論))

 

むしろ小学生にもなっていないのにそんなんいたら性癖壊れちゃ~う!

インピオは、いいぞ。

 

『…………』

 

オヤジはお前だろ小学生という副音声が聞こえる。幻聴?そっすか……。

 

ちなみにいつもの訪問は俺と師匠とGNK兄貴姉貴の3人で来るが、今日はGNKちゃん病院なので俺と師匠だけだ。

 

兄貴でもないし姉貴でもない、なんなら妹なんだが兄貴姉貴とはいったい……?

これは大宇宙の真理に迫る難問だな……。

 

 

「とりあえず上がれや。今日は聖一も来てる」

 

「マジ卍?」

 

(TKMTニキ来てるのか。良かったな、アイ)

 

『ふん……多少は楽しませてくれそうだな』

 

(噛ませ感しゅごい)

 

「おう鋼介、お前もはよ上がれや」

 

 

 

 

「月光ニキオッスオッス!」

 

「こんにちは、帝くん」

 

室内で先に将棋盤の準備をしていたのはこないだ大盤解説でもお世話になった月光プロだ。

なんでもZOUニキが昔から面倒を見てたとかで関わりも深い。うちの師匠とも知り合いだし。

 

というか、TKMTニキは清滝鋼介(ししょう)の兄弟子で、この二人の師匠の坂井十三九段の兄弟子がZOUニキという、師弟関係つながりがあるのだ。

だから俺にとっては師匠が父親なら、TKMTニキは叔父さんで、ZOUニキは祖父の兄さんってところ。

 

ZOUニキもTKMTニキも神的にいい人だからマジ助かる助かる。

人としての器がお太い。

 

それはそれとして。

 

「2六歩」

 

「……8四歩」

 

「2五歩」

 

「8五歩」

 

目隠し将棋吹っ掛けるんじゃい!

 

(アイ、あとは任せた。なんとかしろ)

 

『はぁ。では7八金』

 

「7八金」

 

「3二金」

 

TKMTニキは目が見えないので常に脳内将棋。だからこんな突然の吹っ掛けにもすぐに対応できますできます。

そしてこうやって構ってあげないと、盲目なのに将棋盤の準備とか部屋の掃除とかしだすから放っておけないんすよねぇ。

この構ってちゃんめ!

 

俺はアイの指す手を口にしながら、さっきまでTKMTニキがやっていた将棋盤の準備を引き継ぐ。

 

「うし、んじゃわしらも一局指そか、鋼介」

 

さあ将棋祭りの開催や。みんなで新手まみれになろうや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の将棋に老いを感じ始めたのはいつだろうか。

還暦を超えた辺りだったか。順位戦でBクラスに落ちた時か。それともタイトルを手放したあの時か。

 

 

経験は力だ。

だが、それを上回るのが、才能。

 

そして、その極みみたいな奴が現れた。

あの眼鏡坊主は彗星のように現れ、七冠なんていうとんでもない記録を打ち立てた。

時代が移り変わる風を感じたものだ。

 

だが、ああ、だがしかし。

長生きはしてみるものだ。

 

もっととんでもねぇ輝きを放つ小さな太陽は、常識なんてものを蹴飛ばして、目の前に突然現れやがる。

 

 

小学生にもなってないガキが三段リーグの編入試験を受けると聞いて、耳を疑った。

そいつがアマ名人戦で優勝したことで受験資格が発生したが、年齢を理由に事前に審査を行い、そこで現役Bクラスのタイトル挑戦歴もあるプロが手も足も出ずに負けたと聞いて、俺を担ぐための冗談だと思った。

 

そして、実際に目にして、対局して、俺は自分がボケていたことに気がついた。

ナニワの帝王(ドン)だのなんだのと担がれて、常識とか、慣習とか、権威とか、そういうもんに囚われている小さな自分に気づいた、気づかされた。

 

対局は、負けた。何もいいところなく、相手の手の意味を理解することもできなかった。研究だとか定跡だとか、そういうもんに拘る輩を嘲笑うような、過去を否定するような――まったく新しい将棋だった。

 

だが、不快ではなかった。

 

なんにも色づいていない、まっさらな白い雪を想起させられるような。

いや、どこまでも透き通るガラスかもしれない。

あるいはその先にいるのは自分を写し出す鏡か。

 

自分が初めて将棋に出会ったときのことを思い出した。

初めて格上のライバルに勝った時を思い出した。

将棋の楽しさを、思い出した。

 

 

そのうちに、A級から落ちて以降、最近いいところのなかった鋼介が勝ちだしたと聞いた。

 

棋士って言うのは不思議な生き物で、将棋以外のことで忙しくなったり生活が変化すると勝ちだしたりする。

例えば、結婚や出産だったり、弟子をとったり。

だから鋼介も、あの鬼のように強いガキを弟子に取ったことで弾みがついているのかと思った。

 

棋譜を見て、悟る。

 

違う、そんな話ではない。将棋が若返っている。いや、若返っているというのも適切な言い方ではないだろう。

 

鋼鉄流とも呼ばれる強靭な受け将棋。その将棋が、棋風が、変わっている。

変化は僅かだ。

長年鋼介の将棋を見てきた自分だからこそ気づく違和感。

 

 

そうしてわしは、電話を手にした。

 

年甲斐もなく、わくわくしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 














んじゃ、たぶんしばらくベッドから起き上がれないので失踪しますね……。







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