乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった2周目に転生してしまった… 作:蒼樹物書
「また、友情エンドに終わりましたね……」
FORTUNE LOVER最後のイベント……入学して一年、先輩達の卒業式を終えて。
脳内会議、カタリナ・クラエスの破滅エンド回避の為の作戦会議。
「色々あったけれど、最高にハッピーなエンドだからいいじゃない!」
議長私の、ため息交じりの言葉にハッピー私が応える。
そう、本当に色々あったけれど。
『二回目』であることを思い出した私は、周囲の様変わりした状況に混乱しつつも。
ゆっくりと、受け入れていった。
義弟ではないキースが一番違和感があったが『前』と同じように、義姉さんと呼んでくれるのだから応じることにした。
『今』私達は姉弟ではないが……それでも可愛い義弟だもの。
そうして『前』のように事件は起こらず。ただ、楽しい日々を送れたのだ。
夏休みには、メアリと海外旅行に行った。
初めての海外、この世界で初めて海を見た。薫る潮風に、島国である故郷を想った。
絶対に付いていくというマリアと、二人きりで行きたいというメアリでひと悶着あったが。
結局皆で行った旅行は、とてもいい思い出になった。
避暑地の湖にも行った。
ジオルドに誘われ、マリアを伴って。
暑さに項垂れていたから、涼しく綺麗なそこでとてもはしゃいでしまって。
疲れて帰りの馬車で寝てしまったが、マリアの膝枕の温もりが心地よかった。
アランの演奏会に招待された。
『前』と同じくアイドルのコンサートみたいに、令嬢達の歓声を受ける彼。
演奏が終わった途端、ぶっきらぼうになるのも『前』と同じ。けれど、今回も初めて聞く曲だった。
曲名は「家族になりたい」。どこかで聞いたような曲名だったが。
それを隣で聞いていたメアリは、ちょっと怖い顔になっていた。マリアはもっと怖い顔になっていた。
アスカルト兄妹とお買い物にも行った。
本やアクセサリー、スイーツ。楽しい時間は、やはりあっという間に過ぎてしまって。
『前』よりも時間が遅くなり、慌てて取った宿で何故かニコルと二人きりになった。
あの時はマリアが駆け付けなければ、ちょっと危なかったかもしれない。
貴族の舞踏会。
そこで会長……ラファエルに会った。
あの事件により落ち目にあるディーク家だが、優秀な彼が後継ぎとなることから貴族社会での人気は『前』と変わりないようだ。
令嬢達に囲まれていた彼に声をかけられ、婚約話に華が咲く。
生徒会長で、卒業後は魔法省で重要なポストを任される彼。ご婚約の話には事欠かないだろう。
なのに、未だに婚約者が決まっていないらしい。あまり乗り気ではないのか。
「それとも、誰か気になる方がいらっしゃるとか?」
私の問いに、ラファエルは。
「いますよ。心から、気になる方が」
にこり、と太陽のように笑顔のラファエル。気になって、追及したくなるが。
「カタリナ様、人様の恋路に踏み込んではいけません」
「そ、そうよねマリア! うふふ、どんな方であろうと応援しますわ!」
「……」
マリアの忠告に自らを恥じる。そうよね! これ以上、野次馬根性で踏み込んではいけない。
ラファエルも黙ってしまっているし。秘めたい恋心、他人が踏み荒らして言い訳がないわ!
キースの実家に招待された。
ご両親とお兄様方に盛大に持て成され、素敵な家族に囲まれているキースに安心した。
『前』のようにあーんしてあげようとしたら、顔を真っ赤にしていた。
皆でそれを笑っていたけれど、マリアだけちょっと笑顔が引きつっていたような気がする。
『前』とちょっとだけ違う、夏休み。
やっぱり夏休みの課題集は少ししか進んでいなかったので、マリアに手伝って貰いながら死ぬ気でやることになったが。
「『二回目』……何故こんな事態に陥ったのか、謎は残りますが」
真面目私が顔をしかめる。
そもそもカタリナ・クラエスになってしまったこと自体、謎なのだが。
「『前』よりもっと無茶苦茶です……どこに破滅フラグが潜んでいるやら……」
弱気私が破滅に怯える。
もうゲームの知識も役に立ちそうにない。最終イベントであるニコルと、そしてラファエルの卒業式イベントも終わってしまった。
「破滅フラグなんて折って見せるわ! 私だって『二回目』なのだから!!」
強気私がそれに応える。
そうだ。皆より遅く『前』を思い出した私だが……それでも、農業の知識をよりたくさん蓄えている。
「皆幸せそうだし、いいんじゃないの!!」
ハッピー私が声を上げる。
『前』とはだいぶ違う『今』。けれども、少し違う形で大団円を迎えることが出来た。
「――皆と一緒にいられますように。願いは、叶いました」
議長私が締めくくる。
マリア、メアリ、ジオルド、アラン、ニコル、ソフィア。
そして、キースとラファエル。
『前』とは違うけれど、それでも破滅を免れ皆と一緒にいられる。
「乙女の道筋は一つではないということでしょう。それでは」
議長の木槌が打たれる。カタリナ・クラエスの破滅エンド回避の為の作戦会議。
これで、ピリオドは打たれた。
――幸福の未来に、ごきげんよう。
◇
何回目か、もう数えるのすら億劫になった誕生日。
田舎の男爵家に産まれ、十五歳の時からクラエス家に行儀見習いとして長い月日が流れた。
とっくに行き遅れと揶揄される歳となってなお、この日を厭う気になれない。
男爵様とメイドの母の間に産まれた私。
主の言う通りに。お気に召されるように、振舞うよう母から言われて育った。
ただ、言われるがままの道具として在ること。
主の言葉にただ従う。ただ主の望むモノであることに努めた。
そうすれば、日々は問題なく過ぎてゆく。
火事で母を失い背中に傷を負ったことで、男爵様に捨てられ。クラエス家に身を移しながらもそれは変わらなかった。
私が専属として付いたカタリナ様。甘やかされ、我儘で高慢な彼女に他のメイド達は長く続かなかったが。
主に従うだけの、人形の私。
帰る家がない私には、彼女の欲するまま合わせる以外の選択肢はない。
しかし転機は、突然訪れた。
頭を打ち、我が主は変わられた。
高慢さはなくなり、我儘も言わなくなった。
前のように賞賛の言葉を望むこともなくなった。
ただ人形であった私は、彼女の急変に困惑した。意思がない人形は、豹変した彼女にどう応えればいいのかわからなくなった。
しかも、彼女はあまりにも危う過ぎた。
庭に生えていた茸……シイタケの匂いがするから食べられると言い張ってお腹を下したり。
木登りが得意といいながら、偶に落ちる。幸い大怪我はなかったが。
目を離せば、仕えるべき主はいなくなってしまう。あまりにも危うい主。
カタリナ様がいなくなれば……主によって動く人形である私は、何をすればいいのか分からなくなる。
気づけば、私は自身の意思で言葉を話すことを覚えていた。
主を窘め、時にはその身の為に反論する従者……邪険にされ、すぐさま首になってもおかしくないはずなのに。
カタリナ様は、実の姉のように慕ってくれた。
評判の悪い、親よりも年上の子爵と結婚させられそうになった時。私を必要なのだと、守っていただいた。
そして初めて、誕生日プレゼントをもらった。毎年贈られる、主から従者へのプレゼント。
公爵令嬢なのだから、いくらでも使えるお金で買う、簡単に贈れる物ではなく……手作りの木彫り人形や、手書きの肩叩き券。
肩叩き券というものがよく分からず、カタリナ様に聞いてみたがマッサージをお願いできる券とのことだ。
……マッサージというのは、どの部位をどの程度までして頂けるのか。
思わず前のめりになりそうだったが、もったいなくてまだ使っていない。
カタリナ様から毎年頂いたプレゼントは全て、大切に保管している。額に入れたり、箱に仕舞ったそれらを度々眺めるのは私の幸福だ。
――『二回目』。
カタリナ様が頭を打った所で始まった、奇妙な『今』。
周囲の方々は気づかれていないようだが、私……アン・シェリーも同じ『二回目』だった。
不可解な状況だが、規格外な我が主に振り回され続けた私にとってはいつも通りだ。ただ、カタリナ様の傍にいてお仕えする。
カタリナ様と何方が添い遂げられるのか。
それが誰であれ、私は従者として主と共に在る。
例えその結果が破滅だとしても。
幸福な未来でも、最悪の未来であろうと我が主と共に在る。
自動的に決めていた『前』とは違う。自身の意思で、主と決めた人の為に尽くす。
今年も贈ってくれた手作りのアクセサリーを胸に、誓いを新たにする。
『前』も『今』も関係ない。私は、カタリナ様のメイドだから。
「――『今』は、私もそうですよ?」
いつの間にか、隣に立っていた。
私の後輩として、カタリナ様の専属となったマリア・キャンベル。
カタリナ様の寝顔を見つめ、物思いに耽っていった私に。
何故釘を刺すように口にするのか。空恐ろしいモノを感じながらも、安心する。
何時まで経っても危うい在り方の我が主。
けれども『二周目』で周囲もより深く、彼女を愛して。力強くなった。
そんな彼らに囲まれたカタリナ様に、破滅などあるはずがない。
想像の斜め上を行く我が主。何時だって前向きに、真っすぐ進む彼女には。
幸福の未来が待っている。
これにて乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった2周目に転生してしまった…やっぱり長い! 完結となります。
本作全体のあとがきについては、後ほど活動報告にて。
本当にたくさんのUA、お気に入り、ご感想ありがとうございました。