工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
「えー! じゃあ、プロポーズの言葉はなかったんですか?」
「彼、そういうの苦手だから」
新婦である白鳥沙羅は新郎の晴月光太郎からのプロポーズの言葉は特になかったと告白する。
何となくお互いにそろそろって感じか。そういうのも良いかもしれないわね。
「男はそれくらいでちょうど良いのよ。歯の浮くようなセリフをいう男にロクな男は居ないんだから」
「ねぇ、前から気になってたんだけど、お父さんのプロポーズの言葉は何だったの?」
英里が光太郎のことを肯定すると、蘭が彼女に小五郎のプロポーズの言葉はどんなのだったか尋ねる。
ああー、それはあたしも興味があるわー。どんな感じだったんだろう……。
「……だから、その歯の浮くようなくだらない言葉よ」
「先生! 今後の参考にぜひ教えて下さい!」
「確かにあの英里さんがオッケーを出したセリフは気になりますね」
あたしと沙羅は英里に詰め寄ってそのセリフを聞き出そうとする。
これは聞いとかなきゃ、損するわね。
「アリスさんまで……、残念だけどもう忘れたわ」
「またまた〜、そんなはずないじゃないですか!」
「焦らさないで教えてよ。お母さん……」
英里は恥ずかしそうな顔して誤魔化すけど、彼女ほどの人がそんな重要なこと忘れるはずがない。早く白状しちゃってよ〜〜。
「え、ええーっと、お、お前の事が好きなんだよ――地球上の誰よりも……だったかな……」
「……うそぉ」
「先生は意外とロマンチストなところがあるんだよ。園子ちゃん」
園子は思いっきり意外そうな顔してるけど、あたしは小五郎がああ見えて新一にも負けないくらいロマンチストなことを知ってる。
「素敵じゃない……。うわぁ――」
「蘭、お前のことが……、好きなんだよ。この地球上の誰よりも――」
「ひゃあっ……!」
「って、考えてたのかなって。新一がそんなこと言うシーンを」
あたしが蘭の耳元でさっきのセリフを言ってみると、びっくりするくらい顔を赤くして彼女は跳ねる。やっぱ妄想してたか……。
「べ、べ、別にしてないわよ。そんなこと」
「蘭ってわかりやすいから」
「だらしない顔してたのに、それはないわよ」
「もー! ふ、二人とも! してないっていってるのに!」
蘭をあたしと園子が冷やかすと彼女はムキになって反論する。
無駄なのよ。バレバレなんだから……。
「と、敏也、なぜお前がここに!?」
あたしたちが談笑していると、突如……、小田切警視長が声を荒げていたのでその方向を見ると派手な髪色をして煙草を吸う若い男がいた。誰だろ? あの人……。
「ここはお前のような奴が来る所じゃない。このパーティーにも招待されていないはずだ!」
「うっせーな! 仕事で偶々、このホテルに来ただけだよ!」
「警視長のご子息の敏也くんだ。確かロックシンガーをしていた」
「なんで、あんな雰囲気なんだろ? 警視長ブチ切れじゃん」
「アリスちゃん、声が大きいよ」
小五郎によると、派手な髪の男は敏也という名前で小田切警視長の息子らしい。祝いの席なのにすっごく、空気悪いんだけど……。
そんな2人の険悪な空気を焦った顔をした白鳥が仲裁に入っていた。
「まあまあ良いじゃないですか、警視長。……敏也くん、ゆっくりして」
「出て行け! 野良犬が餌を漁るような真似をやめてな」
「んだとぉ!」
すごいわね、野良犬って。なんか実の息子に対して結構言うじゃない……。
白鳥の仲裁も効果はなくて、小田切の対応は変わらない。
敏也もイラッとして彼に掴み掛かりそうな勢いだった。
「敏也さん!」
「ちっ!」
佐藤が止めに入ったおかげで、彼は不服そうにしながらも、ギターを持って会場から出て行った。
そんな彼を扉の近くから女性が見送り、佐藤刑事を一瞥した後、歩いて出て行く。なんだろう。意味深な感じね……。
「あの人もどっかで見たことあるんだが……、どこだったかな……」
小五郎は彼女に見覚えがあるみたいだ。依頼人とかかしら……。
あれ? 佐藤刑事、目暮警部と何を話してんだろう。よくわからないけど、一人で大丈夫かみたいなこと話してるのかな……。例の事件絡みで……。
「アリスちゃん、園子、ちょっとお手洗いに行ってくる」
「あ、うん。わかった」
佐藤が会場の外に行くのとほぼ同時に蘭がトイレに向かっていった。
うーん。この空気は新郎新婦には気の毒な感じよね……。
――それからしばらくして、だ。会場のある15階が停電して照明が切れて真っ暗になったのは……。
「て、停電……! ま、まさか!」
「お、おい! これはどういうことだ!?」
突然の停電。会場内は軽いパニックになる。何かの設備の不具合? それとも……。
「ねぇ、アリス。何があったの?」
「わからないけど、誰かしらがこの停電を意図的に引き起こしたのなら――。悪い予感がする……。まさか、刑事の誰かが……!」
「ちょっと! どこ行くのよ!」
園子が不安そうな声を上げたが、あたしはそれ以上に嫌な予感がした。
そういえば、佐藤刑事は会場の外に出ている。多分、トイレだと思うけど……。あっ! 蘭もトイレだ――。
あたしは会場を飛び出して女子トイレに向かった。
嫌な予感が的中する。蘭の叫び声が聞こえたのだ――。
「蘭ちゃんの声……! それに水の音……! 先生! 高木刑事! 女子トイレです!」
「蘭!」
「佐藤さん!」
トイレの中で惨劇が起きていた。血まみれの佐藤刑事と、蘭が倒れていたのだ。
あたしは血の気が引いて手足が震えていたが、ここで冷静さを失うわけには行かないので、携帯電話を取り出す。救急車を呼ばなきゃ……。
「蘭! 大丈夫か!」
「蘭ちゃんは怪我してないみたいだから大丈夫。でも、佐藤刑事は――。救急車を呼びます!」
よく見れば、撃たれて重症なのは佐藤刑事だけ。蘭は恐らく目の前で彼女が撃たれたショックで気を失ってるだけだ。119番を押しながら小五郎に状況を伝える。
「佐藤さん! ひ、酷い怪我だ! 佐藤さん!」
「目暮! 救急車だ!」
「あっ! 今、あたしが呼びました! それよりも出入口の封鎖を! 犯人を逃さないために!」
「君は毛利のところの……。白鳥! 出入口の封鎖をしろ!」
「はっ!」
小田切警視長と目暮警部、それに白鳥警部も駆けつけて来たのであたしはホテルを封鎖するようにお願いする。
そして、あたしは現場を観察した。凶器は9ミリ口径のオートマチック――これって例の犯人と同じよね……。ん? なんで、懐中電灯が……? 現場には謎が多く残されている。
その後、ホテルに居た人たちは警察によって外に出ることを止められていたが、あたしは新郎新婦が入場するときに会場から出ていった男と佐藤刑事を見つめていた女が居なくなっていることに気付いた――。
この中の人から硝煙反応でも検出出来れば犯人逮捕は楽なんだけど……。
◆ ◆ ◆
二人はすぐに米花薬師野病院へと搬送され、小五郎と英里と園子とともにあたしたちは病院に向かう。さらに白鳥警部と高木刑事も病院に駆けつけてくれた。
先に来ていた目暮警部の話によれば佐藤刑事の方は弾の一つが心臓近くで止まっており、助かるかどうかは五分五分という非常に危険な状態らしい……。
蘭の方も外傷はないものの意識が戻らない状態みたい。蘭は命に別状はなさそうね……。英里と園子は蘭の病室へと向かって行った。
千葉刑事の報告によると、指紋もホテルにいた人たちから硝煙反応も出なかったみたいね。それは何となく予測してたけど……。となると、ホテルから消えた二人が怪しいわね……。
停電については、爆弾が携帯電話からの着信で起動する仕組みになっててそれによって電気の供給が絶たれたらしい。
「目暮警部、現場の懐中電灯ですが……佐藤さんが持っていたのでしょうか?」
「違うわよ。化粧台の下の物入れが開いてましたよね? 多分、そこに入ってたんですよ。点けっぱなしの状態で」
「「――っ!?」」
あたしは懐中電灯は点灯した状態で設置されていたと推理した。
犯人は停電を起こして、15階の全体を暗くする。すると暗くなったトイレで懐中電灯の光はその存在を主張することになる。それを手にしたところをズドンというわけだ。
「何だと!? じゃ、じゃあ犯人が……!」
「なるほど、それなら明るい状態だと誰も気付かない……。となると、やはりあの事件が……」
「あの事件って何です?」
「そ、それは……」
目暮警部と白鳥警部は顔を見合わせて、何かの事件が関わってるとの見解を示した。
小五郎がそれについて尋ねると目暮警部は言い淀む。
「どうして教えてくれないんですか!? 一歩間違えれば、蘭も撃たれたかもしれないんですよ! 警部殿!」
「た、大変です! 蘭が……!」
目暮警部に食ってかかる小五郎だったが、そこに血相を変えた園子が駆け寄ってくる。
蘭は大丈夫だと思ってたけど……、何かあったのかしら……。
「蘭ちゃんがどうしたの?」
「意識は戻ったんだけど……。どこか様子がおかしいのよ!」
「何っ!?」
あたしたちは蘭の病室へと向かった。様子が変って……どういうこと?
病室に入ると彼女は既に意識を取り戻して起き上がっていた。
「蘭ちゃん! 大丈夫!?」
「あなた……誰?」
蘭の一言にあたしは愕然として崩れ落ちそうになってしまった。あ、あたしが誰だかわからないって……。
「――っ!? ま、まさか……」
「お、おい……」
「蘭は私たちのことばかりか……、自分の名前さえ思い出せないの……」
「んな、バカな! お前の父親の毛利小五郎だ! そして、母親の妃英里!」
「……何も思い出せない」
蘭は記憶喪失になってしまってた。嘘でしょ……。えっと、漫画やアニメにそんなエピソードあったっけ? もしかして、映画? 全然思い出せない……。
「記憶喪失……? 蘭ちゃんが……」
「アリス……、どうしよう? 蘭が、蘭が……」
「お、落ち着きましょう。し、白鳥さんが、か、風戸先生を呼んでくれたから……。き、きっと、だ、大丈夫よ」
「声震えてるじゃない……」
園子に指摘されたとおり、あたしも動揺しまくっていて、頭の中が真っ白になりそうだった。
蘭がこんな目に遭うなんて……あの時、一緒にトイレにあたしも行っておけば……。
その後、風戸が蘭を診断してくれて……おそらく佐藤刑事が自分をかばって撃たれたことに対して自責の念から記憶を封じ込めてしまったのだろうと口にした。
確かに彼女は計算も出来るし、シャーペンの芯も出せる。日常生活で必要な知識は残ったままでエピソード記憶だけが抜け落ちているのだ。しかし、本当にそれだけなの? ショックなのは分かるし、彼女は優しい子だから……。
でも、何かもっと酷いことがあったような……そんな気がするわ……。
そう思っていたら千葉刑事がその答えを声に出した。
「懐中電灯からは蘭さんからの指紋しか検出されませんでした……」
そうか。だから、蘭は自分のせいで佐藤刑事が撃たれたって……。
なんてことだ……。彼女にはあまりにも重い……。
「目暮警部、話してください。私は退席しても構いませんので、蘭ちゃんのご両親である先生と英里さんは聞く権利があるはずです」
あたしはせめて小五郎と英里だけでも事件について知る権利があると目暮警部に訴える。
蘭の肉親なんだから、秘密にすべきことでも彼らには教えるべきだと思う。
「アリスさん、この事件は我々警察が必ず――」
「いや、話そう。アリスくんの言うとおり……巻き込んでしまった以上、毛利くんたちには聞く権利がある。君も蘭くんの友人で毛利くんの助手だ。一緒に聞きなさい」
そして、目暮警部は語った。事の発端は昨年の夏、東都大学付属病院の医師・仁野保の遺体が自宅マンションから発見されたことらしい。
その事件を担当することになったのが目暮の先輩で捜査一課の友成警部と射殺された奈良沢修、芝陽一郎の両刑事、それに佐藤刑事だった。
神野医師はかなり酒に酔った上自分の手術用のメスで右の頸動脈を切っていて死因は失血死。亡くなる数日前に手術ミスを患者の家族に訴えられていて、現場にあったワープロにも手術ミスを謝罪する遺書が残っていたことから、当初は自殺の線が高いと考えられていたみたいだ。
ところが第一発見者となった隣町に住む神野医師の妹でルポライターの仁野環は、自分の兄は元々患者のことなどまったく考えない最低の医者だったと自殺説を真っ向から否定。
環は小五郎に何かを依頼しようとして事務所に来たことがあるみたい。彼は肝心の依頼内容を忘れたらしいけど……。
彼女によれば、一週間ほど前にある倉庫の前で紫色の髪をした若い男と神野医師が口論をしているのを目撃したらしい。それを聞いた友成警部は念のため奈良沢、芝、佐藤刑事を連れてその倉庫に張り込みをかけることにした。
しかしここで二つ目の悲劇が発生してしまう。気温が35度を超える猛暑の中張り込みをしていた友成警部が心臓病の発作で急に苦しみ出したのだ。
佐藤刑事たちはすぐに救急車を呼ぼうとするが、友成警部は警戒中であることを理由にそれを拒否。
自分でタクシーを捕まえて病院まで行くと言い現場を後にしたもののその途中で力尽き、心配して様子を見に行った佐藤刑事によって車で病院に搬送されたが、結局手術中に息を引き取ってしまう。
友成の死後、自殺として処理された仁野事件だが、しかし父を急な病で亡くした友成の息子・誠は葬儀の席で激昂したらしい。
焼香に訪れた奈良沢らを罵倒し、一生許さない、と言い放ったんだって。
その後まもなく奈良沢と芝が所轄署へ移動……。
それからしばらくしてから、佐藤が何かを調べている事に白鳥が気付いたみたい。
彼女は奈良沢に頼まれて芝と三人、一年前の事件を調べ直していた。そしてその矢先に今回の連続殺人事件が発生したというのである。
で、目暮達は一年前の事件に関係していると考え誠と敏也を調べていたんだけど、敏也からは硝煙反応は出ず、誠は現在行方不明……。
佐藤にも警護をつけようとしていた矢先の襲撃だったとのこと。だから、あのとき警部は――。
「とりあえず、犯人は左利きということだけはわかっているんですから――。その誠さんって方はどうなんです?」
「ひ、左利きだ! 至急友成誠を指名手配するんだ!」
「は、はい」
目暮は友成誠が左利きだとして、彼を見つけ出そうと指名手配の指示を白鳥に出す。
しかし、彼が犯人だとするとわからないこともある……。
「警部さん、その神野って人はどうやって頸動脈を切っていたんですか?」
「えっ? 右側を上から斜め下に向かってまっすぐだよ」
「なるほど。それなら、神野さんがもしも他殺ならその犯人も左利きってことになりますよ」
神野医師が亡くなった事件――これが他殺かもしれないと佐藤刑事たちは調べていた。
その矢先でこの事件が発生したなら犯人は神野を殺した犯人と同一である可能性もある。
「なんでんなこと分かるんだよ!?」
「それは――」
「返り血を浴びないため……。そうするには左手じゃないと、右の頸動脈は切れない――でしょ? アリスさん」
英里の言うとおり、もしも神野の事件が他殺なら……犯人は返り血を浴びない為、後ろから腕で首を押さえ込んで左手で切った。つまり犯人は左利きってことだ。
「しかし、友成誠と神野医師は接点がない」
「小田切敏也さんは左利きですよね? マッチを左手で擦ってたし」
「もう一人いるわ。その父親の小田切警視長。彼も左利きよ」
「ば、バカな! あの人が犯人なわけ……、――っ!? 警部殿……まさか」
「…………」
小田切親子もこの事件の関係者で左利き。それに目暮警部の表情から必ずしも小田切警視長が犯人ではないと言い切れないようだ……。
とにかく、刑事たちを殺して佐藤刑事や蘭を酷い目に遭わせた犯人を捕まえなきゃ……。
◆ ◆ ◆
「でね、こっちが哀ちゃん。あたしの妹みたいなものよ」
「ただの親戚だから」
「ごめん……。アリスさん。全く覚えていないの」
入院中の蘭に阿笠博士と哀を会わせてみた。まぁ、哀とはあまり接点がないから思い出せないのは無理ないか……。
「なら、ワシのことは覚えておるか? 君の幼馴染の工藤新一の隣の家に住んでおる天才発明家の阿笠
「工藤新一……?」
蘭は新一という言葉に反応する。もしかして彼女は彼のことを――。
「新一のことは覚えとるのか?」
「ううん……、でも少しその名前を聞いたら心が暖かくなるような……そんな気がしたから」
そっか。蘭はそんなに新一のことを想っているんだね。
記憶を失っても……。何かを感じ取ることが出来るくらい……。それなら、あたしは――。
「……ああ、蘭ちゃん。だから忘れてるのね? オレが――工藤新一だったってことを――」
「ちょっと!」
「アリスくん!」
「アリスさんが……新一……?」
今だけは工藤新一として彼女の近くに居ようと思う。そうやって彼女に接することで、何かを思い出せるかもしれないから――。
蘭の記憶が戻ることが何よりも大事。だからこそ、あたしは彼女に真実を告げた――。
すいません。忙しくて書く時間が少なくなったのと、最初に書いてた話が気に食わなかったので大幅に改稿してたら時間がかかりました。ゆっくり投稿しますが、頑張ります。
コナンのタブーに触れてみました。自ら正体をバラすスタイルのアリスです。