樋口と俺   作:ナルミユズル

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第二部
再生(前)


 社交DEダンスの一件が終わり、二週間が経った。

 出場を果たしたアイドルたちはそれぞれ次の舞台に進み、それは283プロの彼女たちも同じで、様々な舞台やメディアでの活躍をしているようだった。

 俺も俺で元の舞台。アイドルなどとは関わりのない。平凡で、されども趣味に溢れた、それなりの日常の中に戻っていた……。

 

「ねえ、智也。明日なんだけど」

「……おう」

 

 筈だった。

 目の前で俺に喜々として明日の予定を語るのは、大吾先生に住所を聞いて我が家にやって来た姉である。

 先日だったろうか。急にチャイムが鳴ったと思えば、家族総出で玄関先に現れたのである。

 そして、我が家に入るなり有紗が一言。

 

『こんな部屋じゃ狭くない? ご飯とかちゃんと食べれてるの?』

 

 温室育ちここに極まれり、である。ちなみに愚弟も同じような疑問を持ったらしかった。

 思わず両親を見れば、気まずそうに顔を逸らす。どうやら、一般的な一人暮らしの住まいというものを教えていなかったらしい。

 しかし、そんなことは正直どうだっていい。

 無理矢理今までの家賃と、生活費を押し付けてこようとしたのだって、鬱陶しくはあったが気にしていない。

 だが、なぜ居る。休日の俺の安息の地に。

 しかも、樋口を連れて。

 ジッと俺が樋口の方を見つめると、彼女は小さく息を吐いてから面倒臭そうに口を開いた。

 

「……なに?」

 

 おっと樋口さん? 妙に言葉に威圧感がありませんこと?

 

「いや、なんでいんのかなって」

「こら、智也。そんなこと言わない」

「いや、お前もだが?」

「そんなっ」

 

 そんなっ、ではない。我が物顔で好き勝手言っているところ悪いが、俺は二人ともこの家に招いたつもりはないぞ。

 

「私は、一人だと有無を言わず帰されるからって連れてこられただけ」

「あー、そいつはまた……すまん、迷惑かけたな」

「えっ、迷惑だったの!?」

「有紗、うるせえ」

 

 この姉は、もうちょい自分が好き勝手やらせてもらってる側だってことを理解した方がいい。俺と組んでた時だって、自分のやりたい動きが出来ないと勝手にリードし始めるぐらい奔放だったからな。

 両親に甘やかされて育った結果がこれだから、問題はあの人たちにあるんだけど。

 とはいえ、家に来ること自体はあまり問題でもない。面倒臭くはあるし、一人のスペースに侵入されるのは苦手だが、それそのものを責めるつもりはない。

 ただ、今日は先に連絡して欲しかったと、それだけだ。

 

「悪いが、俺はこれから部活だ」

 

 近づく文化祭に向けて、軽音部の活動は活発化していた。それ以外にもライブハウスでのライブなんかもある。ノルマありのライブなので、一回を大事にしたい。バイトもしているし、これでもそれなりに忙しい高校生なのだ。

 

「それに樋口もレッスンとかあるんじゃねーの?」

「今日は休み。そうでもなかったら、こんなところに来るわけないでしょ」

「そいつはすまんな。文句なら有紗に頼むわ」

「はあ……」

 

 ため息を吐いて、チラリと有紗を睨む樋口。有紗はと言えば、それに冷や汗をかいてこちらに助けを求めるような顔をした。

 元はと言えばお前が悪いんだからシャッキリしろ、と思わないでもないのだが……

 

「……付いてくるなら好きにしろよ」

「いいの!?」

 

 先ほどまでが嘘のように喜色満面の笑みを浮かべて、身を乗り出した有紗にため息を吐く。

 

「急なことだから、メンバーがなんて言うかわからんが、まあ大人しく見てる分には誰も文句なんて言わねぇはずだ。それに……」

 

 樋口の方を見ると、彼女は「何?」とでも言いたげな不服そうな顔をしている。

 

「何?」

 

 言った。

 

「いんや、なんでも」

 

 どうせならもう少し喋りたいしな、なんて言えるはずもない。

 

 

 




ちまちまいきます。
短い上に更新は多分まただいぶ空きます。申し訳ない
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