剣士だとでも思ったか?   作:アゲイン

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(今までで一番書いたという点を除けば比較的)まともです。

どうも、作者です。
エアコンがぶっ壊れましたが私は元気です。
夏休み効果のお陰か読んで下さる人や評価が増えてめっちゃ嬉しいです。
これからもついででいいので評価とか感想とか、あとキーボードの不調の直し方についても教えてくれるありがたいです。
今回は以前募集したキャラの視点を纏めたものです。
参加してくださった方々、ありがとうございました。


そんな感じで今回も、よろしくお願いいたします。


まともな閑話だとでも思ったか?

【七星剣武祭】葛城浩太郎について語ろう【祝二連覇】

 

 

 

 

1:名無しの掲示板剣士

まただよ

 

2:名無しの掲示板剣士

草も生えんわ

 

3:名無しの掲示板剣士

無敵すぎる

 

4:名無しの掲示板剣士

まじ無理ゲー

 

5:名無しの掲示板剣士

基本攻撃が範囲系で転移も高速移動もしてくる伐刀者はお好きですか

 

6:名無しの掲示板剣士

好きなわけないだろ○すぞ

 

7:名無しの掲示板剣士

俺たちは何を見せられてるんだ

 

8:名無しの掲示板剣士

忍者の実在を示したしな

 

9:名無しの掲示板剣士

アイェエエエ!!ニンジャ!?ニンジャなんで!?

 

10:名無しの掲示板剣士

ニンスレ民……こんなところにもいたのか

 

11:名無しの掲示板剣士

てか実際こいつ倒せる学生騎士っているの?

 

12:名無しの掲示板剣士

分からん、もう全方位に対応可能って時点で意味わかんねぇもん

 

13:名無しの掲示板剣士

普通なら特化型か凡庸型にしかなれないもんな

 

14:名無しの掲示板剣士

そこを強引に魔力制御で解決したからやべーんだよ

 

15:名無しの掲示板剣士

大体の奴なら魔法をどうにかすればいいと思う

だが奴はそれすら想定の範疇だったということだ

 

16:名無しの掲示板剣士

俺氏一般伐刀者、決勝見てニンジャにジョブチェンジ希望

 

17:名無しの掲示板剣士

やめとけ

 

18:名無しの掲示板剣士

お前には無理だ

 

19:名無しの掲示板剣士

>>16

ちなスペックは?

 

20:名無しの掲示板剣士

伐刀者ランクはC、能力も軒並みCランクで霊装は鉈、固有は言っちゃうと身元ばれるから内緒

 

21:名無しの掲示板剣士

やっぱむりだわ

 

22:名無しの掲示板剣士

諦メロン

 

23:名無しの掲示板剣士

いっぺん○んでランクガチャし直せ

 

24:名無しの掲示板剣士

凡庸THE凡庸

 

25:名無しの掲示板剣士

それでどうやってニンジャを名乗れと?

 

26:名無しの掲示板剣士

山賊プレイやって、どうぞ

 

27:名無しの掲示板剣士

どおぉじでそ”んな”こというの~~~!!!

 

28:名無しの掲示板剣士

でもチャンピオンは攻撃も防御もランク低いんだろ?

何でそんなのであんなに殺意高いのできるん?

 

29:名無しの掲示板剣士

そりゃ固有能力のお陰よ

 

30:名無しの掲示板剣士

伐刀者の中でも最も珍しい概念干渉系で更にそれが『渦』だからな

 

31:名無しの掲示板剣士

それだと何がええのん?

 

32:名無しの掲示板剣士

お前今まで何を見てきたんだよ

 

33:名無しの掲示板剣士

ほんとにこのスレの人間か?

 

34:名無しの掲示板剣士

半年ROMれ

 

35:名無しの掲示板剣士

一年ROMれ

 

36:名無しの掲示板剣士

ggれカス

 

37:名無しの掲示板剣士

辛辣すぎ~

 

38:名無しの掲示板剣士

この流れ草生えるわ

 

39:KOUMEi

まあ落ち着けよ、ここは俺から説明するからさ

 

40:名無しの掲示板剣士

え、誰?

 

41:名無しの掲示板剣士

あなたは賢人兄貴!!

 

42:名無しの掲示板剣士

コテハン持ちとは珍しい

 

43:名無しの掲示板剣士

何!あの最強伐刀者考察スレの常連か!!

 

44:名無しの掲示板剣士

まじか……こんなとこにまで現れるなんて……

 

45:名無しの掲示板剣士

そんな有名人なん?

 

46:名無しの掲示板剣士

その界隈では有名人だぞ

 

47:名無しの掲示板剣士

結構どこにでも湧くって本当だったんだな

 

48:名無しの掲示板剣士

嗅ぎ付けてきたの?

 

49:名無しの掲示板剣士

犬扱いは流石に失礼なのでNG

 

50:名無しの掲示板剣士

ところで本日はどんなご用で?

 

51:KOUMEi

歓迎ありがとう

嬉しいが話を進めよう

 

52:KOUMEi

チャンピオンが何故あそこまで強いのか

確かに固有能力の存在は大きいだろう

しかし俺は彼の魔力制御に秘密があると推測している

 

53:名無しの掲示板剣士

早速始まったな

 

54:名無しの掲示板剣士

魔力制御すか、まあたしかに珍しいAランクだもんな

 

55:名無しの掲示板剣士

ほとんどいないんだっけ

 

56:名無しの掲示板剣士

大概低いというか剣王が高すぎるだけなんだけどな

 

57:名無しの掲示板剣士

そんで?

 

58:名無しの掲示板剣士

ああ見えて技量系ってことは知ってるけど

 

59:名無しの掲示板剣士

今さらだよな

 

60:KOUMEi

その当たり前とされてきたものを突き詰めた存在が今の七星剣王だ

今回の戦いで見せた近接戦闘は一見の圧倒的のように見えるが―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――……このスレダメね、陰謀論に変わっちゃってる」

 

 サイトで世間の反応を情報収集していたら思わず面白そうなスレッドを見つけた彼女は、それが最終的に政府の強化人間説に発展していくのを見てこれ以上は記事に使えないとしてそのページを閉じた。

 予想以上に議論が進んでいたため思いの外時間が経ってしまっていることを確認してからノビをし、疲労の溜まった体を解す。

 

「結局分かったのは、葛城浩太郎(チャンピオン)が異常ってだけね、でもここの住人たちには予想以上に受け入れられてる。英雄譚を好むのは男の(サガ)ってやつなのかしらね」

 

 匿名だから性別分かんないけど、なんて―――大手出版社の記者の一人である女性は呟いた。

 彼女は先日歴史的快挙を遂げた人物、『七星剣王』のタイトル防衛に成功した葛城浩太郎という人物に対する記事を書こうとしている。しかしそれは同業他社ならこぞってやっていることだ、他人と内容が被るような内容では雑誌が売れない。それでは駄目だと別視点から発想を得ようとこうしてネットの海に潜っていた。

 しかし結果は先程の通り、世の中馬鹿ばかりである。

 

「何が強化人間よ、そんなもんいるわけないでしょうが」

 

 あまりにナンセンスなその想像にため息を吐く。

 そんな存在が世の中にこうも世間で堂々と活動できるものか、しかも相手は天下の葛城―――『護国』の象徴ともいえる国の重鎮の一人息子。

 その幼少期があまりにも謎に包まれていることから様々な憶測が飛び交い一時期は養子説まで出てきたほどだ。だが邪推も邪推と父親本人が血縁関係を証明している、あの時の鬼のような顔は忘れようもない。直接関わったわけでもないのにジャーナリスト人生で一番に命の危険を感じたものだ。

 

「というか謎……そう謎なのよこいつ。全く分かんない」

 

 記憶の奥底に封じ込めていたトラウマに意識を乗っ取られそうになるのを頭を振って正気に戻し、本来の目的に集中を戻す。

 彼女がこの記事を書こうとしたのはジャーナリストとして目の前にある謎を解明したいという欲求に従ってのことである。

 

()()()()―――こいつの強さはっきり言って異常よ。いくらランクが見直されたとはいえそんなもの意味がないくらいに強い、それなのに誰もその異常に言及しない」

 

 誰しもがその輝かしい戦歴にばかり目を向け、それを成し遂げた力をどこで得たのか気にもしない。

 伐刀者の序列、力量差というのはそう簡単に覆りはしない。

 だがあいつはこれまで絶対とされてきたランクの差をああも簡単に飛び越えてみせた。

 何か秘密があるはずだ、そこに何かがあるはずだ。

 

 

 

 

 私はその異常の謎を―――お前の秘密を解き明かしたい……!!

 

 

 

「絶対に丸裸にしてやるわ……葛城浩太郎……!!」

 

 燃えるジャーナリズムに突き動かされるまま彼女は動きだす。ネットが駄目なら直接関係者に当たるまで、取材お断りがなんぼのもんだ。

 この行動が原因で後に編集長からお叱りを受けることになるのだが、そのことを彼女はまだ知らない。

 ただ真実を追い求め、彼女は颯爽と走り出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そしてそんな風に沸き立つ世間の裏側で、静かに蠢く巨影あり。

 

 

 

「……恐ろしい男だ、葛城浩太郎」

 

 暗い部屋の中、ライトに照らされた机の上に集められた資料を見つめながらそう呟いた壮年の男性。

 その資料には世間一般には明かされることはない、詳しい個人情報が細かく記載されている。

 それはあの伊座ノ上島での顛末を含めての、これまでのありとあらゆる行動を、だ。

 権力者たちによって巧妙に隠蔽され、明るみに出るはずのないこれらを手中に納められるのは、単純に彼がその誰よりも強大な権力を有しているからに他ならない。

 

「知るほどに私の決心を鈍らせる、本当に恐ろしい存在だよ君は」

 

 

 

 苦悩に顔を歪ませながら、しかしそれでも思考は止めない。

 全ては自身が見た最悪の未来を回避し、この世に降り掛かる災厄の芽を摘み取るため。そのためならばいくらでもこの手を汚す覚悟を決め、この数年密かに邁進してきた。

 彼こそ、この日本を統べる最高権力者―――総理大臣・月影獏牙(つきかげばくが)その人である。

 

 固有霊装『月天宝珠』が見せた未来予知、それをどうにかするために考えた末たどり着いた結論は【日本を大国同盟(ユニオン)に鞍替えさせること】

 そのためには国内の魔導騎士連盟に対する反感の意思を強くさせる必要があり、もう既に組織の編成も進んでいる。

 だがしかし、この選択が本当に正しかったのか。

 最近ではそんなことばかりが脳裏をよぎる。

 その原因が件の少年―――葛城浩太郎である。

 

「島での戦いから見て、彼があの時に【魔人(デスぺラード)】に到ったのは確実だ。だというのに、その後彼の魔力が増大したという記録はない。あたかもそんな事実はなかったかのように、学園での検査も極めて常識的な数値だ」

 

 あの事件の折自身も島へと訪れた。その時彼の霊装が持つ能力である過去視によって、何が起こったのかということを知っている。

 あらゆるものを消し飛ばし地盤をも操作するあの力、一人で成し遂げたというその行いはそれこそ人間技ではない。人の、伐刀者という枠を越えた存在―――己の限界を打ち破った覚醒者。

 それは月影が望んでやまない、破滅の運命を覆す者。

 だがどのような手段を使ったのか、彼はそれから普通の伐刀者として活躍をしている。

 

「成れば戻れぬ、それが【魔人】というもののはず。

 それが何故、どんな秘密が君にあるというのだ。

 もしくはそれは私でも計り知れない何かなのか?」

 

 月影は自分が揺れているのを自覚している。

 なまじ希望が示されてしまったことで、国民に負担を強いる計画に意味があるのかと。

 恐怖がある。

 迷いがある。

 もしかしたら自分が選んだ道は平和へは繋がっておらず、この行動こそがあの光景を生み出す結果になってしまうのではないかと。

 その切っ掛けを自分が作り出したのではないかと。

 

「……済まない双極、だが私とて止まれんのだ」

 

 

 

 ―――だからこそ、試させてもらおう。

 

 

 

 かつて共に理想を目指した友人へ、感情のない交ぜになった謝罪の言葉を溢し、それでいて萎えることのない激情をその息子に向ける。

 今年の決勝は彼を知る絶好の好機だったが、予想に反し簡単に切り抜けられた。魔法戦を封じる天敵相手でも更なる奇策で見事に打開してみせたのだ、あれで駄目なら公の場で全力を披露してくれることはないと見ていいだろう。

 彼が警察と合同で行っている闇組織の摘発、その時でも普段とそう代わりはしない。

 ならばもっと、もっと過酷な状況に彼を置き、その本当の力を明らかにするしかない。

 

「君が本当にこの国の希望となるのであれば、私如きの命いくらでも賭けよう。そのために私はいくらでも悪魔となり、君の障害と成り続けよう」

 

 だからどうか、見せてほしい。

 孤島の奇跡、神が如しあの御技をもう一度。

 そう願い、机の端末へと手を伸ばし連絡を取る。

 連絡先の相手との話し合いは長く続き、夜を経て朝日が窓に覗くまでに及んだ。

 そして通話が途切れた後、月影獏牙の瞳には一切の迷いを振り払った為政者としての冷たい光が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――というように国家の未来のために原作以上の決意を固めしまった男が誕生したことで、この先とっても大変なことに巻き込まれてしまうことになる二人の人物がいた。

 その内の一人は目の前の人物からの提案に頷くべきか否か、今まさに頭を悩ませていた。

 

「どうだね、君の能力であれば十分に勤めを果たすことができると思うのだが」

「いや、いくらあなたからの申し出だからといっても流石に了承しかねる。今の破軍学園はその地位を回復させ、学生騎士たちの実力も大したものだ。その状況でこれ以上のテコ入れは必要ではないでしょう」

 

 折角家族でバカンスに勤しんでいたというのに、こんなことに時間を取られたくないと内心で思いながらも無体にはできない人物の訪問に渋々対応する。

 何故なら学生時代の恩師の一人、あの葛城双極なのだから。

 そんな人物から『破軍学園の理事長にならないか』―――そんなことを提案されている。

 はっきりいって迷惑でしかないのだが、そんな彼女のことなどお構い無しに話を進める双極。

 

「滝沢……いや、今は()()()となっていたのだったね黒乃くん。しかしあの気の強かった君が家庭を持つなんてなぁ、時間が経つのは早いものだな」

「茶化さないでください先生!! あの頃は若かっただけなんです!!」

 

 そう、若かっただけなのだ。

 人様に明かしたくない黒歴史を握る恩師に対して強くは出れない黒乃、揶揄するような言い方につい冷静さを欠いてしまう。

 そんな様子すら懐かしいというように眉尻を下げる双極は改めて説明を始めた。

 

「今の破軍は確かに脚光を浴びている。しかしそれは、内部の動きを無視してのことだ。息子が直接指導をした生徒たちは今やランクなど関係なしにどんどんと強くなっている。

 それはあの御方が望む秩序から放れていくことに他ならん」

 

 双極が言うあの御方、それが魔導騎士連盟日本支部長・黒鉄厳であることは黒乃にも分かる。そしてその人物がこの状況を静観するかと言えば、そうでないことは明らかだろう。

 

「出る杭は打つ、特に自身の一族に連なる存在ともなれば……ということですか?」

「あの御方は秩序を遵守することこそが正義であると信仰している。そこに個人の感情を挟んでいないだけマシだが、だからこそ浩太郎にとって厄介であるとも言える」

 

 当主様はその点、手段を選ばん方だからな―――そう嘯く双極からは言葉以上に重いものを黒乃に感じさせる。

 

「今回のことで浩太郎が能力だけの伐刀者でないことを証明してしまった、そのことを当主様は許さんだろう。

 ありとあらゆる妨害が予想される、それからあいつを守るためには学園そのものを変えねばならん。そのためには体制そのものを改革せねばなるまい」

 

 

 

 ―――それを任せることができるのは、君をおいて他にないと思っている。

 

 

 

「……本当に、あなたという人は」

 

 流石は恩師といったところか、私がそう言われてしまうと弱いというのをよく知っている。

 言っていることは理解できるし、何より学園の体制変更は彼女も常々思っていたことだ。自身のネームバリューと恩師の後押しがあれば改革もスムーズに進むと予想できる。

 だが今の暮らしを投げてまで、やらねばならないことだろうか。

 二つの道を提示され悩む黒乃。

 暫し黙り込み、どちらの選択を取るべきか冷静に考える。

 しかし答えはすぐに出た。

 

「……私にも子供がいます。そんな人間の意見としては、将来ある若者が潰されてしまうのは御免被りたい。

 それが母校でのことともなればなおさらのこと。

 

 

 分かりました―――その役目、お引き受けいたします」

 

 後で夫に謝らなくてはならないなと思いながらも、またあの業界に関わることが出来る嬉しさもあって引き受けることにした黒乃。その言葉が聞きたかったと笑みを浮かべる双極、そして早速詳しい内容を詰めていく二人。

 後から来た黒乃の夫はその光景を見て戦々恐々としたという。

 この話し合いをしている二人の顔があまりにも嬉々としてし過ぎていたために、まるで鬼が晩餐の準備をしているかのように見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ―――一方で、そのもう一人である原作主人公黒鉄一輝はというと。

 

 

 

「……駄目だ、全然出来ない」

 

 与えられた部屋の中、目標とするところまでまるで到達できない焦りに襲われていた。

 学園側からの原作通りの妨害により独力での鍛練に邁進する他ない彼は一人、ある技能の取得に集中していたのだ。

 

「彼のはもっと均一で美しかった、これじゃあ穴ぼこのチーズじゃないか」

 

 体内を満たす魔力、それがまるで自分の思い通りに動かないということに歯噛みする一輝。

 最適と思う座った体勢で既に五時間以上、汗が服から滴り落ちるほどの集中力で毎日トレーニングを積んでいるがまるで改善の兆しがない。

 それも当然のこと、彼が会得しようとしているのはかの七星剣王・葛城浩太郎が今年の決勝で見せた【魔力による肉体制御】なのだから。

 彼はその前段階となる()()()()()()()()()()()()に苦心していた。

 何故なら最も不得意な分野、親に匙を投げられた伐刀者としての資質の部分が大きく関わってきているからだ。

 

「僕の魔力制御ではあんな風にできないことは分かっていたけど、それでもこんなに難易度の高いものだなんてね」

 

 見切りをつけたはずのものにここまで煩わされるとは、まずもって体内に魔力を納めるというのが彼には難しいのだが泣き言は言っていられない。

 これが出来ないからにはただでさえ遠い頂点への距離が更に遠ざかることになるだろう。

 

「あの一戦だけで彼はこの技術の有効性を見せつけた、誰もがこぞって真似をしたくなるような技術をだ。自分に挑むからには最低限このくらいはやってみせろと、そう言わんばかりだね」

 

 そしてその技術は彼の仲間を中心にして徐々に広まりつつある。

 特に居合いの達人・東堂刀華という先輩の上達具合は凄まじいと聞く、このままなら自分の唯一の伐刀絶技ですら通用するかどうか。

 だがそれは、自分にもまだ伸び代が残されているということ。

 これまで目を背けてきた自身の伐刀者としての資質、それに向き合う時が遂に来たのだ。

 

「……あの日の敗戦、忘れることはできないほど無様だった。

 でもそれは僕の未熟なだけであったことを、彼は今回の戦いで教えてくれた。初めから分かっていたことだったのに……誰よりも劣った僕はその分、強くなるためには誰よりも貪欲にならなければならないことを。

 少ない魔力が何だっていうんだ、それなら爪の先ほども無駄にしないようにすればいいだけのことじゃないか」

 

 

 

 ―――そしてそれが出来たとき、僕はまた一つ強くなることができるだろう。

 

 

 

「追い付く、なんて簡単には言わないよ。

 でも絶対にこの切っ先をあなたに届かせてみせる。その時に証明してみせよう―――

 

 

 

 ―――最弱の僕の、僕だけにしかない最強を」

 

 

 

 だから今は刃を研ごう。

 鋭く、重く、厚く、決して折れ曲がらない、そんな刃を。

 開いていた目を再び閉じる、もう一度魔力の流れに集中させ体の中に満たしていく一輝。

 遅々として進まないそれに辛抱強く耐え、体外の漏れ出す魔力を少しずつ、少しずつ体内に納めていく。

 まるで雲を掴むような感覚と格闘しながらの鍛練は時間を忘れさせ、意識が次第に朦朧としだす。辛うじて手放さないようにとするがそうすると魔力の制御が覚束なくなってしまうので、まるで綱渡りのバランス棒の先に変動する重りを乗せているような危うい感覚に襲われている。

 これまで何度となく繰り返し幾度となく失敗してきたそれ、しかし今までと比べほんの僅か、本当に僅かだが楽になってきている。

 たったその程度の成果だったが、浮き上がる嬉しさは格別のもの。

 だがそれに気を取られた隙に魔力の制御が乱れ、折角集めた魔力が散っていってしまい蓄積した疲労によって意識も暗闇の中へとフェードアウトしていく。

 

 

 

 そのまま床に倒れ伏していく黒鉄一輝、彼の顔には満更でもないというような笑みが浮かんでいた。自分はもっと強くなれる、そのことに希望を見出だしながら気絶するように眠っていくのだった。

 ただ、そんなことを考えていられる余裕があるのは後少しの間だけであると思うと実に憐れなことだが、そこは何とか自力で頑張ってもらうしかない。

 何故ならば君が倒そうとしているそいつはまだ変身を二段階残している、裏ボスより厄介な存在なのだから。

 今はただ、眠りに落ちるばかりの彼がこの先も健やかであることを祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――と、いうような感じで様々な転機を各々が迎え、徐々に舞台へと集まり始める役者たち。

 その中心に立つのは、目指すべき終幕(フィナーレ)のためにあらゆる障害あらゆる壁を突き穿ち、風穴を開けて押し通る螺旋の体現者。

 その彼が生み出した流れに、誰もが巻き込まれざる得ない。

 何故なら螺旋とは暴虐を振り撒く嵐であると同時に、全てを等しく飲み込む大渦でもあるのだから。

 抗い追い縋るか、はたまた溺れ死ぬか。

 それはまた、別のお話で。

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
初めて掲示板ぽいの書いてみたんですけどこんな感じでいいんですかね?
まあそれはともかく。
やけに長かった序章が遂に終わり、次回からようやく原作へ突入することになります。
どうなるかは私も知らん、出たとこ勝負だ。
出来るとこまではやるつもりなので、それまでどうかお付き合いをば。
それではまた一週間後に。

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