間違え続けた青春を、俺は終わらせた。それが正解だったのかは分からないし、どうでもいい。俺は何も失わなかったのだから。季節は巡り、気づけばあの日々は遥か遠く、過去のものに。あの頃は信じられなかった偶然に導かれ、出会ったのは英雄と呼ばれる少年。似ているようで、俺とは全く違う彼に、何を語るべきか。俺の青春の先にある、彼の物語。関わるべきではなかったその物語に、何をすればいいのだろうか。

 

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 きっと、本当はあり得なかった、そんなある出会いの話。


邂逅

 

 「ヒッキー!ゆきのん!こっちこっち」

 「由比ヶ浜さん、あまり大きな声で呼ばれると、少し恥ずかしいのだけど」

 「いいじゃん、別に。あっ、ほらゆきのん。あれ楽しそうだよ」 

 「ひゃっ。ちょ、ちょっと由比ヶ浜さん、引っ張らないで……、」

 

 今日も今日とて百合ヶは……けぷこんけぷこん、百合ヶ浜さんは通常運転。あれ、言い直した意味なくない?まあそれはそれとして、雪ノ下も顔赤いしなんか嬉しそうなんだけど。二人だけの世界が作り出されてもう他人の入る隙間なんてない……、あれ俺要らなくね?帰ろうかなあ……。

 

 「あー、ヒッキー何帰ろうとしてるし!!」

 「いやなんか二人だけで十分幸せそうだったから……、末永くお幸せに」

 

 凄まじいまでの棒読みでそう言うと、由比ヶ浜より雪ノ下が顔を赤くして俯いた。え、否定してくれないの?俺たち一応付き合ってるんじゃ……、あ、俺の勘違いか、いやなんでそんなまんざらでもなさそうな顔なのん?やっぱり百合ノ下さんだった……、

 

 「今なんだか凄く失礼なことを思われていた気がするのだけれど」

 「え、いや、何のことかぜんぜん全くワカリマセン」

 

 めっちゃ冷たい声で問いかけて来た雪ノ下に、焦って片言の返事を返す。というか雪ノ下さん鋭すぎない?あとさっきのしおらしい態度は一体どこへ……。そんなおちゃらけた思考に逃げる俺に、雪ノ下ははあ、とため息をついて、なんだかもじもじしながらこう言った。

 

 「い、一応世間一般的には私とあなたは……、その……、こ、恋仲にあるのよ?だから、あまりそういうことは言わないでほしいのだけど」

 

 やべえ俺の彼女超かわいい。……はっ、俺は何を!?八幡チョロすぎだろ……。しかしあれだな、ここまでの七百文字を読み返すと俺が柄にもなく彼女との遊園地デートに舞い上がっているのがよく分かるな。あ?なんでデートなのに由比ヶ浜がいるのかって?ばっかそりゃお前……、あれ、何で?書いてるやつに聞いてくれ。……おっと、メタい思考は止めておこう、後で苦労するのは作者だしな……。ちなみに由比ヶ浜は、お腹が空いたと言って近くの屋台に行っていた。まあ、優しい彼女のことだから、空気を読んで二人だけの時間を作ってくれたのだろう。気を使わせてしまったな、と心の中で反省する。

 

 「そ、それで、比企…谷君。あなたはどこか行きたいところはある?」

 「あー、まあなんやかんやでここには結構来てるし、明確に行きたいと思える場所はないかな……」

 

 まだ少し顔の赤い彼女の、遠慮がちな問いに、俺は、いつもと変わらない口調でそう答える。それで漸く本調子に戻ったらしい雪ノ下は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、口を開いた。

 

 「そこで私と一緒ならどこでも楽しい、と言えないのが比企谷君が八幡な理由なのよね……。」

 「八幡をヘタレみたいな意味で使うのやめて!?……というか俺がそんなこと言ったらドン引かれ……、」

 

 ―――サチ!?

 

 俺の反論の言葉は、突然割り込んできた声に遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナと、二人きりで遊園地デート。これが仮想世界ならば良かったのだが、リアルだとどうしても緊張してしまう。ネットゲームならば、そもそも何歳なのかなど解らないのだし、年齢を気にする必要も無かった。だから、アスナやリズベットといった年上の異性ともまともに会話できていたのだが、もしもあれがリアルだったら、まともにしゃべることすら叶わなかっただろう。現に、俺はリズベットのリアル、篠崎里香に学校で初めて会ったとき、つい敬語で話して笑われてしまったのだ。SAOでタメ口で接していた過去があるからか、今では対等に話せているが、それでも一度意識してしまうとどこか会話がぎごちなくなってしまう。そんな自身のヘタレぶりに思わずため息が漏れ、それを聞いたアスナが少し不満そうに口を開いた。

 

 「どうしたの?キリト君」

 「あ、いや。リズが年上だったのには驚いたなー、って」

 

 俺かそう答えると、アスナは若干呆れたような表情を浮かべた。

 

 「ちょっとキリト君。SAOから開放されてもう大分立ってるんだよ?

 まあ何となく君がリアルではリズに遠慮してるのは解るんだけど。」

 「え?バレてたのか……、気づかなかった。」

 「みんな気づいてると思うんだけど……。こないだみんなと女子会したときにシリカちゃんに愚痴ってたし。あ、しののんもALOだとすぐに触ってくるくせに、リアルだと肩が触れ合っただけでびくってなるのはどうかと思うって言ってたよ。」

 「嘘だろ……」

 

 どこからか、キー坊の意気地なし、と懐かしい声がきこえた気がして、思わず肩をすくめる。

 

 ―――桐ヶ谷君、

 

 そして、そんなことを考えていたからだろう。もう二度と、聞こえるはずのない彼女の声が、俺の名前を読んだ気がした。そもそも彼女は俺の本名など知らないのだから、空耳以外の何物でもないのだが。

 

 「キリト君?」

 「いや、何でもない。それより、アスナはどれに乗りたい?」

 

 束の間の感傷を振り払い、アスナに尋ねる。今このときを、精一杯生きること、それが俺の償いだと、彼女がそう言ってくれたのだから。

 

 「うーん、キリト君が先に決めていいよ」

 「俺が?どれがいいかな……」

 

 パンフレットを覗き込み、考え込む。やっぱり絶叫系か?観覧車は一番最後だと思うし……、お化け屋敷はアスナが苦手だから却下、と。そうやって、パンフレットに釘付けになって思案していたから、その声だけがやけにはっきりと聞こえたのだ。すれ違った女性が発した声。それは、紛うことなく彼女のもので……、

 

 「サチ!?」

 

 気づけば、俺は彼女とは似ても似つかないその女性に、困惑とも歓喜ともつかない声をかけてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あー、知り合いか?」

 

 目の前に立つ少年と雪ノ下を交互にみやり、そう訪ねた。

 

 「いえ、全く知らないわ。軟派……、でも無いみたいだけど」

 

 まあ、それはそうだろう。だって明らかに狼狽してるし、というかこれ女子が自分に話しかけてると勘違いして返事しちゃったときの反応だよな……。こいつ、多分同類(元ぼっち)だ。ちなみに元、だと判断した理由は、隣を歩いている女の子……、それもすっごい美少女、と手を繋いでいるからだ。ちっ、リア充爆発しろ。……あれ、何かどっかの独神に唾吐かれた気がする。それなんて平塚先生? いやほんとに良い人なんですよ誰かもらってあげて下さい。え、俺?いや俺には一応彼女が……、あれ、俺ってもしかしてリア充? やばい、爆発しないと。

 

 「あの、すみません。急に声かけてしまって」

 

 そんな益体もないことを考えていると、少年がそう雪ノ下に謝っていた。頭が下げられたことで、彼の長めの髪が一房たれた。雪ノ下と同じ、今どき珍しいくらいの、真っ黒な髪。そしてやはり黒色の、黒曜石のような輝く瞳。どこか少女めいたその容姿は、飛び抜けて整っている、というわけでは無かったが、人を惹きつける何かがあり、ついじっと見つめてしまった。その視線に反応したのか、雪ノ下にもう結構よ、と言われた彼は、頭を上げてこちらを見た。そして、俺の顔を……、特に目を見て、びくっ、と露骨に身を引いた。その反応に彼の恋人であるらしい少女も俺の方を向き、同様にひっ、と身を引いた。え、俺の目そんなにやばいのか?いや腐っているとはよく言われるが、そこまでビビられると流石に傷つく。助けを求めるように雪ノ下の方を見ると、彼女は顔を俺からそらし、口元に手を当てていた。やべえ、めっちゃ笑ってやがる。泣きたい……。

 

 「お待たせー!……えっと、その人たち誰?ゆきのんの知り合い?」

 

 と、そこで由比ヶ浜がチュロスを片手に戻ってきた。彼女はなかなかにカオスな現状に首を傾げてそう尋ねる。

 

 「いや、違うらしい。何かいきなり話しかけられたというか……。おい、お前はどうして雪ノ下をサチって呼んだんだ?」

 

 由比ヶ浜に曖昧な返事を返したあと、黒髪の少年にそう尋ねる。

 

 「あ、いや。知り合いに声が似ていて、、つい」

 「それだけにしちゃあずいぶん必至そうだったがな……、悪い、聞かないほうが良かったか?」

 

 顔を歪めた彼を見て、慌ててそう付け足す。多分、人には容易に話せない事情があるのだろう。そして、そういうことに他人が踏み込むのは褒められたことではない。

 

 「ま、何だ。俺も雪ノ下も気にしてないし、お前も気に病む必要はねえよ」

 「あ、ありがとうございます。すみませんでした」

 

 だから、それでおしまいだ。俺と、どこか不思議な雰囲気を放つ少年の邂逅は、これで終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………と、そう思っていたのだが。

 

 「……ど、どうも」

 「あ、ああ」

 

 気まずそうに会釈をしてくるのは、先ほどの少年だ。なんの因果か、軽く昼でも食うかと入った飲食店で鉢合わせたのだ。それだけなら良かったのだが、厄介なことに店員さんに「五名さまですねー」と流れるように案内されてしまった。結果、このようないたたまれない空気が完成してしまったのだ。あの店員、ちゃんと仕事しろ。そんなこんなで俺が何を話したものかとそわそわしていると、はあ、とため息をついた雪ノ下が口を開いた。

 

 「これもなにかの縁ね。そのサチ、というかたについて話してもらってもいいかしら」

 

 ばっ、と音がするほどの勢いで彼女の方を振り向く。それなりの、余人が関わるべきではない事情が彼にあるのは明らかだ。わざわざ聞くべきではない。そう思って俺は雪ノ下を止めようとしたのだが……。 

 

 「お、おい雪ノ下……、」

 「はい、いいですよ」

 

 え?と割とあっさりと頷いた少年の方を驚いて見る。い、いや普通もうちょっと渋らない?こう、内心でいくらか葛藤してからゆっくりと頷く、みたいなさあ。と、そんなことを考えていると、俺と同じく困惑した様子の彼の彼女が口を開いた。  

 

 「キリト君、いいの?」

 

 ん?何かどっかで聞いた名前だな。誰が言ってたっけ……。

 

 「人前では和人って呼べって言ってるだろ……、あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は桐ヶ谷和人です」

 

 そういえばまだ名乗ってなかったな。ぶっちゃけこのままだと作者がきつそうだしさっさと済ませよう。

 

 「俺は比企谷八幡だ。比べるに企てるに谷で比企谷、八幡は……、まあ、解るだろ?」

 

 ちなみに作者はひきがやだと一発変換出来ないからひきたにで変換してるがな、許すまじ。

 

 「雪ノ下雪乃よ」

 「あ、由比ヶ浜結衣です。よろしくね」

 「えっと、結城明日奈です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 とまあ女子たちも三者三様の自己紹介を終え、ようやく本題に入れる。

  

 「で、桐ヶ谷。本当にいいのか?」

 「はい、雪ノ下さんが言ったように、これもなにかの縁だと思ったので。

 それに、どちらかというと、こちらが話してもいいか尋ねるべきですからね。かなり重い話ですし、気分を害してしまうかもしれませんから」

 

 桐ヶ谷のその言葉に、雪ノ下は「別に大丈夫よ」と答え、話を促す。昔の俺なら、偶然も運命も宿命も、俺は信じないなんてカッコつけたことを言っていたのだろうが、今は、そういうのを信じてもいいかな、と思っている。ちなみに由比ヶ浜は桐ヶ谷の彼女、結城と楽しそうに話していた。流石コミュ力お化け……。そんなふうに俺が女子同士の会話に気を取られている間に、桐ヶ谷は話し始めていた。

 

 「まず、最初に。サチは、もうこの世にいません」

 「―――!!」

 

 一応予想はしていたが、それでも一人の人間が死んだ、という事実を聞かされることは、大きな衝撃を与えてくる。俺も雪ノ下も、先ほどまで結城と談笑していた由比ヶ浜ですら言葉を失った。そんな俺達を見やりながら、桐ヶ谷は寂しげな表情で続ける。

 

 「彼女は……、死にました。俺の目の前で。死因は、……脳を、焼かれたことです」

 

 その言葉に、俺達はまたも驚愕した。

 

 ―――脳を焼かれる。

 

 この世界有数の治安大国である日本では……、いや、どんなに治安が悪い国だろうと、そんな死に方はまずあり得ないだろう。

 だが、この日本の、二〇二二年から二〇二四年の間のみ、その死因はそれほどに珍しいものではなくなった。震える声で、雪ノ下が呟く。

 

 「SAO事件………」

 

 ―――ソードアート・オンライン。

 

 天才、茅場晶彦によって作られた、世界初のVRMMORPG、そして……、世界初の、()()()()()

 ネットゲームに疎い雪ノ下ですらその存在を認知していることから、その知名度は押し図れるだろう。四千人近い人々の命を奪った、二十二世紀の日本における最大のテロ。それが《SAO事件》事件だ。幸いにして、俺の知り合いが巻き込まれることはなかったが、テレビでそれが報道されたときは、あまりの現実味の無さに呆然としてしまったのを覚えている。そして、死亡率四十%という過酷なデスゲームから無事生還したもののことを……。

 

 「はい、俺とアスナは、《生還者(サバイバー)》です」

 

 桐ヶ谷は、はっきりとそう告げた。俺はその様子に気圧されてしまった。雪ノ下も同様で、由比ヶ浜に至ってはほええ、という間抜けな声を漏らしている。

 

 「え、由比ヶ浜知ってたのか?」

 「わ、私だってそれくらい知ってるし!!」

 

 だから、そんないつもどおりのおふざけに逃げてしまった。彼女は予想通り、ぷくー、と頬を膨らませ、本当に起こっているのかよくわからない表情でそう言う。

 

 「あ、あれだよね、《黒の剣士》。SAOをクリアしたすごい人」

 

 それを彼女が口にした瞬間、桐ヶ谷の顔が露骨に歪んだ。その表情のまま、彼は口を開いた。

 

 「別に、凄くもなんともないですよ」

 

 吐き捨てるような、そんな言葉。少しだけ和らいでいた空気が、完全に硬直した。由比ヶ浜が気まずそうに尋ねる。

 

 「き、嫌いなの?《黒の剣士》のこと」

 「好き、と言える日は絶対にこない、とは断言できますね」

 「キリト君!」

 

 嫌い、としか取れない答えを返した桐ヶ谷に、結城が咎めるような声を出す。彼は悪い、とは言ったものの、前言を撤回する気はないようで、そのまま続けた。

 

 「英雄だなんだともてはやされてるけど、ただ人より少しゲームが上手いだけのネトゲ中毒者ですよ。守りたいものの一つも守れやしない、口だけの……、」

 「キリト君!!」

 

 先程よりひときわ大きな声で、結城が桐ヶ谷の言葉を遮った。彼女は涙の滲んだ瞳で彼を見据え、口を開いた。

 

 「それ以上は、やめて」

 「悪い、アスナ」

 

 少し強めの口調で結城にそう言われ、桐ヶ谷は引き下がった。やや本題からずれている気がするが、雪ノ下はどうするのだろう、と思い彼女の方を見やると、厳しい表情で桐ヶ谷を見据えていた。

 

 「少し、いいかしら」

 

 有無を言わさぬ強い口調。まあ、こうなるのは予想できていたのだが。

 

 「仮にも自分の命を救ってくれた相手にそのような陰口を叩くのは、人としてどうかと思うのだけれど」

  

 きっと、真っ直ぐすぎる彼女には、桐ヶ谷の態度は許容できないものだったのだろう。命の恩人に対し、感謝ではなく嫌悪を抱くことは。でも、俺は気づいていた。彼女の言葉が少し的はずれであることを。彼の行為が、褒められたものではないのは間違っていない。その行為は、やはり彼女にとっては唾棄すべきものなのだ。俺は……、どうかは知らないが。

 

 「違います。彼はそんな人じゃ……、」

 「そんなに自分が嫌いか?《黒の剣士》」

 

 雪ノ下に反論しようとした結城を遮り、俺はそういった。四人の視線が集中するのを感じる。やだ、八幡照れちゃう。……気持ちわりいな。まあ、彼は陰口などは叩いていない。あれはただの自己嫌悪だ。貶していた対象は、一番近く……、すなわち自分なのだから。

 

 「……どうして、解ったんですか?」

 

 桐ヶ谷が、重々しい声でそう尋ねてきた。俺はその視線から逃げるように目を背けつつ、こう答えた。

 

 

 「いや、何となくそうじゃねえかな、とは思ってたんだ。で、さっきの結城の言葉で確信した」

 「どういうこと?」

 

 首を傾げながら由比ヶ浜が尋ねてくる。感のいい雪ノ下はすでに理解したらしく、ああ、なるほどね、と言わんばかりの顔をしていた。

 

 「ああ、彼女はさっきから黒の剣士を擁護したり桐ヶ谷を擁護したりどっちつかずだ。だが……、」

 「二人が同一人物だとすれば辻褄が合う、ということね」

 「いや人の台詞取らないでくれる!?」

 

 そこ一番おいしいとこだよね!?さすが雪ノ下さん、血も涙もねえ……。しかし、俺の目って黒の剣士にビビられるほど腐ってるの? 何それやべえ、眼科行こうかな……。あ、もう手遅れだって? 知ってるよ。

 

 「ああ…、なるほど?」

 「なるほど?って……。お前絶対ちゃんと解ってねえだろ」

 

 よくそんなんで就職できたな……。というか大学に行けた時点で驚愕が天元突破してるから今更か。

  

 「それで、《黒の剣士》……、いえ、この呼び方は気に入っていないのよね。桐ヶ谷君、でいいかしら」

 「はい。そっちは黒歴史のようなものなので……」

 

 そんなやり取りをしている間に、雪ノ下が桐ヶ谷にといかけていた。

 

 「桐ヶ谷君。貴方がそこまで《黒の剣士》だった自分を否定するのはそのサチ、という方が関係している、と言うことで間違いないかしら」

 

 その問いに桐ヶ谷は無言で頷くと、その女性との出会いや、自分のレベルを偽ってギルドに入ったこと、そして、その嘘を最後までつき続けたことで、その女性と彼女の仲間を死なせてしまったことを語った。その話の中の桐ヶ谷は、あの《黒の剣士》とはかけ離れた、臆病で卑怯な嘘吐きだった。桐ヶ谷が話し終えたあと、雪ノ下がゆっくり口を開く。

 

 「一つ、いいかしら?」

 「あ、はい」

 「貴方の話、全然フェアじゃない。そういうの、私は嫌いだわ」

 

 ―――やっぱりな。彼女の言葉を聞いて、思ったのはそんなことだった。雪ノ下の本意を理解できていないらしいキリトが少し気の毒なので、先程の意趣返しも兼ねて補足してやるか。

 

 「なあ、桐ヶ谷」

 「え?は、はい」

 

 突然俺に声をかけられたことで、動揺する桐ヶ谷に構わず続ける。

 

 「さっきの話だが、はっきり言ってフィルターがかかり過ぎだ。自分を彼女たちを死なせた……、いや、 ()()()()()()()最低の屑野郎だ、という認識で話しているせいで、お前が不利になり過ぎている。十人が十人、お前が悪いと断ずる程に、な。でも、実際は彼女たちにも落ち度はあったはずだ。そんな風に自分一人で、汚名も責任も全部背負い込もうとするやつが、俺の彼女は嫌いなんだよ。」

 

 柄にもなく、長々と説教を垂れてしまった。ん?何か雪ノ下の顔が赤い。風邪か?疑問に思っていると、由比ヶ浜が俺の耳に顔を寄せ、こしょこしょと何ごとか呟いてきた。いや、近い近い、もうちょっと離れ……、

 

 「ヒ、ヒッキー。今、ゆきのんのこと彼女って………」

 「あ」  

 

 やっちまったあぁぁっ!!やばい恥ずかしい死にたい!!これは今夜風呂場で絶叫からのベッドで布団にくるまりながらゴロゴロコース決定だな。黒歴史また増えちゃったよ……。それはそれとして、まだ言わなくてはならないことがある

 

 「ま、何だ。それがお前が自身を嫌う理由なら、それは違う。お前が成したこと、六千人もの人々を救ったことは何があろうと揺るがない事実だ。もっと自分を誇れ」

 「そうね、自分を卑下し過ぎても何の益にもならないわ。最悪この男のようになってしまうわよ。それは嫌でしょ?」

 「いやちょっと待て。さり気なく俺を罵倒するな!否定はできないけど!」

 

 本当にお前は俺をいちいち罵らないと喋れないのか?さっきのデレのんに戻ってくれぇ!……いや、別にそういうとこも嫌いじゃないが。むしろそこが好きなまである。

 

 「あの、口に出てますけど」

 「マジか結城ぃ!?」

 

 やばいやばい雪ノ下の顔がめっちゃ赤くなってる……。俺は一日にいくつ黒歴史を作れば気が済むのだろうか。というか俺たち付き合ってからもうかなり経つはずなのに、いつまでこんな初々しいやり取り続けてるんだ? 作者の都合ですかそうですかわかりました。

 

 「で、でも!」

 

 緩んだ上にぐだぐだになりかけた雰囲気を、桐ヶ谷の言葉が引き締めた。

 

 「俺じゃ……、なくてもよかったんです。他の誰にでもできたんです。たまたま俺が選ばれただけで……」

 「いや、それも違う」

 

 彼の言葉を断ち切るように、俺は口を開いた。

 

 「少なくとも俺には出来ない。たとえお前と同じ道を辿ったとしても、その世界で生き残ることも、ましてやゲームをクリアするなんてことは絶対に不可能だったろうよ。お前は、選ばれたんじゃない。掴み取ったんだ、お前自身の力で。過程に何があったとしても、その事実は何人たりとも、たとえ自分であっても、否定しちゃいけない。

 ……俺は、多分お前と似ている。心の中で、自分は救われなくていいって思っていて、一人で何もかもを背負い込んで、解決しようとして周りに心配をかける、そんなタイプの人間だ。俺は先送りするだけだったがな。だが、そのやり方はいつか瓦解する。誰かによりかかることを知れ。じゃなきゃ本当に、圧し折れちまうぞ」

 

 俺のように間違えてしまった人間が、英雄《黒の剣士》に何を偉そうに語っているのだと、自分でもそう思う。それでも、全てを一人で解決しようとして、失敗して、ようやく人を頼ることを知った俺だからこそ、彼に同じてつを踏んでほしくないと、そう言いたいのだ。そんな俺の思いが伝わったのか、桐ヶ谷はゆっくりと頭を下げた。

 

 「ありがとうございました。こんな俺に、親身になってくれて」

 「気にすんな」

 

 その言葉に少し恥ずかしくなって、そっけない返事を返してしまった。思えば、こんなに真っ直ぐ感謝を伝えられたことなどほとんど無かった。それを望んで人助けをしているわけではないと、昔の俺ならそう言ったのだろう。でも今の俺には、それがとても心地良く感じられた。

 

 「本当は、もうサチには許しをもらっているんです。彼女の言葉に支えられて、他にもたくさんの人に助けてもらったから、今の俺があるんです」

 「そうか……」

 

 彼もまた、その世界で本物を見つけたのだろう。俺が今更助言するまでもなく、挫けそうになるたびに、仲間と共に再び立ち上がった。間違えて、間違えて、結局最後まで間違え続けた俺達とは違って、どこまでも真っ直ぐに戦い続けたのだろう。

 

 「最後に、一つだけ、いいですか?」

 

 桐ヶ谷は、俺ではなく雪ノ下に向けてそう言った。

 

 「ええ、何かしら」

 「一曲だけ、ハミングでも構いません。歌を、歌ってくれませんか?」

 「歌……?」

 

 彼の言葉に雪ノ下は首を傾げる。まあ、突拍子もなくそんなことを言われれば、困惑するのは当然だろう。俺も桐ヶ谷の真意を図りかね、彼に視線を送った。

 

 「彼女が、俺に残してくれたメッセージで、『赤鼻のトナカイ』を歌っていたんです。もう一度だけ、彼女の歌を聞きたくて……」

 「いいわ。……録音の必要は、あるかしら。」

 「いえ、大丈夫です。いつまでも引きずるわけにはいかないから。それでも最後に一度だけ、未練を断ち切るために」

 

 そう言う彼の顔は、本当に寂しそうで、でも、揺るがぬ決意が見て取れた。雪ノ下は頷くと、誰でも知っているその曲のフレーズを、口ずさみはじめた。やがて、桐ヶ谷の瞳から涙が溢れ、結城が自愛に満ちた表情で彼の背をさする。そんな中俺は、歌い続ける彼女に目を奪われ、ただじっと見つめていた。雪ノ下が歌い終え、涙を拭いた桐ヶ谷が口を開く。

 

 「ありがとうは、こっちの台詞だよ……」

 

 万感の思いがこめられたその言葉は、ここにいる誰でもなく、遥か遠い場所にいるであろうその女性に向けたものだった。彼は、その感傷を振り払うように顔を上げると、俺達にもう一度頭を下げた。

 

 「ありがとうございました。俺のわがままに付き合ってくれて。邪魔してしまってすみませんでした。俺たちは、もう行きます」

 

 そう言って立ち上がった桐ヶ谷と一緒に、結城も席を立った。引き止めようとした由比ヶ浜を制し、俺は口を開く。

 

 「じゃあな。俺の言葉、一応胸に留めておいてくれ。雪ノ下の歌のついでくらいでいいから」

 「はい、きっと忘れません。本当にありがとうございました。さようなら」

 

 桐ヶ谷と結城は、そのまま去っていった。おそらく彼らとは、二度と会うことは無いだろう。なぜか、そう確信した。

 

 きっと俺たちは、似ているようで全く違う。間違いだらけの青春の中で、本物を見つけた俺と、こことは別の世界での冒険の中で、本物を見つけた彼。二つの物語が交差することはあり得ず、たとえ交わったとしても、変わることはない。俺の探し求めた本物は彼の物語には無く、彼が見つけた本物もまた、俺の物語には無い。どこまで間違えようと、俺がいた場所は日常で、どれほど王道だろうと、彼が過ごした世界は非日常なのだから。

 

 「でも凄いね。あの黒の剣士と会えるなんて!」

 「ああ、思ってたよりずっといいやつだったな」

 「でも、彼はきっとその名前で呼ばれることを望まないのでしょうね」

 

 そうだな、と頷く。恐らくあのキリト、という名前。あれこそが、かのデスゲームをクリアした、英雄と呼ばれる少年の、本当の名なのだろう。ん?そういやキリトってどっかで聞いた……、あ。

 

 「材木座がやってるVRMMORPGにキリトっていういつも女の子数人引き連れてるモテまくりのめちゃくちゃ強いやつがいるって……」

 

 前言撤回、今すぐ追いかけよう。

 

 「ハーレムリア充爆発しろぉ!!」

 「いい雰囲気が台無しだ!」

 「そもそも貴方人のこと言えないじゃない。」

 

 聞こえない聞こえなーい、八幡全く身に覚えがありません。え、そもそも女の子二人連れで遊園地行ってる時点で有罪だって?いやこれは作者の都合というか、あれ、メタい言い訳を重ねてたら雪ノ下が顔を赤くしながら何かを呟いた。

 

 「本当に貴方は……、久しぶりに格好いいところが見れたと思ったのに」

 

 難聴系主人公でもなんでもない俺にはその呟きがはっきり聞こえた。い、いやべべべ、別に照れてなんかないし!!戸部ってもいないし!!

 

 「ヒッキー、で、どこ行く?」

 

 まあ、色々あった気がするが、今日はまだ昼だ。せっかくのデートなのだし、楽しまなければ。由比ヶ浜の言葉に賛同し、雪ノ下と一緒にパンさんでも見に行くか、と思った。今回は楽しく三人で喋れるといいな。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ……八幡書くの難しい。

 どうも、読書狂です。知ってる人の方が少ないですかね。
 連載の方ほっぽってこれ書いた理由は、比企谷と桐ヶ谷って響き似てるよなー。ワンチャン聞き間違いあるくない?声優さんいっしょだし。というわけです。訳分かんないですね。でも八幡に「そんなに自分が嫌いか」って言わせたかったんだぁ!!

 実際あの二人、結構似てますよね。本質だとか性格とかはあまり似てるわけではないけど、卑屈で(八幡は自分のこと好きと言ってるけど)、コミュ症拗らせてて、自己犠牲多めで。表面上は似ていて、根底は違う、みたいな感じでしょうか。クロスが多いのもわかります。ただ、本小説で八幡が言ったとおり、SAOに彼が行ったところで何もできないでしょう。精々が自分を犠牲に一人が二人を助けられるかどうか。それも常人には真似できないんでしょうけどね。

 一応考えてみたのは軽度のFNC持ち、というのです。本能が一切機能せず、理性によってしか行動できない、ノーチラスの逆ですね。陽乃さんが一度「理性の化け物」と八幡のことを評したことがありますしね。その後「自意識の化け物」になりましたが。

 ちなみに明日奈さんがいる理由は私がキリアス史上主義だからです。ガハマさんがいるのは、私が奉仕部史上主義だから……というのもあるんですが、会話の流れで自然に黒の剣士の話に持っていくためです。他のキャラだと上手く行かなくて……。八雪最高!!ガハマさんも大好きです。あの三人のやりとりは超尊いです。

 タグにあるとおり、時系列はあまり気にしないでください。本文でもあるように、八幡たちは社会人、キリトさんたちは学生、と認識してくださると助かります。

 時系列的にアリシゼーション以前→折れる前
 アリシゼーション後→折れた後なので色々と変化はあるんですけどね……。

 
 それでは、読んでくださった皆様に、精一杯の感謝を……。ありがとうございました。

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