あ、いや、ごめんなさい、怒ってる??
呪術廻戦に浮気してたの怒ってる??
支部で呪術廻戦を書いて、そっちもサボったの怒ってる??
どれほど時間が経ったのか。
私は目が見えないから日が昇っているのかも分からないし、銀が傍にいないと眠くもならないので体内時計でおよその時間を図ることが出来ない。唯一測れる腹の体内時計も、定期的にご飯が運ばれてくるので機能しない。でも、人間の一日三食の定義から則り考えると、食事が運ばれてきたのは五回なので、三日か二日は経っていると思っている。
ここはどうやら警察署らしい。桂さんたちといたのが駄目だったのか、爆弾の処理を荒手でしたのが駄目なのかは分からないが、私と銀たちは連行されてしまった。もし後者だった場合、私はあの三人になんと言って謝ればいいのか・・・。
「美桜さん。もう終わりですから出口に案内しますね」
「あ・・・はい。ありがとう、ございます」
家には帰してくれるようだ。私は聞かれたことには素直に答えたし、銀たちが何かやらかしてなければいいのだが。まあ、新八もいるし大丈夫だろう。
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=side:銀時=
勢いをつけて【大江戸警察所】と書かれた看板を蹴る。本当のことを話しているのにありもしない事を聞かれ話され、その八つ当たりだ。
「美桜が命張って爆弾処理したってのによォ。三日間も取り調べなんざしやがって、腐れポリ公。三日美桜に会ってないんだけど話してないんだけど触ってないんだけど」
「怖いですよ・・・。もういいじゃないですか。テロリストの嫌疑も晴れたことだし。美桜さんもすぐ出てきますよ」
確かに俺たちが出てきて美桜が出てこないってことは無いだろうが・・・。離れていた時間が時間だ。心配すぎる。つーか何で離したんだよ。意味がわからない。
「あ〜・・。ぜってぇ寝てねぇよなァ」
「それ、美桜姉のことアルか?」
「さすがに三日も離れてれば寝てますよ」
新八の言葉に神楽は頷く。が、俺は断言できる。寝てない。絶対に寝てない。美桜と暮らし始めた時、俺がどれだけ苦労したと思ってんだ。嫌ではないが、あそこまで来ると目が離せなくて仕方ない。おかげで俺の生活基盤が修正されつつあるのだ。
「ん〜や。絶対に寝てない」
「なんで言いきれるネ?」
「美桜は俺がいねェと寝れねェんだよ」
逆に俺がいればどこでも寝るが。それこそ、車の中でも定食屋や居酒屋でもだ。そのかわり、少しでも離れる動作をすると目を覚ます。自分が美桜にとって安心出来る居場所であれるのは嬉しい。だが、それが美桜にとっていい事なのかは別だ。これから生きていく上で不本意ではあるが今回のように離れてしまうことはあるだろう。その時々に寝れないのは美桜の体に良くない。
「あ!美桜さん出てきましたよ!」
新八の言葉に、神楽と共にバッと警察署の出入口を見る。警察の人に案内されながらこちらへ向かっているようだ。到底待つことなどできるはずもなく、三人で美桜の元に駆け寄った。
「美桜!!」
「美桜さん!/美桜姉!!」
声が聞こえたんだろう。前を見ていても焦点があっていなかった瞳が、自分を捉えた。その顔からは、目に見えるほど疲労が溜まっているのがわかる。予想通り寝れてないな、コレ。
「大丈夫だったか?変なことされてねェか?」
「ちゃんとご飯食べてたアルか?」
「・・・大丈夫」
「ほら二人とも落ち着いて。美桜さん困ってるじゃないですか。それに、警察の人たちがそんなことするわけないでしょ?」
全然全くもってこれっぽっちも大丈夫ではなさそうな美桜を見て、新八がなんか言っている。これだからチェリーは。
「分かってねェなァ新八。よく見るだろ?警察もののエロ同人しかり、ビデオしかり。今どきの警察に節度なんで言葉はねェんだよ」
「そうアル!ましてや美桜姉は美人ネ!そこらの男どもが放っとくハズないアル!」
「あんたら再逮捕されても知りませんよ!?ココ警察署の前ですからね!?」
「???」
状況を理解出来ずに首を傾げる美桜。可愛い。今腕の中にいる美桜こそが可愛いの定義。異論は認めん。絶対定義。
ちなみにこの会話が行われている間、美桜は腕の中で頭を撫でられている。余程疲れていたのか、珍しく体重を預けられてる。軽いから負担にはならないし、密着できるからオールオッケー。
「はァ・・・にしてもスッキリしねェ」
門をくぐって道に出るも、胸のモヤモヤがどうしても消えない。全部美桜と引き離しやがった腐れポリ公のおかげである。本来ならば腹いせにションベンでもかけてやりたいところだが、美桜に手を繋いでもらえなくなりそうだし、嫌われそうなので我慢する。
「そうアルな・・・。よっしゃ私ゲロ吐いちゃるよ」
「器の小さいテロすんじゃねェェ!!・・・・はぁ、まったくもう。じゃ、僕は先に帰ります」
新八はそう言って背中を向けて歩き出した。オイオイ、ツッコミがいなくなっちまったじゃねェか。
❀side:美桜❀
「ん。ありがとう新八」
新八が帰って行った方に視線を送り、銀たちの方に意識を戻した。寝てないせいか、感覚が鈍ってる。前なら三・四日くらい寝なくても平気だったのだけれど、やはり体がなまってきているようだ。
銀と神楽が何やら騒いでいるのも、どこか遠くでくぐもって聞こえる。そんな賑やかな音の中、甲高い笛の音が一つ。
「ん?」
「・・・?」
不思議に思って首を傾げると、塀の上から人が飛び降りてきた。上手く足を曲げて着地したようだ。が、場所が悪かった。ちょうど神楽が吐いたモノの上に着地をしてしまったのである。案の定滑って後頭部を強打していた。
「いだだだだだだ!!それにくさっ!!」
恐らく脱獄犯なのだろうが、ここまで不運が重なると同情心の方が勝る。声からして男だろう。
男が痛がる間もなくもう一度笛の音が鳴り響き、中からぞろぞろと人が出てきた。
「オイ、そいつ止めてくれ!!脱獄犯だくさっ!!」
「はィ?」
警察の方らしい。
にしても、周りがこれだけ臭がっているのに、私は特に鼻を摘むほどではない。やはり五感が鈍っているらしい。
ボーッとしている間に車に乗せられ、いつの間にか揺られていた。銀が運転するようなので、さすがに膝には乗れない。助手席に座って銀の片手を握ったまま、私は意識を手放した。
「みなさーん。今日はお通のライブに来てくれて、ありがとうきびウンコ!」
「「「「とうきびウンコォォォ!!」」」」
「っ・・・」
寝起きの頭と耳には些か厳しい騒音。それが部屋いっぱいに広がった。
咄嗟に空いている方の手を頭に添える。
「大丈夫か?」
「・・・大じょうぶ」
「ダメそうだな。少し待ってろ」
「ん」
頭にガンガン響く少女の声と、それに呼応する観客の声。正直、かなりキツい。銀の手を握って何とか耐える。
「なんだよ、コレ」
「今、人気沸騰中のアイドル、寺門通ちゃんの初ライブだ」
再確認である。
彼は脱獄犯。ここは
つまり、この人の目的は好きな女性の初舞台を見ることだったのだ。人生をほとんど棒に振って。
「てめェェェ!人生を何だと思ってんだ!!」
銀のかかと落としが綺麗に決まった。
私とて同じ気持ち。一時の娯楽のために仕出かすには事が大きすぎるだろうに。
本当に一時の
「一時の京楽のために人生棒にふるつもりか。そんなんだからブタ箱にぶち込まれんだ、バカヤロー」
「一瞬で人生を棒にふった俺だからこそ、人生には見落としてはならない大事な一瞬かあることを知っているのさ」
それが女の追っかけか。一周まわって清々しい。
男は開き直ったかのように立ち上がり、再び声を上げ始めた。
「やってらんねェ。帰るぞ」
私の手を引いて、出口であろう方向に歩き出す。その言葉の相手には神楽も入っている。
「神楽?」
「え〜。美桜姉、私もうちょっと見たいんきんたむし」
「影響されてんじゃねェェェ!!」
「? いんき「言わなくていい!!繰り返さなくていいから!!」???」
肩を揺すられ、言葉を遮られた。何なのかを聞こうとしただけなのだが、口に出すのもダメらしい。
不思議に思っていると、グチャグチャな音の中から聞きなれた声が微かに聞こえた。
「銀」
「何だ?」
「新八の声がする」
「はあぁ?マジかよ・・いくらなんでも──」
ここにはいない、そう続けようとしたのだろうが、生憎とすぐに発信元が分かった。
「もっと大きい声で!!オイ、そこ何ボケッとしてんだ!声張れェェ!!」
間違いなく本人である。いつにも増して気迫が凄いが、間違いなく本人である。
ここまで何かに熱中している新八を見るのは初めてかもしれない。そう思っていると、銀が私の手を引いて歩き出した。足の向く先は新八だ。
「すんません隊長ォォ!!」
「オイ、いつから隊長になったんだオメーは」
「俺は生まれた時から、お通ちゃん親衛隊長だァァ!!」
一人称が変わっている。どれだけだ。さすがに趣味の勢いで一人称が変わる者は見たことがない。
「って・・・ギャアアアア銀さん!?美桜さんも!?なんでこんな所に!?」
「こっちが聞きたいわ。てめー、こんな軟弱なもんに傾倒してやがったとは。てめーの姉ちゃんになんて謝ればいいんだ」
「僕が何しようと勝手だろ!!ガキじゃねーんだよ!!」
警察署の前でピリピリしていたのは、これが原因か。一人称どころか根っこの口調まで豹変してしまっている。
新八のあまりの変わりように驚いていると、グチャグチャした音の中から落ち着いた足音が聞こえてきた。
「ちょっと、そこのアナタたち」
場所と声の向きからして、私と銀に言っているらしい。
「ライブ中にフラフラ歩かないで下さい。他のお客様の御迷惑になります」
女性のようだが、この歌と踊りのために見回りしていたのだろうか。だとすれば、仕事熱心、もしくは余程歌っている少女を大切に思っているのだろう。
「スンマセン、マネージャーさん。俺が締め出しとくんで」
「あぁ、親衛隊の方?お願いするわ。今日はあの
初ライブの前から親衛隊ができているとは。というか、口ぶりからして新八が作ったのかもしれない。そうなると、初ライブ前からの古参ということだ。この女性が安心して任せるのも無理はない。
そんなことを考えている中、うるさい中で群を抜いてうるさい声が再び耳に届いた。
「L・O・V・E お・つ・う!!L・O・V・E お・つ・う!!」
それは女性も同じなようで、脱獄をした男の方を見た。そして一度息を飲み──
「・・・・・!!・・アナタ・・・?」
──そう呟いた。
とはいえ、どういう事なのか私には分からない。頭が全く回らない上に、うるさい音で妨害されすぎている。なので、銀に聞いてみることにした。握っている銀の袖を引き、首を傾げて復唱。
「?? アナタ?」
「ングッ・・」
銀が突然変な声を上げて崩れ落ちた。何がどうしたというのだ。私は別に何もしていない。
「美桜さん何やってんですか。そんなん銀さん死ぬに決まってんでしょ」
「?? 何もしてない」
本当に何もしていないのだが、起き上がってもフラフラしている銀と一緒に会場外へ押し出された。本当に締め出されるとは思っていなかったので、正直驚いた。しかし、うるさい部屋から出れたのは素直に嬉しいので文句はない。
ちなみに男は女性に締め出されたらしく、何かを話しているようだ。
「あなたが好き勝手生きるのは結構だけど、私たち親子のように、その陰で泣きを見る者がいるのを考えたことある?消えてちょうだい。そして二度と私たちの前に現れないで」
余程の過去があるようだ。
女性の言葉には、私にも刺さるものがある。好き勝手に人を殺して食らう鬼共。その陰では必ず涙を流す者がいる。血を流す者がいる。その事実を私は知っている。
「アレ?ここドコだ?」
「銀、大丈夫?」
どうやら正気を取り戻したらしい。意識が定まっていない状態の時に締め出されたから混乱しているようだ。
「あ、あぁぁあ・・思い出した。大丈夫、大丈夫だから安心して。あと、家帰ったらもう一回言って」
「ん」
それくらいいくらでも言うのだが、その度に意識を飛ばされるのは困る。やはりやめた方がいいだろうか。
「あの娘に嫌なことを思い出させないでちょうだい。父親が人殺しなんて」
女性は去っていった、重い足枷のような言葉を置いて。
不意にどこからかガムを取り出した銀は、それを口に放り込むと、私の手を引いて歩き出した。どうやら、銀も女性の言葉を聞いたらしい。
男の横に座り、スッとガムを差し出した。
「ガム食べる?」
「んなガキみてーなもん食えるか」
「人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねー事だよ。美桜は?食べる?飴もあるけど」
「飴食べる」
「はいよ。ほら、あーん」
「ん」
銀の方へ口を開けると、丸いものが舌に転がされる。今日はいちごだ。コロコロと転がしながら、銀と男の会話に耳を傾ける。
「まァ娘の晴れ舞台見るために脱獄なんざ、ガキみてーなバカじゃないとできねーか?」
「・・・・・・・・・そんなんじゃねェバカヤロー。昔、約束しちまったんだよ」
静かに男は語り出した。
なんでも、あの歌っていた
彼女がまだ幼かった頃に、必死に歌の練習をしていたところに茶々を入れたところ、絶対に歌手になると宣言された。その頃の彼女の歌は聞けたものではなかったらしく、男は『歌手になれたらバラを百万本を持って一番に見に行く』と約束したらしい。
「覚えてるわけねーよな、十三年も前の話だ。いや、覚えてても思い出したくねーわな、人を殺めちまったヤクザな親父のことなんかよォ。俺のおかげで、アイツがどれだけ苦労したかしれねーんだから。顔を見たくねーはずだ」
どこか自嘲を含めた声。
この男は、交わした約束を人生を棒に振ってまで果たしたかったようだ。
「・・・・帰るわ」
そう言って男が立ち上がった時、僅かに様々な声が聞こえた。どうやら、会場に繋がるどこかの扉が開いたらしい。それが歓声ならば、なんら問題はなかったが・・・
(悲鳴・・・?)
鈍っている鼓膜が捉えたのは、微かな悲鳴と大きな物音。
何かあったのではと銀の袖を引こうとすると、
「銀ちゃーん!!美桜姉ぇー!!」
「神楽?」
神楽が凄いスピードで駆け寄ってきた。どうやら、扉を開けたのは神楽だったらしい。
「どした?」
「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れ出してポドン発射」
「??」
聞き取れるには取れるのだが、語尾につられて頭が混乱する。首を傾げていると、ガッという音と共に神楽のくぐもった声が聞こえた。どうやら、銀が神楽の語尾に腹を立てたらしい。事実、分かりにくかった。出来れば普通に話して欲しい。
「いや、あの会場にですね。天人がいたらしくて。これがまた厄介なことに食恋族・・・興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」
いつもの語尾が嘘のように流暢に話し始めた。
しかも──
「ほ、しょく・・・」
捕食・・・食べる・・・食べられる・・・喰われる・・・
──鬼──
耳を劈く悲鳴、赤黒い血、肉を切り裂く音。
あらゆる記憶と経験が──過去の情報が掘り起こされる。
もちろん、殺意もともに。
自然と腰の木刀に手が行き、ギリギリと柄を握りしめる。少し開いた口から、呼吸音が漏れ出た。
憎い。殺さなければ。救わなければ。刀を握れ。鍛錬を怠るな。力をつけろ。守れ護れマモレ。
包み込むような温もりに、ハッと気を取り戻す。私は銀に抱きしめられていた。同時に頭と背を撫でられ、耳元でゆっくりと声が注がれる。
「はいはい、美桜ちゃん落ち着いて」
「・・・・」
「大丈夫、ここにはいねェよ。だから、落ち着け」
男と神楽の気配がない。先に会場へ向かったのだろう。銀は私を心配して残ってくれたようだが。
腕を銀の背中に回し、ギュッと力を込める。胸元に顔を押し付けたまま、深く深呼吸をした。
「・・・ん、大丈夫。行こ、銀」
「だな」
銀としっかり手を繋ぎ、二人で会場へ向かう。大丈夫、向かう先に恐怖はない。悲鳴はあれど、血は流れていない。まだ、間に合う。
「あ、でも、その前にちょっと寄り道ね」
「・・・・・ん」
間に合う、よね・・・・?
「いけェェ!僕らもお通ちゃんを護れェェ!!」
寄り道を終えて会場に着くと、新八の声が聞こえた。足音の数が多いので、複数名が走っている。彼らが向かう先は一点に集中しているので、食恋族というのが誰なのかは自ずとすぐに分かった。
「美桜、ここにいろ」
「・・・行く」
「ダメ」
「行く」
「本調子なら少し、砂粒くらいなら考えた。でも、明らかに具合悪いだろォが。今回は絶対ダメだ」
痛いとこを突かれて、挙句にほじくり返された。さすがに食い下がるのは難しい。爆弾の件でも正座で説教されたばかりだし、ここは大人しくしておこう。
「・・・ん」
渋々頷く。これでもかという程に渋々感を出して、渋々頷く。
「よし。動くなよ、絶対だからね、フリとかじゃないからね、いい?絶対だよ」
信用が無さすぎではなかろうか。そこまで言われると動きたくなるのが人間の性だと知らないのか。我慢するけども。
頭の中でブツブツと文句を言っていると、気持ちの悪い悪寒が私を包んだ。恐怖とか威圧感とか、そういうものではなく、単純に気持ち悪い。
「あれぇ、君も可愛いねぇ。僕と胃袋で一つになろう」
率直に言って鳥肌である。食べられる、食べられている、というのがトラウマな私に対して、“胃袋で一つになろう”などと。本来であるなら即座に首を切り落としているところだ。
「おい。何俺の女に手ェ出してんだ」
いや、まだ出されていない。
「いい度胸してるアルナ。私の前で美桜姉襲うなんて」
いや、だから何もされてないって。
少し見られただけなんだが。あることないこと全部食恋族のせいにする気か。どちらにしろ有罪だが、罪を増やしてやるな。何も口出さないけれども。
衣服の上から腕を摩っていれば、大きな音が会場全体に響いた。考えずとも察しは着く。軽やかな走る音が聞こえて、私の元へ寄ってくる。
「美桜姉、大丈夫アルか?アイツは銀ちゃんと殴り倒したから、もう安心ネ!」
「・・・ん、ありがとう」
食恋族の方が無事かはさておき、神楽にも銀にも怪我はないようだ。私の周りには、体が丈夫な人が多くて何より。血気盛んすぎるのは考えものだが。
「おっさん」
銀が何かを投げ、こちらに向かってくる。そして、向こうに背を向けたまま話し続けた。
「そんなもんしか見つからなかった。百万本には及ばねーが、後は愛情でごまかして」
銀が投げたのは寄り道した時に摘んできた花。バラほど高貴な花でも、百万本なんて数もない。
たった三輪のタンポポだ。
銀は三人の顔を見ることなく、背を向けたまま、会場を後にした。私は銀に手を引かれるがままについて行き、私たちに新八と神楽も続いて会場を出た。
タンポポの花言葉は『別離』
そして、『真心の愛』
大丈夫、離れても愛は伝わる。
心からの愛なら、本当に伝えたいと願うことなら、きっと───
万事屋に帰ってきて、神楽はすぐに寝てしまった。慣れない環境に三日も身を置いていたのだから、疲れていたんだろう。新八は途中で別れたから分からないが、あれだけ大きな声を出して動いていたから神楽とそう変わりはないはずだ。
私と銀も似たようなもので、帰ってくるなり神楽との挨拶もそこそこに布団へ倒れた。お風呂も夕飯のことも考えることなく、そのまま。
「・・・・んぅ」
睡魔に引きずられて、意識が途切れ途切れになる。三日間寝ていなかった反動が一気に来た。
「おつかれさん。ゆっくり休みな」
「ん・・・」
頭を引き寄せられて、背中に腕を回される。いつもの寝る体制だ。そう、いつもの日常だ。今日は銀も疲れているはずなのに。
「・・・・ぁ・・・りが・・と・・・」
背中と頭を撫でられているのを感じながら、何とか絞り出した言葉は届いたか分からない。
体を包む睡魔に引きずり込まれて、私は意識を手放した。
体をより強く抱きしめられていることに気づかぬまま。