作者は日本語を勉強中のため、至らぬ点が多くあると思いますが、この大変な時期に少しでも暇つぶしにしてもらえればうれしいです。
※本作はメガネコ様の作品に大きく影響を受けて書いたものです。話が似ている点が多々出てくると思いますが、ご了承ください。
メガネコ様には快く承諾を頂き、本作を書かせてもらっています。
めぐりside
何時からだろう?
人の違いを意識しなくなったのは。
みんなが特別なヒトを見つけているのに、私は未だ見つけられていない。
高校三年間の内に≪そういうもの≫が見つかると考えていたのに。
気持ちの良い朝とは言えない土砂降りの空模様の中、学校へ向かう道すがらふと考える。
「特別なヒトって何だろう?」
私のボヤキは傘を打つ雨の音にまぎれ、誰にも知られずに消えていった。
歩くたびに規則的にびちゃびちゃと音を立てて水が跳ねる。
沢山の高校に向かう生徒がいる中、歩くときに立てる音すら人によって違うのに。その違いにすら目を向けなくなったのはいつからだろう。他人から求められる姿に応えるために、今の城廻めぐりが出来た。水溜りに映る自分の顔は、なんだかのっぺらぼうみたいに無機質だ。
私は誰にも「本当の私」を向けることはないのかもしれない。
そんな事を考えながら歩き、気づくと学校まで後わずかの交差点。歩行者信号が点滅し赤に変わる。
凝り固まった思考をほぐすために、小さくため息をついた。季節は秋から冬に向かう時期。ついたため息が白くなる。いけないいけない。このまま学校につけば、いつもの私じゃないと皆が気にしてしまう。持っていた傘を一度肩にかけ、手でぺちぺちと自身の頬をさわる。立ち止まった交差点の水溜りに映る顔は、もう無機質な私じゃなく≪いつものわたし≫だ。
青信号と変わり学校に向かうために歩いていると、傘もささずにトボトボ歩いている学生を見つける。制服からして男の子だろう。身長は高めで黒髪。それ以外はずぶ濡れで、まるで捨てられた野良犬の様だった。こんな時に傘もささずに行くなんて、途中で傘が壊れてしまったのだろうか?なにか困っている事でもあるのかもしれない。
きっとみんなが知る城廻めぐりなら、手を差し伸べるのだろう。だからこそ、私は目の前の
生徒にやさしく声をかけた。柔和な笑みを浮かべながら、相手を真剣に思いやっている風に見えるように。
「どうかしたの?傘がないなら、私と一緒に……。」
紡いだ言葉は最後まで言えずじまいだった。
それは声をかけた生徒が見知った生徒だったというのもある。
ただそれ以外にも大きな原因があった。
「比企谷君?どうしたの?」
文化祭の時、陽乃さんが言っていた面白い子。私と似ているようで似ていない子。
私が求めているモノを持っているかもしれない子。比企谷八幡君だったからだ。
「………何でもないです。」
そういう彼は、愛する家族に捨てられた子犬のように傷ついた眼を私に向けた。
構わず行くように勧める彼の手を思わずつかんでしまう。
何故だろう?頭で考えるより先に行動してしまった。私らしくない事に自身でも驚く。
もしかしたら彼なら。
私を変えてくれるかもしれない。
そして戸惑う彼に私は
「今日はサボっちゃおうか?」
楽しそうに校則違反の提案をした。
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side八幡
「もっと人の気持ちを考えてよ」
涙ぐませながら自身を叱ってくれた明るく優しい女の子。
「あなたのやり方嫌いだわ」
侮蔑した目の中に悔しそうな光をたたえて自身に訴えかけた綺麗で脆い女の子。
二人からの叱責が未だに自分の思考にとりついている。
苦しい。重たい。2人からは嫌われたくない。正しい方法とは何だったのか?
依頼は達成できた。達成するたびに、自身の「何か」が削れていく。
「何か」も分からない。ボッチの俺には削れるものなんてないのに。
思考の沼から抜け出そうと、鉛のように重い体を布団の中から起こす。
外はあいにくの雨。修学旅行明けの天気としては、いいものでもない。自分の置かれている状況を鑑みればなおさらだ。
「なんだかな」
寝ぐせのついた頭をかきながらぼやく。
これだけ色々あったのに、学校は変わらず毎日あって一日一日時間を刻んでいく。
サボりたいが、これ以上妹の小町に心配をかけるわけにもいかない。
修学旅行から帰ってきた昨日も碌な会話ひとつせず寝てしまったのだから。
自分がつらい時にまで、妹に対する愛が変わらないなんて、さすが千葉県民だ。
くだらないことを考え、ようやく重い腰を上げる。
そんな事を考えながらのせいか、小町との食事もぎこちない。
「あの二人と何かあった?」
「………なにもねえよ。」
どうしてこう今聞いて欲しくない事をピンポイントで当ててくるのか。
ぽつりぽつりと心の桶に黒い水が溜まっていく。胸が苦しい。
それでも表情に現れないように押し殺しながら言葉をつなぐ。
「むしろ何もなさ過ぎて、俺の人生なんだろうって気持ちになってるところさ、まさに迷走中って感じだな」
「なにそれ?変なの」
あきれたように小町が応える。
後はこのまま何気ない会話を続けながら登校すればいい。
そう考えていた俺に小町の言葉が突き刺さった。
「どうせお兄ちゃんが何かしたんでしょ?小町が聞いてあげる!」
屈託のない笑顔でそういう小町に悪気は一つもないのだろう。
小町にとって俺が不出来な兄であることは事実である。
そして何とかして助けたいと考えて、こんな発言をしてくれたのも分かる。
それでもなんで俺が悪いと決めつけられているんだろう?
なぜみんながみんな俺のしたことを責めてくるのだろうか?悪いのは分っている。
それでも自分を犠牲にしてでも助けていれば、きっと俺も報われると考えていた。
中学の時から何も変わらない。ずっと独りだ。
「そうだよな。全部………全部俺が悪いんだ。」
悪いのは分っている。わかっているのに、そうせざる負えなかった。だからしたのに。
どうして誰も俺の味方にはなってくれないんだ。
一杯になった桶に石が投げ込まれるように、大きく心に波紋が立った。
もう嫌だ。息が詰まる。目の前が真っ暗になる。外の雨の音も、小町が話しかける音も聞こえない。ぐちゃりと視界がゆがむ。溜まりにたまった感情が、理性の桶を壊して流れ出る。
そして世界が真っ黒に塗りつぶされた。
「おーい、お兄ちゃん?起きてますか~?」「お兄ちゃん、泣いてるの………?」「待って、お兄ちゃん!」「どうして、何があったの?教えてよ………。」
無我夢中だった。やみくもに家を飛び出て、あてもなくさまよう。
靴も履かずに出たせいで靴下は泥水を吸い、濁り切っている。
そんな俺に声をかける人がいた。
生徒会長の城廻先輩だ。
「比企谷君?どうしたの?」
少し驚いたような顔で話しかけてくる先輩に
「………何でもないです。」
なんとか言葉を返した。
本当は誰でもいいから自分の側にいて欲しいと思っているくせに。
助けてほしいと一言いうだけなのに。
言い出せない。きっとこの人も分からない。分かってくれない。
そう思い言葉が続かない。
そんな俺に
「今日はサボっちゃおうか?」
ふわりと笑みを浮かべ、優しく手を差し伸べる彼女に俺は救われた。