フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~ 作:ディルオン
あれは嘘だ
っていうか更新こんな長くしてごめんなさい
前回のあらすじ。
勇者達(秀才の言う名のおバカ4名うち1名はクビ)は、ついに魔王(という名の魔少年またの名をアホ)の待つ居城の前まで辿り着いたのだった!
「さて、こちらは藤原さんと僕、そして会長・四宮さん・優……力量的には互角だね」
「覚悟してください!私とフィリップ君のコンビネーションが風穴を開けますよ!」
堂々と宣言するのは、前回パーティをクビにされたことで悪の道へと走った藤原である。
勇者の一行としてゲームクリアを望んでいた彼女は今や、悪魔の手先と化していた。
そしてその巨悪を前にした残りのメンバーと言えばは……
(四宮の謎テンションが意味わからん……)
(……どうやって会長と2人きりで魔王と戦いましょう…)
(どうする……僕はどうやって罪を償えば…!)
感情の混沌(カオス)!!
パーティの仲に亀裂を入れてしまった自責の念に駆られる石上。
それを利用し、白銀と2人メンバーになることで、彼に頼りにされたいかぐや。
そして、かぐやの心情を読み切れず疑心暗鬼になる白銀。
真・ハッピーライフゲームver.2は、佳境へと突入していた!
【Uの言うとおり/かぐや様は託された】(中編)
(さて、まずは石上くんを使って、様子見というところね)
かぐや、己の傀儡として、石上を選択。これで石上がフィリップらにダメージを与えてくれれば良し。返り討ちに遭ったとしても、その後は白銀とツーマンプレイとなる、彼女の閃きである。
「石上くん。まずはあなたに頼めるかしら?」
「え?」
隣で緊張のあまり、拳を握りしめている彼にそっと語り掛けた。
「私は門外漢です。餅は餅屋……一番慣れている貴方に先導してもらっても?」
「ぅ…!?」
四宮かぐやのパッシブスキル、『微笑みの爆弾』が発動する。
この笑みは、彼女の信者にとっては天使の微笑み、敵対者にとっては悪魔の宣告に等しい。
石上の様に、相手の内面を察することに長けた人間には、同時に作用する。
「わ、分かりました…!」
(な、何だか知らないけど…先輩にフォローしてもらった手前、僕が取り返さないと)
石上は生来の人柄ゆえ、まるで洗脳されたかの様に、銀の球を手に取った。
「い、石上。焦らずじっくりと行こう。お前の言う通り、まだ3対2でこっちが有利なんだからな」
「…大丈夫です」
白銀も身を乗り出しながらのフォロー。彼の精神のブレやすさを熟知しているが故の言葉だったが、石上はゆっくりと頷き、己が手札を確認した。
(確かに盤面上はそうなる…でも、あっちはルールを知り尽くしてる上に、藤原先輩は確か回復や防御のカードを結構溜め込んでた筈だ……対してこっちは、どうしてか知らないけどいつの間にかチームワークが最悪……なら!)
じっと戦略を練る石上。
そして、今まで手にしたカードの中から、彼は最善策を導き出した!
「フィリップ、こうなったら、僕がお前を倒す…!」
「ふふ、優。君に僕が倒せるとでも?」
「普通にやったら、僕じゃどう足掻いても無理だ。けど、逆転の一手はあるぞ!」
手札から一枚、カードを取り出し、彼はテーブルに叩きつける様にセットする。これが運命の歯車の一つであった。
「むっ、それは……」
「『窮鼠猫を噛む』のカード!敵が二体以上いて、体力の合計値が僕よりも倍以上ある時、出た目が『黒』の『偶数』なら、その差の数値分のダメージを与えられる!そしてこのカードに対して、防御カードは使用できない!」
「あ、そんなカードが!」
石上、一気に勝負に出る。
普段の弱々しい顔から一変して、キリッと鋭い視線を投げつけた。
本来なら使用できないカードだが、藤原の裏切りによって使用条件を満たしていた!
「なるほど、冴えてるぞ石上!」
「藤原先輩が味方になったことが仇になったな、フィリップ。いくらお前の頭脳が優れていても、藤原先輩の謎行動は把握できない!」
「さりげなく私をディスらないでよ!」
藤原の言葉を尻目に、フィリップは感心していた。
如何に超天才児フィリップ・来人と言えど、カオスの権化である藤原千花を理解することは不可能!
その一瞬の隙をついた、冴えた策と言わざるを得ない!
「いくぞ……!」
そして出た目は……
「黒の6!成功だ!」
「おっ、やったな!」
「これで二人の体力は8割以上削れる……勝負ありだ!」
勝利を確信する石上。
だが……。
「………ふふ」
「ん?フィリップ庶務、何がおかしい?」
「僕はこのカードを発動しよう」
かの先人は言った。
『相手が勝ち誇った時、既に敵は敗北している』と。
「『身代わり』カードを使用する。僕は藤原さんを盾にし、ダメージは藤原さんが請け負うことになる」
「なにぃ!?」
「そ、そんな、フィリップ君…!?」
石上は愕然とする。
藤原も唖然とする。
確かに石上の持つカードは防御不能。
しかし、ダメージを代替するカードの効果には抵触しない!
「サヨナラだね、藤原さん」
「わ、私がせっかく、ゾクゾクさせてあげたのに…!!」
「フッ…近くにいた、藤原さんが悪いのさ」
(シ、シリアルキラーみたいな目をしてる…!)
フィリップの悪魔の微笑み。石上は戦慄した。先程のかぐやの笑みに勝るとも劣らない闇と凄みがある。
「ぎゃああああーー!」
「藤原ぁああーー!?」
二人を瀕死にまで追い込めるダメージが、全て藤原へと集中する。
あまりの仕打ちに、側で見ていた白銀も思わず開いた口が塞がらない。
「か、会長…かぐやさん……私、ただ…幸せに、なりたかった、だけなのに……がくっ…!」
演技派なのか、その場に突っ伏し、死んだフリまで演出。
しかし、横に座っている魔王は淡々とゲームを進行した。
「さて。藤原さんのカードはルールに則り、僕が使わせてもらうよ」
「くっ…よくも藤原書記を!」
「藤原さん……安らかにお眠りなさい…」
拳を思わず握りしめ、鋭い目線を投げかける白銀と、倒れ伏すかつての仲間を労り肩を撫でるかぐや。
(わーい!やったわー!これで厄介な藤原さんはゲームアウト!これで余計な横槍は入らない!)
しかしその裏側で、自身の企みの成功に対しほくそ笑む闇を見た者はいなかった。
なぜならば……
「さて次は僕の番だ。優に先ほどのお返しをしなくてはね」
彼らの目の前には、最強の魔王が立ちはだかっているからである。
「い、石上…!」
「だ、大丈夫です。回避と防御のカードは持ってます。何とかこのターンは凌げ…」
「藤原さんの持っていたカードを使おう。『バババイ・ロック』…2回連続でルーレットを回し、同じ目を出せば、プレイヤーは僕の攻撃に対してカードを使えない」
「ぐっ…!」
蒼白となる石上。
奇襲が2度通用するほど敵は甘くなかった。
藤原が手に入れていたカードは、本来ならば運の要素が多分に絡み、実際に使うにはマス目を固定するなどの別カードと併用することで力を発揮する。
しかし、天才にはそんなものは必要ない。
「宣言しよう。僕は5を連続で出す」
球を振るフィリップ。
出た目は…赤の5。
更に、魔少年は回転するテーブルに無造作に放り込む。
「おいおい…幾ら何でも……!」
「……っ」
ごくりと生唾を飲む石上。
ドクンドクンと心臓がうるさい。この鼓動の振動がテーブルに伝わり、振った目まで変わるのではないかと思えるほどに。
そして石上優は知っている。自分の中にこんな悪い予感が来る時ほど、それは『予知』になるのだと。
「げっ、マジかよ!?」
思わずソファから立ち上がる白銀。
しかし紛れもない現実。
フィリップ・来人は紛れもなく、『赤の5』を続け様に出していた!
(イカサマ…?いえ、フィリップくんの性格からしてそれはありえない……だとすれば……)
これには、かぐやも流石に目を見開かざるを得ない。
フィリップは球を振る間際に出る目を宣言した。狙って二回連続で同じ目を出す確率は1/400!
如何に彼が天才と言ってもほぼ不可能。
だが、かぐやが思考を巡らせる合間に、フィリップは照準を定めていた。
「ぐぁわぁーーー!?」
「石上ィィィーーー!」
魔王の攻撃の直撃をくらい、一気に体力がゼロになる石上。
藤原同様、彼もゲームに関してはノリが良いのか、そのままテーブルに突っ伏した。
「か、会長……すみません、あ、あとは、頼みます……」
石上優、脱落。
この時点で、カード達が白銀に託される。
だがそれ以上に、アドバンテージを得たのは敵の方であった。
「お、おい、このゲームって、倒した相手の分パワーアップするんだったな……てことは…」
「そう。僕は優と藤原さんのパワーを吸収し、最強を超えた究極の魔王となったのさ。さぁ、かかってきたまえ」
「嘘だろ…!?」
唖然とする白銀。
そう。
石上は藤原を倒した時点でそのステータスを吸収している。
更にその石上が倒れたことで、二人分のステータスがフィリップに加えられるのである。
(ど、どうする…一番ステータスが上の四宮でさえフィリップ庶務の半分しかない……!!)
つぅ…と、嫌な汗が首筋に滴る。
有利だったはずのゲームは、いつの間にか絶体絶命のピンチ。
隣と正面には、力尽きた仲間達。
「会長……」
「四宮……これどうする?」
そして逆隣には、ため息をつく四宮かぐやの姿。
彼女にしてみれば、白銀と二人パーティになると言う目的は達成された。
「………はぁ」
とは言え。
(状況は明らかに不利…作り手が一方的に強い今のところ、私達が逆転できる可能性は殆どない……これでは、会長が私を頼る意味もありませんね……)
かぐや、アッサリと引き際を悟っていた。
四宮の女にとって、時に敗北も必要。大切なのは如何に遺恨やダメージを残さないかである。
負けが決まっている今、幾ら二人きりの冒険とはいえ、良き思い出になるとは考え辛い。
となると、早々に切り上げ、もう一度プレイをやり直すか、このゲーム自体をお開きにする方が、かぐやにとって正解である。
(もとよりテストプレイですよ。精々、少しでも長引かせて、会長との二人の冒険をもう少し楽しめればそれで……って、私は何を考えてるの!?違うでしょう!会長はもっと私を頼るべきで…!)
かぐや、必死に頭の中で言い訳を重ねる。
しかし、これは白銀にとって別の意味に映っていた。
「し、四宮……どうした?」
「い、いえ、何でもありません。そ、それより、もうこのままでは、勝ち目はありませんね…?」
「あ、ああ、しかし……」
「ざ、残念ですねぇ…っ。よ、ようやく少しは楽しめたかと思いましたが…!」
じいっと、目を細め、少し膨れ面でこちらを見たと思ったら、すぐに目を逸らす。
いじらしく、微笑ましく、可愛らしい。
「え、えー…かぐやさん、勿体無いですよ。もうちょっと頑張れば…」
「ふ、藤原さん。と、時には潔さも必要ですよ……」
「そ、そうかもしれませんけど……」
藤原の言葉に対しても、にべもない台詞。彼女が勝敗に拘らない性格なのは知っている。
だが、その表情には何か裏があるように見える。そして白銀には先程の出来事が思い出された。
(四宮……今度は急に落ち着き始めたな……と言うより、覇気がなくなったのか…?)
『チートにはチートの悩みがある』
言葉尻だけなら、嫌味。
だが、彼女の背負う宿命と覚悟は、白銀にも伝わっている。
(そういえば、ゲームを始めてから四宮が笑っているのを見ていない……)
ネガティブな空気が場を支配しつつある今、逆に白銀は、かぐやの下向きな感情を察知し始めていた。
(俺は、四宮が本気でこのゲームを楽しんでいるかどうか考えただろうか……この状況に、と言うより……初めから冷めた空気で、ゲームに没入できてなかったのか……)
否、没入はしていた。
ただ、ベクトルが違うだけである。
「会長、四宮さんの言葉にも一理ある」
そんな時、フィリップの発する言葉。
「なに?」
「四宮さんの言う通り、今回は諦め、やり直すのも一つの手さ」
彼は客観的に判断をしたのみ。
しかし、それが逆に白銀御行の闘争心に火をつける。
「ま、まぁ、元々意味不明なゲームでしたからね。ゲームオーバーになっても別に……」
「……そうかな」
同意しかける石上を遮った。
諦観の漂う物語ほど、つまらない物はない。
ダラダラと敗北感を重ねるくらいなら、必死に足掻いた方がまだマシである!
(そうだ!ゲームとは言え真剣勝負!考えろ!何とかこの状況を切り抜ける方法を…!そして、四宮がこのゲームを楽しむ方法を!)
白銀、決死の熟考!
手札と盤面を見比べ、最善手を導き出す!
「会長? ど、どうしたんですか…?」
先程まで、嫌な空気を払拭するべく、常に先陣を切って戦っていた石上。
諸悪の根源と言えなくもないが、皆の為に骨を折ってゲームを開発した藤原。
彼等の熱意が、白銀御行の心を動かした。
ここは、自分も覚悟を決めるべきだと!
「フィリップ庶務…諦めるのも一つの手……そう言ったな?」
「ああ。そうだとも」
「なら、諦めずに続けるのも一つの手だな…!」
「なんだって?」
「ここはやはり……四宮! アレをやるぞ!」
「アレ?」
「決まってるだろう……合体だッ!!」
白銀、手札を一枚選び、それテーブルに叩きつける。
フィリップは目を見開いた。
「…それは…!」
「『託された希望』のカードを使う!この瞬間、俺は離脱する代わりに、全てのパラメータと所持カードを、四宮に譲渡する!」
「か、会長…!?そんな…なんてことを…」
当惑するかぐや。
目を瞬かせながら白銀に詰めよる!
(な、なんてことするのよ!そんなことしたら、僅かに残された会長との二人旅が…!)
中身は未だ自分と白銀のことしかなかった。
だが、彼の瞳に宿る強さに、一瞬だが圧倒されてしまう。
「自分の身を犠牲にするというのかい?」
「愚かですねえ会長!勝利しても会長はそこにいないというのに!!」
「身代わりにされた藤原先輩が宣っても響きませんよ」
「い、いえ、藤原さんの言うとおりです!私一人ではフィリップ君が的を絞りやすくなって…」
「いいや、この方がいい。このままでは俺は足を引っ張るだけだ。なら、余計な要素を排除して1対1に持ち込んだ方が、四宮が戦略を立てやすくなる!」
「私のために…」
「違う。勝利のためだ。このゲームに勝つにはもうこれしかない!」
その目で、射抜かれるかのよう。
見栄も、外聞も、大事なもののためにかなぐり捨てる勇気。
それこそが、四宮かぐやの中にある、白銀御行への憧憬の対象である。
「あとは頼んだ、四宮……決して、止まるんじゃないぞ……っ!!」
「か、会長……っ!」
重なる手と手。
託されるカードたち。
そこには、白銀のみならず、石上の想いも込められている。
「……」
なんと愚かな行為
なんと無様な敗北
なんと哀れな背中
がくりと、その場でうずくまる白銀御行を視界に収めつつ、四宮かぐやの脳内には、その様な言葉が乱舞する。
四宮家の血筋が、彼の勇敢さを吐き捨てる。
「フフッ…四宮さん、気が進まないのなら、降りても構わないよ。これはテストプレイさ」
「……安い挑発ね、フィリップくん」
瞬間、空気が凍りついた。
「でも、今は敢えて乗りましょう」
(四宮の人間が託されたのなら……勝利以外、許されない)
強さとは、己を貫くことである。
白銀は、自身の『他人を慮る』という信念に生きた。
ならば私は。
四宮かぐやは、自分を捨てようとも、他人に応えるべき!
「会長の想い、無駄にはしません。フィリップ君、勝負です」
「いいとも、四宮さん」
「おお…奇しくもフィリップと四宮先輩のタイマンに」
「生徒会が誇る天才同士の一騎打ちか……っ!」
空気が震え、唸りを上げるかのように緊迫する生徒会室は、まさに大山鳴動!
石上、そして白銀の手札を受け継ぎ、自らの札と共に状況を把握・分析するかぐや。
(このゲーム……一見して運に左右されるように見えますが…むしろ逆。ポーカーや麻雀のように、相手の札や目の数を見て如何に臨機応変に戦略を組み立てるか……ならば)
四宮、刹那の思考。
しかし、彼女をよく知るものならば、それが常人にとっての熟考に相当するのは承知の事実である。
「確認しますけどフィリップくん、テストプレイですね?」
「ん?」
「私たちの意見や感想をもとに、もっと良い物を作るためのワンゲーム……その認識で間違いありませんか?」
「まぁ、そうなるね」
「なら、できる限り楽しまなければいけませんね。あっという間に終わってはつまらないですから」
「……」
虫も殺さぬ柔らかな笑顔でそう語りかける。
かぐやの言葉に、フィリップの札を持つ手に、僅かな力が篭められた。
「この状態で、楽しむ余裕が四宮さんにあれば……の話ではないかな?」
「どうかしら?もしかすると私に逆転の一手があるかもしれませんよ?尤も、フィリップ君が作り手の立場を利用して、一瞬で終わらせてしまうのなら、それは永久に分からないままですが」
かぐや、ポーカーフェイスを崩さない。
だが、その言葉を聞いた白銀はハッとなった。
(今のセリフは……俺と四宮がババ抜きをした時、俺が揺さぶりをかける為に言った言葉!)
そう。
このゲームの肝は心理戦。
如何に相手の思考を読み、立ち回り、更には相手のマインドまでコントロールできるか。
「『お気の済むまでご自由に』……そういう意味かな?」
「ご想像にお任せします」
「……」
本来、TRPGは作り手側が圧倒的に有利。
だが、かぐやの先の発言で、フィリップの好奇心に火がついた。ゲームマスターとしての優位性をなくして、五分の勝負に持ち込むつもりである!
「飛車角落ちというところだね。まぁ、すぐに詰んであげよう……!」
フィリップ・来人。
本来、争いごとは好まない。
だが、自らの好奇心には逆らえない。
それが罠だと分かっていても!
決戦の火蓋は、ついに切って落とされたのであった!
次回、今度こそ完結