古来より人外の力を用い、異形の存在で戦い続けて来た鬼。
そんな彼らにも、社会の変化は容赦なく牙を剥く。

つまりーー45歳、学生です。

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流行り物に手を出してみる。
どこまでやるかは未定。


鬼、学校に通うってよ

中国で光り輝く子供が誕生した事を契機に、人類は生物としての次元が一段階進んだ。

しかしこの出来事よりも遥か以前から、人外の力をその身に宿し、人のため世のために戦う者達がいた。

“鬼”。彼らは己の肉体と技術を用い、“魔化魍”と呼ばれる自然界に満ちるエネルギーを基に生まれた生命体と戦い続けていた。

影に潜み、決して表に現れる事のなかった彼らであるが、社会が個性を前提としたものに変容した今、無関係を貫く事ができなくなっていた。

話を一旦魔化魍に戻そう。

世間に広く知られている妖怪の伝承は、ほとんどが魔化魍の事を指している。鬼の支援組織である“猛士”が警告のために流布したのだ。魔化魍の生態系は大きく変化しておらず、出現場所の多くが人の手があまり入っていない自然豊かな場所である。個性社会になる前の世界であれば、魔化魍による犠牲者が出たとしても捜査の難度や場所の関係から事件性のない事故死として処理されていた。

しかし人類は個性と言う超能力を得た事で、良くも悪くも取れる選択肢が増えたのだ。不可解な痕跡を見付け、張り込み、魔化魍の存在に辿り着く。人の姿を模る奴らを見て観察に徹するか、異形の姿へと変貌する姿を戦闘に突入するかは分からないが、もしそこへ鬼が現れたとして、その姿を見てヒーローは彼らを味方だと思えるだろうか。

魔化魍との戦闘から味方と判断するかもしれない。接触して味方と判明するかもしれない。しかし一切情報のない存在をそうした判断を下せるのは、冷静なベテランか臆病者だろう。大概のヒーローは、未知の異形同士の戦闘と情報のない事から魔化魍と同種と判断するだろう。実際に戦闘に発展してしまったケースもある。

また一部には都市圏を活動拠点にしている事もあり、もし前述のような事態が起きればより深刻なトラブルに発展する可能性もある。

幸いな事に、重大インシデントになるような事態は起きていないが、(戦闘に発展した時も鬼側が全裸になる事で事態は収束した)小さな小さなトラブルは時折発生していた。

事態の悪化を防ぐため、猛士とヒーロー協会と公安委員会とで2年以上の協議を重ねた結果、鬼と言う存在を“準個性”として扱う事を決定した。しかしこの決定に関して、1つ大きな問題があった。免許の交付をどうするか、である。

 

 

「と言う背景がある事は知ってるね?」

 

「何ぞ忙しそうにしとるのと思っとったが、そんなけったいな事になっておったのか」

 

「それでね、代表者を1名だけで良いから、指定された学校で科目等履修生として通わなくちゃならないんだ」

 

「ほお、学び舎に。して、呼び出した理由はそれか」

 

「うん。引き受けてもらえないかな」

 

「若い連中の時間を取る訳にはいかんからの。引退間近のじじいがやる分にゃ丁度いいだろう。この龍造寺竜司、謹んで拝命するとも」

 

 

時間は流れ。新1年生の入学式当日。下ろし立ての制服を身に纏う、初々しい少年少女達が期待を胸に校門をくぐっている。その中に異物が1つ。背丈は190を大きく超え、覗く手足は歳を経た大樹のように太い。何よりその男は壮年から老年に差し掛かろうとしていた。

明らかに生徒ではない外見、と言うより教員でなければおかしい。なのに何故生徒用玄関にいるのだろうか。何故地図を見て唸っているのだろうか。

何人か声をかけようかと考えたが、全く把握していない身で出しゃばれば共倒れになり兼ねないため誰も言い出せなかった。

そんな中、特に気負いもせず1人の生徒が声を掛けた。髪を片結にした女子生徒だ。

 

「どうしました?」

 

「校長室に行きたいのだがな、どこにあるのかが分からなくてな。目的地を見付けられぬ地図とは何とも本末転倒よな」

 

わっははは、と豪快に笑う男に、確かに、と同調する女子生徒。男の視線から、どこら辺を見ているのかを判断し、反対側から見ていくとあっさりと見付ける。

 

「ありましたよ」

 

「おお。これはありがたい。お主、名は何と言う」

 

「拳藤一佳」

 

「拳藤一佳だな。この礼は必ずさせて頂こう。ではまた相見えよう」

 

深々と一礼をしてから歩き出す男。

 

「……保護者じゃなかったんだ。て言うか、めっちゃ強いなあの人」

 

些少のズレもない体幹、足取り、拳の使い込みから、遥か高みにいる達人だと言う事が分かった。この個性全盛の時代に於いて、純粋に己の力を高めるそのストイックさは、武術を嗜む身として強い敬意を抱く。新任の教員が何故ここにいたのかは分からないが、是非とも手合わせしてみたかった。

 

 

「やあやあ。よく来てくれたね。私がここの校長、根津さ」

 

「龍造寺竜司と申す。何かと迷惑を掛けるとは思うが、これから1年、何卒よろしくお願いしたい」

 

「こちらこそさ。通ってもらう事自体、君達には迷惑を掛けてしまっているからね。便宜は図らせてもらうから、何かあったら遠慮なく言って欲しい」

 

「ありがたい。じじいの身なれど、まだ現役ではあるからな。なるべく若い連中に任せたいが、中々そうもいかなくてな」

 

「……後継者問題は深刻そうだね」

 

鬼は古来より、闇に潜み、影に徹して来た。賞賛と名誉とは無縁の存在であり、それどころか迫害される事さえあった。環境破壊による自然の減少で人目に付く事はほとんどなくなった事で迫害される事はなくなったが、影の存在である事に変わりはない。だが鬼達はそれに異を唱える事はなかった。人が人外の力を恐れる事は当然の事だと言う認識だったからだ。

だが個性の存在がそれを変えてしまった。特に異形の個性を持つ者が賞賛と名誉を手に入れる社会に於いて、それとは正反対の位置にいる事を良しとする事ができるだろうか。ベテランは割り切っているが、若手はそうもいかなかった。賞賛と名誉を手に入れたいと思ってしまったのだ。その結果、弟子の大量離脱と言う前代未聞の事態を引き起こしてしまう。そのため、本来であればとっくに引退している龍造寺のようなロートルも現役を続行しなければならないのだ。

 

「それに関しては社会の変化を追い切れなかったオレ達の落ち度よ。あやつらに責はない。それに悪事を働く訳でない故、悪いようにはならんだろう」

 

 

「失礼します」

 

ざんばら頭に無精髭の教員が入室する。

 

「HR前の忙しい時間に申し訳ないね。彼が龍造寺君だ」

 

「龍造寺竜司だ。貧乏くじを引かせてしまいすまんの」

 

「相澤と申します。お気になさらず。生徒には良い刺激になるでしょう」

 

「うむ。オレの存在が何かしらの糧になるのなら、存分に利用するといい。ではな根津校長よ」

 

「ここでの学ぶが君にPlusU ltraを齎す事を祈ってるよ」

 

校長室を後にし、相澤に案内され1–Aへと向かう。

 

「相澤教諭よ。オレの事を紹介する時、暫し時間を貰えんか」

 

「相澤で結構ですよ。年齢も実績も貴方の方が上ですし。時間の事でしたら大丈夫ですよ」

 

「ありがたい。そうもいかんだろう。生徒に示しが付かんし、オレは学ぶ立場だ。代わりに口の利き方を見逃して欲しい。無骨な身故、全く使えなんだ」

 

「敬語なんて使われた日には、こちらが萎縮しますよ」

 

相澤に限らず、雄英の教員達は龍造寺を受け入れるに当たって、鬼の成り立ちや、リスク(・・・)を研修で学んでいる。何の見返りもなく、使命に殉じようとするそのストイックな生き様はまさしくヒーローであった。ヒーローを担う身だからこそ、尊敬せずにはいられなかった。

しばらく歩くと教室に到着する。10代特有の喧しく姦しく、それでいて青臭く溌剌とした遣り取りが廊下にまで響いていた。龍造寺の口が自然と緩む。孫、とまでは行かなくともそれに近いほど歳が離れていると『元気で大変よろしい!』と思えてしまう。

対して相澤は不健康そうな顔を不機嫌なものへと変えていた。立場の違い故、その変化に大人気ないと言う感想を持つ事はなかった。

 

「友達ごっこがしたいなら他所へ行け。これから紹介する人がいるから、さっさと席に着け」

 

有無を言わせぬ一方的な物言いに、生徒達はそそくさと着席していく。

 

「9秒か。もっと合理的に動くように。早速だが紹介する人がいる。龍造寺さん、どうぞ」

 

遥か古の小学生時代を思い出させるやり取りだった。個性を得ても根本的な所では変わっていない事を実感する。

促され入室すると、龍造寺の巨躯に俄かに騒がしくなる。その様子を見た龍造寺は、掌同士を勢いよく打ち付け、派手に音を鳴らした。教室中に響く音は、それ以外の音を消し去った。

 

「手荒いやり方ですまんが、自己紹介をさせてくれ」

 

黒板に名前を書いていくが、力が強すぎ、ポキンポキンと軽快に折れていくチョーク。苗字だけで1本を使い切ってしまう。

 

「オレの名前は龍造寺竜司。色々聞きたい事があるだろうが、まずは謝罪をさせてほしい。オレは君達と違い、受験をせずにこの場にいる。厳しい訓練に勉学に励んできた身からすると、業腹ものであろう。誠に申し訳ない」

 

衝撃的な告白と共に、深々と頭を下げる龍造寺。さしもの相澤も止めようとするが、それが彼の侮辱になると思い留まる。代わりに彼の素性を明かす事でフォローする事にした。

 

「先日発表されたのを見てる奴なら知ってると思うが、彼は準個性と呼ばれる、正確には個性と異なる独自の能力を用いて活動している団体の一員だ。彼らの仕事はオールマイトでさえも代打を務められない専門的なものだ。ヒーローとのトラブルを避けるために、免許取得が義務付けられ、ここに科目等履修生として通う事になった。何か質問は」

 

「準個性と言う言葉自体始めて聞いた者も多いだろう。今でなくともいつでも聞きにきて構わんからな。お菓子と手ぐすね引いて待っておるぞ」

 

ニカッ、と笑うが誰も上手くリアクションを取る事ができなかった。生徒の印象としては“悪い人ではないな”と言うものに落ち着いた。

 

「そう言う訳で質問タイムは適宜やってくれ。これから体操着に着替えて校庭に10分以内に集合だ」

 

 

(筋肉凄え)

 

(傷凄え)

 

(褌だ……)

 

 

『個性把握テストォ?!』

 

相澤の言葉に生徒達が口々に文句を言う。雄英がヒーロー育成校として最高峰と言う事は分かっていても、そこはやはりティーンエイジと言う事か。それぞれが思い描く高校生活があり、それとかけ離れた現状に納得できていないようだった。

 

「それが雄英だ。さっきも言ったが、普通の青春を送りたいんだったら、今すぐ退学しろ」

 

有無を言わせぬ迫力に黙り込んでしまう生徒達。

 

「……お前達にはこれから個性を使い、体力テストを行ってもらう」

 

その言葉の意味を吟味し、理解すると生徒達は途端に沸いた。個性を使う、と言う意味をまるで理解していない生徒に苛立ちを募らせる。ペナルティの存在を告げようとしたタイミングで、また合掌の音が響いた。

 

「『過ちは好む所にあり』。漫ろ心は怪我の元。扱いを誤れば個性は自分も他人も傷付ける。浮き足立ってはいかんぞ」

 

ぐうの音も出ない、どころか至極当然の事すぎて羞恥心さえ覚えてしまう程の指摘。個性の存在が当たり前になった事で、個性犯罪が日夜起こりながらも、自分の個性が何かの拍子で最悪の結果を齎すかもしれない、と言う事を忘れてしまっていた。それは特に子供に多く、雄英に入学する生徒でもそれは例外ではないのだ。

 

「良かったなお前達。龍造寺さんが先に言わなければ、除籍のペナルティを課す所だったぞ」

 

「役を取ってしまってすまんのう。して相澤教員よ。このテストはオレも参加した方が良いかの」

 

「……あー。服の事を失念していました。龍造寺さん次第になりますね」

 

落ち具合(・・・・)の確認の意味でも参加させてもらおうかの。男子諸君よ。すまんが少し集まってもらえんかの」

 

龍造寺の指示に従い、彼の周囲を囲うように円陣を組む。いそいそと体操着を脱ぎ始めた彼に、何をしているのかと訝しむ視線が集中する。

そんな中で金髪の生徒ーー上鳴が意を決したように口を開いた。

 

「あの、龍造寺さん。さっきは、その、すんませんした」

 

「なーに気にしなさんな。すぐに思い出せたんなら、何も問題はあるまい。そも、相澤教員も早走りし過ぎよ。さて、と。オレが合図を出したら下がってくれ」

 

そう言うと龍造寺は奇妙な装飾が施された金属の何かを手に持った。それを己の手に打ち付ける。高い音色と共に、視覚化された音が波紋となり空中に広がり続ける。視線でそれを追うと、少し離れて待機している女子生徒の所にまで届いていた。

手の中で震え続けるそれーー音叉・音角を自身の眉間の前に掲げる。音により活性化した鬼が浮かび上がり、全身が燃え上がった。

 

「おわあぁ?!」

 

「燃えてるう!!」

 

「誰か水!」

 

「そのままで大丈夫だ」

 

相澤が言う。

 

「よく見ておけ。あれが、遥か古来より戦い続けて来た戦士の姿だ」

 

 

 

己の内より吹き上がる炎が、骨を、筋肉を、皮膚を燃やし、そして作り変えていく。より硬く、より強く、より速く、よりしなやかに。

 

 

 

 

炎が振り払われ、姿を現わす。深い青に染った鋼の肉体。目も口も鼻もない顔に走る白い隈取りに、それが変化した雄々しく天を衝く4本角。

 

 

隆鬼

 

 

 

 


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