スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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8話 もう1つの秘密の部屋

 

「なんだ、あれ……?」

 

 アルバスは怪物から目が離せなかった。

 足元に転がっている抜け殻から察するに巨大な蛇なのだろう。暗くて全体の詳細は見えないが、大きさ的にバジリスクとあまり変わらない。バジリスクなら見慣れているので、3年も経った現在はそこまで怖く思うことはなくなったが、バジリスクの頭は一つ。しかし、数えるのが億劫になるほど膨大な量の黄金の瞳が、闇の向こうからこちらをまっすぐ睨んできている。

 

「頭がたくさんある蛇……ヒュドラーでしょうか?」

 

 エリザベスの怯え切った細い声が聞こえてきたが、スコーピウスがそれは違うと断言する。

 

「ヒュドラーの毒は確実な解毒方法がないんだ。そんな生き物を城の地下に住まわせるなんて正気の沙汰じゃない!」

「エリザベス! とにかく、蛇語で話しかけられない!?」

「は、はい!」

 

 エリザベスは慌ただしくシューシューと蛇に向かって唱えるも、蛇の頭のひとつが躊躇なく三人組に突っ込んできた。アルバスたちは反射的に手を離し逃げたことで、間一髪、蛇の攻撃を避けることはできた。蛇の頭は勢いを殺すことなく壁にぶつかり、べちゃりと生々しく潰れる音が響き渡る。アルバスは間近で聞いてしまった音に震え、ぞわりと鳥肌がたつのを感じた。

 

『―――――ッ!!!』

 

 蛇の不気味な声が暗闇に木霊する。あまたの頭から発せられた声は、まるで悪魔の合唱のように空間を恐怖で支配する。アルバスは堪らず耳を塞ぎ、座り込んでしまった。それでも、なんとか二人の安否が気になり、勇気を振り絞って声を発する。

 

「み、みんな、無事!?」

「僕はなんとか」

「わ、私も大丈夫ですけど、ごめんなさい! む、無理です……! まったく話を聞いてくれません!」

 

 エリザベスの今にも泣きだしそうな震え声が、アルバスの耳に届いた。

 

「『我はラードーン。我が主の命により、お前らを食い殺してやる』って……わ、私、蛇が言うこと聞いてくれないなんて、これが初めてで……」

 

 彼女の声が聞こえた方に視線を向ければ、たよりない杖灯りに照らされた怯え切った少女の顔があった。青い瞳は恐怖で濡れ、いまにも涙が零れ落ちそうだ。

 

「エリザベス……っ!」

 

 アルバスは彼女の方に向かおうとするも、すぐ頭上から冷たい息と風が吹くようなシューっという音がする。その正体を確認しようと振り返った途端、なにか重たいものがアルバスにぶつかった。

 

「うっ!」

 

 アルバスの身体はその衝撃で吹き飛ばされ、壁に打ちつけられてしまった。あまりの痛さに歯を食いしばりお腹を抱えて丸まっていると、骨だらけの床を蛇が胴体を滑らせながら近づいてくる音が聞こえてくる。

 

「っ、あ、『アクシオ‐来い』!」

 

 蛇の毒牙がアルバスの身体を貫く寸前、見えないどこかに身体が引き寄せられた。自分がいた場所に蛇の頭が突っ込む姿を見ながら、どんどん後ろ向きに引き寄せられ、そのまま、スコーピウスの手前に投げ出された。

 

「やった……、呪文が成功した!」

 

 スコーピウスはわずかに嬉しいような声を出しながらも、青白い顔は恐怖でひきつっていた。

 

「たすかったよ、スコーピウス」

「なんとかね。でも、状況はよくなってないってところかな……まあ、ヒュドラーじゃなくてよかったってくらい」

「ラードーンってなに?」

「ギリシャの怪物。黄金の林檎を守ってたって伝説があるんだよ」

 

 スコーピウスは小声で口早に言う。アルバスは背骨の痛みに顔をしかめながら、首を横に振った。

 

「ってことは、あの怪物もなにかを守ってるってこと?」

「その可能性が高いと思う。でも、かなりの強敵」

「それはわかるよ。あれだけ頭があるからね」

 

 頭がひとつのスクリュートでさえ、命からがら逃げだすのがやっとだったのに、頭が100もある大蛇なんて勝ち目がないように思える。

 

「スコーピウスの知ってる本では、どうやって倒したの?」

「ギリシャの大英雄ヘラクレスが、ヒュドラの毒を塗った矢で撃ち殺したって」

「ヒュドラの毒なんて持ってないよ!」

 

 アルバスは口を尖らせた。

 

「他に方法はないの!?」

「本にはそれしか書いてなかったんだ……っ!」

 

 スコーピウスの表情がさらに強張った。その理由はわざわざ問うまでもない。蛇の舌が出入りする挑発的な音が、アルバスの耳の後ろから聞こえてきたのだ。ラードーンの頭のひとつ……もしくは、複数が迫ってきている。アルバスとスコーピウスは鞭で打たれたように、ほぼ同時に走り出した。

 

「ねぇ、スコーピウス! スネイプ先生の研究室になら、なんとかって蛇の毒もあるんじゃない!?」

 

 アルバスは闇雲に走りながら叫んだ。

 

「そこから、呼び寄せできない!?」

「たぶん、先生も持ってないと思う。ヒュドラ―の毒は神話級の貴重なものなんだ。運よく研究室に保管してあったとしても、生徒が悪用しないように呼び寄せ防止呪文をかけてあるはず……っわ!」

 

 スコーピウスがつまずき、床に倒れ込んでしまう。

 

「スコーピウス!」

 

 アルバスはすぐに引き返し、親友を起こそうとする。スコーピウスは顔を強く打ったのか、青い痣が頬に広がっている。

 

「しっかりして、スコーピウス……あ……」

 

 アルバスは背後に迫る存在に、震える手で杖を向けた。杖灯りが巨大な蛇を照らし出す。毒々しい深緑色の胴体は「禁じられた森」の巨木並みに太い。その胴体を高らかにくねらせ、巨大な鎌首がまっすぐこちらに向かって来る。それも、みっつ。まだ、頭が1つしかないバジリスクを敵に回した方が楽だろうと気持ちなのだろうかと思いながら、アルバスは呪文を唱える。

 

「ふ、『フリペンド‐撃て』!!」

 

 懸命に衝撃呪文を放つも、アルバスの杖先から出るのはヘナヘナとした弱々しい光だけだった。案の定、光はラードーンの鱗にぽすっという音と共に当たり、まったく効いていない。

 

「だ、だめだ……」

 

 悲痛の声が口から洩れてしまう。アルバスはどうしたらいいのか分からず、ラードーンの口に光る二本の牙を見ていることしかできなかった。

 

「『プロテゴ‐守れ』!」

 

 鋭い牙の前に、透明な盾が形成される。

 

「アル様! スコーピウス! いまのうちに逃げて!」

 

 振り返れば、エリザベスが杖をかまえていた。アルバスは大きく頷くと、スコーピウスの手を引っ張り立ち上がるのを手伝った。

 

「ありがとう、アルバス」

「礼は良いから、とにかく走ろう」

 

 そうこうしているうちに、ぱりんとガラスの割れるような音がする。エリザベスが作り出した盾が割れてしまったのだろう。アルバスはスコーピウスたちと走りながら、ぎゅっと拳を握り締める。握りしめた手のひらが汗に濡れ、指が痺れていくのが分かった。心臓なんて強く打ち過ぎて、胸から飛び出てしまいそうだ。

 アルバスたちは蛇の気配を必死に探りながら、少しでも安全そうな柱の陰に身を隠した。迫ってきたラードーンの頭はアルバスたちの隠れた場所に限りなく近づきはしたが、どうにか見つからずにすみ、示し合わせたわけでもないのに、三人が三人とも同じタイミングで安堵の息を零した。

 

「これからどうする?」

「とにかく、あいつを倒さないと。いつまでも隠れるわけにはいかないよ」

「でも、どうやって倒しましょう? ヒュドラーの毒に匹敵する毒なんて、……私、ダメもとで失神呪文を撃ちます?」

 

 エリザベスは提案しながらも自信なさげにうつむいた。表情は見えなかったが、相変わらず声には涙の気配が滲んでいた。いつも自信満々な様子で魔法を使いこなす彼女からは、とてもではないが想像できない姿である。もしかすると、こちらが考えている以上に、尻尾爆発スクリュートに自慢の呪文がまったく効かなかった事実が尾を引いているのかもしれない。

 

「やめた方がいいと思う。頭一つか二つは失神させられるかもしれないけど、百本近くあるんだ。同時に昏倒させるか地道に削るかしか道はない」

 

 予想通り、スコーピウスがエリザベスの案を却下する。彼女なら失神呪文を使えるが、ラードーンの頭を全部倒し終える前に魔力切れで倒れてしまうのがオチだ。

 

「……どうしよう」

 

 アルバスはうなだれてしまった。足元に目を向ければ、嫌でも骨だけになった小動物の残骸が目に入ってしまう。自分たちの数分後もこうなってしまうのだろうか、と考えるだけで、やっと収まっていた震えが再び込み上げてくる。

 

「やっぱり……デルフィーと合流してから動けばよかった……」

 

 アルバスは自分で口にしながら、ますます落ち込んだ。

 今回、先に進もうと行動したのは、自分なのだ。自分の軽率な判断が、スコーピウスとエリザベスを巻き込んでしまった。せめて、バジリスクのアルケミーに無理を言って一緒に来てもらえるように説得できていれば、ラードーンとの戦いにも光が見えたかもしれない。同じ巨大な蛇でも、バジリスクは一睨みで敵を殺すことができる。万が一、ラードーンがバジリスクの魔眼を知っていたとしても、不死鳥の涙でしか癒すことができない毒の牙があれば善戦できたはずだ。

 

「毒の牙……あ……あっ、そうだ、エリザベス! アルケミーの牙だけ呼び寄せることってできるかな?」

「できるとは思いますけど……抜けた牙は何本か『秘密の部屋』に保存してありますから……って!」

 

 エリザベスは驚いたように顔を上げる。

 

「ま、まさか、アル様。アルケミーの毒牙で立ち向かうつもりですか?」

「ヒュドラーの毒の代わりに、バジリスクの毒を使うってこと?」

「うん。ヒュドラ―って蛇ほどじゃないかもしれないけど、バジリスクの毒ってかなり強力だし、効くんじゃないかなって思ったんだけど……どう思う?」

 

 アルバスはこわごわ尋ねてみる。

 

「いいと思うよ、アルバス。バジリスクの毒は分霊箱を破壊する手段のひとつになるほど強力なんだ。大丈夫だとは思う。思うけど……あの身体に刺すのは大変じゃない?」

「でも、やらないと殺されるんだ。それしか方法がない……僕、僕がやるよ。エリザベス、呼び寄せ呪文をお願いできるかな?」

「了解です」

 

 エリザベスは力強く頷くと、いつものように自信たっぷり杖を振るった。

 

「『アクシオ‐来い』」

 

 牙が飛んでくるまで、どれくらいかかるだろう?

 それまで、見つかりませんように……と祈りながら、三人は部屋の隅で固まった。時折、近くを蛇の頭が通り過ぎたが、幸運にも黄金の眼はこちらに気づかない。ラードーンの気配が遠ざかるたびに、3人の身体から力が抜けるのが分かった。

 そのうち、ラードーンが不気味すぎるシューっという声を発する。その途端、エリザベスの顔色がやや落ち着いた表情から恐怖の色に逆戻りする。

 

「……っ! に、逃げましょう! やばいです!」

 

 エリザベスは弾かれたように立ち上がった。

 

「ど、どうしたの!?」

「あいつら、私たちに気づかなかったわけじゃないんです! どの頭が私たちを食べるのか、相談していただけだったんです!」

 

 エリザベスが叫んだときには、3本の頭が勢いよくこちらに迫ってくるところだった。アルバスとスコーピウスも飛び上がり、3人は再び暗闇の中を走りだす。

 

「そ、それなら、はやく教えてよ!」

「ごめんなさいー! いまの言葉で分かったんですー!」

「きっと、頭の中で話し合っていたんじゃないかな! ほ、ほら、なんだっけ……そう、テレパシーみたいに!」

 

 スコーピウスが息を荒げながら解説してくれるが、アルバスにゆっくり聞いている余裕はなかった。蛇の冷たい息が髪にかかるのを感じる。少しでも足を緩めたが最後、あの口の中に入ってしまうこと間違いなしである。とてもではないが、他の2人の気配を追うことはできない。悲鳴が聞こえないことが無事の証拠と信じながらがむしゃらに走っていれば、ラードーンの胴体のひとつが目の前に立ちふさがる。

 

「とわっ!」

 

 必死になって地面を蹴る。少しでも先に……昔、ちらっと見たマグルの走り幅跳びでもするかのように、勢い良く地面を蹴る――が、思ったより跳躍することはできず、逆に胴体にぶつかってしまい、バランスを崩してしまった。咄嗟に頭を抱えて地面に転がると、蛇の頭が背中をかすめた。かすめた蛇の頭はそのまま前方に突っ込み、胴体を噛んでしまう。ラードーンの悲鳴が部屋に木霊し、アルバスは思わず耳を塞いだ。

 

「危なかった……っ!」

 

 運良く難を逃れることができ、アルバスは少しでも距離を置こうと立ち上がった。もつれる足にいらだちを感じながら、疲れ切った足に鞭を打って走りだす。どこに逃げようかと顔を上げたとき、暗闇のなかを白くて小さなものが飛んでくるのが見えた。

 

「牙だ! 牙が来たよ!」

 

 アルバスは手を伸ばして、牙をキャッチする。

 

「とった!」

「さすがです、アル様!」

「あとはどうにかして、ラードーンに刺せばいいと思う! 問題はその方法だけど……!」

「それは任せて!」

 

 アルバスは硬くて冷たい牙を握りしめると、足を止めた。

 ひとつだけ、思いついた方法があった。こんな方法を言ってしまったら、2人ともやめろと言うだろうが、これしか思いつかない。

 

「さあ……来い!」

 

 アルバスは蛇の頭を向かい合った。

 ラードーンは今度こそ外さないと黄金の目を憎しみで輝かせている。今度の攻撃は狙いを違わず、まともにアルバスをとらえていた。アルバスは剣のように牙を握りしめると、大きく口を開けた蛇の口蓋にずぶりと突き刺した。バジリスクの牙は持ち手まで届くほど深く刺さり、生暖かい血がアルバスの両腕を濡らしていく。

 だが、ラードーンもただではやられない。すぐに、アルバスの左腕の中程に焼けつくような強烈な痛みが走った。ラードーンの牙がアルバスの左腕に刺さっていたのだ。アルバスは痛みに耐えきれず、バジリスクの牙から手を離し、よろよろと後退する。ラードーンの牙は破片をアルバスの腕に残したまま折れ、それと同時に、蛇の頭はぐったりと横ざまに床に倒れた。

 

「……痛っ!」

 

 蛇の頭がひくひくと痙攣する姿を見ながら、アルバスは力の限り牙を引き抜いた。熱した鉄を押しつけられるような痛みが傷口から腕全体にゆっくりと広がっていく。

 

「アルバス! 大丈夫!」

「アル様!」

 

 2人がはしってくるのが分かったが、アルバスは動くことができなかった。

 

「しっかり! ラードーンの毒に負けるな!」

「い、いま、止血します!」

 

 エリザベスが自身のローブを引きちぎり、ぐるぐると巻き始める。しかし、そのローブにも、じわりじわりと自分の血で染まっていくのが見えた。そんなことしなくていい、と言葉したかったが、アルバスの口からは痛みにうめく声しか出てこない。

 アルバスの悲痛の声を聞いて、2人は辛そうに顔をしかめた。

 

「大丈夫だよ、アルバス。この怪我なら、マダム・ポンフリーが治してくれる!」

「あとは出ることだけ考えましょう! だから、大丈夫です!」

 

 2人は嬉しいような泣きそうな声で言う声が、不思議と遠くに聞こえる。アルバスは最後の力を振り絞ると、もつれる舌で呟いた。

 

「うし……ろ……」

 

 2人に知らせたかった。

 だが、遅すぎた。

 ラードーンはバジリスクの毒を受けた首を他の頭が食いちぎり、猛毒が全身に回るのを阻止しようとしていたのである。2人が振り返るのと、食い千切った首が床に落ちるのは同時だった。

 

『―――!』

 

 ラードーンは怨嗟のこもった叫びをあげると、千切れた自身の一部を弾き飛ばす。100を超える頭のうち、たった1つを無力化することはできたのに、残りの99は健在のまま。むしろ、黄金の瞳の奥には先ほどよりも遥かに凝縮された憎悪の炎がちらついていた。

 

 

「もう、だめだ」

 

 スコーピウスが呟いた。

 バジリスクの牙を呼び寄せている間に殺される。そもそも、1本程度の牙で残りの99の頭を破壊できるとは到底思えなかった。

 

『――ッ!』

 

 ラードーンの99の頭は雄たけびを上げ、一斉に襲いかかって来る。

 恐怖が3人の全身を麻痺させ、動くことも声を出すこともできなかった。黄金の眼が、ぐわりとあいた大きな赤い口が、ぎらりと怪しげに光る鋭い牙が視界いっぱいに見える。

 どの口に食われるんだろう? どの口に頭を潰されるのだろう?

 怖いのと結局なにもできなかった悔しさで、アルバスの頬に涙が伝った。目を逸らしたくても、目の前の現実を見ていることしかできない。大蛇の息を顔で感じ、視界全体に口蓋の赤色が広がり――白く染まった。

 

 

 それは、とてもあたたかい光だった。

 

 

 人は感じる痛みの極限を超えたから、一周回って温かく感じるのかな? と思ったが、それにしてはおかしいことに気がついた。

 蛇の口蓋に頭が覆われかけたときに感じた生暖かさは消えている。

 アルバスの目の前を覆いつくしていた白い光は、白というよりも白銀だった。それも、なにか動物のように見える。それは、アルバスたちの傍からラードーンの数多の首を追い払うかのように、白銀の大きな動物がぐるぐる回っている。

 アルバスは精いっぱいの力を振り絞り、顔を少しだけ持ち上げる。白銀の光のなか、ラードーンを追い払おうとするそれは一角獣のように輝いていた。でも、おかしい。一角獣にしては、大きい角が二つある。それは、まるで――と、ここまで考えていると、白銀の獣がけん制する合間を縫うように、長い長い首がくねりながら迫って来る。

 

 

 しかし、瞬間――風が吹いた。

 

 このような密室で吹くはずのない一陣の風。このささいな違和感にラードーンの首が気づいたとき、ずるりと頭部と首がスライドする。

 

 

「まったく。城の最深部にこんな奴が暮らしていたなんて……」

 

 頭が床に落下したとき、ため息交じりの声が響き渡る。

 

「あなた、知ってました?」

「いや、僕も初めて知ったよ。城の怪物は、バジリスクだけだと思ってたからね」

 

 その声を聞いて、アルバスは白銀の獣が牡鹿であると気づく。

 

「さて、どうします? 私一人でもやりますが」

「いや、それは駄目だよ」

 

 神話の怪物を相手にしているというのに、2人はスーパーで今日の献立を決めているような話しぶりだった。

 

「僕の息子が世話になったから、そのお返しをしないと」

「私の大切な娘とその友人もですけどね」

 

 アルバスは驚いたように振り返る。

 アルバスたちが落ちてきた箇所が異様に明るい。月の灯りでも差し込んでいるかのように輝く場所の中心には、会話の主たちの姿が懸命に浮き上がって見える。

 

 額に稲妻の傷が残る魔法使いが杖を構えている。その隣には、禍々しい青い瞳を爛々と輝かせた魔女がたたずんでいた。

 

 

 

 まるで、死神のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

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