今回はハル視点でお送りいたします。
お姉ちゃんがカツミさんをデートに誘った。
これほど認めがたい現実があるだろうか。
そしてこれのなにがやばいって遊びに誘ったはずのお姉ちゃんが一番びっくりしていたことだ。
「お姉ちゃん」
「どうした妹よ」
「どうして私もここにいるんだろうなって」
正直、誘ったのはお姉ちゃんなので遊びに行くというなら送り出してやろうと思っていた……はずなのだけど、なぜか私はカツミさんとお姉ちゃんと一緒に都内の大型ショッピングモールへと足を運んでいた。
「へえ、こういうデカい店に来るのは初めてなんだよな」
ちょっと離れたところで私服に身を包んだカツミさんは物珍しそうに周りを見ている。
そんな彼を見ながら、小声で話しかけていると仁王像のように腕組をして立っていたお姉ちゃんがようやく口を開く。
「妹よ。幸せを分け与えるのが姉妹じゃあないか」
「日和ったんだね」
「そんな事実は存在しない」
「日和ったんだね」
「……はい」
この姉、変な言動で相手の調子を崩すのが得意だが、逆を言えば真面目にしていると一番脆い。
なのでカツミさんがデートだと思っていなくても、滅茶苦茶意識したお姉ちゃんは昨日の夜からぐるぐると家の中を歩き回り途方に暮れていた。
『ハルちゃん』
『ねえ、ハルちゃん』
『明日一緒についてきて』
私の部屋の扉を猫のようにカリカリしながら提案してきた姉に“棚からぼた餅”という言葉が頭によぎった———が、私もお姉ちゃんの妹だということが頭から抜け落ちていた。
結局、家の中を歩き回る変人がもう一人増えることになったが、二人で向かうことになり遅刻する心配がなくなったことだけはよかったとも言えた。
「ハルちゃん、よく考えて」
「ん?」
昨日のことを思い出していると私と同様に私服姿のお姉ちゃんが声をかけてくる。
「私とハルちゃんが手を組んだらもう無敵だから」
「無様の間違いじゃない?」
「ハルちゃんいつもより言葉のナイフ強くない?」
下手をすれば私がひたすらにフォローする事態になるかもしれない事実に心が震える。
「それに、ほら」
「え?」
お姉ちゃんが指さした方向を見る。
建物の路地と路地との間、影が差し込むその暗がりからこちらを伺う二つの視線が見えてしまった。
というより、アカネさんとキララさんだった。
『『……』』
「ひぃっ!?」
「護衛がいるから安心だよ?」
「どこが安心!? あれ護衛じゃないよ!? お姉ちゃんを狙う獄卒だよぉ!?」
地獄のような様相だったよ!? 百鬼夜行もぶった斬りそうだったよ!?
思わず肩を掴む私にお姉ちゃんはきょとんとした顔をする。
「ハルちゃんも標的だよ?」
「私を呼んだのはこのためか!?」
「ふももも」
標的を増やすために私を誘ったのかこの姉!?
あばばば、アカネさんとキララさんの怨霊じみた圧がすごい……!?
お姉ちゃんの頬を手で挟んでぐにぐにしていると、異変に気付いたカツミさんがこちらにやってくる。
「どうしたハル? ……あっちになにかあるのか?」
「え、あ、その……」
カツミさんが路地のある方を見ると、そこには影も形も消えていた。
アサシンかあの人達……!?
「……」
「カ、カツミさ———」
路地がある方をジッと見つめるカツミさんに声をかけようとすると、彼が手で待ったをかける。
「ハル。外ではカツキって呼んでくれ。さすがに名前呼びはバレちまうからな」
「え、あ、はい。ではカツキさん、変装とかしなくても大丈夫なんですか?」
私の質問に彼は「あー」と納得したように頷く。
私とお姉ちゃんは別に変装する必要もないのだけど、カツミさんは日本中……というか世界中で顔を知られている訳で、変装をしなければならない人だ。
なのに今は伊達メガネに帽子といったほとんど隠す気ゼロの見た目なのはどういうことだろうか。
「これでも結構大丈夫だぞ。外を歩いていちいち人の顔なんて確認しねぇし、眼鏡と帽子被ってりゃ意外とバレないんだよな」
「そ、そうなんですか」
「いざという時はプロトとシロが光学迷彩使ってくれるから大丈夫だ」
カツミさんの手首の黒い時計に変形したプロトちゃんと、上着のポケットから白い機械仕掛けのオオカミのシロちゃんが顔を出してくる。
わぁ、もうこの時点で最強の護衛がついている気がしなくもない。
「意外と簡単に外出許可も下りたしよかったな」
「本当にあっさりおりましたもんね……」
「司令曰く『戦士には休息が必要だからな』とのこと」
本当あの社長さん寛容だよね。
基本リスクマネジメントも完璧というか、人員を扱う上の配慮がすんごい。
「レイマ達も心配性だから見守ってくれていると思うけどな。……じゃ、早速、入ろうぜ」
「そだね」
「はい」
今回の目的はカツミさんの趣味探しだ。
アカネさんとキララさんの圧は怖いけど、私も楽しもう。
葵に誘われ、モールと呼ばれる都内のデカい建物に遊びに行くことになった。
正直なところ、こういう大型ショッピングモールには小さいころに行った覚えがあるだけで、今となってうろ覚えだ。
俺にとっては優しい両親と過ごした記憶の一つ……ではあるが、今はそのことを深く考えずに外出を満喫しよう。
「ここって映画とか売ってるのか?」
「そのことなんだけど、カツ……キ君。映画のサブスクで見ればいいんじゃない?」
「さぶすく?」
サプリメントかなんかか?
首を傾げる俺に、葵が補足してくる。
「サブスクリ……ごほん、Subscription」
「なんで流暢に言い直した? 定期購読がどうした?」
寄付とかそのへんの意味だった気がするけど、新聞かなんかか?
「特定の動画サイトにお金を払うと、公開されてる映画が見放題になるの」
「……へっ、そんな甘い話はねぇのは知ってんだ。どうせ月に何万もとられるんだろ、それ」
映画が見放題とかやばすぎだろ。
俺は知ってんだぜ、映画とかディスクを買うと何千円もするってな。
それを一本のみならず見放題とかもうやべぇだろ。
「安いやつで1000円以下ですよ」
「なるほど、一日千円か」
「一か月千円です」
「一か月千円!?」
嘘だろ。
なんで誰もこれを異常だと思わねぇんだ!?
世間に疎い俺だって映画館で映画を見る時に1500円くれぇかかることぐらい知ってるぞ!?
「これがラインナップ。その一部」
追い打ちとばかりに葵がスマホの画面を俺に見せてくる。
10:37 そちつ SAI-kyoKOhaiさん れけ 視聴中コンテンツ
しすせて
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なんでサメ関連の映画ばっかりなのか理解できねぇが、一部はスタッフさんに勧められて実際に見た映画だから知ってる。
「いや、ハルが言うなら本当なのか……!? マジかよ、千円で映画が見放題!? そんなことしてなんの意味があんだ? 絶対採算とれねぇだろ……!? 怪人の仕業かオイ!?」
「……」
「ハルちゃん、すごい笑顔だけど大丈夫?」
「え、そんなことないよ?」
「私、ちょっとハルちゃんの将来が心配になってきた」
サブスク、とんでもねぇもんが世に出回っていやがる。
後でハクアとアルファに教えてやろう。
「とりあえずそのサブスクとやらは後回しだ。今は本屋に行こうぜ」
「それならこっち」
額を拭いながら先へ行くように促すと、葵が本屋があるであろう方向を指さす。
「二人はよくここに来るのか?」
「んー、そんな頻繁には来ない」
「私も来ないですね。どちらかというとPC周りの機材とかを見にもっと専門的なところに行っている感じです」
以前、葵の企みでハルの部屋に足を踏み入れてしまったが、その際に見たパソコン周りの機械はすごかった覚えがある。
なにがどれがどういう役割があるのかよく分からなかったけど。
「ん、ここが書店」
「結構大きいんだな」
今日が休日ということもあってか、フロアの一区画いっぱいを使った書店にはそれなりの人がいるようだ。
俺に気づく客もなく、普通に書店へ足を踏み入れながらよさげな本を探しに向かう。
「カツキ君はミステリーものをよく読むんだよね」
「まあ……そうだな。でも決まったジャンルとかないから良さそうなものがあったらなんでもいいぞ。……あ、暗いやつは勘弁な」
「りょーかい」
さすがに葵任せにするつもりもないので俺も自分で探すが。
だが、俺自身学校の図書館で本を借りたくらいしか本を手元に置いた機会がないので、結構目移りしてしまいそうだ。
「……うーん」
とりあえず、クイズとかその辺の本ってあるかな?
ナンプレとかいい暇つぶしに使えていいんだけどな。
「かつみんかつみん」
「カツキだ。あとかつみん言うな」
とてとてとやってきた葵が抱えていた本を俺に差し出す。
「推理小説。犯人は眼鏡をかけた裁判官だったよ」
「おい、ふざけんなよ……?」
史上最悪の本の勧め方だぞ?
推理小説で犯人の名前ネタバレしながら勧めるとか罪深いとかそういう次元じゃねぇからな?
「冗談。このお話に裁判官は出ない」
「た、性質の悪ぃ冗談しやがって」
「検察官は出るけど」
「おい……?」
俺はこの本を読んで検察官の登場人物が出る度にこいつが犯人かもしれないと疑うことになるんだが?
頬を引きつらせながら渡された本の表紙を見ると、目に映った題名は———、
「シベリアンハスキー物語……?」
……。
「おい、これのどこが推理小説だぁ!?」
「似てるから、つい」
「そういえばツムッターで俺のことをこの犬種そっくりだとかいってたなお前……」
人のことを犬にそっくりというのは普通に失礼じゃないか?
しかし、本には罪はないし戻さないということは普通に勧めてくれたようなので一応買ってみるか。
「あとはこれ」
「なんだ?」
「はじめての犬の育てかた」
「お前俺に犬を飼わせようとしているな?」
「きっといいブリーダーになる」
どっからその自信が湧いてくるか不安になるんだが。
「いいや、犬は飼わねぇよ」
『私たちがいるからね』
『ガウ……』
「俺にはもうきなこがいる。あいつを裏切れねぇよ」
『『!?』』
「きなこはアカネの家の犬では?」
フッ、俺はきなこの散歩係を任されているからな。
外への散歩はたまにしかできないが、第二本部内は広いからスタッフの皆さんに挨拶しながら歩いているぜ。
「カツキさんっ」
「ハルも持ってきてくれたのか?」
「はいっ。どうぞ!」
ハルが持ってきてくれた本は掌より少し大きいくらいの小説で、表紙にはアニメのキャラクターが描かれている。
「ライトノベルです! カツキさんってあまりこういう本は触れたことないなって思いまして」
「なるほど……ありがとう。これも買うとするよ」
文学系よりかはライトな感じなのか?
「……ん?」
その時、ふと棚にある本が目についた。
真っ黒な背表紙には【黒騎士の秘密!?】と仰々しいフォントで文字が記してあり、その目立つタイトルから俺も興味を抱いた。
「なんだこれ」
【黒騎士とは地球が作り出した星の意思】
これを論ずるには怪人について語らなければならない。
そもそも怪人とはどこからやってきたか。
我々取材班が独自に収集した情報を総括してみたところ、怪人は外宇宙からの侵略者という可能性が最も高い。
外宇宙の生命体、それが怪人。
見た目が地球由来の物・生物の形状を元にしてこそいるが、その生態はあまりにも常軌を逸しており、我々地球人類に対して異常なまでの憎悪すら抱いている。
・地球人類は既に外宇宙の者たちにより管理・品種改良をされた。
・外宇宙の人類により地球人類は管理・保護され、現在はその経過を見守られている。
・そもそも外宇宙の生命体は地球人類以上の知能を有していない。
などなど、これまで地球外生命体についていくつもの仮説が打ち立てられたが、既存の生物を超越した生物が地球外のものと考えればおかしな話でもない。
話を戻そう。
黒騎士はそのような地球という星を蝕む怪人という地球外の生物を駆除するために生まれた星の戦士。
その最たる根拠として、既存の兵器の一切が通用しない怪人に対して有効な攻撃を与えられていることにある。
怪人に対して猛烈なまでに優勢に戦える黒騎士は既存の人類とは異なる生命体の可能性が高く、そのスーツも我々人類の科学力を遥かに超えた技術で作られたものであることは明白だろう。
「なんだこれぇ」
ものすっごい真面目なことが書かれているようでほとんど的外れだ……。
もう一度表紙を見返してみると、なんというか仰々しいもので視線を釣ろうとしている感じさえしてくる。
「あ、まだあるんだ。その本」
後ろから俺の手元を覗き込んできた葵がそんなことを言ってくる。
「なにこれ……」
「黒騎士くんの秘密を追求した娯楽本」
「俺の秘密……? なんの……?」
こんな仰々しい秘密なんてないぞ。
なんだ星の意思って。
「つーか俺ってこんなこと思われてたの……」
「大分前に出版されたものだから、結構適当なこと書いてあるよね。これ」
「皆、黒騎士さんに夢中だったもんねぇ。こんな与太話でも本気にしていた人もいたんだと思うよ」
我ながらすっげぇ誤解されてたんだなぁ。
他人事のように思いながら本を棚に戻してから———気づく。
『黒騎士の真相!』
『黒騎士に迫るⅡ!!』
『解析! 黒騎士辞典!!』
「……」
見なかったことにしよう。
割と本気で手を震わせながら俺は見るも恐ろしい本棚から移動するのであった。
万が一の時のためにサメ映画フォントを作っておいてよかったぜ……。
ついでにご報告をば。
本作、第一話、第三話、第十二話に登場する流れるコメントなどを新たに作り直しました!
第一話
https://syosetu.org/novel/227128/1.html
第三話
https://syosetu.org/novel/227128/3.html
第十二話
https://syosetu.org/novel/227128/12.html
今後時間を見つけては過去の話のフォントを作り直していこうと思いますので、作り直した際はその都度ご報告いたします!
今回の更新は以上となります。