今回はハイルの親友、香織の視点でお送りいたします。
一応本編にも登場しましたが、主に外伝の登場がメインのキャラです。
本編登場話「毒になりたい彼女」
https://syosetu.org/novel/227128/121.html
外伝「となりの黒騎士くん」
「となりのホムラくん」1,2
https://syosetu.org/novel/244552/4.html
https://syosetu.org/novel/244552/5.html
なにかを忘れてる。
漠然とした引っ掛かりのような感覚が私の中に膨らんでは消えて、また現れてくる。
それが気持ち悪いかといえばそうでもないし、気にならないかと言われればそうでもない。
曖昧な感覚にふわふわとした不可思議な感覚に苛まれながら、私の中でいつもの自問自答が繰り返されていく。
なにかを思い出せない。
なにかってなにを?
物事?
用事?
約束?
―――誰か?
分からない。
いつもの日常に、確かにそこにあったはずの何かを私は忘れてしまっている。
いや、忘れているという表現とはちょっと多分違うのかもしれない。
忘れていない。
でも分からない。
スマホに保存された写真に映り込んだ私と友達の英子の間にいる誰か。
一緒に遊びに行った時に撮った写真も
学校行事で記念に撮った写真も
くだらない話をしたりなんだかんだで楽しかった記憶も
『香織、隣の穂村くんについて相談したいんだけど……!!』
『英子、乙女ゲーから知識持ってくるのやめろ』
高校からの親友三人で一緒にいたはずだった。
でも、私の親友は一人しか分からない。
おかしい。
おかしいのに、それが私の中で特に気にするほどでもない問題に思えてしまって深く考えることをさせてくれない。
青い空のその先に突然現れた数えきれないほどの大きな船。
それは雨のように光の球を降り注いで、私たちの住む場所を壊そうとした。
でも、降り注いだ侵略者の悪意は空に現れた黄金色の砂のような何かが防ぎ、その形を生き物のように変えながら私たちのいる地上を守ってくれていた。
ジャスティスクルセイダーが用意していたなんらかの防衛手段。
あれがなにかは分からないけれど、今まで守ってくれた彼らの姿をずっと見てきた私たちはそのことに気付いて、すぐに避難することにした。
もう避難勧告は出ていて、自衛隊も、警察も、消防もいろいろな人たちが私達を避難させるために動いてくれていたおかげで僅かな混乱こそは起こっていても大きなパニックなどは起こることはなかった。
「香織、そっちは大丈夫?」
「あー、荷物が重く感じる。やっぱり部活やらなくなると身体って鈍るんだね」
傍には一緒に避難している親友の英子。
中学生からの友達で、偶然住んでいるところが近いということもあり、ほぼ同じタイミングで家族で避難することになった私たちは必要最低限の荷物を持って避難場所として指定された総合体育館へと移動していた。
「皆さん!! 現在頭上で攻撃を防いでくれているのはジャスティスクルセイダーが対侵略者を想定した防衛システムです!! 作動している限り、攻撃が地上を襲うことはありませんが、システムの負担を軽減させるために避難している人々はジャスティスクルセイダー総司令カネザキ・レイマさんが指定した避難場所に避難してください!! 各自スタッフもマニュアルに従い冷静な行動を心がけてくださーい!」
避難を案内している警察でも自衛官でもない特徴的な制服に身を包んだ人……多分、ジャスティスクルセイダーのスタッフの人が通信と声掛けを行いながらせわしなく動いているのが見える。
私も少しずつ見えてきた総合体育館を目にしながら、隣でぶつぶつと何かを呟いている英子の方を見やる。
「くっ、避難している間に私の部屋が吹っ飛ばされていたら侵略者マジで〆る……黒騎士くんが」
「他力本願かよ」
「暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子の私の同級生がきっとやってくれるわ」
「嘘から出た真マジでやめろ」
不謹慎どころじゃない捏造設定を的中をさせていた親友にドン引きする。
かつて同じクラスだった黒騎士くんこと穂村君に対して『暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子』という捏造設定を口にするという信じられない狼藉を働いた英子。
その後に彼の正体と過去が明かされたことからしばらくの間普通にショックと罪悪感を受け元気をなくしていた。
『クラスメートが推しで、推しがクラスメートだった。ふっ、つまり私は彼の日常の一部だったってことね』
『どうしたついにイカれたか?』
唐突におかしなことを言い出した当時は本気で頭の心配をしたものだ。
勝手に落ち込んで勝手に復活した英子。
それから特に何事も―――いえ、学校が怪人に襲撃された私の友達だった子たちがまさかのジャスティスクルセイダーのメンバーだった特大の事件はありはしたけれど、大学受験も難なく合格し卒業ちゃんとすることができた。
もうすぐ大学生活が始まる、という時にまさかの侵略者が宇宙船に乗り込んで攻撃を仕掛けててんやわんやといった状況だ。
「穂村君。多分、あんたのこと覚えてないと思うよ」
変に夢を見ているかもしれない英子にそんなことを言い放ってみる。
実際、学校での生活は彼にとっては怪人と戦う時以外の時間だったみたいなので……いや、黒騎士としての活動しながら難なく学生生活していた時点で大分おかしいけど、それでも彼にとってはそれほど重要でもない時間だったはずだ。
そんなことを言った私に英子がぐりんと首を回してこちらを見た。
「は? ホムラ君がクラスメートの名前覚えてないとかないでしょ。ああいう日常を大事にするタイプの人はなんだかんだでクラスメート全員の名前覚えてくれるのよ?」
「瞳孔開いたまま喋るな怖い」
無駄に解像度高いのなんなの?
なにより怖いのは恋心とかそういうのじゃなく、熱心なファンみたいなものってところ。
元より、クイズ怪人から命を救われて推しになったってのは聞いたけれど、より拍車がかかってしまったような気がする。
「でもそれはそれとしてクラスメートを覚えていなくても普通に助けてくれてすぐに思い出してくれるところも解釈一致の射程距離にある」
「前にもツッコんだけど、あんたどこの視点から話してる?」
「どこにでもありふれた敬虔なファンの一視点よ」
「ファンの前に敬虔とかつく時点でおかしいことに気づいて?」
ありふれてたまるかそんなもの。
ああ、どうして私の親友にこんな悲しきモンスターが生み出されてしまったのだろうか。
「はぁ、そろそろ避難所につく———」
頃かな、と口にする前に不意に鉄を擦りあうような不快な音が鳴り響く。
その音に一緒に避難していた周りの人たちも耳を抑える中、唐突に私たちが歩く通りの中心に光の柱のようなものが降り注いだ。
「な、なに!?」
「まさか宇宙船から……?」
まるで滝のように光が地面に当たり散っていく中、がしゃん!!!! と地響きを轟かせ、コンテナのようなものが光を通して落下———そこから複数の人影が飛び出してきた。
「ひとじちはいらんころせ!!」
「りゃくだつ!! よきりゃくだつを!!」
現れたのは機械的な装甲に身を包んだ宇宙人。
人間と変わらない姿だったり、四本腕だったり、明らかに人外じみた姿をした奴らは意味の分からない言葉を叫び———無造作にこちらにその手に持った銃のようなものを向けてきた。
「は?」
侵略者? え、は? 私もしかしてここで死ぬ?
突然すぎる事態に思考が止まり、叫ぶこともできないまま向けられた銃口に光が発せられ———、
―――空から一瞬で現れた白と黒の影が迫る光の線を叩き落した。
「やっぱりこうしてきたか。単純な奴らだな」
「くろきし!!」
「あらわれたか!!」
続けて光が走って連続して攻撃が放たれるが、目の前の彼———黒騎士が軽く手を翻すと、私たちと彼の間に幾重にも重なった黄色く輝く斧が連続に表れ、まるで壁のようになる。
私たちへ向けられた攻撃を全部防いでしまった彼はそのまま、掌で光線を
「は?」
掌に黒いオーラのようなものを纏わせ、次々と迫る光線を引き寄せるように手中に収め握りつぶす。
周りにいる私たちに向かわせないため、ということなのはなんとなく分かるけれどそれでもとんでもないことをしている。
「……」
「っ」
彼が背後にいる私たちを一瞥する。
仮面に隠れたその先にあるであろう強い意志の込められたそれに圧倒される。
「目を閉じていろ」
「え……あ」
一瞥もせずに静かにそう言われるがまま目を閉じた瞬間、風が吹き荒れる音と共になにかが激突し破裂する音が響く。
その音に驚いて目を開けると、私の眼前には原型をなくした侵略者の残骸が広がっていた。
残骸がいた場所には黒騎士が立っており、その先にはまだ残っていた宇宙人が歓喜とも怒りとも知れない声をあげながら飛びかかっていた。
「ああ、せんしだ われらにしをとどけるもの!!」
「……」
もはや構えてすらいない銃をこん棒のように叩きつけようとする宇宙人に対して、彼は無造作にその手に持った黒色の大剣を薙ぎ払いその胴体を両断させた。
その後にまだ宇宙人が控えているコンテナに視線を向け、持っている大剣を大砲のような形状に変形させ狙いを定めようとした———次の瞬間には空から青色の閃光がコンテナに降り注ぎ、爆発させてしまった。
「な、なに?! 空!?」
黒騎士ではない上からの攻撃に思わず空を見上げると、空高くに太陽に反射する六角形の鏡のようなものがひとりでに浮いているのがかろうじて見える。
「ナイスだブルー。……ああ、索敵を頼む」
耳元に手を当て、通信をしているであろう彼を見て、ようやく命拾いしたと気づいて安堵の息を吐いてしまう。
動画にアップされている黒騎士くん残虐シーン(モザイク付き)を見ていなければびっくりしてしまうような光景だ。
人間の慣れって怖……って現実逃避気味に思っていると、左手に握ったナイフを粒子にして消し去った彼———黒騎士くん、穂村くんがこちらへ振り向いた。
私たちを守っていた黄色の斧のバリケードはいつの間にか消え去っていた。
「怪我はないか?」
「———」
返事をしようとしたけど、言葉が出ない。
目の前で侵略者を蹂躙した黒騎士に対しての恐怖———ではなく、元クラスメートが目の前に突然現れての驚きからどんな言葉を口にしていいた分からなかったからだ。
絶句する私達に、彼はなにかに気付いたようなそぶりを見せてから後ろの英子と、そして私を見る。
「もしかして、神崎と倉橋か?」
「え、穂村くん……なんで……名前……」
確かに、私の名前は神崎、神崎香織だ。英子も倉橋英子という普段の言動からかけ離れた知性を感じさせる落ち着いた名前だ。
でも、普段彼とよく親交があったハイルは私や英子のこと下の名前でしか呼ばないし苗字なんて―――、
「クラスメートだったから覚えてて当然だろ」
こともなげにそう口にした彼に変な笑いが零れそうになった。
ああ、そうか。
彼にとっては……怪人として戦って、彼自身が辛い状況にいた時に平穏でいられた学生としての生活は、本当に大切なものだったんだろうな。
「上から来る奴らは俺たちがなんとかする。早く避難してくれ」
こちらに背を向けた穂村くんはその手に持った黒色の大砲を無造作に放つ。
飛び出したであろう光弾は目の前の空間に弾け、こことは別の景色を映し出すゲートのようなものに変化する。
「お前たちには手を出させない。俺たちが守る」
そう強い意志を込められた言葉を言い放った彼はそのままゲートへと飛び込みこの場から消えてしまった。
残ったのは未だに衝撃から抜け出せない私を含めた人たちと———隣で目を瞑り感極まるように上を見上げている英子だけであった。
「あの子が好きになるのも分かるなー……あの子?」
いったい誰のことを思い浮かんだんだろう。
無意識につぶやいてしまった言葉に自分でも驚いていると、不気味なほどに無言だった隣の英子がなにやらわなわなと震えだした。
「存在した……!! 実はクラスメートの名前をちゃんと全員覚えている系ヒーローは存在したんだわ……!! こんなにうれしいことはない……!!」
いや、感極まっているだけだった。
穂村君がこの無礼者のことを覚えているのはなにかしらのリソースの無駄なんじゃないだろうか?
「相変わらず平常運転……ほら、穂村くんの言う通りさっさと避難するよ!!」
不安もあったし、恐怖もあった。
けれども穂村君……黒騎士くんと彼と一緒に戦うジャスティスクルセイダーがいれば大丈夫だ。
根拠もなにもないけれど、なぜか漠然とそう確信してしまうくらいには彼らの存在は私の中で大きなものになっていた。
忘れさせられてもどこかでハイルのことを認識している香織でした。
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