龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
龍神暦もすっかり定着し、それ以前に違う暦を使っていたことを知る者も徐々に少なくなっていく中、各主要都市で満を持して新たな施策を発表した。
国民が利用できる医療制度……つまりは病院の設置である。
妖怪などの外敵からの保護、食料の供給による栄養改善ときたら、まあ後やるべきは傷病の治療かなって。
幸い、東洋医学的な分野は練丹術を修めている青娥が詳しかった。ほっとくと終末医療とか尊厳死とかに寄って辰砂*1とか使おうとするけどな。丈夫な仙人ならともかく、常人は普通に死ぬぞ、それ。
西洋薬学の分野では幻想郷に隠棲している永琳へ連絡を取ってアドバイスをもらっている。一緒に近況なんかも聞くんだが、最近は住んでる竹林でウサギに智慧を授けているとかなんとか。なにかの比喩なんだろうか?
こうして本場大陸由来の東洋医学とゾンビが製作できるくらいの人体理解を備えた外科技術、月人の技術の超劣化コピーの西洋医学という豪華な闇鍋みたいな病院が開業したわけだが……これがもう効果
乳幼児を含めた子どもの死亡率が目に見えて下がり、人口調査の結果がぐぐっと右肩上がりになるくらいには効果があった。ゾンビ農園が稼働してなかったら《収穫期》で無理矢理食料を確保することも視野に入れなきゃいけないレベルだったぞ。
運営は国が、診察・施術・介護はゾンビがやるので当然の如く24時間勤務である。医術を学ぶ生者が一部手伝ったりもするが、そこは完全に任意だから。基本的に《仕える者たち》の応用なのでマナカラーは白だが、驚きのブラック経営だな……
こうして国民の幸福度が上がり、俺への依存度も上がり、良いこと尽くめに思えるが……欠点もある。ゾンビたちの素材だ。
妖怪の勢力縮小、敵対国家の友好化、傷病死亡率の減少に栄養状態の改善などで、肉体の最盛期で死亡する者は減ってきている。《仕える者たち》の方なら別に歳を取った老人の遺体でも働けるなら別に構わないんだが、戦闘を主眼にした永遠衆の素体はやはり戦闘力のある年齢の遺体の方が生産の効率が良いことが分かっている。年寄りを戦える永遠衆に仕立て直すのは時間が掛かるのだな。
かといって、激情の試練*3みたいなのやったらゲートウォッチに見つかり次第ぶっ飛ばされるだろうし……
そういうわけで、不慮の事故で亡くなった遺体を優先的に素材にする制度を整えて、若い遺体も集められるようにしてみた。大量に必要になったら足りないかもしれないが……まあその時は大きな戦いが起きてるんだから若い遺体なんていくらでも手に入るだろ!(楽観)
東の海へ向けて出発させた探索隊が帰ってきた。といっても、一部ではあるが。
何も見つけられなかったら全員帰ってくる手筈だったので、一部だけが帰ってきたということは確かに何かがあったのだろう。《エイヴンの永遠衆》が
ほうほう、この次元にもアメリカ大陸に当たる場所はあったんだなぁ。とりあえず、その乾燥トウモロコシは成功するかは分からんが栽培を試してみよう。
一番警戒していたポータル……次元間の転移装置のようなものは発見されなかったという報告にホッと胸をなでおろす。現地にも人間と思われる存在が住んでいて、平和裏に接触できたようなのでここらあたりはさらなる交流を進めてみるべきかな?
そもそも人間に見えたからといって、人間ではないこともあるのが多次元宇宙。もしかしたら狼男や吸血鬼かもしれんしな。追加の人員はできるだけ多様な陣営で進めるとしよう。ミノタウルス*4やケンラ*5の永遠衆を加えてもいいかもしれん。
できれば生きている人間も送り込んで向こうの言語や文化を学ばせたいが、今の文明であっちに辿り着くまで生き延びられるだろうか? 可能な限りの準備はするが、死の危険も高いし、志願制で人を集めようか。
アメリカ大陸に当たる場所が東の海の彼方に広がっているとするなら、新たな植物の種なんかも持って帰りたいところだな。ジャガイモやトマトなんかはアメリカ大陸原産だったというし、リスク分散のためにも育てられる作物はいくらあってもいい。
準備はこれから進めるとして、ひとまずトウモロコシを貰ったんだから何か返礼の品を相手に贈るべきだろう。国と国を隔てた交流なんだから、貸し借り無しの方が都合がいいからな。
何がいいだろう……こちらはトウモロコシを貰ったのだから、こちらも作物というのが相応しいか? うーん、ソバなんてどうだろう。荒地でも育つし、そこまで育てるのは難しくないだろ。
それじゃあ、豊聡耳に頼んで、大海越えの志願者募集の告知を出してもらうか。
むかーしむかし、この国と西の海の向こうの国が交流を始めたばかりの頃、西の国は
初めに現れた”蒼の鷲”がもたらしたソバの種は、トウモロコシを育てるに向かぬほどの荒地でも育てることができ、のちに国を広げるのに大きく役立ったのじゃ。
続いて蛇と巨獣、そして冥界の民が船で来訪し、海のほとりに小さな建物を建てた。
勇気ある者が中を伺ったが、冥界の民たちが休んだりする姿は見えず、当時の王も大変困惑していたという……
次の船が来た時、皆が驚いた。冥界の民は生者を連れていたのだ。さらにその周りにはバッファロー・コヨーテ・鷲・蛇・髑髏……様々な動物の頭を持つ冥界の戦士たちが侍っていた。……まあ、バッファローに関しては本当は羊じゃったらしいが。
生者と我々は交流を図り、西の海の向こうに冥界の神と、それに選ばれた女性の貴人が居ることを知ったのじゃ。
冥界の主ミクトラン・テクトリと女主人ミクトラン・シワトルに彼らを重ねたのじゃろうな、当時の王は彼らを賓客として迎えたという。
ただでさえ鷲の戦士・コヨーテの戦士・髑髏の戦士は勇猛な戦士団に付けられる異称であったし、バッファローの戦士は近隣に勇名を響かせた部族、そして"石の蛇"は太陽神が歯向かう兄弟を弑した象徴だったからの……そう思うのも仕方ない。
当時は彼らこそ、冥界へ行った祖先だと考える戦士たちも少なくなかったらしいぞい。
交流をするにつれ、あちらの文化も当然流れ込んでくる。
当時、この国では太陽はいつか消滅してしまうものであり、延命のために太陽神に供物を捧げねばならないと考えられておった。
しかし、交流の中で、あちらの国でも太陽が一度消え去ったことがあり、隠れた太陽をもう一度呼び出すために国一番の美女と力自慢が協力し、楽しい祭事で誘いだしたという神話を聞いた。
西の国の王は太陽神の孫の末裔であるとも聞き、冥界の神と太陽神の血脈が手を携え、太陽は滅ぼされようと冥界から黄泉返る、現在のこの国の神話が形作られたのじゃ。
人身御供という痛ましい儀式がなくなり、今の太陽を讃える祝祭になったのを当然とは思ってはいかんぞ。
西の大海を隔てておるというのに、かの国は援助を惜しまぬ慈悲にあふれておる。
東の岸より太陽神を奉じぬ野蛮人共がやってきた時に、常に我らとともに戦い、倒れても戦う力を与えてくれたのが彼らじゃからの。
今も都市の各地に冥界の民たる髑髏の戦士たちを
ほれ、かくいう儂の後ろにあるこの像は、実は儂のひいひいじいさんなんじゃよ。ホッホッホッ。