人類石化の原因となったドラえもんとのび太の謝罪を受け入れた石神村と千空たち一行。
「まさか羊羹1つを隠すだけで人類石化が防がれちゃうなんて、本当にワオだよこれ」
「約束だよ! タイムマシンで全部無かったことにするって!」
ニッキーに念を押され恐縮しながらも、ドラえもんとのび太は首が取れるんじゃないかってくらいにブンブンとうなずいた。
「う~む、私たちにはよく分からんが、千空たちの時代に起きた人類石化が全て無くなって、全部無事に解決ということでいいのか?」
過去にタイムスリップして歴史を改変するという概念が存在しないコハクたちはイマイチぴんと来ない話ではあったが、千空が「まぁそういうことだ」と言うならばそれで良しと納得した。
「でもさ、全部無かったことになるってことは、僕らがここで過ごしてきた日々も、無かったことになっちゃうってこと?」
羽京の言葉にハッとなった杠。その様子を横目に、千空は表情を曇らせた。
「石神村の人たち、石化した後に生まれた人たちは、どうなっちゃうの?」
「それは・・・・どうなっちゃうの、ドラえもん?」
「歴史が変わっちゃうから、石化した後の出来事も、その後で生まれた人も、最初から居なかったことになっちゃう」
ドラえもんの告げた残酷な現実に、その場にいた全員が表情を暗くした。
「そ、そんな。みんなとお別れしちゃうのは悲しいんだよ」
スイカの切実な不安は誰もが同じ想いであった。
長い沈黙が流れる。
皆、自分の命が惜しいのもあるが、それ以上に今まで積み重ねてきたモノが失われることにショックを受けていた。
そして何より、千空が来てから、科学が紡いできた繋がりが失われてしまうことが悲しかった。
そんな中、沈黙を破ったのはコハクだった。
「ハン、私たちが最初から居なくなる? そんなことはあるまい」
一瞬、的外れな強がりにも聞こえるコハクの言葉に、皆が顔を上げる。
「私たちは元は創始者6人の末裔。つまり千空の父上たちの子孫だ。たとえ時代が戻ってしまっても、そこが変わらないのであれば・・・私たちはいつでも一緒だ」
強引すぎる強がりなのは誰もが分かっていた。
だが、今ここで自分たちが我慢すれば、世界中の人々の不幸が綺麗に消滅してくれる。石化している間もハッキリとした意識が残っているという現実こそ、自分たちよりも苦しく悲しいことではないか。
それに1人で消えるなら怖いが、みんな一緒なら怖さも半減以下。そう考えれば、勇気を振り絞ることができる。
「それに、これからは千空の父上の中で、毎日嫌というほど千空と顔を合わせることになるんだ。皆で一緒にな」
「まぁ、百夜は宇宙飛行士やってっから、再会すんのは何か月も先になるがな」
耳に指を突っ込んで、いつものように悪態をつきながら笑う千空。そのいつもの様子は、彼を慕う村人たちに安心感を与えた。
そんな様子を見たゲンは、皆の安心をもう一押しする手を発動させることにした。
「ところでドラちゃん。のびちゃんと一緒に美味しいものたくさん食べたよね~。でもね、この豪華な料理ってみんなが毎日食べれるようなもんじゃないわけよ。だから、グルメテーブルかけでも・・・ちょっと使ってあげてもバチは当たらないと思うのよ」
ゲンの言葉に、ドラえもんは「それもそうですね。では皆さん、メニューをお伺いします」と言って、現代食のメニュー表を取り出して、レストランのウェイターのようにアンケートを取り始めた。
「では千空さんたちも」
のび太がメニュー表の料理がそれぞれどんな食べ物なのかを村人たちに説明している間、ドラえもんは復活者組にも希望を聞きに回った。
「はっはー、俺はいい。何故ならフランソワの料理を毎日食っているからな。そもそも石化前の世界に戻れば、もっと美味い素材でもっと美味い料理にありつける。無意味だ!」
ゲンが意図的にドラえもんに当たらせたのは龍水。そして彼は当たり前のように高らかな笑い声と共に、ゲンの想定通りにドラえもんの提案を断った。
「そうだよね~。現代人は元の世界に戻れるわけだし。ってことは別の形でお詫びをしてほしいのよ。石化させちゃった分のね」
人類石化の責任をキッチリと清算させる流れを作るゲンのしたたかさに、ドラえもんは全く気付くことなく「それもそうですね。でも何をしたら?」と首を傾げた。
「そうね~。例えば、例えばだよ。元の世界に戻った俺らに秘密道具を1つ、何かプレゼントしてくれるってのはどう? 俺は、そうね~『ソノウソホント』くらいでいいかな」
シレッととんでもない提案をぶち込んでくるものだ。と、現代組の誰もが思った。
「てめぇに使わせたら人類終了のクソチート秘密道具じゃねぇか」
「う~ん、それはちょっと・・・スペアがある道具ならいいけど・・・」
ケラケラ笑う千空に、ドラえもんは困った表情を見せた。だがその反応に、ゲンはわずかにしてやったりの様子を見せ、そこからケロッと表情を変え、ニコッと笑って見せた。
「なら、できたらいいな♪なこと、叶えてくれちゃったりしてくれない? 今の内に俺らからリクエスト取っといて、元の世界に戻ったら俺らを探してシレッと願いを叶えておいてくれるとか」
「そのくらいだったら、いいですよ。僕に叶えられる範囲なら」
そう言って胸をドンと叩くドラえもん。そもそも彼に叶えられない願いの方が少ないことを、現代人の誰もが知っている。
そもそもがドラえもんなら人類絶滅の責任をチャラにできるという認識をゲンも持っているはずなのに、ここにきて願い事を実現させるという夢の体験まで誘導したのは、ゲンの巧みな交渉術の成果であった。
「まぁ復活組100人全員の、ってのはさすがにリームーだから、功績的なものを考慮して、この場の俺らの願いだけでも叶えてもらいたいわけよ」
「まぁ、妥当だね」
ということで、各自が自分の叶えて欲しい願いを発表していくことに。
・七海龍水の場合
「って、龍水がフリーズしたぁ!?」
「世界一の欲しがりも、実現の範囲が青天井でキャパ超えしたんだろ」
「こりゃ回復するのを待つしかねぇな」
・フランソワの場合
「執事の望みは主の幸せです。龍水様の願いをお叶えください」
「その主様がフリーズ中に、執事も思考フリーズしてんじゃねぇよ」
「ブレないね、この人は」
・西園寺羽京の場合
「う~ん、龍水のことを言っておいてアレだけど、僕も思い浮かばないなぁ。欲しい秘密道具は何? って聞かれたら、どこでもドアって即答できるんだけどね」
「自衛官って、あんまり自由が無さそうですもんね」
「だからちょっとタンマにしてほしいな」
・石神千空の場合
「タケコプター」
「一択!?」
「現代科学を超越した科学だぜ? 唆るじゃねぇか。どの時代の俺でも絶対に分解して構造調べるね」
・花田仁姫(ニッキー)の場合
「私の願い事が、叶うならば・・・リ、リリアン・ワインバーグに会いたい!」
「んなもん、百夜に言やぁコネでアホほど会わせてもらえんだろ」
「なっ!? なら、千空と知り合いにしてくれ! だって、元の世界に戻ったら皆、他人になっちゃうんだろ?」
このニッキーの言葉に、他のメンバーもハッとなった。
「そうだ。千空の連絡先だ! 俺はそれを所望するぞ!」
「私も、千空様とのコネクションは、欲しい!」
「迂闊だったよ。そうさ僕も、この繋がりが手に入るなら」
モテモテハーレム状態にドン引きする千空であったが、大樹と杠の後押しもあり渋々了承した。
「つっても、元の俺が拒否れば終わりだかんな」
・大木大樹の場合
「俺と杠は、もともと千空と友達なわけだから、連絡先なんて今さら要らん!」
「んなこた馬鹿でも知ってんよ」
「だが、1つ気がかりがある。元の世界に戻ったら、この世界で目を覚ました・・・司の妹の未来ちゃんがまた植物状態になってしまうんじゃないか? 俺は、彼女を救ってほしい!」
大樹の宣言に、自分の願いばかりを追い悩んでいた他のメンバーは、顔を真っ赤にして頭を下げた。
・小川杠の場合
「なら私も。大樹くんの願いをサポートしたいんだ。司くん、前に言ってたんだ。『もしも3700年前に千空くんと出会っていたら、初めての友達になれたのかもしれない』って。だから、司くんが千空くんと友達になれるようにしてほしいの」
「・・・だな。まぁ霊長類最強が一高校生の連絡先、急に手元に手に入れたからって連絡するとも限んねぇけどな」
「だ、大丈夫だよ。2人なら!」
・浅霧幻(ゲン)の場合
「ま~、この流れで俺だけ私利私欲ってのもドイヒーだよね」
「じゃあゲンも千空の連絡先な」
「でもさぁ、確か千空ちゃんて俺のこと最初『ゴミみたいな本書いてたマジシャン』とか言ってなかった? そんな胡散臭い相手から急に連絡来て、出る?」
「100億%出ねぇ」
「だよね~」
「だが、先に龍水やら司から連絡来りゃ、そっから推理して、少なくとも着信拒否はしねぇだろうな」
こうして、8人の願いが揃った。
あとはドラえもんとのび太が元の世界からタイムマシンに乗って過去を修正し、その後で神さまシートに入り、千空たちの世界に降り立って、聞いておいた住所・情報を基に全員の願いを叶えて回ればいいだけである。
の前に、麦畑や鉱山、油田で働いている元・司帝国のメンバーにも“どこでもドア”でご馳走が届けられ、しばし宴会に興じてから、ドラえもんとのび太は元の世界へと帰っていった。
残された千空たちは、夜空へと消えていく神さま雲を見送り、夢見心地な時間に想いを馳せていた。
「いや~、夢じゃないんだよな。人類が助かるんだよな?」
「そういえば、いつ頃その時間の修正って始まるのかな?」
杠の素朴な疑問に、千空の頭の中で複雑な計算が始まっていた。
のび太が神さまシートに石化リングを投げ入れた時間を仮定し、そこからのび太の運動神経からリングの移動速度、宇宙空間で発動したリングの光が地球を覆いつつISSにだけは届かずに済む距離と石化光線照射時のISSの位置、そこから割り出される神さまシートから地球までの距離と、今日2人が地球に降り立った位置関係から、今2人がシートに戻る道のり。そして雲の大気圏内と宇宙空間での移動速度。さらには戻ってからタイムマシンに2人が乗り込んで元の時代をダイレクトに発見して対処を間に合わせることを計算すると・・・
「・・・ククク、さすが22世紀様だ。前半、物理法則ガン無視しねぇと計算合わねぇが、まぁ朝になりゃ終わってんだろ。俺らは寝て待つだけだ」
「そうか、では私たちは寝て起きた頃には千空の父上たちの中にいるということだな」
「それで僕らも合流して、もし宇宙飛行士の人たちに会うことができたら」
「科学王国のみんながまた集まれるんだよ!」
「しかもNASAでな。いや、俺が七海財閥を率いて宇宙産業に手を出せば、あるいは全員がまた顔を合わせ、共に宇宙を目指すことになるやもしれんぞ!」
龍水のぶっ飛んだ発想ではあるが、そんな進路も見てみたいと思う気持ちを誰もが心に抱いた。
こうして、科学王国の夜は更けていき、それぞれが複雑な気持ちを抱えたまま・・・
朝を迎えた。
「うぅ~ん、もう朝だ。またゴイスーにドイヒーな作業が待ってるよ~」
寝ぼけ眼のゲンが寝床から抜け出し、朝日を浴びて大あくびしていた。
「・・・ってあれ~?」
目の前に広がるのは見慣れたストーンワールド。
「・・・ジーマーで? 俺ってば、この歳になってドラえもんの夢見ちゃった?」
全ては夢オチ。そんな現実に項垂れて朝からテンションだだ下がりのゲン。
すると同じようにテンション下げ下げの羽京が顔を洗いに歩いているのが見えた。
「ぁぁ、ぉはよぅゲン」
「もしかして羽京ちゃんもドラえもんの夢とか見ちゃったりとか系?」
ゲンの言葉に目をカッと見開く羽京。
「まさか・・・あれって現実だったの!? でも、だとしたらどうして歴史は変わらなかったんだろう?」
狼狽える2人に、朝からいつものテンションで頭をボリボリと掻く千空がヌッと現れた。
「まぁ、考えられる可能性は3つだな。まず1つ、あいつらが失敗したか忘れた説。2つ目は並行世界説、歴史を変えたことで俺らの今いる世界だけ独立しちまって、歴史を改変する影響が無いっつう話・・・でもって3つ目」
そう言うと千空は空を指さして言い放った。
「ドラえもんの秘密道具と、俺らを襲った人類石化現象は別物っつう説だ」
千空はその可能性を一番に疑っていた。
正直、タイムパラドックス等のSFな話は科学で証明できない分、千空にとっては意味の無い議論であった。
それよりも興味があったのは、昨夜、千空が計算したドラえもんたちの神さまシートまでの距離がどうしても計算が合わなかったという事実であった。
数式は絶対に嘘をつかない。勿論、千空が見落とした要素が計算を狂わせていた可能性もあるが・・・
「ってことは例のホワイマンが。石化の真犯人がまだいるってこと?」
「まぁ原因がドラえもんだろうがホワイマンだろうが、科学王国としてやることは変わらねぇよ。むしろ科学王国としちゃあ、ドラえもんの影響無視して、ホワイマン対策一本に絞れんだ。ありがてぇ話じゃねぇか」
希望がチリと消えたことに落胆の色を一切見せない千空。
「『ドラえもんの力で全部解決楽ちんコース』が消えちゃっても、嘆く時間なんて非効率的だって一蹴してんのよね千空ちゃんってば」
「そういう心の強さは、僕らも見習わないとね」
そう感心するゲンと羽京であったが、千空の手にタケコプターみたいな竹とんぼがチラリと見つかると、『あっ・・・これ、意外と引きずってるな』と、千空の心の傷を察したのだった。
こうして、科学王国は人類石化のヒントに迫ったようで実は一歩も前には進まず、結局はこれからも今まで通りに科学と共に皆で歩んでいくこととなった。
1つ、良いことがあったとすれば、中華料理やイタリアン、日本食やドイツ料理といった美味しい現代食を味わったことで、石神村の人々も現代人組も、人類復活の(美味しい食事にありつきたいという)モチベーションをさらに高めることができたことであろう。
ドラえもん登場回は一旦ここまでとなります。
石化後の世界に再度、ドラえもんが参加するルートは下のリンク先の41話から
https://syosetu.org/novel/227483/41.html
石化前の世界で科学王国が再集結するルートは以下のリンク先の9話から
https://syosetu.org/novel/227483/9.html
になります。
ちなみに石化前の現代社会の世界から10年後の、千空が宇宙飛行士を目指すルートは宇宙兄弟とのクロスオーバーで20話から
https://syosetu.org/novel/227483/20.html