12月25日。あちこち色んなカップルで賑わうクリスマス。今日も私はいつも通りアルバイトだった。
別に寂しくはない。元々恋愛沙汰なんて微塵も興味はないし、人付き合いだって嫌いだ。恋人なんて出来た日には窮屈で仕方ないと思うし、恋愛なんてものに時間を使うくらいならバイトでお金を稼いで好きなものを買った方がよっぽど有意義に思える。
世間では私みたいなのを非リアというらしい。でもこれはこれで私としてはリアルも充実しているつもりだった。
「サンタさん来てくれるかな?」
「いい子にしてたもの。きっと来るわ」
人気の多い繁華街から離れてもやっぱりまだ人はいる。帰り道の途中の親子やカップル、夫婦まで色々な人がベタベタと。
ふと周りを見渡す。見たところ、一人なのは私だけだった。
「……ま、いっか」
まあ別にどうでもいい。親が喧嘩別れで離婚して、どっちも自分勝手でついて行けずにバイトしながら一人暮らし。そんな生活をしている私には家族なんて無縁なものだから。
「あっ…」
そんなわけで帰路を急ぐ事もなくのんびりと歩いているとふとコンビニに貼られたポスターが目に入る。
どうやら今日はクリスマスセールでチキンが割引らしい。今日はこれを晩御飯にしよう。
そして私の今日の夕飯は、冷凍パスタとコンビニのフライドチキンに決まった。クリスマスでも変わらない、いつもと同じ寂しい夕飯になりそうだ。
「ただいま」
ただいまと言う。誰もいない。返事もない。まだ家族がいた頃に出来た単なる癖だ。特に深い意味はない。
家に帰ると早速私は電子レンジに冷凍パスタを放り込んでスイッチを入れて、何かやってないかと食卓のテレビの電源を入れる。
『本日未明、東京都渋谷区の代々木公園で男性の遺体が発見されました』
またこのニュースだ。近頃よく流れている。そしてこの後、きっとまた同じような文章が読み上げられるだろう。
『死因は不明。警察は死因や身元の特定を急ぐと共に、一連の類似した事件との関連性を…』
近頃、ここ二ヶ月くらいで死因不明の死体が発見されるという事件が急に増えている。いずれの死体も外傷はなく、まるで命だけがぱっと消えてしまったような状態らしい。
でもまあ実際は多分何かの発作だろう。そういう新しい病気が増えてるのかもしれない。今度からマスクちゃんとしようかな…。
「あ、出来た」
そんなニュースを見てるうちにレンジの音が鳴り、熱々の皿を取り出して上に乗った袋を開けると部屋に湯気と共にミートソースの香りが広がる。
早速ミートソースパスタを軽く混ぜて粉チーズを掛け、その上にコンビニで割引されていたフライドチキンを乗せる。これでなんとなく豪華に見える…気がする。
面白くもないニュースなんて別に見たくもないし適当なバラエティ番組にチャンネルを変えると私はそのなんとなく豪華に見えるパスタを、普段は箸のところをお上品っぽくフォークで巻いて頬張る。いつも通りの冷凍パスタだった。
「つまんない…」
バラエティ番組も芸人の内輪ネタばかりでつまらない。テレビの中のタレントたちは笑ってるけど、本当にこれを見て視聴者が面白いと感じると思ってるのか。結局他に何もなさそうだしテレビの電源は消しておいた。
「……ドクぺ切れてたっけ」
そういえば冷蔵庫の中のドクぺが切れてた気がする。暇だし気晴らしも兼ねて買いに行こう。
そして私はさっさと上着を着てマフラーを首に巻き、鍵をかけて家を後にした。
実のところ、ドクぺが売ってる店は家から結構遠くて自転車じゃないと行けない。でもまあ人気は少ないし人嫌いの私でも気軽に行ける上にあそこの店主は数少ない私が気兼ねなく話せる人だ。なんだかんだで家と同じかそれ以上に気楽な場所になっている。
というかそもそも何処の誰が好き好んでこのクリスマスに寂れた店にドクぺを買いに行くのか。私か。あと確かにドクぺは美味しいけど絶対に他人には勧めない。あの混沌とした飲み物は多分選ばれた人間にしか美味しさは分からない。なんて、カッコつけてみる。
「あの光…何なの…?」
そんな事を思いながら自転車を走らせていた時、突然視線の先に虹色の光が現れた。
「え、何?きゃあっ!?」
次の瞬間、いきなり激しい衝撃波が私を襲い自転車ごと地面に倒されて打ち付けた部分に痛みが走る。
「痛っ……」
一体何が起きたのか。そもそもたかがドクぺを買いに行くだけでなんでこんな目に遭わなきゃいけないのか。
心の中でそんな愚痴をこぼしながら私はこの場から起き上がろうとする。
「ちょっ…なんで…」
でも何故か全く身体が動かない。これが金縛りなんだろうか。まるで全身をコンクリートで固められたみたいに手足の関節がぴくりとも動かせない。
『これが今度の獲物か』
そして光の方から姿を現したのは、三体の異形。全体的な形は人に近いものの、V字に並ぶ水晶のような六つ目が、それが人間じゃないという事を物語っていた。
『折角翻訳までしてやっているんだ。何か言ったらどうだ?』
「あなたたち、一体…」
ノイズ混じりの機械のような声で何かを言ってくる異形。翻訳?何を言ってるのだろう。少なくとも本来日本語は通じないという事だろう。
『君たちの価値観に照らし合わせるなら宇宙人、もしくは異星人になるか。我々は訳あってこの星の生命エネルギーを集めていてね。君にもその一部になってもらう』
「何を…言ってるの……?」
宇宙人を自称するその異形は、奇妙な形をしたスタンガンのようなものを私に向けながら徐々に迫ってくる。
生命エネルギーを集める?それって…まさか……
『分かりやすく言うなら…君にはここで死んでもらう』
やっぱりだ。今から私は殺される。この異形に、ありったけの命を吸い取られて。
『怖いか?そう、それでいい。そうやって死の恐怖に脅え極限にまで陥った時に生命の力は最高潮に達するのだ!』
怖い。怖くないわけがない。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの?私が一体何をしたの?こんな事なら外なんかに出るんじゃなかった。
「嫌……」
そんな時、脳裏にある事件が浮かんだ。ここに来る前にニュースでやってた死因不明の遺体。きっとあの人たちもこうやって殺されたのだろう。そして私も、その一人になる。
「誰か…助けて…」
他人なんてどうでもいいと思ってた。でも死ぬ間際になって、誰かに助けて欲しいと思った。どれだけ私は身勝手なんだろう。けど、それでも今は誰かに救いの手を差し伸べて欲しかった。一人ぼっちは怖いから。死んでも泣いてくれる人なんていないから。
でもこんな我儘で一人ぼっちの私を助けてくれる人なんていない。ただせめて、目の前の恐怖から逃れる為に私は目を強く閉じた。その時…
「そこまでだ!」
誰かの声が聞こえてくる。ノイズ混じりの宇宙人の声じゃない。人間の、男の人の声だ。
「見つけたぞ、ルバル星人!」
恐る恐る目を開けて、声のする先を見てみる。そこにはやっぱり、宇宙人に立ち向かう一人の男の人がいた。
『活きのいい獲物だ、やれ!』
さっきのリーダーらしい宇宙人の指示で二体の宇宙人が男の人に襲いかかる。
だけど彼はその攻撃を物ともせずに避けてみせ、放った拳は宇宙人の顔にめり込み続けて何発も拳や蹴りを叩き込み軽々と宇宙人を一体倒してしまった。
そしてその時後ろに回り込んでいたもう一体の宇宙人にもすぐに反応して振り向きざまに足払いをかけ、バランスを崩したところに拳を打ち込み見事襲ってきた二体の宇宙人を倒してみせた。
「君、大丈夫かい?」
その後、彼はこちらに来ると当たり前のようにそんな声をかけ、手を差し伸べてくれた。全く知らない人でしかない私なんかに。一体彼はどれだけ優しく、心の大きな人なんだろう。
「は、はいっ!」
そんな綺麗な人の手を取る資格なんて私にはあるのだろうか。そもそも私に救われる価値なんてあるのだろうか。
でも、そんな思いが頭の中によぎりながらも考えるより先に気付けば私はその手を取って、竦む足に力を込めて手を引かれながら立ち上がっていた。理屈なんてどうでもいい。ただ今は、その手の温もりが嬉しかった。
『くっ、かくなる上は…!』
残る宇宙人はリーダーだけ。でもその様子は諦めたようには見えず、男の人が向かっていった瞬間宇宙人は空から降り注いだ光に照らされ空へと昇っていった。
『もはや貴様らこの星の生命体に用はない!地球を破壊して惑星そのものの生命を喰らい尽くしてやるッ!!』
ふと空を見上げるとそこにあったのは、大きな宇宙船だった。多分あの宇宙人が乗ってきた船なんだろう。
そしてその船は光を収め動き始めるや否や徐々に形を変えていき、最終的には巨大な人型ロボットへと変形して轟音と共に地面に降り立った。宇宙人の言葉から察するに、あのロボットで地球を壊してしまうつもりなんだろう。
「ここは危ない。離れているんだ」
どう見ても敵う相手じゃない。そんな事は見れば分かるはずなのに、男の人は物怖じする事なく私にそう言い残すと駆け出していった。
「あ、あの…!」
行ってしまった。まだお礼も言ってないのに。結局私なんかじゃ、誰かと繋がる事なんて出来ないのかもしれない。
そんな時、男の人は足を止めると暗くてよく見えないけど"何か"を取り出し、それを宙に掲げた。その瞬間、辺りが激しい光に包まれて突風が巻き起こり、思わず私は目を閉じる。そしてその後目を開けると…
『デヤァッ!!』
目に映ったのは、さっきの巨大ロボットに飛び蹴りを食らわせる銀色の巨人。その一撃を受けたロボットは仰け反りながら後ろに下がり、巨人がその前に立ちはだかる。
「あれは…」
突然目の前に現れた銀色の巨人。確か何度かニュースで見た事がある。地球や人類を脅かす怪獣や宇宙人をやっつける正義の巨人。そう、あれは…
「ウルトラ…マン……」
そして今から、聖夜の街を舞台に地球の命運を賭けた戦いが始まる。
『出たなウルトラマン!だが貴様などこのラギシュγで葬り去ってくれるッ!!』
早速巨人に向けて目から光線を放つロボット。対する巨人はその光線攻撃に若干怯みながらも受け止め、ロボットはさらに手からミサイルを放ち追い打ちをかける。
すかさず巨人は光線を放ってミサイルを撃ち落とし、すぐさま距離を詰めて反撃に打って出た。
『シャァッ!!』
助走をつけての飛び蹴りからの、掴んでの背負い投げ。激しい攻撃が続くものの宇宙人のロボットも黙ってやられているわけではなく、鋼の拳で銀色の巨人に掴みかかって地面の上に引き摺り込み、掴み合いになりながらも両者一歩も譲らない激しい攻防を繰り広げていた。
『デアァッ!』
その拮抗はロボットの目から放たれた光線によって破られ、今度はロボット側の猛攻が始まる。
次々と放たれる拳や蹴りに防戦一方になる銀色の巨人。だけど巨人はその中の一瞬の隙を突いてロボットの腕を受け止め、再び掴みかかり持ち上げて思い切り地面に叩きつけ、さらにその上に飛び乗って何度も、何度も繰り返しその拳で殴りつけた。
その後ロボットはミサイルで巨人を引き剥がし、続けてミサイルを撃ちながら背中のジェットを吹かして突撃。体当たりでビルに叩きつけるとアームで巨人の首を絞めつけ、へし折ろうとする。
『死ね、ウルトラマン!これで貴様も終わりだ!』
そんな中、巨人の胸のランプがピコンピコンと音を立てながら赤く繰り返し点滅し始めた。
「頑張れ、ウルトラマン…」
詳しくはよく分からないけど、あの点滅が良くない物だという事は状況から見ても分かる。もし彼が負けてしまったら、この地球は滅んでしまうだろう。
それに、彼はこんな私を助けてくれた人だ。負けて欲しくないし、死んで欲しくなんてない。だから柄にもなく、小さな声だけど、届くかは分からないけど声援を掛けてみる。こんな気持ちになったのは一体何年振りだろう。
『ダァッ!!』
そんな時、想いが通じたのか銀色の巨人は思い切りロボットを蹴り飛ばしてその後一発蹴りを叩き込んだ上で掴みかかり、背負い投げで激しく地面に叩きつける。
さらに再び脚を掴むとハンマー投げのように振り回して空へ向かって投げ飛ばした。
『お遊びはこれで終わりだ!』
そうして投げ飛ばされたロボットは空中でジェットを吹き体勢を立て直すと胸の装甲を展開し、エンジンらしき光の球を露出させる。
『この星と共に散れ!ウルトラマンッ!!』
きっと今からあの宇宙人のロボットは、最後の一撃を放つつもりなんだろう。そして多分、あれが通ればこの世界は…終わる。
『シャッ!!』
対する銀色の巨人…ウルトラマンはそのロボットの一撃を迎え撃つ為、両腕を交差させる構えを取る。
「お願い、勝って…!」
そしてその後ロボットの胸から、交差した巨人の腕から互いに最大級の光線が放たれ、激突した。
「うっ……!」
その余波か凄まじい衝撃波が周囲を襲い、咄嗟に私は近くの標識の柱を掴んで身体を支える。後は願うだけだった。彼が、あのロボットに勝利する事を。
『デアァッ!!」
次の瞬間、拮抗していた互いの光線に変化が生じる。銀色の巨人の光線がロボットの最後の一撃を押し返したのだった。
『そんな馬鹿な…!ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!!』
そして双方の光線を一身に受けた宇宙人のロボットは空中で爆散。聖夜の空に、ひらひらと光の雪を降らせた。もしかしたらこれは、今まであの宇宙人に奪われてきた人々の命の光なのかもしれない。もしそうだとして、あの時私が殺されていたらその時は私もこの光の一部になってたんだろうか。
「届かないなぁ、あれじゃ」
私を助けてくれた彼は、世界を守る
「けど……!」
それでも私は、確信を持ってこれを言える。これまでこんな事に興味はなかった。ただの時間の無駄だと思ってた。けど今は、きっと違う。
例え叶わなくたっていい。手が届かなくなっていい。
それでもこの日私は、
ウルトラマンに恋をした。