これは冒険者である少年ベル・クラネルがある日路地裏で見つけた、とある魔道具店で出会った一人のアイテムメーカー店主とのちょっとした冒険譚である。

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ようこそ。

 

 

数十分だけ間のあるそこの貴方様、或いは暇を持て余している読者様。

 

どうぞ、こちらに寄っていらしてください。

 

 

 

皆様ほどではありませんが、有意義な時間を過ごしてもらえれば幸いです。

 

――では、どうぞ。




息抜き短編小説  ベル・クラネルと路地裏の魔道具店主

皆様は、薄暗い路地裏を。

 

 

何より、自分の足では一度も訪れたことのない場所はございませんか――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『迷宮都市オラリオ』

 

 それはヒューマン、ドワーフ、小人族(パルゥム)など……種族に関係なく数多もの人間が集い行き交う、世界最大の都市である。この世で唯一、外界よりも強力なモンスターを無限に生み出す『迷宮』がと呼ばれている都市が存在する場所だ。

 

 それに限らず様々な種族の施設や建造物、人々が住み込み営む数多くの住居や商店街なども存在している。

 そして、その迷宮に己の意思で潜っていく者がいる。そう、それこそが『冒険者』。

 

 一昔にこの地上に舞い降りた神々、正確には自らの主神から与えられる『神の恩恵』と言う自身の能力を引き上げるための神の神血を媒体とし作り出された恩寵……早い話が加護とも言える力を与えられ、モンスターを倒していくことなどで生計を立てている者達の事を指している。

 

 人々は各々が抱きし願望を叶えるため……そう、冒険を求めるため。ただだた強さを求めるため、まだ見ぬ未知を見つけるため、自ら富と名声を求めるためにダンジョンへと足を運ぶ。

 

 何より冒険者とは違い大した力を持たぬ、何より平和を求める市民達をモンスター共の脅威から守る剣となり盾となるべく今日も戦い続けるのだった――。

 

 

 

 

 さて、オラリオのざっくりとした大まかな説明はここまで。本来ならばダンジョンへ果敢に挑んでいく、勇気ある冒険者達の物語を描きたいところだが、それはまた別の機会にしよう。

 

 本日はダンジョン外。とある変わり者の市民が経営している、一味違った魔道具店での出来事を見ていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が店へと偶然足を踏み入れ、その人物と遭遇したのはあくる昼下がり。天候はまさに快晴とも言える、雲一つない日であった――――。

 

 

 

 今現在、彼が歩いているのは人通りの多い八つのメインストリートの一つ。今日も目で追うだけでは数え切れないような人々が彼の目の前で行き来している。

 

 衣類を売る種族問わずの洋服屋や装飾されたおしゃれな喫茶店、昼から経営している酒場、幾多もの種類の武器を扱う冒険者用の専門店がそれぞれの方角ごとに経営されている。

 

 ジャが丸くんなどをはじめとした食べ物関連を売る露天商といったものは場所に関係なく身近にある存在と思ってくれても構わないほどだ。

 

 そんな人混みの中から外れるように彼は、いかにも人気の無い路地裏へと繋がる小さな一本道へと出た。

 

「今まで色んな店を皆と見てきたけど……こういった場所には今まで一度も行ってみたことないな……」

 

 少年の名は、ベル・クラネル。今からおよそ一月と少し前にこの迷宮都市へと足を運び、先日Lv.2へとランクアップし更には18階層での激闘を無事に切り抜けたヘスティア・ファミリア唯一の眷属にして一人の冒険者だ。

 

 今は亡き祖父から幼い頃に聞かされてきた、幾多もの英雄達が活躍する冒険譚や絵本。そんな物語上に出てきては悪を打倒し、ある時には力無きか弱き人々に救いの手を差し伸べ、ある時は自らの足でこの世界を数多に駆け抜けてきた。

 

 そんな皆が憧れるような活躍を見せてきた偉大なる英雄達に憧れ、そんな彼らのような存在になりたいと心の底から思いこうしてオラリオへとやって来たのだ。

 

 そんなベルは本来ならばいつも通りダンジョンへと潜ろうかと思っていたのだが、ここのところ激しい戦闘続きでもあったために自身の主神であるヘスティアから、

 

『ダンジョンへ行くのも良いけど、気分転換も忘れちゃあダメだぜ♪ 最近は大変なことばかり続きっぱなしだったし、たまには一人で待中を見て回って見るのはどうだい?』

 

 唯一の、そして愛しの眷属を思ってのことだったのだろう。そんな提案をベルに言いつつ、ヘスティアはいつもと変わらず明るく元気溌溂な姿を見せながら今日も人々へジャガ丸くんを売るためにバイトへと向かっていった。

 

 

 ヘスティアが廃教会から出ていく後ろ姿を見たのが、何故か数分前のことのように感じたベルであった。

 

 

 

 

 誰かを誘おうかとも考えたのだが、主神であるヘスティアの言葉をふと思い出す。今回は少しばかり趣向を変え、ダンジョン内ではなく街中での探索……ある意味では未知を探すことにしたのであった。

例え場所はダンジョン外であっても、これも一種の冒険のようなものである。

 

 

 

『冒険者は冒険してはいけない』

 

 ギルドに務める職員、なおかつ自分のアドバイザーを担当してくれている時には厳しいながらも普段は優しく接してくれている半妖精(エイナ)の言葉を思い出す。

 

 しかしここはまさかのダンジョン内ではなくダンジョン外。見知らぬ路地裏への出入り口であるわけだが、あの言葉はこういった場面にも適用されるのだろうか? と脳裏をよぎるのだった。

 

 それに正直に言うのであれば、ソロであるとはいえこの冒険に多少のワクワク感なるものを胸に抱いていた。

 

 誰が普段通っているかは全くの不明ではあるが、今ベルの目の前にある一本道は自身の知らぬ未知の領域へのとも言える。ここがもし広葉が生い茂る森の真っ只中であったのであれば、確実に獣道の目前だ。

 

 そんな年相応の男の子ということも相まって、この先には何があるのだろうかと期待と不安に半ば胸を膨らませていた。

 

 さぁ、何はともあれこのまま止まっていても冒険は始まらない! そう自分に言い聞かせつつ、ベルは路地裏へと繋がる一本道(けものみち)へと足を歩ませるのであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめて来た場所だけど、誰かとすれ違うどころか気配すら感じない……。住居らしきものはあるけれど……」

 

 かれこれ路地裏を歩き始めてから数分、既に数十M(メドル)は進んだであろうか。あれから途中で道のりを曲がるわけでもなく、ただひたすら真っ直ぐに目の前にある道を歩み続けていた。

 

 何しろここは初めて訪れた土地だ。過ぎた興味本位で道を外れようものならば、最悪迷ってしまったなんて事態になりかねない。

 

 幸いにも周囲にある建築物の全高はどれもそれほど高いわけではない。また怪物祭(モンスターフィリア)の際、襲ってきたシルバーバックから何とか逃れるため、かつてヘスティアと共に自分が駆け込んだダイダロス通りほどの複雑さもない。

 

 万が一迷い込んだとしてもメインストリートがある方向、つまり絶対方角にさえ足を向ければ帰れるだろう。もっとも、それは本当にそうなってしまった場合である。

だが折角ここまで来たのだ、自ら面倒な事態そのものに飛び込む意思は今のベルには無い。

 

 先程から一変たりとも変わらない景色を見続けるのには、流石に飽きが出てくるだろう。しかしだからといって油断もできない。冒険者とは言えど、今この場にいるのはベル一人のみ。

 

 現時点では人の気配は感じないものの、もしかしたら誰かが本当に気配を消してはこちらの隙を窺っているかもしれない。オラリオの治安関連はガネーシャ・ファミリアの団員達などが基本的に守ってはいるが、警備なども隅々まで完全に行き渡っているわけではない。ベルが今いる路地裏も例外ではないのだ。 

誰も味方がいない以上、自分自身の身をどうにかできるのはベル自身のみだ。

 

 

(ひょっとして……この辺一帯の人達、みんな引っ越しちゃったのかなぁ……?)

 

 だとしたら、何故? そんな些細なことも考えながら、無意識に首を左に傾けてみたその時だった。

 

 周囲の住居とは打って変わり、ひと回りほどとまでは言えないが外装が異なる黒に染まった建物がベルの視界に入ってきた。

 

「明らかに単なる住居には見えない……もしかして、何かのお店なのかな?」

 

 ふと、その建物の出入り口らしき近くに立てられている長方形で、縦長の看板らしきものに目をやるベル。そこには共通語(コイネー)らしき大きめの文字で何かが書かれている。

 

(えっと……道具? 専? 駄目だ、他の文字は掠れて読めなくなってる。道具、というと……)

 

 たったこれだけの情報量ではあるがベルが脳内で真っ先に思い浮かんだものといえばそう、『魔道具(マジックアイテム)』だ。

 

 和解はしたものの、かつて18階層でモルド・ラトローという今では同じレベルの冒険者から攫われてしまったヘスティアを救出する際の戦いになった際、彼が被っていた「ハデス・ヘッド」なんかがその一つだ。

 

 それはヘルメス・ファミリア団長万能者(ペルセウス)の二つ名を持つLv.4の冒険者、アスフィ・アル・アンドロメダが作成した魔道具であったわけだが……。

 

 

(ここはもしかして、魔道具の専門店か何かなのかな……?)

 

 気になる、何よりどんな店なのか、そしてこれもある意味では出会いではなかろうかと思い始めるベル。まぁ、ここはダンジョン内ではない一つの路地裏のでしかないため半分は間違っていない。

 

 そんなことを思いつつ、彼は自然と店のドアノブへと手を掛けていたのであった。どうやら、本日冒険するのはこの魔道具店らしき店のようだ。

 

 数刻という、長いようで短いようなひと時が彼を待ち受ける――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんください……」

 

 ギィ、と木製の扉が開くと乾いた音が店内へと小さく響き渡る。同時に上部へと吊り下げられていた来客を報ずるための鈴の音がなった。

 

 初めて訪れた店内の風貌が如何なるものかをベルは確認するため辺りを見回す。客観的に見てみればそこまで明るい雰囲気だとか、お世辞にもお洒落な装飾があるだとかは感じられない。外装を見てもそうだったが、どうやら店自体は木造建築だ。

 

 

 奥の棚や中央付近のテーブルには魔道具……だろうか、それらしき物体が幾つも丁寧に置かれていた。

 

 どなたかいらっしゃいませんか? と続けて声を上げようとしたその時だった。

 

 更に奥に見えていた通路の簾を片手で払い除け、こちらに目を遣っている人物がいつの間にかいた。

 

 

「おや? ほぅほぅ、久々のお客さんじゃあないか! しかも可愛らしい少年ときた!」

 

「へ? あ、えっと……」

 

「おっとっと、よくよく考えれば君はここは初めてだね? Thank you for coming(お越しいただき誠にありがとう)! ようこそボクの魔道具店へ!」

 

 その店員……いや、その口振りと台詞の内容からして十中八九この店の経営者だろう。自分よりもわずかに背が高いくらいのヒューマン。一人称が気になったのが、整った体型や胸の膨らみからして相手は女性だと理解する。

 

――もしかして、これらの魔道具を作成したのも……?

 

 そう考えたが、相手が挨拶した以上こちらも冒険者として、否……一人の男として名乗り返さねばなるまい。

 

「あ、どうも。えっと、僕はベル・クラネルといいます。職業は……冒険者をしています。ここを見つけたのは実は偶々でして……」

 

「おっ、ご丁寧に自己紹介かい? ならも名乗ろうか。ボクはシェリー、『シェリー・プロウス』。ここの店長を務めている者さ。それと同時に、魔道具の作成なんかもしているんだ」

 

 こちらが挨拶をすると、向こうもそれに答えるように返してきた。どうやら悪い感じの人物ではなさそうだと判断する。

 

 それと同時にシェリーの口から発された「ボク」という一人称。偶然なのか否か、自身にとっては大切な存在である主神の一人称と全く同じであったことも相まってか、より接しやすい印象をこちらに植え付けたのであった。

 

「それにしても、そのなりで冒険者だって? 見た感じまだ歳も相応ではないと見えるけど……大した度胸じゃないか。所謂力を持たぬ一般市民のために、君もモンスター共と日々戦っているわけだ。

……偉いぞ以外の言葉が思い浮かばなくて悪いけどさ。君達のおかげで私達はこうして生活できているわけだ」

 

「へ? あ、ありがとうございます……!」

 

 唐突とも言える今日初見である筈のシェリーからの賞賛につい戸惑ってしまうが、内心歓喜してしまう。

 

 豊穣の女主人で働くシルやリュー、サポーターではいつも世話になっているリリ、そして特訓の際は何度も付き合ってもらったアイズなど普段から女性とのコミュニケーションが絶えないベルだが、こうして今日互いに初見であるにも関わらず会話のキャッチボールを何気なく行えているのは、彼の持つ一種の強みなのかもしれない。

 

「さて自己紹介もお互いに済ませたことだし、早速ボクが作った魔道具を見せようじゃないか。何しろこの店に関しては初心者のお客さんだ。丁寧にもて成してあげようじゃないか。

偶々とはいえ、いい感じに着飾ればそれは運命とも言える」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「――と、その前にだ少年。いきなりノーヒントで申し訳ないが一つ質問したいんだけど……いいかな?」

 

「質問……ですか? はい、構いませんけど……」

 

 急に一体何を質問されるのだろうかと、一瞬ばかり焦燥する姿を見せてしまう。だがシェリーの口から発されたものはごく一般的なものであった。

 

「君をはじめとした冒険者達に必要なもの。それでもって、今ボクが作ろうとしている魔道具とはどんなものだと思う?」

 

「――僕達に必要で、シェリーさんが作ろうとしている魔道具……?」

 

 曲げた右指を下顎に当て、顔を傾け幾秒ばかりか思考してみることにした。だが即座に思い浮かぶ回答はありきたりなものしか揃わなかった。だが上目遣いでシェリーの顔をチラリと見てみるとどことなく期待した面持ちでこちらを見つめている。

 

 ここでもし「わからないです」だとか、「思い浮かびません」なんて普通過ぎる(・・・・・)、捻りのない台詞を吐露したとしよう。

 冒険者としてではなく、一人の男としての直感だ。きっとシェリーは軽く溜息をつきながら、そそくさと答え合わせのコーナーへと移り変えてしまうだろう。

 

 折角、一見客(いちげんきゃく)である自分のためにこうして敢えて質問してきたのだ。例えその回答が正解ではなく違っていたとしても、多少ありきたりでも良いから答えるのが礼儀ではないかと思った。

 

 大袈裟かもしれないが、腹は決まった。この何十秒にも錯覚した数秒間の中で脳裏に思い浮かんだ文章をそのまま口にした。

 

「色んな冒険者や、市民の役に立つような魔道具……でしょうか?」

 

「! おぉう……なかなかに核心を突いてくるじゃあないか、少年。でもまぁ、あながち間違いではないかな? うん。半分は……正解かな。でもちょっと違う……といったところさ」

 

 完全に正解とまではいかなかったが、やはり答えた甲斐はあったようだ。むしろ嬉しそうな面持ちで彼女はこちらに視線を向けている。

 

「ボクはね。冒険者も市民も関係なく、危機に陥った皆を救えるような(・・・・・)魔道具を作りたいと思っているんだ。

例えば……この前の怪物祭、君はモンスターが逃げ出したりしたのを知っているかい?」

 

「怪物祭……ですか。はい……あの日に関しては僕、今でも忘れはしません。あの時は、脱走したモンスターへの対処に手間がかかって本当に大変でしたから……」

 

 きっとあの記憶は、自身の命尽きるまで忘れることはないだろう。

 

 自身の主神を抱きながら逃げに逃げまくり、ステイタスの更新後にプレゼントされた、今となっては大切な相棒とも言える武器となった愛刀(ヘスティアナイフ)。襲い来るシルバーバックの撃破。そして――。

 

……まぁ、そこまでの出来事を話せるだけの勇気は今はないためこっそり思い出しては脳内の戸棚に仕舞い込むベルであった。

 

「幸い、あの日は一人も犠牲者がでなくて事は済んだようだけど。それでも、皆がモンスターから危険な目に遭ったことには変わりない(・・・・・)だろう?」

 

……否定はできない。あの時は死者は出さずに何とか事を納めることはできたが、それは各々の冒険者達やギルド職員。そして怪物祭を主催したガネーシャ・ファミリアの面々が全面的に力を合わせた結果だ。

 

「あの出来事のみならずさ、冒険者達は常に危険と隣合わせでいる。なら守られるばかりでなく、守ってもらっている立場なりに何かできないかと思ったんだ。

まぁ、こんな偉そうな台詞を吐いておいてなんだけど、ボクも単に面白可笑しいような魔道具を作りまくっていたんだけどね」

 

(! それでシェリーさん、敢えて冒険者である僕に質問したんだ)

 

「因みにこの質問をぶつけたのは、来客では君が初さ。君なら良い回答が得られるんじゃないか? と思ってさ」

 

 脅威から守ってもらっている市民としての考えではなく、反対に皆を守っている立場でもある冒険者の考えが聞きたかったのだ。

 

 初めての客に対しては必ずしているのかと途中まで疑問に思っていたベルだが、まさか自分が初だとは知らなかった。

 それでも理由はともあれ、初めてという処遇は特別感のある風情がありわずかながらも嬉しく感じた。

 

「さぁて、あまり時間をかけすぎるのも野暮というもの。既に少年が店の鈴を鳴らしてから、十分と五秒ほど経過してしまっているからねぇ。

直ぐにでもボクお手製、なおかつ奇天烈多彩な魔道具をお見せしようじゃあないか!」

 

「は、はい! 改めて、よろしくお願いします!」

 

「良い返事だッ! では早速紹介していこう。まずは……」

 

 

 かくして店長かつ作成者のシェリー・プロウスによるご丁寧で愛情の籠もった(・・・・・・・)、魔道具紹介が始まったのであった。

 

 

 この刹那、ベルは気づかなかった。シェリーの瞳が黒光りの星が如く、ギラリと輝いていた瞬間を。

 

 これまでのいい感じの人っぽいアピールを演じていたシェリーの演技を。

 

 

 

 

 

――――故にこれから知ることになる。

 

シェリーがどのような魔道具を作成してきたのか。そして、持ち得る本質を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……既に数刻は経過したであろうか。会話が飛び交う店内は既に静謐、嵐が過ぎ去ったかの佇まい。店内のあちらこちらには紹介した魔道具が乱雑とまではいかないが、間違いなく元の配置からはズレている。

 

「フゥ〜い、さぁ〜て以上だ少年! ボクお手製の魔道具、お気に召してくれたかなぁ!? すんばらしい魔道具のオンパレードだったろう! ハーッハッハッハッハッハーーーー!!」

 

「は、はひ……ね、熱意の籠もった紹介……ありがとう、ござい、ました……」

 

 何より中央テーブルにはいかにもやり切ったぞ私! と言わんばかりにカラカラと哄笑し続けるのはシェリー・プロウスその人。

 

 その側では何とか侍り立ちながらも、頭部から何やら白い煙を出しているその少年、ベル・クラネルがいる。

 だが、数刻前の活気に溢れた眩しい笑顔はそこにはない。あるのは特段身体を動かしたわけではないが、疲れ切った面持ちに視線がこちらに定まっていない不憫な少年の姿であった。

 

 

……何故このような結果になったのか。原因はこの数刻の間にこそあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では始めようじゃないかお客様! という勢いで早速戸棚を弄るシェリー。

 

 その側にはシェリーの本質……もとい正体を知る由もない、まだ活気のあるベルの姿がある。

 

 

「まずはこちら! 爆砕剣(ブレイクソード)だっ!!」

 

 最初に差し出されたものは、刃がそこそこ長い片手剣である。しかし通常の剣とは異なり何故か刀身がアダマンタイトやオリハルコン特有の銀色ではなく、紅色の炎が如く染色されていた。

 

「おぉーーー!! 何だかカッコいい名前です!! しかも刃が真っ赤なんですね!!」

 

「この魔道具は皆も使用するであろう、汎用性が高い剣に更なる能力を追加したものさ!」

 

(主にナイフを使ってる僕だけど……使いようによっては!)

 

 ダンジョン内でも上手く取り回しが可能かもしれない。

 しかしどんな魔道具なのかもまだ説明はしてもらっていない。ましてや値段すら分かっていないのだ。まずは彼女の説明の続きを聞こうと視線を直すのであった。

 

「見てわかるようにこれの最大の特徴はこの刀身、何より高い切れ味さ! 因みに素材はミスリルだね」

 

(ミスリル……僕が使うヘスティアナイフと同じ素材かぁ……)

 

「そしてこの紅き刀身! 実は火山花(オビアフレア)という、とある火山の火口付近に咲く花をすり潰して粉末状にしたものを刀身に塗りたくったのさ」

 

火山花(オビアフレア)……ですか?」

 

 火山花を使用した魔道具といえば、真っ先に思い浮かぶのはアスフィが使用する爆炸薬(バースト・オイル)なのだが……。この御仁はいったいどのように活用したのであろうか。

 

「通常は切れ味の良い片手剣として使用するんだ。しかし一度だけ相手に対して斬り込んだ瞬間に爆発を起こして致命傷を負わせられることが可能なのさ!」

 

 フムフムと首を縦に振りながら聞き入り、次の説明を待つベル。

 

「その能力を起動させるにはココ! 持ち手の先端に付いてあるピンを抜いて、敵に刃を斬りつけるその瞬間に魔力を少しばかり流す! するとあら不思議、流した魔力に反応して刀身に被われた粉が一気に爆砕!

……という代物なんだなこれが、どう? ボクを褒め讃えてもいいんだぞ?」

 

一通りの説明は終えた模様だ。ならば、と手を挙げシェリーに対して質問を投げかけた。

 

「えっと、一つだけ質問なんですが……その肝心の爆発はどれ程の威力があるんでしょうか?」

 

 そんな普通だが、流石にこの場では実践できない以上誰もが思うであろう質問内容である。であるからして、シェリーからの返答も当然変哲のないもの――。

 

 

「いい質問だ! 聞いて驚くなよ〜。なんとなんと、爆発の範囲は剣から半径5M! 反動で片腕全体、隅からすみまでの骨に罅が入る(・・・・・・・・・・・)ほどの威力さ!」

 

「なるほど、範囲は半径5Mに片腕に罅が入るくらい………………へ?」

 

 

――になることはなかった。今、彼女は何といった? 聞き間違いであろうか?

 

爆発する範囲が半径5M? しかもそれに付け加えて骨に罅が入る? しかも片腕全体に?

 

途端に危なっかしい文章が出てきたことに対して一瞬目を点にしてしまうベル。

 

 

 

「あの……流石に冗談ですよね? 少し誇張して表現しただけですよね?」

 

「なぁ〜に言ってるんだい少年? ボクはいつだってマジもんさ! 比喩表現なんて使わないよ! まぁ、下手すれば片腕は確実に使い物にならなくなるかな?」

 

「なるほどそうですか〜…………ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 何なんですかその火力!? なら一度使用しただけで大怪我負いますよね?! 僕みたいなほとんどの冒険者は腕がないと戦えないんですけど!」

 

 全く持ってその通りである。主にナイフを主体として戦うベルだが、他の冒険者達も例外ではないのだ。剣、槍、斧、杖……他にも様々で多種多様な武器がこの世には存在するが全てが腕を扱うようになっている。

 

 だというのに、そんな大事な身体の部位が一時的とはいえ扱えなくなるのは非常に痛い。しかも場所は凶悪なモンスター共が蔓延るであろうダンジョン内部。

 

 ただでさえ死ぬか生きるかの狭間へ自らの意思で常に入り込んでいるというのに、これはあまりにも酷い。最初こそは賛美していたベルだが、質問の返答を聞いた瞬間その思いは崩れ去ったのだった。

 

 

「なぁ〜にを言うんだ少年。確かにモンスターに致命傷は与えられても倒せるまでの保証は無いけど、兎に角凄い爆発が起こせるんだよ!? こんな剣一本でた!!」

 

「いやいやいや、問題はそこじゃあありませんよ!? 半径5Mですよね?! 仮に僕が使ったとしたらモンスター諸共確実に爆発に巻き込まれますよね!? しかも片腕全体が使えなくなるのは僕も皆も困るんですけど!?」

 

「うん、そうだね、巻き込まれるし使えなくなるね。あ、でも腕に関しては全体に罅がはいるだけで辛うじて使えるだろうからもう一本所持していけばもう一発いけるかもしれないね。腕の方が粉砕されちゃうかもだけどさ」

 

……いや、冗談ではない。仮にエリクサーなどの高位の回復薬を所持していたり、絶対に現実不可能だろうが腕そのものを交換できれば使えないこともないかもしれない。

 

 だがこの場合はメリットよりもデメリットの方が大きいのだ。まずその魔道具を使用すれば必ずモンスターを倒せるという保証が無い(・・・・・)

 使用者よりもレベルが高いモンスターに対しては逆転勝ちも望める……が、自身も致命傷を負うばかりか倒しきれなかった場合はモンスターから追撃を受ける羽目になる。

 

 しかも討伐の成功、失敗に関わらず高位の回復薬の使用。更には病院送りということで、医療系のファミリアでもあるディアンケヒト・ファミリアなどにもお世話にならなくてはならなくなる始末となる。

 そんな事を繰り返していては稼いだ資金の割に合わないどころか、逆に資金が飛んでしまうだろう。

 

「いや……やはりもう片腕の分を考慮すると更に二本、四本持ってけば計四発は撃てるわけだ。一度きりの使い捨てだしね。それに、何と言ってもカッコいいだろう? どでかい力を行使した末に返ってくるこちら側への反動(ちめいしょう)なんて!」

 

――なのだがこのシェリー・プロウスという女、なかなかに口速なのだが先程から一向に息を切らす気配がない。

 

「ボクは女だけどわかるさ。これが、これこそがロマンとやらの一つなんだろう!?」

 

「えぇ…………」

 

 その発言には流石に引き気味になる。

 

 祖父の言っていたハーレム、そしてこのオラリオでの出会いなどに関してのロマンは理解しているが、常に命懸けのダンジョンでの戦闘において爆発に巻き込まれるだとか反動のダメージを受けるだとかたまったものではない。一部の人間ならロマンとして捉える可能性はあるが、いたとしても稀なものかもしれない。

 

 

「さぁ、これはこのくらいにして次だよ次! まだまだ紹介したい素晴らしい魔道具があるんだ! 周囲の人々ではなく使用者本人が犠牲でズタボロになってはしまうけど、それだけで済めばまさに万々歳。

剣も使い捨てだけど悪用されることも無し。つまりはギブ✕2&テイク✕2と言うやつさ!!」

 

 いや、どう考えても明らかに対等ではないのだが……。

 

 しかもこの魔道具、普通の剣としてならまだしも……一回爆発してしまえばそれで終了だときたものだ。これなら何度か使用しても直ぐには砕けたりするわけではない、そして威力も強いが使用者諸共巻き込むほど強過ぎない魔剣の方がマシに見えてくる。

 

 もしもこの魔道具を見たのならば、パーティ仲間の一人であるヴェルフはどんな反応を示すだろうか。やはり半ば呆れつつも、おいおいふざけろと口にしていただろうか。もしかしたら、鍛冶師として流石にこんなものは剣とは言えないぞ? と真剣に言っただろうか。

 

 まぁシェリーのことだからこれは魔道具なんだ〜、便利な代物なんだ〜と言い張る姿が目に浮かぶが。

 

 そんなことを心の中で思いながら、ふと少しばかり嫌な予感がしているのを感じた。

 

(もしかして今みたいなものを幾つも見ることになるんじゃあ……。僕、だいぶ変わった店に入ってしまったのかな……)

 

 そんな事を怪しげながらに心の奥底で思い始める。まさかと思いながら、シェリーの方へと目を向けるのであったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから時間も経過しだいぶ日も傾き始めたくらいまでになった。

 

 多種多様の魔道具を紹介してくれたシェリーであった……が、ベルの嫌な予感は見事に的中してしまった。紹介してもらった魔道具は全てが武器系列だったのだが、どれもこれもが使用者に何かしらの代償があるのである。

 

 その使用者本人がズタボロ状態になってしまうという、一癖どころか二癖では済まされないようなものばかりなのだ。欠陥品とまではいかないかもしれないが、発想の質を見れば明らかに試作段階辺りの代物である。

 

 紹介が終わった今でも彼女は何処か箍が外れたように満足そうに笑い続けている。

独特な感性を彼女が持っていることを今やっと理解したベルであったが、もし今日この店を訪れた人物が別の者であったのであれば真っ先にこの単語が脳内を過ったであろう。

 

 狂ってる、魔道具作製者(マッドアイテムメーカー)だと。

 

 

 いや、狂っていると言っても初対面の際は自己紹介したり気軽に話しかけたりする様子からすると一般的な感性も持ち合わせていると判断してもいいだろうか。……単なる演技か芝居であったのであれば話は別だが。

 

 

 しかし一つだけ疑問に思った。魔道具の癖はひとまず置いておいて、だ。初めて訪問した身とはいえ、何故彼女はここまで熱心になってまで自分のために――?

 

「あの……シェリーさん。魔道具の紹介が終わった直後で申し訳ないんですけど……僕からも一つ聞きたいことがあるんです」

 

 先程は向こう側から質問されたが、今度はこちらから質問したい。今のシェリーの姿を見て思った本当の気持ちであった。

 

「ん? 今度は少年から質問かい? 良いとも、さぁ話し給え! ボクが答えられる限りは答えようじゃあないか!」

 

「……分かりました。なら、お聞きします」

 

 本人による了解は得た、しかと肯定であるとこの耳で聞いた。確認を終えたところで、ベルは口を開く。

 

 

「その……シェリーさんは何故こうして魔道具を作ろうと思ったのかな……って」

 

「? それに関しては、さっき私の口から聞かなかったかい? 危機から皆を救えるような……」

 

「あ、いやそうではなくてですね。言い方を変えるなら、魔道具に拘りがある理由が知りたかったんです」

 

「…………フム」

 

「えっと、言い方が悪いかもしれないですけど……誰かを救う為の道って、色々とありますよね? 鍛冶士として武器を打ったり、ポーションや薬品などで怪我や病気で治してあげたり、ギルド職員の皆さんみたいに少しでも生きれるようにとアドバイザーとして活動してみたり……とか」

 

「…………」

 

「もっと他にもあると思うんですけど、そんな数えきれない方法の中から魔道具を作ることで皆を救う道を選んだのには何かきっかけとかあったのかな……って思ったんです」

 

 

 つまりは魔道具作成のきっかけだ。質問を終えた頃には、シェリーは目と顔を上に傾けて考え込んでいるようだった。

 

「あ、す、すみません! もしかして何か気に触るようなこと言ってしまいましたか……?」

 

 しかしベルにはシェリーを不愉快な思いにさせてしまったと捉えてしまったようだ。そして不愉快に感じたのであれば聞かなかったことにして構わない、と付け足す。

 

「ん? あぁ、いやなに。少しばかり考えに耽っていたのさ。他人から質問されたことは何回かあるんだけど、()の原点を質問で突いてくるとは意外だったんだよ」

 

「もしかして、僕が初めてでしたか?」

 

「ズバリその通りだよ。少年からきっかけを聞かれるとは、私も油断はできないものだね。まぁ折角だ、約束通り話そうじゃあないか」

 

 いつの間にか、一人称がボクから私になっていることに気がつく。ともすればこちらが本来の素なのか? と疑問が浮かぶ。だがその理由も話に関係があるのだろうかと直ぐさま察して口を閉ざす。

 

「私はここオラリオの生まれじゃあなくてね。元々はずっと遠くにある田舎の村外れの一人娘だったのさ。三人家族のね」

 

「……父さんと、母さんですか?」

 

「そ、しかも二人はこれはまた手先が器用でね。皆の役に立つような腕利きの小道具作製者だったのさ。数え切れないほどの小道具を作っては村人に売って喜ばせていたのさ」

 

「村人の皆さんを、笑顔にしていたんですね。凄い方だったんですね」

 

「おや、私の家族のことも褒めてくれるのかい。ありがとね」

 

 ベルには両親がおらず、いつも傍には様々な英雄譚を読み聞かせてはお話を描いたりもしてくれた今は亡き祖父がいた。

 

 シェリーの両親のように皆を笑顔にしたりしたことはあまりなかったが、自分の為に常に笑顔にしてくれていた。しかし大好きな唯一の、大切な家族であったことに変わりはないのだ。

 

 だからこそ感じていた。シェリーの両親は彼女にとって大切な家族であったのだと、心から感じたからこそ賞賛の言葉を送ったのであった。

 

 

「もしかして、シェリーさんはそのお二人に憧れたんですか?」

 

「そうさ、二人の仕事ぶりを見て私は思ったさ。私も、あんな風になりたい。誰かに……役立てるような物を作りたいと思った。生まれた時から過ごしてきたこともあってか、いつの間にか二人の影響を受けていたのさ」

 

 誰かに、何かに影響を受けたという点に至っては共通しているようだ。

 

「時折、私も小道具の作り方を教わりながら生活してきたんだ。だから魔道具の作成に必要な基礎は、必要最低限両親から学んだつもりさ」

 

 ベルもあらゆる英雄譚に登場する数々の英雄達に憧れ、そんな彼らのような人物になりたいと思いこの地へ足を運んだ身だ。

 

「だから私はこのオラリオに来たのさ。その際に魔道具の存在も知った。だから小道具のみならず、冒険者や市民のためになるような魔道具を作りたいと思った。両親や村の皆も、特に私に対して反対するようなことはしなかったよ」

 

 むしろ良い考えだ、と送り出してくれたんだと付け足すシェリー。

 

「………………」

 

 今になって気がついたが、小道具専用の棚も幾つかあり中には日常生活に使用するような代物が揃っている。

 間違いなく、彼女が大切な両親から学んだ専売特許とも言えるものだろう。

 

「でもまぁ、君も一通り見たように結果はあんな物ばかりさ。自覚はあるんだけど、どうしても勢い余ってしまって……ね。おかげで世間の目からは案の定危ない人認定だよ。

おかげ様でご近所様も気味悪がって、疑惑の目を向けてお引越し。ここ一帯は私だけしかいないんだ。まぁ、無理もないよね」

 

 この店を訪れる前に、やけに周囲が静かで誰の気配も感じないと思っていたがその理由が今やっと理解できた。

 

「一人で、ずっと店の切り盛りしてきたんですね。その……寂しくはなかったんですか?」

 

「そりゃあ勿論寂しかったし、ひもじいとも思ったさ。しかも魔道具よりもかつて本業だった小道具の方が多少売れる程度。一時期は閉店して、故郷に帰るか何処かのファミリアにでも入団して本格的に冒険者にでもなろうかとも考えたよ」

 

 しかしそうはしなかった、いやできなかった。だから今、私はここにいる。そうシェリーは言葉を続けた。

 

「ここで諦めてしまって、本当に良いのかと逆に疑問に思ったんだよ、私は」

 

「シェリーさん……」

 

「もし……ここで諦めてしまったのならば、私を温かく見送ってくれた両親や村の皆の期待を裏切ってしまうのではないか、皆からの愛情が籠もった希望を受け取った身としての責任があるのではないか。ふと、そんな思いが頭の中を過ったのさ」

 

「…………」

 

「何より立派な魔道具作製者となりたいという夢を持った自分の存在意義を自身らの手で放棄する行為なのではないかと思ってね。他人からして見れば未練がましくも、こうしてまだ店を開いているわけだ」

 

 なかなかに往生際が悪い女だろう? と、わざと自らを嘲笑するかのように答えるシェリー。

 

「君も気がついているとは思うが、私が先程まで一人称を敢えて『ボク』にしていたのは軟弱だった自分を少しでも強く見せようとしていた単なる虚勢さ。諦めかけていた前の自分自身に対する、ね。

ハハ。何ともまぁ、私みたいな無骨がオラリオにやって来れたものだと改めて痛感したさ」

 

「…………」

 

 自虐的に無骨、と自らに言い放ち傍の壁に寄りかかるシェリー。

 

「おっと、何だか陰気臭い雰囲気になってしまったね。ゴメンゴメン」

 

「……謝らないで下さい」

 

「……ん?」

 

「自身を無骨だなんて、そんな風に思わないで下さい。僕は話を聞いていて、貴女に対して一度もそんなことは思いませんでした」

 

 自然に、口が開いてしまっていた。否、正確に言えばシェリーの自分自身に対する卑下し過ぎる姿にわずかな憤りを感じてしまっていたのだ。

 

 何より、先程の無骨という単語。その言葉(やいば)はシェリー本人よりもベルに対して深々と心に刺さり込んでいた。

 

「赤の他人の……客でもある僕が意見するなんて図々しいかもしれないですけど、シェリーさんは……シェリーさんは凄い人だと思います。だって……誰の助けも支援も無いのに、たった一人の力で夢を追いながら自分と戦ってるんですから」

 

「しょ、少年……?」

 

「シェリーさんが作った魔道具だって……今はまだ完成形とまではいかないかもしれませんが、努力を重ねればいつかきっと素晴らしいものになるんじゃないでしょうか」

 

「少年……」

 

「そういった意味合いでは過程は違えど、普段からダンジョンに潜って戦っている冒険者と似たようなものだと思うんです。しかも、仲間もサポーターもいない単独(ソロ)の状態で。

……だったら、尚更凄いです。僕も最初は単独でしたけど、今はパーティを組んで探索しているんですから」

 

「…………」

 

「諦めかけたとはいえ、一度立ち止まって自分を見直してみたりして得た答えが今のシェリーさん自身だと思うんです。それに、夢を追い続けることが簡単だと感じる人ってあまりいない気がするんです。

ですから、夢を今も負い続けているシェリーさんは強い心の持ち主です。少なくとも、僕はそう信じています」

 

「……!」

 

「なので……そう自分自身を卑下し過ぎないで下さい。僕は……そんな貴女の姿を見る方よりも、魔道具に対して熱心に説明してくれた先程までのシェリーさんの姿の方が好きですから。次いでに言うと、その……無理に自分の呼び方を、戻さなくとも良いと思います……」

 

 

 

――彼女は終始、ベルから顔を逸らさずに聞き入ってしまっていた。

 

 年下の人物からそこまで言われるだなんて、しかもここまで評価してもらえるなどとは思いもしなかったのだ。今自身がどんな表情をしているのかも、シェリーは知る由もない。

 

 今まで彼女に対してここまでの真面目な態度で、言葉を投げかけてくれた者は一人たりともいなかった。いたとしても皆が唖然とし、呆れた言葉だけだった。

 

 だが……だが今も真剣な面持ちで自分を見つめている彼は例外だった。

 

 

 

――この気持ちは、何なのだろう。懐かしいような、久しぶりのような……。

 

 

 

 

 

 そうだ。村を出てここに着いてからはからは、ほとんど感じなかった感情。

 

 そうだ、これは純粋な『嬉しさ』だ。それ以外の何でもない。

 

 

 

 魔道具を作っては完成させた際に感じた嬉しさではない。誰かから褒められ、そして賞賛されることに対することに似たもう一つ(・・・・)嬉しさだった。

 

 今日この日……やっと彼女はオラリオに来て以来、形は異なれど初めて第三者からの評価を得たのである。

 

 故に――。

 

 

「……フフッ。クフフフフ……」

 

「えっと……シェリーさん?」

 

「ハハッ! ハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

つい、シェリーは腹を抱えながら大口を開けて大笑いしてしまった。外まで聞こえるレベルの声量だが、近所に誰もいないからこそできる行為だ。

 

「まさか、まさかボク(・・)に対してここまで言ってくれるとはね! うん、良い! 君はとても良い人間だ!! 今確信したよ!」

 

「! シェリーさん……!」

 

 先程のような陰気じみたシェリーはおらず、陽気な顔つきに戻っていたのだった。ならば、といった表情でシェリーはベルに再度視線を向けた。

 

「ありがとう少年。いや、冒険者ベル・クラネル。君のおかげで改めてこれからもやっていけそうだよ」

 

 彼女の心は決まった。だから……最後に、私からもう一つ質問させて欲しいと懇願する。

 

「逆に、ボクにも聞かせてくれるかい? 少年の……いや、ベル・クラネルが掲げる夢であり想い。それはいったい何なんだい?」

 

 恥ずかしがることはない、私が打ち明けたように君も包み隠さずどうか教えて欲しい。彼女の光る瞳が、そう訴えているようだった。

 

「僕の、夢……」

 

 当然、ベル自身にも夢はある。そう、幼い頃から読み聞かせてもらっていた数々の英雄譚。その物語で活躍してきたような――。

 

「僕は……僕は、沢山の物語に出てくる英雄達に憧れてここに来ました。だからこうして冒険者になったんです。ですから、僕の夢は英雄のような人達になること。

そして何より……ダンジョンで、色んな人と出会いを求めることです!!」

 

 女の子との出会いを求めて〜ということまでは言わなかったが、ハッキリと本心を打ち明けたのであった

 

「……そっかそっか、それが君の夢か。うん、実に良い夢だ。なら……ボクも負けずに頑張らなくちゃあいけないね!」

 

 

 そう言いつつシェリーは徐に右手を差し出した。そうなれば、ベルのすることはただ一つだけだ。

 

 ベルも同様に右手を差し出す。その直後、互いに笑顔のまま固く手を握り合うのであった。

 

「「これからも、お互いに頑張りましょう!/頑張ろうじゃないか!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばベル、さっきボクに対して言ってくれた最後の台詞だけどね?」

 

「え? 何か変なこと、僕言いましたっけ……?」

 

「変ではないけどさ……ほら、好きだとか……何とか言っていたじゃあないか」

 

「あ……言われてみると、そうでしたね」

 

「それってアレかい? ボクに対する告白と受け取っても良いのかい? ならば良ければこれを期にボクと――」

 

「え、ちょっ!? 違いますよ! あれはシェリーさんをどうにかして元気付けたいと思って、咄嗟に出た言葉であってですね……!」

 

「えぇ……違うのかい? ボク以外の女もあれは十中八九、告白に聞こえると思うよ?」

 

「そ、そんなぁ〜……」

 

「……ひょっとして君、極度の女たらしか年上キラーか何かなのかい? それとも他人を侍らせるのが十八番な冒険者なのかい?」

 

「たたたたたらしっ?! 侍らせ?! いやホントに違いますって! 誤解ですからねッ?!」

 

 

 気がつけば既に日は沈み、空は黄昏となって橙になりかけていた。路地裏にある住宅街という場所であることもあり、お世辞にもまだ明るいとは言えない。前々から空き家となってしまった家の外壁も、何軒か夕日に照らされかけているくらいだった。

 

 店の出入り口までは数歩しか無いが玄関に出る数十秒の間、二人は軽い雑談を交わしていたのだった。もっとも、その内容はあまり他人には聞かせられないようなものではあるが。

 

 ベルも今日は別段に武器などは持参していないが、帰り支度は万全である。ただしシェリーは片腕で担げる程度の、何やら箱状の物を持っていた。

 

 

「夕暮れ時だね。すまないね、ボクの紹介が長引いてしまったばかりにもうこんな時間だ」

 

「いえ、気にしないでください。むしろシェリーさんと色々とお話ができて楽しかったです。それに……ある意味今日も冒険ができましたから」

 

「……ダンジョン内ではないのにかい?」

 

「はい。この路地裏で、僕は今まで知らなかった魔道具店を見つけました。そして、シェリーさんにも出会うことができましたから」

 

「ハハッ、全くベルは本当にいい子だなぁ。忠告しておくけど、女の人を何人も口説くのは程々にしておくんだぞ?」

 

 当たり前であるが、当の本人はそんなつもりは毛頭ない。だがベルの台詞を聞いていると、どうしてもそのように皆が聞こえてしまうのだった。それがベルの長所でもあり、裏を返せば短所に見えてしまうのだが。

 

「あ、あははは…………あれ? そういえばシェリーさん、右腕で担いでいる箱はどうしたんですか?」

 

 このまま先程と同じ会話をしていては、繰り返しで埒が明かないどころか拠点(ホーム)に足を向ける頃には夕暮れではなく完全に夜になってしまうだろう。

 

 主神であるヘスティアからは遅いぞ! 今まで何処に居たんだ! と、腹にダイブされながら怒られてしまうかもしれない。だから敢えて話題の方向性を変えてみたのであった。

 

「あぁ、この箱かい? ベルに出会えた記念に渡そうと思ってね、君へのお土産さ。ボクが作った魔道具の一つだ」

 

「えっ!? そ、そんな悪いですよ。それにお金も払っていないのにお土産だなんて!」

 

 そう、シェリーはベルのために今日出会えた証として魔道具を箱に詰めてくれていたのである。そこまで特別にしてもらうのは流石に悪いと思ったのか、受け取ることに躊躇ってしまっていた。

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ。きっといつか君にも役に立つようなものだと自負しているんだぞ?」

 

 だが逆に言えば、折角自分のために拵えてくれた贈り物をいらないと突き返すのも男としては野暮なのではないかと感じたのであった。

 

「そこまで仰るのでしたら……。因みに中身はいったい何なんですか?」

 

「中身かい? まぁ、魔道具店の店長としては秘密だなんて無責任なことは言えないか。あぁ、それはだね…………ってあれれ?」

 

 シェリーは箱を徐に開いてみせた……が、そこには何も入っていなかった。あるのはナイフを象ったような形をした溝が三つと、何かが書かれた羊皮紙一枚のみであった。

 

 おそらくナイフ状か何かの魔道具が嵌っていたのだろうとベルは推測した。シェリーが中身を入れ忘れたのか、或いは箱を間違えたかの二つに考えが当てはまりそうだが……。

 

 

「あ〜ゴメンよベル。ボク、中身が何者かに盗まれたことをすっかり忘れていたよ。ホントにゴメン」

 

 思い出したかのように拳を平の手に乗せるシェリー。

 

「あ、いえ盗まれたのでしたら仕方がないですよ。……って盗まれた、ですか? 僕がここを訪れる前に何かあったんですか」

 

「まぁね。あの時はまさにあっという間でね。作業場にある窓の傍に置いていたばっかりに……。見たのは後ろ姿のみだったけど、実に怪しげな黒いローブを頭から被った数人組の奴らだったよ」

 

 オラリオはある程度の治安で守られてはいるが、全地域までに手が届いているわけではない。治安が良くない場所での盗みは割とよくあることでもあるのだ。今回もその一つだと思われる。

 

「そんなことがあったんですか……」

 

「うん、ご期待に添えなくてホントに申し訳ないよ」

 

 しかし、それでもシェリーは彼に対して本気で何か贈り物しようと心の底から思ってくれていたことは事実だ。その気持ちだけでも、今のベルには嬉しく感じられたのであった。

 

「だから、せめてもの捨て台詞として盗まれた時に後ろ姿を見ながら叫んでやったさ。『次に会った時は覚えてろよクソがッ!!』……ってね」

 

「……あ、そこは追いかけなかったんですね。というか……台詞が何だか悪役っぽいんですけど」

 

「気にしない気にしない。それに盗難届けなんてこの街ではほぼ当てにできないしね。

あ、それで肝心の中身だけどね。爆砕剣(ブレイクソード)の試作品さ」

 

「なるほど、あの爆砕剣(ブレイクソード)の試作ですか。…………え? 試作品?」

 

 この店長、今なんと言った? 聞き間違いでなければ、一番初めに強烈な印象を刻み込んだ爆砕剣の試作品と彼女は言った。

 

 この時点で、もはや嫌な予感しかしない。ベルは顔を青ざめながら、己の首だけを横へぎこちない動きでシェリーを見やる。

 

 そこには数刻前に魔道具を紹介しまくっていた際に幾度となく見せつけられた笑顔のシェリーが佇んでいるではないか。それもさり気なくしているのかは定かではないのだが、何処か清々しさを感じさせる笑顔である。

 

 再び確信する。この人……こんな帰り際にまで及んで、まだ魔道具の紹介をするつもりだと! もしかして自分を帰す気はないのではないかと思えてしまえる程の根気である。

 

 その根気さや熱意を、何故まともな魔道具を作成することへ活用できないのかが疑問になってしまうレベルだ。

 

 

「そうさ、爆砕剣(ブレイクソード)の小型版でもあり、しかも爆発の威力も範囲も小型でありながらなんと三倍! その名も 爆砕小刀(ブレイクナイフ)! しかも三本セットと簡単な説明書付きさ♪」

 

 一緒に添えてあった羊皮紙は、その爆砕小刀(ブレイクナイフ)なる魔道具の説明書だったらしい。だがベルにとっては問題はそこではないのだ。

 

「いやいやいやいや!! 確かに僕はナイフがメインではありますけど、そんな魔道具使ったら絶対に巻き込まれるってさっきも言いましたよね?! 流石に忘れないでくだいよそこは!! 威力も範囲も三倍、しかもその魔道具が三本セットとか洒落になりませんから!!」

 

 しかもその説明書によれば爆砕剣とは仕様が異なりピンを抜く動作が無く、魔力も流したりせず敵対者に直接刃で斬りつけたりした瞬間に爆発するという、説明書が無ければ(・・・・・・・・)確実に、明らかにモンスターも使用者も一発で木っ端微塵という何とも無慈悲としか言えない仕様となっているときたものだ。

 

「それに僕が使ってしまったら自分が消し炭になるどころか、モンスターのみならずパーティの仲間も巻き込みますよね!? 僕、仲間に大怪我させたなんてしたくないですよ!?」

 

 爆砕剣を紹介してもらった時に負けず劣らずの指摘という名のツッコミを入れるベルであった。最後の最後でそんな危なっかしいの一言では済まされないような代物を引っ張ってこられたのだから致し方ない。

 

 その危険物(しかも説明書無し)が盗まれていたことが、皮肉にも幸いしたということになってしまったわけではあるが。

 

 

「というか、そんな非常に危険な魔道具を僕に記念品として贈ろうとしていたんですか?! もし盗まれていなかったら完全に僕の方が爆発してましたよね?!」

 

「うぐっ、言われてみれば確かに…………どうもスンマセン」

 

「今更謝られても嬉しくないですよ……」

 

 今更だが事の重大さに気が付き、落ち込むように頭を項垂れ反省の意を示し謝罪するシェリーであった。彼と出会う前の彼女であれば頭を下げる行為はおろか、謝罪なんてせずに先程と同様に歓喜に見た溢れた顔でいたことだろう。

 

 だが短時間とはいえ既に彼女にとってベルは単なる客ではなく、今日彼女の中では立派な友人として成り立っていたのだ。距離が多少近づいたこともあってか、自分でも知らない内に横暴さが目立たなくなっていたのである。そんな友人を危険な目に遭わせるわけにもいかない。

 

 自分よりも年下の男と半日の間ここまで会話を繰り広げるとはお互いに思っていなかったため、彼女に心理的変化が見られるのは妥当なところであった。

 

 

 

 

 さて、そんな談笑を続けている内に日もだいぶ沈んできた。帰る道程もある、これ以上間を長引かせては拠点に到着する頃合いには完全に街中は夜の闇に飲まれ、本格的に街は魔石灯による小振りな光で照らされ始めるだろう。

 

「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ? 風の噂じゃ最近、闇派閥らしき奇怪な格好をした集団を見たなんて目撃があったらしいしね」

 

「そうですか、ご忠告ありがとうございます。またいつか会える機会があれば会いに来ますね」

 

「そっか、ならボクもそれを望むよ。じゃあまたいつか!」

 

「はい! 今日はありがとうございました!」

 

 その台詞を最後にベルは自らの拠点を目指して踵を返し、シェリーは店の奥へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 こうして本日の、路地裏でのベルの冒険は無事に終了した。

 

 その冒険は知らない魔道具店を自分で見つけたことも成果としては大きいのだが、やはり一見変わっていた人物ではあったが中身は常に皆に対して人一倍の熱意を抱く、一人のアイテムメーカー店主との出会ったことが一番の収穫であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの出会いからおよそ数日経過した。

 

 その間、ベルは再びシェリーのもとへ訪れていない。現在は差し当たって変わったことはなく、用事がある時以外はダンジョンへ潜りモンスター達を倒していたのであった。

 

 

 さて、今日のベルはパーティ仲間であるヴェルフやリリとのダンジョン探索を終え、皆で回収した魔石の換金を終えたところである。

 

「リリ、ヴェルフ、今日もありがとう! じゃあ、魔石の換金もしたし今日はもう解散だね」

 

「おう、ちょうど夕暮れ時だし時間も切りがいいしな。俺はかまわないぜ」

 

「お二人共、お疲れ様でした。リリ達もそろそろ帰らせてもらいます」

 

「うん。――ってちょっと待ってリリ、あそこの掲示板の前……」

 

 それぞれが拠点に帰ろうとしていたその時であった。ふとベルがあることに気がついた。

 

 奥にあるギルドの掲示板に、何やら人集りができてあるではないか。

既に拠点へ帰るつもりでいた三人組ではあったが、何かギルドから通知があったのだろうかとも思い掲示板を覗こうとする。

 

 だが後ろに集っている冒険者達が比較的自分達よりも高身長であったために、何について書かれているのかが見えない。パーティの中では最も身長が高いヴェルフに何と書いてあるか見えないかと聞いてはみるベルとリリであったが……。

 

「どれどれ。……あー、すまねぇ。ここからじゃ俺でも見えそうにないな。もうちょい近づければいいんだが、この人数じゃあな」

 

 ヴェルフの身長でもどうやら見ることは叶わないようだ。例え飛び跳ねてみたとしても見えるのは一瞬だけだろう。

 

 人集りを掻き分け確認するために掲示板へ近付こうしようかとも考えたベルであったが、密度的に難しそうだ。それにその方法ではヴェルフやリリのいるところへ戻るために再び掻き分け往復することになる。

 

 仕方がなく先に集まっていた冒険者の一人に、何が掲示板に書かれているのかを聞くことにしたベル。

 

「あの〜、すみません。あの掲示板に何か書かれているんですか?」

 

 ベルが話しかけたのは、同じくヒューマンである自身よりも高身長である男性冒険者であった。

 

「ん? あぁ、それがよぉ……俺達がダンジョンに潜っている昼間、街の何処かで爆発が起こったんだとよ」

 

「爆発……ですか? 何か事故でも起こったんですか?」

 

 一般市民が何か事故や事件にでも巻き込まれたのであろうか、はたまた何処かのファミリアがトラブルを起こしたのだろうか、或いは良からぬことを考えた者共の策謀か。ここですぐに考えられるものとしてはそれくらいしかないのだが……。

 

「いやそれがな? 何でも爆発した跡地を調査してみたら、何と驚くことにそこは闇派閥の手先が致命傷でぶっ倒れていたらしいぜ?」

 

 話を聞いてみればその拠点は廃墟の真下にある地下施設であり、上手くカモフラージュされていたらしい。

 前々から目星をつけられていたわけでもない場所でもあったため、見つからなかったのも道理である。それが今回の出来事で漸く捜し当て、白日の下に晒すことができたらしい。

 

 しかも出てきた人物達というのが、これはまた厄介な闇派閥の人間と来たものだ。今ではすっかりいなくなったと思われていた輩だが、残党の一派と考えるのが妥当か。

 

 

「でもよぉ……廃墟であれなかれ、その建造物や一帯を管理している責任者がいる筈だろ? そいつはその件で何も知らなかかったのか?」

 

「確かに……例え人が住めそうにない場所や住宅であっても、必ずそこを管理している第三者がいる筈です。ベル様やヘスティア様が以前から住んでいらしている、あのボロボロの教会も例外ではありませんし」

 

「あはは……リリ、例えとしては間違ってはいないけどそれを出されるのはちょっと……」

 

 

 傍で聞いていたヴェルフやリリも、疑問に思うのも不思議ではない。現在ベルや主神であるヘスティアが住んでいる廃教会も、ヴェルフの主神であるへファイストスから紹介された物件だ。

 

 だがそんな廃墟同然の教会であっても管理者は存在するし、何より今回の爆発地点も見回りをしている者がいるのが普通だ。その役割が機能していなかったところを見ると、そこから考えられるのは……。

 

「もしかして、管理人さんも何かしら関わりがあったとか……ですか?」

 

「おっ、勘がいいな坊主。そうだな、情報によりゃあその管理人とやらもグル……正確に言えば連中から脅されていたから致し方なく従っていたんだとよ。

おおよそ、ギルドや他人にくっちゃべったりしたら家族を手にかけるとでも言われたんじゃねぇか?」

 

 人とは愛する者、例えば家族や知人などがいれば自然と……否、本能的に多より個を守ろうとする傾向にある。仮に男性の言う通りの事案が発生したならば、管理人の気持ちはわからなくもない。

 

 もっとも理由はどうあれ、闇派閥という存在自体(・・・・)に手を貸してしまった事実に変わりはないため処罰は逃れられないだろう。軽いか重いかは、今後のギルドの判断次第だが。

 

「だが本題はそこじゃあねぇ。実はこの事件には、幾つか謎があるらしんいんだわ」

 

「謎……ですか?」

 

「あぁ。何でも調査結果によりゃあ、その見つかった闇派閥の連中は三人でな? だか辛うじて生きてたそいつらが吐いた情報によれば、もとは自分達を含めて十人(・・)単位はいたそうだぜ」

 

「「「……ん?」」」

 

 今度はベル達三人組が首を傾げ、疑問の一声を口にする。

 

 見つかったのは三人だけ。しかも男性に聞いてみると、その生き残った三人組は爆発したとされる爆心地よりも比較的離れた位置にいたそうだ。いきなり視界が光ったかと思うと自分達は吹き飛ばされ、既に何人もの派閥のメンバーが消えていたそうだ。

 

 付け加えれば、何が原因でこのような大爆発が起こったのかさえ不明らしい。現地へ調査しに向かった者達の報告によると、少なくとも火炎石などを使用した爆発物によるものではないとのこと。

 

 そして何より……生き残った連中の話によれば、ドス黒い紅色をしたナイフ(・・・・・・・・・・・)三本を一度振りかざそうとした瞬間に爆発が起こった、と供述しているらしい。

 

「ナイフが、爆発……ですか?」

 

「オイオイ……流石に一回きり振りかざしたら直ぐにおじゃん、だなんてナイフ聞いたこともないぞ? そいつが本当だってのなら、ある意味魔剣よりも質が悪いじゃねぇか」

 

「ですね。しかも大爆発だなんて……。ないとは思いますが……その消えた人達は、リリが思うにその爆発によって身体ごと蒸発してしまったのでは?」

 

 

 まさか、しかしそんなことなど普通はあり得ない。例え連中が手にした物がヴェルフの言う通り魔剣であったのであったとしても、魔剣には使用回数がある。その回数もあまり長くはなく、一本では何度も使用可能な代物などではないのだから。

 

 それがダンジョン内部ではなく市街地のある廃墟で、また一度振りかざしただけで大爆発を起こすというのにも違和感があるのだった。しかも魔剣とは異なり砕けていくのではなく、一気に大爆発を起こすものと来た。

 

 それに実戦ならばいざ知らず、使用回数のある貴重な魔剣をわざわざ試し斬りなどするものだろうか? しかしそれ以前に魔剣としての効果が発揮される分、砕けていく時間も一振りであれ短縮されてしまうことになる。可能性としてはあまり高くはないだろう。

 

(ナイフ、三本、刀身が紅色、爆発……。そしてリリが何気なく口にした蒸発する程の威力がある可能性。ん? あれれ、まさか……)

 

 しかしこの三人組の中で唯一、男性の口から出た情報の幾つかのキーワードに気がついた人物がいる。

 

「あの、重ねて質問して申し訳ないんですけど……他には何か手掛かりがあったりは……?」

 

「あ、そうだそうだ! それともう一つ妙な証言ががあったらしくてな。連中、そのナイフをどっかの店からちょろまかしたみたいなんだとよ。

何処の店から盗んだのかも自白させようとしたらしいんだが『路地裏の……』って呟いた直後、全身火傷の影響で昏睡状態なんだとさ」 

 

「路地裏って……でもよ、それだけの証言じゃあ何処の店のナイフかなんて特定が困難じゃねぇか? 路地裏なんて、このオラリオにはわんさかあるだろ。そん中からチマチマ絞り出すってのはなぁ……」

 

「ですね。何組か班に分けて、片っ端から路地裏を探せば何とか特定できないこともないかもしれませんが、そこまで調査する人員の余裕があるかどうか……」

 

(あ、ほぼ確定だ……。そのナイフ、絶対にシェリーさんの言っていた魔道具の爆砕小刀だよ……)

 

 そう、ベルである。今彼はこのギルド内部、いや恐らくはシェリー・プロウスという魔道具店主を除きこのオラリオの住人達の誰よりも思考が冴えていた。

 

 わずかな情報内の単語のみで原因を自身の脳内で突き止めてみせたベル。シェリーが見たという、怪しげなローブを被っていた人物達を闇派閥の人間に置き換えれば尚更納得がいった。

 

 事前にベルがシェリーが営んでいるあの魔道具店に足を運んでいなければ、一生その真実に気が付くことはおろか下手をすれば彼の中でも一生謎のままに終幕となったであろう。

 

 そしてこれが一番ある意味厄介なことなのだが、そんなとんでも魔道具をシェリーが最初は嬉々とした態度でベルにプレゼントしようとしていたことである。だから、裏を返せばこれで良かったとも言える。

 

 当然非は魔道具を盗んだ闇派閥のメンバーにあるわけだし、かつての暗黒期にオラリオを壊滅しかけたような輩に同情する余地など全く無いわけだ。

 

 次いでに付け加えると説明書である羊皮紙ごと盗まれなかったのは不幸中の幸い、もし盗まれていたのであれば悪い方向で別の結末となっていたかもしれない。

 

 そんなことを考えると、何だか背筋が寒くなるベルなのであった。

 

 

「にしても、世の中には中々にとんでもねぇ武器を作る奴もいるもんだな……ってベル、どうした? 急に黙りこくっちまって」

 

「ベル様? どうかしましたか?」

 

 急に黙り込み、思考に耽け始めていたベルに対して不思議がるヴェルフにリリ。二人の言葉にハッと我に帰ってきたベル。 

 

「へ? あ、あぁいや……ゴメン二人とも、ちょっと考えごとをしちゃってさ……」

 

 頭上にクエスチョンマークを浮かべている二人に対して、すぐさま反応を見せる。 

 

「取り敢えず、お前らも闇派閥には気をつけるんだぜ? いや、それも確かにあるが俺もその事件で一つ教訓ができたさ。武器であれ魔剣であれ魔道具であれ、しゃんとした店から購入しようってな」

 

「それはまぁ、確かにそうですねぇ。いざ使ってみたら実はトンデモ武器で、使用者ごと蒸発だなんて洒落になりません」

 

「リリ助の言う通りだな。鍛冶師をしてる俺からしても、そんな武器のせいで色んな鍛冶師系のファミリアに疑いの目を向けられたりしちゃあ敵わないしな……」

 

 四人で会話を繰り広げているうちに、もうベルが男性に話しかけてから一刻近くは経過しようとしていた。

 

 だが聞けたいことも聞け、知りたいことも知れたベル、ヴェルフ、リリは改めて解散しそれぞれの帰路につくのであった――。

 

 

 

(シェリーさん、今頃何してるんだろうな……。やっぱり、懲りずにまた新しい魔道具を作っているのかもしれない。間接的とはいえ事件に巻き込まれたようなものだし、その内顔を出してみようかな……)

 

 次に彼女へ会うその時は、もっと冒険者としてしっかりとした姿で足を運ぼう。そう心で誓う。

 

 

 

 

 この後、ベルをはじめとしたヘスティア・ファミリアの仲間達はとあるファミリアと戦争遊戯を行うことになったり、はたまたとあるファミリアからある人物を救う為に奮闘することになるのだが……それはまた後に語られる、別の物語だ。

 

 

 ベルが再び彼女の魔道具店を訪れるのはだいぶ先の話。いや、案外そう遠くない未来の話かもしれない――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ヘックション!!」

 

 場所はうって変わり、例の路地裏にある魔道具店。

 

 ベル達がギルドから帰路につきはじめた同時刻、彼女は予想通り新たに魔道具を作成していたのであった。

 

 

「おっとっと、ボクも珍しいこともあるものだ。魔道具作成中にこんなにもはしたないくしゃみをするなんてね。何処かで誰かさんがボクの噂話でもしているかな?」

 

 

 自分一人しかいない筈の工房で、彼女はポツリと呟いていた。くしゃみをしたことが無いわけではない彼女であったが、こうして魔道具の作成に夢中になっている際は一度もくしゃみなどしたことがなかった。だから珍しいと感じたのだ。

 

「まぁ、最近出会ったのはベルくらいだし……彼がパーティの人達へ話題に出したといったところかな?」

 

 ふと、先日出会った兎のような外見に深紅の瞳を持つ少年を思い浮かべる。思い出故の錯覚かまるで出会った日がつい数刻前、いや数分前の出来事のように感じていた。

 

 同時に、彼女は思っていた。ベルがいつこの魔道具店に訪れるかは全く持って分かりはしない。

 

 だが、一つだけ決心していることがあった。それは……。

 

「さぁ〜て、もう一踏ん張りするとしようか! 少なくとも今度ベルがここに来るまでには、もっとマシな魔道具を見せつけてやらないとね!! 何より、くしゃみ程度で……」

 

 続けて最後に、彼女は両腕を自慢げに組みながら堂々たる姿勢で誰もいない虚空へ言い放つ。

 

 

 

 

 

 

「私のような魔道具馬鹿は、決して風邪なんかひきはしないんだからねッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは……何処かであったかもしれない。英雄に憧れる少年と魔道具好きな女店主の、とある出会いの一幕である。

 

 

 

 

 

 今一度問いましょう。

 

 皆様は、薄暗い路地裏を。何より、自分の足では一度も訪れたことのない場所はございませんか?

 

 もしかしたらそこには、意外と楽しい出来事や摩訶不思議……。一癖二癖のある変わった人物に出会えるかもしれませんね?

 

 今の日常を、何より人生に影響を与えるか与えられるかは……その時の貴方が持つ運命次第でしょう。

 

 

 

 しかし……次にその路地裏に迷い込み、そしてその魔道具店に訪れることになるのは私。いや、案外このお話を最後まで読んでくださった皆様かもしれませんね――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ベル・クラネルと路地裏の魔道具店主』

 

 

――終劇――

 

 




読んで下さり、ありがとうございました。

ちょっとした息抜き程度にはなりましたでしょうか?

基本ここでは読み専でありました私ですが、一時的ではありますがこの度書き手側に回らせていただきました。

皆様はここに数多くある、色んなな方々が思い描く小説は好きですか?

少なくとも、私は大好きです。ジャンルや世界観、オリジナルや二次創作、連載ものに短編ものなど種類は様々。
そんな楽しめるような物語を書いている彼らに対して日々感謝しているくらいですから。

現時点ではこの程度の設定や文才、語彙力に物語の構成能力しかありませんが、いつか再び何かの作品でお会いできれば幸いです。



では、また何処かでお会い致しましょう。ありがとうございました(__)

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