今年もよろしくお願いします。
アニメ三期、OVA……今年もかぐや様は告らせたいから目が離せませんね!
私も楽しみながらお話を書こうと思いますのでお付き合いいただけると嬉しいです。
一年の計は元旦にあり。
事に当たっては最初に計画を立てる事が肝心という言葉であり、年中事に当たり通しな四宮財閥においては、そんじょそこらの家では比べ物にならない計が正月の朝一から蠢いていた。
帰省にかこつけて帰ってくる、四宮家の閨閥ともどもと挨拶を交わし、意見を交換し合ったりしている。それはインサイダー取引……のギリギリであったり、役員人事の面白おかしな噂話だったり、外国銀行と手を結んだ裏切り者をどうするかであったり、一般的には悪巧みと呼ばれる部類の物であった。
さてそんな四宮家のかぐやは、何と言おうとも実家である京都の本邸に、侍従である早坂愛と一緒に帰省していた。
四子である、妾の子であるとは言え唯一の女兄妹である。暇では無い男連中に代わって来客にお愛想振る舞ってくれればそれでいい、という乾いた空気の中で、かぐやは何の面白味も無い元旦を過ごしていたのだった。
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「一応今日って私の誕生日なんだけれどね。結局祝ってくれたの義姉さんくらいだったわ……」
元旦の旦の字が消えて月が昇った夜の元日、かぐやは特に期待をしていたようでもないが、血のつながった家族から何も無かった事を早坂愛に愚痴る。
裾に袖のたっぷりとした和服のかぐやと異なり、簡素なシングルスーツにタイトスカート姿で愛は主人のそばに控えていた。
「ここの人達にそんな人間らしいものを求めても仕方ありません」
冷酷、冷血を地でいくよう教育してくるような家である。あったかい、アットホームなという言葉から最もかけ離れた人種がすくすくと育って日本全土に根を下ろしている、それが四宮家だ。
その中では、かぐやという少女は人としての温かみを忘れていない人間であった。
それが誰の影響なのか、という事は今更論ずる事でもない。愛は少しばかり微笑ましいと言いたげな笑みを浮かべて、そして頼まれごとを切り出した。
「ですが実はお預かりしている物があります」
そっとポケットに忍ばせていた、可愛らしいプレゼント用のリボンが付いた袋を取り出す。
「御行くんからです」
「会長がっ!?」
今日一日浮かべていた嘘くさい仏のような微笑みをかなぐり捨てて、かぐやの新年最初の驚きは白銀御行からのプレゼントであった。
はやく! ちょうだい! 早坂!
慣れない和服で動き辛いかぐやは、上記のような事を言いだしそうな剣幕で腕を突き出した。ここに置きなさいという事だ。
主命のままに愛はかぐやの掌にそっと袋を置くと、主人は手早くかつ正確に袋を開けて中身を取り出した。
すらりと伸びた、金色のチェーン。そこに今日の月夜の三日月のような飾りが、ゆらゆらと宙をたゆたうようについている。
「ネックレスですか。中々にこじゃれた物を贈ってきましたね」
「早坂……定規持ってる?」
「?」
おかしな事を言うかぐや様、と愛は思った。
彼女は小柄で、首も細くて長いので、まさかネックレスが通らないという事は無いはずだ。
疑問だらけのまま愛はかぐやに三十センチの定規を渡した。
「やっぱり! 24.8センチ! きゃーーっ!」
「?」
なにがなんだか分からない……。
いきなり数字を呼称しだしたかと思えば、大興奮できゃあきゃあ叫ぶ。情緒不安定っぷりに愛は普通に心配した。
聞くところによると、24.8センチは一往復あたりほぼ一秒の振り子時計であり、このプレゼントのネックレスには『同じ時を生きよう』という意味が込められているそうだ。
「素敵ね早坂っ!!」
「すみません。その奈良時代の恋愛みたいなのちょっと共感難しいです」
愛は素直に愛されたい質であった。
何の因果か運命か、そうやって愛してくれる五条美城という恋人がいる事でその性質はより強まっていると言っていい。
とは言え共感が難しいだけで何かを言うつもりは無かった。余所は余所ウチはウチ、の精神である。
もし互いが素直だったら『かぐや様は告らせたい』は一巻で告白が終わって二巻で終わっていただろうし。
「かぐや様」
「なぁに? どうしたの早坂」
ぽへーとしながら振り子運動を眺めている幸せそうなかぐやに、水を差すようで悪い気もしながら愛はもう片方のポケットに入れていた小包を取り出した。
「これはどちらから渡すか迷っていたのですが……先にこちらを渡したほうが良かったですね」
「何ですか。もったいぶって」
「実はもう一つ誕生日プレゼントを預かって来ています」
「本当? 誰から?」
かぐやは少し居住まいを正して丁寧に白銀からのプレゼントを袋にしまうと、小包を持った愛の顔を見上げた。
「美城からです」
「五条くんから? 私に?」
おかしい話ではないが。
五条美城の恋人である早坂愛は、四宮かぐやに仕えている。
この関係を上司というか雇用主と言うかは個人の好き好きに任せるとしても、考えれば恋人や妻の職場に年賀状を送る男性のような、少し珍しいとしても、まあなくはないという話なのだから。
あの慇懃が服を来て歩いているような美城がやってもおかしくは無い。
「ではどうぞ」
「はい、ありがとう。あなたからも伝えておいてくれるかしら。四宮かぐやが礼を言って……言って」
くっと小包の端を持つと、ピクリとも動かなかった。岩かと思った。思わずかぐやは手を離して一瞬だけ思案に沈む。
早坂は差し出してきた。私はそれを受け取ろうとしている。……何も問題ないはずよね。
もう一度やり直す。
「まあ眞妃さんのプレゼントを選ぶついでなのでしょうけど、それでも誰かからの贈り物というのは嬉しいもの……もの」
グググ……
「いやスッと渡しなさい! 彼氏が他の女の子にプレゼントを渡すのが面白くないのは分かりますけど!」
そこまで言ってようやく愛はスッとプレゼントを渡した。苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが。
「……なんですか」
「いえ、何でもありません。ちゃんと誕生日の日付にプレゼントを貰えていいなあ何て思っていません」
「思ってるのね!? 思って気に食わないのね!? ……といってもしょうがないでしょう。あなたが彼と会ったのは五月なんですから」
「時を戻そう……」
「何か聞いたことある……」
愛はかぐやの正論を否定も肯定もしないで時を戻そうとした。フォれの名前は早坂ファいだった。
「私も同じ時を生きようネックレスを贈ってもらいましょうか……」
「人のプレゼントをそこらで売ってる変なお土産みたいに言わないでくれます?」
変にいじけている愛を見ると、少しくらい同情の念が湧いてこないでもないかぐやである。人がこんなにも嬉しい気持ちになっているのを横にすると、羨む気持ちになるのは仕方がないのかもしれない。
……しかし。
「いいじゃないですか、あなたはそのサファイア飾りのループタイを貰っているでしょう?」
愛のスーツ姿の襟首には、美城からのプレゼントである彼女の瞳のような青色が輝くアグレットが美しいループタイが締められていた。そのカジュアルさをカラットの暴力で黙らせる中々にパワータイプのコーディネートである。
「違います」
「何が違うんですか。それ天然石でしょう? 少なくとも十万はする代物よ」
「違います」
「違いません。気に食わないならともかく、今日こうして身に着けているのですから気に入ってるのでしょう?」
「違います。これは私のルビーの指輪と交換で貰った物です」
「人工石で偉そうにするのは止めなさい」
「それにあの時はまだ全然彼の事が……好き、じゃない時でしたし」
好き、の言葉が出てくる瞬間、愛は少し俯いて赤くなった。かわいめであった。
「それは自分のせいじゃないかしら?」
「私も好きな気持ちで胸いっぱいにした状態でプレゼントを受け取りたい……。これは何と言いますか、互いの健闘をたたえ合うサッカーのユニフォーム交換みたいな物でしたよ」
「何とも高いユニフォームですね。あと三か月待ちなさい。五条くんはちゃんと当日に渡す人ですよ」
「そうですね……そうです……えへへ……」
「うわぁ」
いきなりニヤニヤとニヤケ出した愛は気味が悪かった。いつもの凛とした立ち姿がふんにゃりして、氷の美貌がお湯になっている。
茹ってしまった愛は放っておいてかぐやは小包を開いた。
中にはシルバーで出来た翼のブローチが入っている。派手さは無いが、力強く広げた両翼が美しかった。
「ブローチ、ですか」
「あまり主張が強くないので普段使いもできますね」
その言葉にはちょっと棘があった。
それはあなたが普段使いしたいだけじゃ……。
かぐやは愛の言葉を訝しむと、今は和服なのでつけられないが確かめておこうと台座から取り出した。
大きさは彼女の小さな手でも親指と人差し指でつまめる程の物で、確かに普段から着けていても嫌味にならないだろう。
ただ少し気になったのは、その大きさの割に複雑な裏側の意匠だ。服に刺すピンが二つある。
どういう意図でしょう……と考えていると、ブローチが入っていた台座の下から紙がひらひらと飛び出している事に気が付いた。上流階級への贈り物にも慣れている美城が、こんな不手際をするとは考えにくいので、ワザとやっているとかぐやは思い、その紙を引き抜いた。
「かぐや様、何ですかそれ?」
「えっと……『かぐや様へ』。手紙でしょうか」
「ふーん……手紙、手紙ですか。へえ……」
あ、なんか地雷を踏んだっぽい。
にっこりと笑顔のまま、その内側には沸々と怒りに似た何かが渦巻いている事はすぐに分かった。
逃げるように二つ折りの手紙を開くと、美城らしい丁寧で少し丸い文字がきっちりと頭をそろえて並んでいる。
『お誕生日おめでとうございます。並びに、新年あけましておめでとうございます』
から始まる手紙には、言ってしまえば去年はありがとう今年もよろしくと書かれていた。何の変哲もない年賀状のような文面が粛々と続くと、最後の段落にプレゼントの事について書かれていた。
『同封させていただきました翼のブローチですが、実は二つに分ける事が出来ますので、きっと誕生日にプレゼントを貰ってないと愛が不貞腐れているでしょうから、申し訳ありませんがかぐや様からお渡し頂けますでしょうか。新年早々お手数かけさせるような願いをどうかお許しください』
クスッとかぐやは笑った。愛は不思議そうに首をかしげる。
まったく、彼の言う通りに不貞腐れているのだから、何てデレデレ状態の早坂が分かりやすい直情的で直接的な性格をしているのかしら。
なおも不思議そうな顔をしている愛に、更におかしくなってクスクスと笑った。
「そんなに面白い事が書いてありましたか?」
「ええ。とっても」
愛は金色の眉をひそめると、行儀が悪いと知りながら手紙を読みたそうに首を少し動かす。
もう一度クスクスかぐやは笑うと、手紙に書いてある手順通りにブローチを真っ二つにした。
「あっ」
主人の突然の行動に愛は目を真ん丸にして驚いた。次いで切なそうな声をあげ、最後に怒りをにじませて睨むような目線をかぐやに投げてきていた。
「ふふっ、何て顔をしてるの? はい、あなたの分」
「えっ……?」
「これは二つに分かれるタイプのブローチなの。友情の比翼連理、互いを大切にしあう関係でいてくださいって書いてあったわ。まったく同級生に送るにはメッセージ性強すぎでしょう」
メッセージ性でいうなら白銀御行の贈り物も中々の物だが、恋人に贈る物ならそれくらい許容範囲内だろう。
そう考えると、半分は恋人にあげる物にもこれくらいの意味を込めていいのかもしれない。そうなるとこのプレゼントはかぐやが主で愛が従なのか、愛が主でかぐやが従なのか分からなくなってくるが。
とは言えそれに対して文句を言うつもりはかぐやにさらさら無かった。
「……美城……」
キラキラと瞳を輝かせながら翼の片割れを掌に乗せた愛が、何とも愛おしそうに恋人の名前を呼んでいるのだ。今なら片翼の天使になって東京まで飛んで行きそうな慕情でいっぱいの彼女に茶々を入れる気にもならない。
「今日は私の誕生日なんだけれどね」
主役よりも幸せそうでどうするの。
そんな言葉を飲み込むと、かぐやはブローチを台座に収めてから、収めたネックレスを取り出してゆらりと揺れる月の装飾を、一秒の間隔で揺らし始めた。
プレゼントに込められた思いに馳せて、二人はそれぞれの恋人の無言の愛を確かめながら、こうして一月一日の夜は更けていくのだった。
本日の勝敗 かぐや&愛の勝利