面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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最終話(というか一区切り)です


面倒ごとは押し付けろ!

   ~八雲紫~

 

 

「…………ここは……」

 

ようやくさとりが目を覚ました。第三の眼は常に開き続けていたけれど。寝ている間も心の声が届くというのはどれほど厄介な事なのだろうか。それとも寝ている間は脳を休めるために能力が切れるのだろうか。私にはよくわからないし、寝ている間は意識のある状態でもないのでさとりにもよくわかっていないだろう。

 

「ようやく目が覚めたようね、さとり。ここは私の屋敷。さとりが来るのは久しぶりかしらね」

 

来るというよりは住んでいたが正しいだろう。地霊殿よりははるかに狭いが藍と二人で住むならば十分な広さだ。

白玉楼や永遠亭のように典型的な和風建築ではなく、紅魔館や地霊殿のような洋風建築でもない。外の世界の様式も取り入れた和洋折衷を目指した造り。

 

「ああ、紫さんの。道理で見覚えのある部屋だと思ったわけです。しかし私がこの部屋で寝ているのならば紫さん自身は何処で寝ていたのです?」

 

さとりを最も快適に寝かすならば洋室にベッドの組み合わせだろう。しかし洋室はあれども普段使わないようなベッドは置いていない。だから今さとりを寝かせているのは私の部屋(和室)に布団だ。数か月はこれだったのだからこれでも良いだろうという安直な考えである。

 

それにしても不思議なものだ。私はさとりがどれくらい寝ていたのかを言ってはいない。そして外の暗さを考えればまだ一夜が明けていないという可能性も大いに考えられる。

それにも拘わらずさとりは私が一度以上は寝た前提で、彼女が数日間寝ていた前提で話を振ってきたのだ。疑問には思うが彼女の質問に答えない道理はない。

 

「私が寝ていたのは二つ隣の部屋ね。布団は神社からこっそり持って来たわ」

 

神社にはよく物や人が迷い込む。人を泊めるために布団だけは余分にあるのだ。というか私が用意したものだ。普段は使わない押し入れにしまってあるので取ってもバレることはない。

 

「それにしても何日間も寝ていた自覚があるのね」

 

「……自慢できるような事ではありませんが、私の身体は存外正直なんです。普段の睡眠時間よりも長ければむしろ眠気がとれないんですよ。人間の活動時間を考えれば私が倒れたのは恐らく戌から亥の刻でしょう。普段より少し長い、と言う程度ならば今は丑か寅が良いところですよ。しかしほら、そこの時計が示す通りならば現在時刻は午後11時過ぎ。眠ってから一日以上経っていることは明白なのです」

 

普段から睡眠時間を管理し過ぎているからそう過敏になってしまうのだろう。普通の者ならば『眠気がとれていない → 寝不足』を第一に考えるものであり、過眠を考える者はいないだろう。

壁にかけてあるカレンダーに着目しなかったのは地底に棲む者だからこそ、か。あれの方が確たる証拠になりそうなものなのだけれど。

 

「それはそうと異変は無事収束しましたか?」

「ええ。それはもう完璧に。貴方が倒れた後、異変の詳細は貴方の式神が霊夢たちに話してくれたわ。怨霊の事も間欠泉の事も」

 

守矢の事はさとりが初めに話していたからそれを飛ばしての詳細だ。綺麗に、さとりがどうして初めから出てこなかったのかだけを避けた会話術。人間側の不満そうな顔に対して不可侵条項を持ちだす狡さ。本質だけを隠して切り上げさせるのはさとり譲りなのだろうか。

子は親に似るというし……それならどうして藍は私よりも厳格に育っているのだろうか。式ではなく肉体に刻まれた過去の疵がそうしているのかもしれない。

 

「皆さん怒っていたでしょう? 私が突然消えたことに」

 

「…………そう、もうそこまで分かっていたのね。ならばもう包み隠さずお話しするわ」

 

私がスキマを開いていたのは彼女の足元ではなかった。遠隔に入り口を作る事などしたことも無かったせいで手元が狂ってしまったのが原因だ。

倒れる直前、()()()さとりは私のスキマのある方へふらつき、そのまま身体を重力に預けた。そう、あの時倒れる前からさとりは私の作ったスキマに気づいていたのだろう。倒れる場所まで気を遣われるとは……完敗だ。もう何も隠す必要はあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

さとりの言うように、彼女が跡形もなく消えたことで地底の連中はもちろん、人間側も怒った。地底側の怒りの対象は私、人間側はさとり。

 

地底側で最も怒っていたのは火焔猫燐。何の不思議もない。彼女にとってみれば最も大事な主が連れ去られたのだから。そして人間側は魔理沙と咲夜。勝ち逃げされたような気がしたらしい魔理沙と、本気でさとりを葬ろうとしていた咲夜。レミリアも私たちと一緒にいたが、レミリアはそれを見て引き攣った苦笑いをしていた。

誰でも怒りを覚えている者を鎮める役は担いたくない。その役を担ってくれたのがさとりの式神と霊夢。一連の流れを通して常に冷静でいられた二人。万頭狼戒の話を聞いた後、霊夢はすぐさま咲夜と魔理沙を連れて地上に戻った。早く帰りたかったのもあるでしょうが、地上の気温で頭を冷やすという目的もあったのだろう。

尤も咲夜の怒りは主人であるレミリアや鋭い私でもなければ気づけないであろうほど内に秘めたものだったから、霊夢は魔理沙だけだと思っていたのでしょうけど。

 

咲夜と魔理沙を鎮めるのは地底からの脱出でなんとか済んだようだけれど、火焔猫燐を鎮めるのにはかなり時間がかかったようだ。

霊夢たちを支援していた私たちが神社で解散してからさとりをここに寝かせ、それから地底に向かってもまだ怒りは収まっていないようだったから。

 

結局は私が直接事情を話すことで怒りを収めることになった。実は数刻前までは見舞にも来ていた。別に病気でもないのに過保護なペットだ。

 

「愛されているのね」

「対象を限定すれば、ですけどね。こんな覚妖怪を愛してくれるなんて、本当によくできたペットたちですよ」

 

「あら、私も貴方の事は好きよ?」

 

「ふふ…………たとえお世辞であってもそう言われると悪い気はしません。もちろんパルスィや勇儀たちも。貴方たちへの感謝の念は尽きませんよ」

 

そう、そんな風にいつでも感情を出した笑みを零してくれればいいのに。寂しさを含んだ見せかけの笑みではなくて。

 

「きっと私だけなら何処かでこいしと同じ道を歩むことになっていたでしょう。眼を閉じるだけでなく死んでいたかもしれません。貴女たちがいることで面倒ごとも数多く舞い込んでくることになりましたがね」

 

「皮肉を言えるほど元気になったのならもう大丈夫でしょう。地底まで送るわ」

 

これ以上ここに泊めてくと地霊殿だけでなく他の連中もうるさくなるだろうし。さとりがいない間の仕事はペットや式神で分担して行っているようだが効率も桁違いだろう。

 

「それは有難いですね。そう言えば彼女たちには私の存在が明らかになってしまったわけですが……地底は大丈夫ですか?」

 

こんな状況になっても地底の治安を第一に考えてしまうあたり、さとりが如何に仕事に毒されているかがわかる。もっと自分の心配をするか、数日間世話をしてやれていないペットの事を心配していれば普通の女の子といっても通用するだろうに。

裏方に回ってもうかなり経つが、表にいた時よりも地底の心配をするようになっているのではないだろうか。確かにあの式神はまだまだ頼りないが。

 

「そんなにあの式神の娘の信用が無いのかしら? 安心なさい。地上と地底は不可侵。あの話が地底に行くことは考えにくいわ。そもそも話題にも上らないでしょう」

 

きっとあの子たちの間ではさとり関係の話をタブーとして扱うことになるだろう。ただ只管に苦い勝利を()()()()()相手。咲夜にとっては主同士の付き合いでしか顔も合わせたくないだろうし、他の二人も心を読まれる事の不快感は感じられたはずだ。

心を読む。ただ考えていることを読むだけだと思っていたのだろう。実際に普段のさとりにできるのはそれくらいだ。しかし条件さえ揃えば彼女たちでは対処しきれないほどの力を発揮する。他人事になるが、さとりと交戦した者はもう二度と会いたくないと思うようになるだろう。

 

「戒の事は信用していますよ。近々真の統治者にしようと思っているくらいには。まあ地底に私の事が広がらないのであれば戻っても問題なさそうですね」

 

また殲滅するのは面倒ですからね。という言葉を小さく呟いたさとりがどんな表情をしているのか、こちらに顔を向けていないので私が知ることはできない。

覚であるという理由だけで差別される、そんな苦痛を味わってきたからこそ今の強いさとりがあるのかもしれない。鬼でなくとも鬼のように強い。

 

「ではお願いしますよ。あの子たちにも謝りたいですからね」

 

 

   ~火焔猫燐~

 

 

「で? 古明地は何に謝ってんだい? あんたの無事を心配するほど無駄な事は無いと思っているんだけど。封印されても自力で出てきそうなのにさ」

 

賢者様に連れられて帰って来たと思った矢先に目の前で謝るさとり様。でも萃香の言うことも一理あるかも。さとり様ならば灼熱地獄に堕とされても平気で出てきそうだよね。

まあ言わないけどさ。心は読めなくてもその場の空気くらい読めるから。

 

「お燐、それは思うだけで空気が読めていないということなのよ。それに私が謝っているのは心配させたことではなくて迷惑をかけたことに対してです。地霊殿だけの問題で済ませるべきだったのに皆さんにも迷惑をかけてしまって…………」

「さとり様は……さとりは心を読めるくせに何も分かってないよ」

 

うーん、ああ駄目だ。これ以上は我慢の限界だ。さとりも驚いているけど仕方がないじゃないか。あたいの本来の性格はこっちなんだからさ。

 

「本当に、昔からそうさ。さとりはいっつも先ず一人で厄介を処理しようとする。あたいたちにとっちゃ迷惑上等なのに……もっと頼ってくれてもいいのに。戒を式にとってから多少はマシになったけど、それでも引き受けている仕事は明らかに一番多い」

 

言い始めたら止まらないね。でも悪いのはあたいじゃないよ。こんなことを言わせるさとりが悪いんだ。心を読めるというアドバンテージがあるのに他人の事を何も分かっていない。

 

「今はもう昔とは違う。頼れる妖怪がこんなに多くなったのにどうして頼ろうとしないの? さとりの苦痛を分かってくれる友人もできたのにどうして相談しようとしないの? 面倒ごとなんてあたいたちペットに丸投げしちゃえばいいんだ。辛い仕事なら分担すればいいんだ…………………あぁ、すみません。さとり様」

 

急に態度を変えて言い過ぎただろうか。さとり様はうつむいたまま何も言わなくなってしまった。ここからでは何を思っているのか推測することもできない。

 

「まさか驚いたね。お燐も言うようになったじゃないか。主人を呼び捨てなんて。それより大丈夫かい? さとり。ショックで喋れないとか?」

 

弄るのはやめてほしい。これでも少し反省しているのだ。あたいにとってはずっと主人であったさとり様を呼び捨てするなんてもう何百年ぶりのことだ。喋っている間は良かったが、それが終わると急激に罪悪感が湧いてくる。

 

「ふふふ……ふふ」

 

やばい。さとり様がおかしくなってしまったかもしれない。完全にあたいのせいだ。取り返しがつかなくなる前に何とかしないと…………

「ふふ……はぁ、ありがとうお燐。私は貴方を見くびっていたようだわ。もう千年近い付き合いなのにね。ペットに叱咤されるなんて主人失格かしら」

 

うんまあそこまでは言ってないけどね? 元気になってくれたのなら何よりかな。これからはもっとあたいたちを頼っても良いんですよ、さとり様。昔からこう言い続けてきた気がするけど。それでもさとり様が倒れるような事態は確かに少なかった。

これを機に他人を頼ることを知ってもらいたい。そうすれば声を荒げた意味はあるかな。

 

「そうね。これからは貴方たちペットの手も、萃香たち友人の手も存分に借りることにするわ。私が負担する面倒ごとが減るように、ね」

 

ま、丸投げしろとは言ったけど実際はほどほどにしてほしい……何その黒い笑顔は。あたいたちの安寧が無くなるかもしれない。勘弁して……。




というわけで完結です
三人称でもないのに主人公視点が無い最終話も珍しい

続編の主人公がお燐になるようなことはありません


きちんとここまで書けたのは偏に読者様がいたからです
ここまでお付き合いいただきありがとうございました
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