あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
新年あけましておめでとうございます。
お年玉だオラアアアアア!!!
(#っ ゚Д゚) ╮彡 —===≡≡≡ω シュッ!
新年一発これでいいのかと思わなくもない。
何時もの2倍、9500文字書いたから許して♡
……取り敢えず急いでプロット完成させて今年のうちには完結させてぇなぁ……
カチンコの音が鳴り響き、カメラが撮影を始める。それを合図に、役者たちが演技モードへと入った。
リュウゴの台詞を否定しながら、カヅキがリュウゴを切り捨てる所から撮影開始だ。
「そうだ、シュウゴだ! あいつが犯人なんだよ!」
「ふざけるな! あの人がそんな事をする訳が無い! する訳が無いんだあああああ!!」
リュウゴの言葉を認めたくないカヅキが叫び、手に持った刀を振り下ろす。
錯乱しきった表情と緊迫感を感じる叫び。それと共に振り下ろされたそれは、しかし少しもぶれる事無く正確にリュウゴへと迫る。
自身へと振り下ろされた刀に、自身の死を確信したリュウゴは慌てて地を蹴り、カヅキから距離を取る。
「なっ、やめっ、うわあああああああ!!?」
しかし、全ては遅い。
一歩後ろに跳んだ程度の動きでは曇り一つ無いその刃から逃れることは出来ず、迫る刀から身を守る様に掲げた腕ごと鉄の塊がリュウゴの命を奪い去る。
苦悶の表情を浮かべながら、どさりと肉の塊が地に落ちた。勢いよく床に叩きつけられたというのに痛みを訴える声は無く、その体が動く事は無い。
ケイコ*1が恐る恐る頬に付いた血を拭い、赤く染まった指を見て恐怖に顔を歪めた。
「きっ、キャアアアア!!?」
「ハァッ、ハァッ……!」
死んだ。人が、目の前で。
その事実を認識すると同時に、カナ*2が恐怖に
殺した。昨日まで笑い合っていたクラスメイトを、この手で。
その事実を手の震えと共に荒く吐き出し、息を整える。
未だ荒い呼吸に肩を震わせながらもカヅキは構えを解き、ぐりんと首を動かして同じく教室にいた3人のクラスメイトへと顔を向けた。
「シュウゴさんがッ、あの人がそんな事をする訳ない! ……貴方達も、そう思うでしょ?」
「ひっ」
たった今クラスメイトを殺した
目の前の人殺しから逃げたい、この場から逃げ出したいという気持ちが生み出した、当人の意思が介入しない反射的な行動。
しかしそれは、今この場では思わずため息を吐いてしまいそうになるほど最悪な行動であった。
恐怖で後ずさるアカリ。それを見て、カヅキは自身の問いが否定されたような思いになった。
ああ、こいつもシュウゴが犯人だと思ってるんだと。
殺人現場に遭遇し、恐怖と混乱のどん底にいる3人に向けて、たった今一つの命を奪い去った凶器の刃先を向ける。
「あの人が、あの人がこんな事する訳ないじゃない。そう、そうよ。そうなんでしょ? 貴方達もこいつとグルなんでしょ! シュウゴさんに罪を被せて……ふざけないでっ!」
「なっ、ち、違うよ!」
ここで認めてしまったら、最悪自分達まで床に転がる肉塊の仲間入りをしてしまう。
その事を悟り、カナが慌ててカヅキの言葉に否定を返す。
しかし、慌てて否定した事が逆に仇となり、カヅキが更に不信感を強めていく。
「信じられないわ! 証拠はあるの!?」
逆にシュウゴが犯人ではない証拠はあるのだろうか。
彼は何時も刀を持ち、カレンを守るかのように傍に侍っていた。実際にカレンを狙ったストーカーを撃退し、警察に突き出した事もある。
もしもリンがカレンに危害を加えようとして、シュウゴに返り討ちにされていたとしたら。
言っては悪いが、リュウゴの言う通り【デスアイランド】の指示に従わなかった結果殺されたなどというオカルトよりも、そちらの方がずっと説得力があった。
しかし、今のカヅキにそんな説得など通用しない。
むしろカヅキの怒りを煽り、殺される確率を高めるだけだろう。
結果、反論する事も出来ず、アカリたちはただ黙って後ずさる。
それを見て、カヅキはやはり共犯者だったか! と激昂し、刀を振りかぶった。
「こ、来ないで!」
「皆、逃げて!」
顔を真っ青にしたケイコがそう叫び、一拍置いてから「うぷっ」という小さなうめき声と共に頬を膨らませ、口を手で抑えた。
……あれ? もしかして……
唐突に景が漏らしたうめき声に、思わず演技モードが解けた茜たちが景の方を見やる。
瞬間、景が進路上に居た茜を突き飛ばし、窓に向かって駆け出す。
そして勢いよくスッパァン! と窓を開け放ったかと思えば、そのまま窓の外へと顔を出しておええぇぇっと胃の中身を吐き出し始めた。
現場にいる全員が景の突然の嘔吐に目を丸くして唖然とする中、真っ先に正気に戻った手塚が手に持ったカチンコを鳴らす。
小さくパチンとなったカチンコの音に皆が注目する中、手塚が小さく口を開いた。
「あー、えーっと……カット」
「か、カットぉー……」
何処か締まらない空気の中、茜に背中を擦られる景の嘔吐音が静かに教室の中に響いていた。
「い、いけるか? 具合はどや、夜凪ちゃん」
景の背中を擦りながら、茜がペットボトルの水を差し出す。
今では顔色も戻り、普通に動けるようになった景ではあるが、ほんの5分ほど前まで朝食全てを吐き出したのかと思う程に激しく嘔吐していたのだ。
もしや何処か体調でも悪いのか? 撮影は後回しにして薬を飲んで横になった方がいいのでは? と心配するのは当然の事であった。
しかしそんな茜の心配そうな声に、景が不思議そうに首を傾げた。
「いける? って何かしら?」
「え? ……あっ、いや、大丈夫かって聞きたかったんや」
大阪弁で話しかけていた事に気付き、茜が言葉を訂正する。
その訂正された言葉になるほどと頷きながら、景は口の中を濯いでいた水をペッと吐き出した。
服の袖で口元を拭いかけた景を茜が止め、衣装を汚さないようにとハンカチを差し出す。
「ん、ありがとう。吐き気に関してはもう大丈夫よ。元々体調が悪いとかじゃなくて、ちょっと上手く役に入れなかっただけだから」
上手く役に入れないと嘔吐するってなんやねん、どういうこっちゃ。
関西人の血を引く者の宿命か、茜は思わず突っ込みそうになりつつも何とかそれを飲み込む。
茜はもう一度口を濯ぎ始めた景を見る。
吐いていた時はこの世の終わりかと勘違いしかねない程に青かった顔。しかし、今の景の顔にはその時あった青さがまるでなく、どこかけろっとした様子だ。
「でも、ほんとに大丈夫なん? 一応横になって休んどった方がええんやない?」
「ううん、大丈夫。それにようやくケイコが理解出来てきた所なの」
この感覚を忘れない内にもう一度演じたい。そう言う景をどこか理解出来ないという目で見つつも、一応の納得は示したのか、茜が景の背中から手を放した。
もう一度口を濯いで吐き出した景を見て、茜が景に話しかける。
「……今言うのもなんやけどな、私ちょっと夜凪ちゃんのこと怖いと思うとったわ」
「怖い!?」
ガーンという擬音が聞こえそうな程に落ち込む景。
そんな景に当たり前やろと茜が苦笑する。
「誰だって首絞められたらその人の事怖いと思うやろ」
「そう、なのかしら? 私トーカに首を刎ねられても怖いとは思わなかったのだけれど……」
「それは夜凪ちゃんがおかしいだけや」
殺されかけたら恐怖するやろとか、今生きとるやろ首刎ねられたってなんやとか、色々と突っ込みたい所は沢山あるが、茜は努めてスルーする。
自分がおかしいだけなのだと断言されて落ち込む景。
その様子がどこか小動物のように見えて、茜が笑う。
「でな、ほんま言うと今もちょっと怖いねん」
「え」
「当然やろ。唐突に豹変して首絞めだしたり、唐突に顔色悪くして吐き始めたり。行動が読めな過ぎて何するか分からんもん」
「ゴメンナサイ」
反論の余地が無さすぎて言い訳のしようがない。言われる度に景は落ち込んでいき、口からは思わず謝罪の言葉が漏れていた。
景がしゅんと肩を落とす。茜はその頭に手をやり、サラサラと砂のように手から零れていく髪を弄びつつ言葉を続けた。
「
「真咲君が?」
「うん。最初はなに言うとんやこの子、夜凪ちゃんから変なもんでも貰って来たんかいなって思っとったんやけどな」
「酷いっ!?」
「でな、真咲ちゃんに言われたんよ。一回だけ、もう一回だけでいいから、怖がらずにちゃんと夜凪の演技見てみて下さいって」
茜は最初、何故真咲がそこまであの子に拘るのだろうと思っていた。
しかし、時間が空いて気分が落ち着いてきたころ。茜は真咲の言う事が気になり、オーディションで起きた事を思い出して整理した。
結局、茜には真咲が景に拘る理由は分からなかったが、それでも一つだけ気が付いた事があった。
夜凪ちゃん、真面目かどうかは兎も角、ちゃんと演技はしてるな、と。
私、ずっと夜凪ちゃんに怒ってばっかりで、全然演技してないな、と。
だから一回だけ。真咲の言う通り、茜は一回だけ怖がらずにちゃんと景の演技を見てみようと思ったのだ。
それでふざけているようなら、怒って頬の一発でも引っ叩いて説教してやろうと。
またオーディションの時の様な、人の首を絞めたりするような恐ろしい演技をするようなら、もう二度と近づかない様にしようと。
そうして一歩離れた所から景の演技を見て、ようやく茜は気が付いたのだ。
一秒足らずで血色の良かった顔が真っ青に染まって、実際に吐いて。なのにもうけろっとしている景を見て、真咲の言っていた事にも納得がいったのだ。
どうやってその演技を行っているのかは、色んな意味で異次元すぎて理解出来ない。
でも、私が理解出来ていないだけで、夜凪ちゃんはちゃんと真面目に演技をしていたのだと。
ただ私が怖がっていたせいで、ちゃんと見えていなかっただけなのだと気が付いたのだ。
「あれが夜凪ちゃんの演技なんやろ?」
「ええ」
「なら仕方ないんちゃうか? 真面目にやっとるんなら、私が言う事は何もあらへんやろ」
そこで何かを言うのは作品を管理する監督の仕事だ。
あくまで一役者に過ぎない自分が何かを口に出す権利はない。
「ま、もう首絞められたりするんはゴメンやけどな」
「ゴメンナサイ」
「ええってええって、もう気にしとらんから」
どこか申し訳なさそうな顔をする景に、茜は笑って答える。
「それよりも、もう大丈夫なら早く監督に言いに行ったら? 早うせえへんと、次の撮影に行くかもしれんよ?」
「えと、その事なのだけど」
「どうしたん? もしかしてまた吐き気がしてきた?」
「いえ、そうじゃなくて……」
口籠る景に、茜は首を傾げる。
しばし言うかどうか迷っていた様子だった景が、フンス! と気合を入れ、茜を見つめた。
「私、台本を無視するかもしれないわ」
その言葉に茜は思わず目を鋭く尖らせて景を睨み……フッと表情を緩ませた。
てっきり怒られるとばかり思っていた景が目を丸くする。
「ふざけてる訳やないんやろ?」
「え、ええ……」
「ならええんやない? 一応監督に台本無視してもええか伺っとき。あ、でももう首絞めたりせんでよ?」
「締めないわ! ……じゃあ、行ってくるわね」
景が身を翻し、監督の元へと歩いていく。
それを見送り、茜は空になったペットボトルを捨てるために立ち上がった。
「あ、吐かんでなー?」
「吐かないわ!」
夜凪ちゃんの嘔吐音が響く中、手に持ったカチンコを鳴らす。
何時もならばこれだけで意図を察して動いてくれるスタッフ達が、唖然とした表情のままこちらを向く。
「あー、えーっと……カット」
「か、カットぉー……」
締まらない声が響き、正気に戻ったスタッフ達が慌てて動き出す。
カメラマン達が夜凪ちゃんを気にしながらもたった今撮影した映像を出力し、服飾班が嘔吐した物が衣装にかからないよう背中をさする湯島さんと一緒に夜凪ちゃんの介抱を行う。
メイクスタッフが薬や水の準備を始め、手の空いたスタッフが夜凪ちゃんが倒れた時の為に担架を探しに走り回る。
慌ただしくなった撮影現場で監督である僕に出来る事は無く、仕方なく出力された映像を確認する事にした。
撮った映像を確認し、スタンド・イン*3しながらカメラマン達がカメラの位置や照明の強さなどを調整していく。
陰の功労者達の働きぶりを尻目に、出力された映像を確認しながら考えに耽る。
うん、よく出来てるね。
和歌月さんはカヅキの錯乱っぷりをちゃんと演じられているし、湯島さんたちも目の前で人が殺されたが故のパニックと殺人犯への恐怖を上手く表現出来ている。竜吾君も良い倒れっぷりだ。
ぶっちゃけ、このテストをそのまま本番って事にして次の撮影に入ってもいいくらいだ。
……最後に夜凪ちゃんの嘔吐さえ入ってなければなぁ……
「監督」
「ん! なんだ、夜凪ちゃんか」
映像確認をしていると、すぐ隣から声が掛けられた。
そちらに顔を向ければ、夜凪さんが僕と視線を合わせるように腰を屈めて立っている。
「もう具合は良いのかい?」
「はい、大丈夫です。役に上手く入れなかっただけで、元々体調が悪い訳じゃないから」
体調が悪い訳じゃない、役に入れなかっただけ……ねぇ。
再生を止めていないがために、未だ映像が流れているモニターの画面をちらりと見やる。
画面に映る夜凪ちゃんは恐怖に戦慄いてこそいるものの、血色も良く確かに体調が悪い訳では無さそうだった。
この状態で体調が悪いと言われたなら、まず僕は信じないだろう。
瞬間、唐突に夜凪ちゃんの表情が真っ青に染まった。何の前兆も無く、突然に。
そして自身に割り当てられた台詞を叫ぶと同時に、夜凪ちゃんが道を塞いでいた湯島さんを突き飛ばして窓へと駆けだし、胃の中身を放出し始めた。
「真っ青な顔を表現するために過去を思い出して、上手く制御出来なくて失敗した……って訳じゃないのかな?」
「失敗、と言えば失敗なのだけど……台本通りにしているとなんだか上手くケイコになれなくて。それでも何とか演技をしていたのだけど、違和感が強くて、それで」
吐いてしまったと。
なるほどねぇ。
てっきり僕は狙ってこの演技をしているのだと思っていた。
彼女の演技はメソッド演技だ。メソッド演技法は過去に体験した事を思い出して演技をする技法だ。
故に、過去に嘔吐した経験を思い出す事で顔を青くさせ、そして失敗したせいでそのまま本当に吐いてしまったのだと、そう思っていた。
しかし、彼女の言い分を聞く限り、それはどうやら違うらしい。
「つまり、台本を無視して自由に演技がしたいって事かな? 夜凪ちゃんは」
「……はい」
申し訳なさそうな顔をしながら、彼女が頷く。
それを見て、僕は膝を組み顎に手を当てた。いわゆる何か考え事をしているアピールだ。
それにしても、台本通りのケイコが受け入れられない、か。
まぁそれも仕方のない事なのかな? 彼女の台本は当て書きだしね。
映画デスアイランドの台本は2つの作り方を織り交ぜて作られている。
一つはオーディション組のために作った台本。
この台本は、原作デスアイランドに出て来るキャラクター達の台詞を忠実に再現したものだ。
簡単に言えば、別に役者として目立たなくても構わない、最低限の技術さえあれば誰でも演じられるように作られた台本だ。
メリットとしては、そこまで技術がなくとも失敗が少ない事。
デメリットとしては簡単に演じられる分、役者として自分の技術を見せる事が難しい事が上げられる。
原作付きの映画で、尚且つ役者が無名だらけの場合は大抵この書き方で脚本が作られる。
悪い事ではない、むしろいい事だ。この作り方ならば、ため息を吐きたくなるほどあり得ない失敗でもしない限り、まず映画としてほぼ確実に成功するのだから。
まぁ成功と言えるまでのラインが低くなりがちなのがご愛敬だけれどね。
そして二つ目、スターズ組のために作った台本。
こちらはオーディション組のために作った物とは違い、例えば千世子君がいたとして、千世子君はこの場面でどう動くかというのを考えて作られたものだ。いわゆる当て書きという奴だね。
実在する特定の人物の為だけの台本。その人物の為だけに作られた、その人物でしか一番に輝かせることが出来ない台本。
メリットとしては、役者としての自分をアピールしながら演技が出来ること。
デメリットとしては、高い演技力が求められる事と脚本自体が独りよがりになりかねない事か。
例として有名なのは映画バイオハザードシリーズなんかが有名かな。あれは監督が妻のミラ・ジョボヴィッチが演じる事を前提として当て書きされたものだ。
映画を見ていても分かるが、1や2はまだしも、最終作なんてもはやただの嫁プロモ映像と化している。
それを受け入れられる人にとっては気にはならない些細な事だろう。だが映画全体の完成度という話になれば、とても良い作品とは言えない。
僕としては普通に楽しめはしたけどね。
……っと、脱線した。
つまり言いたい事としては、夜凪ちゃんの台本が後者の、彼女のためだけに作られた台本だという事だ。
そもそもの話、彼女の演じるケイコ自体が原作に登場しない映画オリジナルのキャラクターだしね。当て書きになるのも仕方のない事だろう。
そして当然の事だが、当て書きをするためにはその当て書きの対象となる役者の事を良く知っていなければならない。
だが、僕は夜凪ちゃんの事なんか逢魔君が目をつけている演技力のある役者というくらいしか知らない。
だから、僕は夜凪ちゃんの事を知るために逢魔君に頼った。彼女を当て書きしたいから彼女の事を教えてくれと。
幸い、彼は快く彼女の情報を教えてくれた。彼女の情報がびっしりと隙間なく書かれたA4の紙を30枚の束で。
……正直読む気など微塵も湧かなかったが、仕事は仕事。一文字も読み飛ばさず合計7時間かけて読み切った。正直宗教団体が発行している新聞でも読んでいる気分だった。
そうして得た情報を元にして書き上げたのが彼女の台本だ。
だが、それでも僕自身は彼女と接した事はオーディションと顔合わせの2度しかない。顔合わせの時には既に台本は書き切っていたので、正確に言えばたったの1度だ。
それで当て書きをしても上手く行く筈が無い。むしろ、逢魔君の情報があっただけまだマシなものに仕上がっている筈だ。
事実、逢魔君に見せても違和感は殆ど無いと言っていた。たとえ本人に見せても、実際に演技をしたとしてもその違和感に気付く可能性は限りなく低いだろうと。
だが彼女は言った。上手く役になれない、違和感が
……凄いね逢魔君。君、どこからこれを拾って来たんだい?
「そうだね。構わないよ、好きに演じてくれ」
「! ありがとう!」
「ただし、チャンスは一度だけだ。それで失敗したら台本通り演じてもらうよ」
そう言うと、彼女はコクコクと頷いた。
よし、じゃあ始めようか。
「よし、皆! 撮影を再開しよう。テストの段階で十分完成度は高かったし、トラブルで時間も押してるからね。本番で行っちゃおうか!」
「了解! 本番でーす!」
「本番!」
スタッフ達が言葉を繰り返し、伝言リレーのように素早く周囲に伝えて休憩しているスタッフ達を集め始める。
5分もすれば教室の中は撮影準備を終えたスタッフで埋まり、役者達が定位置につく。
「さて、行くよー! 本番!」
「ほんばーん!」
「3!」
「2!」
「1!」
「アクション!」
カチンコの音が鳴る。
それを合図にしてリュウゴが口を開いた。
「そうだ、シュウゴだ! あいつが犯人なんだよ!!」
「ふざけるな! あの人がそんな事をする訳が無い! する訳が無いんだあああっ!!」
リュウゴの言葉を認めたくないカヅキが叫び、手に持った刀を振り下ろす。
錯乱しきった表情と緊迫感を感じる叫び。それと共に振り下ろされたそれは、しかし少しもぶれる事無く正確にリュウゴへと迫る。
自身へと振り下ろされた刀に、自身の死を確信したリュウゴは慌てて地を蹴り、カヅキから距離を取る。
「なっ、やめっ、うわあああああああ!!?」
瞬間、ケイコが顔を隠すように手を掲げた。
手に付いた生温い感触。顔を隠していた手を下ろし、手に付いたものを見る。
真っ赤に染まった手の平、指の隙間から零れ落ちて床に跳ねる雫。
見れば、同じ色の液体が倒れ伏すリュウゴから流れて床を染め上げていた。
手に付いたものの正体を理解し、ケイコの顔が青く染まる。
歯は恐怖に震えてカチカチと音を鳴らし、手についた生温い液体が酷くケイコの気分を乱す。
カヅキがケイコたちを見やる。
その手に持った刀からは、ケイコの手に付いたものと同じ液体が流れ落ち、点々と床を汚していた。
ケイコは理解した。次は自分達だと。
「みんな……逃げましょう」
「え?」
「逃げるのよっ! 早く!」
呆けているアカリとカナの手を掴み、教室の外へと走り出す。
突然走り出したケイコにカヅキは一瞬困惑の後、彼女たちを追い掛け始めた。
リュウゴが切り殺されると同時に逃げ出した。それはつまり、自分達も切られるかもしれないと思ったということ。
そんな事、自分が切られる理由に心当たりがない奴はしない。つまり、あいつらは共犯者だと、そう判断したのだ。
「待てッ!!」
刀を構えたままでも走りやすい様に腰だめに構えて走り出す。
カヅキもケイコもいなくなった教室。そこで、死んだはずのリュウゴがむくりと体を起こした。
「……あいつら思いっきり台本無視してますけど、止めなくていいんですか監督」
「うおっ、生きてる!?」
「どういう意味だそりゃ!?」
起き上っただけでなく喋り出したリュウゴにスタッフ達が怯えて後退る。
それを尻目にカメラマンへと映像の出力を頼み、出力された映像を確認する。
台本ではアカリが「来ないで」と叫び、その後にケイコが「皆逃げて」と言う事になっている。
実際、彼女は先程その通りに演じたのだから、それを知らない筈は無いだろう。
だが、彼女はアカリの台詞どころか、共犯者を疑うカヅキの台詞すら待たず、それどころかアカリたちの手を引いて教室の外へと逃げ出していった。
彼女はさっき台本通りでは上手くケイコを演じられない、違和感が強いと言っていた。
つまり、夜凪ちゃんはこの演技が一番自然であり、最善の行動だと思ったのだろう。
立ち止まって逃げる事を提案するより、率先して逃げなければいけないと。
まぁ言われればそうだよね。同じ教室の中で殺人が起きているというのに、呑気に立ち止まったまま「逃げて」なんて、普通は言ってられない。
僕ならまず、何も言わずに真っ先に無言で逃げる事を選択するだろう。
僕は恐怖で足が竦み、上手く動けないがために立ち止まったまま「逃げて」と言う事を想定して台本を作った。
それも普通の行動、当たり前の行動だ。人間、死と相まみえた時には恐怖で動けなくなるのが普通なのだから。
だからこそ、僕はその台詞を台本へと入れ込んだ。
でも、こうしてこれこそが本当の当たり前の行動なのだと提示されてしまえば。なるほど、演技による説得力もあるのだろうが、夜凪ちゃんの演技こそが本物のケイコの行動なのだと思わされる。
ましてや、ケイコはこの後すぐにカヅキから逃げる為に崖から飛び降りて逃亡を図る様な人物だ。ここで恐怖で足が竦むような人間に、崖から飛び降りる事なんて出来るわけが無い。
なるほど、そう考えてみれば確かに彼女の行動には設定に基づいた一貫性があり、キャラとしての人間性も根強く構築されてくる。
その事を念頭に置きながら、もう一度最初から映像を再生する。
あはは、確かに好きに演じてくれとは言ったけど、本当に台本なんか知らないとばかりに、自分勝手な演技をしているなぁ。
ここで30秒は使う予定だったのに、8秒しか使ってないんだけど。
空いた時間どうしようかなー?
ははは、ホントに困ったもんだ。
……だけど。
「うん、OKだ」
だからこそ、自然であり、美しい。
……ところであの子たちどこまで行く気なのかな?
一向に戻ってこないんだけど。
鬼滅の刃の映画の売上が、千と千尋の神隠しの316億を抑えて324億となり、遂に国内での歴代興行収入一位になったみたいですね。
(⸅᷇˾ͨ⸅᷆ ˡ᷅ͮ˒)……!!?
あ、それと視点主の名前入れてみたんですけどどうですかね?
いると思います? 要らないなら消しちゃいますけど。
(茜視点は三人称だろって突っ込みはナシで)
視点主の名前いる?
-
いる
-
いらない