英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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聖鐘楼の音

 グリーに乗り18階層の中空を駆けるベル。それを追いかける女性型に、この階層にてダンジョンにおける最大の異物である女性型を追うグレンデル。

 グレンデルまで誘えたのは僥倖だ。

 

「【祝福の禍根】──】」

 

 唱えるは愛しき義母(はは)より受け継ぎし魔法。魔力の膨張、女体型はもちろんグレンデルも反応する。

 

「グオオオオオオ!!」

「オオオオオオオ!!」

 

 撒き散らされる鱗粉。大気を揺るがす爆発が連続し、それを無傷に突っ込で来るグレンデルの爪が迫る。

 

「クアアァァ!」

 

 グリーの全速飛行で回避するも、ここに来て女性型が消化液を撒き散らす。飛沫のように広がるそれは、喰らえば全身が溶ける、というほどではないが、翼に当たれば飛行が難しくなる。

 

「【生誕の呪い。血縁(はんしん)喰らいし(わがみ)の原罪】」

 

 ベルは大嫌いな詠唱(うた)を唱えながら大剣を振るう。上級鍛冶師(ハイ・スミス)であるヴェルフ製の一品。もちろん第一級装備には見劣りするも、決して鈍らなどではない。

 それでも不懐属性(デュランダル)が付与されていない大剣は嫌な音を立てながら形が歪む。

 

「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ(わたし)の罪】」

 

「キュウ!?」

 

 ベルが飛び降り、グリーは慌てたように叫ぶ。追おうとするもベルに視線で来るなと言われ、引き返す。それでもベルを助けられる位置にいる。

 本当にいい子だな、と苦笑しながらグレンデルの踏みつけを避ける。

 

「【神々の喇叭、精霊の竪琴】」

 

 ベルが地面に降りた以上、消化液を使わず直接捕まえようとする女体型。グレンデルが邪魔だと言わんばかりに殴りつけベルに向かって両拳を振り下ろす。

 

「【光の旋律、すなわち罪過の烙印】──っ!」

 

 魔力が暴れそうになる。

 地上で行った、囮の時とは違う。正真正銘必殺の一撃を放つための魔力。制御の難しさが比ではない。

 それでも、耐える。耐えて見せる!

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ──砕け散れ。私は貴方(おまえ)愛して(にくんで)いる】!」

 

「グオオオオオオ!!」

 

 グレンデルの一撃により宙に舞った瓦礫を足場に跳ねて移動していたベルにグレンデルが瓦礫を吹き飛ばしながら迫ってくる。

 大剣で無理矢理そらそうとするも片腕では力もろくに入らず吹き飛ばされる。

 

「〜〜〜っ!! 【代償はここに】」

 

 直ぐにでも弾けそうな魔力を無理やり抑え、周囲の鱗粉が逃げ場がないほど撒き散らされる。

 

「ゴアアアアアア!!」

 

 更に放たれる、グレンデルの火炎。炎がベルを包み込む。

 

「オオオオオオ!!」

「……………」

 

 勝利を確信したように吠えるグレンデル。対して女性型はジッと爆炎を見つめる。炎を突き破り、毛並みが焼き焦げたグリーとその背に乗ったベルが姿を表す。

 

「【罪の証を持って万物(すべて)を滅す】!」

 

 ベルもまた、火傷を負いながらも詠唱を続ける。

 

「アアアアアアアアアア!!」

「ガアアアアアア!!」

 

 己の必殺を回避され苛立ったように吠えるグレンデルと、嬌声をあげる女性型。再び己の技を放とうとして……

 

「──【()け、聖鐘楼】!!」

 

 詠唱が完結した。

 漆黒の怪物。世界に絶望を振りまいた3匹の怪物、海の支配者を討ち滅ぼした魔法が、担い手がこの世を去った最強の魔法が今再びこの世に顕現する。

 

「【ジェノス・アンジェラス】!!」

 

 美しい鐘の音は海の王を滅ぼした滅界の咆哮。本家に劣るそれは、しかし鱗粉も炎も等しく吹き飛ばす。

 女性型が潰れ、魔石は圧壊し灰が飛び散り。より強靭なグレンデルは原型こそ保ったものの、壁に叩きつけられ鱗の殆どが砕けた。

 

「オ、ア………グルアアアアアアア!!」

「っ………ああああ!!」

 

 傷を再生させながら吠えるグレンデルに負けじと叫びながら駆け出すベル。『英雄決意(アルゴノゥト)』の副作用で今すぐ倒れてしまいたい程の虚脱感を無視して、無理やり動く。

 

「【ブロンテー】!!」

 

 巨人の竜は、己の血で歪んだ視界で確かに見た。自らに迫る雷を。喉を膨らませ吐き出した炎。しかし突き破り現れる雷に、拳を振るう。

 雷は森へと落ち轟音を響かせる。

 すぐに追撃するため、全身を回復させようとするグレンデルは、土煙の奥からその声を確かに聞いた。

 

「まだ、だああ!!」

 

 胸に突き刺さる折れた大剣の一部。魔石(しんぞう)には、届いて居ない。最期の抵抗? 否だ、あの()に一切の油断はできない。その死を確認するまで………!

 

「ああああああ!」

 

 土煙から飛び出してきたベルが突き刺さった大剣を蹴りつける。僅かに沈む。

 

「グル、グウウウウウ!!」

「つぅ、あああああ!!」

 

 胸に力を入れ、筋力で押し止め再生能力で押し出そうとしながら片腕を持ち上げるグレンデルに対してベルは大剣に拳を叩き込む。砕けた断面が皮膚を裂き、鉄の高度が骨を砕く。それでも……

 

「もう、一発!」

「────!!」

 

 雷がベルから大剣に移動し、グレンデルの内部を駆け巡る。筋肉はむしろ硬直したがベルは構わず拳を叩き込んだ。

 欠片が体内に沈みベルの腕も傷口に飲み込まれ、グレンデルの筋力に潰される。それでも、グレンデルの体が灰へと還っていく。

 

「………は、ふぅ…………」

 

 重力に従い森に落ちるベル。

 舞い散る灰に混ざり、グレンデルの鱗が近くに落ちた。しばらくしてグリーもやってくる。

 

「クルルル……」

「あはは、無理してごめん。グリーも、よく頑張ったね」

 

 無茶したことに対して、嘴でツンツンつつきながら抗議してくるグリーの顎を撫でやると仕方ないというようにノソリと移動する。

 気配が近づいてくる。これは、モンスターではない。人の、気配………

 

 

 

 

 

「……………」

 

 全身に大きな火傷を負い、所々炭化した女を男はじっと見つめる。

 

「死んだ? なら、誰かメス持ってきて。早速解剖してみよう」

「は? いや、ですが………」

「『研究』完成させたいならさあ、ここに丁度いい被検体があるんだから利用しない手はないでしょ、ほら早くしてよ」

 

 男の言葉に戸惑う部下に面倒くさそうに命ずる。と、女が目を覚まし身体を起こす。

 

「って、なんだ生きてたの」

「………貴様らが保管している魔石を寄越せ」

「起き抜けに命令とか………ま、死なれるよりはマシと思うかな。どうせ灰に変えるんだろうし、持ってきてあげなよ」

「解りました」

 

 そう言って去っていく部下を無視して男はこの場に興味を失ったとでも言うように出ていった。入れ替わるように、別の気配が現れる。

 

「派手にやられたな」

 

 漆黒のローブに、仮面をつけた男か女かもわからぬその人物に女、レヴィスは目を細める。

 

「アリアを見つけた」

「把握している。【ロキ・ファミリア】の剣姫だ………だが、一つわからない。あの男は何者だ、なぜ『彼女』は彼処まで固執した」

「知らんし、どうでもいいことだ。騒がれるのも煩わしい、奴の元に持っていけば大人しく黙るだろう」

「…………………」

 

 

 

 

 

「精霊が好きなもの、ですか?」

 

 これといった特徴のない、印象薄い男は己の神から投げかけられた言葉を反芻する。

 

「ああ、なんだと思う?」

「………それは、やはりエルフなのでは?」

「はは。はずれだ、それは傲慢なエルフ共が勝手に勘違いして広めた間違いだ。精霊がエルフを思うのなら、ラキアがエルフの森を焼いた時点で行動してるだろ?」

 

 だが精霊達は自分達の住処が焼かれるまで行動しなかった。数多の里が、エルフが焼かれようとも。

 

「なら、自然?」

「それもそうだが、そうだな。奴等の存在意義みたいなものだ………」

「…………申し訳ありません。浅識の身では、神の問いかけに答えることなど」

「まあ不正解でもガス吹き掛けたりはしないさ。答えは、英雄だよ」

「ああ、なるほど。確かに彼等彼女等の力となっていますね」

「特に古代の英雄、自らの殻を破った者達は精霊達からすれば垂涎ものだろう」

 

 クック、と笑う主神の神意を図りきれず戸惑う男。一つ言えることがあるとすれば、自分にとって輝かしい英雄は一人だけということだ。

 

「古代の英雄がどれほどのものであれ、今を生きる私には関係のないことでしょう」

「どうかな。お前の英雄も、さぞ精霊にモテると思うぞ。それこそ面倒事になる程度には、な………」

 

 暗い暗い地の底にて、薄暗い闇の中でなおドス黒い気配を纏う神はそう、楽しそうに微笑んだ。




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