そしてもしも“彼”がゴリラだったら

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インフィニット・ストラトス~もしもISの展開方法がゼロワン方式だったら~

 IS学園の第三アリーナ。もはや改めて説明するまでもない、入学初日での一夏とセシリアの口論から始まったクラス代表決定戦の舞台。

 その選手の一人──セシリア・オルコットはISを装備しない生身のまま、優雅にそのアリーナへと歩み出ていた。

 

 改めて説明しておこう。インフィニット・ストラトス、通称IS。世界の軍事情勢を一変させたとまで言われる新兵器であるそれは女性にしか扱えない。それを示すようにこの試合を見に来ているのは女性ばかり、男性は一人としていない。

 そしてセシリアは近未来的なベルトをどこからともなく取り出すと腰に装着、続けて一枚の青色のカードを思わせるデバイス──プログライズキーを取り出し、ボタンを押す。

 

 ──スナイプ!

 

 プログライズキーから流れる音声を聞き、続けてそのベルトにつけられた円形の部分へとプログライズキーをかざす。

 

 ──オーソライズ!

 

 ベルトから音声が流れ、セシリアはオーソライズ(認証)を受けたプログライズキーを静かに展開。まるで鍵のような形になったそれを自らの顔の横に、見せつけるように持っていく。

 

「変身」

 

 そしてその整った唇から優雅に発音、同時にその鍵のような形になったプログライズキーをベルトの横から突き刺した。

 

 ──プログライズ!

 

 再びベルトから音声が流れ、青い光が溢れ出してセシリアを包み込む。

 

 ──ブルー・ティアーズ!

 ──Blue tears aim at an enemy and shower gracefully.

 

 弾けた光の中から姿を現したセシリアはいつの間にか青色を基調としたパワードスーツ──IS、ブルー・ティアーズに身を包み、装着後にベルトから流れてくる英文音声を聞きながら自信満々の笑みを浮かべていた。

 その向かいには彼女と同時にアリーナへと登場した、本来女性しか使えないはずのISを世界で唯一使用できるという少年──織斑一夏が怒っているにも見える形相で彼女を見ている光景があった。

 

「さあ、あなたの番ですわよ? どうぞISを展開なさってください?……出来るものなら、ですが?」

 

 クスクスとセシリアが嘲るように笑い、同時に周りの観客の女子からも一部同様の笑い声が漏れる。

 ISは女性しか扱えない、それは理由こそ不明だがISのデータを内蔵しているプログライズキーとそのデータを読み込んでISを展開するベルトは女性にしか反応せず、しかもプログライズキーはたとえ認証を受けたとしても男性では開くことが出来ないのだ。そしてプログライズキーが開かなければISを展開する事は出来ない。

 

「ああ、やってやるさ!」

 

 そのセシリアからの言葉を受け、一夏は薄い黒色のプログライズキーを取り出すと小指から順番にプログライズキーを握りしめ、そのボタンを押す。

 

 ──パワー!

 

 ここまでは普通の男性でも出来る。しかしここから先、認証(オーソライズ)が男性ではどうしても行えず、プログライズキーを開かせることが出来ないのだ。つまり彼のハッタリが通じるのはここまで、とセシリアはニヤニヤと笑う。

 しかし直後一夏はそのプログライズキーを両手で握りしめた。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「…………は?」

 

 セシリアが思わず呆けたような間の抜けた声を出す。

 それもそうだろう、一夏は男性が使っては決して開くことがないプログライズキーをなんと自力で開こうとしているというのだ。それを理解した彼女は失笑を漏らす。

 

「冗談はおよしになってください? あなたなど足元にも及ばない屈強な男性でもプログライズキーを力ずくで開くことは出来なかったのですよ?」

 

 その言葉通り、女性なら子供でも認証さえ行えば簡単に開けるプログライズキーだが、男性では仮に女性が認証したものを受け取って開こうとしても決して開くことはない。

 それは世界でも有名なボディビルダーや力自慢の格闘家などが挑戦しても全て同じ結果となり、「男性がプログライズキーを開くのは不可能」という事が現在の常識である。

 それを多少鍛えてはいるようだが一般的な男子高校生とそう変わらない体格をしている一夏が覆せるはずがない、とセシリアは彼の無駄なあがきを嘲笑。観客席からのクスクスとした笑い声も大きくなる。

 

「そんな事、誰が決めた!!??」

 

「は?」

 

 しかしそれを一夏は否定、メキメキと音が出そうなほどにプログライズキーを握りしめ、開こうとしながらの言葉にセシリアがまたも呆けた声を出して彼の力強い眼差しを見せる目を見る。

 

「俺がやると言ったらやる……俺が、ルールだああああぁぁぁぁぁっ!!!

 

 一夏の絶叫と共にパキィンと澄んだ音が響く。そしてセシリア始め女性陣は信じられないものを見るような目を彼に、いや、正確には彼の右手に向ける。その右手には鍵のような形になった、即ち男性では決して開くことが出来ないはずのプログライズキーが開いた形になって握られていたのだから。

 

「あ、あり得ませんわ……」

 

 セシリアが口をあんぐりと開けて驚いている間に、一夏はベルトの一部である銃を模した部分にプログライズキーをセット、「オーソライズ」と認証音声が響く。

 

「で、ですが、男では例えプログライズキーをセットしても……ア、ISの展開は出来ない……はず……」

 

 セシリアが再びこの世界の常識である事を口にするも、つい先ほどその常識を文字通り力ずくで粉砕したところを見たせいかその言葉に力はない。

 実際、目の前にいる一夏はそれが可能だと確信しているかのような強い瞳で、銃のような部分を抜き前方のセシリアに向けているのだから。

 

「変身!」

 ──ショットライズ!

 

 叫び声と共に引き金を引いたことでエネルギーの銃弾が前方に飛び、不規則な軌道を描いて一夏の方へと向かっていく。

 

「だぁっ!!!」

 

 その向かってくる弾丸を一夏は気合の掛け声と共に放った裏拳で粉砕、同時にその破片が装甲を展開、一夏を包んでいく。

 

 ──パンチングコング!

 ──Enough power to annihilate a mountain.

 

 その装甲を全身が包んだ姿は、まるで怒りを示すような仮面で顔を隠し、上半身を厚いアーマーで覆ったゴリラのようなものだった。

 自らのISブルー・ティアーズとは根本的に違うようにも見える造形にセシリアはふふっと笑う。

 

「どうやらハッタリだけはお上手なようで……ですが、戦いになればハッタリなど通じません。すぐ化けの皮を剥がしてやりますわ」

 

「来い!」

 

 セシリアの駆るブルー・ティアーズのメイン武装であるレーザーライフル──スターライトMkⅢの照準が一夏の纏うパンチングコングへと向けられるも、一夏は怯む様子もなくガントレット式の大型拳を構えた。

 

 ──BATTLE START!

 

 試合開始を示すブザーが響き、同時にブルー・ティアーズは大きく飛翔。その間もライフルの照準は一瞬たりとも一夏から外さない。

 

「では、お別れですわ!」

 

 叫びと共に放たれる閃光、一夏の右腕を撃ち抜かんばかりの勢いで放たれたそれに対し一夏はパンチングコングの右腕を振るい、レーザーを真正面から打ち砕くようにパンチを振り抜いた。

 

「はあああぁぁぁぁっ!!」

 

 そして遅れて彼も飛翔、というよりも地面を蹴って飛び上がった跳躍にも近い形のそれにセシリアはフンと鼻を鳴らした。

 

「所詮はお猿さん、PICも碌に使えないようですわね」

 

 ライフルで狙いをつけて撃つまでもない、というようにライフルを下ろす。しかし同時にブルー・ティアーズの主要武装──フィン状の自立機動兵器ブルー・ティアーズを展開、四方八方から一夏に照準を向けた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に前面を覆うように両腕を構えて前方からのレーザーは防ぐものの横や後ろからの攻撃はそうはいかず、アーマーでの防御こそ出来たもののそこで失速、地面に墜落気味に着地した。

 

「さあ、踊りなさい! 私とブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 その宣言と共に、彼女の一方的な蹂躙劇が始まるのだった。

 

 

 

 

 

「──二十七分、まさかここまでもつとは思いませんでしたわね」

 

 ブルー・ティアーズを待機場所である背部翼部分に戻して切り出すセシリア。余裕の表れかあるいはエネルギー補給のための時間稼ぎか、しかし恐らく前者だろう。

 時間稼ぎをしたいのならスターライトMkⅢでの射撃でもしてくればいいだろうに、むしろライフルまで下ろしているのは完全に相手が攻撃してくるはずもない、あるいは攻撃しても回避できるという余裕を見せている証拠だ。

 そしてその余裕も当然と言っていいだろう、先程彼女が言った二十七分、ブルー・ティアーズを初見でこの時間まで生き延びた相手がいること自体彼女にとっては初の体験だがそれでも一夏は回避が精一杯で最初の大ジャンプ以降こちらへの攻撃を仕掛けてきていない。

 というよりも、そもそも攻撃を仕掛けるだけの武器がないのだろうとセシリアは予想する。まず最初にレーザーを相殺させた巨大なガントレット、あれが主武器だとすれば間違いなく一夏の機体は接近戦が主体となる。それに──

 

「それにしても、その珍妙な武装はなんなんでしょうね?」

 

 ──一夏の右手に握られた、黒い長方形に青色のラインが入った武装と思われる物体を見ながらセシリアはそう問う。

 

「そう、まるでアタッシュケースのような……ふふ、碌な武装も入っていないとは本当に憐れですわね」

 

 クスクスとまた嘲笑を漏らすセシリアは、同時にブルー・ティアーズのエネルギー補給が完了した事がシステムから報告され、今度はその目を獲物を見つけた狩人のように研ぎ澄ませる。

 

「では、そろそろ終わりにしてあげますわ。お猿さん」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべて彼女は一夏を見下ろし、そう宣言。同時に再びブルー・ティアーズが宙を舞った。

 

 

 

 

 

(来る……)

 

 前方から縦横無尽に向かってくる四機のブルー・ティアーズを見ながら、怒りを模した仮面の下で一夏は歯ぎしりをする。

 セシリアは色々と言ってくるが、それを口にするに値する実力を持ち、その実力に裏打ちされた自信があるからこその言葉なのだろう。

 それほどまでの高い壁が彼の前にそびえ立っている。

 

「だからと言って、俺も諦められないんだよ……」

 

 思い出すのは第二回モンド・グロッソの決勝戦当日。彼はその日、正体不明の謎の組織に誘拐されてしまう。

 それを知った千冬が決勝戦を棄権して一夏の救助に向かった事で彼は無傷で救助されたものの、それは彼に尊敬する姉が自分のために世界最強(ブリュンヒルデ)の座を自ら放棄したという負い目を作ってしまう。

 千冬本人は気にするなと言ってくれていたのだが、それでは彼が彼自身を許せるはずもない。故に彼は助けられた後に身体を鍛え始めたのだ。

 

「今度こそ千冬姉ぇの、俺の大切な人の夢を守るために……俺は、立ちはだかる壁は全てこじ開けていかなきゃならないんだ!!」

 

 無意識にアタッシュケースを握りしめ、先ほどのプログライズキーのようにこじ開けようと引っ張り始める。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「な、なんですの!?」

 

 まるで咆哮のような叫びにセシリアが驚きの声を上げながらしかしブルー・ティアーズによる包囲攻撃を開始する。

 ブルー・ティアーズの四機の攻撃の内三機は牽制、それで動きを封じたところを本命の一機が仕留めるのが基本パターン。しかし素人では牽制と本命を見分けることなど出来ない精密射撃による包囲攻撃が、一夏自身にも着弾しながら彼の立つ周囲の地面に着弾。辺りに煙を舞わせる。

 

(この煙が晴れた時、最後の一斉攻撃とまいりましょう……)

 

 ブルー・ティアーズは円舞曲を踊るようにクルクルと周囲を旋回、煙の中にいるはずの一夏に狙いを定めるように煙へと銃口を向けている。

 しかし次の瞬間、煙の中から何かが飛んできたかと思うとブルー・ティアーズの一機に直撃、その一機を爆散させる。

 

「っ!?」

 

 驚いたセシリアが息を飲むのも束の間、再び煙の中から放たれた何かがさらにもう一機のブルー・ティアーズを爆散させる。そして二発の攻撃の影響によるものか、煙が吹き飛ぶように消えていく。

 その煙の中から姿を現した一夏は見慣れないものを担いでいた。

 

「あれは……ショットガン、ですの?」

 

 ジャキンという音を立てて一夏が構え直したのは黒色を基調に青のラインが入っている、形状としてはショットガンが近いと考えられる武装。しかしセシリアの頭の中にその武装のデータは存在しなかった。

 

 ──Attache case opens to release the incredibly powerful shotgun.

 

「反撃開始だ!」

 

「っ!」

 

 一夏がそのショットガンの銃口を武装ブルー・ティアーズに向けたのに気づいたセシリアが素早く脳内で回避命令を出し、同時に動いた武装ブルー・ティアーズはどうにか一夏が狙いを定めて引き金を引く前にその場を離脱。炸裂したエネルギー弾が先ほどまで武装ブルー・ティアーズが浮かんでいた地点を撃ち抜いていた。

 

「っく……ゆきなさい!」

 

 セシリアが再びブルー・ティアーズに指示を出し、それを受信したブルー・ティアーズが不規則に動き回って攪乱しながら不定期にレーザーを放つ。それを一夏は走って回避しながらショットガンを撃ちまくり、その弾丸が三機目のブルー・ティアーズを破壊。

 セシリアがまさか三機もブルー・ティアーズを破壊されるとは思わなかったのか動きが止まった瞬間、一夏は最後のブルー・ティアーズに飛びかかってそれを足場にするとさらに高く跳躍。その時にショットガンで最後のブルー・ティアーズを破壊しながら一気にセシリア目掛けて飛びかかった。

 

「これで終わりだ!」

 

「甘いですわね!」

 

 一夏の咆哮にセシリアもニヤリと笑って返答、同時に腰の二基の砲口が彼に向けられた。

 

「ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」

 

 叫びと共に放たれるのは追尾型、いやセシリアの意志で動くミサイル。空中ではもはや回避は間に合わない、だがこれを受ければ流石にまずい、それを直感した一夏はベルトの銃に差し込んでいたプログライズキーを衝動的に引き抜くとショットガンのマガジン装填部分へと差し込んだ。

 

 ──Progrise key comfirmed. Ready to utilize.

 

 ──ゴリラアビリティ!

 

 ショットガンの銃口から光が漏れ始める。それほどのエネルギーが集中している事が分かり、一夏もミサイル、そしてその向こうにいるセシリアに銃口を向けた。

 

「どんな壁だろうと、俺にこじ開けられないものはない!!」

 

 ──パンチングカバンショット!!!

 

 引き金を引くと銃口からゴリラの拳を模したようなエネルギー弾が発射される。それは二発のミサイルを粉砕してなお勢いが止まらず突き進み、

 

「そ、そんな──」

 

 目の前の光景が信じられないとばかりに固まり、驚愕に目を見開いているセシリアを飲み込んで爆散した。

 

 ──セシリア・オルコット、エネルギーエンプティ。試合終了。勝者、織斑一夏

 

 試合終了を示すブザーと勝者を示す放送が第三アリーナに響く。観客の女生徒達は大部分がその結果を信じられないのかざわつき出す中、実はパンチングカバンショットをセシリアに当てられるように撃ったはいいもののその反動で地面に強かに叩き付けられていた一夏は「締まらないな……」と心の中で考えながら立ち上がり、ショットガンを肩に担いで静かに退場していった。




 先に言っておきます!一発ネタです!絶対に続きません!!

 ISの展開方法がゼロワン方式っていう設定とその中で一夏が不破さんみたいに力ずくでプログライズキーを開くっていう一発ネタにしかならない設定を思いついたのは良いけど前書きで言った通り、自分ゼロワンは途中で全然見なくなって、Youtubeとかで使えそうな動画をかき集めてどうにか今回書いたんですから!
 そんなもん連載してたら「読者からツッコミが来るかも……」という心配で胃がもちません!正直今回だけでもかなり心配してるんですから!(アタッシュショットガンの使用動画がどうしても見つからなかったのでその辺の動作や必殺技の流れがすごく曖昧)

 というわけで。ホントマジで思いついたからほとんどノリのまま書いたものなので、細かい部分は気にしないでいただきたいです……。
 ちなみに何故バルカンの初期フォームであるウルフではなくゴリラなのかというのは、ウルフの方は射撃主体、ゴリラの方は格闘主体だった覚えがあってそれならゴリラの方が一夏っぽいかなと思ったのが最初。それならセシリアも(厳密には違うけど)ゴリラという外見を皮肉って「お猿さん」とか呼んで一夏を小馬鹿にする風に挑発とかが自然に出来る、そもそも一夏がやってるのゴリライズなんだからゴリラでよくね?という感じのやっぱノリで決定しました。(笑)

 とまあ正直話す事もあまりありませんので、今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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