始末屋キリカ~【推し】に人生を捧げるまでのお話し 作:☆エイラ★
軽く左腕を振るい、生じた風圧で矢雨に穴を開けてから跳躍。上空より戦場全体を俯瞰して武将や指揮官と思しき人間に狙いを定め、地上目掛けて連続突きを繰り出した。
鬼神・
致命傷を避けての精密狙撃。一点に力を集約した風針が敵武将の手足を次々貫いていく。よく見たら裏切り者、ワニバとカスケの姿があった。
「くそ、くそ、何が起こってる」
「やばいよォ。これやばすぎだよォ」
2人は眼前に広がる夥しい数の
「ワニバ! リンズ様を悲しませた元凶。あなただけは殺したいところですが………」
ぐっと堪えてワニバの両手足を念入りに打ち抜いた。カスケの方は元信奉者仲間のよしみで治り易いよう負傷させる。
「ぎゃああああ! 俺は、俺は天狼の海軍指揮を任されたんだ。こんな、こんなところでぇぇええ!!! 誰か、誰か俺を助けろぉぉおおおお」
ごろごろと転げまわり、だみ声を上げるワニバ。
「十辰星、モエギ討ち取った!」
南西方向からアカメの叫び声。
「………」
一時的に呪いを解除して十辰星の1人を倒したアカメと目が合う。
――もう十分です。敵の主力はこっちで何とかしますから。
ナイトレイド時代の
「モエギ様がやられた! いや待て、モエギ隊も全滅してるぞ!?」
「だ、駄目だ。戦える武将が誰もいない。誰か指示を!」
「退却、退却ぅ。応援を要請するんだぁ」
負傷した武将を連れ西南の門から城外へ逃げていく天狼兵達。
「………」
西南の制圧はこんなものだろう。大気を蹴り続け上空に留まったまま再び全体を見渡してみると、東門が破られ敵の大部隊が主城の入り口に押し寄せている。それをヒサメがたった1人で満身創痍になりながら食い止めていた。数十人を同時に相手して片っ端から斬り伏せる獅子奮迅の活躍。直ぐ救援に向かおうとして………私は間に合わない事を悟ってしまう。既にヒサメの背後には死角をついた致命の矢が迫っていた。ここから主城の入り口まで1キロほど。残り0.5秒足らずで矢はヒサメの右胸を貫通する。
――それでも! 今の私なら。
間に合わないのはあくまで通常の物理法則に従った場合の話。
【流源の瞳】
眼球に全神経を集中。完全なる鬼神化とリンズ姫の歌声による強化効果が合わさり、瞳は理外を超えた能力を発揮した。万象、刻の流れさえも視透せる。視えるのならば流れの外に身を置く事ができるはず。
鬼神•綸綸子
私は常理を抜け出し、無音の静止した世界にいた。両軍の兵士達、渡り鳥、遠くに見える海の白波までもが止まっている。原理は不明だが、深く考えず大気を蹴りつけ空駆けで一気に加速。急降下して片膝を着くイサメの側に降り立ち、刺さる直前の矢を掴み取り………そして刻は動き出す。喧騒が戻ると同時に、群がってくる敵兵を風圧で纏めて吹き飛ばした。
「はぁ、はぁ………キリカなのか?」
「まだ動けますか?」
「ああ」
ふらつきながら立ち上がるヒサメ。
「なら、あとは私に任せてリンズ様の元へ」
「この女、何処から現れた?」
敵武将らしい若い弓兵が遮蔽物の向こう側から矢を複数本飛ばしてくる。矢の軌道は変幻自在、まるで意思を持っているかのようだ。死角から私とヒサメ両方を狙っている。
「面白い冥宝ですが………」
――使い手が集中を欠けば誘導効果も無くなるでしょう。
無造作に斬撃を飛ばし遮蔽物ごと弓使いの利き手を攻撃する。
「ミズチ様が、こ、こんな呆気なく?」
右手を落とされ唖然とする弓使いの青年――ミズチ。
「ヒサメ様、西南の方もだいたい片付いてます。敵の忍者がリンズ様に何かしないとも限りません。お早く」
「分かった、頼む」
主城の中へ走っていくヒサメ。
「………」
入れ替わるように悠然とこちらへ向かってくる軍勢。その先頭に凄まじい覇気を纏う鋭い眼光の男がいた。恐ろしくも頼もしさを感じる不思議な魅力を持つ男。王者の風格に普通の人間なら思わず平伏してしまうのだろう。
「利き手を無くすとは未熟なミズチめ」
「殿、お気を付けください。この女、怪しげな技を使います」
「リンズ様の侍女頭、キリカと申します。天狼国の王様ですか?」
「いかにも。天狼国王、ズオウである」
「警告は一度です。大人しく退却して二度と蒼海の地を踏まないでください」
「蒼海は滅ぶ、何故なら余がそう決めたからだ。美しき鬼、キリカ。ここで死なせるには惜しいな。余のモノとなれ、そうすればお前の主人たる王族の命も助けてやろう」
「私の魂はリンズ様に捧げていますのでお断りします」
「そうか、残念だ………
ズオウがその場から動かず腰の刀を振るう。
ぶぉん!
「っ!」
異音がした次の瞬間、私の首元に赤い血の線がグルリと一周滲み出る。斬撃を飛ばした訳ではなく、指定した座標を直接斬りつける類いの能力。
「冥府の鬼共に誇り高く言うが良い。ズオウ直々に討たれる程の女であったとな」
「私、冥府に行くのはもう少し後なんで」
体内の毒薬が効き始めるまで残り三刻ほど。
「なっ!? 確かに首を」
「ええ。見事な一撃でした」
普通の人間であれば間違いなく即死していた。
「何故、死なん!?」
「驚く程の事でもありません。ただ、
完全な鬼神化を果たした私を物理攻撃で倒すのは難しい。
「まさか、伝承の鬼神だとでも!?」
「さあ、どうでしょう? とりあえず警告を無視しましたので酷い目に遭って貰いますね」
鬼神の脚力を用いた縮地にてズオウの背後へ移動。護衛らしき眼帯の武将が位階_
「「「殿ぉぉぉおおおおお!?」」」
上を見上げて叫ぶ天狼軍一同。
「き、貴様ぁ」
「先に一方的な暴力を振るってきたのはそちらです。何をされても文句は言えませんよねぇ?」
そのままジグザグに加速、加速、加速………この男は数々の非道な行いをしてリンズ姫の結婚式を台無しにした。限定衣装を拝めなかった私の恨みは計り知れない。
「ぬぁああああああああああああ!!!」
未知の高度と加速体験に流石のズオウも顔が引き攣っている。やがて、意識を失いぐったりしたところで渚城天守閣の屋根へ着地。発声の為に大きく息を吸い込んだ。
「聞け! ズオウは捉えた。国王の命が惜しくば天狼軍は直ちに国境の外まで兵を引きなさい! 三刻以内に全軍撤退して居なければズオウの手足を一本ずつ引きちぎる!」
私の大音量が渚城内の隅々まで響き渡った。
「殿! 誰か殿をお助けしろ」
「下手に矢を打てば殿にあたるぞ」
「あの女は人間が勝てる相手ではない。撤退だ。全部隊、不知火砦の外まで退却する」
ズオウの身を案じてか大人しく退いていく天狼軍。
「………」
――終わりましたね。
ズオウを持ったまま、天守閣内へ戻る。ヒサメは手当を受け命に別状が無いようで一安心だ。
「キリカ! お帰りなさい」
「リンズ様のお陰で戻って来れました。あとソテツ様にお土産です」
気絶したままのズオウを引き渡す。
「はっはっは、とんでもねぇな奴だなぁ」
「ズオウは殺さないでくださいね」
「どうしてだ? ここまでされて海に沈めるなってのか?」
「ズオウは配下に慕われているようでしたから弔い合戦に来られると面倒です。それに外交に持ち込んで賠償を求めた方が蒼海の為になるかと。諸外国にソテツ様の器量の大きさを示す事もできますし」
「まあ、確かにな。復興資金を分取ろうにも王が居なけりゃ話にならんか」
「そういうことです」
「キリカ、本当にありがとう」
「いいえ。こちらこそ………」
私の残り寿命はあと僅かしかない。
――って、あれ? 正気を失ってないなら死ぬ必要ないんじゃ。
「キリカ、どうしました?」
「リンズ様、所用を思い出しました。一旦失礼します」
私は大慌てで渚城敷地内の仙人宅へ駆け込んだ。
「真っ先にわしを殺しにきたか」
「ち、違います。リンズ様最高! ほら、正気のままです。どうにかならないでしょうか」
「なんと!? げ、解毒剤は間に合わん。腹を割いて取り出すくらいしか方法は………」
「それで良いなら!」
【流源の瞳】で腹部を視て異物を確認。素早く腹を掻っ捌いて腸内へ手を突っ込み丸薬を取り出した。致命傷にならない負傷はそれほど痛みを感じなくなっている。
「思い切った事をするのう」
「ふぅ、首をスパッとされても平気でしたから」
腹部の傷が瞬く間に塞がっていく。
「戦局はどうなった?」
「ズオウを捕らえてソテツ様に引き渡しました。天狼軍は撤退を開始しています」
「ははッ、そうかそうか。やりおったな」
「リンズ様のお力があってこそです。歌声を聴いた時………」
私に起きた出来事を説明する。
「ふぅむ。リンズ姫の歌声には特殊な力があると感じておったが、これは予想できなんだ。キリカよ、今後の事について一つ相談がある。かつての始末屋連盟のような抑止力になる気はないか?」
「抑止力、ですか?」
私は突然の申し出に首を傾げた。
◇
翌日、シズクが砂竜国の援軍を連れて到着したが、既に決着は付いており完全な無駄足。雷火国と交戦中でありながらわざわざ救援に来た砂竜軍を手ぶらで帰す訳にもいかず、逆に蒼海側の武将や兵を派遣する事になり、シズクもその一団に同行する形で蜻蛉返りして行った。
渚城の天守閣ではソテツ王と仙人の前に縛られたズオウが座らされている。そして、私は煌びやかな衣装を着せられソテツ王より上座に鎮座していた。
「こんな形で再びお前に会うとはな、ズオウ」
仙人が懐かしむように目を細めた。
「老いたな、エンジ。かつて天狼を裏切った男が何のようだ?」
「その名で呼ばれたのも久しぶりじゃ。やはり、血に塗れ過ぎたお前に天下は獲れんのう」
「ふん、慈悲が足りぬなどと、説教臭い置手紙を残し出ていったな」
「そうじゃ、因果応報と言えよう。お前は武力と恐怖で支配しようとした結果、より強大な力の逆鱗に触れたのだ」
「その女は一体何者だ?」
「この地を古くから守護する
「神だと?」
「いかにも、我こそは山塊の地にて語り継がれし鬼神である」
仙人との打ち合わせ通り、超越者感を醸し出して話す。仙人――エンジ曰く、私は完全な不老不死の存在。老いず朽ちずとなれば普通の人間として
「ふッ、先日と随分雰囲気が違うではないか」
「へ、平時はただ人の娘に扮しているのでな。天狼の王よ。戦をするな、とは言わぬがそなたの振る舞いは目に余るものがある」
「余は何も間違ってはおらん。勝者は積み上げられた屍の上に立つ者。ただ、貴様のような超常存在に阻まれたのが運の尽きよ………殺すがいい」
「いいや、殺さねえよ。お前にはこの条件を全て飲んでもらう。負けたんだから文句はねぇよな」
ソテツ王が約定の書かれた羊皮紙を取りだした。そこには多額の賠償金と両国間の不可侵条約が細かく記載されている。
「余に生き恥を晒せと言うか!」
「ズオウよ、そなたが死ねば天狼の民はどうなる。自国への慈しみすら持ち合わせておらぬか?」
「エンジ、蒼海の王、そして鬼神! 余を生かしておけばこれからも天下を狙い続けるぞ」
「勝手にやってな」
「正し、あまり非道な行いが目につくようなら、我がまた上空へ招待してやろう。空の旅は大層気に入ったようだしな。股ぐらが温かくなっておったぞ」
お漏らしは多分気絶したせいなのだが、ズオウは顔を真っ赤にしている。
「き、貴様ぁ!」
「忘れるな、我はいつでもお前の行いを視ているぞ」
瞬時にズオウの背後へ移動して圧をかけた。どんな傑物であっても生物としての格の違い、本能的恐怖からは逃れられない。
「ぐぅッ!」
「ほれ、これ以上恥を晒さんうちに血判を押して国へ帰るとよい。そしてよくよく頭を冷やすのだな」
エンジに促され、苦渋の表情で印を押すズオウ。
「………」
これで天狼が蒼海を攻める事は二度と出来ないはず。何故なら正式な約定を守らなかったとなれば天狼の信用は地に落ち、他の同盟関係にも影響が出るからだ。こうして迎えの部隊に引き取られズオウは天狼国へ帰って行った。
更に戦の後始末として元凶のワニバは一族諸共処刑。カスケは情状酌量の余地有りとして国外追放となる。
◇
1ヶ月後。渚城大広にてリンズ姫とヒサメの祝言が盛大に執り行われた。私は鬼の姿のままで皆に受け入れられ変装などせず出席しているのだが、引き続き守護神扱いで上座に祀られている。
――その内慣れるでしょうか。
この結婚式には友好国の重鎮が何人か参加しており、天狼を撃退した鬼神のお披露目も兼ねていた。アカメやシズクの視線が少々恥ずかしいけれど、リンズ姫とヒサメの限定衣装を特等席で鑑賞出来る点だけは素晴らしい。賑やかな宴は夕方まで続き、豪勢な食事をお腹一杯堪能させて貰った。
そして、お開きの後は無事に呪いが解けて帝国へ帰るアカメを見送る為、渚城北門へ足を運んだ。
「まさか、お前が神様になるとはな」
「私自身も未だに驚いてます」
「キリカは当分この地を離れるつもりは無いんだろう?」
「そうですね。ワコクの情勢はまだまだ不安定で油断は出来ません。だから、ナジェンダさんや皆に伝えてください。私は幸せに生きている、と」
「必ず伝える。そのうち落ち着いたら帝国に顔を出してくれ」
「ええ、いつの日か必ず………道中お気をつけて」
「ああ、お別れだ。不死のお前に言うのも変だが、元気でな」
迷いの無い足取りで旅立つアカメ。その後ろ姿が見えなくなるとため息が一つ溢れた。
「とりあえず、普段は守り神じゃなくて侍女に戻れないか相談してみましょう」
私きっと未来永劫リンズ姫の一族を守っていくだろう。つまり、リンズ姫の親族を丸ごと推しにしてしまうと言うことだ。
そんな訳で、今後はヒサメだけでなくソテツ王や綾子様の推しポイントも探してみよう。もちろん、いずれ生まれてくるリンズ姫のお子に対しても………
――誰かの良いところを見つけて好きになる。
一推しの人物を心の糧に生きるとは本来そういう事なのかもしれない。かくして信奉者の頂きに果てはなく、私の【推し活】はこれからもずっと、ずっと続いていく……………………………………★おしまい★
これで本当に終わり、最後まで読んで頂いた方へ深い感謝を!
叶うなら
少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
皆様のご健康とご多幸をお祈りしております。
ではでは、おさらばです!
人物解説
リンズ姫
歌声にバフ効果のあるお姫様。蒼海各地を訪れ歌声を披露しており、熱心な信奉者が多数いる。一度会った人物の顔は忘れない模様。
原作において蒼海敗北後はズオウに花びらを散らされ、ヒサメの生首を見せられて気絶。その後、父であるソテツも殺され天狼に連れ去られた。憎い男、ズオウの夜伽をしつつ、内部から天狼国を崩す決意を固めたところで原作は打ち切りに。
本作で一番救われた人物。
アカメ
呪いが解けて帝国へ帰って行った。原作だと零の登場人物でかつての仲間、ナハシュと戦場で再開。更にナハシュを追って天狼に行き、ポニーとも再開を果たす。今作だとナハシュとの出会い自体がなくなっているが、帝国へ帰ればレオーネも生きており、アカメ視点だと幸せな結末と思われる。