偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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最終話

 フォルテと共に、ダークメシアで空けた大穴から脱出する。WWWのアジトのインターネットは、プロトの討伐に伴い正常化していた。もはや、あの赤い肉の世界はどこにもない。だが、長居は禁物だ。現実世界で、プロトを失ったWWWのアジトは崩壊に向かっている。ここもいつ崩れるか分かったものじゃない。

 

「ふうっ」

 

 ゴスペル化が解ける。先ほどの攻撃で、戦闘使用可能なバグは全て吐き出し、なんなら俺のボディ構築に必要な分まで少々吐き出してしまったくらいだ。

 早いところバグのかけらを補充したいところだが……

 フォルテの方を見る。彼もプロトによって相当なダメージを負っている。とはいえ、さっきあれだけ煽ってしまったことだし、ここで攻撃が飛んできてもなんらおかしくはない。

 戦々恐々としていると、フォルテの方から口を開いた。

 

「何を見ている。あの中から脱出できたんだ、くだらん共闘は終わりだ」

「わ、分かってるよ。それで、その……どうする?」

「どうする、とは?」

「いやー、さっき言ってた、ほら、あの、あれだよ。第四回戦みたいな」

「ああ。ほざいていたな、今の俺に負ける気がしないだの。あの形態が解除された今、同じことが言えるのか……その点は興味深い」

 

 ひ、ひええ。あれは調子に乗ってたのと、オリジナル様に発破かけたかっただけなんですう。

 なんて言い訳をしても無駄だろう。今度こそデリートかなあ。

 と、考えていたにもかかわらず、いつまで経っても攻撃は来ない。

 

「しかし、互いに消耗しきっているのも事実だ。この状態なら俺が勝つだろうが、手痛い反撃が来ないとも限らん。今までの経験上な。……今日のところは見逃してやる」

「……い、いいのか?」

「デリートされたいというならそうしてやろうか?」

「分かった! お言葉に甘えさせてもらう!」

 

 慌ててフォルテの提案を飲む。

 フォルテの言う通り、お互い消耗しているとはいえ、今やり合ったら確実に俺がやられる。今まではセレナードがいたり、ワイリーから呼び出されたから撤退したりとなんだかんだ見逃されてきたが……今回は、明確にフォルテの意思により見逃された。

 どういった心境の変化だろう。これまでの発言から、俺のことを少なからず認めてくれたとは思うが、だからっていきなり改心するとは正直思えない。それを聞く勇気もないわけだが。

 

「精々力を磨いておけ。次会う時は敵同士だ。俺がニンゲンを抹殺しようとする限り、お前は俺に立ち向かってくるのだろう」

「ああ。悪いが、お前がニンゲンを滅ぼそうと言うなら、俺はそれを止めさせてもらう。俺自身のためにも、友人たちのためにも」

「好きにしろ。もはやお前は、ただの俺の模造品ではないのだから」

 

 ……!

 

「フォルテ!」

 

 声を上げる。が、フォルテはマントを翻し、その姿を消した。

 

 後には、俺だけが残った。

 フォルテの劣化コピーではない。フォルスと言う名前の、一人のナビだけが。

 

 

 

 

 

 WWWアジトから脱出する。丁度、熱斗くんたちが飛び乗る船が出ていたので、そのコントロールシステムに侵入させてもらった。船が波に揺られる数時間の間に、ブルース、そして俺が代わりに飲まれたからか、プロトに取り込まれずに済んだらしいロックマンと再会。互いの無事を喜びあった。

 やがて船がビーチストリートの港に到着し、待ち構えていた人々に温かく迎えられた。俺はその様子を、近くのテレビ局の車の電脳から、ドライブレコーダー越しに見ていた。

 

「よし、これで俺もお役御免かな」

 

 あとは、炎山くんがオフィシャルに、熱斗くんがパパづてに科学省に、俺の無害さをアピールしてくれるのを待つばかりだ。

 しかし、あれがパパさんこと光祐一郎氏か。世界でも有数の科学者、ネットワーク研究の権威。めちゃめちゃ凄い人だが、それゆえ事件に巻き込まれやすかったりするお方だ。熱斗くんと朗らかに話す様子は穏やかで、良い父親であることを感じさせ……ん?

 熱斗くんがこっちを指差して、祐一郎氏がこちらへ歩いてくる。

 

「はじめまして、フォルス。君のことは熱斗から聞いているよ」

 

 おお、さすが熱斗くん。俺のこと、事前にお父さんに話してくれていたのか。

 

『はじめまして、光博士。俺が無害なナビだってこと、分かってもらえただろうか』

「ああ。君のおかげで、プロトを倒すことができたと聞いた。君には感謝してもしきれないよ。ありがとう」

 

 こうまで正面からお礼を言われると、少し照れるな。

 

「君はフォルテや、彼を追う科学省やオフィシャルに命を狙われているそうだね。だが、安心してほしい。私の方から、彼らに君の存在を周知しておくよ。WWWの野望を阻止した功労者である、とね。少なくとも、科学省が君を追うことはなくなるだろう。オフィシャルも、炎山くんがきっとなんとかしてくれると思う」

『おお、それはありがたい』

 

 いや、本当にありがたい。フォルテとは次会った時は敵同士だと言われてしまったが、2のラストのように俺を抹殺するためにインターネットを探し回るようなことはするまい。そこに、オフィシャル、科学省からの追跡もないときたら、俺の目的はほぼ完全に達せられたと言って良いだろう。安寧の暮らし。俺が手に入れようとしていたものだ。

 しばし、感慨に浸る俺。これまで、インターネットの世界では生存のための戦いばかりだったが、やっと一息つけるのだろうか。

 

 考える俺に、祐一郎氏は更なる提案をしてきた。

 

「フォルス。もしよければ、君に会わせたい人がいる。君も知っている人間だ」

『俺に?』

 

 一体誰だろう。この世界に生まれ落ちてから、会ったことのあるニンゲンなんて限られている。熱斗くん、炎山くん、コサック博士、ワイリー、そして目の前の祐一郎氏。こんなものではないだろうか。熱斗くんや炎山くんはさっきから船の上でモニター越しに話していたし、コサック博士は病院、ワイリーはプロトの中のはず……

 思考を巡らせる俺の前に現れたのは、少年だった。

 確かに、俺は彼のことを知っている。何せ彼は、俺を造った人物なんだから。

 

『帯広シュン』

「やあ、フォルテ。……いや、すまない。フォルスと名乗っているんだったね」

 

 元ゴスペルの首領。かつて熱斗くんと対峙し、そして倒された少年。今は罪を償うため、WWWの捜査に協力しているって話だったな。

 今やWWWは壊滅した。今後の彼はどのように生きていくのか。ただ、今しばらくの贖罪が続くのは、想像に難くない。どれだけの情報を集められたかは知らないけど、結局WWWを潰したのは熱斗くんたちだ。ゴスペル首領としての罪は、それほど軽くはないだろう。

 

「フォルス。……すまない」

 

 彼は、車のドライブレコーダーに向けて、深々と頭を下げた。

 

『どうして謝るんだ?』

「理由は二つある」

 

 帯広くんは端的に、そう答えた。

 

「まず、君を危険に晒した。僕は君を作り出した。いわば君の……こう言われちゃ不快かもしれないけど、親みたいなものだよ。でも、僕は逮捕され、身動きが取れなくなってしまった。でも、結果僕は、君を無責任に放り出した」

『いや、でもそれは仕方ないだろう。君のしたことは……ゴスペルがしでかしたことは、逮捕されて罪を償って当然のことだ』

「うん。それ自体は間違いじゃない。でも、仕方なくなんてないさ。でも、君はフォルテに命を狙われ、そしてそれをなんとかするためにWWWに戦いを挑んだ」

『俺はそのことを後悔しちゃいないよ。皆んなを救うことにもなったし、悪いことばかりじゃなかったさ』

「ありがとう、フォルス。そして、だからこそもう一度謝りたい。君の行動は賞賛されるべきものだよ。しかし……君を放り出したまま、危険に晒し続けた僕が、その恩恵を受け取るなんて許されることじゃないはずなんだ」

 

 恩恵?

 なんのことだろうか、と首を傾げていると、隣の裕一郎氏が補足してくれる。

 

「帯広くんが作り出した君の活躍を見て、君を生み出した帯広くんに褒賞を与える動きがあってね。彼自身は否定しようとしているが……フォルス、君さえよければ、帯広くんが功績を受け取るのを許してあげてほしい」

『もちろん、そのくらい構わないよ』

 

 俺が自分のためにやったことで、帯広くんまでハッピーになるならそれに越したことはないだろう。

 

「いや、ダメです光博士! WWW壊滅はフォルスの功績です。僕には受け取る資格はない」

 

 固いなあ。

 まあ、ゴスペル首領としての過去を持つ彼だ。自分が自分を許せないんだろう。それに、俺を生み出しただけで、俺がやったことと自分が関係ないのでは、納得できないのかもしれない。

 

『なるほど……なら、一つ条件を付けてもいいかな』

「条件?」

『ああ。帯広くん……いや、シュン。俺のオペレーターになってくれないか?』

 

 二人は顔を見合わせる。

 そんな変なこと言ったかな?

 

『シュンが俺のオペレーターになれば、俺はインターネットで放浪する必要もない。安全なPETで仕事しながら暮らせるし。それに、シュンも俺のオペレーターになれば、功績を受け取るのも自然なことだろ?』

「けど……」

『それに、俺はシュンに生み出されたことに感謝してるんだ。少しでも恩返しがしたい。シュンが嫌でなければ、ぜひ俺を持ちナビにしてほしい』

 

 それでも納得できないなら、まあ、俺が持ちナビになった後でまた同じように功績をあげればいいさ。

 ダメか? と問いかける。

 シュンは……顔を伏せていたが、やがて俺が望んだ通りの答えをくれた。

 

 

 

 シュンの持ちナビとなった俺は、方々を駆けずり回った。

 元ゴスペル首領としての罪を雪ぐため、彼は真面目に仕事をこなしている。

 自分の創造主でもある彼を手伝うことに、なんの忌避感もない。あるいはこれが、一般的なネットナビの感覚なのだろうか。

 そして、俺という強力なナビを得た彼は、現在はWWWが崩壊してから台頭し始めた、ダークチップシンジケートであるネビュラの捜査に駆り出されている。小学生に働かせすぎだろ、と思ったものだが、どうやらシュンは乗り気らしい。

 と言うのも、現在彼は炎山くんの助手のような立場を任されている。功績が認められれば、いずれは炎山くんと同様に小学生にしてオフィシャルの仕事をしたいとのことだ。

 

「僕はあの飛行機事故で……世界初のネット犯罪で両親を亡くした。熱斗くんに会うまで、ずっと不幸だったんだ。だから、世界を恨んで、世界を壊そうとして……けど、それは間違っていたんだって気付いた。熱斗くんたちが気付かせてくれたんだ。だから今度は、僕と同じ境遇の人を作らないためにも、オフィシャルになってネット犯罪を少しでも無くしたいんだ。それが、今の僕の目標だよ」

 

 以前、シュンに償いばかりで辛くはないのか聞いた時の言葉だ。

 こんな気持ちを聞かされたら、余計に力を貸したくなるってもんだ。

 

 さて、シュンや熱斗くんたちは6年生となり、世間もゴスペルやWWWの脅威を忘れかけてきた頃。俺たちに舞い込んできたのは、ネットバトル全国規模の大会であるイーグル&ホークトーナメント。そこにネビュラが現れる可能性があると言う情報だ。

 ……まあ、タレコミしたのは俺なんだけど。ゲームの知識でどこにネビュラが現れるのかは大体知っている。完全自立型ナビであると言う立場を活かして、俺がウラから仕入れてきたって建前で教えてあげたのだ。

 ゲームの知識と、今のネビュラの計画が完全に一致しているかまでは定かではなかったものの、デンサンシティの電気街、シェロ・カスティロの着ぐるみロボと、シェードマンの動向は変わらなかった。今回も多分大丈夫だろう。

 

 シュンは炎山に潜入捜査の必要を直訴し、オフィシャルのコネで大会の参加枠を確保した。そして今、俺たちはテーマパークの城で、ネットバトルの大会に出場していると言うわけだ。フォルテと同じ姿で大会に出て問題はないかと思ったが、一応、俺たちの存在は科学省にも、当然オフィシャルにも周知されているし、許可の下の参加だ。思う存分戦ってやろう。

 一回戦の相手は……バーナーマンか。

 最近はウイルス戦、量産型のナビ戦ばかりだった。カスタマイズされたナビとの戦いは久々だ、腕が鳴る。

 

 司会のマミさんに呼ばれ、シュンと黒いPETに入った俺は、バトルステージに向かう。

 シュンはネットバトルマシンの前で、大きく深呼吸する。大舞台でのネットバトルなんて、初めてだもんな。

 

『ネビュラに近づくための第一歩だ。行くよ、フォルス!』

 

 シュンはそう気合を入れる。だが、俺からして見れば、まだ肩に力が入ってしまっているように見える。

 彼の緊張を解くためにも、俺は安心させるようにこう言った。

 

「分かった。——戦いなら、オレに任せろ」

 

 

 

 




これで「偽フォルテになりまして」は完結となります。
途中、長い期間更新できませんでしたが、それでも最後まで付き合っていただけて、とても嬉しかったです。ありがとうございます。
お気に入り登録、感想、評価は執筆する上で非常に励みになりました。重ねて感謝を。
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