【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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・日本シリーズ2020

 

 

 

2020シーズン。

私が大洗アングラーズへ入団して2年目。既に確固たる抑えとして、そして代打の神様としての立ち位置を確保した私。変則的な投打二刀流として名を馳せる…馳せてると思う。

まぁセ・リーグの盗塁王だし?足の速さは馳せてるかも?

 

元々、大洗アングラーズは鹿島鉄道という…前世で言うところの鹿島臨海鉄道の路線を保有する鉄道会社と大洗町(現在は大洗市)と茨城県を中心に複数の自治体と連携して出資し、新設した第三セクターの運営会社が大洗アングラーズを設置している。

出資比率は鹿島鉄道が50%、大洗市が15%、茨城県が15%、水戸市が5%、ひたちなか市が5%、鉾田市が5%、茨城町が3%、東海村が2%の比率である。そのおかげもあってか、野球ファンの観光客が増え、経済が活性化。周辺自治体を中心に多くの自治体で財務が好調らしい。

ちなみに、経済が活性化した大洗は町から市へ昇格している。

 

さて、そんな話は置いておいて、他の球団に比べ日の浅いこの大洗アングラーズは、球団史上初の日本シリーズへの出場が確定。

立役者とファンの間で…いや、チームの中でさえ囁かれている私と光ちゃん、そして後輩たるユキの3投手。新越谷の投手は化け物か、と球界の関係者たちは戦慄したらしいが、化け物はユキだけで十分です。

 

ユキはカタコトではなくなったし、今季のレギュラーシーズンで1年目とは思えない21登板、20先発、1完投、1完封、12勝、8敗、102投球回、自責点29、防御率1.99………など、新人で最も活躍した。おかしい。絶対化け物はこの子だから。

光ちゃんも今シーズンは26登板26先発12勝をマーク。安定して結果を残している。

 

そんな結果が幸を結んで、リーグ2位でクライマックスシリーズへ。

クライマックスシリーズではファーストステージを2勝1敗で突破、ファーストステージでは最終戦にもつれ込む大激戦を征して日本一への切符を手に入れた。

 

そんな訳で、間接的に株主的な立ち位置である県民・市町村民は大きな盛り上がりを見せた。

球団史上初の日本一をかけた大舞台に、新越谷ピッチャーズも熱い熱気を感じた。

 

 

 

 

日本シリーズは初戦の先発を光ちゃんが務める。8回まで1失点で堪えた。

だが、打線が不発。光ちゃんは自援護に期待がかかったものの2打数1安打1四球で打点は取れず、不発の打線からの援護はなく敗戦した。

 

 

 

2戦目の先発はユキ。

研究されても打たれないナックルの球速は高校時代よりも上がっており、球の揺れも大きくなっている。

両チーム無失点の中、9回の裏、二死二塁の場面で9番ユキの代打で私。

 

ユキは決して打てる投手では無いし、ここで点が入ればサヨナラだし、打てなくても延長は私が引き継げるという場面。私が代打に出るのは必然よね…

ちなみに、今季88試合、96打席、87打数、51安打、28打点、12本塁打、40盗塁、打率.518と、規定打席数には全然足りてないものの、我ながら代打の神様としての自覚が芽生えているわけで…

私が代打で出てくるとホームの球場に歓声が響く。

 

12球粘ってからの13球目。狙い玉のチェンジアップを捉えてレフト線へはじき返す。そのまま打球は大洗のホーム側…三塁側のレフトスタンドに放り込んだ。別に意識した訳では無いけど、ちょっとしたサービス精神は大事よね。

 

2戦目はこうして勝ちを拾った。

 

 

 

1日の移動日を挟んだ3戦目からはビジターゲーム。

私は3番指名打者として4打席3打数2安打1打点2盗塁で勝利に貢献したと同時に、9回の裏では指名打者解除で登板。三者三振で抑えた。

 

 

 

4戦目。

大洗は実は投手力不足が顕著であり、先発ローテに新人のユキが上位に放り込まれているのが何よりの証拠である。

ココ最近は光ちゃんとユキのおかげで先発投手陣に余裕が出来たらしいが、それでもベテラン勢の投手が軒並み不調の中、ローテーション下位に回った4戦目では、相手の福岡ヴァルチャーズを抑えるだけの力は無い。かと言って、育成上手な福岡の育成上がり投手から乱打戦を征するだけの力はなく。

実質的にメンバーを休ませるためのスタメンに、ホームの福岡のファンからブーイングが飛ぶ。

4戦目は福岡で2年目にして4番に定着した希が、6打席4打数4安打3本塁打と暴れ回った。ちなみに2打席は敬遠しているので、実質的には全打席で出塁している。

 

 

 

5戦目。

2勝2敗の中、次に勝ったチームが日本一へ王手をかけるという試合。

大洗は不足している先発投手の谷間を埋めるブルペンデーを決行。

3番指名打者に私、2番レフトに光ちゃんが入るという打線も乱打戦を意識した形。

9回表二死までに何とか13-11と2点のリードを作り上げたものの、代打攻勢でベンチを使い切った。しかもブルペンデーで投手も使い切っており、完全にベンチは空だ。最終回の裏は私が指名打者解除で投げる予定なので良いにしても…

そしてその状況で、最悪なことが起こる。

 

打席に立った第3捕手の膝に痛烈な自打球があり、そのまま病院送りとなってしまった。替えの選手がいないので、珍しい攻撃中の指名打者解除。そして投手が代打に出る。最終的に代打の投手は空振り三振となった。

 

 

さて、そうなると困るのが捕手がいないこと。

白羽の矢が立ったのは私と光ちゃん。私は光ちゃんとならバッテリーの経験がある。今から他の人のサインとか覚えられないし。

それまでの投手がレフトに入り、光ちゃんが登板、私がマスクを被った。

この光景に、大洗ファンのみならず球場が揺れるどよめきが起こった。

高校野球から私たちのファンならいざ知らず、私がマスクを被ったことなんてほとんど知られてない。

 

(久しぶりだけど、サインは昔ので大丈夫?)

(うん、プロ入りしてから複雑なのに変えたけど、昔のも覚えてるよ)

(じゃあ久しぶりにやるわよ)

(うん!)

 

投球練習を終えて、福岡は6番に代打を送ってくる。

 

(インハイのホップ!)

(ギリギリ狙いだよね)

 

ホップは光ちゃんのノビの良いストレートをさらに回転数を増やして上に変化する変化球に昇華させたもの。上に変化するホップで上ギリギリを狙えば、相手が手を出そうが出すまいがカウントを取れる。

 

(次はアウトローのシュートで逃げよう)

(外に逃げてくけどギリギリ入るって感じだよね)

(そう、それが決まれば…)

 

外に逃げるシュートに手を出した代打。打ち損じてファーストゴロに倒れた。

 

7番はそのまま打席に入る。

左打ちなので、まずは様子見。

 

(ホップ。アウトローで外めに外しましょ)

(多分見送ってくるよ?)

(それでいいのよ)

 

選球眼が良いと言われてるこの7番は当然見逃してボール。

 

(インハイのシュート。フロントドアを狙うわ)

(ちょっと怖いかな)

(ならアウトローのバックドアかしら。スライダーは今日キレてるわ)

(それでお願い)

 

私の観察眼が光ちゃんを中心にフィールドを完全に掌握してZONEを発動していて、光ちゃんの私への想いが引き金になっているZONEと共鳴を起こしたみたいにお互いの想いが分かる気がする。

スライダーを引っ掛けてサードゴロ。

 

二死無走で8番に送られた代打。

初球、インハイのフロントドアシュートを見せつけた次にインハイのホップ。

 

(最後、《あの球》使っていい?)

(でもあれは…)

(先発ばっかりだったから、肘痛めないように使ってなかったから。でも、今日は息吹ちゃんに捕って貰えるから…お願い)

(わかったわよ。じゃあ、インハイに()()()()()()()

 

次の日の朝、私のマスク姿と光ちゃんの投球姿の写真と『日本一へあと一勝!婦妻でジャイロボーラー!』という見出しがスポーツ紙の1面に載っており、光ちゃんは大事そうに2部ほどラミネート加工し、2部ほど専用冷蔵庫に保管し、マイクロフィルムを2つほど焼き付けて保存するように業者に委託するほどにはこの記事が嬉しかったらしい。

 

 

 

1日の移動日を挟んで6戦目。ホームゲーム。

中5日でユキが先発。

日本一へ向けて…と言いたいところだったが、希の一発からユキが崩れ、リリーフ陣も総崩れ。17-0という大差で大敗する。

 

 

 

そして最終戦。

この試合に勝った方が日本一。7年ぶりとなる7試合目、ここで光ちゃんが先発。私はサードで先発した。

光ちゃんは6回までを無失点に…希には2安打打たれているが、何とか無失点に抑え、7回から私が登板する。光ちゃんはレフトへ。

私は今季最長の3イニングを投げ、最後の攻撃に移る。

9回の裏、二死満塁で3番私。

私はちらりと一塁の希を見てから、バットをスタンドに向ける。三塁側外野席から大きな盛り上がりが広がった。

スクエアスタンスのいつもの構え。観察眼の拡張でZONEに入る。感じ取った感覚にしたがってその感覚のままに任せてバットを振る。初球打ち、打球はレフト線を切れてファール。

ピッチャーは今のでビビったのか次の球は完全に死に球だ。簡単にスタンドへ押し返しサヨナラ満塁ホームラン。

 

サヨナラ日本一史上初の『サヨナラ本塁打での日本一決定』の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・戦力外通告

 

 

 

2020年秋。

パ・リーグの琉球ドルフィンズに育成契約で準支配下にある私…藤原理沙は憂鬱な気分だった。

今シーズンにトレードされてきた中田奈緒は高校時代の勘を取り戻したように、一軍へ定着。トレードされて行った同じ埼玉県出身の久保田さんも東京ヘッジホッグスの二軍で4番を打っているらしい。

 

それに比べて自分は…

今シーズン、ウェスタン・リーグへの出場は僅かに7試合。9打席1安打。

明らかに起用回数は少ないしそのわずかな出場機会で守備のエラーも1つ起こしている。来年はここにはいないかな…と諦めかけてる。

 

そんな中、光ちゃんや息吹ちゃんたちの大洗が初の日本一に輝いた。

同じチームだったけど、こんなに差が出るのかと愕然とした。彼女たちは完全に新人の頃から一軍で活躍するスーパールーキー。

同じ埼玉のみんなは活躍してるのに、私だけ二軍…いやほぼ三軍の私。しかも三軍でさえ結果を残すのが難しい。もうやぐされても仕方ないわよね。

 

案の定日本シリーズの終了日翌日に戦力外通告を貰った。

私の野球人生終わりかしら…

 

こんな私にも、少ないながらファンの人がついてくれている。その人たちのために、引退試合って意味合いも込めてトライアウトに参加はしましょう。私の今季のこの結果で取ってくれる球団は無いと思うけど…

 

 

私は16球団合同トライアウトに参加。受けられるところは全部受ける勢いで、野手、投手、打者、走者と全てのロールに参加。

 

育成契約からマウンドに登ったことはなかったけど、トレーニングでの投げ込みはしてた。3人の打者相手に、私は2奪三振と凡打1つといい感じに打ち取れた。

打者としては7打席、7打数2安打1本塁打。久々に本塁打を放った。

走者としては流石に怜みたいに足が速いわけじゃないから結果は残せず。

守備ではサードとショートとファーストを守って見せた。今日はエラー無し。堅実に守った。

 

私のファン…本当に僅かな人数だったけど、ネット中継を見てくれたみたい。私が保有するSNSの公式アカウントに本塁打のお祝いメッセージが届いていた。

 

2週間ほどが過ぎた頃、光ちゃんから電話がかかってきた。

 

 

「久しぶりね、光ちゃん」

「うん、トライアウト見たよ。ホームランおめでとう」

「ありがとう。光ちゃんも日本一おめでとう。すっかり大洗のエースね」

「あ、その事なんだけど、大洗って私がエースに起用されるくらい投手層が薄いの。この間のトライアウトを見たうちのスタッフが理沙ちゃんは投手として戦えるんじゃないかって」

「それって…」

「大洗4人目の新越谷出身投手にならないかってこと。条件面は流石に最低限になっちゃうけど、支配下契約でって。とりあえず細かい契約面は今度うちのスタッフが理沙ちゃんの所に行くから。今のうちから荷物の整理しておいてね」

 

 

 

 

 

2021シーズン。

琉球ドルフィンズで育成契約を結んでいた私は、大洗アングラーズで支配下登録。野手専任から投手になって、一軍オープン戦で登板。

メディアの注目が集まったと同時に4人目の新越谷出身投手として、ファンに好意で受け入れられたのは良かったと思う。

このシーズン、私は20試合に登板、18先発、7勝6敗の戦績をまさかの一軍で残した。

ついでに6本塁打を含む81打席34安打も残した。

 

琉球の仲の良いスタッフから、何をしたんだ!?と驚かれたように連絡を貰ったのにクスリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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