書きたいこと書き連ねました。詳しい設定は……(後書き見やり)
「オオオオオオオ!!!」
魂の叫びだった。人間の、その個人を織り成す根幹。自身の"本当に成すべきこと"を成そうとする、否、成すのだと、魂に誓う雄叫びだった。
桃色髪の鬼の首は既に半分まで断たれている。しかし、"師範"の鳩尾には鬼の貫手が突き刺さり、最早生きていることすら奇跡と言える状態であった。
その執念に臆したか……否、師範の背後に昇り始める陽の光に臆したか、鬼は逃げようとする。しかし、師範は決してその体を離さない。全身に力を込め、鬼の貫手を体で掴んでいる。刀を握っていない手は、鬼の左腕を掴んで離さない。鬼にすら拮抗する人間とは思えない筋力。……それは、命を残り僅かとした人間の出せる、決意によるもののようにも見えた。
鬼を殺す。しかし、その叫びの中には、殺意以外の何か、とても尊い何かが秘められているような気がした。
「動け、伊之助! 煉獄さんのためにーーーーー!!」
額に痣のある少年が叫ぶ。師範のために、その思いを無駄にするなと。それに応えた猪頭の少年は、鬼に二刀を振るう。
……嗚呼、しかし、駄目だ。感覚的に分かってしまう。それでもあの鬼の首は断てない。
口惜しい。分かっているのに、体が動かない。師範のためにも動くべきだろうに、動けない。
何故? 否、答えは分かっているであろう。
ーーーーーこの身を焦がすほどの激しい憎悪に、焼き尽くされそうなのだから。
憎悪は滾り、頭は沸騰しそうなほど熱い。されとて、ここでは動けない。今動いても、きっとあの鬼は殺せない。
機を、伺うのだ。あの鬼が最も油断する瞬間。自分の身が、助かったのだと確信する瞬間にこそ……好機は訪れる。
……嗚呼、口惜しい。憎悪はある、師範のためにと動きたい気持ちもある。なのに、なのに……この脳髄は、極めて冷静に、この状況を、師範の決死の行動をどう利用するか、考え巡らせてしまう。
直情的に師範のためにと動いたあの子達が羨ましい。きっと、良い少年達なのだろう。師範も、ああいう子達を継子にすべきだったのだ。
ーーーーー猪頭の少年の攻撃は外れる。
鬼が腕を自壊させ、一目散に陽の光から逃れられる雑木林へと避難する。
痣の少年が刀を投擲する。見事鬼に命中したが、あれしきでは鬼は死なない。
卑怯者と、師範の勝ちだと、痣の少年が慟哭する。そう宣告することで、師範の死に、意味を持たせようとしているのかもしれない。……なんとも、優しい少年だ。
ーーーーーもう、いいだろう。
呼吸を整え……炎のうねりのような音を持ってして、身体機能を爆発的に上昇させる。
常中とは違う、一時的に通常の呼吸よりも飛躍的に身体能力を向上させる、独自の技術。それにより、爆音、土煙とともに、駆ける。
既に視界からは消え失せているが、関係ない。"なんとなく"あの鬼のいる場所は分かる。自身の感覚を頼りに、駆け、跳び……そして、鬼の背を捉えた。
「……炎の呼吸、壱ノ型」
不知火。
自身の最高速度、最大の踏み込みを持って放った袈裟斬りの一閃。
その一閃は、確かに逃げる鬼の背中を切り裂いた。
「なっ…!おま、えぇ……っ!!」
斬られた鬼は反射的に此方を振り向く。
だが、もう遅い。お前は、ここで、
気が付けば、己は地に膝を着いていた。肩で息をし、立とうにも体が言うことを聞かない。
刀を握る手には既に力が入らず、指に掛けているのがやっとの状態。
これが、独自の呼吸法の代償。未熟な己では、この状態を5分と保つことが出来ない。
鬼は、己に目もくれることなく一目散に陽の当たらない、暗闇へと逃げ込んでいく。己など、今無理をして殺すにも、食らうにも能わないと言わんばかりに、ひたすらに陽を恐れ、陽から逃げていく。
ーーーーーふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな。戦え、己と。お前は師範を殺したのだろう。何故、何故己を殺さない。そんなに、陽の光が怖いか。お前の首を斬る、己より、怖いのか。
「…………無念…っ」
師の仇も打てず、敵には敵とも見なされず……そんな、情けなく惨めな己の紡いだ言葉は、なんとも単調なものであった。
◆◇◆◇◆
あれから、1週間が経過した。
師範は、亡くなっていた。
分かりきっていた。あの状態で生きていられる人間など存在しない。故に、己の心は、師範が貫かれた時以上に動きはしない。
痣の少年……竈門炭次郎殿に、師範から送られた手紙は、未だに開封すらしていない。
故人を悼むことは重要だが、それ以上に、鬼を滅することが重要だ。泣き言を言う暇があれば、己は未だに痛む体を推して、刀を振るっていた。
そんな中だった。鬼殺隊の長……産屋敷輝哉殿に呼ばれたのは。
「お館様の御成りでございます」
産屋敷邸にて、居間で座して待っていた己は、その言葉とともに平伏する。
そして、静かに、しかし確かに、その存在感を露に、己を呼びつけた主が己の対面に座す。
「やあ、久し振りだね。顔をよく見せておくれ」
その言葉と共に、己は面を上げる。
「………御元気そうで」
「ああ、今日は体調が良いんだ。天気は、きっと良いのかな」
「………誠に」
口数の少ない己に対しても、お館様は嫌な顔一つせず言葉を紡ぐ。
やがて、暫しの沈黙の後、お館様は口を開く。
「ーーー柱に、なってくれないか」
「………は…」
その言葉に己は、間の抜けた返事しか返すことが出来なかった。
「杏寿郎の遺言だよ。自分が死した時には、次の柱を君に、とね」
「……しかし、己は…」
「実力も実績も備えている、そう私は判断しているよ」
柱に、なる?己が?
師範は、何を持ってして己を次代の柱に任命したのであろうか。無様、生き恥を晒した己を、何故。
「杏寿郎の遺言には、こうとも書いてあったよ。"継子の意思に全て委ねる"とね。だから、どうかゆっくり考えてみてもらっても良いかな」
「………承知…致しました…」
柱に……己が柱になる…。
師範の意図が読めない。己は師範の継子であるから、あり得ない話しでもない。…ない、が、師範は常々、こうとも言っていた。
『君に柱はまだ早いな!』
自覚している。柱達にあって、己に無いもの。それが足りぬからこそ、師範は己を柱にと、直属の後継にと認めなかったのだろう。
気付けば、お館様の話しもろくに聞かず、考えが堂々巡りしている。
それに気づいたお館様は、笑顔を浮かべて、話を切り上げた。
「ゆっくり考えておいで。どんな結論でも、君の出した答えを尊重するよ」……そう、言い残し、席を後にするお館様と、それに伴い、屋敷を後にする、己。
帰りの道中、どのようにして帰ったかはほとんど覚えていない。気が付けば帰宅して、自室にて師範から送られた手紙と向き合っていた。
「……師範…」
手紙に掛けた指が、震える。開封する、たったそれだけのことに、或いは修行並みの精神的労力を用いた。
何故今になって読もうと思ったのか、分からない。分からないが、そうしなければならないと、そう思ったのだ。
ゆっくりと、開封し、文字を目で追う。そこには、師範の最後の言葉が綴られていた。
◆◇◆◇◆
『継子へ
君がこの手紙を読んでいるとき、恐らく俺はもう既にこの世に居ないだろう。
その死因は、きっと鬼に敗れたことが原因であろう。よもやよもや、後輩を残して先に逝くこと、恥ずかしく思う。
しかし、それがもし、君達を守ったが故であるならば、俺は誇らしく思う。母に弱き者を守れと言われ、心に誓ったあの日より、そうして俺は刀を振るってきた。それが成せたのだ、悔いはないだろう。
心残りがあるとすれば、君だ。君は俺が見てきた中でも才能に溢れ、その剣技においては柱となっても遜色はないだろう。
しかし君は、柱にするには、足りないものがある。これは、俺が言っても意味はなく、君自身で気付かなければ行けないことである。そう思い、今まで黙っていた。
だが、君を未熟なまま残し、最後まで育てきれなかった。故に、俺から君に、最期の言葉をここに記そうと思う。
人を守れ。
鬼を殺すために刀を振るうのではなく、人を守るために刀を振るうのだ。
君がその術を見つけ出せば、きっと、君は多くの人を守れるだろう。
俺の継子、
人も守れ、より多く、さらに多く。
後は、任せたぞ。
炎柱 煉獄杏寿郎』
◆◇◆◇◆
一字一句、噛み締めるように、文面に綴られた言葉を飲み込んでいく。
人を守れ。師範が己に送った、最期の言葉。
……嗚呼、なら、果たさねばなるまい。
気付けば、手の震えは止まっていた。そして、胸の内に、使命感にも似た何かが、熱く込み上げてくる。
そうして、気付いた。己は、未だに師範が死んでしまった事実を、受け止められていなかったのだと。故に、手紙も読まず、稽古に明け暮れ、考えないようにしてきたのだ。
師範の死に心が動かなかったのではない。心が、凍り付いていたのだ。しかし、それを溶かしたのも、また師範であった。
『後は任せた』……これほど、心を奮わされた言葉も、そうはないだろう。
あの師範に任されたのだ、なんとしても、果たさねばなるまい。
しかし同時に、今の己には、それは難しい。故に師範にも柱になるのは無理だと言われ続けたのだから。
だが、難しいのなら成せばよい。出来るように、師範が最期にそうしたように。
成せ、成すのだ。難しい、不可能という話ではなく、成さねばならんのだ。
それが例え、死に際の最期に出来たとしても、成すための努力を、惜しんではいけない。
己の歩みが止まるまで?……否。
己の中の煉獄が燃え尽きる、その日まで。
ノリで書き上げちゃいました。
もし煉獄さんに継子がいたらどうなるかなって。
短編なのが作者がチキったからです。要望あれば続き書くよ……(ガクブル
詳しい設定というかバックヤードとかも……つ、続けば…(ビクビク
以下オリ主君
篝火 穂斑(カガリビ ホムラ)
19歳 階級:甲(きのえ)。
性別:男性 身長:170cm
呼吸「炎の呼吸」 刀身の色「緋色」
・口数の少ない系日本男児。
言葉足らずなあの人と意気投合しそうでやっぱり意気投合できない、そんな人。
自身は言葉足らずではないが、人によってはもっとしゃべれや、と思われている。
鬼によって家族を殺された…とかではなく、山を歩いていたら下級の鬼にばったりでくわし、日の出まで逃げていたところ鬼殺隊に保護され、なんやかんやと今の地位にいる、俗に言う天才肌。
某乳柱さんとは顔馴染み。