ヒグマ生誕祭ということで一発ネタ

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今日(ここ書いてる昨日)ヒグマの誕生日だとTwitterで見て知りました。間に合わせるように投稿したので諸々雑です


五十六皇殺しがサイコロステーキ先輩に転生した話

「家族も仲間も強い絆で結ばれていれば、どちらも同じように尊い! 血の繋がりが無ければ薄っぺらだなんて、そんなことはない!!」

 

 俺、竈門炭次郎は小さな姿の、けれど今までで一番強く重い鬼の匂いがする鬼と相対していた。

 

「強い絆で結ばれている者は信頼の匂いがする。だけどお前達からは、恐怖と憎しみと嫌悪の匂いしかしない!」

 

「こんなものを絆とは言わない! 紛い物……偽物だ!!」

 

 先遣隊の応援にと向かったここ那多蜘蛛山で、もうしばらくの時間が経っている。善逸とははぐれたきり、伊之介とはあの「父」と呼ばれている鬼に襲われて吹き飛ばされたままだ。

 助けに行かなくてはならない。この場で闘うのはよくない。

 頭では分かっている、けれど、けれどこの鬼は! 

 

「お前……今何て言ったの?」

 

「何度でも言ってやる。お前の絆は偽物だ!!」

 

 家族を傷つけ、奴隷に対するように躾と口にするこの鬼を許しておけない! 

 

「姉」への躾に構い、こちらへと意識を向けていなかった彼が、無言ながら敵意を向けてきたことを感じる。

 

 

 ────来る

 

 

 

 

「邪魔するぜェ。お、ちょうどいいくらいの鬼がいるじゃねェか」

 

 

(!? 誰だ!?)

 

 そこには鬼殺隊の隊服を纏った、細身で長身の男がいた。金の輪が連なった首飾りとその意匠が縫われている赤の外套を羽織っていて、顔つきは若いが伸びた髭と右目の上の十字傷が老練な気配を漂わせている。

 

「マヌケな顔してやがる。こんなガキの鬼なら余裕でやれるぜ」

 

 しかしその口から出る台詞はお世辞にも彼の危険性を察知している声とは思えなかった。

 

「待ってください! この鬼は」

 

「うるせェ、お前はひっこんでろ。俺は成果を持って帰りたいんだよ」

 

 まずい、この人が何者かは知らないが鬼殺隊の仲間だ。この鬼に不用意に近づいちゃいけない! そう伝えたいのに、聞く耳を持ってもらえない! 

 

「上から支給される金を減らされたくねえからなァ。隊は殆ど全滅状態だがとりあえず俺はそこの鬼一匹倒して下山するぜ」

 

 そう言って日輪刀を構えつつも油断している彼の元へ、視線も向けないまま無造作に鬼が何かを飛ばすのが分かる。くそ! 間に合わない! 

 

 

 

 バ リ ィ ン ! 

 

 

 

 

「……おい貴様」

 

 人体が裂ける音ではない、硬質な音が響く。鬼が飛ばしていたものの正体だった糸は、パラパラと男性の後方へと散らばっていった。その音が予想外だったのは鬼も同じようではじめてそちらに視線を向ける。

 振り下ろした刀を片手に持ち、脱力しながら立つ姿は今まさに命を脅かす攻撃を対処したとは思えない。あの人は、一体……!? 

 

「このおれを誰だと思ってやがる。ナメたマネするんじゃねェ……こんな血鬼術じゃ酔い醒ましにもなりゃしねェぜ。これを見ろ」

 

 階級を示せ、と言った後右手に力を籠める。すると、じわあ、と『甲』の文字が浮かんできた。…………えっ? 

 

「『藤花彫り』っつってな。鬼殺隊の階級はこうやって見れるんだよ」

 

 便利だろ? と言う『甲』の男性。……何それ……

 

「階級が甲。鬼殺隊の階級にして最高位に立つ男ってわけだ。56匹殺したのさ。てめェみたいな生意気な鬼をな」

 

 ! つまり、柱と同等に強いということか……!? この人が! 

 構えをせずに立つ姿からは想像もつかない。けれど俺では見えもしなかった血鬼術を、こうも簡単に破るなんて。 

 

「不愉快だな。小手調べみたいな術を破って、もう勝った気にでもなった?」

 

 ビキビキと音がして、鬼の匂いがどんどん強くなっていく。これは、先ほど戦った「父」の鬼よりも……! 

 糸が赤く染まり展開していくのと同時に、髪が舞い上がり隠されていた鬼の眼に刻まれた数字に気付く。『下伍』! 彼が十二鬼月! この山の鬼の、首魁! 

 

血鬼術 刻死牢(こくしろう)

 

 

「死んでいいよ」

 

 

「誰に向かって口聞いてんだガキ」

 

 

 一瞬だった。鬼が糸を展開したかと思った瞬間、全ての糸をすり抜けるように近付いた彼が、鬼の頭を蹴り飛ばした。

 

「累!」

 

「はっはっはっは! 傑作だな、あんな言葉吐いておきながらこの無様な姿! こういう勘違いしてるガキを見ると可哀想で仕方がないぜ!」

 

 

 頭の方は血煙になり再生が難しくなってしまったから、首から頭を再生しようとしている。そしてそれを見ながら腕や足を痛め付け哄笑している。強い、強すぎる。俺が見た中で最も強い鬼相手に一方的だ。だけど、これは……! 

 

「やめてください! 何をやっているんですか!」

 

「あん?」

 

 痛め付ける手を緩め、俺に向き直る男性。……やっぱりだ。彼からは、鬼殺隊の人達がよく持つ憎しみや悲しみ、決意みたいな匂いがほとんどしない。あるのは、弱者をいたぶる喜びの匂いだけだ! 

 

「貴方ならこの鬼を殺せるはずだ! 不必要に痛め付けることに一体何の意味があるって言うんですか!」

 

「……うるせェなあ。殴っても死なねえ蹴っても死なねえ、こんな動物ストレス発散に使うか、見世物小屋に売り飛ばすかしか使い道が無いだろ? 有効活用してやってるだけじゃねェか」

 

「……っ!!!」

 

 怒りで目の前が真っ赤に染まる。彼は、本心からこの台詞を言っている。こいつ、こいつは……! 

 

 鬼を足蹴にしている彼に向かって駆けていき、拳を振り下ろす。驚いた様子だったが、拳は届かず握られてしまった。

 

「人が楽しく鬼狩りをしてたっていうのに……このおれが何か気に障ることでも言ったかい」

 

「言った! 彼に謝れ!!」

 

「気狂いか? 鬼に何しようがどうでもいいだろうが」

 

 

「鬼だって元は人間だ!!!」

 

 こちらの様子を伺いながら、累と呼ばれていた少年の鬼へと向かおうとしている少女の鬼の姿が見える。恐怖と利益の関係であったとしても、その繋がりが全て消えるわけじゃない。

 

「俺達が鬼を狩らなくちゃいけないのは、殺された人たちの無念を晴らすため、これ以上被害者を出さないため……。勿論俺も容赦なく鬼の頸に刃を振るいます。

 だけど鬼だからと足蹴にはしない。ましてや己の欲望を満たすための存在となんて見ない! 

 鬼は人間だったんだから。俺と同じ人間だったんだから」

 

 腕を掴まれ、至近距離になりながら目を見て言葉を紡ぐ。……ダメだ。俺の言葉は、この人には届いてない。

 

 

「はっはっはっはっは! 情けねェ、とんだ腰ヌケ隊士だ! 人のために鬼を狩る? 鬼が元人間だから足蹴にしねェ? 笑わせんな! 戦いなんてのは、徹頭徹尾自分のためだ! もう鬼になった奴とは殺すか、殺されるかよ! ……テメェみたいなカッコだけの奴を見てるとムカムカしてくんだ」

 

 そう言って、俺の首筋に刀を突き付けて睨んでくる。目は逸らさない。俺は、間違っていない! 

 

 

 

血鬼術 刻死輪転(こくしりんてん)

 

 

「!?」

 

 この血鬼術は!? まずい、もう頭部が再生したのか! 攻撃の速度が今までの血鬼術とは比べ物にならない速さ、このままだと二人まとめて────

 

 

山の呼吸 壱ノ型

 

地核鳴動(ちかくめいどう)

 

 

 

ド ン !

 

 

 踏み込む音が聞こえたと思うと、俺に突き付けられていた刀は消え、少年の首が皮一枚だけ残して切断されていた。

 

「ガ、ア、ア……!」

 

「累!! あ、ああああああああああああ!!」

 

血鬼術 溶解の繭

 

「見てるだけなら見逃してやっても良かったものを……不愉快極まりねェぞメスガキが!!」

 

山の呼吸 弐ノ型

 

嶽嶺隆々(がれいりゅうりゅう)

 

 血鬼術が使われたものの、容易く懐へと入った男性によって脇腹から頸まで掬い上げるような斬擊が放たれ、少女の鬼の頚は空高くまで飛んだ。

 

 墜ちてくる頭部を呆然と眺める。少年の鬼も同じように、悲痛な少女の顔を見つめていたが……最期に彼女は、少年の方を見て、うっすらとした泣き笑いを浮かべて、消えていった。

 

 

「……あ。ねえ、さん」

 

 

 ──見えた。隙の糸。

 

 

水の呼吸 伍ノ型

 

干天の慈雨

 

 

 抵抗を感じず、滑らかに刀は残った皮を切り裂き──鬼の身体は、消滅した。

 

 

 

 ─────

 

 

 

 

「っつうことだ。新しい下弦の伍へのトドメは、あの鬼連れのクソガキが刺したってことだなァ」

 

「ありがとう。緋熊には苦労をかけさせたね、お疲れ様」

 

「金さえ貰えるならどうでもいいぜ」

 

 おれの雇い主の家、産屋敷家に来たおれは今回の任務の大体を話していた。

 

「今回殺した鬼は雑魚鬼一匹。だが鬼を連れた鬼狩りっつう情報を話したからよ、今回の依頼の評価はいかほどだ?」

 

「うん? 話の限りだと、ほぼ下弦の伍を倒したのは君という話じゃなかったかな?」

 

「はん、鬼だろうが賞金首だろうが最後にトドメ刺したヤツが総取り、当たり前のことだ。そんなハイエナみてェなマネするつもりはない」

 

「そうかい」

 

 ふ、と笑う雇い主。「赤髪」との秘密会談の後、俺は何の因果か別の世界に生まれ変わり迷いこんでいた。暴力が支配してねェ、生きづれェ世界だと思っていたが、鬼殺隊の存在を知れたのは幸運だった! 無尽蔵に湧き出る鬼を狩ってれば大量に金が貰える! こんな楽なことはねェ、ウザったい海軍や海賊なんかもいないこの世界を俺はそれなりに気に入っている。自分の顔が優男になってるのは未だに気になるがな。

 特に雇い主がいい。「前」の雇い主の海軍本部は頭が固いなんてもんじゃなかったが、なにかと便宜を図ってくれるし金払いもいい。それに殺すのが咎められないってのも最高だ。

 

「そうだね、残念ながらすでに水柱の義勇、育手の鱗滝から炭次郎のことは聞いているから。残念ながら今回の緋熊の功績は鬼一匹ということになってしまうかな」

 

「ちっ、あの無愛想野郎が」

 

「そして今度それについて柱合会議を開くんだ。君の希望で柱にはしてないけれど、今回に関しては完全に当事者だから。参加してくれるね?」

 

「…………な、なんだと?」

 

 

 今回の世界の最悪なところ。おれと同じくらいには強い『柱』の連中と、全く馬が合わねェところ。だからなるべく柱の奴らと関わらねェようにしてたのに……よりにもよって柱合会議に参加だァ? 

 

「頼む。今、大きく運命が動き始めてるんだ。『五十六月殺し』の山上緋熊、君がこの世界に現れてから変わった世界が、炭次郎や柱と合わさって大きなうねりへと変わっている。今回の柱合会議は、その分水嶺だと思うんだ」

 

「……ちっ。てめェの見聞色の覇気じみた勘は認めてるけどよ」

 

「それに、参加してくれるなら報酬を減らさず、酒樽を十送ってあげよう」

 

「なに、それは太っ腹だな! やってやるよ! はっはっはっはっは!」

 

 

 おれの声が産屋敷中に響く。この世界にも酒はあり、そして産屋敷が持ってくる酒なら出来はいいのは間違いねェ! 後でめんどくさいことになるのは確かだが、金も酒も貰えるなら断る理由はなくなるぜ! 

 

「そうかい、受けてもらえて嬉しいよ。では、行こうか」

 

「あん? どこに行くってんだ」

 

「柱会会議さ」

 

 

 そう言ってドアを滑らせると、柱の連中が産屋敷の後ろ、つまるところおれを睨みながら並んで立っている。そして中央の御座には、鬼を連れてるおれに歯向かってきたクソガキ。

 

 はーはっはっはっは! なんだこの状況は、おれは嵌められたな! ちくしょうが。


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