HELLSINGの世界に転生したモブがアーカードに挑む物語。
これはただのモブが主人公に足掻く物語。
無意味で、無駄な足掻きをした人間の一幕。

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初投稿です。
こんな展開見てみたいなと思い、ハーメルン探し回ったけど無かったので書きました。

しばらくしたら消します。

追記

大勢の人に私が書いた小説を読んでいただけて本当にありがとうございました。
本当は来年になる頃にはこの小説を消すつもりでしたが多くの人が「残してほしい」「消さないで」などの感想をもらいましたので消さない事にしました。
私がこの小説を消そうとしたのは単純に私の書いた小説をネットに晒すのが恥ずかしくて消そうとしていたのですが、多くの人の感想を貰う内に考えが変わったので「残す」という結論に至りました。
拙い文章に誤字や間違いも多く、誤字報告をして下さった方々には感謝の気持ちしかありません。
私はようやく岸辺露伴の「読んでもらう」為に行動する彼の気持ちを理解出来た様な気がします。
この小説が残ったのは皆様の『意志』のおかげです。
ド素人な私の書いた小説ですが、どうかまた読んで下さると光栄です。

またまた追記
ちょっと太字を使ってみました。
単純に使いたかっただけなので「元に戻してほしい」という意見があれば戻します。
気軽に読んでもらえれば幸いです。

最後の追記
サブタイトルを追加しました。
内容は変えて無いのでご安心を。


モブが主人公に抗ってみた
『お巡りさん』の場合


転生というのは、オタクの夢の一つだ。

だが、転生といっても望んだ所に転生出来る訳ではない。

宝くじと同じだ。

転生した場所が例え憧れた創作の世界でも、人間に優しくない作品が多く存在している。

 

その中でも一般人に優しくない作品の一つである『HELLSING』に俺は転生してしまった。

 

 

前世と同じく物心がつく頃には日本で生まれ育ち、中学の卒業と同時に親の都合でブラジルに行く事となり以来、俺はその後は高校・大学以降をブラジルのリオデジャネイロで過ごす事となった。

そこで俺は前世から憧れていた警察官に就職した。

前世では普通の農家として生を終えたので、犯罪者を逮捕する正義の味方みたいな職業に子供の頃から憧れていた。

前世では憧れで終わったが、今世では肉体のスペックが高かったのか、それとも今世では地道に勉強を続けて、その努力をそれなりに重ねていた事が実ったのかアッサリと警察官になれた。

 

それからは大変だったが幸せな日々だった。

成績や能力を認められて警察の特殊部隊に所属出来た。

訓練や実践も大変だったが、そこで出会った人達が割といい人達だったのであまり苦ではなかった。

嫌味を言い合える同僚、趣味の合う後輩、堅物な上司。

そんな前世では恵まれなかった人間関係だったが今世では恵まれた人間関係を築く事が出来た。

恋人はいなかったけど俺にとってはそんな日々が十分満ち足りていた。

幸せだと心から感じていた。

 

だがそんな幸せも突然崩れ去った。

 

上層部がホテルの最上階のスイートルームに凶悪なテロリスト2名がいるという情報を入手したとの事で、まずは精鋭部隊の先遣隊が突入した。

先遣隊が突入してしばらくして連絡が途絶えた事で再突入部隊である俺の所属しているチームが続いてホテルに突入し、スイートルームの部屋の扉の前で、俺はチームの皆と共に待機していた。

 

そこに1人の男が扉を開けて姿を現した。

その男は、黒い長髪に赤いコートを身に包んだ男だった。その両手には黒と銀の拳銃が握られていた。

あまりにも堂々としていたのでその場にいた誰もが呆気に取られていた。

同時に畏怖した。

この場にいた人間の誰もが『コイツは人間じゃない』と本能で理解出来た。

初めて遭遇する圧倒的な存在感の異形に俺達はただただ圧倒された。

 

そして誰よりも早く正気に戻った部隊長が堰を切ったかの様に発砲する。

 

 

 

その銃声を聞いた俺達はすぐに支給された銃で目の前の化物に乱射する。

数秒、数十秒と銃弾をブッ放すが、ちっとも手応えが無い。安心出来ない。いっそのこと核兵器でも投下したい気持ちだった。

例え核兵器をその身に受けてもこの化物にはちっとも効かないだろうという諦観も同時に湧いた。

その諦観は確信に変わる。

化物が俺達に向けて黒と銀の拳銃を乱射する。

射撃の基礎をガン無視した曲打ちだったが、銃の反動を物ともしない撃ち方で隊を蹂躙する。

その拳銃から放たれた銃弾ははっきり言って異常な威力だった。

拳銃が放つ威力ではない。まるで戦車砲の如き威力の銃弾をあの化け物は水鉄砲でも撃つかの様に乱射している。

当たれば身体の大部分を文字通り削られる。

ミンチだ。

あの銃に撃たれれば人間の体が入念に調理された様な肉塊となってしまう。

俺達はその嵐の様な圧倒的な暴力に蹂躙されるしかなかった。

 

憧れた隊長が死んだ、気の合う同僚が死んだ、世話になった先輩が死んだ、世話を焼いた後輩が死んだ。

どれも悲しい事だが、色んな事が一気に起き過ぎて受け止めきれない。

完全にキャパオーバーだ。

 

俺はどうやらあの黒い銃から放たれた銃弾の衝撃に吹き飛ばされるだけで済んだが、その衝撃波は頭を震わせて脳をシェイクされた様な感覚に襲われた。

助かったらしいが、ショック死しなかったのが奇跡だった。

 

だがそれが何になる。

目の前の化物にとっては些末な物だ。

 

同時に目の前の光景を観て、初めて俺はこの世界が前世で見た漫画作品の一つ『HELLSING』だと理解する。

 

(……ああ…ハズレを引いたな)

 

目の前の光景とこれから訪れる自分の終わりに俺は諦観する。

だが意外にも化け物は俺の存在に気付かずに仲間達の血を吸いながらエレベーターに逃げていった隊員達を追って行った。

 

これは千載一遇のチャンスだ。

このまま死んだフリを続ければ生き残れる。

 

「走れぇ!!走れぇ!!」

 

「化物だ⁉︎化物だ!!畜生⁉︎」

 

「本部!本部⁉︎化物だ!化物がいるぞ!」

 

どうにか生き残った他の隊員の声が聞こえる。

だが時間の問題だ。

あの化物はすぐに追いつくだろう。

人間の血を吸いながら化物は悠々と逃げた獲物を追っていく。

俺はその光景を観ている事しか出来ない臆病者だ。

どうしろって言うんだ。

あんな化物に敵う筈がない。

腰にある趣味で買ったリボルバーが頼りない玩具にしか見えなくなるほどの規格外の存在を前に、俺は一体どうすれば良いのか。

 

「早く‼︎はやくぅ‼︎‼︎」

 

エレベーターでこの場を逃げようとする隊員達を化物がどんどん追い詰めていく。

このままでは全滅だ。

だが俺にどうしろと言うんだ。あんな化物に勝てる訳ない。

そんな恐怖に支配される中でふと隊員達の死体が目に入った。

死体を見て彼らと過ごした日々が去来した。

 

隊長の死体を見る。

 

『お前、漫画とアニメが好きなのか。だったら俺の娘と気が合うかもしれん。仲良くしてやってくれ』

 

隊長には歓迎と言って自分の娘を紹介してくれた。同期と一緒に口説きに行ったら隊長にボコボコにされたのはいい思い出だ。

 

先輩の死体を見る。

 

『お前、まだリボルバー使ってんのか?オートマにしとけって』

 

先輩には俺がリボルバーを使っている事にケチをつけられたが、それは俺を心配しての事だとすぐに分かった。

その後にリボルバーの利点とオートマチックの欠点について熱弁したら先輩と口論になって、周りの隊員にも飛び火してリボルバー派とオートマチック派に分かれて大口論に発展した結果、隊長に怒られた。

 

同期の友人の死体を見る。

 

『アニメが好きなのか⁉︎俺もなんだよ!お前は何の作品が好きなんだ?』

 

趣味を同じくする同志を見つけて友人になった。同期という事もあり初めて気の置けない友人が出来た。

一緒にアニメと漫画を見るのが楽しかった。

彼の入れる紅茶が美味しかった。

俺が入れたコーヒーを美味しいと言ってもらえて嬉しかった。

 

後輩の死体を見る。

 

『自分、好きな人がいるんです 』

 

後輩の世話を焼いている内に恋愛相談を受けた事があった。

その好きな人がよりによって隊長の娘だったので、ゴールインするまでが本当に大変だった事を覚えている。

その為に娘の好きなアニメや漫画を見せて最終的に彼も立派なオタクになったが、趣味の合う夫婦となって楽しそうにしているのを見て、嬉しかったのを覚えている。

 

ああ....今世はとても幸せだ。

彼らのおかげで幸せを享受できた。

 

記憶が走馬灯の様に駆け巡る。

今世から前世までの記憶を一気に振り返る。

もうすでに周りの時が止まっている様な感覚に襲われながら、俺は自分の記憶を振り返る。

そこで俺は自分の原点を思い出した。

原点と言っても大した物じゃない。

ただ警察官に憧れたキッカケを思い出した。

 

そのキッカケは漫画だ。

漫画のとあるシーンを見たからだ。

その漫画は『ジョジョの奇妙な冒険』。

人間賛歌をテーマとした漫画だ。

部によって主人公も違うがどれも魅力溢れるキャラクターで構成された物語に惹きつけられた。

思い出したのはその漫画の名場面だ。

警官のモブキャラが主要人物の1人に『真実に向かおうとする意志』の大事さを説いた場面だ。

俺はその時の警官のセリフが印象的で警官に憧れた。

ただ憧れた。それだけだ。

結局の所、前世で俺は警察官にはなれなかったが、その時のセリフがキッカケで辛い時にあの警官のセリフを思い出すと仕事を頑張ろうと思う様にもなった。そのおかげでそれなりに満足な人生を送れた。

そして今世では『憧れ』を原動力に努力して警察官になれた。

なんだかんだで俺の中に残っていた『意志』は生き続けていた。

 

走馬灯の記憶が、あの警官の台詞が、俺の中の恐怖を消してくれた。

 

そして、改めて目の前の化物を見る。

目の前の化物が主人公だろうと知った事か。

もう俺はその漫画のタイトルは思い出せても内容は殆ど忘れてしまった。

だから、別に俺はこの化物に抗ってもいい筈だ。

何故なら今の俺はこの世界に生きる『人間』だから。

許せない。隊長を、先輩を、友人を、後輩を殺した化物を俺は許せない。

彼らが死んだ事で悲しむ遺族の事を思うと怒りが込み上げて来る。

許せない。許せない。許せるものか。

 

幸いにも怒りをぶつけるべき相手は目の前にいる。

 

死ぬだろう。

確実に死ぬだろう。

それでも、それでもだ。

俺の中の『意志』が化物を倒せと叫んでいる。

 

 

ドォン!

 

 

気が付いたら俺はエレベーターに向かう化け物に背後からリボルバーで発砲していた。

 

「………ほう」

 

銃弾を頭に喰らいながら振り返る化物は、発砲した俺を見て少し感心した様子だった。

俺は最早意味がなくなったヘルメットとマスクを外して化物と向き合う。

 

「いい加減にしろよ。化物が」

 

悪態をついて俺はリボルバーの残弾を一発だけ残して発砲する。

弾の向かう先は、両手と両足だ。

頭が妙に冴えている。

生死の境を彷徨っている影響か、五感が鈍く痛みも感じない。

だがその分、第六感とも呼ぶべき感覚が研ぎ澄まれている。

未来予知とも呼べる直感が相手の行動が手に取る様に分かる。

 

化物は四肢を撃たれても構わず黒の拳銃を構えて発砲しようとしている。

俺はそれを感じて、あえて化物の懐に飛び込む。

全速力で化物の懐に飛び込み、リボルバーに残った一発を化物の心臓に向けて発砲する。

 

ズドォン‼︎

 

心臓に銃弾を受けてよろける化物。

どうにか怯ませる事には成功した。

俺はすぐさまエレベーターの隊員に怒鳴りつける。

 

「そのまま逃げろ‼︎」

 

「え、でも...」

 

「死にてえのか⁉︎逃げろ‼︎」

 

躊躇している隊員の1人に怒鳴りつける。

そしてその間に倒れた化物が動きだす。

何事もなかった様に立ち上がる化物だが、俺はその立ち上がる間にリボルバーのリロードを行う。

 

「なるほど、犬ばかりではない様だ」

 

「ひっ、ヒィぃー⁉︎」

 

動き出した化物を見て躊躇していた隊員は悲鳴をあげてエレベーターボタンを押して、乗り継いでいた他の隊員と共に逃げる事に成功した。

エレベーターが動いた事を察した俺は再装填したリボルバーを構えて再び化物に向き合う。

少しでも時間を稼ぐ為に俺は化物に話しかける。

 

「殺し過ぎだ、加減くらいしてくれよ」

 

そう吐き捨てる俺を見て、化物は嬉しそうに応える。

 

「それは出来ない、何故なら私は化物だからだ。化物は加減を知らんのだ」

 

笑顔を浮かべながら殺意を滲ませる化物に俺は嘆息する。

 

「じゃあ、せめて動かないでくれよ」

 

そう言って愛用のリボルバーを発砲する。

狙うは化物の脳天だ。

それを化物は放たれた一発の銃弾を片手で掴んで止めた。

 

「それも出来ない。私にもやる事があるのでね」

 

そう言った化物は、銀の拳銃を発砲する。

 

それを直感で感じた俺は、銀の拳銃から放たれた銃弾に向けて残りの弾を発砲する。

リボルバーから放たれた5発の銃弾は、正確に相手の銃弾に当たる。

当たった銃弾は逸らす事に成功する。

次を撃たれる前に俺は化物に全速力で突進を仕掛ける。

それを迎撃する為に化物は黒い銃を構える。

それを直感していた俺は利き手じゃない右手で黒い銃の銃口を殴りつけて逸らす。

 

ズガァァン!

 

黒い銃から放たれた銃弾は俺の右腕を粉砕しその衝撃が俺の身体を吹き飛ばす。

回転しながら吹き飛ぶ俺は、そのまま残った左手で切り札としてとっておいた銃を抜く。

 

『S&W M500』 趣味で購入してからというものの一向に活躍する場が無くて半ば飾りと化していた銃だが、今この場において俺の使える武器でコレ以上の威力のある武器は無い。

だから、反動で腕が砕けようともこの武器を使う事に躊躇は無い。

そのまま空中で銃を引き抜き銃口を化物に向ける。

渾身の力でトリガーを引く。

狙いは化物の心臓だ。

 

ズドォン!!!

 

放たれた銃弾は化物の心臓に当たる。

銃弾の衝撃で化物を後ろに吹き飛ばす。

同時に空中の俺は反動でそのまま吹き飛び、壁に叩きつけられる。

凄まじい激痛が襲う。

痛い、痛い、痛い。

それがどうした。

痛みよりも怖い物が目の前にいるんだ。

右手が欠損したがそれがなんだ。まだ右肘が少しだけ残っているからまだ戦える。

身体の一部よりも大切な人達を失ったんだ。今更、手の一つや二つなど些末な問題だ。

致死量の血液が右腕の欠損部から流れているが知ったことか。

残った左手と両足が恐怖と痛みに悲鳴をあげているが、喝を入れて無理矢理動かす。

まだだ、まだだ。

まだ俺の足はまだ動く。まだ俺の手は残っている。まだ俺の心臓は動いている。

まだ、まだ、まだ、まだ。

俺の『意志』は生きている。

 

 

(まだ、この人間は魅せてくれるのか)

 

アーカードは歓喜していた。

本来ならば逃げるばかりの犬の様な輩を相手にしていたのに突然、勇者の様に自分に挑んできた1人の人間の抵抗にアーカードは歓喜していた。

心臓を正確に狙い撃ち、自分の命を二回も削った人間に心からの敬意を抱く。

だが悲しい事に数百万という膨大な命を所有しているアーカードには雀の涙程度の影響しか残せていない。

だがそれでもアーカードは彼に敬意と羨望を抱く。

かつてアーカードが見た人間の底力を感じさせる目の前の警官は、正にアーカードの抱く理想そのものだった。

絶望的な状況下で尚も諦めずに抗い、策を巡らし化物に立ち向かうべく立ちあがろうとしている。

その姿にアーカードは歓喜と感動と羨望が入り混じる様な奇妙な感覚に襲われた。

 

そして、突然目の前の警官の周囲に大量の血が、近づいている事に気がついた。

 

普通ならばただの血と思うが、今回は違った。

何故ならその血からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アーカードは目の前の光景に既視感があった。

それはアーカードが、真祖の吸血鬼になった時と全く同じだった。

目の前の警官はアーカードと同じく吸血鬼へと成れる可能性を秘めていた事をアーカードは察した。

 

(()()だ………)

 

対峙している警官にかつての自分を重ねて嘆息する。

アーカードもまた、警官と同じく強大な敵に最後まで抗っていた。

祈る様に闘争を続けた結果、死ぬ寸前に『魔物』の声を聞いた。

最後はあの魔物の『誘惑』に乗って吸血鬼となった。

人間でいる事に耐えられなかったのだ。

人間は弱い。

すぐに壊れる。例え強靭に鍛えたとしても化物には遠く及ばない。

そんな存在にアーカードは耐えられなかった。

目の前の警官はどうだろうか。

自分と同じく人間をやめるだろうか。

アーカードとしては別にそれでも構わない。何故ならアーカードは『化物』だからだ。

化物ならば化物らしく、力の限り闘争を尽くすのも悪くない。

 

そんな事を考えている内に、警官は答えを示した。

 

「うるせえぇぇぇぇー‼︎」

 

警官は拒んだ。

周囲の血が弾け飛ぶ。

警官にのみ聞こえる魔物の声を喧しいと切り捨てる。

 

「何が吸血鬼だ⁉︎何が超越者だ⁉︎吸血鬼としてあの化物と戦えだあ?偉そうに指図してんじゃねぇぞ‼︎」

 

「化物になったらアイツ等が戻って来るのか⁉︎またアイツ等とコーヒーが飲めんのか⁉︎またアイツ等とバカ話を続けられんのか⁉︎」

 

「ふざけんな!一つになったら意味ねぇだろ!そんな血を啜る事でしか飢えを凌げない様な弱い存在になってたまるか!」

 

「他人に存在そのものを依存する様な弱い奴になった所で、あの化物をぶっ倒せるか!弱体化してんじゃねぇか!」

 

「消え失せろ!戦いの邪魔だ‼︎」

 

警官の宣告に魔物達は消滅した。

アーカードは瞠目する。

警官の言い分はもっともだ。

吸血鬼という存在はこの世のどんな生物よりも他者に依存した存在だ。

吸血鬼は幾ら強靭な肉体と多くの能力を持っていようともそのエネルギーは人間の血だ。

人間の頃と同じく『飢え』には耐えられない。

だから吸血鬼は人間を襲うのだ。

 

そうだ。

吸血鬼とはどんなに強大でも、どんなに使い魔を増やそうと、どんなに在り方を変えようと。

吸血鬼は人間の存在がなければ生きられないのだ。

 

そうだ。

結局の所、広い視野で言えば吸血鬼も人間も大した違いは無い。

何処までも他者に依存している存在だ。

例え振るえば木々を薙ぎ倒す剛腕を持っていても、使い魔を使役する特殊能力を持っていたとしても、他者という存在だけは切り離せない。

言ってしまえば、少ししか変わっていないのだ。

 

そうだ。

人間と吸血鬼には多くの違いがあるが、『誰かがいなければ生きられない』という共通点がある。

そこだけは例え神や悪魔であろうと変えられない。

命とは決して1人では生きられないのだ。

その点では言えば、人間と吸血鬼では、大きな違いがある。

人間は他者を感じる事が出来る。それ故に争いが絶えない愚かな生き物だ。

吸血鬼は他者と融合して一つにしてしまう。

しかも、人間の血を啜らなければ生きていられないので迷惑の幅は段違いだ。

 

だから警官は拒む。

そんな存在に成り果てるなんぞ御免だ。

だから彼は『人間』であり続ける。

『化物』なんかより『人間』の方が遥かにマシだからと確信しているから。

 

「邪魔が入っちまった……さあ第二ラウンドだ…‼︎」

 

絶望的な状況下でありながらも、警官の目は少しも曇っていない。むしろ眼前の敵を滅ぼさんと更に鋭さを増している。

そして警官は、震えながらもその足で直立する。

残った左手は先程のリボルバーを拾いあげて、目の前の化物に向けて構える。

拙い動きで隙だらけだ。

こんな死にぞこないが辿る結末などたかが知れている。

だけど、それでも、だからこそ。

警官は抗う為に立ち上がる。

仲間を殺した化物を討つ為に。

生き残ってくれた仲間を守る為に。

そして、かつて憧れたモブキャラの警官の様に化物を倒すという真実に向かう為に。

警官は意志を燃やして化物に立ち向かう。

 

警官の何処までも人間の理想を体現して見せた姿にアーカードは歓喜する。

 

「素晴らしい…それでこそだ!さっきは犬と思って悪かった」

 

「お前は人間だ…意志を持った確固たる人間だとも‼︎」

 

「私を倒して見せろ!この私にその意志を魅せてみろォ!」

 

心から敬意を抱くからこそ、目の前の人間に心から憧れたからこそ『化物』である彼は警官に全力で闘争を開始する。

もうすでにアーカードには吸血鬼騒動についての事などどうでもよくなっていた。

今はとにかくこの『人間』と戦いたい!

その人間への願いが、憧れが、羨望が、アーカードを支配して突き動かす。

 

そして『化物』と『人間』の闘争が改めて幕を開けた。

 

 

 

まず最初に動いたのはアーカードだった。

両手に握る黒と銀の拳銃を乱射する。

それだけで目の前の警官を壊すには十分過ぎる威力だったが、それでは終わらない。

 

「そう来ると思っていたぜ…!」

 

警官はあろうことか自身に降り注ぐ銃弾の嵐に防御もせずに突貫したのだ。

降り注ぐ銃弾を避けもせずにその身に受ける。

だがただ受けるのではない。あえて体の力を抜いて銃弾を貫通させる。

 

「…っ⁉︎おおおおおお!」

 

どの銃弾も桁違いの威力を誇る。その為、貫通した銃弾の凄まじい衝撃が警官の体を吹き飛ばそうと蹂躙する。

 

「まだだ!」

 

その激痛と衝撃をなけなしの気合と根性だけで踏み止まって前へ前へと進み続ける。

 

「まだだ!!」

肩が肉ごと抉られる。

 

「まだだ!!!」

内臓が破裂して地面に溢れてしまう。

 

「まだだ!!!!」

残っていた左手も銃弾が当たって、肘ごと奪われる。唯一の武器だったリボルバーを落とすが構わず警官は化物に向かって進み続ける。

 

前へ、前へ、前へ。

脚が動く限り前へ向かい続ける警官。

銃弾の嵐を強引に超えた警官は、遂に化物の前に立った。

 

警官には碌な武器も無い。化物の前に立った所で打開策は何も無い。

 

「それがどうした!」

 

それでもまだ出来る事はあると諦めずに化物に向けて残っていた右肘で化物の顔面を殴りつける。

殴った拍子に化物の口が開いて、警官の右肘を噛み砕いた。

しかもそのまま化物の黒い銃の銃身を警官の右脚に叩きつける。

化物の怪力で振われた暴力は警官の右脚を叩き壊した。

それでも警官は左脚で立ち続ける。

 

「ああああああああああああああ!!!」

 

そのまま警官は化物へ向けて最後の攻撃を仕掛ける。

仕掛けた攻撃は単純だ。

頭突き。

吸血鬼には全く効果の無い原始的な攻撃だ。

効かない事は警官も分かっている。

それでも、それでも。

 

(俺の意志は『最後まで抗え』と叫んでる)

 

その意志のままに警官は最期の頭突きをアーカードの頭にお見舞いした。

 

 

 

頭突きをした警官は力尽きてそのまま倒れる。

全ての力を使い果たした警官は死亡した。

残ったアーカードは、口に付いた警官の血を舐め取り、目の前の警官に想いを馳せる。

 

(素晴らしい人間だった……まるで『あの男達』の様だった)

 

かつてアーカードが、アーカードと名乗る前の頃に戦った男達はアーカードの『死の河』を突破し、アーカードの胸に杭を突き立てた人間を思い出す。

その頃からだ。

アーカードが人間に深い憧憬と羨望を抱く様になったのは。

初代ヘルシング教授達がアーカードに魅せた人間の底力を見てアーカードは人間に強い憧れを抱いた。

アーカードが人間だった頃は、彼等と同じ様にどの様な劣勢でも彼は戦い続けた。

だがそれでも状況は一変せず、遂には死ぬ直前に『人間』という弱い存在から『吸血鬼』という強力な存在に成り果てた。

アーカードに言わせれば『人間でいる事に耐えられなかった』のだ。

彼等と違って、『諦め』を踏破出来ずに前へ進み続ける事をやめたのだ。

故にアーカードは『諦め』を踏破する人間を崇拝する。

『神』という不確かなモノよりも『人間』という確かに存在するモノを信仰し崇拝する事をアーカードは決めた。

 

だからアーカードは、目の前の警官に心からの祈りを捧げる。

 

数分間、警官に祈った後、アーカードはエレベーターに乗り込んだ。

其処には誰もおらず、警官が守ろうとしていた隊員達は逃げ切ったのだろう。

そしておそらく降りた先には他の隊員達が待ち構えているだろう。

警官が命を懸けて守ろうとした人達を殺す事にもなるだろう。

だがアーカードは構わず殺す。

主君の命令『見敵必殺』を遂行すべくエレベーターで一階に向かう。

何故なら彼は『化物』なのだから。

 

 

異変が起きたのは、そのエレベーターで一階に着いた直後だった。

突如、アーカードの右腕が動きアーカードの顔面を殴り始めた。

 

「…っ⁉︎」

 

流石のアーカードも突然の異常事態に困惑する。

困惑するアーカードに声が聞こえた。

 

(一発、ぶち込んでやったぜ)

 

「何ッ⁉︎」

 

その声は、一階に潜む隊員達の声ではなく、ましてやアーカードの声でもない。

その声は、先程戦っていた警官の声だった。

 

(何で俺がお前の中に居るのか不思議って顔だな?)

 

(答えは単純さ。アンタがついさっき俺の血を飲んじまったからだよ)

 

考えれば当然の帰結だ。

血液とは魂の通貨だ。吸血鬼とは血を吸う事でその者との魂を融合し使役する事が出来る存在だ。

要は少しでも血を取り込めば、その人間はアーカードの中に入る事が出来るのだ。

 

(生憎、俺はアンタの言いなりになるつもりも一つの命として消費されるのも御免でね)

 

(だから抗う事にしたのさ)

 

本来ならアーカードに取り込まれると、アーカードの中に居る膨大な亡者達の怨嗟の叫びの奔流によって自分を保つ事が出来なくなって、自我が消滅してしまい唯の傀儡と化してしまう。

だが、逆に言えば自我さえ保てれば存在する事は可能なのだ。

例え数滴程の血でも強靭な精神力と確固たる意志さえあれば自我を保って存在出来るのだ。

だが、たかが1人の人間が抗った所でアーカードの持つ数百万という膨大な命を持つアーカードには何ら影響は無い。

その筈だった。

 

「何だ……ッ⁉︎」

 

アーカードの体内というよりアーカードの魂の中で、アーカードの持つ命達がどんどん反逆して他の命をどんどん減らしていくのを感じとる。

 

(いやはや、お前の精神世界ってのかな?俺が取り込まれた旦那の魂の世界ではそこの住人達に旦那は嫌われていたみたいで助かったぜ)

 

(お陰で1人1人説得するのに大した時間を弄さずに済んだよ)

 

警官のやった事は単純だ。

アーカードに取り込まれた亡者達と話をしただけだ。

警官の魂はアーカードによく聞こえる様に魂を震わせて叫ぶ。

 

(このままでいいのか?ただの消費される命で満足なのか?)

 

(そんな訳がねぇ!アンタ達は『人間』だ!)

 

(例え死んで魂だけの存在だとしても、苦しみ『在り』続ける意志さえあればそれはもう『人間』だろうが!)

 

(強大なあの化物に呑まれて自分を失うのも分かる。それでも『アンタ達』は其処にいる!)

 

(魂までも化物になる事はないんだ!『人間』としてあの化物に一泡吹かせてやろうじゃねぇか‼︎)

 

(それはあの化物も望んでいるんだ!『人間賛歌』をあの化物は望んでいる!)

 

(このしみったれた世界の王に、あの可哀想で哀れな王様に、家賃代わりに一曲聴かせてやろう‼︎)

 

(『人間賛歌』を!人間の意志が生み出す喧しい爆音を‼︎)

 

(さあ、大音量でいくから覚悟しろよ!『人間』を魅せてやる!!)

 

正確には話というより、警官が一方的に叫んでいるだけだったが、それが亡者達の死んだ心に火を灯したのだ。

亡者としてではなく人間として最期まで抗おうと彼等に語りかけただけだ。

本来なら羽虫の様な囀りでしかない矮小な音だ。

だが、そこに強靭な意志が加われば魂を奮わせる強烈な爆音となる。

強力過ぎる意志の『叫び』は、亡者の奥底に眠っていた人間としての意志を呼び覚ます者もいる。

勿論、その『叫び』が届かなかった者もいる。だがそれでも確かにその『叫び』に呼応する者もまたいるのだ。

たった1人の人間の『叫び』が、人間の『叫び』が伝染していく。

1人また1人と、グールの様にねずみ算式に増えていき、その『叫び』は最早人間達の雄叫びへと変わっていった。

アーカードの中で人間の戦争が勃発した。

人間の意志を叫ぶ亡者達がアーカードに反乱を起こし、意志を持たない他の亡者達を駆逐していく。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

それに堪らないのはアーカードだ。

吸血鬼の中で魂達が一斉に反乱を起こすなど前代未聞だ。

その影響でアーカードに掛けられた拘束制御術式が緩んでしまい外れてしまうという事態に陥った。

アーカードは、使役していた使い魔達を制御出来ずにアーカードの中から出てきてホテルのフロアを暴れ回ってしまう。

零号すらも少し外れてしまったのか、アーカードの中にいた亡者達が漏れ出して一階のフロアはアーカードの使い魔と亡者で埋まってしまう。

何とかホテルから出る事はなかったがそれは時間の問題だろう。

意志を取り戻した亡者はアーカードの支配から抜けて、その魂を浄化させていく。

命という命が次々と消滅していき、流石のアーカードも膨大な損害を被る事になった。

 

アーカードは負傷こそしていないが、内包していた命が今も劇的に減少している。

流石のアーカードも体内で数百万という命達が一度に戦争を始めれば、想像を絶する痛みと喪失がアーカードを襲った。

人間に例えると全身に余す所なく癌が発生した様なモノだ。

疲労困憊の有様のアーカードを心配したセラスが一階に降りてきたが、アーカードから漏れ出した亡者達に呑まれてしまいフロアの隅に追いやられてしまった。

そして、疲労困憊な様子のアーカードに近づく者が1人いた。

 

『どうよ、少しは堪えてくれたかい?』

 

「ああ……堪えたとも」

 

その者は肉体を持たず魂のみの存在だが、現実世界を彷徨う幽霊として再びこの世に降り立った存在だ。

その幽霊は先程の警官だった。

警官は不敵に笑ってアーカードと向き合う。

 

『お巡りさんを舐めんじゃねぇぞ。痛いしっぺ返しを食らうから次からは覚悟しとけ』

 

「ああ…肝に銘じよう」

 

アーカードも笑みを浮かべて警官に応える。

アーカードの胸中にあるのは先程自分を苦しめた人間達への敬意のみだ。

意志を持たない木偶人形もしくは唯の消耗品としか思ってなかった自分の中の命達を心から賛美する。

そして、そのきっかけとなった目の前の警官を改めて自分を倒す人間であると理解する。

だが不運な事に警官には肉体が無い。

ただの霊体となった警官には出来る事など霊体の持つ念力で精々物を少し動かす程度が限界だろう。

 

考えを巡らすアーカードに警官は唐突に先程のリボルバー『S&W M500』を取り出した。

 

『悪いな、取りに行ってて待たせちまった』

 

『早撃ち対決しようぜ。最終ラウンドをやらずに還るのはスッキリしないんでね』

 

『受けてくれるかい?』

 

アーカードは驚いた。

たかがアーカードとの銃による対決の為にこの世に留まり、わざわざ銃を取りに行ってアーカードに挑むなど考えもしなかった。

 

「クックックックックッ」

 

「くはっはははははははははははははははははははははっはははははははははははは!」

 

「面白いっ‼︎そんな事の為にこの世に留まるのか!この私との決着の為に戻って来てくれたのか⁉︎」

 

「あははははははっ!」

 

「受けて立つとも!ああッこんなに心が躍ったのは久しぶりだ」

 

「さあ、最終ラウンドだっ!私の心臓を撃てるか!人間っ⁉︎」

 

その返事を聞いて警官は笑顔でアーカードに向かい合う。

アーカードは2つの銃をしまい込み、早撃ちの姿勢になる。

警官はリボルバーをホルスターにしまい、抜き撃ちの姿勢になる。

 

「名を教えてくれないか?」

 

『教えねぇよ。ささやかな復讐だ。これくらいはさせろ』

 

『俺はただのお巡りさんさ』

 

そう言って警官はリボルバーを引き抜く。

アーカードもそれに合わせて2丁の銃を引き抜く。

 

ズドォン‼︎

 

発砲は両者ほぼ共に同時だった。

アーカードの放った銃弾は警官の放った銃弾を粉砕し警官に当たる。

警官の霊体はその結果に満足したのか、銃弾が貫通してホテルの壁に当たる頃には警官の霊体は消滅していた。

警官の持っていたリボルバーは地に落ちる。

 

アーカードは自分の胸を見る。

警官の放った銃弾はアーカードの心臓部に当たっていた。

警官は1発ではなく、4発撃っていたのだ。

1発目はアーカードの銀の銃の銃弾に当たり砕けたが、それを読んでいた警官は、残りの3発の内2発の銃弾を重なり合わせる様に撃つ事で、アーカードの銀の銃の銃弾を防ぐ事に成功したのだ。

たが、黒い銃の方の銃弾はその威力故に防げず警官はそれを食らう事となる。

だが、警官はその銃弾を食らう前にアーカードが放った2つの銃弾の内一つを防いだ事によって生じた僅かに空いた隙間を通す様に、残りの1発でアーカードの心臓を狙い撃ちした。

 

凄まじい密度の一瞬だった。

その刹那は流石のアーカードでも初めての経験だった。

警官は既にこの世にいない。

どうやら満足してあの世に旅立ったようだ。

 

「お前の勝ちだよ。お巡りさん」

 

それを認識したアーカードは笑みを浮かべてもういない警官に別れを告げる。

 

そしてアーカードはホテルを出る。

自分の主の命令を果たす為に。

 

結果だけを見れば、あの警官の転生者は何も成せていない。

守りたい人を守れず、最後まで抗ったが結局アーカードという主人公は倒せなかった。

彼が成した事はアーカードの残機を減らしただけだ。

彼の行動を賞賛するのは現場にいたアーカード位の者だろう。

この後、ホテルを後にしたアーカードはトバルカイン・アルハンブラと対峙し、原作の流れに戻るだろう。

つまりあの転生者は原作の流れを少しも変える事が出来なかったのだ。

 

これはただのモブキャラが主人公に抗っただけの物語だ。

 

 

余談だが、後にアーカードは主であるインテグラに警官の事を話した。

 

「ほう…お前がやられるとは。余程痛い目に遭わされたのか?」

 

そう言ってやや半信半疑のインテグラは訝しむ。

 

「ああ、とても痛い目に遭わされたよ。正直な所、アンデルセンや少佐の方がマシだと思ったね」

 

「いやはや、お巡りさんというのは恐ろしいモノだ」

 

珍しく卑屈そうに語るアーカードをインテグラは驚愕する。

あの最強の吸血鬼がここまで辟易する程の『お巡りさん』とは一体何者何だと思ってしまう。

そのインテグラの驚愕を察したのか、アーカードは更に語る。

 

「もう私には命が九千程度しか残っていない」

 

「百万を超える命が一気に反乱したのだ。これでも残った方だ」

 

流石にインテグラは驚愕を隠せず愕然とする。

アーカードは数百万という膨大な命のストックを持っている。

その膨大な命を千単位にまで減らすなど、アンデルセン神父でも不可能な事だろう。

インテグラはこれから戦う『最後の大隊』との戦いを心配する。

その心配を察したアーカードは答える。

 

「問題無い。千単位でも奴等と戦うには十分過ぎる」

 

そう断言して見せたアーカードを見て、すぐにインテグラは先程の心配を払拭する。

元々アーカードは1つの命でも強力な存在なのだ。

それ程の存在の命のストックが九千個以上有れば確かに十分だ。

 

「そうだな。ではこれからは軽率な吸血は気をつけろ。その警官の様な事例があった以上同じ事が起こる可能性も捨て切れん」

 

「少佐が率いる吸血鬼を倒すまでは人間の血を吸うのは控えろ。吸血鬼共は別に吸っても構わん。奴等にお前の精神力を凌駕出来るとは思えんからな」

 

「了解した。我が主」

 

その命令を了解したアーカードは、ヘルシングの一員として少佐率いる『最後の大隊』との戦いに臨んだ。

 

それからの流れは、概ね原作の通りだ。

 

あの警官の行動は無駄だったのだろう。

警官の起こした行動で、逃げる事が出来た隊員の人達はアーカードとトバルカイン・アルハンブラとの戦いに巻き込まれて死亡していた。

 

無意味だったのだろう。

警官の行動は、結局の所、アーカードの残機を減らしただけだ。

最終的にアーカードは残りの命を一つを除いた全てを減らす為、遅かれ早かれアーカードの命は減っていた。

 

だが彼の意志は無価値ではない。

例え誰もが彼を無駄や無意味と嘲笑おうと彼の価値は変わらない。

彼の起こした行動が、その価値を証明している。

彼の意志は無意味だった。

彼の意志は無駄だった。

彼の意志には価値があった。

 

彼の意志が無意味や無駄に終わろうとも、別の誰かが彼の様にアーカードに挑み、アーカードを打倒するだろう。

 

それがどれだけの時間が掛かるか分からない。

だが、それでも彼の『化物を倒す』という意志は、いつかアーカードを倒すだろう。

 

そしてアーカードは戦い続ける。

いつか何処かの誰かに倒される事を確信しながら。

        

「次はどんな曲を聞けるかな?」

 

その『誰か』が織りなす人間賛歌を心待ちにしながら、アーカードは今日も戦う。

 

 




なお、警官の所為で、アーカードの『人間』のハードルは爆上がりした模様。


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