祖母は、病院の中庭で事切れていた。
朝方、出勤してきた医師によって発見されたそうだ。夜中には警備ドローンが巡回していたはずだが、なぜ発見されなかったのかは分からないという。
責任問題がどうのと病院側から謝罪されたが、私も、他の家族も病院の責任を追及する気にはならなかった。
祖母の死に顔が、あまりにも安らかだったからだ。
ベンチに座っていた祖母の手には、二色のリボンが握られていた。
青いリボンには、見覚えがある。古い写真の中の、まだ幼い少女だった頃の祖母の頭に、同じリボンが結ばれていた。
赤いリボンにも、見覚えはある。それも古い写真の、祖母の隣で笑っていた少女の物だ。
違うのは、写真の枚数。
青いリボンは、祖母が結婚する前後までの間、多くの写真に残されていた。
対して、赤いリボンを着けたあの少女の写真は、とても少ない。
私は、祖母が左腕を失くした理由を知らない。私だけではない。みんな知らなかったのだ。
祖母は、両親にも、夫にも、子どもにも、誰にもそれを話さなかったから。
誰にも話さないまま、その秘密はついに墓まで持っていかれてしまった。
だが今なら、ある程度の推測はできる。
祖母が最後に手にした二色のリボン。
幼い姿しか残っていない、赤いリボンの少女。
とても、とても悲しい、何かがあったのだろう。
だから、あのリボンは祖母と一緒に灰にした。せめて、天国で一緒になれるようにと。
だが、その必要も無かったのかもしれない。
祖母の死に顔は、まるで楽しい夢を見ているように微笑んでいた。
最期のその瞬間に、せめて夢の中で、祖母があの少女と再会できたことを、私は祈るばかりだ。
いま私の首には、唯一の祖母の遺品がぶら下がっている。
旧式もいいところの、骨董品のような懐中電灯。
祖母が最期に身に着けていたものだが、さすがに火葬することはできなくて、私が譲り受けた。
首飾りにするには重く、大きすぎる。しかも旧式の
それでも捨てる気にはならない。大好きな、祖母の遺品なのだから。
年に一回、こうやって墓参りする時ぐらい、着けても良いだろう。
辿りついた、祖母の墓。そのそばに。
誰が植えたのか、赤い
まるで、赤いリボンのように。
※
ずりずり ずずず ごりっ
ずりずりずり ごりっ ずりずり
灰色の怪異は、すべてを視ていた。
その町を、その夜を、その空を。
その夜空に、炎が舞う。
太鼓を鳴らしたような音が響き渡り、
暗い空に大輪の花が咲いた。
いくつも、いくつも。
それを見る、多くのヒト。
それを見る、二人の少女。
その少女たちを、怪異は視つめていた。
少女たちの影は、肩がふれるほどの近さで、夜空の花を見上げていた。
ひときわ大きな花が咲いた後、二つの影は立ち上がる。
その手をつないだまま、山を駆け下りてゆく。
やがて、雑多なお化けたちが、小さな影に立ちふさがる。
だが、二つの影が、その手を離すことはない。
くるくる、くるくる、と。
お化けたちをすり抜け、時には飛び越え、走り抜けてゆく。
灰色の怪異は、それを視ていた。
二度目の夜を廻る、その影を。
夜が、少女たちを見つめている。