二夜廻   作:甲乙

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20:終章(えぴろーぐ)

 祖母は、病院の中庭で事切れていた。

 

 朝方、出勤してきた医師によって発見されたそうだ。夜中には警備ドローンが巡回していたはずだが、なぜ発見されなかったのかは分からないという。

 責任問題がどうのと病院側から謝罪されたが、私も、他の家族も病院の責任を追及する気にはならなかった。

 

 祖母の死に顔が、あまりにも安らかだったからだ。

 

 ベンチに座っていた祖母の手には、二色のリボンが握られていた。

 青いリボンには、見覚えがある。古い写真の中の、まだ幼い少女だった頃の祖母の頭に、同じリボンが結ばれていた。

 赤いリボンにも、見覚えはある。それも古い写真の、祖母の隣で笑っていた少女の物だ。

 違うのは、写真の枚数。

 青いリボンは、祖母が結婚する前後までの間、多くの写真に残されていた。

 対して、赤いリボンを着けたあの少女の写真は、とても少ない。

 

 私は、祖母が左腕を失くした理由を知らない。私だけではない。みんな知らなかったのだ。

 祖母は、両親にも、夫にも、子どもにも、誰にもそれを話さなかったから。

 誰にも話さないまま、その秘密はついに墓まで持っていかれてしまった。

 

 だが今なら、ある程度の推測はできる。

 祖母が最後に手にした二色のリボン。

 幼い姿しか残っていない、赤いリボンの少女。

 とても、とても悲しい、何かがあったのだろう。

 だから、あのリボンは祖母と一緒に灰にした。せめて、天国で一緒になれるようにと。

 

 だが、その必要も無かったのかもしれない。

 祖母の死に顔は、まるで楽しい夢を見ているように微笑んでいた。

 最期のその瞬間に、せめて夢の中で、祖母があの少女と再会できたことを、私は祈るばかりだ。

 

 

 

 

 いま私の首には、唯一の祖母の遺品がぶら下がっている。

 旧式もいいところの、骨董品のような懐中電灯。

 祖母が最期に身に着けていたものだが、さすがに火葬することはできなくて、私が譲り受けた。

 首飾りにするには重く、大きすぎる。しかも旧式の電池(バッテリー)しか使えないから、もう光ることもない。

 それでも捨てる気にはならない。大好きな、祖母の遺品なのだから。

 年に一回、こうやって墓参りする時ぐらい、着けても良いだろう。

 

 

 

 

 辿りついた、祖母の墓。そのそばに。

 誰が植えたのか、赤い百日草(ジニア)が、風に揺られていた。

 

 

 

 

 まるで、赤いリボンのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずりずり ずずず ごりっ

 

 ずりずりずり ごりっ ずりずり 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰色の怪異は、すべてを視ていた。

 

 その町を、その夜を、その空を。

 

 その夜空に、炎が舞う。

 

 

 太鼓を鳴らしたような音が響き渡り、

 

 暗い空に大輪の花が咲いた。

 

 いくつも、いくつも。

 

 

 それを見る、多くのヒト。

 

 それを見る、二人の少女。

 

 その少女たちを、怪異は視つめていた。

 

 

 少女たちの影は、肩がふれるほどの近さで、夜空の花を見上げていた。

 

 ひときわ大きな花が咲いた後、二つの影は立ち上がる。

 

 その手をつないだまま、山を駆け下りてゆく。

 

 

 やがて、雑多なお化けたちが、小さな影に立ちふさがる。

 

 だが、二つの影が、その手を離すことはない。

 

 くるくる、くるくる、と。

 

 お化けたちをすり抜け、時には飛び越え、走り抜けてゆく。

 

 

 

 

 灰色の怪異は、それを視ていた。

 

 二度目の夜を廻る、その影を。

 

 

 

 

 夜が、少女たちを見つめている。

 

 

 

 

 二(ふた)つの影は、夜(よる)を廻(まわ)りつづける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二夜廻(ふたよまわり)  おわり

 

 

 

 

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