お盆休みで時間があったので続きを進めました!
・刀鍛冶の里 森林地帯
里で三つの勢力が激戦を繰り広げる中、里の中心にある里長の屋敷に向かって走る人影があった。
「急がなきゃ⋯!里のみんなが危ないわ!」
疾走していた人物は恋柱・甘露寺蜜璃だった。彼女が担当していた地区から刀鍛冶の里は距離が近かったことから鎹鴉から救援要請を受け大急ぎで救援に向かっていたのだ。
(あっちの方からから大きな音がする⋯鉄珍様のお屋敷があるところだわ!)
森林に響き渡る大きな戦闘音を聞き里の中心部で激しい戦いが起きていると感じた蜜璃は速度を上げようとするが突如その足が止まる。
「あれは⋯!」
その視線の先には一人の鍛冶師と高等幻魔であるゴルドーとその配下たちがおり、崖と樹木の間に隠されるように建てられた土蔵から大量の鉱石を運び出していた。
「ふむ⋯思っていたよりも少ない。おい、本当にこれだけか」
「は、はい⋯!ほ、本当ですッ!最近は日輪刀を打つ量が多くて猩々緋鉱石の数あまり間に合ってないんです!!」
「まあ、いいだろう。これだけあればバルド様もお喜び下さるはずだ」
「お、お願いです⋯こ、殺さないでください⋯」
「お前にもう用はない、さっさと失せろ」
鍛冶師は案内したあとに殺されると思っていたのだが残虐な幻魔にしては珍しく寛容なゴルドーは彼を殺さずに逃がしたのだ。その後、部下のドルドーたちに命じて持ってきた鋼鉄の荷車へ次々と土蔵から猩々緋鉱石を積み込み始めた。
「待ちなさい!貴方たち!」
「ん?」
「それは日輪刀を作るため必要な鉱石だわ、それをどうする気なの!」
「ほう⋯?お前がダンテス殿が言っていた柱の剣士か」
作業を部下たちに任せてゴルドーは蜜璃の方を向くと興味深そうに彼女を観察していた。
「な、何を見てるの?」
「ふむ⋯いい筋肉だ、その身体に高密度の筋肉繊維が凝縮されている。それでいて柔軟性もありよく鍛えられている⋯悪くない」
「えッ⋯!!?」
てっきり襲いかかってくると思っていたが目の前のゴルドーは顎に手を当てながら関心したように話し始めたのだ。ゴルドーは強い敵と強靭な肉体を持つ相手には興味を抱き観察するクセがあるのだ。
(怪物にそんなこと言われたの初めてだよ⋯!!)
「おい人間、名は何という」
「え!?わ、私は恋柱・甘露寺蜜璃よ!里のみんなを傷つけるのは許さないわ!」
「甘露寺蜜璃か⋯その名、覚えておこう。素晴しい筋肉を持つ戦士よ」
「あ、ありがとうございます⋯」
敵とはいえどここまでゴルドーは蜜璃のことをベタ褒めしており、少しながら嬉しかったのか若干蜜璃は照れていた。だが、次の瞬間ゴルドーの口からとんでもない一言が飛び出してきた。
「どうだ?甘露寺蜜璃、オレの弟子になる気はないか?」
「⋯え?ええっ!!?」
「その素晴しい筋肉⋯磨き上げればさらに強く美しくなる!オレのように最強の肉体を手に入れることができるぞ!」
そう言うと同時にゴルドーはマッスルポーズを決め、後ろにいた配下のドルドーたちも作業を止めて同じくポーズを決めていた。あまりにも予想外の展開に蜜璃は呆気にとられて呆然としていた。
「⋯⋯」
「安心しろ、筋肉を極めることに種族の壁はない。たとえ人間であっても最強の肉体を手にすることは可能だ!オレが一から鍛え直してやろう!」
(なんか、後ろの怪物たちがすっごく否定してるけど⋯)
"絶対に止めたほうがいいッス!""ゴルドー様は容赦ないッス!!"と蜜璃を心配しているのかドルドーたちが高速で片手をひらひらと動かして身振り手振りでジェスチャーしながら必死に伝えようとしていた。
そんな蜜璃の返答はと言うと⋯
「お、お断りしますッ!!」
「な、なぜだ!?最強の肉体が欲しくないのかッ!!」
「だって⋯可愛くないんだもん!!」
蜜璃はゴルドーに言われたように最強の肉体を手にした自分の姿をイメージしてみたが恋人を探している彼女にはどう考えてもこの姿で男性が振り向いてくれるとはやはり思えなかった。
「そんな姿じゃぜったいに殿方は振り向いてくれないもの!」
「馬鹿な⋯!男は強い女に惹かれるものだぞ!」
「とにかく貴方の弟子はならないわ!だから、ごめんなさいッ!」
「そ、そうか⋯残念だ⋯」
本当に残念そうに落ち込むゴルドーだがすぐに態度を変え、後ろに差してあった怒嵐剣を二本抜き仰々しい構えを取る。
「お前ほどの逸材を自らの手で潰すのは忍びないが⋯バルド様の野望が第一だ。いくぞ、甘露寺蜜璃!その力⋯このゴルドーに見せてみろ!」
(す、すごい覇気と威圧感だわ⋯!!さっきとは雰囲気が全然違うよ⋯!)
ゴルドーの異様な雰囲気に蜜璃は日輪刀を構え戦闘態勢に入る。先に動いたのはゴルドーで蜜璃めがけて疾走しつつ右腕の怒嵐剣を振り上げ勢いよく叩きつける。
(速い⋯!あの巨体でなんて動きなの!)
少し驚きながらも蜜璃はゴルドーの一撃をギリギリまで引きつけ紙一重で回避するが今度は流れるように左腕による薙ぎ払いが続けて襲いかかる。しかし、その攻撃も蜜璃は身体をひねりながら最小限の動きで見事に回避する。
それと同時に蜜璃は大きく踏み込むとゴルドーの懐に入りながら呼吸の技を繰り出した。
「恋の呼吸⋯壱ノ型 初恋のわななき!!」
「⋯ほぉ」
(⋯ふむ、技の速さだけならダンテス殿を上回るか)
蜜璃が独自に編み出した恋の呼吸の技であり、彼女の持つ特殊な形状の日輪刀でなければ成立しない剣技だ。壱ノ型は踏み込みながら大きくしなる刃の斬撃を繰り出す技で忍びである天元を上回る速さで繰り出されるその技をくらった相手は斬られたことに気づかないほどだ。
ゴルドーの身体に無数の斬撃が刻まれるがまったく意に介さず続けて蜜璃に追撃を仕掛ける。
(嘘!?技は全部当たったはずなのに!)
「速さは大したのもだが、その程度の斬撃ではオレの筋肉は斬れん」
蜜璃の斬撃で身体から出血しているがそれは筋肉の表面を斬っただけでほとんどダメージが通っていなかったのだ。するとゴルドーは大きく息を吸い込む動作を行う。次の瞬間、全身の筋肉がさらに隆起し闘気がさらに増したのだ。
(キャーー!?さらに闘気が上がったわ⋯!)
「フゥゥ⋯久しぶりにいっちょ気合入れるか、今度はオレの技を見せてやろう」
そう言うとゴルドーは怒嵐剣を大きく振りかぶると蜜璃めがけて凄まじい勢いで剣を薙ぎ払う。この技は那田蜘蛛山で炭治郎たちに見せた技だったがこの斬撃はその時よりもさらに速く斬撃の大きさも桁外れだった。
「⋯⋯ッ!!?」
直感で危険を察知した蜜璃は体勢を崩しながらも身体をズラして斬撃を回避するが右頬に大きな一文字の傷が刻まれ後ろ髪が少しバッサリと斬られその場に落ちていた。
「避けたか、やるな。首を飛ばしたと思ったが」
「⋯⋯」
(す、少しでも反応が遅れてたら首が落ちてたわ⋯)
ゴルドーの斬撃の凄まじさに遅れて動揺が現れ、背筋が凍るような感覚を覚えていた。そして、ここまでこのゴルドーと戦って蜜璃はあることを悟っていた。
(ま、間違いない⋯!この化け物の攻撃を一撃でもくらったら即死だわ⋯!!)
「どうした、怖気づいたか?お前の技と力⋯もっと見せてみろ!」
「⋯私、悪い奴なんかに絶対負けない!覚悟しなさいよ!私だって本気出すから!!」
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・刀鍛冶の里 旅館街付近の密林
その頃、高等幻魔ギンガムファッツと戦闘していた胡蝶カナエだったが場所は付近の密林に移り、樹木が隙間なく立ち並ぶ視界の悪い地に一人立つカナエの周辺から大きな足音が響き渡っていた。
「⋯⋯」
カナエは日輪刀を構えてじっと耳を澄ませて足音の聞こえる方向をじっと見据えている。それと同時に樹木を薙ぎ倒しながら戦斧を振り回しながらカナエめがけて突進してきた。
「キィィィッ!!!」
「あまいわ!花の呼吸・陸ノ型 渦桃(うずもも)!」
「ぐぉおおおッ!?」
しかし、ギンガムファッツの突進を看破していたカナエは跳躍して回避しながら陸ノ型を頸を狙って繰り出した。なんとか身体をズラして頸への命中を避けたが胸部に深い一文字の斬撃跡が刻まれた。
「こ、この野郎…!!こんなに斬りやがってぇ!!」
「観念しなさい、もうあなたに勝ち目はないわ」
(畜生ッ⋯ちょこまかと面倒くせぇ女だ!!俺の攻撃が全然当たらねぇ⋯!!)
ギンガムファッツは身体中を斬り刻まれて血塗れになっており、対するカナエはほとんど傷を負わず一方的に戦況を有利に進めていたのだ。どれだけ激しく強力な攻撃を繰り出してもカナエに容易く受け流され逆に反撃を受けてしまっていたのだ。
「こ、これで勝ったと思うなよ!次こそお前を斬り刻んでやるからな!!」
「なっ!?待ちなさい!」
なんと不利と悟ったギンガムファッツはあっさりと勝負を投げ捨てて逃亡したのだ。まさか逃げるとは思わなかったのかカナエは密林の奥に跳躍しながら逃げたギンガムファッツを追撃しようとするがその足が止まった。
(今はあの化け物を追っている暇はない⋯鉄珍様は、静音は大丈夫かしら?)
ここは化け物の追撃よりも鉄珍の屋敷に向かったガートルードと静音のことが気になったカナエは里の中央部に向かって疾走していった。
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場所は移り、里の別エリアにて同じく高等幻魔ゴーガンダンテスと戦っていた煉獄杏寿郎だったが戦況は予断を許さない状況だった。
「うおぉぉぉぉ!!」
「ハアァァァァ!!」
杏寿郎の日輪刀とダンテスの鬼殺しが激しくぶつかり合い、激しく火花を散らしながら互いに死闘を繰り広げていた。しかし、まったく無傷のダンテスに対して杏寿郎はあちこちに刀傷の跡があり呼吸も乱れ始めていた。
「はぁ…はぁ…」
「どうしました?もう終わりですか?」
やはりダンテスの防御術によって杏寿郎の攻撃はほとんど無力化されてしまい徐々に体力を奪われていた。それでも杏寿郎は炎の呼吸の技を何度も繰り出してダンテスに食らいついていく。
(⋯やはり、俺の攻撃が通じない。どうすればいい?)
「確かに以前よりも技の威力も高くキレも鋭い⋯だが、拙者を超えるにはまだ足りませんね」
このまま戦っても以前と同じくこの強敵に勝利することは難しいと悟った杏寿郎はダンテスと激しく打ち合いながらも何か突破口はないかと神経を集中させて観察していた。
(ゴーガンダンテスの周りには常に結界が張られている⋯俺の技ではこれを破ることはできない。だが、どんな強い剣士でも必ず隙はある、そこを突くしかない!)
「どうした杏寿郎!お前の実力はそんなものか?お前の剣技、もっと見せてみろ!」
「もちろんだ、いくぞ!ゴーガンダンテス!」
深呼吸し呼吸を整え、ダンテスに向かって疾走し斬りかかる。それから何度も剣を交えている内にダンテスのある咄嗟の行動が気になったのだ。
相変わらず杏寿郎の攻撃は防御術またはダンテスにいなされてしまうのだが、一撃だけ杏寿郎の攻撃を防御せずに回避した技があったのだ。
(⋯む?最後の一撃だけ回避したな⋯隙の大きい彼の動きを突いた一撃だったが)
そこで杏寿郎はハッと閃いた。これまで戦いで全ての攻撃を完封するほどの剣士が回避に専念したということは防御する余裕がないということだ。
(⋯そうか!分かったぞ。彼の防御術は完全無欠ではない、攻撃の終わりには結界は解除される⋯そこを突けば⋯!)
そう、ダンテス防御術は常時発動しているわけではなく。攻撃の後に僅かな結界が解除される時間があることに杏寿郎は気がついたのだ。
そうと分かれば杏寿郎はさらに攻勢を強めダンテスを攻め続ける。対するダンテスも杏寿郎の激しい攻撃を片手で見事にいなしながら反撃するが先ほどとは違って杏寿郎は自身の速さに反応し始めていた。
「うぉぉぉぉ!!」
「ほぉ⋯!見事だ、まだ力を残していたのか」
「炎の呼吸⋯弐ノ型 昇り炎天!」
(⋯どういうことだ?先ほどよりもさらに速くなった、威力も上がっている)
戦っている杏寿郎の速さと技の威力が徐々に上がり始めていたことにダンテスは驚いていた。自身の防御を打ち破るほどではないがそれでも余裕のある動作はできなくなっていた。
(身体が燃えるように熱い⋯!だが、ここで退いてはこの剣士には勝てない!)
だが、全集中の常中を全開にした上、高威力の呼吸の技に加えて絶えぬ連撃を続けていてはさすがの煉獄杏寿郎であっても徐々に疲弊し始めていたが、何故か杏寿郎の身体は速さが落ちるどころかさらに上がっていたのだ。
全身の体温が大幅に上昇し呼吸も困難なほどの負担が身体にかかっていたが杏寿郎を支えているのは目の前のゴーガンダンテスに負けないという燃えぬ闘志と彼自身の強靭な精神力と意地だ。
「おっと⋯!やるな!」
(⋯!!見えた⋯!そこだッ!)
ダンテスの剣技は大振りで隙が大きい技が大半だが、相手から見ればそう見えているだけで実際は緩急を巧みに操る変幻自在かつ独特な動きで相手を惑わせる剣技なのだがやはり攻撃した後の隙は隠しきれないのだ。
何度も剣を見ていたことから杏寿郎はダンテスの剣技のリズムと癖を掴んでおり、完璧に隙を突いた瞬間に呼吸の技を繰り出した。
「炎の呼吸⋯壱ノ型 不知火!」
剣を振り終わった隙を突いた一撃だったが驚くことにダンテスはそれを見事に回避したのだ。しかし、完全には避けきれず胸部の鎧に一文字の傷跡が刻まれていた。
「⋯やりますね、拙者に一太刀入れるとは」
「はぁ…!はぁ…!」
「だが、ほんのかすり傷です。まだまだこれからですよ!」
しかし、ようやく杏寿郎がダンテスに与えた一撃はほとんど決定打になっておらず、まったく余裕そうなダンテスに対して追い込まれているように見える杏寿郎だったが先ほどとは様子が異なり、あれだけ激しく連撃と呼吸の技を連発したにもかかわらず呼吸の乱れは最小限だった。
(⋯?思ったよりも呼吸の乱れがない、どういうことだ?)
この時、杏寿郎は気づいていなかったが彼の頬には炭治郎のものとよく似た炎のような痣が発現しており、彼もまたその力によって身体能力が大幅に向上し強敵であるゴーガンダンテスとも渡り合えるほどの実力をてにしていたのだ。
「⋯ハッハッハ!見事だ!まさか明智左馬介のほかにこれほどの剣士がいたとは⋯!」
(ふっ⋯こんな気分になったのは"あの男"と剣を交えた時以来だ。懐かしいな十兵衛⋯!!)
かつて三度、剣を交え自身を打ち破った剣豪であり好敵手である柳生十兵衛のことを思いながらダンテスは嬉しそうに鬼殺しを構え闘志を上げ構える。
「お前もまた拙者と戦うに相応しい強者だ、いざ!存分に剣を交えようではありませんか!いくぞ、杏寿郎!」
「⋯必ず君を倒す!幻魔の野望は俺の赫刀が止める!」
そして、両雄は再び激しく剣を交え死闘を繰り広げる。だが、杏寿郎は不思議な気分だった。かつて上弦の参の鬼である猗窩座と戦った時は相容れぬ滅すべき存在であり彼の発言と存在に嫌悪感すら覚えたが、このゴーガンダンテスという剣士にはそういった感情がまったく芽生えないのだ。
それはこの剣士の剣に現れており、彼の剣は潔いほど邪気が感じられず正々堂々と己のすべてをぶつけてくるのだ。この剣士の根底にある思いはたった一つ⋯強き者を屠り、さらなる強者との戦いを求めいずれ最強の剣士となる⋯正義も悪もない、それがこのゴーガンダンテスという剣豪であるのだと。
戦いは一進一退の攻防が続き、二人の剣士による勝負の行方はまったく予想できなかった。
ーーーーーーーーーーー
同じ頃、里から少し離れた地点で突如現れた上弦の壱・黒死牟と戦っていた左馬介だったが互いに一歩も譲らぬ激戦が繰り広げられていた。
「月の呼吸⋯陸ノ型 常世孤月・無間」
「ぬんッ!」
月の呼吸の陸ノ型の斬撃に対して左馬介は戦術殼・空の技で迎え撃つ。大きく振りかぶって縦方向に弧を描く無数の斬撃を縦横無尽に見舞い周囲ごと対象を切り刻む斬撃だ。それと同時に左馬介も戦術殼・空による斬撃を二連撃で放つ。鬼の力を解放した左馬介の鬼力は通常よりも増大しており空牙刀の斬撃もより高威力かつ大きい斬撃に強化されていたのだ。
なんとの陸ノ型の斬撃を無効化しつつそのまま貫通して背後にいた黒死牟に襲いかかる。黒死牟は難なくこれを回避するがその直後に左馬介がすでに眼前に迫っていた。
「⋯⋯!!」
(速い⋯先ほどまでとは比べものにならぬ)
しかし、黒死牟も瞬時に対応し頸を狙った空牙刀による袈裟斬りを防御するとそれを感切りに再び両者は激しく打ち合う。その斬撃と技の応酬はもはや速いという言葉では生温いほどの次元であり戦いを見ていた炭治郎たちは目の前で何が起きているのか理解が追いつかなかった。
(目で追えない⋯これまで戦ってきた鬼とは次元が違いすぎる⋯!上弦の壱⋯とんでもない鬼だ⋯!)
(あの上弦の壱と一人で斬り合えるなんて信じられねぇ⋯!あのサムライも化け物だぜ⋯!)
「さ、左馬介っ!頑張って!!」
だが、先ほどとは異なり鬼武者となった今の左馬介は黒死牟の速さに負けておらず両者の実力はほぼ拮抗しているように見えた。しかし、左馬介と戦っている黒死牟はすぐのその違和感に気がついていた。
(どういうことだ⋯?奴の攻撃は見切っているはず⋯)
黒死牟は至高の領域である"透き通る世界"という相手の肉体を透視できる特殊な視界を持ち、筋肉の動きや肺の収縮、血流の変化、骨の向きなどから相手の動きを先読みするなど極めて強力な技能を持っているのだ。
しかし、その透視能力を持ってしても目の前の左馬介という鬼武者は自身の速度に付いてくる。それどころかその先読みを上回る速さと技で猛攻を仕掛けてくる。
鬼武者の力と全集中の常中によって左馬介の身体能力は極限まで引き上げられ強化されており、その技の威力と速さは黒死牟に同等以上になっていたのだ。
(信じられぬ⋯この私が速さで僅かに劣っているのか)
左馬介の動きは透き通る世界で完全に読んでいるがその動きがあまりにも速すぎて黒死牟が対応できなかったのだ。それどころかその先読みを利用されて反撃の一撃を受けてしまった時もあった。
(やはり、俺の動きは完全に読まれている⋯なら答えは単純だ、奴の予想を上回る速さで攻めるだけだ!)
(さらに⋯この剣士には斬撃が効かぬ⋯!)
そう、左馬介の全身を覆っている紫色の禍々しい闘気はゴーガンダンテスの防御術に勝るとも劣らぬ防御力を持ち、黒死牟の斬撃に付随する細かい斬撃や遠距離から斬撃は無力化されるのだ。
両者は激しく打ち合い、互いに身体に無数の刀傷の跡が刻まれるが黒死牟の身体はすぐさま再生し、対する左馬介の身体は鬼の闘気が傷口の治癒力を増強させ瞬く間に回復する。
「⋯⋯!!」
「⋯⋯ぬぅ!!」
二人の鬼武者は無言でただ斬り合い続ける。鬼である二人の体力と気力はほぼ無尽蔵であり決着をつけるにはどちらかが倒れまで終わることはない。
そこで戦況を打開しようと黒死牟が新たに技を繰り出した。
「月の呼吸⋯伍ノ型・月魄災渦」
「⋯⋯!?」
黒死牟の伍ノ型は虚哭神去を振るわずに自身の周囲に竜巻のような斬撃を繰り出す技だ。しかし、左馬介は武器を一瞬で炎龍剣に切り替えると戦術殼・炎を発動させ剣に炎を宿して振り回しながら身体を回転させて飛び上がる。
「でいやぁぁ!!」
「⋯⋯もらった」
戦術殼・炎で伍ノ型の斬撃を無力化したもののノーモーションで技を繰り出してすぐに動ける体勢の黒死牟は空中の左馬介めがけて凄まじい勢いで斬りかかる。
しかし、追撃をされることを読んでいる左馬介は迎え撃つ体勢を空中で整えており、いつの間にか武器が地豪斧に切り替わっており、戦術殼・地を繰り出しながら落下する。
「おりゃぁぁ!!」
「⋯っく!!」
本来、戦斧である地豪斧は攻撃速度が遅く、威力と破壊力は左馬介の武器の中では最強だが使い所が難しいのだが鬼武者となっている今の左馬介の腕力であれば片手で軽々と振り回せるほどになっているのだ。
黒死牟の攻撃とほぼ同じ速度で両者が衝突し、それと同時に戦術殼・地によって凄まじい大爆発が発生し戦場は激しく揺れ、目の前を土煙と爆煙が戦場全体を覆い尽くす。
「あ、明智さんッ!!」
「さ、左馬介ッーー!!」
すると爆煙の中から着物が焼け焦げた姿の黒死牟が現れたがまだ愛刀を構えて次なる攻撃に備えていた。それと同時に黒死牟の側面から武器を天双刃に切り替えた左馬介が凄まじい勢いで疾走しながら両手で十字の居合い斬りを繰り出した。
だが、黒死牟も負けておらず、その場で踏み込みながら横薙ぎの一撃を放つ。両者の一撃は正確に互いの頸を狙って放たれた技だったが、鈍い刃のぶつかる音と共に距離が離れると両者の動きはピタリと止まった。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
すると両者の首筋から一筋の血が流れ落ちる。どちらの一撃も少しでも遅れれば頸が落ちていたほどの攻撃だったが、二人の技のタイミングはほぼ同時だったのだ。
「⋯⋯」
(少し浅かったか⋯)
しかし、二人のその頸の傷も瞬く間に再生し決定打になっていない。これほどの激戦を繰り広げているにもかかわらず両者の呼吸はまったく乱れておらずどちらも闘気は衰えるどころかさらに勢いを増していた。
「⋯お前、この私を相手にここまで戦うとは一体何者だ⋯?」
「それはこっちの台詞だ、それほどの腕前を持ちながらなぜ化け物に成り果てた」
「⋯極めた技がこの世から消える⋯嘆かわしいとは思わぬか⋯」
「⋯⋯何?」
「鬼となることで肉体の保存⋯技の保存ができるのだ⋯極めた技が途絶える⋯わからぬか⋯」
「⋯くだらん」
「⋯何?」
左馬介のその一言に黒死牟は静かな怒りを覚えていた。自身と同じ存在でありながら目の前の鬼武者からは正反対の答えが返ってきたからだ。
「そんなくだらんことのために貴様は化け物になったのか、哀れな奴だ」
「⋯ならば⋯お前は何故鬼となった⋯技を極め⋯さらなる高みへと登るために鬼となる道を選んだのであろう⋯」
「なりたくて鬼になったわけじゃない。だが、この力で貴様のような化け物を斬れるなら手段を選んでいられなかった。大切な人を⋯力なき人々を守るためならな」
「⋯⋯」
「一人で出来ることなどたかが知れている、技を残したいなら弟子を取り伝えればいい、極めた技を弟子に⋯未来に伝えることこそ俺たち先の時代を生きていたの者の役目だ」
左馬介の言葉を聞くたびに黒死牟の脳裏に忌まわしき記憶が蘇る。かつて自身が人であった時⋯決して忘れもしない実の弟から聞かされた言葉だった。
『兄上、私たちはそれ程大そうなものではない、長い長い人の歴史のほんの一欠片⋯』
『私たちの才覚を凌ぐ者が今この瞬間にも産声を上げている。彼らがまたおなじ場所まで辿り着くだろう』
『何の心配もいらぬ、私たちはいつでも安心して人生の幕を引けば良い。浮き立つような気持ちになりませぬか?兄上』
そして、目の前にいるこの侍にかつて見た弟の姿が重なって見えたのだ。感情を抑えきれなくなった黒死牟は凄まじい殺気と闘気を現し、左馬介を睨みつけながら愛刀を構える。
「⋯⋯黙れ⋯お前は⋯私が殺す⋯」
「継国巌勝⋯いや、上弦の壱か。貴様では俺には勝てん、強さに溺れ己に勝てなかった哀れな落ち武者に何ができる?」
「⋯黙れッ⋯!!」
怒りに任せて左馬介に疾走して斬りかかるがその一撃は容易く防がれてしまう。そのまま鍔迫り合いに突入し両者共に一歩も譲らず天双刃と虚哭神去が激しく火花を散らしていた。
「さっきまで余裕はどうした?心に迷いが見えるぞ、薄汚い心は刃に現れる」
「⋯明智⋯左馬介ェェ!!」
上弦の壱・黒死牟と鬼武者・明智左馬介の死闘はさらなる段階へ突入していった。
ーーーーーーーーーーー
・???
「⋯⋯ううん…こ、ここは⋯」
暗黒の闇が周辺に広がる謎の空間に倒れていたのは先の戦いでガートルードによって死亡した伊角静音だった。弱々しく起き上がり周囲を確認するとその異様な状況に言葉を失っていた。
(あれ⋯?私って死んだはずじゃ⋯)
致命傷を負い、志半ばながらも意思を時透無一郎に託し息を引き取ったところまでは覚えているが何故自身がこんな所にいるのかまったく分からなかった。
『伊角静音よ⋯聞こえるか』
「えっ⋯!?」
すると静音の目の前に異形の存在が突如、姿を現した。その人物は仁王像の風貌で全身を紫色の炎をまとった鬼ような存在だった。
「あ、貴方はいったい⋯?」
『我は鬼の一族なり、封じられていた我の封印を明智左馬介と共に解いてくれたことに感謝する』
「封印⋯?何のこと⋯⋯あ!!」
最初は何のことかさっぱり分からなかった静音だったが、封印と鬼の一族という単語でふと思い出していた。
「ひょっとして⋯那田蜘蛛山の魔空空間で拾ったあの不思議な玉に封印されていたのが貴方なのですか?」
『そうだ、幻魔の手によって封印されていた』
(私もすっかり忘れてたなぁ⋯)
鬼玉のことは静音も完全に忘れていたのだが、左馬介によって封印も解かれていたのだがまったく反応がなく何も起こらなかったのでお守りのように隊服の懐に入れておいたのだ。
『己の命を顧みず、仲間の為に戦い続けたお前の戦ぶりは実に見事だった』
「えっと⋯その、ありがとうございます」
『⋯お前なら我らの力を使いこなせるかもしれぬ』
すると鬼の一族は静音を指差し耳を疑う言葉を口にしたのだ。
『伊角静音よ、お前は我ら鬼の一族の力を授かり、幻魔と戦い続ける覚悟はあるか?』
「え⋯?そ、それってどういう意味ですか?」
『これから言う我の言葉をよく聞くのだ。我の持つ鬼の力をお前に託そうと考えている。さすればお前は現世に再び蘇ることができる』
「⋯えっ!?よ、蘇るッ!!?」
つまり目の前の鬼の一族から力を授かれば死んでしまった静音は再び生き返ることができるというのだ。あまりにも現実離れした提案に静音は戸惑っていたがこれはまたとない好機だ。
「あ、あの⋯ちなみに断ったらどうなるのですか?」
『鬼の力を授かる気がないのであればお前は輪廻の輪を潜ることになる、ここは現世とあの世の境目⋯我の力で魂だけが現世に留まっている』
(つまり転生するってことか⋯)
ここで鬼の力を授かり再び幻魔と鬼を滅するために戦い続けるか⋯このまま生を終え転生するか⋯どちらかを選択しなければならなかったが静音の答えは言うまでもなく決まっていた。
「貴方の力を貸してください!私にはまだやらなければならないことがあるんです!幻魔も鬼も⋯必ず滅します!」
『いいだろう、お前の覚悟しかと受け取った。我の持つ鬼の力⋯存分に振るうがよい』
そう言うと鬼の一族は右手に紫色の炎を宿す。するとその炎が静音の右腕に向かって飛んでいきそのまま腕を包み込む。そして、炎が消えると静音の右腕には左馬介の鬼の籠手によく似た籠手が装着されていた。
「これって⋯左馬介殿がつけていた籠手だ⋯!」
『伊角静音よ、左馬介と共に幻魔を滅ぼすのだ!』
「はい⋯!!ありがとうございます!この御恩⋯決して忘れません!」
『⋯ふっ、お前ならば力に溺れることはあるまい。さあ、行くがよい』
その一言を最後に静音の意識は途切れた。
ーーーーーーーーーーー
・刀鍛冶の里 里長の屋敷付近
その頃、一人でガートルードと戦っていた時透無一郎だったが戦況は予断を許さない状況だった。静音と共にかなりのダメージを与えたはずだがガートルードの勢いはまったく衰えていない。
すでに電撃によって右脚を負傷していた無一郎の動きは明らかに落ちており、呼吸も乱れ始めていた。さらに上空からは不規則に金色の稲妻が雨のように戦場に降り注いでおり近づくのも困難になっていた。
「はぁ⋯はぁ⋯くそッ!!」
「グォオオオオオン!!」
激しい攻撃と連撃でガートルードの右頭部の甲冑には無数のひび割れができており、あと少しで破壊できそうなのだが負傷している今の無一郎にガートルードを攻撃する体力は残されていなかった。
同じ仲間であった静音を殺された怒りで激しい攻撃を見せていたが、ほとんどの技が決定打になっておらずただ無一郎の体力だけが削られていたのだ。このガートルードの底なしとも言える体力と生命力、そして強靭な肉体は想像を超えていた。
(この化け物⋯まったく速度が落ちない、どれだけ攻撃を加えても効果がほとんどない⋯!)
このままでは近い内に自身の体力が尽き、敗北するのは目に見えておりどうすればいいか攻撃を回避しながら思案していたが、突如ガートルードの側面から謎の人影が飛び出してきた。
「花の呼吸⋯肆ノ型 紅花衣!」
「ギャウッ!!?」
「⋯!!カナエさん!」
無一郎の救援に駆けつけたのはギンガムファッツを退け里長の屋敷に向かっていたカナエだった。倒壊した密林をずっと走っていると戦闘しているガートルードと無一郎の姿を見つけて加勢したというわけだ。
カナエの一撃でガートルードは怯んだがやはり決定打になっておらず両方の頭をぶんぶんと振り回した後、二人に狙いを定める。
「時透くん!大丈夫!?」
「は、はい⋯僕は平気です⋯!」
「右脚の出血がひどいわ⋯!ここは私に任せて!」
「いえ⋯!僕も戦います!この化け物は一人じゃ倒せない⋯!」
「でも⋯!」
「絶対に僕があの化け物を殺す⋯!静音から託されたんです!」
その言葉が引っかかったカナエは周囲を見渡す。すると視線の先には下半身が欠損し血塗れになって事切れている静音の無惨な亡骸が目に映った。
「⋯嘘⋯静音⋯そんな⋯!」
「⋯っ!!⋯すみません、僕のせいで⋯」
「⋯⋯悲しむのは後、時透くん絶対にこの化け物を止めましょう!」
悲痛な表情を浮かべながらもカナエは化け物を睨みつけ日輪刀を構える。無一郎一人だけでは勝ち目はなかったが新たに胡蝶カナエが加勢に現れたことで戦況が僅かながら好転したのだ。
(カナエさんが来てくれたのは心強い⋯!あともう少しであいつの甲冑を破壊できる!)
「カナエさん!右頭部の甲冑が脆くなっています、それを壊せば奴に攻撃が通ります!僕が甲冑を破壊する⋯!」
「分かったわ!私が化け物を引きつけるから!でも、無理はしないで」
しかし、同じ戦法は通じないとばかりにガートルードは上空の稲妻を発生させる球体を消滅させると全身に虹色の光をまとい二人に襲いかかる。この光が発生している時は攻撃がほとんど無力化され回避に専念するしかないのだ。
(⋯くっ!やはり、同じ手は通じない⋯!このままじゃ僕もカナエさんもやられる!)
(どうしたらいいの⋯!何か弱点は⋯!)
その時、戦場全体を紫色の凄まじい閃光が照らした。思わず一同は閃光の方向を向くとそこには目を疑う光景があった。
「⋯え!?どういうことなの⋯!?」
「⋯静音⋯!?」
閃光は静音の亡骸から発光しており、気がつけば死体は紫色の炎に包まれていた。次の瞬間、欠損していた下半身と左腕が瞬く間に再生し、息絶えて動くはずがない静身がゆっくりと起き上がる。
頭髪は白髪となり身体は黒く染まり鬼の波紋も現れ右腕には鬼の籠手と鬼の武器である"鬼ノ鞭"が握られていた。左馬介が鬼の力を解放した時と同じく禍々しい紫色の闘気で全身を包んだ伊角静音の姿がそこにあった。
「⋯⋯」
閉じていた目をゆっくりと開くとその目は血のように赤く染まり、もはや人間ではなかった。鬼の一族の手によって伊角静音は明智左馬介と同じ鬼武者として再び蘇ったのだ。
刀鍛冶編は次で終わりです!
⋯というか、この戦いで鬼は黒死牟しか残ってませんね
ちなみに静音の鬼の籠手は鬼武者3の主人公であるジャックが持っていた物と同等でデザインも同じ物です!