ほんの些細な一時だけれど、それはとても……
本作はバンドリの短編となります。終始オリ主視点となりますが、良ければ!
見上げた先に、広がる曇り空。
「……はぁ」
まるで今の、僕の気分みたいだな。
ポケットのウォークマンから流れる好きな音楽をイヤホンで聞きながら、校庭脇のベンチでただ寝そべっている。見えるのは……曇り空と、いまだ見慣れない校舎のシルエット。
――周りの奴だって、誰も彼も知らないのばかり。……もう前の学校が懐かしいよ――
僕は今月、親の仕事の都合で、この街に引っ越して来たばかりだった。
だから友達や知り合いだって、まだ出来てもいない。いじめられていないだけまだマシかもだけど、それでも殆ど相手にされる感じもないし、学校で孤立していたんだ。
けど、唯一……
――やっぱ、この曲を聴いていると、悪い気分じゃなくなるな――
今聞いている音楽は、『Poppin'Party』ってバンドの曲。メンバーはみんな女の子で、年は僕とそこまで変わらないのに……こうして凄い歌を歌っているんだ。
とても明るくて、前向きにもなれるって言うか。……それに。
おもむろに僕はポケットをまさぐって、一枚のチケットを取り出して眺める。
――それにこの街に、ライブに来るって言うんだ。とても……楽しみだな――
――――
そして……学校が終わった後。
僕はチケットを手に、ライブの会場へと向かっていた。
携帯で地図を確認しながら、街中を歩いて探す。……すると。
――多分、ここかな――
入り口に沢山の人だかりが出来た、大きなビル。きっとそこが会場なんだろうな。
見ると並んでいて、次々と建物の中に入って行ってる感じ。……なら、僕も。
同じく行列に並んで、建物の中に。
たどり着いたのはビルの一室に用意された、特設会場。ここも人が大勢集まっていて、結局僕は後ろの場所しか取れなかった。
――でも、ここからでもどうにか見える、かな――
向こう側のステージは、人と人との間からどうにか見える。――そして、ついに。
ステージが色とりどりのライトで照らされて、音楽と一緒に現れた、五人の女の子達。
「みんなっ! 今日は私たちのライブに来てくれて、ありがとう!」
センターの女の子の、元気の良い声。
……途端に、観客のボルテージも上がって、それに応えるように掛け声を返す。
――これが……ライブの空気、なんだ――
実は、こうした場所に来るのは、初めてだった。
この雰囲気や、それに空気。まだライブが始まってもいないのに、こう熱くなるなんて。
そして……。
「今日はたくさん、聴いて行ってくださいね! まずはこの曲……『前へススメ!』」
始まったライブ。
本物の『Poppin'Party』が、目の前で歌っている。
とても明るくて――前向きになれるような、そんな曲。これまでウォークマンだとかで何度も聴いて来たけど、やっぱりそれとは全然違う。
生で見る演奏と、それに歌。何もかも今本当に歌っているそれとは、比べ物にならない迫力だ。
周りだって、もっと盛り上がって声援を送っているのも見えるし、聞こえる。
――それに、バンドをしているみんなの顔、とても輝いているよ――
みんな、本当にバンドを楽しんでいた。好きでやっているんだって僕は分かった。
もちろん歌も、演奏だって凄い。けれどそんな様子も、一生懸命さだって――きらきらと、まるで星のように輝いて見えたんだ。
――――
ライブも終わって、その帰り道。
僕はまだ、『Poppin'Party』のあのライブ……その迫力が忘れられなかった。
――あれが、本物のライブなのか。やっぱり来て良かった――
きっと良い思い出になる、そんな気がする。
それに――
――今更だけど、みんな歳は変わらないのに、あんなに――
バンドを組んで、あんなに活躍するなんて。それは凄いけど、きっととても大変な事だと思う。
なのに彼女たちは、ああして……。
――頑張っている、わけだもんな――
僕も、新しい学校に慣れなくて、辛い思いをしていた。
けれど、それをどうにかしようと、まだ頑張ってはいなかった。
――やっぱり……僕だって頑張らないとな――
あの子たちみたいには行かなくても、自分は自分に出来る限りは。
――まずは、友達から作って行かないとかな。そしてその次は彼女、とか――
これからは、少しずつでも前向きに。……おかげで、そう思うことが出来たんだ。